2015年4月15日星期三

ルビドラと先行するらしい

 エメドラの警告から10分程後。
 ほとんどルビドラと寄り添うようにして飛んでいたエメドラから再度の警告が入る。

 <やはり戦闘中だ。魔物の軍勢と龍人族。それに邪竜と我らの同胞が戦闘に入っている>三體牛寶

 「悪い予測ほど的中率が高いってジンクスはなんとかならんもんかな!」

 舌打ちと共にはき捨てる蓮弥であるが、起こっているものはどうしようもない。
 今更引き返すわけにもいかず、引き返せた所で行き着く先がないのだ。

 「念の為尋ねるが、エメドラとルビドラの二匹が介入して、劇的に変化があったりしそうか?」

 <無茶言わないでくれる!?>

 <期待を裏切って申し訳ないが、一応我々もそれなりに上位種ではあるが、相手にも同じ存在がいる>

 二匹の竜が乱入して、並居る敵を皆殺しにしてくれないかな等と言う甘い期待はあっさりと打ち砕かれ、蓮弥はエメドラに声をかける。

 「エメドラ、俺をそちらに乗せてくれ。代わりにそっちのメンバーをこちらに移して、俺と先行しよう!」

 <それはだめ!>

 妙に鋭い思念で静止されて、蓮弥は口ごもりエメドラは驚いたような表情を浮かべる。
 竜の顔でも驚いている表情って作れるんだな、と場違いな感想を蓮弥が抱いている中、ルビドラが蓮弥に言い募る。

 <速度も攻撃力も私の方がエメドラより上だわ! 先行するなら私とにしなさい!>

 <事実だが……どうするね? レンヤ>

 足り無そうなのは思慮くらいか、と実に失礼なことを考えながら蓮弥は背後にいるクルツへ視線を送る。
 やや怯えたような狐耳の巫女二人を落ち着かせるように撫でていたクルツは、蓮弥の視線が自分に向いているのに気が付くと、視線を合わせてきた。

 「クルツ! その巫女二人とローナとシオンをエメドラの背中まで運べるか?」

 「よゆーです、伯爵様」

 ぐっと中指を立てて見せたクルツに、蓮弥は声を低く抑えつつ注意する。

 「クルツ、立てる指が違う……」

 注意してから蓮弥は気が付く。
 もしかするとここは異世界なのだから、中指で間違いないのかもしれないと。

 「あれ? 小指でしたっけー?」

 「親指! 親指だぞクルツ!」

 小指をぴんと立てて見せたクルツに慌てて訂正するシオン。
 異世界と言えども、そう言った仕草は同じなのかと蓮弥は安心する。

 「ちなみに、私は移る気はないからなレンヤ!」

 「正直に言って、邪魔だぞ?」

 「それでも、だ!」

 頑として引く気のないシオンを、説得することを早々に蓮弥は諦める。
 何か頭の片隅で、舌打ちのような音が聞こえた気がしたが、それも気のせいと切り捨てて、蓮弥はクルツへ指示を飛ばす。勃動力三体牛鞭

 「ならクルツ! 他のメンバーを連れてエメドラの上へ! あっちに行ったらレパードとグリューンに蓮弥が先行するから後からついて来いと伝えてくれ」

 「了解です、伯爵さまー」

 両脇に獣人族の巫女を抱えたクルツの背中から二条の黒いもやが溢れ出す。
 見るからにまがまがしいそれの内の一本は、一瞬あっけにとられたローナの腰に絡みつき、ぐいとばかりにその体を持ち上げると、残りのもう一本がするすると伸びてエメドラの足に絡みつく。
 ものすごくいやそうな顔をするエメドラには構わず、クルツはニコニコしながら蓮弥に手を振ると、その黒いもやを操作して身を宙に躍らせて軽々とエメドラの背中に着地する。
 一拍遅れて、ローナがもやに絡みつかれたままこちらは着地と言うよりは落っこちるような形でエメドラの背中へと運ばれていった。

 「便利だなーあれ。練習したら俺も使えるようにならないかな?」

 「レンヤ。滅多なことは言わない方がいいと思うんだが……」

 もやの正体はシオンには分からなかったのだが、何かあまり良くないものであることくらいは直感的になんとなく察していた。
 できればそんなものに触れて欲しくないなと言う思いから出た言葉だったのだが、蓮弥にはあまり伝わらなかったらしい。

 「だめかな、あれ?」

 「いやまぁ。便利っぽいと言えば便利っぽいんだが、あんまり使いたいとは……」

 <くだらない会話はそのくらいでいい? 急いでいるのだから、行くわよっ!>

 <無理をするなよ? 確かに火力はルビドラが上だが、防御力は私に劣る。蓮弥、フォローしてやってくれ>

 竜が人に竜のフォローを頼む、と言うのは常識的に考えて異常だ。
 快く任せておけとも答えにくい蓮弥はあいまいな笑みを浮かべるにとどめ、ルビドラは牙をむき出してエメドラを威嚇する。

 <フォローなんて必要ないわ!>

 「だ、そうだが……ま、怪我しない程度に頑張るよ」

 <いやお前ら、先行するからといって交戦する必要は無いんだぞ? 危険だと思ったら戻ってきていいんだからな?>

 エメドラに言われた蓮弥とルビドラは一瞬、視線を交差させる。

 「先行って、先行殲滅任務だろ?」

 <戦闘中に突っ込んで、攻撃しないで帰るとか馬鹿なの? いっぺん死ぬ?>

 <分かった、死なない程度に好きにしろ>

 これ以上は言っても無駄だろうと諦めた感じがたっぷりとつまったエメドラの言葉に、気がつくことすらなく蓮弥はルビドラの背中に座りなおし、シオンが蓮弥の背中に張り付く。

 <振り落とされないように、しっかり掴まってなさい!>

 「おい、騎手の保護は……」

 竜がどれだけ加速をしても事故が起きないのは、騎手を振り落とさないように保護しているからだ。
 それなのにそんな警告をしてくるルビドラに、蓮弥が声を上げかけたが、次のルビドラの言葉がそれをさっくり遮った。

 <速度にまわすから甘くなるかもねっ!>

 「いいのかそんなの……でぇっ!?」

 背中を蹴り飛ばされたような衝撃に蓮弥の声が上ずる。蒼蝿水
 慌ててしがみついてくるシオンを支えてやりながら、蓮弥はそれがルビドラの急激な加速によるものであることを悟って、軽くルビドラの首筋をたたく。

 <何?>

 「ほんとに保護甘くしてるじゃないかお前っ!」

 <加速9割、保護1割!>

 「死ぬわ、阿呆が!」

 本当にそんな力配分だったのだとすれば、ルビドラの背中にいる蓮弥もシオンもただではすまなかっただろうから、おそらくはルビドラなりの冗談ではあったのだろうが、それに近いような力配分であることは間違いないようだった。
 そうでなければ竜の加速で騎手が衝撃を受けるわけがない。
 少なくとも蓮弥はエメドラの背中に乗った時にそんな衝撃を受けた覚えがなかった。

 <竜の翼は魔力で飛ぶのよ! 急ぐなら当然の処置でしょうが!>

 竜が保持している魔力の上限は決まっている。
 その振り分けで速度を上げたり防御力を高めたりするのだが、当然なんらかの要素に力を多く注ぎ込めば他の要素が弱くなるのは当たり前のことだ。
 納得できる理由ではあるかもしれないが、実際に乗っている蓮弥達からしてみればたまったものではない。

 「当然ってお前……」

 ぼやきながら蓮弥が肩越しに背後を振り返れば、衝撃に耐えるように目を閉じて背中にしがみつくシオンの、風にわずかにだがなぶられている髪の隙間から、酷く小さくなってしまったエメドラの姿が一瞬だけ見えた。
 搭乗人数が増えた為に、エメドラの速度はわずかながらに失速していることは間違いなかったのだがその姿はあっと言う間に芥子粒のようになり、すぐに視界からきえてしまう。

 「どんだけ速いのお前……」

 <竜族じゃ二番目だけどね>

 どこかでそんな言い回しがあったような気がする蓮弥であるが、それがなんであったのかはまったく思い出せない。

 <やっぱり一番速いのは風信竜の末裔ね。私は紅玉竜の末裔になるから、攻撃力なら竜族一よ>

 「はぁそうなんですか、としか言えないなそれは」

 <どうでもいいことだけどね。ほら、見えてきたわ>

 ルビドラに言われて進行方向へ視線をやろうとして、弱いながらも襲ってきた風圧に蓮弥は目を背ける。
 多少保護されていると言っても、結構な風圧が蓮弥とシオンの二人を襲っており、シオンの方は既に周囲を見ることを完全に諦めて、目を閉じたまま蓮弥に必死にしがみつくだけになっていた。

