塔の寝室。心地良い眠りの中、窓から差し込む陽光を受けて寝惚け気味に起き上がる。少女の乱れた髪は銀に輝きながら、頭の動きに引かれて舞った。Motivat
(もう起きとるのか。早いのぅ)
ミラはちらりと隣に顔を向け、そこにある枕を確認する。ルナは小さく丸まったまま、まだ寝息を立てていた。安らいだその姿に目尻を下げると、ミラは腕輪のメニューを開き現在時刻を映し出す。
(わしが、遅いだけか……)
時間は朝の九時半を越えたあたりを示していた。ミラは、メニューを閉じて大きく欠伸をしてから、リビングに向かおうとベッドから足を下ろす。すると、正面の小さなテーブルに置かれた衣服が目に入った。とても、見覚えのあるデザインの服だ。
(準備が良いのぅ)
広げてみると、それは魔導ローブセットだった。一先ず着替えようかとミラが裾に手を掛けた時、扉をノックする音が響き、メイド姿のマリアナが顔を覗かせる。
「おはようございます。ミラ様」
「うむ、おはよう」
「お手伝いします」
これからミラがやろうとしていた事を即座に察し、むしろタイミング良く現れたマリアナ。有無を言わせず駆け寄ると、手際良くミラを整えていく。
着替えの他にもミラの長い銀髪は、やる気に満ちたマリアナにより透明に近い青のリボンで両サイドに分けて束ねられた。より可愛らしさを引き立たせるツインテール姿にミラ自身も満更ではなく、鏡を前にして満足そうにしている。
思う存分、ミラの髪を弄れたマリアナも、その仕上がりに喜びの笑顔を湛える。
姿見に映った二人は、その鏡越しに見つめ合い淡く微笑んだ。
これから朝食という絶妙な時間で目を覚ましたルナと一緒に朝食を済ませた後、ミラは今後の大まかな予定をマリアナに話す。
これから城へ向かいソロモンに報告する事。ソウルハウルの残した資料の解読状況によっては、そのまま新たな目的地へ向かう事。場所によっては、長く空けるかもしれないと。
少し申し訳無さそうにするミラだったが、マリアナは「心配無用です」と寂しさなど感じさせない笑顔をミラに向ける。マリアナにもう憂いは無かった。只、主人の帰る場所を守れる事が喜びであり生きがいなのだ。
ミラは、そんなマリアナの様子に安心すると、手の甲に宿る加護の紋章を見つめ、その繋がりの大きさを実感する。
「では、そろそろ行ってくる」
ルナの毛並みを堪能しながら食後の紅茶を飲み終えると、ミラはそう言い立ち上がる。するとマリアナは、キッチンからバスケットを持ってきて、それを差し出した。
「昼食を用意しておきましたので、後で召し上がって下さい」
「うむ、ありがとう」
ミラは、そのバスケットを受け取り礼を言うと、何気なくマリアナの頭を一撫でした。その動作はとても自然で、一切の躊躇いも無い。その事に、ミラ自身が驚く。それは、マリアナに対しての壁が無くなったという証であろうか、掌の下で嬉しそうに顔を綻ばせるマリアナの姿に、ミラもこれで良かったのだと確信する事が出来た。
「後は任せる」
言いながらミラは、ルナをぎゅっと抱いてからマリアナに託した。マリアナは優しく受け取ると、そっと一礼する。
「いってらっしゃいませ」
簡潔であるがそのやりとりは、少女同士という関係ながらも琴瑟相和といった趣があり、随分と堂に入ったものであった。
だが、ミラは気付かなかった。ちょっとだけ頬を膨らせたマリアナに。抱き締めるなら忘れてはいけないもう一人。この事に気付くのは今後のミラの課題かもしれない。
塔を出て、いざ飛び立とうとしたミラは、立ち並んだ直ぐ隣の塔を見て不意にある事を思い出した。隣は死霊術の塔であり、思い出したのはアマラッテとの約束だ。侍女のリリィと話し、時間がある時に採寸したいと伝える事を今、思い出したのだ。
(そういえば、忘れておった)
ミラは、首都に向かう前に済ませてしまおうと、死霊術の塔へと入る。
