サトゥーです。昔は給食にクジラの肉が出ていたそうです。祖父の家に遊びに行っていた時に海岸に打ち上げられたとかいうクジラの肉を食べた事がありますが、すごく美味しかった記憶があります。
昔の事なので美化されている気がしますけどね。
結局、迷っているうちに、攻撃するタイミングを逸してしまった。巨人倍増
取りあえず、人死にがでないように配慮しますか。
尖塔から、闘技場の観客席に移動する。
公爵や王様の影武者さん達は――まだ、手間取っているみたいだ。
よし、ここはアレを使おう。
この間手に入れた魔法に、「理力の手マジック・ハンド」というのがある。これは中級の魔法が使えるようになった術理魔法の使い手が、必ず覚える魔法だ。
所謂、サイコキネシスに近い効果といえばわかりやすいだろう。魔法使い達は、この魔法で、手の届かない所にある資料を取ったり、背中を掻いたり、自分の肩を揉んだりするらしい。
この「理力の手」は、非力な魔法使い並みの力しか出せないので、戦闘に使う魔法使いは少ない。術理魔法スキルに熟達すると、魔法の矢のように同時に使える「理力の手」が増える。同様に、「理力の手」は魔力操作に優れたものが使うと、結構な距離まで届くらしい。オレの場合、120本の手をそれぞれ500メートル位まで伸ばせる。
世の魔法使い達の間では、2本以上の手を上手く操れる者がめったに居ないそうだ。
スルスルと伸ばした無数の「理力の手」で、公爵達の行く手を塞いでいる3匹の魔物を掴んで、闘技場に投げ捨てる。
ちょいと、操作が難しいな。
そのうち、「理力の手」に剣を持たせて、千手観音みたいな感じで闘ってみたい。
公爵の護衛達は、急に魔物が排除されて驚いていたが、原因の究明よりも公爵の脱出を優先させたみたいだ。魔物を排除した人物を探している者もいるが、オレに気が付いた人間はいない。どうやら、前の潜入ミッションで覚えたスキルのお陰みたいだ。
さてと、魔物とまともに戦えない人間の避難は済んだみたいだ。
もちろん、オレも避難が済むのを、ただ見ていたわけではない。逃げ遅れた人間を「理力の手」で掴んでは、避難通路に放り込む作業をしていた。
勇者パーティーと黄肌悪魔の近くにいる魔物を、闘技場の反対側に集めるのが一苦労だった。勇者が最初に範囲挑発をしてくれたお陰で、投げても投げても戻ってくるのにはまいった。
あまりにしつこい2匹は、あきらめて勇者パーティーに任せる事にした。虎耳の人とか狼耳の人とかが倒してくれるだろう。
残りの魔物は6匹。
王子達が、魔物退治に向かってくれたらいいんだが、なぜか黄肌悪魔に向かっていくので、数が減らない。効率の悪いやつらだ。
シガ八剣の壮年の方は、序盤に黄肌悪魔に受けたダメージが大きいのか退場してしまった。まったく、不甲斐ない。
戦闘狂の少年は、王子と一緒に黄肌悪魔とジャレあっていたが、さっき尻尾の一撃を喰らって気絶している。鎧のお腹の所がベコリと凹んでいるが、HP的に見て死にそうな怪我じゃないので放置でいいだろう。位置的にも範囲攻撃が来そうに無いしな。
「ヤサク、大技は控えめにしろ。他のやつらがいつ崩れるとも限らん。スタミナは温存しておけ」
「ばーろー、お前は堅実すぎるんだよ。ここはガツンとやって数を減らすのが先だ」
「ちょっと、ヤサクもタンもお喋りは後にしなっ」
「そーですよー、ゆだんーしてるとー、あぶないですよー」
戦蟷螂ウォーマンティスと闘っているパーティーは大丈夫そうだ。重戦士に魔法戦士、魔法使いにポールアームを担いだ神官の過不足のなさそうなパーティーだ。
もちろん、そんなパーティーばかりじゃない。
「ホーエン卿、ここは某それがしが援護するので、いざ行かれよ」
「なんの、ムズキー卿、貴殿の勲を見せるのは、この場しかありませぬぞ!」
ダンゴ虫型の魔物を前にして、お互いに譲り合っている騎士達。
この2人は20レベル弱なのだが、お付きの騎士達が高レベルなので無事でいるようだ。
ここのは取ってもいいかな?
