デウス平原に巨人の咆哮が響き渡る。
視界の奥、岩陰から生まれた白い巨体が震え、ここ数日ですっかり聞き慣れてしまった叫びが俺の耳を打つ。
「――ッ!」
あまりに強烈な叫びは大気が震わせ、その衝撃はびりびりと肌を叩く。V26Ⅲ速效ダイエット
しかし俺はそれに動じることもなく、音の発生と同時にもう行動を起こしていた。
こちらが全速で動ける時間には限りがある。
だから、限界が来る前に叩き潰すつもりでいた。
(ステップ!)
オーダーによって3倍速でのスキルが発動し、周りの景色が急速に流れる。
一週間前の俺であれば、確実にうろたえていたはずのスピード。
だが、それに対する動揺もまた、今の俺にはない。
(横薙ぎ!)
ただ、加速していく身体に思考を同調させる。
加速する肉体に合わせるように、3倍の速度で脳裏に命令を描くイメージ。
上書きされた指令に俺の身体は急停止。
剣を払う動作に移ろうとして、そこにすかさず、
(ステップ!)
新しいオーダーをねじ込む。
最速のキャンセルとも言われる、基本攻撃スキルのショートキャンセル。
3倍の速度でなされるそれは、もはや神速キャンセルという名前が誇張ではないほどだ。
だが、俺はそれをやり遂げた。
俺の標的、キングブッチャーの巨体が近付くのを認め、ここから一気に攻撃に転じる。
使うのはもちろん、
(朧残月!)
俺の必殺コンボ、その一段目。
神速キャンセルに比べれば、通常の攻撃スキルのロングキャンセルの難易度は低い。
ただ、油断はしない。
(ハイステップ!)
3倍という異常な速度下においては、わずかな気の緩み、気の逸りでさえも失敗に直結する。
悠長にその場でタイミングを計れるような速度ではない。
決められた譜面に従って打鍵をするように、ひたすらに体得したリズムの再現に徹する。
(ジャンプ!)
気が付けば、間近に迫るブッチャーの巨体。
半径3メートル。
その円の中に入ったことを、束の間意識する。
だが、次の瞬間にはその事実は頭から蹴り出されている。
そんなものは、一撃で決めれば関わりのないこと。
今の俺の力なら、きっと…!
(横薙ぎ!)
ブッチャーの身体を横断する、3倍の速度で放たれる斬撃。
そしてその一撃に呼吸を合わせたように、朧残月の縦の斬撃が同時にブッチャーの身体を斬り裂く。
「朧十字!!」
宙に描かれる、十字の斬線。
まさに縦横に斬り裂かれたキングブッチャーは、自分に何が起こったのか分からないとばかりに、しばらく呆然とその場に立ち尽くし、
「今日までご苦労様」
時間差で訪れた死によって、小さな光の粒となって消えていった。
相手の攻撃はこちらにかすりもせず、俺の方はたった一度の攻撃でブッチャーを倒した。
わずか数秒での、完全なる勝利だった。
ブッチャーの身体が完全に消滅したのを確認して、
「……ふぅ」
押し殺した、短い息を吐く。
戦闘用に鋭くとがっていた意識が霧散して、ようやくいつもの自分がもどってくる。
(俺の方は、これで一応完成、って言ってもいいかな)
地面に落ちたブッチャーのドロップアイテムを確認しながら、俺は強く拳を握りしめた。
まだ以前のように、ほかのことを考えながらでも神速キャンセル移動が出来るとか、町での普通の移動にも神速キャンセル移動を使えるとか、そんな域には達していない。
むしろ集中して集中して、スキルをつなげることだけを考えて、ようやく何とか形になる、というのが実際のところだ。V26即効ダイエット
ゲームシステム的にはありえないことのはずなのだが、敏捷が3倍の状態で集中すると、なんとなく時間が引き延ばされるような感覚がある。
それがスキル効果かただの錯覚かは分からないが、3倍速でのスキルコンボ成功の理由の一つがそれだ。
ただ、深く集中するということは、それだけ疲れるということでもある。
たとえほかの制約が何もなかったとしても、全力でスキルキャンセルが出来るのは30秒程度だと見積もっていた方がいいだろう。
速度が上がった分スタミナの消費も激しいし、やはり今のところ3倍速でのスキルキャンセルは『憤激の化身』に合わせたように、ここぞという時の奥の手、という立ち位置が向いているようだ。
と、こんな風に語ると集中さえすれば簡単にスキルを使いこなせたみたいに聞こえるが、実際には3倍速でのスキルを使いこなせるようになるまで、地味ながら苦しい努力の日々があった。
リンゴへの指導の傍らで、俺は俺で試行錯誤を重ねていたのだ。
全ての技のキャンセルタイミングが1倍の時とは異なっているし、敏捷上昇に伴い無敵時間が3分の1になって使い勝手の悪くなった隠身や、逆に敏捷の恩恵を受けないために、相対的に速度が落ちてしまったエアハンマーの魔法など、技の使用感自体が変わってしまった物もある。
それらを一つ一つ確認しながら、以前のキャンセルポイントを思い出して3倍状態でのキャンセルタイミングを探った。
また、それでどのタイミングでキャンセルすればいいかが分かっても、3分の1の制限時間の中では思った通りにスキルをつなげるのは難しい。
それでも前にも話した通り、乱れ桜のロングキャンセルから少しずつ慣らしていって、ようやく神速キャンセル移動を使えるまでにこぎつけたのだ。
それでもキャンセルが出来るスキルは、おそらく全盛期の2割程度。
ただ、使用頻度の高い三つのスキルコンボ、すなわち、ステップ、ハイステップから縮地につなげる『移動スキルコンボ』、朧残月から接近しての横薙ぎを合わせる『朧十字』、ステップと基本攻撃スキルのショートキャンセルを組み合わせる『神速キャンセル移動』。
これらを何とか使えるようになったことで、今は満足しておくべきだろう。
なぜなら、
(――これで、準備は整った! あいつを、魔王を倒す準備が!)
それが魔王戦への備えとして考えていた、最低条件の一つだからだ。
圧倒的な攻撃力と速度。
その二つが、犠牲なしに魔王を倒すために俺が設定した最低条件。
――捕捉不可能な速度で全ての攻撃をかいくぐって魔王に接近し、常識外れな火力で一気に葬り去る。
あまりに乱暴なそれが、俺の対魔王戦の基本戦術だ。
ほかの作戦など、極端に言えばその成功率を上げるための小細工でしかない。
この九日間で俺がやっていたのは、3倍速でのキャンセルスキルを修得したことだけじゃない。
レベルとパワーシードのため、ほとんど一日中この平原に張りついて、ブッチャーを倒し続けた。
少しでもブッチャーのリポップを早めるため、畜産用の鶏をヒサメ道場から借りてきて平原に置いて、このエリアの魔物侵攻度を上げるなんて涙ぐましい工夫もした。
その成果が、今の戦闘だ。
3倍速の移動スキルコンボが使えるなら速度は申し分ない。
そして上がったレベルとシードによる筋力上昇のおかげで、攻撃力についてもブッチャーの物理耐性すら突破するほどだと証明出来た。
(これなら、これだけの力があれば、俺はこの手で、魔王を…!!)
握った手を、さらに強く、血がにじむほどに強く握りしめる。
しかし、そんな暴走とも言えるほどに高まった熱も、
「ソーマ!」
「リン……ぶはっ!」
俺の名を呼びながら近付いてくるリンゴの姿を見て、一瞬で吹き飛んだ。
――ヒュッ、ヒュゥン、スウィ~!
ステップ、ハイステップ、エアハンマーを組み合わせた、お手本のような移動スキルコンボ。
今のリンゴの姿が、俺たちのこの九日間のもう一つの成果だった。
昨夜、リンゴと一緒に屋敷にもどった時、リンゴに魔法のカスタムをさせて、魔法の予約発動について説明した。
昨日の特訓でステップをキャンセル出来るようになったリンゴだが、そこから神速キャンセル移動を修得するのは流石に難易度が高い。V26Ⅱ即効減肥サプリ
それよりは、ある程度自在に使えるようになったステップからハイステップのコンボを活かした方がいい結果につながると考えたのだ。
それに、一度セッティングさえしてしまえば、タイミングが命なスキルキャンセルよりはKBキャンセルの方が幾分か使いやすい。
だから俺はリンゴに、ただ一種類、ステップ、ハイステップ、エアハンマーの三つで構成される移動法を教え、ひたすらそれだけを練習させた。
ここに縮地を加えると移動速度も移動距離も大きく伸びるのだが、リンゴはまだ覚えていない上に、あれはスタミナ消費が大きく扱いも難しいため、最初の内は使わない方が安全だろう。
そして、リンゴとこの移動法の相性は、俺の想像以上によかった。
今朝の早朝から始めたたった数時間の訓練で、リンゴはほぼ完璧にこの移動法をマスターしてしまった。
まだエアハンマーの発動タイミングにばらつきが残っているものの、充分に実戦で使えるレベルと言えるだろう。
リンゴは基本の移動速度が速いだけあって、ステップなどを使った時の移動速度もかなりのものだ。
縮地が使えない割に素早い移動が可能で、1倍の神速キャンセル移動くらいでは太刀打ち出来ないくらいの速度をあっさりと出した。
あまり接近戦をやって欲しくはないが、戦場に急いで駆けつけるための方策を手に入れて、リンゴも嬉しがっているようだった。
というか実際、心境の変化はあったようだ。
練習を始めた最初の内は、
「…ソーマは、あんまりみないで」
と何だか乗り気でない様子だったのだが、練習を重ね、うまくエアハンマーでコンボがつなげられるようになると、傍目にものびのびと動くようになった。
本人いわく、
「…ん。ちょっとだけ、たのしくなってきた。
……ほんの、ちょっとだけ」
とのこと。
どうやら自覚はないようだが、
(あ、こいつ、ハマったな)
これは明らかにドハマりの兆候である。
キャンセル移動の魅力に取りつかれた、新たな同好の士の出現に内心にやりとしながらも、俺は顔だけでは真面目な表情を崩さず、
「あんまり、根を詰めすぎるなよ」
「…ん、ありがと」
むしろ軽い忠告までして、リンゴを見守ることにした。
こういう時は下手にこちらからいじらない方がいい。
一度キャンセル移動の爽快感を味わってしまえば、もう逃げられない。
この移動法に慣れた頃に、リンゴの方から新しい移動スキルを教えてほしいとねだってくるようになるだろう。
慣れたと言えば、俺もリンゴの様子に慣れた。
俺も最初こそは、別に誰にも攻撃されていないのに突然爆風にでも吹き飛ばされたみたいに横滑りするリンゴに、ちょっと、いや、かなり引いていたのだが、
(ほんと、楽しそうだなぁ……)
元気にステップした後、何だか得意げに吹き飛ばされるリンゴの姿は、一周まわってユーモラスでかわいらしく見えてきた。
初めてリンゴのキャンセル移動を見た時は、「キャンセル移動ってやっぱり気持ち悪いのかな」なんて弱気になってしまったが、やはり魂が入った物は、それが何であれ人の心を動かす力を持っているらしい。
ああいう姿を見せられると、こっちも負けてはいられないなと闘志をかきたてられる。
ちなみにその後、俺が対抗して3倍速での神速キャンセル移動を見せた時のリンゴのコメントは、
「…こ、こっくろーち!」
だった。
言葉の意味は分からないが、表情を見る限り、たいそう驚いたと言いたかったのだろう。
これを目標にして、リンゴにはさらに励んでもらいたいところだ。
「――ソーマ!」
などと考えている間に、リンゴが目の前までやってくる。
それどころか、まだ距離の計算が甘いせいでそこで止まり切れず、エアハンマーの余波で俺に突っ込んできた。
「リンゴ……っと!」
俺はその小さな身体をしっかりと受け止めた。
ただ、俺の胸で止まったリンゴはそんな事実など全く頭にも入っていないように、俺を潤んだ目で見上げてくる。日本秀身堂救急箱
「…ソーマ、けがは?」
「大丈夫だよ。一発もやられずに勝ったの、見てただろ?」
俺が笑って答えても、リンゴは納得しない様子で俺の身体をぺたぺたと触って確かめる。
これも、リンゴに生まれた小さな変化だ。
俺がブッチャーに殺されそうになったあの時以来、リンゴはさらに心配性になった。
ちょっと行きすぎというか、俺に危険が迫ってると感じるとそれ以外のことが目に入らなくなるようなので、逆にちょっと危なっかしい。
「…みてた、けど。……ぁ!」
今回もそこで急に我に返ったのか、突然俺から離れて顔を伏せた。
もしかすると、昨日まで俺と喧嘩をしていたことを思い出したのかもしれない。
そういうところもほほえましいとは思うが、
「それより、今日はもうもどろう。
たぶんそろそろ、みんなもどってくる頃だ」
残念ながら、あんまりのんびりともしていられない。
「…ん。わかってる」
それを聞いて、少し赤くなっていたリンゴの表情に、真剣な色が宿る。
――今日がちょうど、魔王の呪いが発動してから十日目。
俺は、仲間たちの物も含めた全ての予定を、今日の正午までに終わるように調整した。
「いよいよだ、リンゴ。
……もう俺は、一人で突っ走るような無茶はしない。
だから魔王を倒すまで、俺に、お前の力を貸してくれるか?」
俺の言葉に、しかしリンゴは小さく首を振った。
「…そんなの、だめ」
驚く俺に、リンゴは告げた。
「まおうをたおすまでじゃ、だめ。
……わたしはずっと、ソーマについてく」
心強いリンゴの言葉に、俺は一瞬だけ、言葉に詰まって、
「……ああ!」
出来るだけ俺の熱を伝えるように、力強い言葉を返す。
何だか胸の奥から無尽蔵の力が湧いてきて、何でも出来るような気持ちになる。
「よし、じゃあいっちょ気合を入れて帰るか!
――3倍神速キャンセル移動で!」
「そ、それはだめ! つうほうされちゃう!」
「なんでっ!?」
強い決意を胸に、それでもあくまで俺たちらしく、賑やかに。
成長を終えた俺たち二人は、仲間の待つ『我が家』へと帰っていったのだった。簡約痩身
2013年7月5日星期五
2013年7月3日星期三
余韻
魔軍は人類に敗れ去った。
魔人が五人も死に、特に上級魔人のアルベルトとフランクリンを失ったのは大打撃であろう。
そういう意味ではマリウス一人に敗れたと言えるかもしれない。新一粒神
五人全員が戦争開始二十分以内で死ぬなど、人類でも予想出来なかったのだ。
マリウスの力を知っていた者は例外とされるが、あまりにも強すぎた事は誰も否定出来なかった。
一体誰が、各地に散るアンデッドが全てまとめて葬り去られると思うのか。
「こんなものかな」
味方にもある意味大きな打撃を与えた張本人は、各国有志と共にベルガンダで瓦礫撤去と浄化作業を行っていた。
戦争が終わった翌日の事である。
大量の死人とそれらのアンデッド化は疫病の発生源となると聞いたからだ。
功労者にそんな事をさせられないと慌てる周囲の反応を意図的に無視し、黙ってついてきた三人の召喚獣や目を輝かせながらついてきたバーラと一緒に。
たっぷりご褒美をもらえたゾフィはまた手柄を立てるつもりで、他の二人は挽回するつもりで。
一方のバーラは指示も出せるし、浄化魔法も使いこなせる主要戦力である。
「マリウス殿」
そんなマリウス一行に声をかけてきたのは、セラエノ王デレクであった。
「これは……」
マリウスはとっさに反応に困る。
背後に何人もの護衛が控えているところを見るとどこかの王族か貴族なのだろうが、思い出せない。
<セラエノ王です>
エルが「テレパス」を使って教えてくれたので、ごまかす事にした。
何故知っているのか、追及している場合でもない。
「セラエノ王、とんだご無礼を」
「いや、よい」
何となく自分の顔を覚えていなかった事を察したが、デレクは鷹揚に笑って許す。
元より礼節にさほど煩い方ではないし、礼節を尽くすべきなのは己の方であると思っているのだ。
「ガスタークは我が兄であった」
その表情と声色から心中を察する為には、マリウスは経験不足だと言わざるを得ない。
「かつては彼にとって弱者は庇護対象であったはずだが、いつの間にやら邪魔なだけの存在になっていたのだ……」
あまりの酷さに先代王であるデレクの父に誅殺された、そのはずであったが生きながらえ魔人と化していたのである。
マリウスはそのあたりの事情を初めて知ったのだった。
「民に代わって礼を言わせてもらいたい」
深々と頭を下げられたマリウスは驚き、傍にいたバーラを横目で見る。
バーラも驚いていたので、これは普通ではありえないのだと知った。
知ったのはいいが、果たしてどう返せば無難なのか。
「いえ、こちらこそ。因縁の相手を横取りしてしまったようで」
マリウスなりに慎重に言葉を選ぶ。
セラエノ人達は自分達で討ちたかったのではないかと気を回したのだが、頭を上げたデレクはそれを否定した。韓国痩身1号
「誅殺された王族が生きていたのも恥ならば、民草に更に害を与えたのも大恥だ。我らが敵うか分からぬ存在になっていた以上、こだわるのは愚かな事だ」
表情も声も平坦で、わだかまりはないように思える。
もし抑制された結果だとすれば、計り知れない自制力の賜物だろう。
しかしデレクはそこで表情を困惑と羞恥が入り混じったものへと変える。
「それより知っていれば教えて欲しい。メルゲンという名に心当たりはないだろうか?」
マリウスと言うよりその背後にいるゾフィに向けられていた。
ゾフィは主人の方を見て、教えてやるべきだと目で言われたので答える。
「知っている。ガスタークとよくつるんでいた魔人だ」
デレクは黙って目を閉じ、護衛達からは小さなざわめきが起こる。
意外さよりもやはりという思いの方が強い。
マリウスにしてもわざわざ尋ねるくらいだから、と思う。
「メルゲンはガスタークの義兄弟であり、悪に引き込んだ元凶。少なくともそう思われるくらい悪辣な奴だ」
デレクは一旦そこで言葉を切り、フードを被ったマリウスを見る。
「倒せるならば我らの手でと思うものの、貴殿に頼む方が確実であろうな。厚かましさは重々承知だが、お願い出来ないだろうか?」
マリウスは黙って頷く。
民の為に氏素性も知らぬ者に頭を下げる王というのは、個人的に好感が持てる相手だ。
それでいてマリウスに対して媚びへつらう素振りもなく、王としての威厳を損なっていないのも感心する。
「メルゲンが得意とするのはガスタークと同じくネクロマンシーだが、造詣の深さではより上であろう。貴殿ならば大丈夫であろうが、油断は禁物だ」
そう忠告するとデレクは臣下達の方へ戻っていった。
護衛達もマリウスに目礼して続く。
「何と言うか、いい意味で王様って感じだな」
マリウスの貧弱な表現力でもバーラは、言いたい事を察知して首肯してから口を開く。
「セラエノが精強さを取り戻したのは、あの方が即位してからです。恐らく大陸で一番立派な王ですよ」
バーラの褒め言葉にさもありなんとマリウスは思う。
たった数回言葉を交わしただけだと言うのに、深い印象が植えつけられた相手だった。
余談だがゾフィやエルはバーラに対して「こいつ、魔法絡み以外でもきちんと判断出来るのか」とやや意外な感想を抱いた。
(それにしても人間から魔人にねぇ)
これもゲームと現実の差異だろうとマリウスは思う。
ゲームでは一度種族を設定すると変更は出来なかった。
もっとも「リッチ」のように人間を止める職で、こちらでは魔人になるという可能性はあるが。
魔人と言えば上級魔人達も弱かった。
ゲームの頃では「アニヒレーション」単発で沈んだりしない。
(もしかすると敵の強さって一人プレイ用なんじゃないのか……?)