突如、銀髪の少女が現れた死霊術の塔内部では、どよめきと共に好奇の視線がその少女に集中する。召喚術の塔と違い、ここにはそれなりの数の術士が日夜研究に励んでいる。ミラは、その様子の違いに肩を落としながら最上階へと上がった。術士達はその姿を見送りながら「あれが噂の」と、この場へ来た理由は気にせず、各方面から流れてくる少女自身の実力や、その外見について盛り上がり始める。蒼蝿水(FLY D5原液)
死霊術の塔最上階。ミラは、生体感知により補佐官室と執務室に誰かが居る事を確認する。アマラッテは賢者代行である為、居るとすれば執務室の方だろう。そうすぐに結論すると、ミラは執務室の扉を叩く。暫くして気配が近づき、赤頭巾をしていないアマラッテが顔を出した。
「あら、ミラさん。わざわざここまでという事は、あの件についてね」
ミラの姿で即座に用件を察したアマラッテは、僅かに笑みを浮かべる。その、どちらかというと知的な印象に、赤頭巾が無いとこれほど変わるのかと、ある意味感心しながらミラは「そうじゃ」と頷く。
「リリィも随分と乗り気のようじゃ。採寸したいので、可能な時間を教えて欲しいと言っておったぞ」
「そうですか。ありがとう、ミラさん。では、今日にでも行きましょうか」
そう答えたアマラッテは、初めて会った時には想像できないほど嬉しそうに破顔すると、扉脇の棚に置いてあった小包を手にして「これはお礼よ」と言い、それを差し出した。
「礼などされる程ではないんじゃがな」
「お礼でもあるけど、私の気持ち。貴女に似合うと思ったの」
「似合う? なんじゃろうな」
「ふふふ、後で確認して。きっと気に入るわ」
ミラは受け取った小包を一瞥すると、そのままアイテムボックスに入れて「用件はそれだけじゃ。ではな」と言いエレベーターに乗り下って行った。
「透き通る程の白い肌、輝く銀の髪。やはり、それに合うのは黒よね。シャルロッテさんもそう思うでしょ?」
アマラッテがそう誰かに問い掛けると、補佐官室から長身の女性が姿を現した。線は細く喪服に似た衣装を纏い、整い過ぎた目鼻立ちをしている。どこか儚げで虚ろな黒い瞳は、右目が眼帯で塞がれていた。シャルロッテと呼ばれた女性は、死霊術の塔の補佐官でありデイライトウォーカーという、云わば吸血鬼の一族でもある。
「その質問には同意しかねますね。私は、断然白を推します」
シャルロッテは、ミラの後を追うように塔の下へと視線を向けながら、きっぱりと意見する。幽鬼の如く揺らめく瞳は、壁を隔てても尚、銀髪の少女の姿を捉えていた。
「あら、また意見が分かれたわね」
「アマラッテ様でも、ここは譲れません」
二人は不敵に微笑み合うと、異質な気配を漂わせ始める。
塔を出たミラは、その足で魔術の塔へと向かう。今度はルミナリアだ。世界樹の欠片が手に入ったので、これを炭の代わりに出来ないかと訊く為である。
「おーい、ルミナリアー。おらぬかー、返事せーい!」
言いながら、私室の扉を全力で乱打するミラ。扉の軋む音が響く中、豪快に開け放たれた扉から、鋭く赤い影が飛び出した。
「いつになったら加減を覚える! ってか、このやりとりも懐かしいな!」
苛立たしげに、だが少し嬉しそうに、宙を貫いた足を下ろしながらルミナリアが言う。
「そうじゃろう、そうじゃろう。そう思って、今回は大盤振る舞いじゃ」
「そうか、それはありが、とうなんて言う訳ないだろう」
胸を張るミラの顔を鷲掴みにするルミナリア。とはいえ、力は込めていないので見せ掛けだけだ。
「で、何の用だ?」
軽く突き返すようにミラの頭を離し扉に持たれかかると、ルミナリアは毛先を弄りつつ顔だけを向ける。
ミラは、腕輪を操作しながら、
「お主からの頼まれ事に、世界樹の炭があったじゃろう。そこで、これを手に入れたんじゃが」
前置きして世界樹の欠片を取り出し、それをルミナリアに渡す。
受け取ったのは、何かの木片であり炭ですらない。だが、ミラが全く関係ない物を、そんな前置きと共に渡すとは考えられない事だ。ルミナリアは幾つかの可能性を考慮してから口を開く。