だ・れ・も・見てないよね?
こっそり「石筍トス・ストーン」を使う。
土系の初級魔法だが、弱い腹部を下から貫けるので、なかなか有用だ。ダンゴ虫は、石の槍で腹を貫通されて、空中に突き上げられているのに、まだ死んでいない。魔物のHPは、あと2割といったところだ。後は、騎士達が反撃を受けない位置から、我先にと殺到しているからすぐに決着はつくだろう。さっきまで譲り合っていたのに、現金なヤツラだ。
次のパーティーは寄せ集めみたいだ。
盾役が2人もいるのに、挑発スキルを使っていないみたいだ。そのせいで、アタッカーに魔物の狙いが行ってしまって、後衛が攻撃魔法じゃなく回復魔法に専念する状況になってしまっている。
「きゃー」
「ソソナ! ゲルカ、体勢を整えろ。ソソナの犠牲を無駄にするな」
蟋蟀こおろぎ型の魔物と闘っていたパーティーの一人が、後ろ足のキックで空中に打ち上げられている。それにしても、犠牲って……まだ生きているだろう?
あれは妖精族の少女かな?
空中10メートル近い高さまで打ち上げられている。魔法で威力を殺したんだろうけど、HPがぐんぐん減って1割を切りそうだ。空中にいるうちに「理力の手」で捕まえてこちらに引き寄せる。途中で、非売品の魔法薬ポーションを「理力の手」で少女の口に突っ込んだ。
どうやら間に合ったようだ。
9割ほどまでHPの回復した少女を観客席に横たえる。せっかくの初レプラコーンだったのだから、もっと近くで見たかったな。
「理力の手」は実に便利だ。堕落しそうで怖い。
こっそり、誘導矢リモート・アローを十発ほど打ち出して、蟋蟀こおろぎの後ろ足の関節を狙撃する。
突然の援護射撃に驚いているようだが、これで後は放置しても大丈夫だろう。
このパーティーが一番苦戦していたみたいだ。他のパーティーは、苦戦しつつも、活き活きと闘っている。たまに助けたり、魔物から魔力を強奪したりしながら勇者達の戦いを観戦していた。
あの黄肌魔族は、やっぱり、この間のオジャル魔族やナリ魔族の仲間みたいだ。魔王はもう倒したって教えてやったら、66年後まで大人しくしててくれないかな?
それにしても、黄肌魔族の頭上に浮かんでる3つの球は凄いな。勇者達が大ダメージを与えても瞬く間に回復している。この間の魔族召喚の本に呼び出し方が載っていないかな? AR表示で確認したが、回復球キュアボールっていう名前みたいだ。検索してみたが、悪魔召喚の魔法書には載っていなかった。残念だ。三便宝カプセル
おや?
頭上に危機感知が働いている?
召喚の魔法陣がそこにあった。
何を召喚しようとしているのか知らないけど、ここから出たのはPOP即ゲットしてもいいよね?
そして、そこから現れたのは――
くじら?
空を飛んでて、300メートル近い巨体だが、間違いなく鯨だ。シロナガスクジラでも、あんなに大きく無かった気がするんだが?
魔物の名前は、大怪魚トヴケゼェーラらしい。
絶対に、最初に見た日本人が「空飛ぶクジラ」と言ったのが語源だよな。
勇者達が驚いている。
それは、そうだろう。
あれだけのサイズがあったら、何食分取れるのか想像もできない。
大和煮はガチとして、何作ろうかな?
思わず、大怪魚と見つめあってしまった。
いやー、魔族よ。
やればできるじゃないか!