 「少し速度を緩めろ! もしくは保護を強めによこせ! これじゃ前も見れないぞ」

 <無茶言わないでくれる? 限られた魔力を運用してぎりぎりの所なんだからね! 根性でなんとかしなさい!>SEX DROPS

 「まさか竜族に根性論をたたきつけられることになるとは思いもしなかったが……魔力が豊富にあれば保護にまわせるのか?」

 <当たり前のことを聞かないでくれる!?>

 馬鹿じゃないのと言わんばかりのルビドラの、首を叩いて蓮弥は叫んだ。

 「だったら魔力供給用のパスを俺に繋げ!」

 <人族の魔力ごときで竜族が使用する魔力をどれだけ肩代わりできるってのよ!>

 「いいからさっさとしろ! さっさとしないと……お前の首を飛ばしてただの死体にしてから<操作>で操ったほうが実は安全なのかこれ?」

 死体は命を持たないので一応物品扱いになり、操作の魔術の適合範囲に入る。
 竜の体は元々、ある程度は飛ぶことを前提とした形になっているので、操作の魔術で勢いをつけてやればそれなりに安定して飛行する可能性があった。
 ふと、妙案を思いついたとばかりに呟いた蓮弥達の下で、ルビドラが飛行速度を落とさぬままに器用にびくりと体を震わせた。
 その視線が色濃く恐怖を纏わり着かせて、おそるおそると言った感じで蓮弥を振り返る。

 「別にそうしてやるといってるわけじゃない。そうされたくないなら、俺へのパスを繋いでくれ」

 <わ、わかったわ>

 表面上は仕方なくしぶしぶといった感じで。
 実際は首を飛ばされてたまるものかと、いそいそとルビドラは蓮弥へのパスを繋ぐ。
 それは通常、蓮弥がフラウに対して開いている魔力供給用のパスに似た感じのものであった。
 現在、蓮弥の魔力はフラウへは距離的な問題から供給されていない。
 ひたすら溜まる一方の魔力を、蓮弥はこれ幸いとばかりにルビドラから繋がれたパスへと流し込み始める。

 <ちょっとちょっと、何よこれ!?>

 「質問は全て終わってからだ。余裕が出来たなら保護を厚くしてくれ!」

 蓮弥の求めに応じて、目を開けていられないほどの風圧がぴたりと止んだ。
 ごうごうと耳元でなっていた風の音も無くなる。
 あまりに急激な変化に、思考の空白が発生しかけた蓮弥であるが見えるようになった進行方向の先の光景に慌てて手放しかけた意識を引き戻す。
 そこは少しひらけた平原と、岩山の境目に立てられた城塞都市であった。
 高い壁で囲まれた都市の上空には、かなりの数の飛行する竜らしき影が見て取れ、都市自体からは幾筋もの煙が上がっている。
 防壁には遠すぎて何なのかまでは蓮弥にも分からなかったが、小さな無数の影が取り付き張り付いて上り、一部は上りきってしまっているようにも見えた。
 そして、都市の周囲はしっかり真っ黒な影で包囲されてしまっている。三体牛鞭

 「攻撃されてるな……」

 「しかも結構劣勢っぽいね……」

 <数で負け、制空権も取られてるっぽいわね>

 都市が近づいたせいなのか、少し制動をかけながら、ルビドラは素早く周囲の状況を見回す。
 地上戦はほぼ、龍人族側の圧倒的劣勢と言う状態に陥っているようだった。
 地上の戦力の数の差が圧倒的なのに加えて、空においても邪竜が完全に制空権を支配してしまっているせいだ。
 制空権を取られた理由は、すぐにルビドラの目に飛び込んできた。

 <守備につけておいた同胞が……やられてる>

 年齢的にまだ若いとは言っても、それなりに血気盛んで実力のある竜をおいていたはずだった。
 しかし、それらの竜は無残に引き裂かれ、焼かれて都市の一角や、平原の上に無残な屍を晒してしまっている。
 やや遅れて、蓮弥もそれに気がついたがふと思いついたことは口にしないでおく。
 あまりにその場においては思慮が無さ過ぎる言葉に思ったのだ。
 その代わりのようにシオンが蓮弥の背中に張り付いたまま、耳元でささやく。

 「あれって、おに……」

 「シオン、俺も思ったが今はそれを口にしていい状況じゃないぞ」

 <あんたら、絶対にお肉とか素材とか思ったでしょう……>

 「今はそんな議論をしている場合じゃない」

 きっぱり言う蓮弥であるが、否定はしてない所が実に正直な所だ。
 シオンも今自分が何に乗っているのかと言うことを改めて認識して、慌てて蓮弥の背中に顔をうずめて知らない振りをしている。

 <言っておくけど、持ち帰りとかしたらタダじゃおかないからね!>

 釘を刺すルビドラではあったが、なんとなく知らないうちに一、二体くらい行方不明の亡骸が出てきそうな予感を抑えきれないのであった。男宝

2015年4月13日星期一

金月花のアニタ

妖樹園の迷宮37層。出て来る魔物は全てランク5、周囲を亜熱帯を思わせる密林が覆い身体に纏わりつく空気を煩わしく思いながら進む1組の冒険者パーティーが居た。

「アニタ~もう帰ろうよ。暑いのと汗がべとべとして気持ち悪いよ」鹿茸腎宝

「ベル、我儘言うんじゃないよ。
 妖樹園の迷宮は見つかってまだ4日目、階層情報も22層まででまだ誰も攻略していない。
 この迷宮を最初に攻略するのは私達、『金月花』だ!」

「ぶ~そんなこと言っても26層にボスは居なかったし、きっと他の冒険者か大手クランが攻略してるよ」

「ベルさん、それはありえませんよ。現に『権能のリーフ』ですら10~16層で攻略が止まっているんですから。
 私の予想では13層毎にボス部屋ではなくランダムだと思いますね」

 拗ねるベルの頭をアプリが撫でて諫めると、ベルは子供扱いするなと言いながらも手を払いのけることもせずに撫でられ続ける。

「あたしもボスが居ないことは気にしてたさ。
 確かアプリ達とCランク試験を受けた冒険者の中に迷宮発見後、そのまま迷宮に潜った奴等が居るんだよね?」

「そうだよ! ユウは剣の腕が凄くてさ、22層までの地図もユウがギルドに売ったんだぜ!」

「ユウじゃなくてユウ達でしょ。確かにユウ達なら26層を攻略してそうなんだよね」

「男嫌いのモーランが珍しいじゃないか。そんなに良い男だったのかい?」

「ち、違うっ! そんなんじゃないですよ」

「良い男ってより良い男の子かな」

「へぇ~モーランにそんな趣味があったなんて」 

「ベルさんまでっ! 違うって言ってるじゃないですか!」

 アニタとベルの冷やかしに顔を真赤にしてモーランは反論するが、アニタ達は珍しい物が見れたと笑みが溢れる。

 『金月花』が妖樹園の迷宮に潜り始めて3日が経過していた。
 冒険者ギルドが妖樹園の迷宮発見の発表と22層までの情報を売出した同日に、アニタ達『金月花』のメンバーは都市カマーに着いていた。本来であればアプリ達がCランク昇格試験の結果を王都に居るアニタ達に伝えるはずだったが、面倒見のいいアニタと心配性のベルが居ても立っても居られずに、王都に居る『金月花』のメンバーほとんどを連れて来てしまったのが真相だ。

「『権能のリーフ』といえば嫌な連中でしたね」

 アプリが露骨に嫌そうな表情を浮かべると、横に居たモーランとメメットも同様の表情を浮かべる。紅蜘蛛

「俺達の女にしてやるだっけ? あたし達を舐めてんのさ。妖樹園の迷宮を攻略するのもそういった連中を見返す為なんだからね」

「アニタ、あっちから5来る。多分、魂吸樹に取り巻きのマーダービートル」

「はいよ。皆、準備はいいね」

 ランク5の魂吸樹にマーダービートルが接近しているにもかかわらず、アニタは慌てた様子もなく指示を出していく。周りのメンバーもそんなアニタに安心感を持っている。
 アプリ、モーラン、メメットだけでは37層での狩りは死と隣り合わせだが、盾職のアニタと斥候職のベルや金月花のメンバーが居ることで強力な魔物の攻撃や不意打ちを防ぐことができ、大した傷を負うこともなく37層まで来ることができた。

