2015年8月24日星期一

月夜のおもい

目の前には反り立つ崖。

 どうやら、ここが終着地らしい。

「イリアさん、ありがとう。とっても楽しかったです」

 本当に楽しかった。何もかもがぶっ飛んでたけど。中絶薬RU486

 そう笑顔でお礼をするが、彼は来た道を戻ろうとしない。そして、私の手を鼻先でぐいぐいと、イリアさんに巻きつけられているベルトを掴むように指示してきた。
 首をかしげながらも、言うとおりに従うと、彼は私がちゃんと掴んでいるのを確認した後、
 ……なぜか、前かがみの体勢をとった。

 そして、勢いをつけて────

 ………あれ?なんだろう……すごく、嫌な予感がしてきた。

「イリアさん…?帰ろうよ…?ね?なんで…崖の上を見ている…の?」


 イリアさんの背中を軽く押して、帰ろうと促すが、彼は崖を見上げたままだ。


 そして、その予感は、すぐに的中する。

「ぎぃぃぁああああ────!!!!」

 イリアさんは重力を無視し、

 ほとんど垂直に反り立つ断崖絶壁を、


 一気に登り始めた。

 崖の頂上に着いた頃には、私は立ち上がる気力もなかった。

 ベルトを解いてすぐ、ふらふらとイリアさんの背から降り、崖のふちにうつ伏せの状態で大の字になる。冷やりとした土の感触が心地良い。バクバクしていた心臓も、少しずつ落ち着いてきた。


「イリアさん、激しすぎるよ………」


 首を横にして、力なくそう呟くと、心配そうに見下ろしている漆黒の瞳と目があう。


「……ふふっ。でも、すっごく楽しかった。なんだか、特別な体験をさせてもらっちゃった」

 そう言って彼に手を伸ばすと、目を細めて喉を鳴らし、私の手に頬をすり寄せてきた。


「ふさふさー………気持ちいい」


 外出してから、ずっと不思議な気分だった。この狼はあの銀髪のイリアさんなのに。

 動物に触れる事で得る、あの安らぎと癒しを、人間の姿にもなる彼に望むのはおかしいのに、気づいたら思わず声をかけている自分がいた。

 彼は狼の姿でも王様なんだから、調子に乗っちゃ駄目だ。そう思いながらも、触れる手を止められない。


 イリアさんの鋭い目を覗き込むように見つめていると、彼もしばらくは目を合わせてくれていたのだが、次第に照れくさくなったのか、彼は慌てるように立ち上がった。

 目線を頭上に移し、もうこちらを見てくれない。

 少し残念に思いながらも、イリアさんと同じ方向を見上げる。すると。

「うわあ…っ!!すごいっ………!!綺麗………」


 うつ伏せの体勢から、ガバッと起き上がる。

 空を見上げると、満天の星空。

 銀河の輝きがあちこちに存在し、時折、流星が現れては線を描いて消えていく。

 まるで、天体ショーを見ているようだ。

 ペンションの露天風呂から毎日見ていた、あの馴染み深い天の川もあった。

 そっと立ち上がって、崖下を見渡すと、私達が通ってきた海岸が遠くに見える。

 あんな遠い所から来たんだ。


 海面に映っている月が、キラキラと宝石のように輝いている。波が揺れるたびに、水面の月が滲む。


「綺麗……」


 もう一度、頭上の満月を見上げる。大きさはこちらの世界の方が若干大きいと感じたが、模様は私の世界と同じで、月の兎が餅をついていた。

「…………月は同じだ」巨人倍増枸杞カプセル

 ぽつり、と 

 自然と口から言葉が零れ落ちた。

 何もかもが違うと思っていた。

 世界が変わって、自分は異質な存在になってしまった。

 知っている人もいない、常識も違う


 取り残されたような

 出口のない、絶望。

 けれど───

 月は同じだった。

 ……───シロと一緒に、毎日見ていた、あの月。

「ふっ……くっ……」

(駄目だ……泣いちゃダメだ。もう散々泣いたんだから。いい加減、覚悟を決めないと)