MMORPGのステータスのまま一人用RPGの強さの敵と戦っているからこそ、敵が弱く感じるのではないのか。
集団で倒すべき敵と一人でも倒せる敵の強さが違うのは別におかしくはない。
そもそも常識が通用しない世界なのは今更であるし、何となく説明が出来た気がするマリウスだった。
だとしたら今まで気づかないなど迂闊だったと言うしかないのだが……。
「そろそろ再開しませんか」
バーラの声に応じ、マリウス達は作業へと戻る。
ベルガンダの民はゾンビとなって魔軍の捨て駒にされ、マリウスの魔法で浄化された。
浄化すると遺体は残らないのだが、せめて魂だけでも救われたと思いたいところである。
侵攻に利用されなかった人々の遺体が残っているだけまだマシと言えよう。
遺体の数だけ墓は作られ、遺体が残らなかった人々の為には慰霊碑が建てられる事となっている。
これは国家戦略の一部でもあった。
ベルガンダが滅亡した事によって、ベルガンダが主な取引相手だった人々は失業の危機を迎える。韓国痩身一号
一時的にせよ仕事と収入を与え、その間に善後策を練らねばならない。
失業者の増加は国の治安や経済に影響を及ぼすのだ。
「魔人ってつくづく祟るよなぁ」
マリウスの声には剣呑な響きがあり、それを感じ取った女性達は思わず顔を見合わせる。
彼は本来温厚な性格で受け身な人間のはずだ。
だからこそ周囲へのしわ寄せが少なく、その点については多くの人間が評価していたのだが、もしかすると部分的にせよ修正する必要があるかもしれない。
されど女性陣達は「怒ったマリウス様も素敵だな」という想いが沸き起こり、緊迫感は深刻にならなかった。
人類の問題はベルガンダ滅亡による経済的損失だけではない。
魔軍襲撃への対抗に非協力的だったヴェスター、ミスラ、バルシャークをどうするかというのもある。
だがさしあたっては、功労者にどう報いるかという点が厄介だった。
第二功はパルを倒したゾフィの名が挙げられる。
彼女は淫魔であり、パルを一対一で倒せる事から正体は明白だったのだが、咎めを受けることはなかった。
何と言っても魔人を倒した英雄だったし、
「彼女は我々の為に戦ってくれた。正体がどうなど忘恩の言であろう」
とセラエノ王デレクが主張し、多くの支持を集めたのだ。
おまけに彼女は自らがマリウスの召喚獣だと宣言し、全ての手柄はマリウスに帰属すべきだと主張すれば、少数派は口をつぐむしかなかったのである。
マリウスがまだ力を隠していた事が判明したのだが、今更だしと反応は大きくなかった。
「力に溺れず、濫用を慎むなんてご立派です」
とバーラが熱心な擁護をしたおかげとは言い切れない。
皆、程度の差はあれ「気にしたら負けだ」と諦観に近い表情だったからである。
そんなマリウスこそが第一功なのは誰もが認めるところだ。
上級魔人二人とレーベラ、ガスタークを連破し、魔軍数百万を蹴散らした。
おまけにゾフィの主人でもあった。
巨大すぎる武勲と言えるが、だからこそ頭痛の種となっている。
前例がない程の大手柄はどう賞すればよいのか前例がないのだから。
王達の間で俗称「マリウスに与える恩賞を考える会」がまた開かれている。
「いっそ旧ベルガンダを丸ごと与えるというのは? 彼が我々の手に負える御仁ではないのは最早確定だろう」
そう提案したのはセラエノ王デレクであった。
それに反対したのはベルンハルト三世だが、別にマリウスへの悪意からではない。
「しかしマリウス殿は領地経営の類が苦手だ。領土を与えるには誰か補佐役をつけねばならん。一国分の領地を経営するには相当な数が必要だが……いるのか?」
正論なように王達は思えた。
領地を堅実に運営出来る人間というのは希少価値が高く、どの国でも相応の地位と俸給が与えられている。
国の経営に差し支えのない範囲でそれだけの人数を用意するのは簡単ではない。
「無理だな。各国から出しあっても足りるはずがない」
ランレオ王フィリップの言葉に反論はなかった。
一地域ならばまだしも、一国全体となると現実的ではない。
数を揃えるだけならば出来ようが、大切なのは指示を出せる人間なのである。
大抵の場合は必要最低限だけ与えて「後は自分の才覚でやれ」と、恩賞を与えると同時により大きな者に育てるというやり方を採る。御秀堂養顔痩身カプセル第2代
もちろん何かあれば手助けもするのだが、今回はそれが適用出来ると思えない。
マリウスの手柄が大きすぎるし、強すぎるというのもあるが、一番の問題はベルガンダが空白地帯になってしまっている事だ。
領地とするには住民を入植させねばならないし、道路や拠点も一から築いていかねばならない。
国家単位でも一大事業となる事を素人に丸投げするなど、無責任の謗りは免れないだろう。
「結果論だが、娘らとの婚姻は今の段階で言い出すべきだったな」
ガリウス王ヴェヌート二世がぽつりと言うと、他の王は皆苦笑に近い表情を浮かべる。
確かに「お姫様との結婚」は、およそ下の者にとって究極の褒賞の一つだ。
庶民達の間で人気ある物語のほとんどが、最後に騎士や英雄や勇者がお姫様と結婚してめでたしめでたしとなっている。
若い男ならば一度は夢を見る展開だと言っても過言ではない。
その言わば「伝家の宝刀」は既に使用されていて、今から持ち出しても価値があるとは思えなかった。
「そもそもマリウス殿は一夫多妻に否定的と聞いたが」
セラエノ王デレクの言葉に皆の視線はフィラート王へと集まる。
「ふむ。最近、心境の変化があったのかどうもそうではなくなったようだぞ」
フィラート王は事もなげに答えた。
暗に「情報収集しているぞ」「その情報はもう古い」と言った闘いが行われたのだが、誰も知らん顔を決め込んでいる。
この程度の闘いは日常茶飯事なのが王という職務なのだ。
「どちらにせよこちらから言い出すわけにはいくまい。マリウス殿が言い出すのならばありだが」
ガリウス王が重くなりかけた空気を引き戻す。
「そうだな。いっそ、マリウス殿に尋ねてみるか? それが一番無難かもしれんぞ」
ランレオ王の言葉に一同は考え込んだ。
適切な恩賞を本人に考えてもらおうというのだが、意外と悪くない考えかもしれない。
はっきり言って現在の情勢では、マリウス本人はともかくマリウスを英雄視する人々が納得するだけの恩賞を用意する事は不可能だ。
戦いに勝ったと言っても財貨や土地を得たわけではなく、失った物は遥かに大きいのだから。
マリウスの要求を叶えてやり、現状で充分に報いられない事を詫び、マリウスがそれを受け入れる。
人々はマリウスの無欲さを称え、美談として語り継ぐ。
実のところ過去に何度かあった例である。
マリウスが欲深な人間ではない事は既に判明しているし、期待は持てそうであった。
念の為、バーラ、ロヴィーサ、キャサリンにそれとなく現状を言い含めておいて貰えばよい。
「何とかなりそうだな」
ランレオ王ヘンリー四世の言葉にフィラート王、ガリウス王が頷いた。
セラエノ王だけは懐疑的だったが、代案が浮かばなかったので沈黙を守る。
果たしてどういった結果を生むのか、まだ誰にも分からない。御秀堂養顔痩身カプセル第3代
魔人が五人も死に、特に上級魔人のアルベルトとフランクリンを失ったのは大打撃であろう。
そういう意味ではマリウス一人に敗れたと言えるかもしれない。新一粒神
五人全員が戦争開始二十分以内で死ぬなど、人類でも予想出来なかったのだ。
マリウスの力を知っていた者は例外とされるが、あまりにも強すぎた事は誰も否定出来なかった。
一体誰が、各地に散るアンデッドが全てまとめて葬り去られると思うのか。
「こんなものかな」
味方にもある意味大きな打撃を与えた張本人は、各国有志と共にベルガンダで瓦礫撤去と浄化作業を行っていた。
戦争が終わった翌日の事である。
大量の死人とそれらのアンデッド化は疫病の発生源となると聞いたからだ。
功労者にそんな事をさせられないと慌てる周囲の反応を意図的に無視し、黙ってついてきた三人の召喚獣や目を輝かせながらついてきたバーラと一緒に。
たっぷりご褒美をもらえたゾフィはまた手柄を立てるつもりで、他の二人は挽回するつもりで。
一方のバーラは指示も出せるし、浄化魔法も使いこなせる主要戦力である。
「マリウス殿」
そんなマリウス一行に声をかけてきたのは、セラエノ王デレクであった。
「これは……」
マリウスはとっさに反応に困る。
背後に何人もの護衛が控えているところを見るとどこかの王族か貴族なのだろうが、思い出せない。
<セラエノ王です>
エルが「テレパス」を使って教えてくれたので、ごまかす事にした。
何故知っているのか、追及している場合でもない。
「セラエノ王、とんだご無礼を」
「いや、よい」
何となく自分の顔を覚えていなかった事を察したが、デレクは鷹揚に笑って許す。
元より礼節にさほど煩い方ではないし、礼節を尽くすべきなのは己の方であると思っているのだ。
「ガスタークは我が兄であった」
その表情と声色から心中を察する為には、マリウスは経験不足だと言わざるを得ない。
「かつては彼にとって弱者は庇護対象であったはずだが、いつの間にやら邪魔なだけの存在になっていたのだ……」
あまりの酷さに先代王であるデレクの父に誅殺された、そのはずであったが生きながらえ魔人と化していたのである。
マリウスはそのあたりの事情を初めて知ったのだった。
「民に代わって礼を言わせてもらいたい」
深々と頭を下げられたマリウスは驚き、傍にいたバーラを横目で見る。
バーラも驚いていたので、これは普通ではありえないのだと知った。
知ったのはいいが、果たしてどう返せば無難なのか。
「いえ、こちらこそ。因縁の相手を横取りしてしまったようで」
マリウスなりに慎重に言葉を選ぶ。
セラエノ人達は自分達で討ちたかったのではないかと気を回したのだが、頭を上げたデレクはそれを否定した。韓国痩身1号
「誅殺された王族が生きていたのも恥ならば、民草に更に害を与えたのも大恥だ。我らが敵うか分からぬ存在になっていた以上、こだわるのは愚かな事だ」
表情も声も平坦で、わだかまりはないように思える。
もし抑制された結果だとすれば、計り知れない自制力の賜物だろう。
しかしデレクはそこで表情を困惑と羞恥が入り混じったものへと変える。
「それより知っていれば教えて欲しい。メルゲンという名に心当たりはないだろうか?」
マリウスと言うよりその背後にいるゾフィに向けられていた。
ゾフィは主人の方を見て、教えてやるべきだと目で言われたので答える。
「知っている。ガスタークとよくつるんでいた魔人だ」
デレクは黙って目を閉じ、護衛達からは小さなざわめきが起こる。
意外さよりもやはりという思いの方が強い。
マリウスにしてもわざわざ尋ねるくらいだから、と思う。
「メルゲンはガスタークの義兄弟であり、悪に引き込んだ元凶。少なくともそう思われるくらい悪辣な奴だ」
デレクは一旦そこで言葉を切り、フードを被ったマリウスを見る。
「倒せるならば我らの手でと思うものの、貴殿に頼む方が確実であろうな。厚かましさは重々承知だが、お願い出来ないだろうか?」
マリウスは黙って頷く。
民の為に氏素性も知らぬ者に頭を下げる王というのは、個人的に好感が持てる相手だ。
それでいてマリウスに対して媚びへつらう素振りもなく、王としての威厳を損なっていないのも感心する。
「メルゲンが得意とするのはガスタークと同じくネクロマンシーだが、造詣の深さではより上であろう。貴殿ならば大丈夫であろうが、油断は禁物だ」
そう忠告するとデレクは臣下達の方へ戻っていった。
護衛達もマリウスに目礼して続く。
「何と言うか、いい意味で王様って感じだな」
マリウスの貧弱な表現力でもバーラは、言いたい事を察知して首肯してから口を開く。
「セラエノが精強さを取り戻したのは、あの方が即位してからです。恐らく大陸で一番立派な王ですよ」
バーラの褒め言葉にさもありなんとマリウスは思う。
たった数回言葉を交わしただけだと言うのに、深い印象が植えつけられた相手だった。
余談だがゾフィやエルはバーラに対して「こいつ、魔法絡み以外でもきちんと判断出来るのか」とやや意外な感想を抱いた。
(それにしても人間から魔人にねぇ)
これもゲームと現実の差異だろうとマリウスは思う。
ゲームでは一度種族を設定すると変更は出来なかった。
もっとも「リッチ」のように人間を止める職で、こちらでは魔人になるという可能性はあるが。
魔人と言えば上級魔人達も弱かった。
ゲームの頃では「アニヒレーション」単発で沈んだりしない。
(もしかすると敵の強さって一人プレイ用なんじゃないのか……?)
MMORPGのステータスのまま一人用RPGの強さの敵と戦っているからこそ、敵が弱く感じるのではないのか。
集団で倒すべき敵と一人でも倒せる敵の強さが違うのは別におかしくはない。
そもそも常識が通用しない世界なのは今更であるし、何となく説明が出来た気がするマリウスだった。
だとしたら今まで気づかないなど迂闊だったと言うしかないのだが……。
「そろそろ再開しませんか」
バーラの声に応じ、マリウス達は作業へと戻る。
ベルガンダの民はゾンビとなって魔軍の捨て駒にされ、マリウスの魔法で浄化された。
浄化すると遺体は残らないのだが、せめて魂だけでも救われたと思いたいところである。
侵攻に利用されなかった人々の遺体が残っているだけまだマシと言えよう。
遺体の数だけ墓は作られ、遺体が残らなかった人々の為には慰霊碑が建てられる事となっている。
これは国家戦略の一部でもあった。
ベルガンダが滅亡した事によって、ベルガンダが主な取引相手だった人々は失業の危機を迎える。韓国痩身一号
一時的にせよ仕事と収入を与え、その間に善後策を練らねばならない。
失業者の増加は国の治安や経済に影響を及ぼすのだ。
「魔人ってつくづく祟るよなぁ」
マリウスの声には剣呑な響きがあり、それを感じ取った女性達は思わず顔を見合わせる。
彼は本来温厚な性格で受け身な人間のはずだ。
だからこそ周囲へのしわ寄せが少なく、その点については多くの人間が評価していたのだが、もしかすると部分的にせよ修正する必要があるかもしれない。
されど女性陣達は「怒ったマリウス様も素敵だな」という想いが沸き起こり、緊迫感は深刻にならなかった。
人類の問題はベルガンダ滅亡による経済的損失だけではない。
魔軍襲撃への対抗に非協力的だったヴェスター、ミスラ、バルシャークをどうするかというのもある。
だがさしあたっては、功労者にどう報いるかという点が厄介だった。
第二功はパルを倒したゾフィの名が挙げられる。
彼女は淫魔であり、パルを一対一で倒せる事から正体は明白だったのだが、咎めを受けることはなかった。
何と言っても魔人を倒した英雄だったし、
「彼女は我々の為に戦ってくれた。正体がどうなど忘恩の言であろう」
とセラエノ王デレクが主張し、多くの支持を集めたのだ。
おまけに彼女は自らがマリウスの召喚獣だと宣言し、全ての手柄はマリウスに帰属すべきだと主張すれば、少数派は口をつぐむしかなかったのである。
マリウスがまだ力を隠していた事が判明したのだが、今更だしと反応は大きくなかった。
「力に溺れず、濫用を慎むなんてご立派です」
とバーラが熱心な擁護をしたおかげとは言い切れない。
皆、程度の差はあれ「気にしたら負けだ」と諦観に近い表情だったからである。
そんなマリウスこそが第一功なのは誰もが認めるところだ。
上級魔人二人とレーベラ、ガスタークを連破し、魔軍数百万を蹴散らした。
おまけにゾフィの主人でもあった。
巨大すぎる武勲と言えるが、だからこそ頭痛の種となっている。
前例がない程の大手柄はどう賞すればよいのか前例がないのだから。
王達の間で俗称「マリウスに与える恩賞を考える会」がまた開かれている。
「いっそ旧ベルガンダを丸ごと与えるというのは? 彼が我々の手に負える御仁ではないのは最早確定だろう」
そう提案したのはセラエノ王デレクであった。
それに反対したのはベルンハルト三世だが、別にマリウスへの悪意からではない。
「しかしマリウス殿は領地経営の類が苦手だ。領土を与えるには誰か補佐役をつけねばならん。一国分の領地を経営するには相当な数が必要だが……いるのか?」
正論なように王達は思えた。
領地を堅実に運営出来る人間というのは希少価値が高く、どの国でも相応の地位と俸給が与えられている。
国の経営に差し支えのない範囲でそれだけの人数を用意するのは簡単ではない。
「無理だな。各国から出しあっても足りるはずがない」
ランレオ王フィリップの言葉に反論はなかった。
一地域ならばまだしも、一国全体となると現実的ではない。
数を揃えるだけならば出来ようが、大切なのは指示を出せる人間なのである。
大抵の場合は必要最低限だけ与えて「後は自分の才覚でやれ」と、恩賞を与えると同時により大きな者に育てるというやり方を採る。御秀堂養顔痩身カプセル第2代
もちろん何かあれば手助けもするのだが、今回はそれが適用出来ると思えない。
マリウスの手柄が大きすぎるし、強すぎるというのもあるが、一番の問題はベルガンダが空白地帯になってしまっている事だ。
領地とするには住民を入植させねばならないし、道路や拠点も一から築いていかねばならない。
国家単位でも一大事業となる事を素人に丸投げするなど、無責任の謗りは免れないだろう。
「結果論だが、娘らとの婚姻は今の段階で言い出すべきだったな」
ガリウス王ヴェヌート二世がぽつりと言うと、他の王は皆苦笑に近い表情を浮かべる。
確かに「お姫様との結婚」は、およそ下の者にとって究極の褒賞の一つだ。
庶民達の間で人気ある物語のほとんどが、最後に騎士や英雄や勇者がお姫様と結婚してめでたしめでたしとなっている。
若い男ならば一度は夢を見る展開だと言っても過言ではない。
その言わば「伝家の宝刀」は既に使用されていて、今から持ち出しても価値があるとは思えなかった。
「そもそもマリウス殿は一夫多妻に否定的と聞いたが」
セラエノ王デレクの言葉に皆の視線はフィラート王へと集まる。
「ふむ。最近、心境の変化があったのかどうもそうではなくなったようだぞ」
フィラート王は事もなげに答えた。
暗に「情報収集しているぞ」「その情報はもう古い」と言った闘いが行われたのだが、誰も知らん顔を決め込んでいる。
この程度の闘いは日常茶飯事なのが王という職務なのだ。
「どちらにせよこちらから言い出すわけにはいくまい。マリウス殿が言い出すのならばありだが」
ガリウス王が重くなりかけた空気を引き戻す。
「そうだな。いっそ、マリウス殿に尋ねてみるか? それが一番無難かもしれんぞ」
ランレオ王の言葉に一同は考え込んだ。
適切な恩賞を本人に考えてもらおうというのだが、意外と悪くない考えかもしれない。
はっきり言って現在の情勢では、マリウス本人はともかくマリウスを英雄視する人々が納得するだけの恩賞を用意する事は不可能だ。
戦いに勝ったと言っても財貨や土地を得たわけではなく、失った物は遥かに大きいのだから。
マリウスの要求を叶えてやり、現状で充分に報いられない事を詫び、マリウスがそれを受け入れる。
人々はマリウスの無欲さを称え、美談として語り継ぐ。
実のところ過去に何度かあった例である。
マリウスが欲深な人間ではない事は既に判明しているし、期待は持てそうであった。
念の為、バーラ、ロヴィーサ、キャサリンにそれとなく現状を言い含めておいて貰えばよい。
「何とかなりそうだな」
ランレオ王ヘンリー四世の言葉にフィラート王、ガリウス王が頷いた。
セラエノ王だけは懐疑的だったが、代案が浮かばなかったので沈黙を守る。
果たしてどういった結果を生むのか、まだ誰にも分からない。御秀堂養顔痩身カプセル第3代
2013年7月1日星期一
黄信号
二階層の本格的な探索を開始した。
ときおりはデュランダルでMPを回復しつつ、基本的には魔法で魔物を倒していく。
今度は都合よく、デュランダルを出していないときにニードルウッドとグリーンキャタピラーの二匹連れが現れた。WENICKMANペニス増大
見つけると同時にファイヤーストームをお見舞いする。
ファイヤーストームは魔物に確実に当たるので、引きつける必要がない。
火が消えると同時に二発めを念じた。
続いて三発め。
グリーンキャタピラーは三発めで斃れる。
ニードルウッドだけが残った。
振られた枝を受け、四発めはファイヤーボールを放って沈める。
ファイヤーストームとファイヤーボールは、魔物一匹に対する火力としてはやはり大差がないらしい。
グリーンキャタピラーは三発で倒せるようになったが、ニードルウッドには四回撃つ必要がある。
魔物の数が多いとファイヤーストームの消費MPが格段に増えるということもなさそうだ。
大量の魔物が湧いて全体攻撃魔法四発で全滅させられるなら効率がいい。
一階層のように魔物が大量に湧く小部屋はないものか。
と期待しているときに限って、そんな小部屋が出ないのはお約束なのか。
魔物が大量に湧くトラップは稀のようだ。
突き当りをチェックして小部屋を確認しつつ、ちまちまとデュランダルを出したりしまったりしながら、魔物を狩っていった。
一度迷宮を出た後、昼すぎからも二階層に入る。
グリーンキャタピラーはウォーターボールでもブリーズボールでもサンドボールでも三発だった。
特に弱点となる属性はないみたいだ。
ニードルウッドもブリーズボールとサンドボールは四回で倒れている。
火魔法が弱点ということもないらしい。
ウォーターボールは、前に当てたときにダメージを与えていた形跡がなかったので、試していない。
試してはみたいのだが、なかなかそのチャンスがない。
魔法を四回も放とうとすれば、どうしても敵の攻撃を受けてしまう。
四発撃ったときに倒せなかったとあわてふためくことを考えれば、テストはデュランダルを装備しているときに行うのが望ましいだろう。
しかし、デュランダルを出しているのはMPに余裕がないときだから、四発も五発もウォーターボールを撃ちたくはない。
デュランダルを装備しているときにニードルウッドを含む二匹連れで現れてくれたら、一匹をデュランダルで狩ってMPを回復しつつ、一匹に魔法を放つことができるのだが。
そうそう都合よく出てきてくれるものでもなかった。
ニードルウッド Lv2
ニードルウッド Lv2
ようやく出てきてくれたのは、そろそろ今日の探索を切り上げようかというころだ。
左側の魔物にウォーターボールを撃ち込む。Xing霸 性霸2000
左のニードルウッドが半歩遅れたところに、二発めを当てた。
薄暗い迷宮内だ。周囲を赤く照らす火魔法と違って、ウォーターボールでは次にいつ放っていいかの判断が難しい。
ちなみに、魔物からも見えにくいなら遠くから撃っても避けられないのではないか、という希望的観測はきっちりと裏切られた。
グリーンキャタピラーがブリーズウォールを避けたように、何故か分かるようだ。
デュランダルをかまえて足を踏み出す。右側のニードルウッドを伐り倒した。
左側の魔物が振った枝をぎりぎりで避ける。
三発めのウォーターボールを念じた。
魔物は倒れない。
レベルアップのおかげで、今ではニードルウッドもファイヤーボール三発で倒せるようになっている。
ワンドが効いていた可能性もあるので、四発めも浴びせてみる。
元気に枝が振られた。受け損なって喰らってしまう。
やはり水魔法に耐性があるようだ。
一閃、デュランダルをなぎ払った。
魔物が上下に切り裂かれる。
リーフ
ニードルウッドが煙となって消え、幸運にもリーフが残った。
グリーンキャタピラーは今のところ糸しか落とさない。
魔物によってはレアドロップのないものもいるようだ。あるいは、確率が違うのか。
リーフも出たことだし、今日の探索を打ち切ることにした。
ワープと念じ、冒険者ギルドの壁を思い出す。
他にも移動できる場所はあるのだろうが、移動していいものかどうかがよく分からない。
あまり変な場所には行かない方がいいだろう。
宿屋であるベイル亭ロビーの内壁に移動してくる人もいたから、あそこも使えるが、使用しない方がよい。
建物へ移動する魔法は冒険者のフィールドウォークだろう。
冒険者でないのにフィールドウォークが使えては変に思われてしまう。
冒険者になったのだと強弁することも可能だが、インテリジェンスカードをチェックされれば俺が冒険者でないことは一発でばれる。
冒険者ギルドの建物内部に出た。
喧騒というほどではない程度に人のいる落ち着いた雰囲気が心地よい。
孤独な戦場から一瞬で移動してきただけに、なおさらありがたみを感じる。
「帝都へ片道の人、いませんか」
冒険者ギルドの中に出ると、同じように壁から出てきた人が客の募集をしていた。
帝都か。
行ってみるか。
募集している人も美人だし。
「いくらかかる」
三十パーセント値引をつけ、訊いてみる。
四十代のおばちゃん冒険者だ。
ただし、エルフ、♀。
見た目二十歳そこそこである。
年齢は見なかったことにしよう。
「通常は銀貨二枚、片道なので銀貨一枚の固定料金です」
「うむ」
三十パーセント値引は多分効いてないみたいだ。
リュックサックを下ろして巾着袋を取り出し、銀貨を一枚渡した。
