2015年8月19日星期三

誘惑

月曜日、昨夜の衝撃の営業活動宣言に慄おののいた私は、会社では極力レオンハルトさんに接触しないよう逃げまくった。恥ずかしくて顔が見られないし、声を聞くだけでもなんだか落ち着かなくなる。そうは言っても悲しいかな会長秘書アシスタント、全く顔を合わせないという訳にはいかない。D10 媚薬 催情剤

 あの最後に言われた「明日も努力しよう」って、あれ、あれは一体どういう意味なんだ。
問い詰めたい気もするが、聞いてしまったら最後という気もする。聞いたら、おそらく、もっと居たたまれない気持ちになる。最悪の場合、期待に胸を膨らませてしまうかもしれない・・・。おいおい、しっかりしろっ、私!
 赤くなったり、蒼くなったりする私の様子を見て、レオンハルトさんは笑いを噛み殺している。むかつくっ。

 仕事、仕事に集中しよう!と指示を受ける度に会長室から鉄砲玉のように飛び出してくる私を見て、今年の新人はずいぶんと仕事熱心じゃないかと周囲の評価は上々であった。

 そして夜。拘束なしで眠るには寝相が少々悪過ぎる私は、またもやレオンハルトさんの腕の中に抱きかかえられてしまう。これ以上のお触りは禁止、という傍から見たらそれって意味あるのかという条件付きで。

 レオンハルトさんの大きな腕に抱かれて眠ること自体は、なかなか悪くはなかった。
暖かい人肌に包まれていると子供の頃に返ったような、なんだかくすぐったい気分になる。レオンハルトさんのやんちゃなお手てが悪さをしない限りは・・・。

 おおっと、そんなことを考えては駄目だ!
胸がどきどきして落ち着かなくなってきた。完全にレオンハルトさんの術中にはまってしまっている。
身体で私を虜にして、契約書にサインさせるつもりなんだ。なんてタチの悪い大人だ。
 ここで負けてはダメだ・・・自分に強く言い聞かせていると、レオンハルトさんからベルガモットと柑橘系の大人な香りが漂ってきて、思わず胸に顔を埋めたい衝動にかられてしまう。心頭滅却、心頭滅却・・・私は忍者のように人差し指を合わせて指を組みブツブツと唱えた。

 背後でクスっとレオンハルトさんが笑った。

「どうした、今夜も触って欲しいのか?」
「バ、バカなこと言わないでください、そんな訳ないじゃないですかっ」

 レオンハルトさんは、自分と向き合うように私の身体をころりと転がした。
ニヤニヤとしながら私の顔を眺めている。なんなんですか、と目を据わらせると、「可愛い遥が見たくて」と首を傾げる。
これだけ見目麗しいレオンハルトさんに言われても、白々しい感じがして説得力がまるでない。
 また何か良からぬことを考えているんじゃないかとレオンハルトさんの瞳を恐る恐る覗きこんだ。
レオンハルトさんは整った眉を顰めて、ダメなのか?という顔をしている。
 ああ、この人、どんな時でもどんな表情をしてもなんて美しいんだろうか・・・。

「昨夜は私が悪かった。許可なしにはもう触らない」

 寝る前に遥が見たかっただけだ、と真面目きった顔をして言った。
そして、日中はじっくり見れなかったしな、とすこし不機嫌そうに付け加える。
それはもう、思い切り避けてましたから。ていうか、なんですかその拗ねた感じ。胸がきゅんきゅんしてしまうので、本当にやめて欲しい。

 間近で銀色の瞳に見つめられ、私の顔はあっという間に熱を帯びてしまう。
ホントに触らないんだったら、・・・いや、でも・・・、と困りながら呟いていていると、触らない、約束する、とレオンハルトさんが繰り返した。

 私が信じられないのか?と目を細めてきたので、「え、じゃぁ、ちょっとだけなら・・・」と返事をしてしまう。
その言葉を待っていたかのように、今度は仰向けに転がされた。
 私はびっくりして思わず息を呑んだ。
上からじっくり観察する気なのだろうか・・・。立ち込める暗雲に少しずつ鼓動が速くなり始めた。