 唇を固く噛んで涙をこらえる。

「ふっ……切ない…なぁ」

 月の形がどんどんぼやけていく。

 夢のようなこの景色が

 本当に夢だったらいいのに────

 家に帰りたい

 なんで こんなことに

 一体なんのために、どうして──

 突如、ガチガチとした音が横から聞こえてきた。


 隣を見てみると、首にかけていた水筒を地面に降ろして、そして、

 ……いや、さすがにそれは無理なんじゃないかな。

 彼は前足で水筒を固定し、蓋をガチガチと噛んで、必死に開けようとしていた。

「イリアさん、私が、開けましょうか?」

 涙声になりながらも、そう言って手を差し出すと、彼は素直に私に任せてくれた。

 そういえば、水筒を開けられないのに彼はどうやってこの中身を用意したんだろう。

 そんな素朴な疑問を抱きながらも、クルクルと蓋をまわして開ける。

「うわあ、美味しそう…!」

 パカッと蓋を開けると、美味しそうなスープの匂いがあがってきた。

 てっきり飲み物だと思っていたけど、どうやらこれは夕飯だったらしい。

 私が歓喜の声をあげると、イリアさんは満足げに鼻を鳴らした。大きな尻尾がふさふさと揺れている。

 そして、ベルトに結ばれていた巾着を引きちぎると、中からは四角い箱が現れた。早く開けて、と訴えるように、彼は鼻で私の方にそれを差し出してきた。

「え?これ…もしかしてお弁当だったの?」

 水筒にお弁当。

 あれ、でも………


 そっと、四角い箱の蓋を開ける。どうやら、本当にお弁当箱だったらしい。


 しかし、案の定────


「…おお、見事にシャッフルされている」


 お弁当の中身はおにぎり、卵焼きにハンバーグなどのお弁当の定番メニューが………あちらこちらに入り乱れていた。

 そりゃそうだろう。あれだけ落下したり走ったりしたんだから。

 そんな私とは対照的に、イリアさんはその鋭い目を見開いて、思わずといった感じで一歩後ずさった。

 そして、また近寄ってお弁当を見下ろし、うなだれるように耳を垂らしている。さっきまで動いていた尻尾がパタリと止んでいる。

 どうやら、彼にとっては想定外のことだったらしい。


「……ぷっ、イ、イリアさん、そんな落ち込まないで。それに、こんなの、少し考えれば、分かることじゃない…っ」

 声を震わせながら、笑いを堪える。あからさまにショックを受けている彼の姿がなんともかわいくて。VigRx

 けれど、笑い堪えて震える声が、次第に鼻声に変わり、ついには涙がとめどなくあふれ出てきた。

「ふ……っ、ひっく、うぅ……───」


 突然泣き出した私を見てギョッとしたイリアさんは、私がお弁当の様子に落胆して泣いたとでも勘違いしたのか、焦ったようにお弁当を鼻でよけて、大きな体でそれを隠し、破れた巾着入れに戻そうとしている。

「…あっ!ま、待って、戻さないで!食べたい、そのお弁当、欲しい!」

 急いでそのお弁当を死守する。

 すると、イリアさんは、私の泣き顔を見やりながら、困惑げな表情をしている。

「違うの、これ、うれし涙。私、お弁当、嬉しい」

 ゆっくりと区切りながら、ジェスチャーと泣き笑いの顔をつくって必死に訴える。

 どうにかイリアさんに伝わったようだが、そのぐちゃぐちゃのお弁当を差し出すのにためらいがあるのか、

 躊躇しながらも、そっと鼻先で差し出してくれた。

「ふふっ、ありがとう、イリアさん……なんか、不思議な感じ。シロもこんな気持ちで月を見ていたのかなあ」

 そう言って隣のイリアさんを見る。

「…シロともね、よくこうやって一緒に何かを食べながら、毎晩お月見していたんです。あっ、シロっていうのは、あれ、写真立ての、白い狼の」

 そう言って、指で四角い形をつくってみせる。

「狼といっても、私の世界の狼はイリアさんみたいに大きい体じゃなくて、もっと小さくて。子供だったし…体長一メートルもなかったかなー」

 私が何を話しているのか、きっとイリアさんには通じていないのだろう。

 それでも、イリアさんは私の話に耳を傾けてくれる。

「それに、私の国に、野生の狼っていないんです。ずっと前に絶滅しちゃって…。そもそも、白い狼なんて海外にしかいなくて。だから、最初はただの野良犬だと思っていて……ふふっ、そういえば、シロとイリアさんは同じ狼でも、全然似ても似つかないね。イリアさんみたいに狼としての風格なんか全くなくて、本当、そのまんま犬って感じで。シロは、すごい怖がりで、すぐに威嚇するくせに、すごく寂しがり屋で。だけど、とっても頭が良くて、優しい子で……」

 そう言って、シロの最後の寂しげな姿を思い出す。

「……人間の都合で勝手に日本に連れて来られて……虐待されて捨てられたのかな。シロはね、最初死んでいるかと思うくらいにボロボロで、森の中に倒れていたんです。心を開いてくれるまで、少し時間がかかったんですけど、それでもシロは私たちに懐いてくれて。……それなのに、私」