「そのリュックサックくらいなら大丈夫でしょう。友に応えし信頼の、心のきよむ誠実の、パーティー編成」
エルフの冒険者がパーティー編成呪文を唱えた。
俺の脳裏に、パーティーへの編入を受諾するかどうか、確認メッセージが浮かぶ。
イエスと念じると、すぐに消えた。
なるほど。パーティー編成はこんな風になっているのか。
迷宮の入り口でも同じようにパーティーを編成していた。
移動魔法を使って移動できるのは同じパーティーのメンバーだけなのだろう。
リュックサックなら大丈夫だと言ったから、何でも運べるというわけではないようだ。
リュックサックは手荷物扱いというところか。
アイテムボックスの中身は大丈夫だろうか。
などと心配している余裕もなく、エルフの冒険者がフィールドウォークを唱える。
目の前の冒険者ギルドの壁が黒く変色した。
迷っている時間はない。
考えてみれば、ダンジョンウォークでもワープでもアイテムボックスの中身は大丈夫だった。フィールドウォークでも問題ないだろう。
俺も遅れないようについていく。
壁の向こうには、大きな部屋が広がっていた。
基本的な構造は同じだから、帝都の冒険者ギルドなのだろう。ベイルの町の冒険者ギルドの三倍くらいの大きさだ。
カウンターも十列分くらい並んでいる。絶對高潮
パーティー編成呪文の詠唱が聞こえるとともに、パーティー解放と脳裏に浮かんだ。
一緒に来たもう一人の冒険者が会釈して去っていく。
彼は、自分がパーティー編成呪文を唱えると、続いてフィールドウォークを唱えて黒い壁を出し、帝都の冒険者ギルドにいた五人を連れて入っていった。
あの冒険者はベイルの町に行ったことがなかったのだろう。
そこで、ベイルの町に行ったことのあるエルフの冒険者に一度ベイルの町まで連れて行ってもらい、帰ってきてから、自分のパーティーを連れてベイルの町に行ったのだ。
「そういえばこの前、魔法使いがフィールドウォークをやっていたが、魔法使いでもフィールドウォークを使えるのか?」
せっかくの機会なのでエルフの女性に訊いてみる。
「さあ。聞いたことはありませんが。見間違いじゃないですか」
「そうか。そうだろうな」
「では、私はこれで」
エルフの女性も立ち去った。
やはり魔法使いがワープやダンジョンウォークを使うのはまずそうだ。
もっとも、本当に関心はないという感じだった。他人のジョブやスキルにいちいち興味は持たないのかもしれない。
俺がイケメンだったら喰いついてきたのだろうか。
くっそー。そういうことかぁ。
俺は一度冒険者ギルドの外へ出る。
帝都には建物がひしめいていた。
レンガの色そのままの茶色っぽい建物だ。
近代的なビルではないだけに、かえって圧迫感がある。
古代ローマとか全盛期のバグダッドとかに迷い込んだ感じだ。
もちろん行ったことはないが。多分、こんな感じだったのではないだろうか。
目の前の道は、広く、まっすぐに延びている。
中世の都市は敵を通さないように道が入り組んで作られている、という話が歴史の副読本に書いてあった。
道がまっすぐな帝都は、それだけ平和なのだろう。
日はまだ高い。
ベイルの町とは時差があるのかもしれない。
別に観光に来たわけでもないので、すぐに冒険者ギルドに戻る。
左側に張り紙を出しているボードがあった。
近づいてみるが、やはり読めない。
キョロキョロと辺りを見回すと、綺麗なお姉さんがにこやかにやってきた。
「お読みいたしましょうか」
さすがは帝都のギルドだ。
代読屋のレベルが違う。優雅で上品だ。
年齢は二十一歳の村人。ロクサーヌのような目の覚めるほどの美人というわけでもないし、服も紺色のだぼだぼの衣装だが、華やいだ雰囲気がある。
「うむ」
「六分で十ナールになります」
値段はベイルの町の探索者ギルドと一緒らしい。
リュックサックを下ろし、銅貨十枚を出してお姉さんに手渡した。
渡すときに指先が触れて、ちょっとドキドキしてしまったのは仕方がない。男の子だもの。
「頼む」
「では、この時計が落ちるまでになります」
砂時計のシステムまで一緒のようだ。
お姉さんの腰元を合法的にガン見できるチャンス。
とはいえ、いつまでも見ているわけにはいかない。
くそっ。だから時間課金なのか。
「ブランチの買取をしてくれるところがあるか」
「えっと。冒険者になられたばかりですか?」
初心者がするような質問だったのだろうか。
冒険者ですらないが。
「どうしてだ?」
「買取の募集が出るようなアイテムは決まっています。より強い魔物が落とす手に入れにくいアイテムなどです。ブランチはギルドで買えば在庫がいっぱいあります。わざわざ買取の依頼を出す人はいないでしょう」
質問返しをしてみると、親切に教えてくれた。
なるほど。
ブランチの買取依頼なんかあるはずがない。それを探すのはものを知らないよほどの初心者ということか。
「では、糸なんかもないな」
「ありませんね」
「毒消し丸を買い取ってくれるところもないか?」
旅の恥はかき捨てだ。
どうせ初心者だとばれたのだから、この際、全部聞いてしまおう。
「ギルドで買えますから」
「ワンドなんかはギルドでも買取してくれるのか?」
「魔物の残したアイテムでも、装備品や腐る食材はギルドでは買い取りません。装備品は武器商人などに、食材は、料理屋などの売り先を探すか、自分で消費するか、市の立っている日に売ることになります。アイテムボックスに入れておけば腐りませんから」
食材はアイテムボックスに入れておけば腐らないと。
いいことを聞いた。
「魔物の討伐の依頼なんかが出ることは?」
「魔物の討伐は領主の騎士団や戦士団が行う業務です。騎士団のメンバーとして冒険者を雇う募集ならありますが。お読みしましょうか」
まあ魔物の討伐などで稼げるようなら、奴隷商人がそう教えてくれただろう。
どこの馬の骨とも分からないようなやつにおいしい稼ぎを回したりはしないということか。
「いや。何か単発の仕事を依頼しているようなものは?」
「フィールドウォークで案内を行う仕事があります」
フィールドウォークで稼ごうにも、俺はベイルの町とこの帝都しか知らない。
そもそもフィールドウォークじゃなくてワープだしな。どこまでごまかせるのかという問題もある。
仕方がないので、残りの時間は買取依頼が出ているアイテムを教えてもらった。
クリアべっ甲、逆鱗、遮蔽セメント、銀の糸。
フカヒレとかサーロインとかは食材だろう。そんなアイテムもあるのか。
「時間になりました。続けますか」
「いや。もういい。ありがとう」
延長よりもアフターがしたい。
「アイテムの買取なら、ここよりもクーラタルの探索者ギルドに多くの依頼が出ていると思いますよ」
「クーラタルの探索者ギルドか。分かった」
分かっていないが。美人豹
名前を聞いたのも初めてだ。
わざわざ教えてくれた親切なお姉さんと別れる。
その後、カウンターで買取をしてもらった。
「一番安い疲労回復薬は何になる」
せっかくなのでカウンターのお姉さんに訊いてみる。
「強壮丸ですね。六十ナールになります」
「一番安い傷薬は」
「滋養丸。こちらも六十ナールです」
結構高い。
デュランダルの代わりにほいほい使ったら赤字になる。
結局買わずにベイルの町の冒険者ギルドに帰った。
周りに人がいないのを見計らって、「ムニャムニャ、フィールドウォーク」とつぶやく。
フィールドウォークの呪文は、聞いたけど、覚えられなかった。
そして、頭の中ではワープと念じる。ベイルの町の冒険者ギルドの壁を思い起こした。
目の前に出てきた黒い壁に入る。
これで他人の目にはフィールドウォークで移動したように見えるだろう。
一瞬の闇を抜け、ベイルの町の冒険者ギルドに出た。
ベイルの町は夕方だ。
帝都はベイルの町より西の方にあるらしい。
ちなみに、糸の買取価格は十ナールだった。
グリーンキャタピラーは、糸を吐いてきて厄介なのに、ニードルウッドよりお金にならない。レアドロップもないし。
確かに、魔物の組み合わせとしてはよくないのだろう。
今日の総売上は、千百四十四ナールである。
計算間違いではない、はずだ。昨日の四分の一しかいっていない。
ただし、生薬生成を行っていないので、リーフ四枚がアイテムボックスに入ったままである。
リーフ四枚で毒消し丸が四十個できる。毒消し丸四十個で千ナールになるから、昨日の半分か。
今日は魔法の使い勝手をテストしていたことが中心だったせいもある。
デュランダルをしまったことで探索に時間がかかるようになったことも影響しているだろう。
ベイル亭に帰った。
「三日分、頼む」
巾着袋を取り出しながら旅亭の男に告げる。
初日に払った宿代は、今朝までの分だ。
「はいよ」
「どこかに両替商のようなところはないか。銅貨ばかり溜まってな」
「そういうところはないな。別に銀貨じゃなくて銅貨百枚で払ってくれてもいいし」
両替商はないらしい。
両替商があって、金貨を三割引の七千ナールで売ってくれ、三割増しの一枚一万三千ナールで買ってくれたら、濡れ手に粟でもうけることができたのに。
考えてみれば、金貨一枚を銀貨百枚と交換したのでは商売にならないか。
両替商があったとしても手数料を取られるから、この手で稼ぐのは無理だろう。
銀貨五枚と銅貨百九十二枚を置く。
これで銅貨の数をかなり減らせた。
「それと、夕食の後でお湯を頼む」
「ええっと。宿代と夕食つき三日分にお湯だから、六百八十六ナールでいい。特別サービスだ」
何故か銅貨六枚が返ってくる。
お湯が二十ナールだから、三割引が効いたということか。
よく分からん。
「インテリジェンスカードのチェックはいいのか」
「チェックは十日おきだ。二日前に確認したから、まだ先だな」
「夕食は、もう頼めるよな」
「ああ。行ってきな」
俺にとって、夕食の時間は数字を勉強する時間だ。
昨日は一を確認した。
今日は何を選ぶか。
「いらっしゃいませ。今日はサーロインが入ったから、一がお勧めですよ」
食堂に入ると、旅亭の女性に四つあるメニューのうちの一つをお勧めされてしまった。
帝都のギルドでも聞いたサーロインという食材があるようだ。
一の食事には小ぶりだがステーキが入っている。あれがサーロインだろう。
「……で、では一で」
「ありがとうございます」
見たら食べたくなってしまった。
負けた。
四をお勧めにしてくれないものか、と思ったが、お勧めにしたい順に一から並んでいるのだとしたら、順当か。
明日はリベンジしてやる。
「三で頼む」
次の日の夕食は、お勧めも言ってこなかったので、三にした。
「かしこまりました。お飲み物はハーブティーでよろしいでしょうか」
よし。正解だ。
これで部屋の鍵にも使われている三と一の数字は判明した。
夕食のメニューは四つあるので、あと二つは二と四だろう。
どうやって確認するか。
夕食を取りながら作戦を練る。
などとぼんやり考えているのは、現実逃避だ。
分かっている。
実のところ、もっと大きな問題がある。
本当はそっちを考えなければいけない。
今日の総売上は三千三百二ナールだった。昨日の分のリーフを含んでの価格だ。
リーフの分を考えれば昨日と同じ程度。二階層をうろうろしていただけだから昨日とそんなに変わらないのはしょうがない。SUPER FAT BURNING
ときおりはデュランダルでMPを回復しつつ、基本的には魔法で魔物を倒していく。
今度は都合よく、デュランダルを出していないときにニードルウッドとグリーンキャタピラーの二匹連れが現れた。WENICKMANペニス増大
見つけると同時にファイヤーストームをお見舞いする。
ファイヤーストームは魔物に確実に当たるので、引きつける必要がない。
火が消えると同時に二発めを念じた。
続いて三発め。
グリーンキャタピラーは三発めで斃れる。
ニードルウッドだけが残った。
振られた枝を受け、四発めはファイヤーボールを放って沈める。
ファイヤーストームとファイヤーボールは、魔物一匹に対する火力としてはやはり大差がないらしい。
グリーンキャタピラーは三発で倒せるようになったが、ニードルウッドには四回撃つ必要がある。
魔物の数が多いとファイヤーストームの消費MPが格段に増えるということもなさそうだ。
大量の魔物が湧いて全体攻撃魔法四発で全滅させられるなら効率がいい。
一階層のように魔物が大量に湧く小部屋はないものか。
と期待しているときに限って、そんな小部屋が出ないのはお約束なのか。
魔物が大量に湧くトラップは稀のようだ。
突き当りをチェックして小部屋を確認しつつ、ちまちまとデュランダルを出したりしまったりしながら、魔物を狩っていった。
一度迷宮を出た後、昼すぎからも二階層に入る。
グリーンキャタピラーはウォーターボールでもブリーズボールでもサンドボールでも三発だった。
特に弱点となる属性はないみたいだ。
ニードルウッドもブリーズボールとサンドボールは四回で倒れている。
火魔法が弱点ということもないらしい。
ウォーターボールは、前に当てたときにダメージを与えていた形跡がなかったので、試していない。
試してはみたいのだが、なかなかそのチャンスがない。
魔法を四回も放とうとすれば、どうしても敵の攻撃を受けてしまう。
四発撃ったときに倒せなかったとあわてふためくことを考えれば、テストはデュランダルを装備しているときに行うのが望ましいだろう。
しかし、デュランダルを出しているのはMPに余裕がないときだから、四発も五発もウォーターボールを撃ちたくはない。
デュランダルを装備しているときにニードルウッドを含む二匹連れで現れてくれたら、一匹をデュランダルで狩ってMPを回復しつつ、一匹に魔法を放つことができるのだが。
そうそう都合よく出てきてくれるものでもなかった。
ニードルウッド Lv2
ニードルウッド Lv2
ようやく出てきてくれたのは、そろそろ今日の探索を切り上げようかというころだ。
左側の魔物にウォーターボールを撃ち込む。Xing霸 性霸2000
左のニードルウッドが半歩遅れたところに、二発めを当てた。
薄暗い迷宮内だ。周囲を赤く照らす火魔法と違って、ウォーターボールでは次にいつ放っていいかの判断が難しい。
ちなみに、魔物からも見えにくいなら遠くから撃っても避けられないのではないか、という希望的観測はきっちりと裏切られた。
グリーンキャタピラーがブリーズウォールを避けたように、何故か分かるようだ。
デュランダルをかまえて足を踏み出す。右側のニードルウッドを伐り倒した。
左側の魔物が振った枝をぎりぎりで避ける。
三発めのウォーターボールを念じた。
魔物は倒れない。
レベルアップのおかげで、今ではニードルウッドもファイヤーボール三発で倒せるようになっている。
ワンドが効いていた可能性もあるので、四発めも浴びせてみる。
元気に枝が振られた。受け損なって喰らってしまう。
やはり水魔法に耐性があるようだ。
一閃、デュランダルをなぎ払った。
魔物が上下に切り裂かれる。
リーフ
ニードルウッドが煙となって消え、幸運にもリーフが残った。
グリーンキャタピラーは今のところ糸しか落とさない。
魔物によってはレアドロップのないものもいるようだ。あるいは、確率が違うのか。
リーフも出たことだし、今日の探索を打ち切ることにした。
ワープと念じ、冒険者ギルドの壁を思い出す。
他にも移動できる場所はあるのだろうが、移動していいものかどうかがよく分からない。
あまり変な場所には行かない方がいいだろう。
宿屋であるベイル亭ロビーの内壁に移動してくる人もいたから、あそこも使えるが、使用しない方がよい。
建物へ移動する魔法は冒険者のフィールドウォークだろう。
冒険者でないのにフィールドウォークが使えては変に思われてしまう。
冒険者になったのだと強弁することも可能だが、インテリジェンスカードをチェックされれば俺が冒険者でないことは一発でばれる。
冒険者ギルドの建物内部に出た。
喧騒というほどではない程度に人のいる落ち着いた雰囲気が心地よい。
孤独な戦場から一瞬で移動してきただけに、なおさらありがたみを感じる。
「帝都へ片道の人、いませんか」
冒険者ギルドの中に出ると、同じように壁から出てきた人が客の募集をしていた。
帝都か。
行ってみるか。
募集している人も美人だし。
「いくらかかる」
三十パーセント値引をつけ、訊いてみる。
四十代のおばちゃん冒険者だ。
ただし、エルフ、♀。
見た目二十歳そこそこである。
年齢は見なかったことにしよう。
「通常は銀貨二枚、片道なので銀貨一枚の固定料金です」
「うむ」
三十パーセント値引は多分効いてないみたいだ。
リュックサックを下ろして巾着袋を取り出し、銀貨を一枚渡した。
「そのリュックサックくらいなら大丈夫でしょう。友に応えし信頼の、心のきよむ誠実の、パーティー編成」
エルフの冒険者がパーティー編成呪文を唱えた。
俺の脳裏に、パーティーへの編入を受諾するかどうか、確認メッセージが浮かぶ。
イエスと念じると、すぐに消えた。
なるほど。パーティー編成はこんな風になっているのか。
迷宮の入り口でも同じようにパーティーを編成していた。
移動魔法を使って移動できるのは同じパーティーのメンバーだけなのだろう。
リュックサックなら大丈夫だと言ったから、何でも運べるというわけではないようだ。
リュックサックは手荷物扱いというところか。
アイテムボックスの中身は大丈夫だろうか。
などと心配している余裕もなく、エルフの冒険者がフィールドウォークを唱える。
目の前の冒険者ギルドの壁が黒く変色した。
迷っている時間はない。
考えてみれば、ダンジョンウォークでもワープでもアイテムボックスの中身は大丈夫だった。フィールドウォークでも問題ないだろう。
俺も遅れないようについていく。
壁の向こうには、大きな部屋が広がっていた。
基本的な構造は同じだから、帝都の冒険者ギルドなのだろう。ベイルの町の冒険者ギルドの三倍くらいの大きさだ。
カウンターも十列分くらい並んでいる。絶對高潮
パーティー編成呪文の詠唱が聞こえるとともに、パーティー解放と脳裏に浮かんだ。
一緒に来たもう一人の冒険者が会釈して去っていく。
彼は、自分がパーティー編成呪文を唱えると、続いてフィールドウォークを唱えて黒い壁を出し、帝都の冒険者ギルドにいた五人を連れて入っていった。
あの冒険者はベイルの町に行ったことがなかったのだろう。
そこで、ベイルの町に行ったことのあるエルフの冒険者に一度ベイルの町まで連れて行ってもらい、帰ってきてから、自分のパーティーを連れてベイルの町に行ったのだ。
「そういえばこの前、魔法使いがフィールドウォークをやっていたが、魔法使いでもフィールドウォークを使えるのか?」
せっかくの機会なのでエルフの女性に訊いてみる。
「さあ。聞いたことはありませんが。見間違いじゃないですか」
「そうか。そうだろうな」
「では、私はこれで」
エルフの女性も立ち去った。
やはり魔法使いがワープやダンジョンウォークを使うのはまずそうだ。
もっとも、本当に関心はないという感じだった。他人のジョブやスキルにいちいち興味は持たないのかもしれない。
俺がイケメンだったら喰いついてきたのだろうか。
くっそー。そういうことかぁ。
俺は一度冒険者ギルドの外へ出る。
帝都には建物がひしめいていた。
レンガの色そのままの茶色っぽい建物だ。
近代的なビルではないだけに、かえって圧迫感がある。
古代ローマとか全盛期のバグダッドとかに迷い込んだ感じだ。
もちろん行ったことはないが。多分、こんな感じだったのではないだろうか。
目の前の道は、広く、まっすぐに延びている。
中世の都市は敵を通さないように道が入り組んで作られている、という話が歴史の副読本に書いてあった。
道がまっすぐな帝都は、それだけ平和なのだろう。
日はまだ高い。
ベイルの町とは時差があるのかもしれない。
別に観光に来たわけでもないので、すぐに冒険者ギルドに戻る。
左側に張り紙を出しているボードがあった。
近づいてみるが、やはり読めない。
キョロキョロと辺りを見回すと、綺麗なお姉さんがにこやかにやってきた。
「お読みいたしましょうか」
さすがは帝都のギルドだ。
代読屋のレベルが違う。優雅で上品だ。
年齢は二十一歳の村人。ロクサーヌのような目の覚めるほどの美人というわけでもないし、服も紺色のだぼだぼの衣装だが、華やいだ雰囲気がある。
「うむ」
「六分で十ナールになります」
値段はベイルの町の探索者ギルドと一緒らしい。
リュックサックを下ろし、銅貨十枚を出してお姉さんに手渡した。
渡すときに指先が触れて、ちょっとドキドキしてしまったのは仕方がない。男の子だもの。
「頼む」
「では、この時計が落ちるまでになります」
砂時計のシステムまで一緒のようだ。
お姉さんの腰元を合法的にガン見できるチャンス。
とはいえ、いつまでも見ているわけにはいかない。
くそっ。だから時間課金なのか。
「ブランチの買取をしてくれるところがあるか」
「えっと。冒険者になられたばかりですか?」
初心者がするような質問だったのだろうか。
冒険者ですらないが。
「どうしてだ?」
「買取の募集が出るようなアイテムは決まっています。より強い魔物が落とす手に入れにくいアイテムなどです。ブランチはギルドで買えば在庫がいっぱいあります。わざわざ買取の依頼を出す人はいないでしょう」
質問返しをしてみると、親切に教えてくれた。
なるほど。
ブランチの買取依頼なんかあるはずがない。それを探すのはものを知らないよほどの初心者ということか。
「では、糸なんかもないな」
「ありませんね」
「毒消し丸を買い取ってくれるところもないか?」
旅の恥はかき捨てだ。
どうせ初心者だとばれたのだから、この際、全部聞いてしまおう。
「ギルドで買えますから」
「ワンドなんかはギルドでも買取してくれるのか?」
「魔物の残したアイテムでも、装備品や腐る食材はギルドでは買い取りません。装備品は武器商人などに、食材は、料理屋などの売り先を探すか、自分で消費するか、市の立っている日に売ることになります。アイテムボックスに入れておけば腐りませんから」
食材はアイテムボックスに入れておけば腐らないと。
いいことを聞いた。
「魔物の討伐の依頼なんかが出ることは?」
「魔物の討伐は領主の騎士団や戦士団が行う業務です。騎士団のメンバーとして冒険者を雇う募集ならありますが。お読みしましょうか」
まあ魔物の討伐などで稼げるようなら、奴隷商人がそう教えてくれただろう。
どこの馬の骨とも分からないようなやつにおいしい稼ぎを回したりはしないということか。
「いや。何か単発の仕事を依頼しているようなものは?」
「フィールドウォークで案内を行う仕事があります」
フィールドウォークで稼ごうにも、俺はベイルの町とこの帝都しか知らない。
そもそもフィールドウォークじゃなくてワープだしな。どこまでごまかせるのかという問題もある。
仕方がないので、残りの時間は買取依頼が出ているアイテムを教えてもらった。
クリアべっ甲、逆鱗、遮蔽セメント、銀の糸。
フカヒレとかサーロインとかは食材だろう。そんなアイテムもあるのか。
「時間になりました。続けますか」
「いや。もういい。ありがとう」
延長よりもアフターがしたい。
「アイテムの買取なら、ここよりもクーラタルの探索者ギルドに多くの依頼が出ていると思いますよ」
「クーラタルの探索者ギルドか。分かった」
分かっていないが。美人豹
名前を聞いたのも初めてだ。
わざわざ教えてくれた親切なお姉さんと別れる。
その後、カウンターで買取をしてもらった。
「一番安い疲労回復薬は何になる」
せっかくなのでカウンターのお姉さんに訊いてみる。
「強壮丸ですね。六十ナールになります」
「一番安い傷薬は」
「滋養丸。こちらも六十ナールです」
結構高い。
デュランダルの代わりにほいほい使ったら赤字になる。
結局買わずにベイルの町の冒険者ギルドに帰った。
周りに人がいないのを見計らって、「ムニャムニャ、フィールドウォーク」とつぶやく。
フィールドウォークの呪文は、聞いたけど、覚えられなかった。
そして、頭の中ではワープと念じる。ベイルの町の冒険者ギルドの壁を思い起こした。
目の前に出てきた黒い壁に入る。
これで他人の目にはフィールドウォークで移動したように見えるだろう。
一瞬の闇を抜け、ベイルの町の冒険者ギルドに出た。
ベイルの町は夕方だ。
帝都はベイルの町より西の方にあるらしい。
ちなみに、糸の買取価格は十ナールだった。
グリーンキャタピラーは、糸を吐いてきて厄介なのに、ニードルウッドよりお金にならない。レアドロップもないし。
確かに、魔物の組み合わせとしてはよくないのだろう。
今日の総売上は、千百四十四ナールである。
計算間違いではない、はずだ。昨日の四分の一しかいっていない。
ただし、生薬生成を行っていないので、リーフ四枚がアイテムボックスに入ったままである。
リーフ四枚で毒消し丸が四十個できる。毒消し丸四十個で千ナールになるから、昨日の半分か。
今日は魔法の使い勝手をテストしていたことが中心だったせいもある。
