ロムス王国でベストセラーとなっている『王太子妃になんてなりたくない!!』。
ヴィルヘルム王国筆頭公爵家の令嬢として生まれた主人公リディアナ姫と、同国の王太子フリードリヒ殿下の波瀾万丈の恋模様を描いた、いま最も熱い一大ロマンス小説である。中絶薬RU486
わたしも愛読しているその本が映画化されることになり、モデルとなった王太子夫妻がいらっしゃるという。
そして今の王族には若い女性がいないため、わたしが王太子妃殿下の滞在中のお相手役として王城に上がることになった。
郊外の離宮に密かに設置されているという転移門(いわゆるどこ○もドアだ。なんとあちらの国には魔法があるらしい)の前で、わたしはそわそわと落ち着かない気持ちでヴィルヘルム一行が到着するのを待っていた。これから魔法が見られるのだ、ファンタジー好きの血が騒ぐ。
前触れなく、転移門がじわじわと発光する。息を呑んで見つめる中、光は強さを増し、その中に魔法陣のようなものが浮かんでいるのが見える。
一際強く発光して目が眩んだ次の瞬間、門の前には四人の人間が立っていた。
すでにこの時点でわたしの興奮は最高潮だ。
ヴィルヘルム御一行の人数は四人。あらかじめ随行の人間の名前も伝わっていたので、どんな人が来るのかは分かっている。
最初に視線を吸い寄せられたのは、紅一点の王太子妃リディアナ様だ。
茶色の髪に珍しい紫の瞳をした、年下なのに凛とした雰囲気の女性。絵姿ブロマイドで見るよりも実物は可憐で……細かった。ハロウィンの悪夢が甦り、思わず自分のウェストと見比べてしまう。
……もう少し朝食の量を我慢すればよかった。
その彼女の細い腰が、大きな手にぐいっと引き寄せられる。
その腕をたどっていくと彼女の隣に立つ男性が視界に入り、わたしは反射的に目を逸らした。
こわっ……フリードリヒ殿下、美形過ぎてこわっ。
ヴィルヘルム王家の特徴である鮮やかな金髪碧眼の超絶美形、完全無欠の王太子。
絵姿ブロマイドでは軍服姿に呑気に見惚れていられたのに、実物は美形過ぎて迫見惚れるどころではない。
しかもなぜか微笑んでいるのに目が笑っていないように見えて、怖さが倍増している。友好国に友好を深めに来たはずなのに、やたら迫力満点なのはなぜだろう。
それにしても、ヴィルヘルム御一行様の顔面偏差値の高さは半端ではない。フリードリヒ殿下の圧倒的な存在感は言うまでもないが、随行の面子まで顔で選んだのか思うほど煌びやかだ。
きれいな銀髪の文官めいた男性は、リディアナ様の兄君のアレクセイ様だろう。いかにも筆頭公爵家の嫡子らしい気品あふれる貴公子で、こんな方の前ではヘタな振る舞いはできない、と背筋が伸びるような高貴な佇まいをされている。
そして控え目に立っている黒髪の男性も……と視線を巡らせたわたしは、ぴたりと動きを止めた。
思わず二度見して、それでも足らずに上から下までガン見してしまう。
濃紺のローブにモノクル、という我が国ではない恰好と事前に渡された資料から、ペジェグリーニ公爵家の嫡子にして魔術師長のウィリアム様と推察される……が。
職業だけでもファンタジーオタク魂を刺激するというのに……。
いやいや、ローブって!モノクルって!