「もしかして、これ世界樹の欠片か?」
「うむ、正解じゃ。やった覚えは無いが、それを炭にするという事は可能か? 可能ならば一つ完了なんじゃがな」
「そういう事か。しかし、どうだろうな。試した事は無いから分からんが、その辺りは職人組合にでも問い合わせれば問題ないだろう。あそこは、レア度なんてお構い無しな変人の巣窟だしな。きっと、実験してると思うぜ」
世界樹の欠片は用途が多く効果も高いが非常に貴重な品である。対して世界樹の炭は主に浄化の秘石という特殊なアイテムの素材にしか使えない為、欠片ほどの需要は無い。僅かではあるが入手率も欠片よりは高いので、是が非でも浄化の秘石が欲しいという理由でもなければ、わざわざ欠片を炭にする必要など無いのだ。
「職人組合か。そんなものもあるんじゃな」
「ああ、他にも農林組合や海洋組合なんてのもあるぞ」
「随分と元の世界に近づいてきたもんじゃ。その内、国連も出来そうな勢いじゃな」
そう言い肩を竦めて笑うと、ルミナリアは「似た様なものならあるな」と笑い返す。気になったミラが、それについて問うと、ルミナリアは大まかな内容を説明した。
曰く、それは『日之本委員会』といい、元プレイヤーの国主が集い、秘密裏に開かれるのだという。元プレイヤーであるが故に、現代的な平和思想を持っており、仮想ではなく実際の命が生きる世界で、戦争ゲーム等するべきで無いという倫理観が生まれた事に端を発する。国主が次々と名乗りを上げ、元プレイヤー同士の取り決めを世界の裏で交わしていたという事だった。
元プレイヤー最大国家である、アトランティス王国が音頭を取り国主を招致し話し合った結果、最初の会合では宣戦布告の禁止が約束される。SPANISCHE FLIEGE
これにより戦争は大きく減ったが、それでも無くなる事は無かった。何故ならば、元プレイヤー以外の国主、つまりこの世界で元から生きていた者が長である国があるからだ。日之本委員会では、その国を原生国と呼んでおり、元プレイヤーが国主を務める国よりも数は多かった。
ほとんどが日本人の思想を持ち、戦争の回避に尽力する元プレイヤーの国主と、この世界で元から生きている者達の戦争に関する価値観には、大きなずれがあった。故に、好機があれば攻め込まれ、周囲を原生国に囲まれた元プレイヤーの国は、外交により緩和したり悪化したりと気の抜けない状態にあるという。中には度重なる原生国の侵攻に痺れを切らし、開戦を宣言した元プレイヤー国主も居るのだという話だ。
現在では委員会の名の下に、元プレイヤー間同士・・・・・・・・の戦争の禁止が確約されており、別の方面でも様々な経済効果が齎されているという事だ。
「今も諦めずに、説得を続けているらしいがな。そもそも戦争の原因を解決できなきゃ止まらないだろう。国の為、富の為、生きる為、より良い生活の為に争う。間違っちゃいないが歪んでるよな。手を取り合えば良いものを、思想、過去、国、そんな目に見えない悪魔が邪魔をするんだ。ま、正直オレには良く分からん事だがな」
「わしも、そういった事は苦手じゃな。ソロモンに任せておけばいいじゃろう」
二人は冗談交じりにそう言い合うと、決して表に出す事無く心の中でソロモンに感謝するのだった。
「とりあえず、それが炭に出来れば後は、紅蓮王の剣じゃな」
「ああ、頼んだぜ」
二人は、簡単に挨拶を交わして分かれた。ルミナリアは、早速リタリアを呼び出し職人組合に問い合わせる。ミラはエレベーターの中、アルカイト王国の立地を思い出していた。
もし昔と変わっていないのなら、アルカイト王国の近くには原生国が幾つかあったはずだ。
(戦争は本来、そういうものじゃったな。一度開戦してしまえば、誰かが死ぬ。その為の抑止力……か)
ミラは、改めて自分に課せられた任務の重さを実感しながら、魔術の塔を後にする。