 レオンハルトさんは身を起こすと、私の身体に触れないようにしながら馬乗りになった。上から見下ろされ、ただならぬ緊張感に身体が凍りつく。
 そして黙ったまま、私のパジャマのボタンをゆっくりと外していった。
確かに、肌には直接触ってはいませんけど・・・。神様、私は今ここにある危機をどう乗り切ればいいのでしょう。

 パジャマがはだけられ、ブラジャーを付けた胸が露わになった。
普段は寝る時ブラジャーを外す派なのだが、さすがに今夜はマズイだろうと珍しく学習能力を発揮させて付けていたブラジャーは、よりによって・・・

 フロントホックであった。
この神懸かり的な間の悪さときたら! 何か大いなる力が働いているとしか思えない。
 もちろん、プチンっとホックを外され胸までも晒されてしまう。
胸にひんやりとした空気があたって鳥肌が立った。

 満足そうに私の上半身を眺め回したあと、レオンハルトさんは私の耳に顔を近づけた。耳に触れそうなほど近くに唇が寄せられる。
耳の周りを這いまわっていたかすかな吐息は、徐々にと首へと移動していった。
首筋に熱い吐息が吹きかけられ、身体がびくっと反応してしまった。

「触れないから」

 そう低い声で囁いたレオンハルトさんの顔はさらに南下して、浅い呼吸に上下する私の胸の上で止まった。
先端をじっくりと見つめられ、ゆっくりと乳首が立ち上がってしまうのを感じる。
私は目をきつく閉じ、必死にその視線に抗おうとしたが、意思に反して先端はどんどんと固く尖ってしまう。

「やめ・・・てください」

 私は掠れ声で懇願した。心臓はもはや早鐘を打っている。

「見ているだけだ」

 冷たく囁いたレオンハルトさんの吐息が乳首を刺激して身体の芯がジンと熱くなった。

 何度も息を吹きかけられ、胸だけでなく体中が火照ってくる。紅蜘蛛(媚薬催情粉)
手で隠せばいいことにようやく気づいた私は腕を動かしたが、手首を掴まれて頭の上で固定された。
 上から見下ろすレオンハルトさんにささやかな抗議の声を上げる。

「・・・触らないって言いましたよね」
「いちいち細かいな」

 下から睨みつける私に、レオンハルトさんは忌々しげに目を細めた。
「では、触らなくていいように腕を縛り上げればいいのか」

 予想の斜め上からの攻撃に目を見開いて絶句してしまった。
もしや、これが昨夜のマーケティング調査結果によって導き出された戦略なのであろうか・・・。
全身がぞくぞくと痺れた。これから起こることへの恐怖のためか、期待のためか・・・。

 ごくり、と唾を飲み込む私にぎりぎりまで顔を寄せ、レオンハルトさんは意地悪く微笑んだ。

「このまま、朝までこうしていようか」
「む、無理強いは・・・しないって言いましたよね?」
 悪魔のようなセリフに、なんとか抵抗しようと再度口を開く。

 ああ、言ったとも、と小さく笑い、レオンハルトさんは艶を帯びた声音で囁いた。


「だから・・・遥に、ねだられるのを待っている」

 耳元で囁かれた甘い挑発に、ふしだらな欲望が鎌首をもたげた。


 レオンハルトさんは誘うように胸のまわりを熱い吐息で濡らしていく。
全身にぞくぞくした痺れが駆け巡り、わけもなく胸が高鳴って乳房がふるふると震えてしまった。
今にも飛び去って行きそうな理性に必死でしがみつく。

「いつまで・・・我慢できるのか」
囁いたレオンハルトさんの唇が小さな笑みを作った。

 私の反応を愉しむような笑みを浮かべ、試すようにギリギリまで唇を近づけてくる。
長い前髪が時折肌を掠め、その度に私の身体はぴくんと跳ねた。
 自分のすべての神経が皮膚の上に集まり、微かな空気の動きすらぴりぴりと素肌を刺激していく。
甘い誘惑に抵抗しようと、私は瞳をぎゅっと閉じ、必死に唇をかんでこらえた。