「……やばい、萌えるっ」
「フィー?何が燃えるんですか?」
思わず素に戻って呟くと、ルカに突っ込まれて動揺してしまう。萌えは恋愛とは別ジャンルの感情だが、ルカの目の前で他の男性をガン見してしまったことがうしろめたい。
「ル、ルカ、ごめんなさい、ちょっと萌えただけなの」
「だから何が燃えると……?」
分かっていないのに、何となく疑わしげなルカの視線に冷や汗が浮かぶ。
どう誤魔化そうかと考えているうちに、王太子がヴィルヘルム一向を歓迎するように声をかけ、わたし達も口をつぐんで王太子の側に控えた。巨人倍増枸杞カプセル
「よく来たな、フリード。リディアナ殿も、ようこそロムスへ」
わたしが恐れをなしたフリードリヒ殿下の迫力を前に、意外にも王太子は堂々と向き合っていた。
それにしても、親しげな挨拶だ。以前、友人だと言っていたのは本当だったらしい。
が、しかし。
「久しぶりだね、アル。さっそくだけど、このキャスティングいったいどういう事なのか説明してもらえるかな?」
フリードリヒ殿下のよく通る美声に、一瞬にして場が凍りついた。
その声は美しいが重々しく、そして背筋を凍らせるような怒気をはらんでいる。
これが本物の王族の威光というものか。のほほん王と厨二気味の俺様王太子という呑気な王族に慣れきったわたし達には、フリードリヒ殿下の覇気は重すぎる。
それにしても、キャスティングを説明しろとはどういうことだろう。
「ふっ……よくぞ聞いてくれた。最近民草の間では男の娘やら女装男子やらが流行っていてな。そしてこのルカはドレスを着せたい男ナンバーワンだと言われている。去年から続くヴィルヘルムブームとあわせて、これで大ヒット間違いなしだ!!」
うちの王太子は何を言い出すのか。
自国の王太子の口からサブカル用語が連発されるのを聞いたロムス側に、何とも言えない空気が漂った。
フリードリヒ殿下の前だけに、我が国の王太子の残念具合が辛い。
「……うわ、アルってあの配役表ほんとに送ったんだ。冗談だと思ってたよね、ルカく…ってヤバい、マジギレだ…」
頭を抱えるラウレンツの声につられて横を見て、ぎょっとする。ルカは無表情で王太子の後頭部を凝視していた。自分に向けられたものではないと分かっていても、寒気がするような危険な表情だ。
しかし、フリードリヒ殿下の声はそれどころではない極寒だった。
「へえ。女装男子……ねえ。そんなイロモノの流行りに私のリディを題材に使おうって言うんだ?…それで?相手役はアル、お前なわけだね。成程、お前はそこの彼とラブシーンを演じると。それはさぞ後世まで語り継がれる滑稽な見世物になる事だろうね。私たちも随分と馬鹿にされたものだ」
彼の言葉に何となく話が見えてくる。
例の映画は王太子が総指揮をとると聞いている。そのキャスティングなどはまだ発表されていなかったが、彼はルカをヒロインに抜擢したらしい。
……ありえない。
確かにルカは綺麗だ。子供の頃はわたしのドレスを着せれば女の子にしか見えなかった。
しかしもう彼は十八歳。身長だって百八十センチを越えているし、自慢ではないが細身に見えても鍛えていて脱いだらけっこうスゴイ。いや、かなりスゴイ。
そんなルカが女装なんて面白いことにしかならないではないではないか。
万が一似合っていても、それはそれで嫌だ。
フリードリヒ殿下に冷静に指摘されて、王太子は虚を突かれたようだった。
「ルカとラブシーン…?ぬぉっ、盲点だ!そうか、フリードはリディアナ殿を攻めて攻めて攻めまくる超肉食系ではないか!ということは、私がルカを……っく、だが成功のためにはやるしかないか…」
「いや、そうじゃないでしょ。そこは頑張っちゃいけないとこだから!」