「来ました! ベルさんの予想通り魂吸樹とマーダービートルです!」

 アプリの声と同時にアニタが前に飛び出ると、魂吸樹の横薙ぎの攻撃を受け止める。
 魂吸樹は紫色の毒々しい幹に青色の葉、魂を喰った数だけ身体に顔が浮かび上がる醜悪な魔物で全長3メートルほど、トレントに比べれば若干小さいがそれでも人間を大きく上回る膂力を誇る。
 並みの盾職なら受け止めると同時に吹き飛ばされるのが落ちだが、アニタは微動だにせず受け止めていることからも盾職として如何に優秀かが窺えた。後ろに居るアプリは目指すべきアニタに対して羨望の眼差しを送っている。

「アプリっ何を見とれてんだい。マーダービートルに『挑発』!」

「は、はいっ」 

 数十分後には魂吸樹とマーダービートルの死体が地面に横たわっていた。

「モーラン、あたしが受けているからって気を抜きすぎだ。魂吸樹のソウルイーターを喰らってたら今頃、そこで転がっていたのはあんただよ」

「あたしがそんなヘマするわけ――痛い。殴らないで下さいよ。アホになったらどうするんですか」

「ぷぷ。モーランはこれ以上アホにはならないよ」

「ベルさんっ!」

 アニタ達がいつものやり取りをしている間に、金月花のメンバーは苦笑しつつも魂吸樹とマーダービートルから魔玉と素材を剥ぎ取っていく。

「冗談はこのくらいにしておいて、そろそろワーシャン達と合流するよ」

 妖樹園の迷宮を攻略するにあたって金月花はパーティーを2つに分けて探索し、一定時間または次の層への道を見つける度に合流し新しい層に着くとパーティー分割を繰り返していた。勃動力三體牛鞭

「あれ……」

「ベル、何かあったかい?」

「あそこなんだけど」

 ベルが指差した場所は岩壁に亀裂が入って洞窟のようになっている場所だった。

「あはは。ベルさん、あそこはこの層に来た時、最初に調べた場所ですよ。中に入っても吹き抜けになっている空間があるだけで何もありませんでしたよ」

 メメットの言葉にベルはそんなこと知っていると言わんばかりのジト目を送る。メメットもですよね~っとアプリの背に隠れる。

「気配がある。それも複数。あまり動かないからもしかしたら他の冒険者が居るのかも」

「あたし達以外に37層に辿り着ける冒険者がいるかね? まぁ怪我して動けない可能性もあるから念の為、見に行くか」

「なんだかんだ言ってお人好しなんですから」

「アプリっうるさいよ!」

 アニタ達が岩壁の亀裂まで近付くと人影が見える。更に近付くとそれが人ではなくゴブリンだと判ると、金月花のメンバーは各々が武器を手を掛ける。
 ゴブリンの姿は全身が黒色で通常のゴブリンでは考えられないほど身体も大きかった。右手に戦斧、左手には盾、鎧を着込んで重装備と全てが常識外れのゴブリンだった。

「あっあれって確か……」

「なんだい。モーラン、あの異様なゴブリンを知ってるのかい?」

「お~い、君ってクロちゃんだよね」

「ば、ばかっ! メメット気はたしかかい!」

 メメットがゴブリンに向かって走り寄って行くので、アニタ達は慌てて止めようとするが間に合わずメメットはゴブリンに――クロに駆け寄って呑気に話し掛けている。
 アニタ達がメメットに追い付きクロに対して警戒心をむき出しにするが、クロに話し掛け続けるメメットのアホさ加減に毒気を抜かれる。巨根

「クロちゃんであってるよね? この先にはユウ達が居るの――痛い……ベルさん、何するんですか?」

 頭に拳骨を落とされたメメットが涙目でベルを睨むが、ベルのジト目に本気で怒っているのを理解しアプリの後ろへ隠れる。

「人間共、我に何かようか?」

 クロの言葉に金月花のメンバー全員が驚愕の表情を浮かべる。アニタ達が驚くのも無理はなく高ランクの魔物であれば言葉を話せることはあるが、ゴブリンのような低ランクの魔物が喋ることなど通常ではありえない。

「クロちゃん、ユウ達も一緒?」

「あんたが居るってことはこの先にユウが居るのか?」

 モーランはアプリ達からクロが話せることは聞いていたので、アニタ達ほど驚きはなかったがそれでもゴブリンが話せることに戸惑いは隠せないようだった。

「主に用か? 暫し待て」

「こんなに流暢に言葉を話す魔物なんて初めて見たよ」

 アニタは警戒心を解いたかのように話すが、いつでも盾を動かせるように左手は盾を握り締めていた。

「主から許可が出た。通るがいい」 

 アニタ達はクロを警戒しつつ、岩壁の亀裂の中へと進んで行く。亀裂の中を少し進むと開けた場所が見えてくる。
 吹き抜けになった天井からは光が注ぎ込んで、ここが迷宮内だと忘れさせるような神秘的な光景にしていたのだが、アニタ達を絶句させたのは椅子に座ってティーカップを啜っているユウと、側に立って何故か幸せそうに佇んでいるマリファに足元で座り込んでいるスッケとコロ、敷物に寝転がって本を読んでいるレナ、更に最初に来た時にはなかった衝立のような土の壁があり、衝立の奥からは湯気が立っていた。

「は、はは。まさか迷宮内でこんな光景に出会すなんてね。
 あんた達、念の為に聞くけどここで何をしてるんだい?」

 こめかみに青筋を浮かべながらアニタはユウ達に質問する。レナは一瞬、アニタ達を一瞥すると興味がなくなったのか読書を再開する。

「見て分からないんですか? ご主人様は休憩をしています。
 まさか用件とはそんなくだらないことを聞く為だったのですか?」

「あたしはクラン『金月花』盟主のアニタだ。狼一号
 冒険者が怪我でもしてるのかと思って来たんだけど、勘違いだったみたいだね!」

「なんだ用件ってそんなことか。お人好しなんだな」

 アニタは顔を真赤にしてユウへと近付いて行く。しかしアニタの前にマリファが立ち塞がる。

「それ以上、ご主人様に近付かないで下さい」

 アニタとマリファが睨み合う中、メメットはレナの横に寝転がり本を盗み見するが、レナが鬱陶しそうに横に転がっていくとメメットも追随して転がる。ベルはレナとメメットのやり取りの何が可笑しいのか楽しそうに座り込んで眺める。アプリはアニタとマリファの一触即発の状態を何とかしようと慌てふためく。モーランはマリファがアニタに気を取られている隙にユウに話し掛けていた。他の団員達はスッケとコロに手招きしていた。

「こんな所で会うなんて奇遇だな。折角だし一緒に探索するか? うん、それがいい」

「いつの間にっ! ご主人様に近付かないで下さい」

 マリファがモーランの腕を引っ張るが前衛職のモーランに膂力で敵うはずもない。

「ユウ~」

「大丈夫だからちゃんと浸かってから出て来い」

「は~い」

 衝立代わりの土壁からニーナが顔を出すが、ユウの返事に安心したのかお風呂を再開する。

「まさか……風呂に入ってるんじゃないだろうね。ここが何処かわかってるんだろうね?」

「迷宮に決まってるだろう。モーラン、こいつ大丈夫か?」

「へへ、アニタさんはちょっと脳筋入ってるん――痛っ……アニタさん、なんで殴るんですか」

 ユウが名前を覚えていたことに喜びを隠せないモーランだったが、アニタに拳骨を落とされ涙目になる。

「うるさ~いっ! あたしは怒ったよ! 皆もそうだよね?」

 アニタが振り返るとおろおろするアプリはいいとして、転がって逃げるのを諦めたレナと一緒に読書するメメットにそんな二人を見ながらニヤニヤしているベル、更に残りの団員達はスッケとコロを撫でて満面の笑みを浮かべていた。

「……った。本当にあたしは怒ったからね!」

 妖樹園の迷宮37層でアニタの怒声が響き渡った。三體牛鞭

2015年4月10日星期五

ボルエナンの森に別れを

 サトゥーです。仕事が繁忙になるとカロリーバーとサプリメントの生活をしていた日々が、遠い過去のようです。バランス良く食事を取るのって、難しいですよね。

「サトゥー、味ヘン?」蒼蝿水

 ミーアが、ハンバーグを食べて不思議そうな表情をしている。

「美味しい~よ?」「ハンバーグ先生にシツレイなのです!」

 タマとポチが、ハンバーグの擁護をしている。フォークを持った手を振る前に、ソースをちゃんと舌で拭うあたりルルやリザの教育の賜物なのかもしれない。

 今日のミーアのハンバーグは、何の変哲もない普通の豆腐ハンバーグだ。オレやルルも同じものを食べているが、特に雑味も無いし、なかなか会心の出来だと思う。

「口に合わないかい? こっちの皿のを食べてごらん」

 オレは、お代わり用に作っておいた、予備のハンバーグの皿を保温魔法具から取り出してミーアの皿と交換してやる。見分けが付き易いように皿の色を変えてある。

「ん、美味し」

 その皿のハンバーグを1切れ口に運んで、ミーアは満足そうに頷いて、はぐはぐと食べ始めた。ミーアの残した豆腐ハンバーグは、ポチとタマが分け合って食べていた。ポテト以外の付け合せの野菜は、きっちりミーアに押し付けている。