「・・・なかなか強情だな」

 心臓の動きが高まるにつれ、浅い呼吸がどんどんと速くなってしまう。
鼓動が頭の中で大きく響き、耳が聞こえなくなる気がした。
まんまと挑発に乗せられてしまう自分が悔しくて堪らない。
この甘美な拷問から救い出して欲しい。胸が苦しくて耐えられない・・・涙が溢れかけた。

 レオンハルトさんは舌を出し、ゆっくりと自分の唇をなぞった。
唾液が唇を濡らしていく淫靡な様に、私の理性はすでに崩壊寸前だ。

 そして、とうとう我慢できず、消え入るような声で哀願してしまった。

「・・・さわっ・・・て、ください」

 そう言った瞬間、私の胸の先端はレオンハルトさんの熱い口内に含まれた。

「は・・ぁっ」

 待ち焦がれていた刺激に思わずため息が漏れてしまう。
乳頭が舌で絡め取られ、押しつぶされた。
レオンハルトさんは右手で私の手首を押さえつけたまま、もう片方の手で乳房を揉みしだいた。

「んっ・・・、ふ・・ぅ」

 私に見せつけるように舌を伸ばし、ゆっくりと舌先で先端を嬲った。
もう一方の乳首は手のひらで円を描くようにこね回される。

 レオンハルトさんの淫らな仕草に肌が粟立ち、全身が震えてしまう。
いやいやをするように私は首を左右に振った。
私を見上げるレオンハルトさんの瞳の奥に情欲の炎が見え、脚の付け根からとろりとした蜜が溢れるのを感じた。

 乳首を舌に絡ませ、何度も吸い上げられる。
私は堪らずに背中を反らせて、小さな啼き声を何度も上げてしまった。
 二つの乳房が執拗に攻め立てられ、下半身が疼いていやらしく腰をくねらせてしまう。
レオンハルトさんは乳首を咥え込んだまま、ショーツの中に左手をするりと侵入させた。

「あぁっ・・・」

 秘所に指を滑らせ、私が恥ずかしいほど愛液を滴らせているのを確認したレオンハルトさんは、ゾクリとするような冷たい笑みを見せた。
 そのままゆっくりと柔らかな割れ目にそって指を往復する。
わたしは腰をびくつかせながら、その動きに合わせるように揺らしてしまっていた。
 レオンハルトさんの長い指が蜜壺の入り口で止まると、中指がゆっくりと中へと押し込まれていった。

「ふぅっ・・・はっ・・・あぁっ」鹿茸腎宝

 まだ固い内壁を少しずつ押し広げるように、指が挿入されていく。
奥まで差し込み、ゆるやかに肉壁を擦りながら引き抜く動作が繰り返された。何度も、何度も。
 鈍い疼きとともに、少しずつ甘やかな愉悦が私を支配し始める。
下肢が熱く痺れてしまって腰から力が抜けていき、熱い吐息ばかりが漏れてしまう。

 やがてレオンハルトさんの指が敏感な襞を探り当て、腰がびくんと跳ね上がってしまった。

「見つけた」

 嗜虐的な笑みを浮かべたレオンハルトさんは、指に力を込めてその内壁を執拗に擦り上げ始めた。
身体の底からせり上がってくる感覚に翻弄され、私は助けを求めるようにレオンハルトさんの首に縋りついた。

「あぁっ、はぁっ・・・ああぁっ」

 ぐちゅぐちゅと中指で肉壁を擦りながら、同時に親指で敏感な花心を押しつぶされる。
指の動きにあわせるように、強弱をつけて肉粒を嬲られた。
 乳首に舌を絡ませ扱かれ、蜜壺の指の抽送が速められ、私は浅い呼吸を繰り返しながらヒクついた腰をどんどん浮き上がらせてしまう。