思わず小躍りしそうになったが、それは1匹だけじゃなかった。
なんと6匹も追加で召喚陣から出てきた。
そのあとも少しまってみたが打ち止めらしい。追加が来ないとも限らないので、召喚陣を破壊するのは止めておこう。
さて、クジラを解体するのに肉を傷めたらダメなので、光線レーザーで頭を落としてすぐにストレージに収納する事に決めた。本当ならエクスカリバーの切れ味を披露したいところなのだが、相手がデカ過ぎて刃が届かない。
光線レーザー単発だと弱いので、集光コンデンスを併用する事にした。
光線レーザーは1発あたりの攻撃力は弱いのだが、スキルレベルが上がると複数本撃てるようになる。これを集光コンデンスで一つに纏める事で威力と収束度をアップするわけだ。
空間把握とレーダーを併用する事で、レーザーの軌道をシミュレートする。少し照射時間が足りないので、オンオフを連続で切り替えてパルスレーザーちっくに撃つ事にした。
連続で魔法を使ってもいいのだが、手間取って召喚陣の向こうに逃げられたらイヤだからね。
閃光とコピー機の近くにいるようなオゾン臭。パルスレーザーの軌跡が鯨を撫で、はるか彼方の雲を撃ち抜く。
よし、一撃でクリア!
あの大質量が落下したら大惨事なので、すぐさま天駆と縮地を使って落下を始めたクジラの肉に接近して、ストレージに回収する。焼けたのか血肉が蒸発したのか、鯨肉の近くは少し熱かった。
ホクホクだ。
レーザーで焼き切ったのに、結構な量の体液が飛び散った。レーザーだと傷口が焼けて血が出ないとか聞いていたけど、あれは俗説だったのだろうか?
そんな事に頭を悩ませていたのは、オレだけだったみたいだ。
いつの間にか、喧騒に包まれていた闘技場が静かになっている。
え~っと、クジラが美味しいのがいけないと思います。
>称号「大怪魚殺し」を得た。
>称号「幻術師」を得た。
>称号「光術師」を得た。
>称号「天空の料理人」を得た。
サトゥーです。人の三大欲求は睡眠、食欲、性欲といいます。だから食欲に負けて迂闊な行動を取ってしまうのも仕方ないのです。でも性欲にだけは負けないように頑張りたいと思います。幼女趣味ロリコンは7つの大罪の一つといいますから。
しまった。
ナナシの銀仮面モードだから大丈夫とは言っても、少し目立ち過ぎたかもしれない。
さて、どう誤魔化したものか。
いや、いい機会かもしれない。さっきからMMOの狩場で一人散歩するような、そこはかとないボッチ感を味わい続けていたし、ここは派手すぎるくらい派手にした方が、普段のオレから乖離して正体がバレにくいかもしれない。
幸い、クジラの蒸発した血が靄状になっていて、こちらの姿は見えていないはずだ。
オレみたいに「遠見クレアボヤンス」を使っているものもいないだろう。アリサと実験してみたが、使われると魔力感知で見られているのがわかった。
とりあえず、声だな。「あ、あー、あ」と声の高さを変えていく。
>「変声スキルを得た」
一番派手なヤツという事で、「白仮面、光背オプション付き」で行く事にする。
アリサと一緒に、深夜の変なテンションで考えた自重しないやつだ。服装は、金糸で彩った白を基調にした服をベースにしている。そこに無用なヒラヒラの布を垂らして巫女っぽいテイストを追加した上に、肩、胸、腰の布をだぶ付かせて性別不詳にしてある。
マントや外套は無く、例の白い笑顔の仮面を付ける。カツラは、新作のロングストレートの紫色の物にしてある。もちろん、アリサの髪で作ったわけでは無い。白い毛のカツラを染色したものだ。
そこに幻影魔法で、光る3重の光背をオプションに付けて、移動時には残像ブラーが残るようにしてある。オマケで、足首の外側に、移動速度に合わせて激しく光る環を出す。これに「自在盾フレキシブル・シールド」と「自在鎧フレキシブル・アーマー」を出して完成だ。称号はナナシに合わせて「名も無き英雄」にしておいた。蟻力神
サトゥーの時には絶対にしたくない派手派手スタイルだな。
どうせ介入するのだからと、開き直って、誘導矢リモート・アローを使い、2匹ほど残っていた虫系の魔物と黄肌魔族の回復球を破壊した。余った分は黄肌魔族に回したが、そちらは防がれてしまったようだ。いくつかの魔法の矢は、黄肌魔族の火炎魔法で焼かれてしまったらしい。魔法の対象を魔法にするのはいい使い方だ。今度、やってみよう。
「何者デェスか?」
「誰だ!」
勇者と黄肌魔族の誰何すいかが重なる。
両者は互いに距離をとりながら、こちらを警戒しているみたいだ。オレは、高度を下げて、地上10メートルほどまでに降下する。
「ナナシ」
短く名前を告げる。