 そこで、言葉に詰まってしまった。

 きっと、シロは裏切った私のことを憎んでいる。あんな最悪な別れ方したんだから当然だろう。だから、一年経っても、姿を現してくれないのだ。


 当たり前だ。人間の都合で傷ついたシロを、また勝手な都合で私は、シロを手放したんだから。それが、たとえシロのためだったとしても。

 黙ってしまった私を心配してか、イリアさんが心配そうな鳴き声を発する。

 そしてすぐ、彼は私の体を覆うように包まった。

 そういえば…こんなこと……前にもあったな…

 王宮から脱走した夜。

 そうだ…。あの時も、傍にいてくれた……。

 私が森で泣いている時も、部屋で泣いている時も、そして、今も。

 いきなり背に乗せられ、部屋から飛び降りた時は度肝を抜かれたけど、

 でも、おかげで、涙は引っ込んで、
 部屋の角でうつむいていた事なんか忘れて、子供の様にはしゃいで、楽しんで。

 今は涙を流しながらも、顔は上を向いているし、部屋でひとり流す涙とは違う。

 ……もしかして、イリアさんはこの景色を見せるめに連れて来てくれたのだろうか。私を心配して。

 イリアさんの横顔をそっとうかがう。五便宝

 イリアさんは私の様子を気にしながらも、泣いている私をじろじろ見てはいけないと気を遣っているのか、頭上を見上げる顔は数秒間隔でこちらをチラ見している。

 どうして───


 どうして、イリアさんは、こんなにも優しいのだろう。

 神帝だから?

 イリアさんには、私が今なにを考えているのか分かってしまうのだろうか。

 それにしては、さっきからそんな素振りは見受けられない。

 ……ううん、神帝だとか神力とかそんなの関係ない。

 きっと、イリアさん自身が優しいんだろう。

 そういえば、私が不安そうな顔になると、ずっと片言ながら、励ましてくれていた。子供のような扱いに、私は引いてたけど。

 でも、泣いてばかりで、右も左も分からない私は、この世界では子供同然、もしくはそれ以下か。

「あったかいなー………」

 目をつぶって彼に体を委ねる。

 言葉もなく、

 言葉ではない、私が何よりも必要としていたものを贈られた気がする。

「……ありがとうね、イリアさん。私、頑張る。頑張って、この世界に慣れて、一日も早く帰れる道を探す。そして、イリアさんやシェインさん達になにか恩返しをする。……うん、よし!もう、覚悟を決める!!一人じゃないし、いい加減、前を向かないとね!だから」

 そう言いながら、再び涙が溢れてきた。

「…だから、最後に、泣いていいですか?」

 そう言ってイリアさんの体に顔を隠し、子供の様に、おもいっきり声をあげて泣いた。

 そんな私を、イリアさんは動かず、尻尾をユラユラと揺らしながら、受け入れてくれた。

 ガイは絶句していた。六年仕えていた主の、初めて知る事実に、空いた口が塞がらない。


「────そんな訳で、彼女がイリアの前に現れたのは、本当に奇跡なんですよ。まあ、イリアと彼女の間にどんな絆があるのかは私には分かりませんけど。当時のイリアが泣き叫んでいた内容と、その状況から勝手に推測しただけですので」


 当時のイリアの胸中を想像しているのか、ガイの表情は暗い。


「………なんだよ、それ。そんなの、罪っていうのかよ……。そんなの、ただの、子供のワガママじゃねぇか」
「そのワガママで自分勝手な思いのせいで、彼女は死んでいたか、もしくはもっと酷い目にあっていたかもしれないんだから当然、罪と言えるでしょう」
「…じゃあ、なんで、あの女は生きているんだよ」
「それをこれから調べるのが、私の側近、兼・神学者としての仕事です。なんせ、前例がまったくない事なので……まあイリアの場合、死なない程度の爆発だったので、私はずっと彼女は生きていると進言していたんです。ですが……くくっ、さすがに、あんなに元気だとは思いませんでしたけど」

 おかしそうに答えると、シェインはふと何かを思い出したのか、声を落とした。


「………ただ、ひとつ問題がありましてね」

 急に真面目な顔になるシェイン。

「反応が新鮮で面白いし、異世界の話も興味深いので、個人的に彼女は好きなんですが……部下としての立場で言えば、神帝の女として、ワコさんは最悪ですね」
「……は?」
「まず、自分の世界の常識でこの世界を計ろうとする。いろいろな反応を試しましたが、彼女は馬鹿なようで中途半端に良識がある。自分の世界について言葉をなぞった程度の浅い知識しかなく、平和ボケしている。そのくせ変に正義感がある。つまり、何も知らないくせに、何もできないくせに、ただ口先だけは立派なことを言う、理想ばかりの、非常に面倒くさい存在ですね」