「あ、あ、あ、あ・・・ふぅっんんんんんっ」

 堪えきれないほどの快感にガクガクと腰を揺らしながら、今夜も私は絶頂へと押し上げられてしまった。

面接
 火曜日、私は方針を変えてみることにした。
今までは二人きりで外出するのを頑なに避けてきたが、周囲に人がいればレオンハルトさんもエロモードをそう簡単には発動できないはず。そう考えて夕食のお誘いに承諾した。

 連れて行かれたのは、六本木にあるNYのミシュランシェフが経営するフュージョン・キュイジーヌのレストランだった。
 こぢんまりとした店内の壁やカウンター席には黄褐色の大理石が使われており、同色系のレザーのスツールが並んでいた。低めの照明と相まってすごくスタイリッシュな雰囲気だ。

「あれ・・・お客さん他にいませんね?」
「当たり前だ、今夜は貸し切りにしている」

 ・・・この人が桁外れのお金持ちであることをすっかり失念していた。
周囲の目を盾に身を守ろう作戦が使えないとは・・・。私はレオンハルトさんに気づかれないよう舌打ちした。
ほら、何をしている、と先を歩くレオンハルトさんの後にしぶしぶ続く。

 注目されるのは嫌いだから、と言いながら、レオンハルトさんはお店の人にジャケットを手渡した。
 だから今夜はサングラスをかけていたのか。夜だってのに変な人だな、ぐらいにしか思っていなかった。いつも人から見られることに慣れてる人だと思ってたけど。意外と繊細なところがあるんだろうか。
 そう考えて、私はレオンハルトさんの性格的な部分をほとんど知らないことに気付いた。

 レオンハルトさんを改めて眺める。この姿を広告にしたら売上がきっと倍増するに違いない。そんなことを考えながら、サングラスをかけたレオンハルトさんが珍しくてつい見入ってしまった。

 私の視線に気付くと、遥は特別だから見たいだけ見てもいい、と微笑みながらサングラスを外した。自分でも顔がぶわっと赤くなったのが分かり、ぱっと俯いてしまう。
 なんだ、見ないのか?と意地悪な顔で覗きこまれた。・・・絶対にからかわれている。特別ってどういう意味ですか?とレオンハルトさんの胸ぐらを掴みたい衝動にかられた。

 一階のシェフのお料理を見ながらお食事できるカウンター席に座るのかと思いきや、通されたのは二階の奥の隠れ家風の個室だった。
 個室を予約しているならレストラン全部を貸し切りにすることなんてないのに・・・お金持ちのすることは全くもって理解不能だ。

 ワインメニューを眺めていたレオンハルトさんに、ワインは何が好きかと聞かれたが、分からないのでお任せすることにした。
レオンハルトさんは「ヴェッツォーリのプロセッコを」とソムリエさんに注文する。

 乾杯、と二人で背の高い華奢なグラスをカチンと合わせた。
グラスの中で、ゴールドにきらめく液体の底からコポコポと立ち上がる気泡にわけもなく乙女心が浮足立ってしまう。

「わ、フルーティで飲みやすい・・・」
「イタリアのスパークリングワインだ。若い女性に好まれる」

 レオンハルトさんがソムリエさんに頷いた。

「では、ご用がございましたらこちらでお知らせください」紅蜘蛛

 テーブルの上にクリスタルの呼び鈴を置き、ソムリエさんは個室から退出してしまった。いきなり二人きりにされ、緊張して身体が硬くなった。
 いや、でもコース料理だから、お料理ごとにちょこちょこ人が入ってくるはず・・・そんな私の考えを見透かしたように、私が呼ばなければ誰も入って来ない、と言われた。

「これで、二人だけの時間が楽しめる」

 なんですか、その意味深発言。やたらと慣れている感じに私は眉をひそめた。
この人はやはり天性のタラシなのか?欧米版だからプレイボーイと呼ぶべきか。
このシルバーブルーの妖しい瞳に見つめられて、魔法にかからない女性はきっとほとんどいない。