なぜかルカのリディアナ様役を諦めず、別の方向でやる気を出す王太子。
ちょっと待て、ルカと王太子のラブシーンなんてわたしは絶対嫌だ。
「ルカ、まさか女装なんてするつもり……ルカ?」
女装なんてするつもりないわよね、と確かめようとしても、返ってくる言葉は無い。ルカがわたしの声に反応しないことは珍しく、彼が色々と限界に達していることを感じさせた。
「…アル、後ろの彼がお前に話があるみたいだよ。先に彼と話すといい。私はその後、ゆっくりとお前の考えとやらを聞かせてもらうことにしよう」VigRx
ルカの様子を察したフリードリヒ殿下が声をかけると、余所の国の王太子には丁寧に目礼したルカは、自国の王太子をこれ以上なく冷たく見据える。
「お気づかい恐れいります。…殿下、そんなに女装した男とのラブシーンがしたいのなら心当たりがありますから、たっっっぷり堪能させて差し上げますよ。楽しみになさってください……ね?」
「な、なんだ、なぜそんな話に…」
「フリードリヒ殿下、失礼いたしました。この件は私が責任を持って始末をしておきます。無礼のお詫びは殿下自らが償いたいそうなので、煮るなり焼くなりご随意に」
これ以上話しても無駄、といわんばかりに話を切り上げてフリードリヒ殿下に一礼したルカ。身分社会どこいった、と言いたくなるような無礼っぷりだが、誰もがそれを当然として受け流している。
「そうか。話が分かる人物がいるみたいでなによりだよ。主がコレだとさぞ苦労するだろうけど…さて、アル。辞世の句の準備はできたかい?お前の話を聞こうじゃないか」
辞世の句、と不吉過ぎる単語を口にするフリードリヒ殿下の背後に、一瞬、青い炎の幻が見えたような気がした。
……怖い。怖すぎる。
フリードリヒ殿下の不興を感じ取り、ラウレンツは無意識に剣の柄にまで手をかけたというのに、王太子はまだピンときていないようだった。
この空気を全く読めていないところは、逆に尊敬すら感じる。
「フ、フリード?」
「アル、アル、殿下は最初から配役に怒ってらっしゃるんだよ。お妃様がルカ君って無茶すぎ。なんで分からないかなぁ」
見かねてラウレンツが囁くと、王太子はようやく得心した顔になった。
「なんだと…そうか、ルカが不満なのか。ふむ、仕方ないな、少々気恥ずかしいが私がリディアナ殿役を…」
「ちょっ、黙って!頼むから!」
なぜそうなる、とこの場にいた全員が心の中で総ツッコミをいれたはずだ。少なくともわたしは彼のみぞおちに裏拳を叩き込みたい気分だった。
「チェザーリ、これ以上は危険です。さっさとソレを仕舞ってきてください。」
今すぐ廃棄場ごみ捨て場へ、と小さい声で付け加えたルカのほうこそ危険だ。どさくさに紛れて何をしようとしている。
そんなロムス王国の慌てぶりを、凛と落ち着いた声が静めた。
「……ねえ、フリード。私の役はそちらのレディ・ラ・ローヴェにやってもらえばいいんじゃない?」
リディアナ様が一言発しただけで、その場の空気が変わった。特にフリードリヒ殿下は、彼女に目を向けただけで空気に甘さが混じり、震え上がるような怒気が薄らいだ気さえする。
ロムスに救いの神が降臨したのだ。
王太子を強制的に退場させようと動きかけたラウレンツが、期待を込めてリディアナ様を見る。ルカは少し残念そうな気がしないでもない。
「……彼女に?」
「……そう。女性役なんてほとんど私くらいでしょう。彼女は公爵家の令嬢だし、うまくやってくれると思うの。レディ・ラ・ローヴェ。私が指名しては迷惑かしら?」五便宝
アメジストの瞳を突然向けられ、ぎょっとした顔をしないでいるだけで精一杯だった。
無理、演技なんて絶対無理!