 そろそろ告知の頃合か。
 ミーアがハンバーグを食べ終わるのを待って、真実を告げる。

「ミーア、君に言わないといけない事がある」
「ん」

 神妙な顔でミーアに話しかけたのだが、何故か目を瞑って口を突き出して来た。アリサに毒され過ぎだと思う。誤解を解くために「ハンバーグの事だ」と前置きして話を続ける。何故かすごく不服そうな顔をされてしまった。

「ミーアがさっき食べたハンバーグには、肉が入っています」

 というか半分以上は、脂身を取り除いた赤身の肉を使っている。
 案の定、前に魚肉ハンバーグを食べた時のポチのように、裏切られたと言わんばかりの劇画調の表情をしている。

「ぎるてぃ」
「うん、ごめんね。さらに言うと、ミーアが最初に食べたハンバーグには肉が入っていませんでした」
「むぅ」

 何かの葛藤をしているミーアに、最後の一押しをしてやる。勃動力三体牛鞭

「ミーア、お代わりはどっちのハンバーグにする?」
「むむぅ、こっち」

 ミーアが指差したのは肉入りハンバーグの方だった。
 まだ、普通の肉だけのハンバーグは食べれないみたいだが、少しは忌避感が減ってくれたと思いたい。

 ポチが差し出した肉汁たっぷりのハンバーグは、嫌そうに手で押し返していた。

 いきなりは無理だよね。

 展望台から、光舟に吊り下げられたカカシたちが虚空へと出陣して行く。
 今回、ロールアウトしたカカシで、予定数の半分だ。設計図を送ったベリウナン氏族とブライナン氏族によって改良されたので、後半作成したカカシほど索敵効率がアップしている。残りのカカシは、ソトリネーヤさんの工房に作成を任せた。

 この10日の間に、5つの世界樹から無事にクラゲが除去された。

 抜け駆けしてクラゲを駆除していたベリウナン氏族だが、ライバルのブライナン氏族に先んじるために無茶をしたそうだ。案の定、ベリウナン氏族の世界樹にも卵が残っていたらしい。後から伝えたオレ達の情報のお陰で、二次被害を未然に防げたと感謝の言葉が贈られて来た。
 これは、炎で排除したビロアナン氏族の世界樹にも言えることで、彼らの世界樹にも卵が残っていたらしい。

 今回の功績の対価として、バレオナン、ザンタナン、ダヲサナンの3つの氏族からボルエナン氏族に、光船が1隻づつ贈られる事になったそうだ。1隻欲しいかと、長老さんに聞かれたのだが、持て余しそうだったので散々迷った挙句に断った。必要になったら借りに来よう。

「ねえ、サトゥー。今日、アリサ達がスプリガンの修練所を制覇したら、森を出て行ってしまうの?」
「ええ、そのつもりです」

 今日は珍しくルーアさんがいない。
 隣の椅子に三角座りして膝の上に顔を乗せるアイアリーゼさんの質問に、オレははっきりと答える。

「一緒に来ませんか、アーゼ」

 オレは少し震える声で彼女を旅に誘う。100%負けが確定した賭けでも、引く事はできなかった。一瞬、アイアリーゼさんの顔が輝いたように見えたのは、気のせいでは無いと思いたい。三體牛寶

「ごめんなさい」

 そう呟いたアイアリーゼさんは、膝に顔を埋めてしまって表情が見えなかった。

 傷心を誤魔化すように、オレは、飛空艇の最終チェックを行う。この船は光船にそっくりだ。300年ほど前に、光船を自分達で作ろうというムーブメントがあったらしく、その時に作られたフレームを譲って貰ったのだ。フレームは、世界樹の中にある保管区画に大量にあった。

 全長30メートルほどの小型のモノだが、積載量は異常に大きい。それもそのはずで、居住区や貨物倉庫は空間魔法で拡張してあった。この拡張の維持にも賢者の石が使われているそうだ。
 空力機関は未搭載だったので、2重反転ディスク式の空力機関を8器載せた。推進器には4本の加速筒を搭載した。空気を圧縮して後ろに噴き出すだけのシンプルな装置だ。今回搭載した機関は、どれも静音性を追及してある。

 さすがに次元潜行機能は搭載していない。

 闇夜でも目立たないように、勇者のジュールベルヌと違って漆黒の塗装をしてある。ステルス性をアップするために、電波吸収塗料ならぬ魔力吸収塗料を使ってみた。この技術を開発した過去のエルフ達に何があったのか、少し気になる。

 動力機関は、動く人形リビングドールのと同じ動力炉を1機搭載している。もちろん、空力機関を起動するだけの出力は無い。世界樹の樹液を結晶化させて作った小型のバッテリーに、最大まで魔力を蓄えた状態で、ようやく30分だけ飛行できる。

 本来の主動力は、言うまでも無くオレ自身だ。動力機関は、船内の照明や索敵などの機器を制御する為や、オレに何かあった時に不時着する為に搭載してある。

 船の名前に、偽光船1号と付けたら周りから猛反対を受けたので無名のままだ。

 乗り物は、他にも2つ。

 低出力の空力機関を搭載した木造の帆船が1隻と、自走機関を搭載した小型の箱馬車が1台だ。どちらも見た目は、普通の帆船や箱馬車にしか見えない。帆船は、陸上に上陸させる事も考えて、着陸脚が出せるようにしてある。水上で誤作動した時に沈没しないように配慮してある。花痴

 馬たちのうち、セーリュー市で買った老齢の2匹と、無角獣つのなしはボルエナンの森に置いて行く事にした。なんと、無角獣つのなしは、おめでただった。一角獣ユニコーンの手の早さにビックリだ。

「じゃあ、ミーア、ご両親と仲良くね」
「ん、サトゥー」

 ミーアが、おでこにかかる髪を両手で避けてココにキスをしろと圧力を掛けて来る。お別れの挨拶に、おでこにキスくらいはいいだろう。

 軽く触れるか触れないかのキスをする。
 きっと、後で全員にキスをする破目になりそうだ。

「まあ、やるわねミーア。策略家だわ」
「むむ、承知」

 勝ち誇って後ろの両親に、勝利のサインをしている。

「同行する」

 はい?

「同行する」

 2度そう繰り返した後、ミーアが久々の長文を続ける。

「シガ王国のサトゥー、貴方が婚約の儀式を受け入れてくれた事を嬉しく思います。ミサナリーア・ボルエナンは、死が貴方を連れ去るまで、貴方の片翼として存在する事を誓います」

 ひょっとして、嵌められた?

「まあ、素敵ね。サトゥーさん、ミーアを宜しくね」
「守れ」

 これは、少しやらかしてしまったみたいだ。ミーア母によると、エルフ達にとって、額にキスする事が婚約の申し出で、受けた側が相手の額にキスする事で了承するのだという。道理で「婚約者」とかいつも言っていたはずだ。

 ミーアの両親には、その風習を知らなかったと伝えて判ってもらえたのだが、ミーアは確信犯のようで「聞こえない」と耳をふさいでイヤイヤをしている。D10 媚薬 催情剤

 あれ? それだとオレは初対面のアイアリーゼさんに婚約を申し出た事になっていたのか? 彼女の情緒不安定なまでの反応が少し理解できたかもしれない。

 ミーアの両親の後ろで、見送りに来ていたアイアリーゼさんが、面白くなさそうに膨れている。そんな顔を見せられたら、迷宮都市からでも足繁く通っちゃうよ?