塔を出てペガサスに乗り、シルバーホーンを飛び立ったミラ。それから数時間後には、アルカイト王国首都ルナティックレイクの王城へと到着していた。
門番と一言二言、挨拶を交わし城内へと入ったミラは、誰かにソロモンの居場所を聞きだそうとエントランス内を見回す。首都の王城だけあって、シャンデリアや絵画、定番の甲冑にランプ、中央階段から続く刺繍の見事な赤い絨毯と、贅に富んだ内観に改めて感心する。
(玄関だけあって、やはり豪華じゃな。しかし、あの辺の絵は誰が描いたんじゃろう)
趣味が良いのか悪いのか判断に困る、半裸の精霊達の集う湖を描いた大判。少女が川を駆けて行く一瞬を切り出した、躍動感溢れる中版。そして、薄布一枚を纏った少女と空を舞う天使が、伸ばした手を絡め合う小判。元の世界ではイラストと呼称されそうな幻想的な絵画が立派な額縁に入れられて飾られている。
そんな絵を眺めながら、どうでもいい事を考えていたミラの目が、見知った人物の姿を捉えた。台車に無数の本を乗せて運ぶソロモンの補佐官スレイマンだ。
「おお、スレイマンではないか。丁度良いところに」
駆け寄ったミラがそう声を掛けるとスレイマンは足を止めて、にこやかな笑顔を返す。
「これはこれはミラ様。おかえりなさいませ」
「うむ、ただいまじゃな」
台車から手を離すと、略式の礼をとるスレイマン。ミラも簡単に挨拶を返すと、スレイマンの運んでいた台車の本を一瞥する。そのタイトルは多岐に渡っていたが、積み上げられた本の全ては一貫して古代に関しての資料であった。
「全部押し付けてしまってすまんのぅ。手伝いたいところじゃが、わしも解読といった事は苦手でな」
「いえいえ、私としてはお礼を言いたいくらいです。私の古代と精霊の知識がソロモン様の為に役立てられる日が来るとは思ってもいませんでした。ですから、今は毎日がとても充実しております。それもこれもミラ様が持ち帰って下さった資料のお陰でございます」
そう言って、心底嬉しそうな雰囲気を溢れさせるスレイマン。その様子にミラも、スレイマンはこういう人物だったと改めて思い出す。
「ミラ様は、これからご報告ですか」
「そのつもりじゃ。ところで今、ソロモンはどこにおる?」
「この時間ですと、執務室かと。ご案内いたしましょう」
スレイマンは、台車を目立たない端に寄せ始める。だがミラは、解読作業を邪魔をしては悪いと思い、SPANISCHE FLIEGE D9
「いや、結構じゃ。見たところお主も忙しいじゃろう。場所は覚えておるしのぅ」
そう言いながら、執務室のある方へと視線を向ける。
「分かりました。私は暫く資料室に居ますので、必要があればいつでもお呼び下さい」
「うむ、引き止めてすまんかったな」
エントランスで偶然出会った二人。ミラは、中央階段を上って執務室方面へと向かい、スレイマンは台車を押してエントランスを横切って行った。
「ほれ、例のブツじゃ」
王の執務室で挨拶もそこそこに、ミラは天魔迷宮プライマルフォレストで採取してきた始祖の種子を机の上に並べる。
「わっ、すごいね。十個集められたんだ。いやぁ、ありがとう」
始祖の種子を確認したソロモンは、必要数よりも少し嵩増しした数を揃えてきたミラに、驚きながらも感謝すると、机から箱を取り出してその中へ保管する。
「それがのぅ、団員一号がほとんど見つけてくれたんじゃよ。どこにあるか分かるようでな。意外な能力の発見で、随分と簡単に終わったわい」
ミラは、いつものソファーに深く腰掛けて、自分のケット・シーを少し自慢げに話す。
「そうだったんだ。それはすごい能力だ。そんなに簡単なら、また頼んでも良さそうだね。嬉しいよ」
「う……。まあ、近くに用事が出来たらのぅ」
ミラは足を投げ出すと、苦笑しながら答える。そんな様子に、ソロモンは感謝して微笑むと「それで、どうだった」と本題を切り出す。
「長老から証言は得られた。ソウルハウルが聖杯を求めている事は間違いないじゃろう」
