グロリアが所属する、クライン王国の調査隊は3日後の1月5日、ゼオ村に到着していた。
重い装備は全て『ゴリアス』が運んでくれたので、行程も捗ったのである。
少し早い時間であるが、馬を休ませるため、この日はここで野営する事になる。
隊員たちは分担してテントを張ったり、食事の仕度をしたりしていた。九州神龍
「隊長、いよいよ明日からは未知の領域ですね」
「うむ、グロリア、そちらの隊員の様子はどうだ?」
「は、全員問題ありません!」
隊長のベルナルドは、女性騎士たちの様子を尋ねたが、さすがにグロリアが選んだ者たち、まだまだ問題無しということであった。
「うむ。ショウロ皇国のフリッツ殿は?」
「は、気を使っていただいております」
グロリアを含む4名の女性騎士たちにとって、初めて経験する長期行軍ということで、ショウロ皇国国外駐留軍少佐、フリッツ・ランドルは気に掛けていたのである。
「そうか。彼とそのゴーレムがいなければ、ここまで楽な行軍は望めなかっただろうからな」
軍馬とて、騎士以外の荷を背負えば足取りは遅くなる。それが、食糧、水、非常物資など、身の回りのもの以外を巨大ゴーレム『ゴリアス』が運ぶことで、行程を短縮化することが可能になったのである。
「グロリア殿、不自由ごとはないかな?」
その日の夕刻も、夕食の準備をしているグロリア達女性騎士隊員のところへフリッツが顔を出した。手には小さな袋を持っている。
「やあフリッツ殿、私は慣れているからなんでもないが、部下達はやはり少々面食らっているようだ」
グロリアは、自分の副官を相手に、行軍記録のチェックをしていたが、その手を止めて振り返り、返事をした。
「なるほど。俺はこういう野営には慣れているが、女の騎士じゃあ、あまり経験無いだろうからな」
そして手にした袋を副官に向けて差し出した。
「フリッツ殿、これは?」
袋を受け取った副官が尋ねる。
「俺の故郷で最近飲まれるようになったお茶だ。今までのクゥヘやテエエと違い、夜飲んでも目が冴えてしまうようなことはない。まあ、試してみてくれ」
「あ、ありがとうございます」
副官がグロリアに代わって礼を言い、フリッツは手を一振りすると自分のテントへ戻っていった。
「ふむ、フリッツ殿はまめに気に掛けてくれるな。いい人物じゃないか」
「そ、そうですね」
副官は袋を振って音を聞いた後、中をのぞいている。
「あ、いい匂いがします」
それはいわゆる『ほうじ茶』。カフェインが少ないため、就寝前に飲んでも目が冴えたりしにくいわけだ。
「今夜飲んでみるか」
「そうですね」
一方、隊長のベルナルドは、案内人であるローランドと打ち合わせをしていた。
「すると、ここから東へ2日行程のところに、間違いなく集落があるのだな?」
「はい。そこはおそらくセルロア王国からの難民の子孫なのでしょうが、ハチミツの採取で生計を立てています」
「ふむ、ハチミツか」
ベルナルドは甘党らしく、ハチミツという単語に内心で舌なめずりをした。
「はい。その他にも、この季節でしたらシトラン系の果樹がまだ採れるかと」
「なるほど、多少は食糧難の足しになるか。で、道ははっきりしているのだな?」
「はい、踏み跡程度ですが、迷うことはないでしょう」
2日行程といっても、それは徒歩あるいは荷馬車での話。今回は馬であるから、1日に短縮することも可能だ。
「よし、今日は早めに休んで、明日は早立ちとしよう」
調査隊全員に伝えるため早足にテントを出て行こうとしたベルナルドはふと足を止め、苦笑する。
「いかんな、もう少し落ち着かねば」
いよいよ、旧レナード王国の土地に踏み込むと思うと、少し興奮している自分に気が付いたベルナルドであった。
翌朝、未明に起床した一行は、手早く朝食を済ませると、東へ向けて出発した。午前6時頃である。
ウーゴンというその集落までの距離はおよそ80キロ。馬での速歩 はやあしという歩法で時速13キロと少し、6時間ほど掛かる計算だ。
途中、馬も休ませねばならず、もちろん乗っている人間も、ということで、8時間を予定している。
「ローランド殿、大丈夫か?」Xing霸
性霸2000
「はい、なんとか」