デュランダルをしまったことで探索に時間がかかるようになったことも影響しているだろう。
ベイル亭に帰った。
「三日分、頼む」
巾着袋を取り出しながら旅亭の男に告げる。
初日に払った宿代は、今朝までの分だ。
「はいよ」
「どこかに両替商のようなところはないか。銅貨ばかり溜まってな」
「そういうところはないな。別に銀貨じゃなくて銅貨百枚で払ってくれてもいいし」
両替商はないらしい。
両替商があって、金貨を三割引の七千ナールで売ってくれ、三割増しの一枚一万三千ナールで買ってくれたら、濡れ手に粟でもうけることができたのに。
考えてみれば、金貨一枚を銀貨百枚と交換したのでは商売にならないか。
両替商があったとしても手数料を取られるから、この手で稼ぐのは無理だろう。
銀貨五枚と銅貨百九十二枚を置く。
これで銅貨の数をかなり減らせた。
「それと、夕食の後でお湯を頼む」
「ええっと。宿代と夕食つき三日分にお湯だから、六百八十六ナールでいい。特別サービスだ」
何故か銅貨六枚が返ってくる。
お湯が二十ナールだから、三割引が効いたということか。
よく分からん。
「インテリジェンスカードのチェックはいいのか」
「チェックは十日おきだ。二日前に確認したから、まだ先だな」
「夕食は、もう頼めるよな」
「ああ。行ってきな」
俺にとって、夕食の時間は数字を勉強する時間だ。
昨日は一を確認した。
今日は何を選ぶか。
「いらっしゃいませ。今日はサーロインが入ったから、一がお勧めですよ」
食堂に入ると、旅亭の女性に四つあるメニューのうちの一つをお勧めされてしまった。
帝都のギルドでも聞いたサーロインという食材があるようだ。
一の食事には小ぶりだがステーキが入っている。あれがサーロインだろう。
「……で、では一で」
「ありがとうございます」
見たら食べたくなってしまった。
負けた。
四をお勧めにしてくれないものか、と思ったが、お勧めにしたい順に一から並んでいるのだとしたら、順当か。
明日はリベンジしてやる。
「三で頼む」
次の日の夕食は、お勧めも言ってこなかったので、三にした。
「かしこまりました。お飲み物はハーブティーでよろしいでしょうか」
よし。正解だ。
これで部屋の鍵にも使われている三と一の数字は判明した。
夕食のメニューは四つあるので、あと二つは二と四だろう。
どうやって確認するか。
夕食を取りながら作戦を練る。
などとぼんやり考えているのは、現実逃避だ。
分かっている。
実のところ、もっと大きな問題がある。
本当はそっちを考えなければいけない。
今日の総売上は三千三百二ナールだった。昨日の分のリーフを含んでの価格だ。
リーフの分を考えれば昨日と同じ程度。二階層をうろうろしていただけだから昨日とそんなに変わらないのはしょうがない。SUPER FAT BURNING
2013年6月28日星期五
馬車道中
シルバーホーンから首都ルナティックレイクへと続く森の中、車輪と蹄鉄の音を響かせながら舗装された公道を一台の馬車が疾走していく。終極痩身
二頭の早馬で構成されたその馬車は、急を要する際に使われる要人専用の千里馬車と呼ばれる。本来は送迎等に使うものではないが、それだけ早くソロモン王がミラに会いたがっているという事だ。
そんな馬車に揺られながら、ミラは窓の外を流れる景色を眺めながら「これはすごいのぅ、早いのぅ」と初体験である馬車の旅を楽しんでいる。
ゲーム時には、長距離を移動する際には浮遊大陸を利用していたが、現在はそれを利用するためのメニューを開くことが出来ない。メニュー欄から無くなってしまったシステムの項目に浮遊大陸を利用するためのコマンドがあったためだ。
しかし、今のこの世界で浮遊大陸が使えるかどうかは怪しいところでもある。自分の置かれている今の状況のように、より現実的になったと思えばそう悩むものでもないと、少女としての現状を楽しむ事に決めたのだ。
シルバーホーンを出てから二時間弱、ミラは少々落ち着かない様子で視線を泳がせている。その原因というのは先日の夜にも直面した生理現象によるものだ。
特に馬車の小刻みな振動が、下腹部により一層の危機感を与え続ける。そのため、とうとう堪らずにミラは御者台へと顔を覗かせた。
「のう、近くに厠かわやはないか?」
「カワ屋、ですか? 聞いたことがありませんが、何を売っている店でしょうか。もうすぐ山間の街シルバーワンドですので、教えていただければ買って来ますよ」
「いや、店ではなくな……。まあ、あえて言うならば雉をうっているのじゃが……」
「雉、鶏肉ですか。そういえば朝食がまだでしたね。分かりました、少し遅いですがシルバーワンドに到着しましたら朝食に致しましょう」
「ああ、今のは冗談じゃ! 厠じゃよ厠」
「うむむ……申し訳ありませんが、シルバーワンドにそのような名の店は無かったかと」
「じ ゃ か ら! 便所、トイレ、お手洗いの事じゃ! ああ……もうここでも良い、木陰で済ますから止めてくれ!」
「え……、あ……ああ! そういうことでしたか!」
今まで付き合い続けていた身体ならば、まだ持つはずだった。だが少女となった身体は急激に限界を訴え始め、ミラはそれを本能的に感じ取る。このままでは漏らすと。
御者を勤めている軍服の男ガレットの背中を焦りのため幾度となく小突き、森の中適当な場所を指差しながら停止するように催促する。
ミラはゆっくりと歩を緩めていく息の合った二頭の馬が完全に止まる前に飛び降りると、適当な木陰でローブの裾をたくし上げる。
そして、自身の下半身を隠すドロワーズを見て動きを止めた。だがそれは手だけだ。両脚は多少内股になり忙しなく地を踏み鳴らし続ける。御秀堂 養顔痩身カプセル
(どうやって脱げばいいのじゃー)
焦る気持ちとは裏腹に、勝手に穿かせられたドロワーズはミラにしてみれば初めて穿くものだ。当然だが。ゴムなどで腰に留まっているわけではないため、ミラは無理矢理下ろそうとして腰骨に阻まれると、引き千切ろうかと思い立つもギリギリ考え直す。流石に借り物を破るわけにもいかないと。だがそれ以上に、借り物に漏らすわけにもいかなかいため焦りだけが加速していく。
ミラはドロワーズのウエストに指をかけたまま横に引っ張りつつ脱ごうと試みるも失敗。
全身から汗が湧き出すような感覚の中、その細い指がかかった部分が目に入る。そして、なぜこんな当たり前のことに気付かなかったのかと自分の慌て振りに苦笑した。
丁度ウエストのレース辺りに紐が蝶結びされていたのだ。冷静になればすぐに分かる事だったが、慣れない体に初めて尽くしの状況で脳内処理が渋滞してしまっていたのだから無理もない。
分かってしまえばどうということはないが、いよいよもって臨界を向かえる間際だ。急いでそれを解くと膝まで脱いでしゃがみ込み、同時に満たされた開放感に、ミラは大きく胸を撫で下ろす。
二度目の行為によって、もう完全にこの身体をものにしたと思い込んだミラは、早々にその間違いに気付かされる事となる。用を済まし立ち上がりドロワーズを穿き直そうとした時、そういえば女は拭くものだったという事を直前で思い出したからだ。
(どうすればいいんじゃろ)
手持ちには紙はおろか、それに代わる物も無い。念のためアイテム欄も開いてみたが食べ物などは持っての外、いくつかの精錬水晶や素材アイテムくらいしか入ってはいない。
メニューを閉じると、手近なところに代用できるものはないか探し始める。森の中、梢から差し込む光に小さな生き物の発する音。生い茂る草に、可憐な顔を覗かせる色とりどりの花。
一通り見回したミラは大きめな白い花びらを一枚摘むと、再びしゃがみ込み紙の代用として使用した。
「すまぬ、待たせたのー」
ミラが飛び込んでいった辺りを気にしながら、落ち着かない様子で視線を送っていた男の背後から少女が現れる。
多少はずんだ調子のミラの声に、男は後ろめたさからビクリと身体を強張らせると「いいえ、申し訳ありませんでした」と、二つの意味で謝罪を述べる。
「ええっと……一先ず、シルバーワンドで朝食に致しましょう」
「うむ、そうじゃな」
どうやらミラには気付かれていない、そう信じた男は平静を装いながら馬車を再び走らせる。
厠騒動から約一時間。道中は順調で、馬車はシルバーワンドまでもうじきという所を走っている。だが順調なのは道中だけでミラは今、想像だにしなかった苦難に直面していた。
(なんなのじゃこれは、ヒリヒリする。じんじんするー)
馬車の中、ミラは座席の上に転がり今まで経験した事の無い、鼠径部の内側下部の焼けるような痛みに悶える。
違和感を感じ始めた時、その場所から女性特有の何かかと予想した。しかし徐々に酷くなる痛みに堪らずにドロワーズを脱ぎ違和感の元を確認すると、その原因に思い至る。
(毒でもあったんじゃろうか……)
行き着いた答えは、一枚の花びらだ。むしろミラにはそれしか原因が思いつかなかったというのもある。女性特有の症状等だった場合は、想像する事も出来ないのだから。
当たりを付けると、どうにか出来そうな物がないかアイテム欄を開き確認する。そして、いくつか常備していたアイテムの中から一つの薬を取り出す。
それは状態異常を回復し、ある程度の傷を治す事が出来る『万能軟膏薬』という治療薬だ。
ミラは若干の抵抗を感じつつも座席の隅に丸まるように屈むと、縋る思いで軟膏を塗り効果が表れるのを待つ。
程なくして予想は当たり、花びらの毒による症状は軟膏の解毒作用により治癒される。
一安心したミラは座席に転がったまま「もういやじゃ……」と呟いた。
花びら騒動から約十分。馬車が緩やかに停止すると、御者台からガレットが顔を覗かせる。
「ミラ様、シルバーワンドに到着致しました。食堂へ向かいますか? それとも私が何か買って来ましょうか?」御秀堂養顔痩身カプセル第3代
ミラは少しだけ考えると、
「折角じゃ、食堂へ参るとしよう」
いつも通りならば即答で持って来てもらうところを、そう答える。
そもそも今までは大抵の事がVRヴァーチャルリアリティで事足りる生活を送っていた。まともに空の下を歩くのが珍しい程で、仕事はおろか買い物ですらVRで済ますと宅配で送られてくる時代だったのだ。
だが今、この世界は違う。森を歩き人と接し、馬車に揺られる。初めての実感ともいえるそれらは、今までの生活と比べれば圧倒的に不便だ。だがミラは今、その全てを楽しいと感じ始めている。
便利過ぎるという事は人の心を狭くしてしまうのだと感じたミラは、出来るだけ多くを経験したいと思い、馬車から青空の下へと降り立つ。
シルバーワンド。
ルナティックレイクとシルバーホーンの間に位置する山脈の谷にある、農業や林業、採掘などを生業とする者達の街として知られる。
首都と国最大の軍事力の中継地点となっているため、それなりに大きな街で交易も盛んだ。
ミラが今居る場所は、街の商業地区にある駐車場。広い芝生の敷地に数台の馬車が停めており厩舎が並び、そこで馬の世話や餌やり等を行っている。
駐車場は基本的に有料で、利用料が一時間単位で発生するが、千里馬車が停まった区域は柵に囲われた王国専用の駐車場であるため料金はかからない。つまりは王族や貴族、それに関わる特別な者が乗る馬車が停まるという事でもある。
それ故に、駐車場やその付近に居た者達の視線が集まるのも無理はないというものだ。
この場所の管理員をしている男は、少女と軍服の男を交互に目を留め絶句する。明らかに少女の護衛として付き従っているその男、ガレット・アストルの事を良く知っているからだ。馬車専用の駐車場を管理する者だからだけではない、この軍服の男、戦車隊副団長を知らない者はこの街には居ないだろう。
そのような大物が、ただの少女の護衛等をするはずがない。貴族ならば、王族に連なる血筋がせいぜいだ。
もちろん王国軍の大物と共に居る少女にも皆の注目は集まる。その白い肌と艶やかな銀の髪、気が強そうな瞳にリボンが目一杯付いたローブを纏うミラの姿に、誰もが容姿を称える言葉を失う。というよりその少女に見合うだけの言葉が浮かばなかったのだ。皆はただ視野を奪われ、少女だけを無言で見つめる。
シルバーワンドの街は山に囲まれたかのような景観で、ミラは身体をほぐす様に大きく伸びをしながら空を見上げる。
目の端から横切るように飛んでいく鳥を目で追いかけながら、所々の森の中から飛び立つ鳥に視線を移して更に追いかける。そうすると自然に身体がクルクルと回っていたのだが、本人はまったく気付いていない。
駐車場の管理員に戻る時間を伝え馬の世話を頼んでいるガレットの声を何となく聞きながら顔を下げると、周囲から見られている気配に気付き視線を逸らすようにしながら芝生を睨む。
(見られておる。この服は変だと笑っているのじゃ。絶対にそうじゃ)
ミラは自分を嘲笑しているのものだと思い込み、視線から必死に逃れようとしていると、話を終わらせたガレットが戻る。
「お待たせ致しました。ミラ様は何か食べたいものがございますか」
そう訊くガレットに、ミラはその大きな身体の影に隠れるようにしながら「お主のオススメ等で良い」と答える。兎に角、早々にこの場を離れたいと背中を小突く。
「では、私の行き付けへご案内しましょう」
何かに焦るようにガレットをせっつく少女の姿は、親子のような微笑ましさが溢れている。それと同時に、その光景を目にした者達には戦車隊副団長にエスコートされる少女は一体何者なのかという疑問が生まれる。ただ一つ彼らの共通する認識は、きっとやんごとなきお方であろうという事と、今まで出会った中でもとびっきりの美少女だったいう事だ。
駐車場を出て街の大通りから小道に入ったミラとガレットは、一軒の食堂兼宿屋の前に到着する。
「こちらでございます。小さい所ですが、味は保証しますよ」
ミラが見上げたのは一軒の木造の建物。スイングドアには『夕暮れの街角亭』と店名が大きく書かれている。店内が見て取れる西部劇等でよくあるタイプのドアだが、ミラの背では天井しか見えず様子を知ることは出来ない。御秀堂養顔痩身カプセル第2代
「久しぶりに来ておいて小さいだなんて、失礼なこと言ってくれるわね」
突如、背後から聞こえた女性の声に二人が振り返ると、そこには両手に買い物籠を持った二十代程の女性がガレットを睨むように立っていた。素朴だが美人であり三角巾から覗く栗色の髪が肩に掛かる。白と青のエプロンドレスには『夕暮れの街角亭』と刺繍してあり、この店の者である事を主張している。
「おや、シェリー。久しぶりですね」
「ほんとよまったく。もう少し顔出しなさいよね……って、なに!? その可愛い子誰なの!?」
買い物籠を置いたシェリーは、ガレットの隣で見上げるようにしているミラを目に留めるなり、自然な流れで手をその頭に乗せて撫で回す。
「なっ、やめんか!」
シェリーの手を払いのけたミラは、この目の前の女性も自分を子ども扱いする人種だと判断して、ガレットを盾代わりにする様にその身を隠す。
「ふぁぁぁぁーーーん! なにこの子かわいいいいーーーー!」
シェリーはガレット越しに警戒の表情を浮かべる、ミラの小動物のような姿に母性が全開となる。
「この方はミラ様です」
「へぇー、ミラちゃんっていうんだー。可愛いねぇー。ミラちゃーん」
シェリーはより一層表情を緩ませるとにじり寄るようにミラとの間合いを詰めていく。
「シェリー。ミラ様が嫌がってますからその辺にしておいて下さい」
「そうじゃそうじゃ」
影に隠れたまま言葉を続けるミラ。その姿は更に暴走を加速させるものだったが、シェリーはまず嫌われない事を最優先とし自制する。
「ねぇねぇガレット。それでミラちゃんと何してるの?」
「ルナティックレイクへお送りしている途中なんですが、朝食がまだでしたので」
「それでうちに来たってわけね。良くやったわ」
シェリーは買い物籠を持ち直すとスイングドアを開き、二人を案内する。
「ほら、カウンター席が空いてるから待ってて。……ってミラちゃんまだ怒ってる?」
シェリーはガレットの影に隠れたまま、まだ警戒を解いていないミラを少し残念そうな表情で見つめる。
「ミラ様はこの程度の事で怒るような方ではないと思いますよ」
ガレットの言う通り、ミラは怒っている訳ではない。ただ、単純に子ども扱いされるのが恥ずかしいだけだ。
だがしかし、女性に寂しそうな顔をさせるのは自分の意に反するとして、ミラはガレットの影から出る。
「わしを子供扱いせぬようにな」
そう一言だけ伝えた。だがシェリーには、それが大人振りたい少女の様に見えてしまい、今度は思いっきり抱きしめたい衝動に駆られ、それは一瞬で限界を振り切った。
「ミラちゃん可愛い!」
言われた傍からシェリーは買い物籠を投げ出すと勢いに任せて飛びつく。ぎゅっと抱きしめられたミラは、直接的な愛情表現であるため無理に振り解く事も出来ず「もう好きにせい……」と溜息混じりに呟いた。韓国痩身一号
二頭の早馬で構成されたその馬車は、急を要する際に使われる要人専用の千里馬車と呼ばれる。本来は送迎等に使うものではないが、それだけ早くソロモン王がミラに会いたがっているという事だ。
そんな馬車に揺られながら、ミラは窓の外を流れる景色を眺めながら「これはすごいのぅ、早いのぅ」と初体験である馬車の旅を楽しんでいる。
ゲーム時には、長距離を移動する際には浮遊大陸を利用していたが、現在はそれを利用するためのメニューを開くことが出来ない。メニュー欄から無くなってしまったシステムの項目に浮遊大陸を利用するためのコマンドがあったためだ。
しかし、今のこの世界で浮遊大陸が使えるかどうかは怪しいところでもある。自分の置かれている今の状況のように、より現実的になったと思えばそう悩むものでもないと、少女としての現状を楽しむ事に決めたのだ。
シルバーホーンを出てから二時間弱、ミラは少々落ち着かない様子で視線を泳がせている。その原因というのは先日の夜にも直面した生理現象によるものだ。
特に馬車の小刻みな振動が、下腹部により一層の危機感を与え続ける。そのため、とうとう堪らずにミラは御者台へと顔を覗かせた。
「のう、近くに厠かわやはないか?」
「カワ屋、ですか? 聞いたことがありませんが、何を売っている店でしょうか。もうすぐ山間の街シルバーワンドですので、教えていただければ買って来ますよ」
「いや、店ではなくな……。まあ、あえて言うならば雉をうっているのじゃが……」
「雉、鶏肉ですか。そういえば朝食がまだでしたね。分かりました、少し遅いですがシルバーワンドに到着しましたら朝食に致しましょう」
「ああ、今のは冗談じゃ! 厠じゃよ厠」
「うむむ……申し訳ありませんが、シルバーワンドにそのような名の店は無かったかと」
「じ ゃ か ら! 便所、トイレ、お手洗いの事じゃ! ああ……もうここでも良い、木陰で済ますから止めてくれ!」
「え……、あ……ああ! そういうことでしたか!」
今まで付き合い続けていた身体ならば、まだ持つはずだった。だが少女となった身体は急激に限界を訴え始め、ミラはそれを本能的に感じ取る。このままでは漏らすと。
御者を勤めている軍服の男ガレットの背中を焦りのため幾度となく小突き、森の中適当な場所を指差しながら停止するように催促する。
ミラはゆっくりと歩を緩めていく息の合った二頭の馬が完全に止まる前に飛び降りると、適当な木陰でローブの裾をたくし上げる。
そして、自身の下半身を隠すドロワーズを見て動きを止めた。だがそれは手だけだ。両脚は多少内股になり忙しなく地を踏み鳴らし続ける。御秀堂 養顔痩身カプセル
(どうやって脱げばいいのじゃー)
焦る気持ちとは裏腹に、勝手に穿かせられたドロワーズはミラにしてみれば初めて穿くものだ。当然だが。ゴムなどで腰に留まっているわけではないため、ミラは無理矢理下ろそうとして腰骨に阻まれると、引き千切ろうかと思い立つもギリギリ考え直す。流石に借り物を破るわけにもいかないと。だがそれ以上に、借り物に漏らすわけにもいかなかいため焦りだけが加速していく。
ミラはドロワーズのウエストに指をかけたまま横に引っ張りつつ脱ごうと試みるも失敗。
全身から汗が湧き出すような感覚の中、その細い指がかかった部分が目に入る。そして、なぜこんな当たり前のことに気付かなかったのかと自分の慌て振りに苦笑した。
丁度ウエストのレース辺りに紐が蝶結びされていたのだ。冷静になればすぐに分かる事だったが、慣れない体に初めて尽くしの状況で脳内処理が渋滞してしまっていたのだから無理もない。
分かってしまえばどうということはないが、いよいよもって臨界を向かえる間際だ。急いでそれを解くと膝まで脱いでしゃがみ込み、同時に満たされた開放感に、ミラは大きく胸を撫で下ろす。
二度目の行為によって、もう完全にこの身体をものにしたと思い込んだミラは、早々にその間違いに気付かされる事となる。用を済まし立ち上がりドロワーズを穿き直そうとした時、そういえば女は拭くものだったという事を直前で思い出したからだ。
(どうすればいいんじゃろ)
手持ちには紙はおろか、それに代わる物も無い。念のためアイテム欄も開いてみたが食べ物などは持っての外、いくつかの精錬水晶や素材アイテムくらいしか入ってはいない。
メニューを閉じると、手近なところに代用できるものはないか探し始める。森の中、梢から差し込む光に小さな生き物の発する音。生い茂る草に、可憐な顔を覗かせる色とりどりの花。
一通り見回したミラは大きめな白い花びらを一枚摘むと、再びしゃがみ込み紙の代用として使用した。
「すまぬ、待たせたのー」
ミラが飛び込んでいった辺りを気にしながら、落ち着かない様子で視線を送っていた男の背後から少女が現れる。
多少はずんだ調子のミラの声に、男は後ろめたさからビクリと身体を強張らせると「いいえ、申し訳ありませんでした」と、二つの意味で謝罪を述べる。
「ええっと……一先ず、シルバーワンドで朝食に致しましょう」
「うむ、そうじゃな」
どうやらミラには気付かれていない、そう信じた男は平静を装いながら馬車を再び走らせる。
厠騒動から約一時間。道中は順調で、馬車はシルバーワンドまでもうじきという所を走っている。だが順調なのは道中だけでミラは今、想像だにしなかった苦難に直面していた。
(なんなのじゃこれは、ヒリヒリする。じんじんするー)
馬車の中、ミラは座席の上に転がり今まで経験した事の無い、鼠径部の内側下部の焼けるような痛みに悶える。
違和感を感じ始めた時、その場所から女性特有の何かかと予想した。しかし徐々に酷くなる痛みに堪らずにドロワーズを脱ぎ違和感の元を確認すると、その原因に思い至る。
(毒でもあったんじゃろうか……)
行き着いた答えは、一枚の花びらだ。むしろミラにはそれしか原因が思いつかなかったというのもある。女性特有の症状等だった場合は、想像する事も出来ないのだから。
当たりを付けると、どうにか出来そうな物がないかアイテム欄を開き確認する。そして、いくつか常備していたアイテムの中から一つの薬を取り出す。
それは状態異常を回復し、ある程度の傷を治す事が出来る『万能軟膏薬』という治療薬だ。
ミラは若干の抵抗を感じつつも座席の隅に丸まるように屈むと、縋る思いで軟膏を塗り効果が表れるのを待つ。
程なくして予想は当たり、花びらの毒による症状は軟膏の解毒作用により治癒される。
一安心したミラは座席に転がったまま「もういやじゃ……」と呟いた。
花びら騒動から約十分。馬車が緩やかに停止すると、御者台からガレットが顔を覗かせる。
「ミラ様、シルバーワンドに到着致しました。食堂へ向かいますか? それとも私が何か買って来ましょうか?」御秀堂養顔痩身カプセル第3代
ミラは少しだけ考えると、
「折角じゃ、食堂へ参るとしよう」
いつも通りならば即答で持って来てもらうところを、そう答える。
そもそも今までは大抵の事がVRヴァーチャルリアリティで事足りる生活を送っていた。まともに空の下を歩くのが珍しい程で、仕事はおろか買い物ですらVRで済ますと宅配で送られてくる時代だったのだ。
だが今、この世界は違う。森を歩き人と接し、馬車に揺られる。初めての実感ともいえるそれらは、今までの生活と比べれば圧倒的に不便だ。だがミラは今、その全てを楽しいと感じ始めている。
便利過ぎるという事は人の心を狭くしてしまうのだと感じたミラは、出来るだけ多くを経験したいと思い、馬車から青空の下へと降り立つ。
シルバーワンド。
ルナティックレイクとシルバーホーンの間に位置する山脈の谷にある、農業や林業、採掘などを生業とする者達の街として知られる。
首都と国最大の軍事力の中継地点となっているため、それなりに大きな街で交易も盛んだ。
ミラが今居る場所は、街の商業地区にある駐車場。広い芝生の敷地に数台の馬車が停めており厩舎が並び、そこで馬の世話や餌やり等を行っている。
駐車場は基本的に有料で、利用料が一時間単位で発生するが、千里馬車が停まった区域は柵に囲われた王国専用の駐車場であるため料金はかからない。つまりは王族や貴族、それに関わる特別な者が乗る馬車が停まるという事でもある。
それ故に、駐車場やその付近に居た者達の視線が集まるのも無理はないというものだ。