変声スキルを最大まで割り振ったお陰で、どんな声も自在だ。女性声優さんが演じる少年の声をイメージして声を調整した。年齢性別不詳でいい感じだ。
危機感知が、勇者の背後の美女の方から脅威を報告して来る。そういえば、詠唱を始めて2~3分経っている。何かの上級魔法なんだろうけど、この感覚からして街中で使えるレベルの魔法じゃなさそうだ。
ダメだ。
アレハ、トメナイト、イケナイ。
これだけ焦燥感に駆られるのは久々だ。一応ログを見たが精神魔法とかでは無いみたいだ。
勇者を説得して中断させるのがベストなんだろうが、問答をしている時間がなさそうなので、強引に行く。
まず「魔法破壊ブレイク・マジック」で呪文を強制中断。
当然、魔法の構成を破壊された素の魔力が周囲にあふれ出す。深夜の各種魔法実験の結果から、この流れは予想できていたので、「理力結界マナ・セクション」で美女達を守る。さほど強い防御魔法じゃないはずだが、問題なく守れたようだ。
ただし、魔法の強制中断によるフィードバックが多少なりともあったようで、みな地面にヒザを突いている。
「何をする!」
「その魔法は危険過ぎるよ。悪いけど、詠唱を中断させて貰ったよ」
勇者が美女達に駆け寄りながら、こちらに抗議してくるが、事後承諾させる。口調は声に合わせて少し変えた。
やはり、勇者なら周辺被害を抑える工夫はして欲しいものだ。昔再放送でやってたツバサマンを見習って欲しい。
「これは失笑なのデェス。仲間割れデスか? 恐らく幻術を使って大怪魚を召喚ゲートに引き返させたのデスね? なかなか知恵の回る仲間がいたものなのデス」
あれ? そういう解釈なのか。
亜空間に隠れていたらしき勇者の銀色の船が浮上して来た。浮上してきた船の船首が白い輝きを放っている。
しばし船首を彷徨わせていたが、少し迷った末に照準を固定して光線を放つ。
困った事に照準はオレだ。
どうも、勇者が抗議してきていた姿を見てオレが敵と判断したみたいだ。短絡的なやつらめ、と内心で悪態を吐いたが、客観的に見て怪しい風体だったので、少し納得した。やはり仮面の見た目が正義の味方っぽくないのだろう。
自在盾フレキシブル・シールドを重ねて、勇者の船からの光線を受け止める。けっこうな速さで自在盾のHPが減っていく。オレのレーザー4~8本分くらいの威力はありそうだ。何時までも受け止めていられないので、「集光コンデンス」魔法を使って、光線の向きを途中で逸らす。影魔法の「吸光アブソーブ・ライト」とかがあったらもっと楽だったかもしれない。
光線を発射している船首が赤熱してきているので、そのうち攻撃が止まるだろう。勇者が、船の仲間に向かって何かを叫んで居るが、相手は聞こえていないみたいだ。
「不甲斐ないぞ勇者! 《踊れ》クラウソラス」
あれ? 王子いたんだ。
勇者の船に続いて、王子までがオレを敵認定して空飛ぶ聖剣を撃ち出して来た。顔を横にずらして剣を避けて、通過寸前に柄を掴んで止める。手の中で暴れるが、一気に聖剣から魔力を吸い上げたら大人しくなった。
しかし、王子、ずいぶん草臥れた姿になっているな。
さっき、クジラをストレージに入れたときに、大量の体液と一緒にストレージに入らなかった寄生虫っぽい姿の魔物が闘技場に落下していた。個々は弱い魔物だったのだが、丁度、そいつらが落ちた所が、王子達がいた場所だったわけだ。
王子達なら大丈夫だろうと放置していたのだが、思いのほか苦戦していたようだ。鎧は半壊し、むき出しになった肌には魔物が喰らいついたと思しき傷跡が無数に残っている。よく失血死しないものだ。
戦闘狂の少年は、王子より酷い有様だが、狂ったように哄笑しながら、魔物の死体に剣を突き立てている。
黄肌魔族が足元に召喚陣を作り出して、逃げようとしていたので、「魔法破壊ブレイク・マジック」で召喚陣を破壊する。続けて黄肌魔族の防御魔法を「魔法破壊ブレイク・マジック」で破壊するが、よっぽど積層化しているのか一撃じゃ全て剥げないようだ。蔵秘雄精
縮地で急接近して「魔力強奪マナドレイン」で黄肌魔族の魔力を奪う。
「グヌヌ! こうまで容易たやすく魔力を奪われるとは!」
黄肌魔族も、ただ魔法を吸われていた訳では無く、色々と無駄な抵抗はしていた。
「キサマ、吸血鬼どもの真祖の類なのデスね」
今度は吸血鬼扱いか。
とりあえず、「魔法破壊ブレイク・マジック」して殴る、続けて「魔力強奪マナドレイン」というコンボを続けてみた。魔族が何か言っていたが適当に聞き流す。
1度に奪えるのは300MPほどだ。71レベルなら710MPくらいかと思ったが、3度奪ってもまだ尽きる様子が無い。どうやら魔族の保有MPは人族よりはるかに多いみたいだ。最終的に10回ほどで魔力強奪ができなくなった。オレよりMP多いんじゃないか?