 はあ、とシェインはため息をつく。

「その上、イリアに与える影響が大き過ぎる。さっきガイも言っていたように、ワコさんの事に関すると周囲が見えなくなってしまう。ワコさんのちょっとした行動で簡単に揺らいでしまう。神力が使えなくてもイリアが神帝としての地位を維持している地盤が、簡単に崩れかねない」
「なっ……!」
「だから、我々としても、ワコさんにイリアとうまくいってもらわないと困るんです。イリアの仕事を見せる訳にはいかないし、何も本当の事も知らせず、イリアの仕事も見せず、さっさとイリアとくっついてもらって、王宮でじっとしてもらいたい」
「……おい、それは大げさじゃないか?いくらなんでも、神帝だって……」三便宝

 ガイがそう言うと、シェインは馬鹿にしたようにフンッと鼻をならした。

「大げさなもんですか。心酔しているガイの夢を壊すようで悪いけれど、イリアは別に冷静沈着なわけじゃない。ただの自分勝手で独占欲が強くて、さびしがり屋で怖がりな男ですよ。冷静なんかじゃない。心が死んでいただけ。神力を使わなかったわけじゃない。使えないだけ。彼女のせいでああなっただけ。死ぬのが怖くないのは当然です。本当は死にたくてしょうがないのに。死の淵から生還したイリアは、彼女を殺したと知った瞬間、すぐに後を追おうとしたんです。それを私が、神帝の責任という鎖でイリアを縛りつけて、無理やり生かしていただけです。別にイリアは世界の平和なんて本当はどうでもいいんですよ、あいつは本来自分勝手な奴ですから。ガイが賞賛していた全ては────イリアの政治の成果は、すべて彼女への償いによるものです。だから世界が安定した以上、神帝候補のカインが神帝としての力量が備わったら、イリアはすぐに死ぬつもりだったと思いますよ」
「………嘘だろ」

 ガイは信じられないといった様子で、バサッと一歩後ろに下がった。

「だから、ガイが彼女を連れてきたとき、私もイリアに会わせるべきか、会わせないで遠方に隠すべきか一晩迷ったんですよ。でも、デメリットよりもメリットの方が大きいでしょう?もしかしたら神力も戻るかもしれないし、神力が戻ったら、太陽の光がないと人型になれないこの先帝の呪いも解けるし───ってあれ?もしかして、イリアに失望しちゃいました?」

 落ち込んだ様子のガイに、シェインがニヤニヤとした表情を向ける。

「なっ!そんな訳ないだろう!俺はあの人に恩がある。尊敬の念は何があったって変わらない!!……もういい!」

 ショックと動揺を隠し切れず、ガイは窓を乱暴に開け、バサッと大きな音をたてて外に飛び出していった。

「……どうしよう。迷った」

 どこを見渡しても、似たような景色。

 完全に迷子である。

 泣いてすっきりした後、突然、尿意を感じた。

 これをイリアさんにどう伝えるべきか。トイレに行きたいと一応言ってはみたが、イリアさんはきょとんとするだけで全然伝わらなかった。だからといってジェスチャーで表現するのもなんか嫌だし。いや、できないし。


 伝わるか分からないが、待って、動かないでね、とだけ言ってイリアさんから離れた。

 しかし、当然。

 泣いていたと思ったらいきなり立ち上がって背後の森に移動しようとした私に、驚いて焦った様子でイリアさんはついて来た。


 それを必死に、お願い、来ないで、と手のひらを出して伝えると、彼はもどかしいように地面を踏み鳴らし、困惑した様子でその場で留まってくれた。


 イリアさんが来ない事を確認して、森の中に入って用を足した後、急いでイリアさんの所に戻ろうとした。

 しかし。


 来た道を戻ったはずなのに、いつまで経っても崖の所に辿り着かない。

「……私って、こんなに方向音痴だったんだ」

 はあ、とため息をつく。

 異世界に迷い込んだ先で、更に迷子になるなんて。

 自嘲気味に笑って歩き続けていると、ふと、開けた場所が現れた。

 半径三メートル程の広さが、森の中に人工的に整地されており、中心に……これはお墓だろうか。

 五角形の大きな石が月光に照らされて、豪華に咲き誇る、沢山の切り花に囲まれていた。

「…やっぱりお墓かな?なんて書いてあるんだろう、これ」

 この世界の文字なのだろう。それが、簡単に一行だけ、石墓に刻まれていた。

 今も誰かが管理しているのか、周囲には雑草もなく、石墓は綺麗に磨かれていた。

 頭上を仰ぐと、

 周囲は樹が生い茂っている中、ポッカリとあいた夜空に、満月がちょうどいい具合に顔を出していた。蟻力神

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