この場所の管理員をしている男は、少女と軍服の男を交互に目を留め絶句する。明らかに少女の護衛として付き従っているその男、ガレット・アストルの事を良く知っているからだ。馬車専用の駐車場を管理する者だからだけではない、この軍服の男、戦車隊副団長を知らない者はこの街には居ないだろう。
そのような大物が、ただの少女の護衛等をするはずがない。貴族ならば、王族に連なる血筋がせいぜいだ。
もちろん王国軍の大物と共に居る少女にも皆の注目は集まる。その白い肌と艶やかな銀の髪、気が強そうな瞳にリボンが目一杯付いたローブを纏うミラの姿に、誰もが容姿を称える言葉を失う。というよりその少女に見合うだけの言葉が浮かばなかったのだ。皆はただ視野を奪われ、少女だけを無言で見つめる。
シルバーワンドの街は山に囲まれたかのような景観で、ミラは身体をほぐす様に大きく伸びをしながら空を見上げる。
目の端から横切るように飛んでいく鳥を目で追いかけながら、所々の森の中から飛び立つ鳥に視線を移して更に追いかける。そうすると自然に身体がクルクルと回っていたのだが、本人はまったく気付いていない。
駐車場の管理員に戻る時間を伝え馬の世話を頼んでいるガレットの声を何となく聞きながら顔を下げると、周囲から見られている気配に気付き視線を逸らすようにしながら芝生を睨む。
(見られておる。この服は変だと笑っているのじゃ。絶対にそうじゃ)
ミラは自分を嘲笑しているのものだと思い込み、視線から必死に逃れようとしていると、話を終わらせたガレットが戻る。
「お待たせ致しました。ミラ様は何か食べたいものがございますか」
そう訊くガレットに、ミラはその大きな身体の影に隠れるようにしながら「お主のオススメ等で良い」と答える。兎に角、早々にこの場を離れたいと背中を小突く。
「では、私の行き付けへご案内しましょう」
何かに焦るようにガレットをせっつく少女の姿は、親子のような微笑ましさが溢れている。それと同時に、その光景を目にした者達には戦車隊副団長にエスコートされる少女は一体何者なのかという疑問が生まれる。ただ一つ彼らの共通する認識は、きっとやんごとなきお方であろうという事と、今まで出会った中でもとびっきりの美少女だったいう事だ。
駐車場を出て街の大通りから小道に入ったミラとガレットは、一軒の食堂兼宿屋の前に到着する。
「こちらでございます。小さい所ですが、味は保証しますよ」
ミラが見上げたのは一軒の木造の建物。スイングドアには『夕暮れの街角亭』と店名が大きく書かれている。店内が見て取れる西部劇等でよくあるタイプのドアだが、ミラの背では天井しか見えず様子を知ることは出来ない。御秀堂養顔痩身カプセル第2代
「久しぶりに来ておいて小さいだなんて、失礼なこと言ってくれるわね」
突如、背後から聞こえた女性の声に二人が振り返ると、そこには両手に買い物籠を持った二十代程の女性がガレットを睨むように立っていた。素朴だが美人であり三角巾から覗く栗色の髪が肩に掛かる。白と青のエプロンドレスには『夕暮れの街角亭』と刺繍してあり、この店の者である事を主張している。
「おや、シェリー。久しぶりですね」
「ほんとよまったく。もう少し顔出しなさいよね……って、なに!? その可愛い子誰なの!?」
買い物籠を置いたシェリーは、ガレットの隣で見上げるようにしているミラを目に留めるなり、自然な流れで手をその頭に乗せて撫で回す。
「なっ、やめんか!」
シェリーの手を払いのけたミラは、この目の前の女性も自分を子ども扱いする人種だと判断して、ガレットを盾代わりにする様にその身を隠す。
「ふぁぁぁぁーーーん! なにこの子かわいいいいーーーー!」
シェリーはガレット越しに警戒の表情を浮かべる、ミラの小動物のような姿に母性が全開となる。
「この方はミラ様です」
「へぇー、ミラちゃんっていうんだー。可愛いねぇー。ミラちゃーん」
シェリーはより一層表情を緩ませるとにじり寄るようにミラとの間合いを詰めていく。
「シェリー。ミラ様が嫌がってますからその辺にしておいて下さい」
「そうじゃそうじゃ」
影に隠れたまま言葉を続けるミラ。その姿は更に暴走を加速させるものだったが、シェリーはまず嫌われない事を最優先とし自制する。
「ねぇねぇガレット。それでミラちゃんと何してるの?」
「ルナティックレイクへお送りしている途中なんですが、朝食がまだでしたので」
「それでうちに来たってわけね。良くやったわ」
シェリーは買い物籠を持ち直すとスイングドアを開き、二人を案内する。
「ほら、カウンター席が空いてるから待ってて。……ってミラちゃんまだ怒ってる?」
シェリーはガレットの影に隠れたまま、まだ警戒を解いていないミラを少し残念そうな表情で見つめる。
「ミラ様はこの程度の事で怒るような方ではないと思いますよ」
ガレットの言う通り、ミラは怒っている訳ではない。ただ、単純に子ども扱いされるのが恥ずかしいだけだ。
だがしかし、女性に寂しそうな顔をさせるのは自分の意に反するとして、ミラはガレットの影から出る。
「わしを子供扱いせぬようにな」
そう一言だけ伝えた。だがシェリーには、それが大人振りたい少女の様に見えてしまい、今度は思いっきり抱きしめたい衝動に駆られ、それは一瞬で限界を振り切った。
「ミラちゃん可愛い!」
言われた傍からシェリーは買い物籠を投げ出すと勢いに任せて飛びつく。ぎゅっと抱きしめられたミラは、直接的な愛情表現であるため無理に振り解く事も出来ず「もう好きにせい……」と溜息混じりに呟いた。韓国痩身一号
2013年6月26日星期三
約束と報告
塔の寝室。心地良い眠りの中、窓から差し込む陽光を受けて寝惚け気味に起き上がる。少女の乱れた髪は銀に輝きながら、頭の動きに引かれて舞った。Motivat
(もう起きとるのか。早いのぅ)
ミラはちらりと隣に顔を向け、そこにある枕を確認する。ルナは小さく丸まったまま、まだ寝息を立てていた。安らいだその姿に目尻を下げると、ミラは腕輪のメニューを開き現在時刻を映し出す。
(わしが、遅いだけか……)
時間は朝の九時半を越えたあたりを示していた。ミラは、メニューを閉じて大きく欠伸をしてから、リビングに向かおうとベッドから足を下ろす。すると、正面の小さなテーブルに置かれた衣服が目に入った。とても、見覚えのあるデザインの服だ。
(準備が良いのぅ)
広げてみると、それは魔導ローブセットだった。一先ず着替えようかとミラが裾に手を掛けた時、扉をノックする音が響き、メイド姿のマリアナが顔を覗かせる。
「おはようございます。ミラ様」
「うむ、おはよう」
「お手伝いします」
これからミラがやろうとしていた事を即座に察し、むしろタイミング良く現れたマリアナ。有無を言わせず駆け寄ると、手際良くミラを整えていく。
着替えの他にもミラの長い銀髪は、やる気に満ちたマリアナにより透明に近い青のリボンで両サイドに分けて束ねられた。より可愛らしさを引き立たせるツインテール姿にミラ自身も満更ではなく、鏡を前にして満足そうにしている。
思う存分、ミラの髪を弄れたマリアナも、その仕上がりに喜びの笑顔を湛える。
姿見に映った二人は、その鏡越しに見つめ合い淡く微笑んだ。
これから朝食という絶妙な時間で目を覚ましたルナと一緒に朝食を済ませた後、ミラは今後の大まかな予定をマリアナに話す。
これから城へ向かいソロモンに報告する事。ソウルハウルの残した資料の解読状況によっては、そのまま新たな目的地へ向かう事。場所によっては、長く空けるかもしれないと。
少し申し訳無さそうにするミラだったが、マリアナは「心配無用です」と寂しさなど感じさせない笑顔をミラに向ける。マリアナにもう憂いは無かった。只、主人の帰る場所を守れる事が喜びであり生きがいなのだ。
ミラは、そんなマリアナの様子に安心すると、手の甲に宿る加護の紋章を見つめ、その繋がりの大きさを実感する。
「では、そろそろ行ってくる」
ルナの毛並みを堪能しながら食後の紅茶を飲み終えると、ミラはそう言い立ち上がる。するとマリアナは、キッチンからバスケットを持ってきて、それを差し出した。
「昼食を用意しておきましたので、後で召し上がって下さい」
「うむ、ありがとう」
ミラは、そのバスケットを受け取り礼を言うと、何気なくマリアナの頭を一撫でした。その動作はとても自然で、一切の躊躇いも無い。その事に、ミラ自身が驚く。それは、マリアナに対しての壁が無くなったという証であろうか、掌の下で嬉しそうに顔を綻ばせるマリアナの姿に、ミラもこれで良かったのだと確信する事が出来た。
「後は任せる」
言いながらミラは、ルナをぎゅっと抱いてからマリアナに託した。マリアナは優しく受け取ると、そっと一礼する。
「いってらっしゃいませ」
簡潔であるがそのやりとりは、少女同士という関係ながらも琴瑟相和といった趣があり、随分と堂に入ったものであった。
だが、ミラは気付かなかった。ちょっとだけ頬を膨らせたマリアナに。抱き締めるなら忘れてはいけないもう一人。この事に気付くのは今後のミラの課題かもしれない。
塔を出て、いざ飛び立とうとしたミラは、立ち並んだ直ぐ隣の塔を見て不意にある事を思い出した。隣は死霊術の塔であり、思い出したのはアマラッテとの約束だ。侍女のリリィと話し、時間がある時に採寸したいと伝える事を今、思い出したのだ。
(そういえば、忘れておった)
ミラは、首都に向かう前に済ませてしまおうと、死霊術の塔へと入る。
突如、銀髪の少女が現れた死霊術の塔内部では、どよめきと共に好奇の視線がその少女に集中する。召喚術の塔と違い、ここにはそれなりの数の術士が日夜研究に励んでいる。ミラは、その様子の違いに肩を落としながら最上階へと上がった。術士達はその姿を見送りながら「あれが噂の」と、この場へ来た理由は気にせず、各方面から流れてくる少女自身の実力や、その外見について盛り上がり始める。蒼蝿水(FLY D5原液)
死霊術の塔最上階。ミラは、生体感知により補佐官室と執務室に誰かが居る事を確認する。アマラッテは賢者代行である為、居るとすれば執務室の方だろう。そうすぐに結論すると、ミラは執務室の扉を叩く。暫くして気配が近づき、赤頭巾をしていないアマラッテが顔を出した。
「あら、ミラさん。わざわざここまでという事は、あの件についてね」
ミラの姿で即座に用件を察したアマラッテは、僅かに笑みを浮かべる。その、どちらかというと知的な印象に、赤頭巾が無いとこれほど変わるのかと、ある意味感心しながらミラは「そうじゃ」と頷く。
「リリィも随分と乗り気のようじゃ。採寸したいので、可能な時間を教えて欲しいと言っておったぞ」
「そうですか。ありがとう、ミラさん。では、今日にでも行きましょうか」
そう答えたアマラッテは、初めて会った時には想像できないほど嬉しそうに破顔すると、扉脇の棚に置いてあった小包を手にして「これはお礼よ」と言い、それを差し出した。
「礼などされる程ではないんじゃがな」
「お礼でもあるけど、私の気持ち。貴女に似合うと思ったの」
「似合う? なんじゃろうな」
「ふふふ、後で確認して。きっと気に入るわ」
ミラは受け取った小包を一瞥すると、そのままアイテムボックスに入れて「用件はそれだけじゃ。ではな」と言いエレベーターに乗り下って行った。
「透き通る程の白い肌、輝く銀の髪。やはり、それに合うのは黒よね。シャルロッテさんもそう思うでしょ?」
アマラッテがそう誰かに問い掛けると、補佐官室から長身の女性が姿を現した。線は細く喪服に似た衣装を纏い、整い過ぎた目鼻立ちをしている。どこか儚げで虚ろな黒い瞳は、右目が眼帯で塞がれていた。シャルロッテと呼ばれた女性は、死霊術の塔の補佐官でありデイライトウォーカーという、云わば吸血鬼の一族でもある。
「その質問には同意しかねますね。私は、断然白を推します」
シャルロッテは、ミラの後を追うように塔の下へと視線を向けながら、きっぱりと意見する。幽鬼の如く揺らめく瞳は、壁を隔てても尚、銀髪の少女の姿を捉えていた。
「あら、また意見が分かれたわね」
「アマラッテ様でも、ここは譲れません」
二人は不敵に微笑み合うと、異質な気配を漂わせ始める。
塔を出たミラは、その足で魔術の塔へと向かう。今度はルミナリアだ。世界樹の欠片が手に入ったので、これを炭の代わりに出来ないかと訊く為である。
「おーい、ルミナリアー。おらぬかー、返事せーい!」
言いながら、私室の扉を全力で乱打するミラ。扉の軋む音が響く中、豪快に開け放たれた扉から、鋭く赤い影が飛び出した。
「いつになったら加減を覚える! ってか、このやりとりも懐かしいな!」
苛立たしげに、だが少し嬉しそうに、宙を貫いた足を下ろしながらルミナリアが言う。
「そうじゃろう、そうじゃろう。そう思って、今回は大盤振る舞いじゃ」
「そうか、それはありが、とうなんて言う訳ないだろう」
胸を張るミラの顔を鷲掴みにするルミナリア。とはいえ、力は込めていないので見せ掛けだけだ。
「で、何の用だ?」
軽く突き返すようにミラの頭を離し扉に持たれかかると、ルミナリアは毛先を弄りつつ顔だけを向ける。
ミラは、腕輪を操作しながら、
「お主からの頼まれ事に、世界樹の炭があったじゃろう。そこで、これを手に入れたんじゃが」
前置きして世界樹の欠片を取り出し、それをルミナリアに渡す。
受け取ったのは、何かの木片であり炭ですらない。だが、ミラが全く関係ない物を、そんな前置きと共に渡すとは考えられない事だ。ルミナリアは幾つかの可能性を考慮してから口を開く。
「もしかして、これ世界樹の欠片か?」
「うむ、正解じゃ。やった覚えは無いが、それを炭にするという事は可能か? 可能ならば一つ完了なんじゃがな」
「そういう事か。しかし、どうだろうな。試した事は無いから分からんが、その辺りは職人組合にでも問い合わせれば問題ないだろう。あそこは、レア度なんてお構い無しな変人の巣窟だしな。きっと、実験してると思うぜ」
世界樹の欠片は用途が多く効果も高いが非常に貴重な品である。対して世界樹の炭は主に浄化の秘石という特殊なアイテムの素材にしか使えない為、欠片ほどの需要は無い。僅かではあるが入手率も欠片よりは高いので、是が非でも浄化の秘石が欲しいという理由でもなければ、わざわざ欠片を炭にする必要など無いのだ。
「職人組合か。そんなものもあるんじゃな」
「ああ、他にも農林組合や海洋組合なんてのもあるぞ」
「随分と元の世界に近づいてきたもんじゃ。その内、国連も出来そうな勢いじゃな」
そう言い肩を竦めて笑うと、ルミナリアは「似た様なものならあるな」と笑い返す。気になったミラが、それについて問うと、ルミナリアは大まかな内容を説明した。
曰く、それは『日之本委員会』といい、元プレイヤーの国主が集い、秘密裏に開かれるのだという。元プレイヤーであるが故に、現代的な平和思想を持っており、仮想ではなく実際の命が生きる世界で、戦争ゲーム等するべきで無いという倫理観が生まれた事に端を発する。国主が次々と名乗りを上げ、元プレイヤー同士の取り決めを世界の裏で交わしていたという事だった。
元プレイヤー最大国家である、アトランティス王国が音頭を取り国主を招致し話し合った結果、最初の会合では宣戦布告の禁止が約束される。SPANISCHE FLIEGE
これにより戦争は大きく減ったが、それでも無くなる事は無かった。何故ならば、元プレイヤー以外の国主、つまりこの世界で元から生きていた者が長である国があるからだ。日之本委員会では、その国を原生国と呼んでおり、元プレイヤーが国主を務める国よりも数は多かった。
ほとんどが日本人の思想を持ち、戦争の回避に尽力する元プレイヤーの国主と、この世界で元から生きている者達の戦争に関する価値観には、大きなずれがあった。故に、好機があれば攻め込まれ、周囲を原生国に囲まれた元プレイヤーの国は、外交により緩和したり悪化したりと気の抜けない状態にあるという。中には度重なる原生国の侵攻に痺れを切らし、開戦を宣言した元プレイヤー国主も居るのだという話だ。
現在では委員会の名の下に、元プレイヤー間同士・・・・・・・・の戦争の禁止が確約されており、別の方面でも様々な経済効果が齎されているという事だ。
「今も諦めずに、説得を続けているらしいがな。そもそも戦争の原因を解決できなきゃ止まらないだろう。国の為、富の為、生きる為、より良い生活の為に争う。間違っちゃいないが歪んでるよな。手を取り合えば良いものを、思想、過去、国、そんな目に見えない悪魔が邪魔をするんだ。ま、正直オレには良く分からん事だがな」
「わしも、そういった事は苦手じゃな。ソロモンに任せておけばいいじゃろう」
二人は冗談交じりにそう言い合うと、決して表に出す事無く心の中でソロモンに感謝するのだった。
「とりあえず、それが炭に出来れば後は、紅蓮王の剣じゃな」
「ああ、頼んだぜ」
二人は、簡単に挨拶を交わして分かれた。ルミナリアは、早速リタリアを呼び出し職人組合に問い合わせる。ミラはエレベーターの中、アルカイト王国の立地を思い出していた。
もし昔と変わっていないのなら、アルカイト王国の近くには原生国が幾つかあったはずだ。
(戦争は本来、そういうものじゃったな。一度開戦してしまえば、誰かが死ぬ。その為の抑止力……か)
ミラは、改めて自分に課せられた任務の重さを実感しながら、魔術の塔を後にする。
塔を出てペガサスに乗り、シルバーホーンを飛び立ったミラ。それから数時間後には、アルカイト王国首都ルナティックレイクの王城へと到着していた。
門番と一言二言、挨拶を交わし城内へと入ったミラは、誰かにソロモンの居場所を聞きだそうとエントランス内を見回す。首都の王城だけあって、シャンデリアや絵画、定番の甲冑にランプ、中央階段から続く刺繍の見事な赤い絨毯と、贅に富んだ内観に改めて感心する。
(玄関だけあって、やはり豪華じゃな。しかし、あの辺の絵は誰が描いたんじゃろう)
趣味が良いのか悪いのか判断に困る、半裸の精霊達の集う湖を描いた大判。少女が川を駆けて行く一瞬を切り出した、躍動感溢れる中版。そして、薄布一枚を纏った少女と空を舞う天使が、伸ばした手を絡め合う小判。元の世界ではイラストと呼称されそうな幻想的な絵画が立派な額縁に入れられて飾られている。
そんな絵を眺めながら、どうでもいい事を考えていたミラの目が、見知った人物の姿を捉えた。台車に無数の本を乗せて運ぶソロモンの補佐官スレイマンだ。
「おお、スレイマンではないか。丁度良いところに」
駆け寄ったミラがそう声を掛けるとスレイマンは足を止めて、にこやかな笑顔を返す。
「これはこれはミラ様。おかえりなさいませ」
「うむ、ただいまじゃな」
台車から手を離すと、略式の礼をとるスレイマン。ミラも簡単に挨拶を返すと、スレイマンの運んでいた台車の本を一瞥する。そのタイトルは多岐に渡っていたが、積み上げられた本の全ては一貫して古代に関しての資料であった。
「全部押し付けてしまってすまんのぅ。手伝いたいところじゃが、わしも解読といった事は苦手でな」
「いえいえ、私としてはお礼を言いたいくらいです。私の古代と精霊の知識がソロモン様の為に役立てられる日が来るとは思ってもいませんでした。ですから、今は毎日がとても充実しております。それもこれもミラ様が持ち帰って下さった資料のお陰でございます」
そう言って、心底嬉しそうな雰囲気を溢れさせるスレイマン。その様子にミラも、スレイマンはこういう人物だったと改めて思い出す。
「ミラ様は、これからご報告ですか」
「そのつもりじゃ。ところで今、ソロモンはどこにおる?」
「この時間ですと、執務室かと。ご案内いたしましょう」
スレイマンは、台車を目立たない端に寄せ始める。だがミラは、解読作業を邪魔をしては悪いと思い、SPANISCHE FLIEGE D9
「いや、結構じゃ。見たところお主も忙しいじゃろう。場所は覚えておるしのぅ」
そう言いながら、執務室のある方へと視線を向ける。
「分かりました。私は暫く資料室に居ますので、必要があればいつでもお呼び下さい」
「うむ、引き止めてすまんかったな」
エントランスで偶然出会った二人。ミラは、中央階段を上って執務室方面へと向かい、スレイマンは台車を押してエントランスを横切って行った。
「ほれ、例のブツじゃ」
王の執務室で挨拶もそこそこに、ミラは天魔迷宮プライマルフォレストで採取してきた始祖の種子を机の上に並べる。
「わっ、すごいね。十個集められたんだ。いやぁ、ありがとう」
始祖の種子を確認したソロモンは、必要数よりも少し嵩増しした数を揃えてきたミラに、驚きながらも感謝すると、机から箱を取り出してその中へ保管する。
「それがのぅ、団員一号がほとんど見つけてくれたんじゃよ。どこにあるか分かるようでな。意外な能力の発見で、随分と簡単に終わったわい」
ミラは、いつものソファーに深く腰掛けて、自分のケット・シーを少し自慢げに話す。
「そうだったんだ。それはすごい能力だ。そんなに簡単なら、また頼んでも良さそうだね。嬉しいよ」
「う……。まあ、近くに用事が出来たらのぅ」
ミラは足を投げ出すと、苦笑しながら答える。そんな様子に、ソロモンは感謝して微笑むと「それで、どうだった」と本題を切り出す。
「長老から証言は得られた。ソウルハウルが聖杯を求めている事は間違いないじゃろう」
「そっか。なら、この線を追っていけば捕まえられそうだね」
ソロモンは、資料だけ集めても結局、聖杯には手を出していなかったという結果も予想していた。だが、ミラがその目で痕跡を確認してきた事で、この先には確実にソウルハウルが居るという事が確かなものとなったのだ。
全てが水の泡になる様な結果は回避できた。その朗報にソロモンは安心したのか、少しだけ頬を緩める。
「うむ。それとじゃな、切られた根の状態を見たところ、かなり古そうじゃった。長老はいつ来たか覚えておらんかったが、これが分かれば少し工程を飛ばせるのではないか」
専門的な知識が無いので、切り口の時期を特定する事は出来ない。知識があろうとも、常識外である御神木の成長を把握する事は難しいだろう。だが、ソウルハウルが順調に手順を辿っているならば、序盤の分は完了しているものとして省略する事も可能だろうとミラは考えた。
「そうだね。僕としては、長老が覚えている事に期待していたんだけど、神様は大雑把だからねー。後は、どれだけ飛ばすか何だけど、もう少し特定材料が必要かな」
ソロモンとしても、ソウルハウル一人に時間を掛ける訳にもいかないので、省略できるところは極力飛ばしていくつもりだった。だが現状、その指標となるものが一切無いので、順番に巡り指標となりそうな情報を探してもらうという手段をとっているのだ。
「ふーむ、そういえばのぅ、特定材料になりそうにはないんじゃが、あ奴は帰り際に黒い何かが必要だとか言っておったそうじゃ」
「黒い何か?」
「うむ、それと……杯を削る云々じゃったかのぅ」
「削る……か。黒い何かで根を削る、とかかな。でも黒ってなんだろう」
ソロモンは、その脈絡の無い情報に首を傾げ「黒い……削る、黒いー」と呟く。言ったミラも、結局どういう意味だったのだろうかと、天井を仰ぎながら「黒、黒」と繰り返していた。
「とりあえず、僕達じゃ考えるだけ無駄そうだね。新情報だし、専門家を呼ぶとしようか」
早々に諦めたソロモンは、いつか見た呼び鈴を指先で弾く。
暫くして扉がノックされると、専門家スレイマンが顔を見せた。
「スレイマンよ、解読の方はどこまで進んでいる」
声を低く、威厳を出すようにしてソロモンが言う。
「只今判明している部分は、根を加工する為には自然物の何かが必要であるというところです。更に、特別な場所でなければ加工できないらしいのですが、その場所自体に関する記述が無く、難航しております」
状況を説明し、申し訳無さそうに頭を下げるスレイマン。
「そうか。何かの切っ掛けになるかは分からないが、新たな情報を長老から直接、そこのミラが得てきた。黒い何かで削るような事らしい。何か心当たりはないか」
「忙しいところすまんのぅ。わしらではさっぱりでな」
「いえ、これも私の役目。この場に呼んでいただき光栄でございます」
スレイマンは呼ばれた理由に、心なしか嬉しそうに一礼する。
ミラは、そんな途中参加のスレイマンに、長老との話を最初からだが簡潔に話して聞かせる。
それからスレイマンは、押し黙ったまま神妙な面持ちで、解読分とミラが持ち込んだ情報を整理統合し始める。すると、徐々に不鮮明だった部分に解が浮かび上がってきた。
「なるほど。ありがとうございます、ミラ様。次の場所が分かりました」
数分で最終的な結論を導くと、スレイマンは晴れ晴れとした表情で宣言する。
「なんと。それは素晴らしいのぅ」
「スレイマンよ、その場所はどこと出た」
スレイマンは、懐に入れていた地図を取り出すと「失礼します」と言い机の上に広げる。それは、三神国やアルカイト王国の属するアース大陸の全図で、スレイマンはその東側、アリスファリウス聖国の北に位置する山脈を指し示す。SPANISCHE FLIEGE D6
(もう起きとるのか。早いのぅ)
ミラはちらりと隣に顔を向け、そこにある枕を確認する。ルナは小さく丸まったまま、まだ寝息を立てていた。安らいだその姿に目尻を下げると、ミラは腕輪のメニューを開き現在時刻を映し出す。