奪った魔力は余剰すぎるので、丁度持っていた聖剣クラウソラスにチャージする。片手剣サイズだった聖剣が魔力を注ぐたびに大きくなっていく。アリサが居たら変な連想をして、ニヨニヨと頬を緩めていたに違いない。MPを500ほど注いだところで膨張は止まった。博物館にあったレプリカくらいの大きさだ。
防御魔法をあらかた剥ぎ終わり、魔力も尽き、体力も9割強ほど削り終わった黄肌魔族を勇者一行の前に投げる。
目の前に飛んできた黄肌魔族を勇者の剣が躊躇なく両断する。やはり防御魔法が切れてると簡単に倒せるみたいだ。1発で複数の魔法を破壊できるような魔法を開発したら楽に倒せそうだ。黄肌魔族は滅ぶ時に「やり直しを要求するのデース」とか叫んでいたが、何をやり直したいのかは最後まで不明だった。
仲間の魔法使い達が、両断された遺骸を魔法で焼き尽くしている。
勇者がオレの前に歩を進める。剣は抜き身のままだ。そういえば、聖剣じゃなく魔剣をつかっている。聖剣が壊れたのかな?
「どういうつもりだ」
「因縁のある相手だったんでしょ?」
「ふん、礼は言わんぞ」
「別にいいよ。禁呪が発動していたら倒せていた相手でしょ?」
黄肌魔族の余裕から見て対抗手段があった気がするが、突っ込むだけ野暮だろう。
しかし、この口調は失敗だ。喋りにくい。
「ところで、あのアホ王子が死に掛けているが、助けなくていいのか?」
勇者の言葉に、王子の方を振り返ると、さしずめ蠱毒の様相を呈しはじめてきた雑魚魔物達に嬲られている。短剣で戦っているようだ。
勇者も積極的に助ける気はないらしい。
オレも見捨ててもいいのだが、どうせ魔物を始末しないといけないので、ついでに助ける事にしよう。
誘導矢を使った方が早いのだが、せっかくの聖剣なので使ってみる。
「《踊れ》クラウソラス」
手から離れた聖剣クラウソラスが、重ねた紙がバラけるように増えていく。そのまま13枚の薄い刃の剣に分かれた。青い光が実剣の外側に刃を形成する。
AR表示に「誘導矢リモート・アロー」と同じような照準マークが表示された。軌道も、同様に設定できるみたいだ。そのまま雑魚魔物に向けて刃を撃ち出す。
刃は次々と魔物を切り裂き、聖なる光で魔物を蒸発させていく。
最初に見たときは20レベル前後の魔物ばかりだったのに、いつの間にか50レベルのモノが数体まざっていた。「生命強奪ライフ・ドレイン」というスキルで仲間の魔物達や王子達からレベルや生命力を奪って急成長していたようだ。
なるほど。
どうりでいつの間にか、王子の髪が白くなっていたはずだ。
あんなに皺も無かったし、レベルも40台後半はあったはずなのに、さっき見たらレベル20台まで落ちていた。戦闘狂の少年も、王子と似たような感じだが、王子よりはかなりマシだ。レベルも30台を維持しているし髪は白いものの老化はしていない。
オレにクラウソラスを投げつけなければ、もうちょっとマシだったろうに哀れだ。
5体満足で生き延びただけでも御の字だろう。
サトゥーです。テーブルトークRPGというものがあります。その世界の住人になりきって遊ぶゲームですが、欧米人と違って日本人は恥ずかしがり屋なので、割りと事務的な会話に終始する事が多いようです。夜狼神
もう一度いいます、日本人は恥ずかしがり屋が多いのです。
闘技場の向こうから鳥人族の偵察隊が飛んできた。
どうやら公爵軍がようやくやって来たようだ。マップで確認すると、鉄のゴーレム10体と騎士団3000人が闘技場を包囲しているようだ。移動砲台も何両か来ているらしい。