 ネットの画像検索で表示された、レオンハルトさんの隣で微笑むミューズのような女性達を思い出した。やっぱりああいう人達と一緒にディナーに行ったりしてたんだろう。なんだか気に食わない。

「あくまで興味本位なんですけど、女性を連れてよくこういう場所に食事に来るんですか?」
 お腹にふつふつと湧き上がる正体不明の感情を吐き出すように質問していた。

「どうした、私に興味が出てきたか?」
 レオンハルトさんは、これは面白い、というように眉を上げた。
聞いちゃいけませんか?とふてくされた表情をする私をしげしげと眺めている。
以前、女性にはあまり興味はないと説明したはずだが・・・と前置きしてからレオンハルトさんが口を開いた。

「女性を伴ってこのような場所に二人で来たことは確かにある。ただし、自分の意思で連れてきたことはない。今回を例外としては」

 遥は特別だからね。と微笑んで、優雅にグラスを傾けた。

「特別、特別って・・・一体どういう意味ですか」
今度は胸のもやもやをぶつけてみる。レオンハルトさんは私のことを興味深げに見つめ、ゆっくりと口を開いた。

「私の事情を理解し、協力してくれる、特別なパートナー」
 失礼、協力を願っている、だな、と日本語を訂正した。

 レオンハルトさんの言葉が、お腹の中で大きな塊になってずしんと落ちた。
なにこれ・・・。ショックを受けている自分に愕然とした。言葉が出てこない。

 協力してもらいたいから、あの手この手を使って私にうんと言わせようとしてるのは初めから分かっていたはずだ。もしかして・・・私は・・・がっかりしてる?さっきまで感じていた空腹感はものの見事になくなっていた。

 席を立って、今すぐこの場から立ち去りたかった。
具合が悪くなったと言って帰ってしまおうか。思いを巡らせているうちにレオンハルトさんが呼び鈴を鳴らして、第一のコース料理が運ばれてしまった。

 卵の殻を器に使った、こぼれ落ちそうなほどキャビアが盛られた前菜だった。
今夜はレオンハルトさんがお店を貸し切りにしているから、私達だけのために作られたお料理だ。それを戴かずして帰るというのは・・・礼儀としてダメだろう。
 食欲は・・・まったくないけど、意地でも食べるしかない。サクッと食べて帰るのだ。よりによって8品も出るコース料理だけど・・・そして帰ってもレオンハルトさんと同じ寝室だけど・・・。
最悪だ・・・。
ため息をついて小さなスプーンで中身をすくう。キャビアの下にはとろっとろの卵のムースが隠れていた。

 仕方なく食事を始めると、お料理の品数が多いことに救われた。
次々と運ばれるお料理に、わ、なにこれ!おいしー、トリュフって初めて食べるー、へーこんな味だったんだー、とかなんとかコメントしていれば間が持ったので。
 ミシュランシェフのお料理はやはりどれも絶品で、メインコースが終わる頃には美味しいお店に連れてきてくれたレオンハルトさんに感謝すらしていた。

 最後のデザートはチョコレートの焼き菓子だった。
シンプルにカットされたケーキの隣には生クリームと飴細工が飾られている。
甘みを極限に押さえた濃厚なチョコレートケーキは口に含むとシャンパンの風味がして、お気に入りのスイーツ屋のケーキとはまったく異なる次元のデザートだった。

「うわっ、大人な味がする。でも美味しー・・・」
素直に感動してケーキの感想を口にしていると、小さなカップでエスプレッソを飲んでいたレオンハルトさんにくすっと笑われた。勃動力三體牛鞭

「遥は食べながらよく喋る」

 え、普通じゃないですか?と聞き返すと「少なくとも私の周囲にはいない」とレオンハルトさんは肩をすくめた。

「美味しかったし、初めて食べる食材が多かったから珍しくて、つい・・・」
これはもしかして欧米マナー的にはNGだったのだろうか、と心配になり、すみません、と謝る。

「私は単に感想を述べただけで、君の謝罪が欲しかったわけではない」
 レオンハルトさんは真っ直ぐな視線を私に向けた。

「日本には周囲と調和を図るためにすぐ謝る文化があるようだが、自分が本当に悪いことをしたと思わない限り謝る必要は全くない。
欧米ではたとえ自分が悪いと自覚している場合であっても、自ら非を認めないことはよくある。弱みを握られないように」