(わしが、遅いだけか……)
時間は朝の九時半を越えたあたりを示していた。ミラは、メニューを閉じて大きく欠伸をしてから、リビングに向かおうとベッドから足を下ろす。すると、正面の小さなテーブルに置かれた衣服が目に入った。とても、見覚えのあるデザインの服だ。
(準備が良いのぅ)
広げてみると、それは魔導ローブセットだった。一先ず着替えようかとミラが裾に手を掛けた時、扉をノックする音が響き、メイド姿のマリアナが顔を覗かせる。
「おはようございます。ミラ様」
「うむ、おはよう」
「お手伝いします」
これからミラがやろうとしていた事を即座に察し、むしろタイミング良く現れたマリアナ。有無を言わせず駆け寄ると、手際良くミラを整えていく。
着替えの他にもミラの長い銀髪は、やる気に満ちたマリアナにより透明に近い青のリボンで両サイドに分けて束ねられた。より可愛らしさを引き立たせるツインテール姿にミラ自身も満更ではなく、鏡を前にして満足そうにしている。
思う存分、ミラの髪を弄れたマリアナも、その仕上がりに喜びの笑顔を湛える。
姿見に映った二人は、その鏡越しに見つめ合い淡く微笑んだ。
これから朝食という絶妙な時間で目を覚ましたルナと一緒に朝食を済ませた後、ミラは今後の大まかな予定をマリアナに話す。
これから城へ向かいソロモンに報告する事。ソウルハウルの残した資料の解読状況によっては、そのまま新たな目的地へ向かう事。場所によっては、長く空けるかもしれないと。
少し申し訳無さそうにするミラだったが、マリアナは「心配無用です」と寂しさなど感じさせない笑顔をミラに向ける。マリアナにもう憂いは無かった。只、主人の帰る場所を守れる事が喜びであり生きがいなのだ。
ミラは、そんなマリアナの様子に安心すると、手の甲に宿る加護の紋章を見つめ、その繋がりの大きさを実感する。
「では、そろそろ行ってくる」
ルナの毛並みを堪能しながら食後の紅茶を飲み終えると、ミラはそう言い立ち上がる。するとマリアナは、キッチンからバスケットを持ってきて、それを差し出した。
「昼食を用意しておきましたので、後で召し上がって下さい」
「うむ、ありがとう」
ミラは、そのバスケットを受け取り礼を言うと、何気なくマリアナの頭を一撫でした。その動作はとても自然で、一切の躊躇いも無い。その事に、ミラ自身が驚く。それは、マリアナに対しての壁が無くなったという証であろうか、掌の下で嬉しそうに顔を綻ばせるマリアナの姿に、ミラもこれで良かったのだと確信する事が出来た。
「後は任せる」
言いながらミラは、ルナをぎゅっと抱いてからマリアナに託した。マリアナは優しく受け取ると、そっと一礼する。
「いってらっしゃいませ」
簡潔であるがそのやりとりは、少女同士という関係ながらも琴瑟相和といった趣があり、随分と堂に入ったものであった。
だが、ミラは気付かなかった。ちょっとだけ頬を膨らせたマリアナに。抱き締めるなら忘れてはいけないもう一人。この事に気付くのは今後のミラの課題かもしれない。
塔を出て、いざ飛び立とうとしたミラは、立ち並んだ直ぐ隣の塔を見て不意にある事を思い出した。隣は死霊術の塔であり、思い出したのはアマラッテとの約束だ。侍女のリリィと話し、時間がある時に採寸したいと伝える事を今、思い出したのだ。
(そういえば、忘れておった)
ミラは、首都に向かう前に済ませてしまおうと、死霊術の塔へと入る。
突如、銀髪の少女が現れた死霊術の塔内部では、どよめきと共に好奇の視線がその少女に集中する。召喚術の塔と違い、ここにはそれなりの数の術士が日夜研究に励んでいる。ミラは、その様子の違いに肩を落としながら最上階へと上がった。術士達はその姿を見送りながら「あれが噂の」と、この場へ来た理由は気にせず、各方面から流れてくる少女自身の実力や、その外見について盛り上がり始める。蒼蝿水(FLY D5原液)
死霊術の塔最上階。ミラは、生体感知により補佐官室と執務室に誰かが居る事を確認する。アマラッテは賢者代行である為、居るとすれば執務室の方だろう。そうすぐに結論すると、ミラは執務室の扉を叩く。暫くして気配が近づき、赤頭巾をしていないアマラッテが顔を出した。
「あら、ミラさん。わざわざここまでという事は、あの件についてね」
ミラの姿で即座に用件を察したアマラッテは、僅かに笑みを浮かべる。その、どちらかというと知的な印象に、赤頭巾が無いとこれほど変わるのかと、ある意味感心しながらミラは「そうじゃ」と頷く。
「リリィも随分と乗り気のようじゃ。採寸したいので、可能な時間を教えて欲しいと言っておったぞ」
「そうですか。ありがとう、ミラさん。では、今日にでも行きましょうか」
そう答えたアマラッテは、初めて会った時には想像できないほど嬉しそうに破顔すると、扉脇の棚に置いてあった小包を手にして「これはお礼よ」と言い、それを差し出した。
「礼などされる程ではないんじゃがな」
「お礼でもあるけど、私の気持ち。貴女に似合うと思ったの」
「似合う? なんじゃろうな」
「ふふふ、後で確認して。きっと気に入るわ」
ミラは受け取った小包を一瞥すると、そのままアイテムボックスに入れて「用件はそれだけじゃ。ではな」と言いエレベーターに乗り下って行った。
「透き通る程の白い肌、輝く銀の髪。やはり、それに合うのは黒よね。シャルロッテさんもそう思うでしょ?」
アマラッテがそう誰かに問い掛けると、補佐官室から長身の女性が姿を現した。線は細く喪服に似た衣装を纏い、整い過ぎた目鼻立ちをしている。どこか儚げで虚ろな黒い瞳は、右目が眼帯で塞がれていた。シャルロッテと呼ばれた女性は、死霊術の塔の補佐官でありデイライトウォーカーという、云わば吸血鬼の一族でもある。
「その質問には同意しかねますね。私は、断然白を推します」
シャルロッテは、ミラの後を追うように塔の下へと視線を向けながら、きっぱりと意見する。幽鬼の如く揺らめく瞳は、壁を隔てても尚、銀髪の少女の姿を捉えていた。
「あら、また意見が分かれたわね」
「アマラッテ様でも、ここは譲れません」
二人は不敵に微笑み合うと、異質な気配を漂わせ始める。
塔を出たミラは、その足で魔術の塔へと向かう。今度はルミナリアだ。世界樹の欠片が手に入ったので、これを炭の代わりに出来ないかと訊く為である。
「おーい、ルミナリアー。おらぬかー、返事せーい!」
言いながら、私室の扉を全力で乱打するミラ。扉の軋む音が響く中、豪快に開け放たれた扉から、鋭く赤い影が飛び出した。
「いつになったら加減を覚える! ってか、このやりとりも懐かしいな!」
苛立たしげに、だが少し嬉しそうに、宙を貫いた足を下ろしながらルミナリアが言う。
「そうじゃろう、そうじゃろう。そう思って、今回は大盤振る舞いじゃ」
「そうか、それはありが、とうなんて言う訳ないだろう」
胸を張るミラの顔を鷲掴みにするルミナリア。とはいえ、力は込めていないので見せ掛けだけだ。
「で、何の用だ?」
軽く突き返すようにミラの頭を離し扉に持たれかかると、ルミナリアは毛先を弄りつつ顔だけを向ける。
ミラは、腕輪を操作しながら、
「お主からの頼まれ事に、世界樹の炭があったじゃろう。そこで、これを手に入れたんじゃが」
前置きして世界樹の欠片を取り出し、それをルミナリアに渡す。
受け取ったのは、何かの木片であり炭ですらない。だが、ミラが全く関係ない物を、そんな前置きと共に渡すとは考えられない事だ。ルミナリアは幾つかの可能性を考慮してから口を開く。
「もしかして、これ世界樹の欠片か?」
「うむ、正解じゃ。やった覚えは無いが、それを炭にするという事は可能か? 可能ならば一つ完了なんじゃがな」
「そういう事か。しかし、どうだろうな。試した事は無いから分からんが、その辺りは職人組合にでも問い合わせれば問題ないだろう。あそこは、レア度なんてお構い無しな変人の巣窟だしな。きっと、実験してると思うぜ」
世界樹の欠片は用途が多く効果も高いが非常に貴重な品である。対して世界樹の炭は主に浄化の秘石という特殊なアイテムの素材にしか使えない為、欠片ほどの需要は無い。僅かではあるが入手率も欠片よりは高いので、是が非でも浄化の秘石が欲しいという理由でもなければ、わざわざ欠片を炭にする必要など無いのだ。
「職人組合か。そんなものもあるんじゃな」
「ああ、他にも農林組合や海洋組合なんてのもあるぞ」
「随分と元の世界に近づいてきたもんじゃ。その内、国連も出来そうな勢いじゃな」
そう言い肩を竦めて笑うと、ルミナリアは「似た様なものならあるな」と笑い返す。気になったミラが、それについて問うと、ルミナリアは大まかな内容を説明した。
曰く、それは『日之本委員会』といい、元プレイヤーの国主が集い、秘密裏に開かれるのだという。元プレイヤーであるが故に、現代的な平和思想を持っており、仮想ではなく実際の命が生きる世界で、戦争ゲーム等するべきで無いという倫理観が生まれた事に端を発する。国主が次々と名乗りを上げ、元プレイヤー同士の取り決めを世界の裏で交わしていたという事だった。
元プレイヤー最大国家である、アトランティス王国が音頭を取り国主を招致し話し合った結果、最初の会合では宣戦布告の禁止が約束される。SPANISCHE FLIEGE
これにより戦争は大きく減ったが、それでも無くなる事は無かった。何故ならば、元プレイヤー以外の国主、つまりこの世界で元から生きていた者が長である国があるからだ。日之本委員会では、その国を原生国と呼んでおり、元プレイヤーが国主を務める国よりも数は多かった。
ほとんどが日本人の思想を持ち、戦争の回避に尽力する元プレイヤーの国主と、この世界で元から生きている者達の戦争に関する価値観には、大きなずれがあった。故に、好機があれば攻め込まれ、周囲を原生国に囲まれた元プレイヤーの国は、外交により緩和したり悪化したりと気の抜けない状態にあるという。中には度重なる原生国の侵攻に痺れを切らし、開戦を宣言した元プレイヤー国主も居るのだという話だ。
現在では委員会の名の下に、元プレイヤー間同士・・・・・・・・の戦争の禁止が確約されており、別の方面でも様々な経済効果が齎されているという事だ。
「今も諦めずに、説得を続けているらしいがな。そもそも戦争の原因を解決できなきゃ止まらないだろう。国の為、富の為、生きる為、より良い生活の為に争う。間違っちゃいないが歪んでるよな。手を取り合えば良いものを、思想、過去、国、そんな目に見えない悪魔が邪魔をするんだ。ま、正直オレには良く分からん事だがな」
「わしも、そういった事は苦手じゃな。ソロモンに任せておけばいいじゃろう」
二人は冗談交じりにそう言い合うと、決して表に出す事無く心の中でソロモンに感謝するのだった。
「とりあえず、それが炭に出来れば後は、紅蓮王の剣じゃな」
「ああ、頼んだぜ」
二人は、簡単に挨拶を交わして分かれた。ルミナリアは、早速リタリアを呼び出し職人組合に問い合わせる。ミラはエレベーターの中、アルカイト王国の立地を思い出していた。
もし昔と変わっていないのなら、アルカイト王国の近くには原生国が幾つかあったはずだ。
(戦争は本来、そういうものじゃったな。一度開戦してしまえば、誰かが死ぬ。その為の抑止力……か)
ミラは、改めて自分に課せられた任務の重さを実感しながら、魔術の塔を後にする。
塔を出てペガサスに乗り、シルバーホーンを飛び立ったミラ。それから数時間後には、アルカイト王国首都ルナティックレイクの王城へと到着していた。
門番と一言二言、挨拶を交わし城内へと入ったミラは、誰かにソロモンの居場所を聞きだそうとエントランス内を見回す。首都の王城だけあって、シャンデリアや絵画、定番の甲冑にランプ、中央階段から続く刺繍の見事な赤い絨毯と、贅に富んだ内観に改めて感心する。
(玄関だけあって、やはり豪華じゃな。しかし、あの辺の絵は誰が描いたんじゃろう)
趣味が良いのか悪いのか判断に困る、半裸の精霊達の集う湖を描いた大判。少女が川を駆けて行く一瞬を切り出した、躍動感溢れる中版。そして、薄布一枚を纏った少女と空を舞う天使が、伸ばした手を絡め合う小判。元の世界ではイラストと呼称されそうな幻想的な絵画が立派な額縁に入れられて飾られている。
そんな絵を眺めながら、どうでもいい事を考えていたミラの目が、見知った人物の姿を捉えた。台車に無数の本を乗せて運ぶソロモンの補佐官スレイマンだ。
「おお、スレイマンではないか。丁度良いところに」
駆け寄ったミラがそう声を掛けるとスレイマンは足を止めて、にこやかな笑顔を返す。
「これはこれはミラ様。おかえりなさいませ」
「うむ、ただいまじゃな」
台車から手を離すと、略式の礼をとるスレイマン。ミラも簡単に挨拶を返すと、スレイマンの運んでいた台車の本を一瞥する。そのタイトルは多岐に渡っていたが、積み上げられた本の全ては一貫して古代に関しての資料であった。
「全部押し付けてしまってすまんのぅ。手伝いたいところじゃが、わしも解読といった事は苦手でな」
「いえいえ、私としてはお礼を言いたいくらいです。私の古代と精霊の知識がソロモン様の為に役立てられる日が来るとは思ってもいませんでした。ですから、今は毎日がとても充実しております。それもこれもミラ様が持ち帰って下さった資料のお陰でございます」
そう言って、心底嬉しそうな雰囲気を溢れさせるスレイマン。その様子にミラも、スレイマンはこういう人物だったと改めて思い出す。
「ミラ様は、これからご報告ですか」
「そのつもりじゃ。ところで今、ソロモンはどこにおる?」
「この時間ですと、執務室かと。ご案内いたしましょう」
スレイマンは、台車を目立たない端に寄せ始める。だがミラは、解読作業を邪魔をしては悪いと思い、SPANISCHE FLIEGE D9
「いや、結構じゃ。見たところお主も忙しいじゃろう。場所は覚えておるしのぅ」
そう言いながら、執務室のある方へと視線を向ける。
「分かりました。私は暫く資料室に居ますので、必要があればいつでもお呼び下さい」
「うむ、引き止めてすまんかったな」
エントランスで偶然出会った二人。ミラは、中央階段を上って執務室方面へと向かい、スレイマンは台車を押してエントランスを横切って行った。
「ほれ、例のブツじゃ」
王の執務室で挨拶もそこそこに、ミラは天魔迷宮プライマルフォレストで採取してきた始祖の種子を机の上に並べる。
「わっ、すごいね。十個集められたんだ。いやぁ、ありがとう」
始祖の種子を確認したソロモンは、必要数よりも少し嵩増しした数を揃えてきたミラに、驚きながらも感謝すると、机から箱を取り出してその中へ保管する。
「それがのぅ、団員一号がほとんど見つけてくれたんじゃよ。どこにあるか分かるようでな。意外な能力の発見で、随分と簡単に終わったわい」
ミラは、いつものソファーに深く腰掛けて、自分のケット・シーを少し自慢げに話す。
「そうだったんだ。それはすごい能力だ。そんなに簡単なら、また頼んでも良さそうだね。嬉しいよ」
「う……。まあ、近くに用事が出来たらのぅ」
ミラは足を投げ出すと、苦笑しながら答える。そんな様子に、ソロモンは感謝して微笑むと「それで、どうだった」と本題を切り出す。
「長老から証言は得られた。ソウルハウルが聖杯を求めている事は間違いないじゃろう」
「そっか。なら、この線を追っていけば捕まえられそうだね」
ソロモンは、資料だけ集めても結局、聖杯には手を出していなかったという結果も予想していた。だが、ミラがその目で痕跡を確認してきた事で、この先には確実にソウルハウルが居るという事が確かなものとなったのだ。
全てが水の泡になる様な結果は回避できた。その朗報にソロモンは安心したのか、少しだけ頬を緩める。
「うむ。それとじゃな、切られた根の状態を見たところ、かなり古そうじゃった。長老はいつ来たか覚えておらんかったが、これが分かれば少し工程を飛ばせるのではないか」
専門的な知識が無いので、切り口の時期を特定する事は出来ない。知識があろうとも、常識外である御神木の成長を把握する事は難しいだろう。だが、ソウルハウルが順調に手順を辿っているならば、序盤の分は完了しているものとして省略する事も可能だろうとミラは考えた。
「そうだね。僕としては、長老が覚えている事に期待していたんだけど、神様は大雑把だからねー。後は、どれだけ飛ばすか何だけど、もう少し特定材料が必要かな」
ソロモンとしても、ソウルハウル一人に時間を掛ける訳にもいかないので、省略できるところは極力飛ばしていくつもりだった。だが現状、その指標となるものが一切無いので、順番に巡り指標となりそうな情報を探してもらうという手段をとっているのだ。
「ふーむ、そういえばのぅ、特定材料になりそうにはないんじゃが、あ奴は帰り際に黒い何かが必要だとか言っておったそうじゃ」
「黒い何か?」
「うむ、それと……杯を削る云々じゃったかのぅ」
「削る……か。黒い何かで根を削る、とかかな。でも黒ってなんだろう」
ソロモンは、その脈絡の無い情報に首を傾げ「黒い……削る、黒いー」と呟く。言ったミラも、結局どういう意味だったのだろうかと、天井を仰ぎながら「黒、黒」と繰り返していた。
「とりあえず、僕達じゃ考えるだけ無駄そうだね。新情報だし、専門家を呼ぶとしようか」
早々に諦めたソロモンは、いつか見た呼び鈴を指先で弾く。
暫くして扉がノックされると、専門家スレイマンが顔を見せた。
「スレイマンよ、解読の方はどこまで進んでいる」
声を低く、威厳を出すようにしてソロモンが言う。
「只今判明している部分は、根を加工する為には自然物の何かが必要であるというところです。更に、特別な場所でなければ加工できないらしいのですが、その場所自体に関する記述が無く、難航しております」
状況を説明し、申し訳無さそうに頭を下げるスレイマン。
「そうか。何かの切っ掛けになるかは分からないが、新たな情報を長老から直接、そこのミラが得てきた。黒い何かで削るような事らしい。何か心当たりはないか」
「忙しいところすまんのぅ。わしらではさっぱりでな」
「いえ、これも私の役目。この場に呼んでいただき光栄でございます」
スレイマンは呼ばれた理由に、心なしか嬉しそうに一礼する。
ミラは、そんな途中参加のスレイマンに、長老との話を最初からだが簡潔に話して聞かせる。
それからスレイマンは、押し黙ったまま神妙な面持ちで、解読分とミラが持ち込んだ情報を整理統合し始める。すると、徐々に不鮮明だった部分に解が浮かび上がってきた。
「なるほど。ありがとうございます、ミラ様。次の場所が分かりました」
数分で最終的な結論を導くと、スレイマンは晴れ晴れとした表情で宣言する。
「なんと。それは素晴らしいのぅ」
「スレイマンよ、その場所はどこと出た」
スレイマンは、懐に入れていた地図を取り出すと「失礼します」と言い机の上に広げる。それは、三神国やアルカイト王国の属するアース大陸の全図で、スレイマンはその東側、アリスファリウス聖国の北に位置する山脈を指し示す。SPANISCHE FLIEGE D6
2013年6月25日星期二
末路
その夜、俺は隠れ家に泊まることにした。ちなみにサピールもライドさんも帰ってこなかった。リバーシをしていた子供達は20時にはウトウトとしだして21時前には寝てしまった。フェリアも一緒に奥の部屋で寝ている。入り口のある部屋で俺は一人見張りをしつつ、寝転がって今後の事を考えていた。簡約痩身美体カプセル
(マオちゃん達を故郷に帰すにはどうしたらいいだろう。誰かに送ってもらうというのは、やはり女子供しかいない以上不安だし、やはり俺が連れて行くか……。しかし王都に依頼達成の報告に行かなきゃいけないし、どうしたものか……。あっ元がここの依頼なんだから別に王都へは報告なんてしなくていいのか? 明日、支部長に聞いてみよう。その時ついでにパトリアへの移動方法なんかも聞いておこう)
そう考えながら眠りに付いた。翌朝、また4時に目が覚めると隣の部屋を確認し、誰も起きていないことを確認した後、カードを引く。出たカードは
No227C:公開思考 対象は口に出さなくても思っていることが周りに聞こえるようになる。脳に直接届くため口を塞いでも防ぐことはできない。
No251C:思考詠唱 一定時間セットのワードを言わずに考えるだけでカードを起動することができる。
No254C:変身願望 自身のイメージした鎧を纏うことが出来る。起動から24時間効果は持続する。このカードは腕を交差させた状態で変身のワードでも起動することができる。
No271C:定時定点 現在時刻、現在位置をカード【定時転移】で転送するポイント、時間として設定する。すでに設定されている場合は後から登録したポイント、時間に上書きされる。デリートしても上書きされた前回の情報は復元されない。
No283C:効果停止 起動中のカードを停止し、カードの状態に戻す。但し起動完了し、カードが消えている場合は効果を停止できない。
まさかの変身!? ついに俺も変身ヒーローになれるというのか!! これは熱い! そして自身の正体を隠せるというのはかなり使えるカードだ。他のもかなりいい性能だ。271だけは他のカードとセットで効果を発揮するタイプみたいだからまだ使えないようだけど、今回はみんな使えるカードばかりだ。大当たりだな。そして最後の1枚。これはいい。伯爵にはこいつを使うことにしよう。
鍋と火をつける魔道具を鞄から取り出し、スープの元と水を入れる。それと同時にスープ用の乾燥した肉や野菜も一緒に入れ火に掛ける。地球に比べれば不便な所でも、やはりよく使うものは便利に進化していくものらしい。ハンターにおいて携帯できる食事というのは、非常に重要な要素なのだろう。魔法を使ったフリーズドライ方式なのだろうか。フリーズドライっていうのをそもそもよく知らないけどそんなものだろうと思っておいた。
10分程煮込むと辺りにいい臭いが立ちこめてきた。すると扉が開き、子供達が起きてきた。
「おはようにゃ」「「おはようございます」」
「ああ、おはよう。よく眠れたようだね。スープできてるよ」
「ありがとうございます」
犬耳姉フェリアがお礼を言う。この娘もこの時間まで寝てたんだろうか。まぁ早く起きても特にやること無いしな。みんなにパンを渡して朝食を取る。ちなみにこの部屋には、小さいちゃぶ台のような円形の机があってそこで食べている。食卓を囲って食べる食事は美味しいものだ。あまり時間は経ってないが、おっちゃんの家での食事が懐かしい。
朝食を終えると俺は街へと向かった。街は朝早いにもかかわらず賑にぎわっていた。俺は伯爵を探しながらギルドへと向かった。慎重に見て回ったが伯爵を見つけることはできなかった。1日飲まず食わず位じゃ死なないし、アレが自殺するタマには到底見えない。まだどこかで寝てるんだろう。俺は一旦伯爵を諦めギルドへと向かった。西班牙蒼蝿水
ギルドへ着くと知らない受付嬢に支部長へ取り次ぎを頼む。すると今日はすでに支部長は来ているようで、そのまま支部長の部屋へと通された。
「おお、キッドか。こんな朝早くからどうしたんじゃ?」
「おはようございます。ライドさんは昨日来ましたか?」
「ああ、お主の言ったとおり無事だったようじゃ。お主のお陰で大事な職員を失わずに済んだ。心から礼を言わせて貰う」
「まぁ成り行きと気まぐれですよ。それより伯爵の屋敷の方は調べましたか?」
「昨日簡単な調査を行おこなって貰ったが……屋敷はそれはもう酷い有様だったようじゃ。暗かったので詳しい調査は今日に持ち越したが、昨日の段階では屋敷に生きている者はいなかったそうじゃ」
どうやら誰も助からなかったらしい。いや、調査前に逃げ出していた可能性もあるか。生き残りの兵が居たら見つかり次第処分しておこう。
「へー、怖いこともあるものですねぇ」
「そうじゃのう。後、王都へは一応連絡しておいたから、すぐに国から調査隊が派遣されるじゃろう」
「そうですか。ここも平和になるといいですねぇ」
「そうじゃのう。しかし、伯爵の遺体が見つかったという報告は受けておらん。今日の調査で分かると思うが」
「無事だといいですねぇ」
すると支部長はどの口で言っているんだ? という顔をしてこちらを見てきた。
「なんです?」
「いや、なんでもない。無事だといいのう」
「後、ちょっとお聞きしたいことがあるんですが、伯爵にさらわれた亜人の子達を故郷に帰してあげたいんですが、何かいい方法はありませんか?」
「亜人か……とするとパトリアか?」
「そうです」
「なら、馬車で行くしかないのう。飛行艇もパトリアには出ておらんしのう」
「飛行艇?」
なんでも魔石の力で空を飛ぶ船があるんだとか。リグザールと王都を結んで定期運行しているようだが、貴族以外はよっぽどの金持ちか高ランクハンターでもなければ乗船するための許可証パスの取得ができないらしい。
空飛ぶ船とか何それすげえ!? 超乗ってみてえ!! あの子達を送った後、乗る方法を考えてみよう。
「馬車はパトリアまで定期運行みたいなのがでてるんですか?」