反射的にそう思ったが、わたしは空気を読める元日本人、場を収めてくれようとしているリディアナ様の心遣いを無にするわけにはいかない。
余裕ぶった淑女の笑みを張り付け、優雅に一礼する。
「光栄ですわ、妃殿下。わたしでよければお引き受けいたします」
「フィーなら大丈夫です。私が相手役としてしっかりサポートしますから」
ルカが背中に手を当てて微笑んだので、少し気が楽なった。
彼が相手役ならやりやすい、とほっとしたのもつかの間、この期に及んで王太子が異議を唱えた。
「なにっ、フリード役は私の…」
「殿下はもう黙っていただけますか」
ルカは王太子の言葉は遮り、一言で黙らせた。
いや、まあ助かったのだが……本当に、自国の王太子にこれでいいのだろうかと真剣に考えそうになる。
タイミング良く、リディアナ様が明るい声を上げた。
「夫であるロード・ラ・ローヴェと共演なら何も問題はないわ。私もそれでいいと思うし。……ねえ、フリード、彼女達なら文句はないでしょう?」
彼女の言葉に、仕方ないな、というようにため息をこぼすフリードリヒ殿下。
彼女を見下ろす目は愛しさが溢れ、その眼差しだけで彼がどれだけ妃を愛しているか分かる。
というか彼女に顔を向ける時だけ全く別人、これダレ?のレベルだ。
「……はあ。それがリディの希望なら構わないよ。アル、次はない。私の神剣の餌食になりたいのなら構わないが、脚本もお前だというのならそのあたりはよく考えて作ることだね。特にリディのシーンだ。余計なイベントの追加は絶対にするな。お前がこねくり回すと碌なことにならない」
リディアナ様の言葉に頷いたものの、王太子に対する怒りはおさまっていないようだ。言葉を重ねて強調するフリードリヒ殿下に、リディアナ様がこちらを気遣って柔らかく諌めた。
「フリード、何もそこまで言わなくても……」
「そこまで言ってもわからないから言っているんだよ。アル、お前は大人しく、通りすがりの町人の役でもやっているといいよ」
言い足りない、とばかりにきつい嫌味を追加するフリードリヒ殿下。
これにはさすがに王太子も気付いたようで、驚いたように眉を寄せた。
「私が町人役だと?それにそのいいざま、友とはいえ無礼……いや、そうか。フリードお前、近頃城下で流行りのツンデレというやつだな?」
「アル…それはさすがにポジティブ過ぎるから」
だからなぜそうなる、とラウレンツは突っ込んでいるが。
ツ、ツンデレだとう……?
そもそもフリードリヒ殿下にこんな態度をとれるところからして、二人の友情はわたしには計り知れないほど深いのかもしれない。三便宝
ルカと王太子やラウレンツも、顔を合わせれば毒を吐き合っているのに妙に仲がいい。男の友情というものは、時に女には理解しがたいものなのだ。
もしかして、本当にもしかしてだが、フリードリヒ殿下はツンデレというのもあり得るかもしれない。
このヘビー級のツンの後にデレがくるとでもいうのなら、ぜひ見てみたい。
密かにフリードリヒ殿下ツンデレ説への期待を高めていると、アレクセイ様が噴き出していた。
「ツンデレ……ぶふっ。すげえ。まさかフリードにツンデレなんて言うやつがいるとは思わなかったぜ」
「ツンデレ?アレク、ツンデレとはいったいなんだ?」
意味が分からない、という様子の魔術師様。わたしには萌えの塊にしか見えない魔術師様は、サブカル用語に詳しくないらしい。
「ああ、お前は知らないのか。好意を寄せている相手に突き放すような態度をとってしまうやつの事さ」
「はあ?殿下がそれだと?まさか」
「んなわけねえよなあ。本気で切れてるだけだっつーの。それをツンデレとか……向こうの王太子、アルフォンソ殿下だっけ?面白すぎる……」
アレクセイ様には大いにウケているようだ。
というか、あのどこのニイチャンかと思う口調が、彼の本来の口調なのか。上品な貴公子然とした見かけとは、ずいぶん違うようだ。
フリードリヒ殿下の反応はと見ると、彼はデレどころかにこりともしなかった。
「はあ……ほらね、リディ。覚えておくといい、こいつはこういう奴なんだ。……アル、私も言わせてもらうが、無礼というのなら最初にこのキャスティングを出してきたお前の方こそ無礼だよ。さらには人をツンデレだなどと……ふざけるのは大概にしてくれるかな。……いい加減、本気で消すよ?」
元から不機嫌だった声がさらに一段低くなり、青い目が王太子をきつく見据える。
だから怖い、怖すぎる。
だが王太子は「お前の気持ちは分かっているぞ」というような鷹揚な笑みを浮かべている。それがまたフリードリヒ殿下を苛立たせるだろうことに気付かない。
彼のポジティブな勘違いは、もはや神業だ。
「フ、フリード。落ち着いて……」
正しく空気の読めるリディアナ様が宥めても、王太子へ向ける冷たい目は弛まない。完全なるツンである。
……いや、分かってはいた。きっと王太子の勘違いなのだと。
だけと、ちょっと見てみたかったのだ、ツンデレフリードリヒ殿下を。
「デレはどこ……?」
いつまでたってもこないだろうデレに、わたしは虚しく呟いた。
きっと、友情にも片思いがあるのだと思う。蟻力神
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