 ミーア父に呼ばれたドライアドが、オレ達をボルエナンの森の南端、マーメイドたちの隠れ里近くまで妖精の道アルフ・ロードを開いてくれる。

 ここは、少し暑い。
 予め、入り江に浮かべておいた帆船が見える。

「では、ここでお別れです。また遊びに来ますね」
「いつでも帰って来て。ボルエナン氏族は、いつでもアナタ方を歓迎します」

 どさくさ紛れにアイアリーゼさんとお別れの握手を交わしたが、今度ばかりはギルティ判定はされなかった。

 長老さんに許可を貰って、「帰還転移リターン」の魔法の目印に使う刻印板をボルエナンの森の樹上の家に置いてある。到達距離が足りるかは微妙だが、届かなかったら閃駆や魔法で加速して飛んで来ればいいだろう。

「何か変なのです」
「変な臭い~?」

 磯の臭いが初めてなのだろう。ポチとタマが鼻を押さえている。アリサが、これが潮の香りだと教えてあげている。このあたりは気温も高いみたいだし、一度、海水浴でもさせてあげよう。

 みんなや馬達は、理力の手マジック・ハンドで持ち上げて帆船に移動させた。

 ミーアを運ぶ時に、両親の元に残らないか再確認したが、「行く」と言ってダッコを強要された。オレはミーアを抱えると、天駆で帆船の甲板に乗り移った。
 先に理力の手マジック・ハンドで、船に乗せた面々からブーイングが出たので、後のフォローが大変そうだ。

 見送りの人達に手を振りながら、畳んだ帆を理力の手マジック・ハンドで広げる。「気体操作エア・コントロール」の魔法を発動して、帆に風を吹き付けて船を出港させた。

 寄り道は終わりだ。

 このまま岸に沿って西に進み、王都の南西にある貿易都市タルトゥミナ付近で上陸して、迷宮都市を目指そう。紅蜘蛛(媚薬催情粉)

2015年4月8日星期三

閉じた世界

クフフフフ、と笑うディアブロをみやり、俺は溜息を吐く。
 完全に調子に乗っています。本当にありがとうございました! という感じだった。
 そんなディアブロの相手をする事になる太ったピエロフットマンという名前らしいには、ご愁傷様と言ってやりたい。三體牛鞭
 ま、精神は崩壊して、この場で動く者を皆殺しにしたいという衝動だけで動いているようだし、そこまで心配してやる事も無いだろうけど。
 心配してやる必要があるのは、目の前に倒れるレオンであった。



 俺はレオンの傍まで歩み寄り、その胸に手を翳す。
 レオンの部下達が目を見開いて驚愕していたが、指を口に当て黙れと合図し、黙らせた。
 言い争っている場合では無いのだ。
 俺は懐(と見せかけて『虚数空間』)に収納していた完全回復薬フルポーションを使って、レオンの胸の大穴を塞いだ。
 けれど、そこで薬の効能は終了である。肉体の修復が完了しているのに、レオンの意識が戻る事は無い。
 だが、慌てる必要は無い。
 何しろ、この場所はミザリーの結界にて閉じた世界なのだから。
 というか、レオンは幸運である。なんせ、俺が来なければ危なかっただろうから。
 そもそも、何故俺達がここに居るのかと言うと

 俺はヴェルダに死んだと思わせたまま、隠れつつ世界の動向を探っていた。
 ディアブロがこっそりと忍ばせていたモスの分身体は、非常に便利であった。相変わらず、諜報活動は完璧だったのだ。
 俺の監視魔法と、モスの諜報。
 どこに隠れ潜んでいたとしても、状況を把握するのは容易であった。
 まあ、隠れ潜む亜空間に情報を伝達するのに一工夫いったのだが、そこはシエルにお任せで問題解決である。
 俺には理解出来ない魔法理論を駆使し、快適な空間を創り出してくれたのだ。
 流石は先生。マジで万能である。
 その空間内で各地の情報を集めつつ、ディアブロと寛いでいたのだが……
 レオンの領地にて、ヴェルダの気配を察知したのだ。

《高確率で、本体では無いと思われます。ですが、何らかの尻尾が掴める可能性があるかと》

 なるほど。
 先生が言うのなら、そうなのだろう。
 という訳で、こうして出向いてやって来たのだ。
 まあ、各地の状況も無視出来る訳では無いのだが、ヴェルダを倒せば終了なのだから、優先順位は明白なのだ。
 ギィの所は、クロエとギィの一騎討ちが激しさを増していたが動きは無かった。
 ルミナスの所は結構ピンチのようだが、アダルマンにアルベルト、そしてシオンが居る。まだまだ大丈夫だろう。
 ここでヴェルダを捉えて倒せれば一番良かったのだが、流石にそれは甘い考えだった。
 ヴェルダはどうやら、カザリームに与えていた力を回収するのが目的だったようだ。
 映像に実体を持たせる、つまりは情報の断片を本体と接続させて操る『多重存在』めいた能力を有するという事。
 並列存在は、分身を同時に操る能力だが、個々にエネルギーを分ける必要がある。
 その一歩手前の、思考する意思のみを重ねさせて情報のみ同時に回収する能力、と言えば良いだろうか。
 明確に本体が必要な『並列存在』と、全てが本体に成り得る『多重存在』と。
 どちらが厄介かは、使うものの能力次第であろう。
 だが、能力の格としては、『多重存在』が最上位なのは間違いない。
 俺も現在、シエル先生に解析させている所なので、自信を持って断言出来る。

 話が逸れた。
 俺達が到着したのは、ヴェルダが『多重存在』により、カザリームの力を回収してしまったタイミングだった。
 一足違いである。
 これに関しては仕方がない。何しろ、ヴェルダの存在に気付き転移した時には全てが終わっていたのだから。
 認識と同時に、情報が伝達される。それが、『多重存在』の厄介な所なのだ。
 時を止める能力なりで阻止しないと、その伝達速度に追いつくのは不可能である。
 シエル先生曰く、情報伝達の速度は、実質光速以上であるとの事。
 言葉通り、同時、なのだ。
 なので、ヴェルダを取り逃がした事についてはどうしようもない。
 どの道、断片化した情報体なのだから止めを刺す事も出来なかった訳だし、気にする事は無いだろう。
 問題はその直後に起きた。
 ベニマルとカザリームの戦いで空いたらしい結界の綻びを、ミザリーが修復してしまったのだ。
 恐らく、ヴェルダの情報伝達を阻止しようと結界再構築を行ったのだろうが、悪魔の反応速度を以ってしてもそれは不可能。
 寧ろこの状況で反応出来た事こそ、褒めるべきである。
 俺達もその綻びを利用して潜入した訳だが、閉じ込められる形になってしまったという訳だ。
 ヴェルダに発見されないように用心したまま撤退しようとした俺達にとって、結界を破って移動する訳にはいかないので仕方ない。そんな事をすれば、見つかってしまうだろうしね。
 これは少し恥ずかしい事態なので、ディアブロと二人して気配を完全に隠したまま様子を伺う事にした、という訳であった。
 で、そのまま様子を伺っていたのだが、直後にレオンが倒された。
 このままでは死亡確認! となりそうだったので、俺が何とかしようと姿を現したのである。
 それもミザリーの結界が完璧であり、外部から内部を視る事は不可能というシエルの判断があったからなのだが。
 もしここで、ヴェルダにバレる危険性が少しでもあったのなら、俺はレオンを見捨てていた。
 悪いが、重要なのはヴェルダを倒す事だ。そこは冷徹に割り切っている。
 だが、レオンにとって幸運が重なり、この場は完全に隔離された状態だった。
 俺は素早くミザリーの結界を補強した上で、姿を現したという訳である。狼一号

 そんな訳で、レオンの治療を開始する。
 視たところ、魂は無事だが、核コア部分が損傷を受けたようだ。
 覚醒した勇者が得る、力の根幹部分。ここを損傷すると、力の制御が出来なくなるみたい。
 シエル先生が冷静に診察し、俺に報告してくれる。
 ふむふむ、さてどうしたものやら。



 しかし、外部が騒がしいのも問題だった。
 ベニマルはカザリーム戦で大きくエネルギーを損耗してしまったようで、あのデブ、フットマンを一撃で倒せないようだ。
 流石に無駄に攻撃しても意味が無いと理解しているらしく、無駄な攻撃を仕掛ける気配は無い。
 ソウエイとラプラスという魔人も、決定的な攻撃力に欠けている。
 ミザリーは結界維持に全力を注ぐようだ。その判断は正しいだろう。
 時間をかけてベニマルの魔素が元通りになるのを待つ作戦なのだろうが、それでは落ち着いて治療も出来ない。
 ここはベニマルには悪いが、ディアブロの出番だと判断した。

「よし、仕方ない。やっておしまいなさい、ディアブロさん!」

 そう俺が命令した途端、待ってましたとばかりにディアブロが動いた。

「クフフフフ。お任せ下さい、我が主よ!」

 超嬉しそうに堂々と姿を現し、フットマンの頭を鷲づかみにして地面に叩きつける。
 それを見た感想が、冒頭のものという訳だ。
 驚愕する一同に、ドヤ顔のディアブロ。
 そこから先は、一方的展開が予想された。
 レオンの治癒に専念しつつ、チラッと様子を見てみると

「クフフフフ。どうしました? こんなものですか、貴方の力は?」

 どこの悪役だよ! と言いたくなるような惨状が展開されている。
 いや、俺の命令の仕方も悪役っぽかったから仕方ないのか? いやいや、そんな事は無いハズだ。
 ディアブロの両手の爪がフットマンを切り刻み、その力の差を明確に示す。当然、切った先はどんどんと消滅させている。
 再生が追いつかない勢いで切り刻むのだ。
 たまに、極大の閃光と衝撃が走るのだが、この結界は大丈夫なのだろうか?
 俺が補強しているとは言え、心配になる。

(おいおい、大丈夫か? ディアブロのヤツ、ヴェルダにバレないようにコッソリと行動してる事を忘れてないだろうな?)