「そっか。なら、この線を追っていけば捕まえられそうだね」
ソロモンは、資料だけ集めても結局、聖杯には手を出していなかったという結果も予想していた。だが、ミラがその目で痕跡を確認してきた事で、この先には確実にソウルハウルが居るという事が確かなものとなったのだ。
全てが水の泡になる様な結果は回避できた。その朗報にソロモンは安心したのか、少しだけ頬を緩める。
「うむ。それとじゃな、切られた根の状態を見たところ、かなり古そうじゃった。長老はいつ来たか覚えておらんかったが、これが分かれば少し工程を飛ばせるのではないか」
専門的な知識が無いので、切り口の時期を特定する事は出来ない。知識があろうとも、常識外である御神木の成長を把握する事は難しいだろう。だが、ソウルハウルが順調に手順を辿っているならば、序盤の分は完了しているものとして省略する事も可能だろうとミラは考えた。
「そうだね。僕としては、長老が覚えている事に期待していたんだけど、神様は大雑把だからねー。後は、どれだけ飛ばすか何だけど、もう少し特定材料が必要かな」
ソロモンとしても、ソウルハウル一人に時間を掛ける訳にもいかないので、省略できるところは極力飛ばしていくつもりだった。だが現状、その指標となるものが一切無いので、順番に巡り指標となりそうな情報を探してもらうという手段をとっているのだ。
「ふーむ、そういえばのぅ、特定材料になりそうにはないんじゃが、あ奴は帰り際に黒い何かが必要だとか言っておったそうじゃ」
「黒い何か?」
「うむ、それと……杯を削る云々じゃったかのぅ」
「削る……か。黒い何かで根を削る、とかかな。でも黒ってなんだろう」
ソロモンは、その脈絡の無い情報に首を傾げ「黒い……削る、黒いー」と呟く。言ったミラも、結局どういう意味だったのだろうかと、天井を仰ぎながら「黒、黒」と繰り返していた。
「とりあえず、僕達じゃ考えるだけ無駄そうだね。新情報だし、専門家を呼ぶとしようか」
早々に諦めたソロモンは、いつか見た呼び鈴を指先で弾く。
暫くして扉がノックされると、専門家スレイマンが顔を見せた。
「スレイマンよ、解読の方はどこまで進んでいる」
声を低く、威厳を出すようにしてソロモンが言う。
「只今判明している部分は、根を加工する為には自然物の何かが必要であるというところです。更に、特別な場所でなければ加工できないらしいのですが、その場所自体に関する記述が無く、難航しております」
状況を説明し、申し訳無さそうに頭を下げるスレイマン。
「そうか。何かの切っ掛けになるかは分からないが、新たな情報を長老から直接、そこのミラが得てきた。黒い何かで削るような事らしい。何か心当たりはないか」
「忙しいところすまんのぅ。わしらではさっぱりでな」
「いえ、これも私の役目。この場に呼んでいただき光栄でございます」
スレイマンは呼ばれた理由に、心なしか嬉しそうに一礼する。
ミラは、そんな途中参加のスレイマンに、長老との話を最初からだが簡潔に話して聞かせる。
それからスレイマンは、押し黙ったまま神妙な面持ちで、解読分とミラが持ち込んだ情報を整理統合し始める。すると、徐々に不鮮明だった部分に解が浮かび上がってきた。
「なるほど。ありがとうございます、ミラ様。次の場所が分かりました」
数分で最終的な結論を導くと、スレイマンは晴れ晴れとした表情で宣言する。
「なんと。それは素晴らしいのぅ」
「スレイマンよ、その場所はどこと出た」
スレイマンは、懐に入れていた地図を取り出すと「失礼します」と言い机の上に広げる。それは、三神国やアルカイト王国の属するアース大陸の全図で、スレイマンはその東側、アリスファリウス聖国の北に位置する山脈を指し示す。SPANISCHE FLIEGE D6
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