1人、軍人ではないローランドを、騎士たちは気遣っている。ローランドも、行商での強行軍は何度も経験しているので、何とかついて行けているといった状況だ。
朝日の中、代赭たいしゃ色に染まる大地を進む一行。先頭を行く5体の巨大ゴーレム、その影が長い。
2時間ほど進むと日は完全に昇り、暖かくなってきた。
「よし、休憩だ」
隊長のベルナルドが号令をかけた。
一行は馬から下り、水を飲む。馬は、そこらに生えている草を食べ始めた。
「ふむ、ローランド殿の言うように、この道であれば、馬の飼料はほとんど必要無いというのがよくわかるな」
あたりは一面、牧草に近い種類の草で覆われているのだ。
クローバーに似たその草は、蜜を含んだ花を付け、ミツバチのよい蜜源となるのであった。
「グロリア殿、部下の方々は大丈夫か? 今までに無く急いでいるが」
先頭を行く『ゴリアス』と共に歩を進めていたフリッツがやってきた。
「ああ、フリッツ殿か、うむ、まだ大丈夫なようだ」
「それならいいが。馬の速歩 はやあしは常歩 なみあしと違ってかなり揺れるからな。慣れないと酷く疲れるものだ。時々、鐙あぶみに立ち上がって、膝で揺れを吸収すると少しは楽になるはずだ」
「ご忠告感謝する」
そして一行はまた進んでいく。
3度目の休憩はほぼ正午、同時に昼食となる。
グロリアの部下の1人が疲労によるものか、食欲がないと言いだしていた。
そこに顔を出したフリッツ。
「……ああ、やはりな。これを飲ませるといい」
そう言って、グロリアに向けて水筒を差し出した。
「これは?」
「アプルルのジュース、というか、摺り下ろしたものだ。食欲が無くてもこれなら喉を通るだろう」
「……かたじけない」
礼を言ってそれを受け取ったグロリアは、疲労と馬酔いによって食欲がないらしい部下の女性騎士に差し出した。
「済みません、副隊長……本当に、食欲がないのです」
「わかっているが、何も口にしないと保たないぞ。口だけでも付けてみろ」
「はい……」
すり下ろしアプルルを一口口にした女性騎士は、目を輝かせた。
「……美味しい……」
「うむ、そう感じたなら、全部飲んでいいぞ」
「ありがとうございます……」
女性騎士は水筒に詰められた摺り下ろしアプルルを全部飲んでしまった。
「うむ、それなら、今日もあと半分、なんとか頑張れるな」
「はい、ご心配おかけしました」
「フリッツ殿は頼りになるな」
「はい、本当に」
独り言のようにグロリアが呟くと、隣にいた副官もそれに同意したのであった。
少し長目の休憩後、また一行は東を目指した。
幅50メートルほどの川が行く手を阻む。エルメ川である。
カイナ村の北に流れを発し、カイナ村の南を流れ、旧レナード王国とクライン王国の国境線となって、首都アルバンの南にあるセドロリア湖に注ぐ。
そこからはトーレス川と名を変え、セルロア王国の首都エサイア南でアスール川と合流してナウダリア川となり、海へと注ぐ、ローレン大陸屈指の大河である。
「どうやって渡るのだ?」
ベルナルド隊長がローランドに尋ねた。ローランドは付近の地形を確認してから答える。
「はい、ここから少し上流に行ったところが浅瀬になっておりまして、この季節なら徒歩でも渡れます」
「なるほど。貴殿を連れてきてよかった」
そして一行は200メートルほど上流へ。
そこは川幅が倍ほどもあったが、その分水深は浅く、深いところで50センチほど。
「よし、『ゴリアス』に先行させよう。その様子を見れば、水深も確認できると思うから」
フリッツはそう言って、馬に乗ったまま、『ゴリアス』と共に川へ。
間違いなく、水深は浅い。『ゴリアス』の踝くるぶし付近までしか無い様子が見て取れた。絶對高潮
「よし、フリッツ殿に続け!」
こうして一行は、旧レナード王国に足を踏み入れたのであった。
そんな彼等の目の前に、10頭ほどの動物が現れた。
長い巻いた毛を持つ、体長1メートルほどの草食動物である。
「あ、あれはシーパです! もしできれば、数頭狩って下さい!」
ローランドが大声を上げた。
シーパと呼ばれたその草食獣は、羊に良く似ていた。
「任せろ」
先頭を行くフリッツが、馬に乗ったまま、群れに向かった。そしてロングソードを抜くと、あっという間に4頭の首をはねたのである。残りは慌てて逃げていった。