「でておらんのう。行くなら自前の馬車か商人に乗せて貰うくらいしかないじゃろうが、何分今は情勢が悪いからパトリアに向かう商人は少ないじゃろう」
やはり公共交通機関のようなものはないか。なら色々と便利そうだから馬車を買うか。
「そうですか。なら馬車を購入して送ることにします。馬車を買うのに支部長、どこか伝手はありませんか?」
「馬車か……そういえば知り合いが、試験的に馬車用の荷車を作ったから試験運用してほしいとの話があったな。馬は付いてこないが、それを使えば安く済むと思うぞ。品については儂は見ておらんのでなんともいえんが」
なんか発明家みたいなのがいるんだろうか。サスペンション付きの馬車とか作ったんかな? 不安だがなんか面白そうだ。やばそうなら断ればいい。
「それ使ってみます。使えるように話つけて貰えませんか?」
「分かった、話をつけておく。夕方以降にまた来るといい。しかし、なんの縁もゆかりもない亜人のためになぜそこまでする?」procomil spray
「誰かを助けるのに理由が必要ですか?」
ドヤァ! という効果音が聞こえそうな決め顔で俺はそう言った。どうしても一生に一度は言ってみたかった台詞だったので言ってみただけだ。今は反省している。
「ふう、パトリアの者が皆、お主のような考えなら亜人の迫害なぞ起きないじゃろうに……」
支部長はため息をついた後、妙に感心したようにそう言った。すみません。本当はその後に「ただし、かわいい女の子に限る」って言葉が入るんです。そう思っていたけどあえて口には出さなかった。
「後もう一つ聞きたいんですが、私が受けた調査依頼の完了報告は、王都のギルドの方にもしないといけないですか?」
「こちらのギルドから報告が行っておるから、特に報告に行く必要はない」
どうやらわざわざ王都へ行く必要は無さそうだ。そのままパトリアに向かう予定だったので助かった。一旦王都に向かうと出発までに一月は余計に掛かりそうだからな。俺は支部長にお礼を言いつつ部屋を後にした。仮眠室に着くとライド一家とアマンテさんが出迎えてくれた。
「キッドさん! ライドのこと本当にありがとうございました。こうしてみんなで一緒に居られるのも貴方のお陰です」
「あー焼き鳥のおじちゃんだ!」
「ちゃんだ!」
ライドさんの弟と妹には完全に焼き鳥のおじさんということになってしまったようだ。
「こらっ! すまんな、こいつらにも焼き鳥を買ってくれたんだな。それで旨かったせいか完全にお前のことは焼き鳥で覚えてしまったようだ」
「別にいいですよ」
俺は兄妹の頭を撫でながらそう言った。2人供とても気持ちよさそうに目を細めている。
「もう家に戻られますか?」
「ああ、今日はアマンテと2人休暇を貰ったんでな。今日はゆっくりと家族4人で過ごすつもりだ。そうだ、一緒に食事でもどうだ? それくらいじゃ全然足りないが、少しくらいお礼をさせてくれ」
「それがいいわ! この子達も懐いてるようですし」
「ああ、すみません。今日はまだちょっとやり残した仕事があるんですよ。それにあの子達を放ってはおけませんからね。残念ですが今日は遠慮しておきます」
ラブラブカップルと一緒に食事とかアウェイにも程があるしな。
「そうか、それは残念だ。いずれそちらの都合のいいときにご馳走するよ。俺が言うのもなんだがアマンテの料理は絶品なんだ」
「楽しみにしておきますよ。それじゃ」
そう言って俺はギルドを後にした。この事件の最後の仕上げ、伯爵の処分をしなければ。俺は街を隈無く探し歩いた。小一時間程探し回った後、ようやく伯爵を見つけることができた。伯爵は俺がいつも買う焼き鳥の屋台の前で倒れていた。ちなみに行きもこの道を通ったのだが、その時はいなかった。臭いに釣られてどこからか移動してきたのだろうか。臭いだけ嗅ぐとか逆にお腹が減る一方だと思うんだが。
伯爵はたった1日飲まず食わずだっただけで相当まいっているようだ。道のど真ん中にいるし、これならいけそうだ。俺は路地に隠れて伯爵を視界に納めた。WENICKMANペニス増大
「173デリート」
カードの効果が切れ、伯爵は周りに認識されるようになった。「きゃああ」という女性の悲鳴が辺りに響き渡った。いきなり裸の男が道端に倒れていたら誰だって驚だろう。しかし、伯爵は弱っているのか反応が弱い。自分のことだと気づいていないのだろうか。その一瞬の隙を突き、俺は今朝取得した最後のカードを使う。
「257セット」
すると巨大な蜂が現れ、地面に倒れている伯爵の上に覆い被さり喉に針を刺した。
「ぐああああああああ!!」
急なことに伯爵が悲鳴を上げる。それと同時に周りから「魔物だ!」なんて叫び声が聞こえてくる。蜂は喉に刺した後に再度背中に針を突きさした。最初に刺されてから一瞬、伯爵は起きあがってふりほどこうとした用に見えたがすぐに伯爵は動きを止めた。
No257C:宝石苗床 対象は巨大な寄生蜂に襲われる。対象以外は襲われない。蜂は非常に弱いため、寄生する前に攻撃されると消滅する。蜂は卵を対象の体内に産み付けた後消滅する。幼虫が蛹になるまで苗床となった対象は動くことができず、意識を失うことも死ぬこともできない。蛹から孵ると生まれた蜂は巨大な宝石となる。
これは地球にいた寄生蜂というやつだ。たしかセナガアナバチとかそんなような名前だった気がする。この蜂はたしかゴキブリを毒でコントロールして生きたまま幼虫の餌にするとかいう、とんでもない蜂だ。寄生されたゴキブリは死ぬこともなく延々と生きたまま幼虫に体内を食われ続けるという。そして幼虫が蛹になるころにようやく死ぬことができる。これほど惨むごい死に方は早々ないだろう。
伯爵の背中に針を刺した後、蜂は街の住人達が警戒して見守る中、うっすらとそのまま景色にとけ込むように姿を消していった。街の住人が騒然とする中、街を警備しているであろう兵士達がやってきた。一体どこの所属なんだろう? 伯爵の兵は居ないだろうからどこか別の所から派遣されているのか、それとも自警団なのか。
「魔物はどこだ?」
兵士がそう尋ねるが、皆一様にそろって「消えてしまった」と答えている。まぁ実際そうだからそれ以外答えようがないんだけど。そして兵士は襲われたとおぼわしき倒れている男を調べる。うつぶせに倒れていた男を仰向けにひっくり返すと誰かが伯爵様じゃないかという声を上げた。それからはもう大変な騒ぎになっていた。自分達の領主である伯爵が、なぜか日中から街のど真ん中で、しかも裸で魔物に襲われるという全く訳が分からない事件が起きたからだ。恐らくこのニュースは瞬く間に町中に広まるだろう。伯爵はまだ生きているが喋れないようで、そのままどこかへ連れて行かれてしまった。
「忍び寄る死の恐怖に怯えながら、生まれたことを後悔して死んでいけ」
俺は誰に言う訳でもなく、ぼそっとそう呟いてその場を立ち去った。後は何日か後に一応結果を確認して、それからパトリアに旅立つことにしよう。それまでこの街で依頼を受けるのもいいかもしれないな。とりあえずマオちゃん達を連れてどこかに昼食を食べに行くことにしよう。Xing霸 性霸2000
(マオちゃん達を故郷に帰すにはどうしたらいいだろう。誰かに送ってもらうというのは、やはり女子供しかいない以上不安だし、やはり俺が連れて行くか……。しかし王都に依頼達成の報告に行かなきゃいけないし、どうしたものか……。あっ元がここの依頼なんだから別に王都へは報告なんてしなくていいのか? 明日、支部長に聞いてみよう。その時ついでにパトリアへの移動方法なんかも聞いておこう)
そう考えながら眠りに付いた。翌朝、また4時に目が覚めると隣の部屋を確認し、誰も起きていないことを確認した後、カードを引く。出たカードは
No227C:公開思考 対象は口に出さなくても思っていることが周りに聞こえるようになる。脳に直接届くため口を塞いでも防ぐことはできない。
No251C:思考詠唱 一定時間セットのワードを言わずに考えるだけでカードを起動することができる。
No254C:変身願望 自身のイメージした鎧を纏うことが出来る。起動から24時間効果は持続する。このカードは腕を交差させた状態で変身のワードでも起動することができる。
No271C:定時定点 現在時刻、現在位置をカード【定時転移】で転送するポイント、時間として設定する。すでに設定されている場合は後から登録したポイント、時間に上書きされる。デリートしても上書きされた前回の情報は復元されない。
No283C:効果停止 起動中のカードを停止し、カードの状態に戻す。但し起動完了し、カードが消えている場合は効果を停止できない。
まさかの変身!? ついに俺も変身ヒーローになれるというのか!! これは熱い! そして自身の正体を隠せるというのはかなり使えるカードだ。他のもかなりいい性能だ。271だけは他のカードとセットで効果を発揮するタイプみたいだからまだ使えないようだけど、今回はみんな使えるカードばかりだ。大当たりだな。そして最後の1枚。これはいい。伯爵にはこいつを使うことにしよう。
鍋と火をつける魔道具を鞄から取り出し、スープの元と水を入れる。それと同時にスープ用の乾燥した肉や野菜も一緒に入れ火に掛ける。地球に比べれば不便な所でも、やはりよく使うものは便利に進化していくものらしい。ハンターにおいて携帯できる食事というのは、非常に重要な要素なのだろう。魔法を使ったフリーズドライ方式なのだろうか。フリーズドライっていうのをそもそもよく知らないけどそんなものだろうと思っておいた。
10分程煮込むと辺りにいい臭いが立ちこめてきた。すると扉が開き、子供達が起きてきた。
「おはようにゃ」「「おはようございます」」
「ああ、おはよう。よく眠れたようだね。スープできてるよ」
「ありがとうございます」
犬耳姉フェリアがお礼を言う。この娘もこの時間まで寝てたんだろうか。まぁ早く起きても特にやること無いしな。みんなにパンを渡して朝食を取る。ちなみにこの部屋には、小さいちゃぶ台のような円形の机があってそこで食べている。食卓を囲って食べる食事は美味しいものだ。あまり時間は経ってないが、おっちゃんの家での食事が懐かしい。
朝食を終えると俺は街へと向かった。街は朝早いにもかかわらず賑にぎわっていた。俺は伯爵を探しながらギルドへと向かった。慎重に見て回ったが伯爵を見つけることはできなかった。1日飲まず食わず位じゃ死なないし、アレが自殺するタマには到底見えない。まだどこかで寝てるんだろう。俺は一旦伯爵を諦めギルドへと向かった。西班牙蒼蝿水
ギルドへ着くと知らない受付嬢に支部長へ取り次ぎを頼む。すると今日はすでに支部長は来ているようで、そのまま支部長の部屋へと通された。
「おお、キッドか。こんな朝早くからどうしたんじゃ?」
「おはようございます。ライドさんは昨日来ましたか?」
「ああ、お主の言ったとおり無事だったようじゃ。お主のお陰で大事な職員を失わずに済んだ。心から礼を言わせて貰う」
「まぁ成り行きと気まぐれですよ。それより伯爵の屋敷の方は調べましたか?」
「昨日簡単な調査を行おこなって貰ったが……屋敷はそれはもう酷い有様だったようじゃ。暗かったので詳しい調査は今日に持ち越したが、昨日の段階では屋敷に生きている者はいなかったそうじゃ」
どうやら誰も助からなかったらしい。いや、調査前に逃げ出していた可能性もあるか。生き残りの兵が居たら見つかり次第処分しておこう。
「へー、怖いこともあるものですねぇ」
「そうじゃのう。後、王都へは一応連絡しておいたから、すぐに国から調査隊が派遣されるじゃろう」
「そうですか。ここも平和になるといいですねぇ」
「そうじゃのう。しかし、伯爵の遺体が見つかったという報告は受けておらん。今日の調査で分かると思うが」
「無事だといいですねぇ」
すると支部長はどの口で言っているんだ? という顔をしてこちらを見てきた。
「なんです?」
「いや、なんでもない。無事だといいのう」
「後、ちょっとお聞きしたいことがあるんですが、伯爵にさらわれた亜人の子達を故郷に帰してあげたいんですが、何かいい方法はありませんか?」
「亜人か……とするとパトリアか?」
「そうです」
「なら、馬車で行くしかないのう。飛行艇もパトリアには出ておらんしのう」
「飛行艇?」
なんでも魔石の力で空を飛ぶ船があるんだとか。リグザールと王都を結んで定期運行しているようだが、貴族以外はよっぽどの金持ちか高ランクハンターでもなければ乗船するための許可証パスの取得ができないらしい。
空飛ぶ船とか何それすげえ!? 超乗ってみてえ!! あの子達を送った後、乗る方法を考えてみよう。
「馬車はパトリアまで定期運行みたいなのがでてるんですか?」
「でておらんのう。行くなら自前の馬車か商人に乗せて貰うくらいしかないじゃろうが、何分今は情勢が悪いからパトリアに向かう商人は少ないじゃろう」
やはり公共交通機関のようなものはないか。なら色々と便利そうだから馬車を買うか。
「そうですか。なら馬車を購入して送ることにします。馬車を買うのに支部長、どこか伝手はありませんか?」
「馬車か……そういえば知り合いが、試験的に馬車用の荷車を作ったから試験運用してほしいとの話があったな。馬は付いてこないが、それを使えば安く済むと思うぞ。品については儂は見ておらんのでなんともいえんが」
なんか発明家みたいなのがいるんだろうか。サスペンション付きの馬車とか作ったんかな? 不安だがなんか面白そうだ。やばそうなら断ればいい。
「それ使ってみます。使えるように話つけて貰えませんか?」
「分かった、話をつけておく。夕方以降にまた来るといい。しかし、なんの縁もゆかりもない亜人のためになぜそこまでする?」procomil spray
「誰かを助けるのに理由が必要ですか?」
ドヤァ! という効果音が聞こえそうな決め顔で俺はそう言った。どうしても一生に一度は言ってみたかった台詞だったので言ってみただけだ。今は反省している。
「ふう、パトリアの者が皆、お主のような考えなら亜人の迫害なぞ起きないじゃろうに……」
支部長はため息をついた後、妙に感心したようにそう言った。すみません。本当はその後に「ただし、かわいい女の子に限る」って言葉が入るんです。そう思っていたけどあえて口には出さなかった。
「後もう一つ聞きたいんですが、私が受けた調査依頼の完了報告は、王都のギルドの方にもしないといけないですか?」
「こちらのギルドから報告が行っておるから、特に報告に行く必要はない」
どうやらわざわざ王都へ行く必要は無さそうだ。そのままパトリアに向かう予定だったので助かった。一旦王都に向かうと出発までに一月は余計に掛かりそうだからな。俺は支部長にお礼を言いつつ部屋を後にした。仮眠室に着くとライド一家とアマンテさんが出迎えてくれた。
「キッドさん! ライドのこと本当にありがとうございました。こうしてみんなで一緒に居られるのも貴方のお陰です」
「あー焼き鳥のおじちゃんだ!」
「ちゃんだ!」
ライドさんの弟と妹には完全に焼き鳥のおじさんということになってしまったようだ。
「こらっ! すまんな、こいつらにも焼き鳥を買ってくれたんだな。それで旨かったせいか完全にお前のことは焼き鳥で覚えてしまったようだ」
「別にいいですよ」
俺は兄妹の頭を撫でながらそう言った。2人供とても気持ちよさそうに目を細めている。
「もう家に戻られますか?」
「ああ、今日はアマンテと2人休暇を貰ったんでな。今日はゆっくりと家族4人で過ごすつもりだ。そうだ、一緒に食事でもどうだ? それくらいじゃ全然足りないが、少しくらいお礼をさせてくれ」
「それがいいわ! この子達も懐いてるようですし」
「ああ、すみません。今日はまだちょっとやり残した仕事があるんですよ。それにあの子達を放ってはおけませんからね。残念ですが今日は遠慮しておきます」
ラブラブカップルと一緒に食事とかアウェイにも程があるしな。
「そうか、それは残念だ。いずれそちらの都合のいいときにご馳走するよ。俺が言うのもなんだがアマンテの料理は絶品なんだ」
「楽しみにしておきますよ。それじゃ」
そう言って俺はギルドを後にした。この事件の最後の仕上げ、伯爵の処分をしなければ。俺は街を隈無く探し歩いた。小一時間程探し回った後、ようやく伯爵を見つけることができた。伯爵は俺がいつも買う焼き鳥の屋台の前で倒れていた。ちなみに行きもこの道を通ったのだが、その時はいなかった。臭いに釣られてどこからか移動してきたのだろうか。臭いだけ嗅ぐとか逆にお腹が減る一方だと思うんだが。
伯爵はたった1日飲まず食わずだっただけで相当まいっているようだ。道のど真ん中にいるし、これならいけそうだ。俺は路地に隠れて伯爵を視界に納めた。WENICKMANペニス増大
「173デリート」
カードの効果が切れ、伯爵は周りに認識されるようになった。「きゃああ」という女性の悲鳴が辺りに響き渡った。いきなり裸の男が道端に倒れていたら誰だって驚だろう。しかし、伯爵は弱っているのか反応が弱い。自分のことだと気づいていないのだろうか。その一瞬の隙を突き、俺は今朝取得した最後のカードを使う。
「257セット」
すると巨大な蜂が現れ、地面に倒れている伯爵の上に覆い被さり喉に針を刺した。
「ぐああああああああ!!」
急なことに伯爵が悲鳴を上げる。それと同時に周りから「魔物だ!」なんて叫び声が聞こえてくる。蜂は喉に刺した後に再度背中に針を突きさした。最初に刺されてから一瞬、伯爵は起きあがってふりほどこうとした用に見えたがすぐに伯爵は動きを止めた。
No257C:宝石苗床 対象は巨大な寄生蜂に襲われる。対象以外は襲われない。蜂は非常に弱いため、寄生する前に攻撃されると消滅する。蜂は卵を対象の体内に産み付けた後消滅する。幼虫が蛹になるまで苗床となった対象は動くことができず、意識を失うことも死ぬこともできない。蛹から孵ると生まれた蜂は巨大な宝石となる。
これは地球にいた寄生蜂というやつだ。たしかセナガアナバチとかそんなような名前だった気がする。この蜂はたしかゴキブリを毒でコントロールして生きたまま幼虫の餌にするとかいう、とんでもない蜂だ。寄生されたゴキブリは死ぬこともなく延々と生きたまま幼虫に体内を食われ続けるという。そして幼虫が蛹になるころにようやく死ぬことができる。これほど惨むごい死に方は早々ないだろう。
伯爵の背中に針を刺した後、蜂は街の住人達が警戒して見守る中、うっすらとそのまま景色にとけ込むように姿を消していった。街の住人が騒然とする中、街を警備しているであろう兵士達がやってきた。一体どこの所属なんだろう? 伯爵の兵は居ないだろうからどこか別の所から派遣されているのか、それとも自警団なのか。
「魔物はどこだ?」
兵士がそう尋ねるが、皆一様にそろって「消えてしまった」と答えている。まぁ実際そうだからそれ以外答えようがないんだけど。そして兵士は襲われたとおぼわしき倒れている男を調べる。うつぶせに倒れていた男を仰向けにひっくり返すと誰かが伯爵様じゃないかという声を上げた。それからはもう大変な騒ぎになっていた。自分達の領主である伯爵が、なぜか日中から街のど真ん中で、しかも裸で魔物に襲われるという全く訳が分からない事件が起きたからだ。恐らくこのニュースは瞬く間に町中に広まるだろう。伯爵はまだ生きているが喋れないようで、そのままどこかへ連れて行かれてしまった。
「忍び寄る死の恐怖に怯えながら、生まれたことを後悔して死んでいけ」
俺は誰に言う訳でもなく、ぼそっとそう呟いてその場を立ち去った。後は何日か後に一応結果を確認して、それからパトリアに旅立つことにしよう。それまでこの街で依頼を受けるのもいいかもしれないな。とりあえずマオちゃん達を連れてどこかに昼食を食べに行くことにしよう。Xing霸 性霸2000
2013年6月22日星期六
妻の要請、夫の要望
「……よって、シャロワ・ジルベール双王国、正確に言えばシャロワ王家は、付与魔法の血統を受け継ぐそなたを放っては置かぬであろう。何度も前言を翻して悪いが、そう言うわけで、そなたに側室を付けるわけに行かなくなった。美人豹
すまぬが、しばらくはそなたの周りが騒がしくなるが、協力を頼みたい」
その日の夜、夕食と入浴を済ませたアウラは、後宮の一室で善治郎と向かい合い、昼間に届いた書状の中身と、そこから推測される情報、そしてそれに対するこちらの対応に付いて、事細かく説明したのだった。
百五十年前、カープァ王国の王子と異世界へ駆け落ちを果たした女は、シャロワ王家の王女であった可能性が高いこと。
その子孫である善治郎は、カープァ王家だけでなく、シャロワ王家の血も引いていると思われること。
そのため、時空魔法の適正が表面化している善治郎自身はともかく、その子供には、付与魔法の適正が表に出る可能性があること。
よって、シャロワ王家をいたずらに刺激しないため、しばらくは善治郎に公的な側室は迎えられないこと。
(ただし、俺以上に濃いカープァ王家の血を引くアウラとの間の子は、カープァ王家の血にシャロワ王家の血が押しつぶされるだろうから、問題視されない、というわけか)
今一実感がわかないまま、頭の中で聞いたばかりの情報を一通り整理し終えた善治郎は、ソファーに深く腰を掛けたまま、テーブルの上から砂糖と果実の汁を混ぜた水の入ったグラスを取り、口元へと運んだ。
グラスを傾けた拍子に、コップの中の氷がクルリと回り、跳ねた水滴が善治郎の顔にかかる。
「うわっ」
ひょっとして、自分で思っている以上に動揺していたのかもしれない。
「大丈夫か、ゼンジロウ。それは目に入ると、洒落にならないくらいに痛いぞ」
「うん、大丈夫。顔にかかっただけだよ」
アウラの言葉に、善治郎はばつが悪そうな顔で、ズボンのポケットから白いガーゼのハンカチを取りだし、自分の顔を拭った。
「でも、そうなるとどうなんだろう? 正直、俺がこの国にいる事って問題があることにならない?」
率直に尋ねる夫に、妻は口元に笑みを浮かべ、きっぱりと首を横に振る。
「いや、確かにそなたの血筋は少々問題だが、今の我が国の立場を考えれば、そなたがいないほうがよっぽど問題だ。だから、気にする必要はないぞ」
「ああ、うん、大丈夫だよ。別段、俺がどうこうしようと考えた訳じゃないから。俺もそこまで、自己犠牲が強い殊勝な人間じゃないし。ただ、もし客観的に見て、俺の存在が王国にとって不利益を生じさせるようなら、貴族達の中には色々アクションを起こす人間を出るじゃないかなって、考えてさ」
善治郎はそう答えて、自らの想像に恐怖心を刺激されたのか、ブルリと身体を震わせる。
「ふむ……」
思っていた以上に、冷静でシビアな夫の言葉に、アウラはしばし考えた後、ゆっくりと口を開いた。
「いや、おそらくその心配は無かろう。そもそもそなたがシャロワ王家の血を引いているという情報は、今のところ向こうとこちらの王家のみが知る極秘情報だし、もしその情報が表沙汰になったとしても、我が国の貴族が、短絡的にそなたを害する可能性は低いはずだ。
今私の腹に後継者がいるとは言っても、そなたが数少ないカープァ王家の血筋であるという事実は変わらないのだからな。どう考えても、そなたがいることで生じる不利益より、そなたを失うことで生じる不利益が勝る」
だから、現実的に気をつける必要があるとすれば、やはりカープァ王国の貴族ではなく、シャロワ・ジルベール双王国の動向だろう。
シャロワ王家にとっては、現状の善治郎は間違いなく『邪魔者』である。何とかして、秘密裏の交渉で、戦争を起こしてまで、排除するほどの邪魔者ではない、と納得させる必要がある。
無論、そう言った論理的な部分を度外視して、暴発的に善治郎排除に走る人間は、カープァ王国にも双王国にも出没する可能性はあるが、その辺りまで考慮に入れていては、一切身動きが取れなくなってしまう。そういう、予想が難しい危険には、対処療法的に当たるしかないだろう。SUPER FAT BURNING
そこまで言った後、アウラは少し、眉をしかめて言葉を続ける。
「ただし、今言ったとおり、そなたがシャロワ王家の血を引いているという事実は、極秘事項なのだ。つまり、側室を断る際、その事実を表に出来ぬ。この意味が分かるか?」
アウラの問いに、少し視線を天井に向けて考えた善治郎は、自信なさげに答える。
「ええと、つまり、事実とは別に、俺が側室を断る表向きの『言い訳』が必要ってことかな?」
善治郎の答えに、アウラは首肯した。
「ああ、そうだ。だが、以前にも言ったとおり、今のそなたが側室を娶らないというのは、政治的に考えて、かなり不自然なのだ。はっきり言えば、貴族達の反論を許さない理由付けは難しい。
だから、すまないが、対外的には側室を断る理由を、そなたの我が儘、と言う形で押し通してくれぬだろうか?」
「我が儘? どういう事?」
首を傾げる善治郎に、流石に恥じらいが理性に勝ったのか、わずかに視線を逸らしながら、はっきりとしない言葉でアウラは答える。
「以前そなたが側室の話を聞いたとき述べた感想を、そのまま吹聴してもらえればよい。その、私との二人きりの時間を邪魔されたくない、とか。私と子供のことで頭がいっぱいで、他のことを考える余裕がない、とかな」