《問題ないと判断します。その辺りは、ディアブロは既に対策済みです》

 自信満々のシエルの回答。
 成る程、いつの間にやら、ディアブロの『誘惑之王アザゼル』による『誘惑世界』が発動していたようだ。
 流石はディアブロ、戦い方が卒なくエグイ。
 ベニマルが仕出かしたような失敗をディアブロがする訳がない、か。

(まあ、大丈夫そうだな。ディアブロに任せておけば、問題ないか……)

《大丈夫でしょう。究極能力アルティメットスキル『邪龍之王アジ・ダハーカ』を奪い損なうような事はないかと思われます》

 えっ!?
 そこかよ!? そんな心配してねーよ!!
 どうやら俺の知らぬ間に、敵の能力を奪うのが大前提となっていたようだ。
 任せよう。
 俺は呆れるのを通りこし、半ば投げやりにレオンの治癒を再開したのだった。 


 レオンの治癒をしていると、ベニマル達の会話が聞こえてきた。

「……あの、ワイ思うんでっけど……あの悪魔、無茶苦茶ちゃいますん?
 何であないに出鱈目に力任せの戦い方で、疲れる気配がないんでっしゃろ?」
「ああ、うん。アイツはそういうヤツだから……」
「流石はディアブロ様……私もまだまだ、という事でしょうか」
「アレを基準に考えるな。俺達には出来ない戦い方だから、敢えて手の内を見せているだけだ。
 真似しようとしても自爆するだけだぞ」巨根

 ラプラスの疑問に、投げやりに答えるベニマル。
 ミザリーは素直に賞賛し、ソウエイは冷静に分析し忠告している。
 一時的に協力しているだけの者にそこまで解説してやる事もないだろうと思ったけど、ソウエイも動揺しているのかもしれない。
 知った所で真似出来るものでもないし、実際どうでも良いだろう。
 目の前の惨状に唖然として声も出なかったようだが、ようやく落ち着いてきたらしい。
 危機一髪の状況だったハズなのに、今は喜劇を見ているような気持ちになっていたのだろう。
 現実を受け入れるのも大変である。

「クフフフフ。おっと失礼。少し力を入れすぎましたか、腕を引き千切ってしまったようです」

 悪魔が嗤いながら、弱い者苛めをするような感じに敵を甚振っている。
 それは戦闘と呼ぶには一方的過ぎて、見ている者達が若干の気まずささえ覚えているようだ。
 遊んでいるように見える程、ディアブロは圧倒的である。
 だが、口調とは裏腹に、ディアブロは超高等技術を駆使して計算高く戦闘を進めているのだ。
 部位破損させつつ、徐々にフットマンのエネルギーを消耗させていく。
 両手に纏わせて爪の形状に維持しているのは、超高圧縮状態の『虚無崩壊』のエネルギーだ。
 俺が貸出したエネルギーを集中させて利用しているのである。類まれなる戦闘センスがあってこそ、成せる技であった。
 そもそも、戦闘形跡をみて判断当然だが、シエル先生がするに、ベニマルは俺から借り受けたエネルギーを一瞬にして全て放出させたようだ。
 確かに、この凶悪な虚無崩壊エネルギーを制御して敵に喰らわせたならば、大概の相手には通用する。
 抵抗を許さずに滅ぼす事が可能だろう。
 けど、当然ながら代償も大きい。
 自分の魔素もゴッソリと消費し、今のベニマルのように継続戦闘が困難となるのだ。
 奥の手に用いるならともかく、気軽に使える技ではないのである。
 その点、ディアブロの利用方法は堅実だ。
 ここ二日程、亜空間にて暇つぶしに特訓した成果が出ているようである。
 シエル先生が考案した、閉じた世界でのエネルギー循環の利用方法。
 名付けて、"円環の秘法"、である。
 格好良く言ってみたが、要するに、空間支配系能力によりエネルギーの拡散を防ぐ状態を作り出し、使ったエネルギーを再び吸収するようにした訳だ。
 今回を例に取ると、ディアブロの『誘惑世界』の中でならば、使ったエネルギーの損耗は殆ど発生しない。
 魔法のように理解困難な理屈だが、ディアブロはシエルの言葉を理解してのけた。
 閉じた世界で、自分と敵対者と両方の質の異なるエネルギーが、あったとする。
 これを相殺或いは、対消滅させる訳だが、厳密に言えば、相殺というよりも片方のみを閉じた世界から放出するのだ。
 そして、自分のエネルギーはそのまま再吸収。
 敵のエネルギーは創った世界の状態維持に利用する。
 この循環により、一方的に敵を弱らせる事が可能となるという寸法だ。
 正直、俺には理解出来なかったが、ディアブロはやってのけた。
 今も、周囲には単純に力技で戦っているように見えるだろうが、実情は異なるという訳。
 反応を見るに、これを理解出来ているのは、ベニマルとミザリーだけだろう。
 いや、実際には理解には至っていないだろう。ただ、理屈上では有り得ない展開に、疑問を持ったという程度か。
 ベニマルには後で教えてやった方が良いかも知れないが、理解出来るだろうか?
 俺にはシエルがついているから、理解出来なくても問題ないんだけどね。
 ま、気合で何とかしてくれとしか言いようがないのだ。
 流石に閉じた世界とは言え、ベニマルが行ったような虚無崩壊の全力放出には耐えられないだろうから、ある程度の加減は必要だろうし。
 理論を教えて即実行出来るのは、ディアブロくらいなものだろう。勃動力三體牛鞭



 ディアブロの戦闘を眺めている間に、いつの間にかレオンの治癒が終わったようだ。
 途中から、全てシエルにお任せ! になっていた。
 俺のやる気なぞ、所詮はその程度。
 これが美少女なら気合が違ったが、イケメンでも男はどうでも良い。
 やる気、激減! だった。
 だから途中で、

《完全に蘇生させるには、通常の覚醒状態から、勇者クロエのように万能状態へと聖気の流れを調節する必要がありますが、その為には》

(任せた!)

 と、聞きもせずにシエルに任せたりもしたのだ。
 適当に聞き流していたが、勇者の核みたいなものが破損したので、別のもので代用したい的な話だったと思う。
 普通に蘇生させたら戦闘能力を喪失するらしいので、喪失しない遣り方でレオンの治療を行ったというだけの事。
 何でそんな事をイチイチ聞くのやら。
 シエル先生は相変わらず慎重だぜ! なんて、気軽に聞き流していた。
 だが、蘇生完了したレオンを見て、我が目を疑う事になる。
 あれ? 何だか、力が増しているような……シ、シエル先生、アンタ一体何をしでかしたんや!! と、思わず叫びそうになってしまった。
 鑑定すると、半神半人デミゴッドとなっていた。
 元から聖気を大量に身に蓄えていたレオンだったが、今は蓄えているのではなく聖気そのものとなっている。
 要するに、精神生命体になったっぽい。
 核がないから、気の流れを調整し、核無しでも大丈夫なように改造したのか。
 なるほど……っじゃねーよ!
 敵対してはいないものの、完全なる味方でもない野郎をパワーアップさせてどうする!
 ……いや、聞き流したのは俺だ。
 文句を言う事は出来なかった。
 やれやれ、ま、敵対しなければ良い話だ。
 それに、半ば強引に調整したので、力を使いこなせるようになるのは当分先だろう。
 それまでには、ヴェルダを片付けてしまえばいい。
 ま、何とかなるだろう。気にしない事にしよう。

 そんな事を思っていると、レオンの意識が戻ったようだ。
 薄く目を開き、俺を見る。そして、

「シズ、か……ッフ、俺に復讐に来たのか?」

 何か、寝言を言いだしたぞ。

「貴様に滅ぼされるなら、受け入れよう。さあ、好きにするが良い」

 そんな事をほざくレオン。
 どうやら、俺とシズさんを間違っているようだ。
 ちょっとイラッっとした。
 なので、

「フォルァ!」

 と、抱きかかえていたレオンを放り投げる。
 そもそも、完全治癒したヤツがいつまでも甘えるなって話なのだ。

「ッ! リムル、か?」
「ああ、目が覚めたか? 感謝しろ、そして俺を敬え!」
「俺は……そうか、貴様が蘇生を」

 俺は髪をかきあげて頷く。
 こっそりと練習した、格好良く見える(ハズの)ポーズで。

「感謝する、魔王リムル」
「うむ。感謝しまくれ!」

 俺に感謝するというくらいだ、当分は大丈夫だろう。
 そんな感じにレオンが目を覚ました途端、レオンの配下達が、

「「「レオン様!! よくぞ、ご無事で!!!」」」

 と、駆け寄っていっている。
 大泣きしている者もいるが、無事な者は一人も居ない。
 ここまで来るとついでだ。
 俺は完全回復薬フルポーションを人数分取り出して、全員に叩きつけてやった。