「これでいいか?」
剣に付いた血を拭って、フリッツが戻ってくる。
「はい、十分です! ベルナルド隊長、血抜きをして、運んで行けますか? あのシーパを持っていけば、ウーゴン集落では歓迎してくれること間違いなしです」
その助言を聞き流すほど、ベルナルドは無能ではなかった。
「うむ、わかった」
部下に命じ、血抜きを施す。血で汚れた毛皮は川の水で洗い、綺麗にする。増えた荷物は『ゴリアス』が持ってくれる。
30分ほどロスしたが、これで交渉が円滑になると思えば、何ほどのこともない。
一行は改めて東へと進み出したのであった。
仁の計画
3458年1月3日、エゲレア王国。
首都アスント、その王城中庭に集合した一団があった。
旧レナード王国調査団である。
隊長は、近衛騎士隊副長のブルーノ・タレス・ブライト。
近衛騎士を派遣するあたり、エゲレア王国がこの調査団に力を入れていることがわかる。
隊員は騎士5名に加え、魔法工作士マギクラフトマンのジェード・ネフロイも同行。遺跡や遺物の調査に役立つだろうとの判断からだ。
また、秘密裏に開発された、とある魔導具の実用試験も兼ねているのである。
「良いか、成果を期待しているぞ」
「はっ!」
宰相であるボイド・ノルス・ガルエリ侯爵の檄に、一斉に敬礼を行った。
彼等は、首都アスントを発ち、ブルーランドを経由し、海岸沿いの街道に出、東の端ファイストという村から国境を越え、旧レナード王国に入る事になる。
まず目指すはニューレア集落。
そこはハチミツで有名な土地であり、友好的な者たちが住んでいるので、そこで案内を募る予定であった。
「その後は出たとこ勝負だな。国境山脈沿いに北上していけば、どこかでクライン王国の調査隊と出会うはずだ」
この調査行は、熱気球でバックアップ、サポートすることになっている。
ファイストと同様、国境にあるヨークジャム鉱山に熱気球を待機させ、必要に応じて飛ばし、進路を指示することになっていた。
「……というのが計画だそうよ」
「なるほど……」
1月3日の朝。
仁、エルザ、ラインハルトらは、迎賓館でフィレンツィアーノ侯爵の説明を聞いていた。陰茎増大丸
「両国の調査隊がうまく出会えるかどうか、は熱気球に掛かっていますね」
「そういう事ね。我が国は、この調査行が上手くいくよう、祈るしかないわ」
侯爵は一息つくと、クゥヘを一口飲んだ。
「それで、昨日の夕方、鳩で返事が届いたわ」
これは仁ではなく、正大使であるラインハルトに向かっての言葉。
「ラインハルト・ランドル卿の要望は全て受け入れられたわ」
「そうですか、安心しました」
大使としての使命を果たせ、心底ほっとした様子のラインハルト。
「加えて、クライン王国から要望があった際には、トポポの援助は惜しまないわ。調理法のレシピも付けて、ね」
「ありがとうございます」
これは仁。一応、クライン王国の関係者でもあるわけだ。
「侯爵に、一つお願いがあるんですが」
話が一段落したところを見計らって、仁が切り出した。
「何かしら?」
「俺を首都ボルジアへ……いえ、王様に会わせて下さい」
横で聞いていたエルザとラインハルトも驚く。そんな話は聞いていなかったからだ。だが、付き合いの長い2人は、すぐにその意図に気が付いた。
「……もしかして、熱気球をいただけるのかしら?」
フィレンツィアーノ侯爵もそれに気付いた。
「ええ、よろしければ」
「嬉しいわ! すぐに連絡を取ります。鳩でのやり取りですから、明日……いえ、早ければ今日の夕方には返事が届くかもしれませんね」
鳩の飛ぶ速度は、分速1000メートル以上(分速で表すのは慣例)。平均時速で80キロは出る。
ポトロックと首都ボルジアの距離は120キロ程度。往復だけなら半日も掛からない。
「よろしくお願いします」
それで仁たちは退出。侯爵は早速手紙を書き、鳩で送ってくれるそうだ。
「ジン、いきなりだったから驚いたよ」
「私も」
3人だけになると、エルザとラインハルトが仁に向かって言う。非難めいた口調ではない。
「すまん。事前に伝えておくべきだった」
「ああ、まあいいさ。でも、なんか急いでるみたいだな? 何か思うところがあるのかい?」