「あ……ああ! そう、そういうことね、はいはい」
言われた善治郎も、動揺を隠せない。顔が熱くなるのを自覚しながら、しどろもどろに言葉を返す。思えばあの時は、随分と恥ずかしいことを言ったものだ。
嘘は一つもないが、事実だからといって言葉の恥ずかしさが薄れるモノでもない。
「うむ。そなたの血筋を発表できぬ以上、貴族達を納得させうるだけの筋道だった言い訳は存在しない。ならば、ここは強引にそなたの感情論を盾に取り、押し通してしまうのが一番無理がないのだ。……すまぬな、結局そなたに泥を被ってもらう事になる。今後しばらくはそなたは、『一人の女におぼれて、政治的な判断を見誤った愚者』というレッテルが貼られることになるだろう」
ソファーの上で膝を揃え、小さく頭を下げる妻に、善治郎は無言のまま向かいのソファーから立ち上がると、アウラが座るソファーの隣に座り直した。
「ゼンジロウ?」
アウラの隣に座った善治郎は、アウラが膝の上で組んでいた左手を取ると、横からアウラの顔をのぞき込むようにして言う。
「でも、それが最善なんでしょ? なら、構わないよ。どのみち、俺の場合、後宮から出る事がほとんどないわけだから、人の噂なんて早々耳に入るモノじゃないし。実害がないレベルの悪名なら、かえって変な神輿にされづらくなる分、好都合なんじゃないかな。
それに……実際、その噂、全面的に真実だしさ」
「ゼンジロウ……」
善治郎に左手を握られたまま、アウラはフワリと微笑み、右手を善治郎の顔へと延ばす。そして、
「そなた、顔が真っ赤だぞ」
と、指摘した。
羞恥心に耐えて、妻を慰めていた夫は、非常に珍しい怒りを露わにして、大声を上げる。
「う、うるさいな! 人が恥ずかしいの我慢して告白してるのに……!」
顔を真っ赤にする夫の様子に、すっかり笑顔を取り戻した女王は、右手で愛おしそうに夫の頬を撫で、笑い声混じりに謝罪の言葉を口にする。
「すまん、すまん。つい、そなたの献身的な言葉が嬉しすぎて、茶化してしまった。ありがとう、この礼は必ずする」
善治郎は紅潮した頬に、ひんやりとした妻の指の感触を感じながら、声のトーンを落として言葉を返す。
「いいよ、礼なんて。実際、日頃世話になっているのは、全面的にこっちなんだからさ。今の生活を維持するために必要な労力と思えば、なんてことないよ」
善治郎の言葉に、今度はアウラも悪びれず素直に答える。
「そうだな。私は女王という立場上、あまり悪名を被るわけには行かぬのだ。戦場での苛烈さや、外交上での冷徹さに付随する悪名ならば、使い道もあるのだが、色恋沙汰の悪名はな」
女王の伴侶が「女王に夢中で、側室を拒んだ」と噂されても、せいぜい「政治にうとい馬鹿なヤツ」ですむが、女王が「伴侶に夢中で、伴侶に側室を入れるのを阻止した」と噂されれば、一気に「あの女王を玉座に座らせておくのは、不安がある」という声が上がる事だろう。
善治郎とアウラ、どちらかが『色ボケ』という汚名を被らなければならないのだとしたら、善治郎が被るのは必然と言える。
しばらくの間、手を握り、頬を撫でられていた善治郎は、やがて愛妻の手をふりほどくと、再び真面目な表情を作り、話を始める。超級脂肪燃焼弾
「それで、実は俺からもお願いがあるんだ。こっちも前言を撤回して悪いんだけど、今後は俺ももう少し後宮から外に出る活動を増やしたいと思うんだけど、駄目かな?」
善治郎の言葉に、アウラの緩んでいた表情が一瞬で引きしまる。
「そなたが? 何故だ?」
女王の鋭い問いに、善治郎は怯むことなく柔らかな口調を保ったまま、答える。
「うん、この一月、明らかにアウラに掛かってる負担、大きいよね? だから、難しい判断がいらない、俺で代役が務まる行事は、俺が変わろうかと思ったんだ。もちろん、そうすることで、俺にすり寄る貴族が出たりして、危険なのは分かるけど、今のアウラを見てると、アウラの健康の危険のほうが問題だと思う」
「む……」
我が身を心配してくれる夫の誠実な言葉に、アウラはしばし沈黙した。
確かに、妊娠が確定してからこの一月、業務に支障をきたしているのは事実だ。女王の決断は最低限でも国が回るくらいには、人材も法も整備してあるつもりではあるが、名代を務めてくれる王族がいれば、随分と楽になるのもまた事実である。
「うむ、そなたの申し出は嬉しいが、そうなると周りが相当うるさいぞ?」
念を押すアウラに、善治郎は笑って頷く。
「それは、覚悟しているよ。っていっても、こっちの想像以上なのかも知れないけど」
「間違いなく、想像の遙か上だ。そなたが後宮外で活動を始めれば、うるさくなるのは、野心家の貴族達だけではない。私に忠誠を誓ってくれている腹心達も、そなたに懐疑の目を向けることになる」
後宮から積極的に打って出る、女王の伴侶。国内の野心家達にとってその存在が、奇貨であるのと同様に、アウラに忠誠を誓う腹心達にとって、その存在は脅威となる。
アウラの右腕であるファビオ秘書官などは、間違いなく善治郎の一言一行動に懐疑の視線を向けることだろう。
アウラの返答に、善治郎は少し難しい顔をして、言葉を返す。
「もちろん、アウラに迷惑を掛けることになるなら自重するけど……」
「ふむ……」
アウラは、しばし考えた。確かに当初は、「政治に一切口出しをしない婿」を求めていたが、「こちらの権限を揺らがさないように考慮した上で、影から助力してくれる婿」ならば、それに越したことはない。
今日までの付き合いで、善治郎にこちらを出し抜いて権力を握るような邪な意思がないことは確信しているが、海千山千の貴族達を相手に、言質を取られずに乗りきるだけの話術や交渉術があるか問われると、疑問が残る。
(だが、確かに私がこの様では、今後の国政に多大な影響を及ぼすことは確かだ。妊婦というのが、ここまで行動を制限されるものだとはな)
当初の予定では、しばらくは『年子』の子供を産み続ける腹づもりであったアウラだが、現状を鑑みるに、その選択肢は非現実的と言うしかない。
妊娠から出産までの時間は、ぞくに『十月十日』という。一年は十二ヶ月、閏月のある年でも十三ヶ月だ。毎年子供を産んでいれば、一年の六分の五を身重で過ごすことになる。
政務に支障を来すのは間違いない。
(やはり、『国母』と『女王』を同時にこなすのは、負担が大きいか)
少なくとも、これまでのように、元帥も宰相も置かずに親政を行うのは、非現実と言わざるを得まい。しかし、元帥と宰相を設ければ、アウラの負担が減るのと比例して、権限・権力も目減りする。
今度は今まで以上に、有力貴族達とのパワーバランスに苦慮する事になるだろう。
(そう考えると、能力的には頼りなくても、人格的には信頼の置ける高位の味方がいる意味はあるか)
アウラは、善治郎に視線を向ける。終極痩身
「…………」
善治郎は、アウラの視線を正面から受け止めたまま、黙ってアウラの決断を待つ。
至近距離で見つめ合う、沈黙の時間。やがて、表情を緩めたアウラは告げるのだった。
「分かった。確かに、このままでは私の負担が大きすぎるからな。そなたに助けてもらえるのならば、ありがたい。ただし……」
「うん、分かってる。かえって迷惑を掛けていると『アウラが判断』した場合は、『俺の意思』でまた後宮にひっこむよ」
アウラに最後まで言わせず、善治郎は笑顔でそう請けおった。
例え女王といえども、夫の自由意思を妻が阻害するようでは、悪評が立ってしまう。その辺に関するこの国の価値観は一通り教えられている善治郎である。
「ああ、すまないが、頼む。そういえば、そなたは騎士ナタリオ・マルドナドの忠誠を受けるために、後宮外に出る予定になっていたな。その際に、私の腹心であるファビオを付けよう」
予想通り、全面的にこちらの立場を配慮してくれた返答を返す夫に、女王は柔らかな笑みと共に言葉を返す。
ファビオ秘書官ならば、善治郎に的確なアドバイスをしてくれるだろう。そして、考えたくはないが、万が一、善治郎が野心に目覚めたとしても、いち早く察知して『的確に対処』をするに違いない。
「では、私はそろそろ寝室に下がるよ。少々早いが、眠りが途切れる分、時間を長めに取っておかねばならぬのでな」
アウラはそう言うと、ゆっくりソファーから腰を浮かせる。
毎日ではないが、最近のアウラは、気持ちが悪くなって夜中に目を醒ますことがあるのだ。そうでなくても、ミシェル医師からは、出来るだけ睡眠は多く取った方が良いと言いつかっている。
そもそも、善治郎が持ち込んだLEDスタンドライトのせいで、すっかり夜も活動する癖が付いてしまったが、それ以前の生活習慣ならば、今頃はとっくに寝ている時間だ。
アウラの言葉に、棚の上に置いてあるデジタル式の電波時計に目をやった善治郎は、アウラの後を追うようにソファーから立ち上がると、そっと妻の手を取った。
「うん、それじゃ寝るとするか」
「別にそなたまで、私の早寝に付き合うこともないのだぞ」
素直に夫に手を引かれながら、アウラはそう断る。
「いや、どのみち茶の間には侍女の人達が待機することになるからね。ここにいても、落ち着かないよ」
アウラの言葉に、善治郎はそう答えて首を横に振った。
現在身重で、つわりの症状も出ているアウラの異変に対応するため、後宮では侍女達が夜番を決め、対応することになっている。アウラが寝室に下がった後は、寝室に繋がる唯一の部屋である、ここ――リビングルームに侍女達が控えるのだ。
日頃は侍女達をプライベート空間に招き入れる事を嫌っている善治郎であるが、愛妻の安全の為を思えば、そんな小さな我が儘は言っていられない。
おかげで最近は、隣室に侍女達が控えていても、あまり気にならなくなってきた善治郎である。
「そうか、では一緒にお休みなさい、だな」
アウラはそう言うと、善治郎の腕に自分の腕を絡める。
「うん、お休み」
現在寝室のベッドは二つ。部屋は同じでも、別の床に入る妻と夫は、名残を惜しむようにしっかりと腕を組んだまま、ゆっくり寝室のドアを潜るのだった。御秀堂 養顔痩身カプセル
すまぬが、しばらくはそなたの周りが騒がしくなるが、協力を頼みたい」
その日の夜、夕食と入浴を済ませたアウラは、後宮の一室で善治郎と向かい合い、昼間に届いた書状の中身と、そこから推測される情報、そしてそれに対するこちらの対応に付いて、事細かく説明したのだった。
百五十年前、カープァ王国の王子と異世界へ駆け落ちを果たした女は、シャロワ王家の王女であった可能性が高いこと。
その子孫である善治郎は、カープァ王家だけでなく、シャロワ王家の血も引いていると思われること。
そのため、時空魔法の適正が表面化している善治郎自身はともかく、その子供には、付与魔法の適正が表に出る可能性があること。
よって、シャロワ王家をいたずらに刺激しないため、しばらくは善治郎に公的な側室は迎えられないこと。
(ただし、俺以上に濃いカープァ王家の血を引くアウラとの間の子は、カープァ王家の血にシャロワ王家の血が押しつぶされるだろうから、問題視されない、というわけか)
今一実感がわかないまま、頭の中で聞いたばかりの情報を一通り整理し終えた善治郎は、ソファーに深く腰を掛けたまま、テーブルの上から砂糖と果実の汁を混ぜた水の入ったグラスを取り、口元へと運んだ。
グラスを傾けた拍子に、コップの中の氷がクルリと回り、跳ねた水滴が善治郎の顔にかかる。
「うわっ」
ひょっとして、自分で思っている以上に動揺していたのかもしれない。
「大丈夫か、ゼンジロウ。それは目に入ると、洒落にならないくらいに痛いぞ」
「うん、大丈夫。顔にかかっただけだよ」
アウラの言葉に、善治郎はばつが悪そうな顔で、ズボンのポケットから白いガーゼのハンカチを取りだし、自分の顔を拭った。
「でも、そうなるとどうなんだろう? 正直、俺がこの国にいる事って問題があることにならない?」
率直に尋ねる夫に、妻は口元に笑みを浮かべ、きっぱりと首を横に振る。
「いや、確かにそなたの血筋は少々問題だが、今の我が国の立場を考えれば、そなたがいないほうがよっぽど問題だ。だから、気にする必要はないぞ」
「ああ、うん、大丈夫だよ。別段、俺がどうこうしようと考えた訳じゃないから。俺もそこまで、自己犠牲が強い殊勝な人間じゃないし。ただ、もし客観的に見て、俺の存在が王国にとって不利益を生じさせるようなら、貴族達の中には色々アクションを起こす人間を出るじゃないかなって、考えてさ」
善治郎はそう答えて、自らの想像に恐怖心を刺激されたのか、ブルリと身体を震わせる。
「ふむ……」
思っていた以上に、冷静でシビアな夫の言葉に、アウラはしばし考えた後、ゆっくりと口を開いた。
「いや、おそらくその心配は無かろう。そもそもそなたがシャロワ王家の血を引いているという情報は、今のところ向こうとこちらの王家のみが知る極秘情報だし、もしその情報が表沙汰になったとしても、我が国の貴族が、短絡的にそなたを害する可能性は低いはずだ。
今私の腹に後継者がいるとは言っても、そなたが数少ないカープァ王家の血筋であるという事実は変わらないのだからな。どう考えても、そなたがいることで生じる不利益より、そなたを失うことで生じる不利益が勝る」
だから、現実的に気をつける必要があるとすれば、やはりカープァ王国の貴族ではなく、シャロワ・ジルベール双王国の動向だろう。
シャロワ王家にとっては、現状の善治郎は間違いなく『邪魔者』である。何とかして、秘密裏の交渉で、戦争を起こしてまで、排除するほどの邪魔者ではない、と納得させる必要がある。
無論、そう言った論理的な部分を度外視して、暴発的に善治郎排除に走る人間は、カープァ王国にも双王国にも出没する可能性はあるが、その辺りまで考慮に入れていては、一切身動きが取れなくなってしまう。そういう、予想が難しい危険には、対処療法的に当たるしかないだろう。SUPER FAT BURNING
そこまで言った後、アウラは少し、眉をしかめて言葉を続ける。
「ただし、今言ったとおり、そなたがシャロワ王家の血を引いているという事実は、極秘事項なのだ。つまり、側室を断る際、その事実を表に出来ぬ。この意味が分かるか?」
アウラの問いに、少し視線を天井に向けて考えた善治郎は、自信なさげに答える。
「ええと、つまり、事実とは別に、俺が側室を断る表向きの『言い訳』が必要ってことかな?」
善治郎の答えに、アウラは首肯した。
「ああ、そうだ。だが、以前にも言ったとおり、今のそなたが側室を娶らないというのは、政治的に考えて、かなり不自然なのだ。はっきり言えば、貴族達の反論を許さない理由付けは難しい。
だから、すまないが、対外的には側室を断る理由を、そなたの我が儘、と言う形で押し通してくれぬだろうか?」
「我が儘? どういう事?」
首を傾げる善治郎に、流石に恥じらいが理性に勝ったのか、わずかに視線を逸らしながら、はっきりとしない言葉でアウラは答える。
「以前そなたが側室の話を聞いたとき述べた感想を、そのまま吹聴してもらえればよい。その、私との二人きりの時間を邪魔されたくない、とか。私と子供のことで頭がいっぱいで、他のことを考える余裕がない、とかな」
「あ……ああ! そう、そういうことね、はいはい」
言われた善治郎も、動揺を隠せない。顔が熱くなるのを自覚しながら、しどろもどろに言葉を返す。思えばあの時は、随分と恥ずかしいことを言ったものだ。
嘘は一つもないが、事実だからといって言葉の恥ずかしさが薄れるモノでもない。
「うむ。そなたの血筋を発表できぬ以上、貴族達を納得させうるだけの筋道だった言い訳は存在しない。ならば、ここは強引にそなたの感情論を盾に取り、押し通してしまうのが一番無理がないのだ。……すまぬな、結局そなたに泥を被ってもらう事になる。今後しばらくはそなたは、『一人の女におぼれて、政治的な判断を見誤った愚者』というレッテルが貼られることになるだろう」
ソファーの上で膝を揃え、小さく頭を下げる妻に、善治郎は無言のまま向かいのソファーから立ち上がると、アウラが座るソファーの隣に座り直した。
「ゼンジロウ?」
アウラの隣に座った善治郎は、アウラが膝の上で組んでいた左手を取ると、横からアウラの顔をのぞき込むようにして言う。
「でも、それが最善なんでしょ? なら、構わないよ。どのみち、俺の場合、後宮から出る事がほとんどないわけだから、人の噂なんて早々耳に入るモノじゃないし。実害がないレベルの悪名なら、かえって変な神輿にされづらくなる分、好都合なんじゃないかな。
それに……実際、その噂、全面的に真実だしさ」
「ゼンジロウ……」
善治郎に左手を握られたまま、アウラはフワリと微笑み、右手を善治郎の顔へと延ばす。そして、
「そなた、顔が真っ赤だぞ」
と、指摘した。
羞恥心に耐えて、妻を慰めていた夫は、非常に珍しい怒りを露わにして、大声を上げる。
「う、うるさいな! 人が恥ずかしいの我慢して告白してるのに……!」
顔を真っ赤にする夫の様子に、すっかり笑顔を取り戻した女王は、右手で愛おしそうに夫の頬を撫で、笑い声混じりに謝罪の言葉を口にする。
「すまん、すまん。つい、そなたの献身的な言葉が嬉しすぎて、茶化してしまった。ありがとう、この礼は必ずする」
善治郎は紅潮した頬に、ひんやりとした妻の指の感触を感じながら、声のトーンを落として言葉を返す。
「いいよ、礼なんて。実際、日頃世話になっているのは、全面的にこっちなんだからさ。今の生活を維持するために必要な労力と思えば、なんてことないよ」
善治郎の言葉に、今度はアウラも悪びれず素直に答える。
「そうだな。私は女王という立場上、あまり悪名を被るわけには行かぬのだ。戦場での苛烈さや、外交上での冷徹さに付随する悪名ならば、使い道もあるのだが、色恋沙汰の悪名はな」
女王の伴侶が「女王に夢中で、側室を拒んだ」と噂されても、せいぜい「政治にうとい馬鹿なヤツ」ですむが、女王が「伴侶に夢中で、伴侶に側室を入れるのを阻止した」と噂されれば、一気に「あの女王を玉座に座らせておくのは、不安がある」という声が上がる事だろう。
善治郎とアウラ、どちらかが『色ボケ』という汚名を被らなければならないのだとしたら、善治郎が被るのは必然と言える。
しばらくの間、手を握り、頬を撫でられていた善治郎は、やがて愛妻の手をふりほどくと、再び真面目な表情を作り、話を始める。超級脂肪燃焼弾
「それで、実は俺からもお願いがあるんだ。こっちも前言を撤回して悪いんだけど、今後は俺ももう少し後宮から外に出る活動を増やしたいと思うんだけど、駄目かな?」
善治郎の言葉に、アウラの緩んでいた表情が一瞬で引きしまる。
「そなたが? 何故だ?」
女王の鋭い問いに、善治郎は怯むことなく柔らかな口調を保ったまま、答える。
「うん、この一月、明らかにアウラに掛かってる負担、大きいよね? だから、難しい判断がいらない、俺で代役が務まる行事は、俺が変わろうかと思ったんだ。もちろん、そうすることで、俺にすり寄る貴族が出たりして、危険なのは分かるけど、今のアウラを見てると、アウラの健康の危険のほうが問題だと思う」
「む……」
我が身を心配してくれる夫の誠実な言葉に、アウラはしばし沈黙した。
確かに、妊娠が確定してからこの一月、業務に支障をきたしているのは事実だ。女王の決断は最低限でも国が回るくらいには、人材も法も整備してあるつもりではあるが、名代を務めてくれる王族がいれば、随分と楽になるのもまた事実である。
「うむ、そなたの申し出は嬉しいが、そうなると周りが相当うるさいぞ?」
念を押すアウラに、善治郎は笑って頷く。
「それは、覚悟しているよ。っていっても、こっちの想像以上なのかも知れないけど」
「間違いなく、想像の遙か上だ。そなたが後宮外で活動を始めれば、うるさくなるのは、野心家の貴族達だけではない。私に忠誠を誓ってくれている腹心達も、そなたに懐疑の目を向けることになる」
後宮から積極的に打って出る、女王の伴侶。国内の野心家達にとってその存在が、奇貨であるのと同様に、アウラに忠誠を誓う腹心達にとって、その存在は脅威となる。
アウラの右腕であるファビオ秘書官などは、間違いなく善治郎の一言一行動に懐疑の視線を向けることだろう。
アウラの返答に、善治郎は少し難しい顔をして、言葉を返す。
「もちろん、アウラに迷惑を掛けることになるなら自重するけど……」
「ふむ……」
アウラは、しばし考えた。確かに当初は、「政治に一切口出しをしない婿」を求めていたが、「こちらの権限を揺らがさないように考慮した上で、影から助力してくれる婿」ならば、それに越したことはない。
今日までの付き合いで、善治郎にこちらを出し抜いて権力を握るような邪な意思がないことは確信しているが、海千山千の貴族達を相手に、言質を取られずに乗りきるだけの話術や交渉術があるか問われると、疑問が残る。
(だが、確かに私がこの様では、今後の国政に多大な影響を及ぼすことは確かだ。妊婦というのが、ここまで行動を制限されるものだとはな)
当初の予定では、しばらくは『年子』の子供を産み続ける腹づもりであったアウラだが、現状を鑑みるに、その選択肢は非現実的と言うしかない。
妊娠から出産までの時間は、ぞくに『十月十日』という。一年は十二ヶ月、閏月のある年でも十三ヶ月だ。毎年子供を産んでいれば、一年の六分の五を身重で過ごすことになる。
政務に支障を来すのは間違いない。
(やはり、『国母』と『女王』を同時にこなすのは、負担が大きいか)
少なくとも、これまでのように、元帥も宰相も置かずに親政を行うのは、非現実と言わざるを得まい。しかし、元帥と宰相を設ければ、アウラの負担が減るのと比例して、権限・権力も目減りする。
今度は今まで以上に、有力貴族達とのパワーバランスに苦慮する事になるだろう。
(そう考えると、能力的には頼りなくても、人格的には信頼の置ける高位の味方がいる意味はあるか)
アウラは、善治郎に視線を向ける。終極痩身
「…………」
善治郎は、アウラの視線を正面から受け止めたまま、黙ってアウラの決断を待つ。
至近距離で見つめ合う、沈黙の時間。やがて、表情を緩めたアウラは告げるのだった。
「分かった。確かに、このままでは私の負担が大きすぎるからな。そなたに助けてもらえるのならば、ありがたい。ただし……」
「うん、分かってる。かえって迷惑を掛けていると『アウラが判断』した場合は、『俺の意思』でまた後宮にひっこむよ」
アウラに最後まで言わせず、善治郎は笑顔でそう請けおった。
例え女王といえども、夫の自由意思を妻が阻害するようでは、悪評が立ってしまう。その辺に関するこの国の価値観は一通り教えられている善治郎である。
「ああ、すまないが、頼む。そういえば、そなたは騎士ナタリオ・マルドナドの忠誠を受けるために、後宮外に出る予定になっていたな。その際に、私の腹心であるファビオを付けよう」
予想通り、全面的にこちらの立場を配慮してくれた返答を返す夫に、女王は柔らかな笑みと共に言葉を返す。
ファビオ秘書官ならば、善治郎に的確なアドバイスをしてくれるだろう。そして、考えたくはないが、万が一、善治郎が野心に目覚めたとしても、いち早く察知して『的確に対処』をするに違いない。
「では、私はそろそろ寝室に下がるよ。少々早いが、眠りが途切れる分、時間を長めに取っておかねばならぬのでな」
アウラはそう言うと、ゆっくりソファーから腰を浮かせる。
毎日ではないが、最近のアウラは、気持ちが悪くなって夜中に目を醒ますことがあるのだ。そうでなくても、ミシェル医師からは、出来るだけ睡眠は多く取った方が良いと言いつかっている。
そもそも、善治郎が持ち込んだLEDスタンドライトのせいで、すっかり夜も活動する癖が付いてしまったが、それ以前の生活習慣ならば、今頃はとっくに寝ている時間だ。
アウラの言葉に、棚の上に置いてあるデジタル式の電波時計に目をやった善治郎は、アウラの後を追うようにソファーから立ち上がると、そっと妻の手を取った。
「うん、それじゃ寝るとするか」
「別にそなたまで、私の早寝に付き合うこともないのだぞ」
素直に夫に手を引かれながら、アウラはそう断る。
「いや、どのみち茶の間には侍女の人達が待機することになるからね。ここにいても、落ち着かないよ」
アウラの言葉に、善治郎はそう答えて首を横に振った。
現在身重で、つわりの症状も出ているアウラの異変に対応するため、後宮では侍女達が夜番を決め、対応することになっている。アウラが寝室に下がった後は、寝室に繋がる唯一の部屋である、ここ――リビングルームに侍女達が控えるのだ。
日頃は侍女達をプライベート空間に招き入れる事を嫌っている善治郎であるが、愛妻の安全の為を思えば、そんな小さな我が儘は言っていられない。
おかげで最近は、隣室に侍女達が控えていても、あまり気にならなくなってきた善治郎である。
「そうか、では一緒にお休みなさい、だな」
アウラはそう言うと、善治郎の腕に自分の腕を絡める。
「うん、お休み」
現在寝室のベッドは二つ。部屋は同じでも、別の床に入る妻と夫は、名残を惜しむようにしっかりと腕を組んだまま、ゆっくり寝室のドアを潜るのだった。御秀堂 養顔痩身カプセル
订阅:
博文 (Atom)