「ちっ、今頃来やがったぜ」
悪態を吐く勇者に別れの言葉を告げる。そろそろ退場しないと面倒だしね。
「勇者、ボクはそろそろお暇させてもらうよ。あまり、権力者の近くには行きたくないんだ」
すみません、本当は既に権力者サイドです。
「その気持ちはわかるぜ。見えているだろうけど、俺様はハヤト・マサキ。紛らわしいがマサキが苗字だ。あんたも日本人――いや、その髪は転生者だな。元日本人なんだろう?」
「日本人かどうかなんて、言わなくても判るんじゃない? ボクは『名も無き英雄』のナナシ。いつか戦場で会うこともあるかもね」
自分で英雄とか――無いわ~ 思わず床をゴロゴロと転がりたいぐらい恥ずかしいな。中二語変換ツールとかスマホにインストールしておくんだったよ。
本当に無表情ポーカーフェイススキルがあって良かった。
「待ってくれ! 一緒に戦ってくれないか? 魔王との戦いで君が欲しいんだ」
キモっ。
せめて「君の力が欲しい」と言って欲しい。ロリ以上にホモは無理だ。
「それはプロポーズ? せっかくの誘いだけど遠慮しておくよ。後ろで怖~い、お姉さま方が睨んでいるからね。じゃあね、色男さん」
何が「色男さん」だ! 誰かオレを止めて。中性的なセリフを意識したせいか、変なキャラ付けになっている。
オレを連想させないキャラというのはクリアしているが、キモすぎて死ぬ。
闘技場の客席に侵入してきた斥候部隊がオレを見て「ヤマト」コールを始めた。
なんだ?
自分の姿を見て納得した。
13枚に分割した聖剣クラウソラスが昔のシューティングゲームのオプションやビットのように、オレの周りに浮遊している。
その様子が、博物館にあったヤマトさんの絵画に似通って見えたのだろう。
しかし、ヤマトさんは2メートルの大剣を振り回す大男だろう?
流石に中性的な今のオレの容姿では、同一視するのは無理があると思う。いや、兵士たちと距離があるから背丈はわからないか、と思いなおした。
さて、退場前に、瀕死の王子達の怪我を少し治しておこう。このまま死なれてもMPKしたみたいで後味が悪いからな。
魔物の残骸に埋もれた王子達を助けだすのが面倒だったので、残骸をストレージに回収して、地面に残された王子達を水魔法で治癒する。少しだけのつもりだったのだが、全快してしまった。白髪や老化は治らなかったが、そこまでは面倒を見る気が無い。後で神殿に行くなりして欲しい。
2人とも破壊されていた装備は魔物の屍骸と一緒にストレージに回収されてしまったらしく、半裸だ。誰得な気がしたので、以前に盗賊から回収したマントを体の上に掛けておく。
「またね、勇者」
「ああ、今度は魔王との戦場で会おう!」
しまった、魔王を倒したのを言い忘れたな。そのうち神様から神託があるだろうから、別にいいか。
天駆で数百メートル上昇してから、風魔法:大気砲エア・カノンで加速して空の彼方へ飛び去る。前に試したら時速100キロを超えていた。そのうち最大速度の実験をしてみよう。
空の彼方へ消えるとか、気分は昭和のヒーローだな。
公都の上空にいるうちに確認したが、アリサ達は、ちゃんと館の地下室に避難しているようだ。セーラも無事に救出されたらしく、アリサ達と同じ部屋にいる。前伯爵夫妻や使用人のみなさんも大丈夫らしい。
カリナ嬢や弟君、それに巻物工房の面々も無事なようで良かった。樂翻天
没有评论:
发表评论