「何を!?」

 と驚く者達もいたが、一瞬で傷が消えて唖然となっている。紅蜘蛛
 魔法よりも効果的だから、当然だろう。
 傷が治った途端、

「「「魔王リムル様、此度の御恩、決して忘れません!!!」」」

 レオンの部下が一斉に跪き、俺に頭を下げた。
 まあ、そんな事はどうでもいいんだけどね。
 ちょっと小っ恥ずかしいので、畏まるのは勘弁して貰いたい。



 レオンが復活し、配下達が大騒ぎしたのだ、当然ながら俺が居る事がベニマル達にもバレた。

「「リムル様!」」

 ベニマルとソウエイが駆け寄って来た。

「やはりご無事でしたか!」
「な、言ったろ? 心配する必要ねーって!」
「それは、ゼギオンが言ったからだろうが……」
「そんな事はない。俺は最初から信じていた!」

 やはり、俺が消滅したと慌てたようだ。
 直ぐにというか、全く慌てた様子がなかったそうだがゼギオンが加護に気付き、皆も落ち着いたとの事。

「お、おう。元気だったか? 実はヴェルダを油断させようと思ってな。
 ついでに、反乱分子がいたら炙り出す作戦なのだ」

 取り繕うように説明する。
 だが、それで十分だったようだ。

「やはり、な」
「流石はリムル様。それでは我等はどのように動きましょう?」

 ベニマルは納得し、ソウエイに至っては既に行動に移ろうとしている。
 いやいや待て待て。
 まだフットマンと戦っている人もいるんだ、忘れてやってはダメだろう。
 俺が姿を見せた事で、完全に安心しきっているというか張り切っているというか。

「まあ待て、先にこの戦いを終わらせる。ディアブロ、そろそろいいか?」

 皆にも見つかってしまったし、遠慮は要らないだろう。
 さっさとフットマンを倒す事にした。

「クフフフフ。料理は粗方終了です、リムル様」
「よし」

 俺は頷き、フットマンに歩み寄る。

「くそ、クソがぁ! 何なのだ、一体何なのだぁぁあああ!!
 きさ、貴様等! この私に、フットマン様にぃぃいいい!!」

 呂律も回らぬフットマンを、ディアブロが更に一発殴った。

「煩いぞ、黙りなさい」

 そう言いながら。
 下顎を吹き飛ばされ、フットマンは喋る事が出来なくなったようだ。
 何だかグロい。さっさと終わらせる事にしよう。

「苦しみを与える事はしない。お前も、俺の中で安らぎを与えてやる」

 宣言し、喰らう。
 程良くディアブロが削ってくれたお陰で、一瞬でフットマンの捕食は完了した。
 それこそ、最後の足掻きも出来ない程あっさりと。
 シエルの予定通り、究極能力アルティメットスキル『邪龍之王アジ・ダハーカ』も獲得成功である。

「クフフフフ。流石はリムル様、お見事です!」
「いや、今回はディアブロが弱らせてくれていたからな。それと、ベニマルにソウエイもご苦労だった」
「「「はは!」」」

 三人が跪き、俺の労いに応じる。
 いちいち面倒だが、形式は大事なのだそうだ。
 こうして、あっけなく危機は去ったのである。鹿茸腎宝

2015年4月6日星期一

グランスライムの脅威!

浜辺に降り立った瞬間、ぐったりとミカヅキが倒れ込む。どうやら慣れない長距離飛行で疲労が溜まったようだ。これから何があるか分からないので、ミカヅキを回復させておこうと思い『全快』の文字を使って体力と気力を回復させた。陰茎増大丸


 何だかテンションまで上がったみたいであり、浜辺を叫びながら走り回っている。気が済むまで放置しておこうと思い、さっそく『探索』の文字を使い近くの集落などを探す。


 文字を発動させると、目の前に矢印が現れ進むべき道を教えてくれる。


「この先に街があるか……」


 そう言って矢印の方向を見ると、先程空から見た山を指していた。


「山の中を指してるのか、それとも山を越えた先にあるのか……ま、じっくり行くか」
「クイ!」


 ミカヅキは頷くと、背中に乗れと言わんばかりにお尻を向けてきた。日色はヒョイッと跳び乗り、ミカヅキはそのまま矢印の方向へ進んでいく。


 砂浜から出ると、そこは広大に広がった草原がある。その先には先程の山が見える。


(今はまだ穏やかな感じだが、いつ何があるか分からないな)


 情報では『魔族イビラ』の大陸は魔物の強さ生息数も、他の大陸と比べて上位に位置する。今は魔物が出てくる雰囲気は無いが、突然襲われるということもあるかもしれないと思い、日色は文字を書いていく。


 《発動解放》で、五文字分を設置できるのでとりあえず『速』・『防』の文字をミカヅキに書く。同じ文字を自分にも書く。そして最後の一文字に『伸』と刀に書く。書いた文字はそれぞれ吸い込まれるようにして消えていく。これで設置完了だ。いつでも発動できる。


 ただ二文字を書いてしまうと設置した文字の効果が消えるので、できる限り使わないように気を付ける必要がある。


「レベルが上がると、その制限もなくなるかもしれないが、今は気をつけないとな」


 もしかしたら二文字を設置できるようになるかもしれないと思うとワクワクしてくる。これからもレベルを早く上げるためにも、魔物をとことん狩ってやろうと決めた。


 ミカヅキの背中で揺られながら草原を走っていると、視界の端にのそのそと動いている存在に気がつく。


「止まれ!」
「クイ!」


 突然主人に制止の声をかけられ慌ててブレーキをかける。絶對高潮


「クイ?」
「あそこを見てみろ」


 指を差した先には恐らく魔物であろう存在があった。


 それはスライムを十倍以上も大きくしたような魔物で、プニプニとした体を引きずって地面を動いていた。色は緑色だが、透明度も高く体を通して向こう側がうっすらと確認できる。そしてよく見ると体の中心には核のような赤い塊が見て取れた。


「あの赤い心臓みたいなものが弱点……か? というよりもいきなり最初から図鑑に載ってない魔物が相手か」


 自身の知識には無い魔物だったので少し驚いていた。まさかユニーク魔物モンスターなのかとも思った。しかし少し離れた先にも同じような魔物を発見したので、基本的に単独行動をするユニーク魔物モンスターでは無い可能性が高いと判断した。


「やはり聞いていた通り、『魔族イビラ』の大陸の魔物は図鑑に載ってなかったようだな」


 図鑑には『人間族ヒュマス』の大陸と『獣人族ガブラス』の大陸に生存している魔物は載っていたが、『魔族イビラ』の大陸に出てくる魔物は載っていなかった。


「早く街に行ってここの図鑑を見てみたいな」


 そうしなければ魔物の種類も分からないし、情報は得ておく方が確実に良い。もちろん《文字魔法ワード・マジック》で調べることもできるが、いちいちそんなことをしていれば、MPの無駄使いにもなってしまう。


 だからできれば図鑑で情報を得た方が効率が良いのだ。


「それはそうと、とりあえず『魔族イビラ』の大陸での初めての実戦、やってみるか」


 ミカヅキの背から下りると、『刺刀・ツラヌキ』を抜く。


「お前は下がってろ」
「クイ!」


 素早い動きでその場を離れるミカヅキ。こういったやり取りはもう慣れたものだった。


「とりあえずは調べてみるか……」Xing霸 性霸2000


 いまだこちらに気がついていないのか、のっそりと動いている魔物を鋭い目つきで睨む。そして指先に魔力を集中し『覗』の文字を書いて、魔物の《ステータス》を確認する。


「名前はグランスライム……ランクSか。おいおい、ランクSがそこかしこにウヨウヨしてるのかよ」


 信じられないと思いながら、周囲を見回し複数のグランスライムを視界に入れる。今までランクSと出会ったことはあるが、どれも単独で相対した。しかし今ここには複数のランクSの魔物がいる。さすがは『魔族イビラ』の大陸だと舌を巻くばかりだ。


(そのうちランクSSやランクSSSが出たりしてな)


 この一か月、実は獣人の大陸ではランクSSの魔物と戦ったことはある。動きも強さもそれこそ桁違いであり、一歩間違うと死んでしまう状況の中《文字魔法ワード・マジック》を駆使して何とか倒すことに成功した。