「うん。実は、崑崙島を、俺の所有地だと認めさせたい、と思っているんだ」
「えっ?」
「ああ、あれ」
ラインハルトの顔には疑問符が浮かび、エルザは納得がいったという顔。
「ああ、順を追って説明するよ。礼子、お茶を淹れてくれるか?」
「はい、かしこまりました」
そして、礼子が淹れてくれたクゥヘを飲みながら、仁は説明を開始した。
「きっかけは大型船の建造だ。これから、船はますます発展し、外洋へ出て行くことになるだろう。そうなったら、蓬莱島はともかく、崑崙島は近いうちに見つかる可能性が高い」
「まあ、そうだなあ」
ラインハルトも仁の見通しに同意した。エルザも無言で頷く。
「で、それならいっそ、崑崙島を俺のもの、と国際的に認めさせたい。小さな島だし、不可能じゃないと思ってる」
蓬莱島がおおよそ栃木県や群馬県と同じくらいの面積で、崑崙島は伊豆大島くらいである。
以前、蓬莱島が四国くらいの大きさと思っていたが、空からの正確な観測でそれは勘違いだとわかっていた。美人豹
「元々、崑崙島は蓬莱島のダミーだったわけだしな」
ここへ来てようやく、本来の用途に使えそうだ、と仁は苦笑気味に言った。
「崑崙島を東の外れと認識してくれれば、蓬莱島の存在を隠しやすくなる。まあ、その頃には幻影結界も完成しているだろうしな」
「なるほど。ジンもいろいろ考えていたんだな」
「ああ。そして出来れば、特定の転移門ワープゲートの存在は明らかにできたらいいなと思ってる」
「だが、それは……」
難しい顔になるラインハルト。先日も少し話題になったが、彼も、その持つ意味を十分に知っているのだ。
「言いたいことはわかる。だが、昨日だっけ、ちょっと話をしたろう? 国の管理下に置かれるなどの条件さえ満たせば、交通技術の発達を歪めなくて済むかもしれない」
「……条件は良く考える必要があるぞ」
「ああ。だけど、ここポトロックにも転移門ワープゲートはあるし、何より、ブルーランド郊外のものは、クズマ伯爵とビーナも知っている。いやビーナは使ったことがあるんだ」
「確かに……」
「だから俺は、崑崙島と転移門ワープゲート、この2つをなんとか穏便に世の中に知らしめたいと思っているのさ」
ラインハルトとエルザは黙り込んだ。どうやったらそれが出来るか、考えているのだろう。
『お父さま、老君からの提案です。……使用する魔力素マナは、通常の魔力貯蔵庫マナタンクでは賄いきれないそうです』
「ああ、そうか、それがあったな」
転移門ワープゲートが消費する自由魔力素エーテルは膨大である。
空間を繋げるのだから当たり前であるが、1回の使用で、おおよそ10の12乗ジュール、TNT火薬1キロトン分の爆発のエネルギーを必要とする。
逆に、空間に穴を開けるには少なすぎるとも言えるのだが、そこは魔法の効果、というしかない。
かなり大きな魔素変換器エーテルコンバーターもしくは魔力反応炉マギリアクターがなければ、恒常的な使用はできない。
つまり、今の世界の魔法技術から見たら、対費用効果が悪すぎるのである。
魔素暴走エーテル・スタンピード前なら採算が取れていたのかもしれないが。
閑話休題。
であるから、もし転移門ワープゲートが各国に配備されたとしても、軽々しく使用できるものにはならないだろうと思われた。
「うーん、その線ならなんとかなるかもな」
考えた末、ラインハルトが呟くように言った。
「まだすぐに公表するつもりもないし、もっと良い方法もあるかもしれない。だから、協力して欲しい」
纏めるように仁が言った。ラインハルトとエルザは大きく頷く。
今すぐではなく、世界に影響を与えないやり方がないか、よく考えてから。
それで仁たちの意見は一致した。
「それはもちろんさ。僕だって転移門ワープゲートにはお世話になっているしね」
「私はいつでもジン兄を、お手伝いする」
「お父さま、わたくしも老君も、もっと情報を集め、お手伝い致します」
「ありがとう、みんな」
仁は、いい仲間を持った、と、心から思うのであった。新一粒神
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