 なんだか叱られている気がして、すみませんと言ってしまってすみません、と謝ってしまい、レオンハルトさんは片手で目を覆った。
首を振って深いため息をついてから、レオンハルトさんは続けた。

「それから、日本人はノーと断ることを苦手としているが、嫌なものは嫌だ、と言うべきだ」

 嫌だと言っても無理矢理いろいろしたクセに・・・ぼそっと私が呟くと、「私はノーと言われることに慣れていない」と平然と返され、思わず呆気にとられる。この人、完全に矛盾してるのが分かっているのか?それともこれは計算なのか?
 それはともかく・・・とレオンハルトさんは落ち着いた口調で話し始めた。

「遙も、私に協力するのがどうしても嫌ならば、遠慮無く断ってくれて構わない」
 今夜の食事に同意したのもこの話し合いをしたかったからだろう?レオンハルトさんの瞳が銀色に光った。表情からは感情が読み取れない。何もかもお見通しだ、と言われているような感じがした。

「本気ですか?」
「本気だ。なぜならば、心から同意してもらえない限り、この件の遂行は不可能であるから」

 何か不満があれば申し出て欲しいし、確認したいことがあれば遠慮無く聞いて欲しい。納得がいくまで説明するし、君に不都合な条件があれば改善を検討する、と言われる。
 珍しくまともなレオンハルトさんの発言に、何か裏があるのではないかと疑心暗鬼になってしまうほどだ。

「えっと・・・、この件で、私が一番引っかかるのは、金銭が、発生することだと思います」
 私はしばらく考えこんでから口を開いた。

「理由は」
「・・・ああいうことに対して報酬をもらう・・・というのに抵抗があるといいますか」
「しかし労働の対価として報酬が発生するのは当然のことだと私は考える」
 ろ、労働?確かに肉体労働ですけども。それも多分かなりハードな。

「だとしても、報酬はいただきたくないです。これは自分の倫理観が許さないというか」
 もしやるのであれば、ですけど、と付け加える。

「大変興味深い。では、報酬なしで君が私に協力するというのは、どのような状況下においてなのか教えて欲しい」
 レオンハルトさんはそう言って、テーブルに両肘をついて組んだ長い指の上に軽く顎をのせた。
「仮定の話で」

 鋭い視線に貫かれ、わけもなく落ち着かなくなる。
レオンハルトさんに面接されているようだ。そして、これは、これまでに受けたどの面接よりも手強い。
 この結果次第で自分の今後が決定してしまうかもしれない。頼れるのは自分だけだった。

 ひとつひとつ、慎重に言葉を選ぶ。

「・・・私が、・・・レオンハルトさんを・・・好きになったら、・・・でしょうか」
 無理矢理告白を強要されているような気分になった。なんだか落ち着かなくて、身体がそわそわしてしまう。

「その件はもう知っている。淫らな行為は好意を持った人としかできない、だったな」

 だったら何が聞きたいんだろうか。レオンハルトさんの質問の意図がよく理解できない。
それが分かっているのなら、聞く必要がないじゃないか。・・・しかし、この人、細かいことまでよく覚えてるな。

 レオンハルトさんはテーブルからいったん肘を離し、足を組みかえた。片肘を付き直して親指で顎を撫でている。困惑している私を観察して愉しんでいるようだった。

「では聞こう。君が私と同居以来、私の寝室でおこなった行為をなんと呼ぶか」
「え・・・あ、あれは私の意思とは関係・・・ないじゃないですか・・・」
「しかし君は受け入れた」

 そう言われた瞬間、私の頭は真っ白になった。

「この事実に関して、何か反論は?」

 目を細めて口元に笑みを浮かべるレオンハルトさんの表情がこう語っていた。

「チェックメイト」狼一号

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