 間違いなくあの時は死線を潜り抜けたといった感じだった。


 だがしばらくはランクSSとは戦いたくないと思った。地形や相性が良かったお蔭で運良く勝てたようなものだった。単独で戦うにはやはり早過ぎた。もっとレベルが上がってからではないと、次は死ぬかもしれないと教訓を得ることになった。


(あの時ほど、オッサンたちの存在のありがたさを感じたことは無かった)


 態度には出さなくても、アノールドたちと一緒にいた時は、チームプレイで助かった場面が幾つもあった。きっとランクSSの魔物相手でも、アノールドたちがいれば、あれほど危険は無かっただろうと思ったのだった。九州神龍


 だがこれからは一人である。しかも魔物の強さも桁が違う『魔族イビラ』の大陸。レベルが低ければ、一瞬にして殺されることもあるだろう。


(これは一刻も早くレベルを上げなきゃな)


 間違いなくそのうちランクSS以上の魔物と戦うことになるだろうことは予感めいたものがあった。


「そのためにも、コイツらには糧かてになってもらうか」


 殺気を出して睨むと、それに反応して目の前にいるグランスライムがピタッと動きを止め、ゆっくりとこちらに意識を向ける。すると突然物凄い速さでこちらに向かって跳び上がって来た。


「いきなりか!」


 大きな図体ずうたいなのに、小動物のような動きをするので虚を突かれてしまう。焦りながらも日色は大きく横に跳び、すかさず跳び降りてきたグランスライムに斬りかかる。


 ズバッ!


 一文字に斬り裂かれ、ダメージありだと思い力強く微笑んでいると、それに構わず体当たりをしてくる。


「ちっ! 当たるか!」


 だが避けたつもりだったが、今度は体の一部を弾丸のように飛ばしてくる。咄嗟に両腕でガードするが、思ったより衝撃は無い。プニプニしていてハッキリ言ってダメージは無い。


(一体何のために……?)


 体の一部を飛ばしてきているのか分からず眉を寄せる。しかし次の瞬間その意味が分かった。procomil spray


 ボウッ!


 何と腕に当たり、纏わりついていたスライムの一部が燃え始めた。


「熱っ!?」


 慌てて腕を振り回し燃えているスライムを落としにかかる。しかしなかなか落ちてくれない。


「くっそ!」


 地面にしゃがみ込み、腕に土をかける。ジュゥ……っと今度こそ火が消えた。


「はあはあはあ……っのやろう……」


 せっかくの赤いローブも焼けてボロボロになり、深くは無いが火傷も負ってしまった。『防』の文字を使っていれば良かったと後悔する。


「くそ……治すのもただじゃないんだぞ!」


 そう思い瞬時に間を詰めて刀で斬り裂く。だが同じようにパカッと斬り裂いてダメージを与えたと思ったが、よく見ると切り口が合わさり元に戻って行く。そう言えば先程の傷もいつの間にか治っている。


「なるほどな、物理攻撃効かないってことか……」房事の神油

2015年4月4日星期六

牢屋での一話

「そうか、相手は飲んでくれたか…………良かった。一先ずは良かったと言えるな」


 イヴェアムは獣人からの返事を聞いてホッとしていた。これで双方に必要以上の死が増えることはなくなった。無論勝負に負けてしまえば『魔族イビラ』たちがどうなるかは分からない。SEX DROPS


 一応勝負には《契約の紙コントラクト・ロール》を使って約束事を決め、その中には敗者を無闇に殺すようなことはしないようにと契約させるつもりだが、それでも負けたら今までの生活が無くなる可能性は高い。


 敗北した側は、勝者の懐に入る、すなわち配下同然のような形になるように提案するつもりではある。だがこの約束事も完璧ではない。命を捨てて裏切る可能性もあるのだ。


 だがその不安をアクウィナスが除去する。


「彼らは一度決めたことを破りはしない。それが獣人の誇りだと思っているからな。だから今まで彼らが誰かを裏切った話など聞かないのだ。少なくとも、今の獣王が要求を飲めば、感情的にはどうであれそれに従うだろう。それにこちらが勝ったところで、陛下は彼らを抑えつけるつもりなど無いのだろう?」
「当然だ」
「なら不満もそう溜まるまい。後は時間をかけてこちらの真意を分かってくれるように接していけばいいだろう」
「そうか……ああ、そうだな」
「だがそのためにも、この勝負は必ず勝たなければならん」
「ああ、その通りだ。正々堂々、真正面から彼らを破って見せる!」


 拳を強く握り締める彼女を見てアクウィナスはフッと頬を緩める。


「しかし、まさかこのような方法を選ぶとはな。マリオネなどは開いた口が塞がらないような表情をしていたぞ?」
「はは……実はな、この方法はその……ヒイロが……」
「ヒイロ?」
「あ、ああ」


 彼女が今回獣人に対して要求した内容は、日色が考え出した案でもあった。彼女が日色と話していた時、ふと彼女がこの戦争でどうにか穏便に事を収めることができないかと漏らしたことがあった。


 その時は鼻で笑われ馬鹿にされた。何を甘いことを言っているのだと一笑された。無論彼の言ったことが正しいと分かっているのだが、それでも納得ができずつい怒ってしまった。


 しばらくむくれている彼女に対して、日色はこう言った。


『誰も傷つかない戦争なんてあるわけがない。傷ついてほしくないなら、戦争を起こさないようにするべきだ』


 それは当然のことだ。彼女もそうさせないために努力したと言った。


『一度起きた戦争は確かに無傷じゃ止められないだろうな。だが相手次第では被害を限り無く少なくすることはできる。まあ、一種の夢物語というか、熱血漫画のような愚案だけどな……』


 そう言って少し言い難そうに今回の方法を教えてくれた。


「ほう、こんな馬鹿げた提案はヒイロのものだったか」


 得心がいったような表情を浮かべる。三体牛鞭


「だがよく決断したな」
「……仕方が無いだろう。このままでは本当にどちらかが滅びるまで戦い続けることになってしまう。それだけは絶対に駄目だ。ならば相手の土俵でその上を行けば、こちらの言葉を聞いてもらえると思ったのだ」
「……なるほど、相手が獣人ならではの方法ということか」
「ああ、この方法なら確かに無傷ではないが、最低限の被害で済むはずだ。それにこちらは相手と違って明らかに分の悪い提案をしているのだ。もしそれに敗れたとしたら、相手は何も言えまい」
「フッ、なかなかに強したたかだな。それもヒイロが?」
「う、うむ、まあな」


 バツが悪そうにそっぽを向く。


「まあ確かに、これだけ有利というか、利点が多い状況を引き受けて負けたとなら、さすがの獣人も認めざるを得ないだろう。自らの敗北をな」
「ああ、ヒイロもそう言っていた!」


 嬉しそうに笑みを浮かべるイヴェアムをジッと見つめるアクウィナス。その視線に気づいてハッとなり慌てて顔を背ける。頬は赤いままだが。


「……フッ」


 何やら含みのある笑みを浮かべたアクウィナスを見て、


「な、何か言いたいことでもあるのか!」
「いや、お前はそうして、少しずつ自分を変えていけばいい」


 その表情には、どことなく親が子を見守るような慈愛が含まれているように見えた。


「え……何を……」


 するとアクウィナスは踵を返してどこかへ行こうとする。


「どこへ行くのだアクウィナス?」
「……少しな」


 そう言ってその場を立ち去っていくアクウィナスの背中を見つめながら


「……何なのよ……?」


 まだ熱を持った顔をコクンと傾けていた。



「ふにゃあ~、まだ体が痛いニャ……」


 そう言いながら藁わらが敷き詰められた簡易ベッドの上をゴロゴロと寝返りをうつのは《三獣士》の一人であるクロウチだった。


 日色との勝負に敗れ、今は捕虜として牢屋に放り込まれていた。男宝


「う~やっぱりまだ体も白いままニャ」


 自分の手を見つめながら、黒かったはずの体毛が、今は雪のように真っ白になっていることに溜め息を吐く。


「あんな大物を一気に呼び出した《反動リバウンド》ニャねぇ……次の満月まではこのままかもニャ……」


 しかもただ体毛が白くなっただけではなく、明らかに体長も変化していた。黒かった時は体つきも逞しく高身長な体つきだったが、今はまるで子供のような体躯に変化し、胸元も若干膨らんでいる。明らかに女の子だった。


「う~暇ニャ~」


 ゴロゴロと体を動かしていたクロウチは急にピタッと動きを止める。そしてある人物のことを思い出す。


「……ヒイロ……かぁ」


 自分と戦い、圧倒的な力を見せつけて敗北においやった本人を思い出す。


「赤ローブ……眼鏡……それにあのニオイ……」


 戦っていた時、日色のニオイが鼻に入り、それがある違和感を感じさせていた。


「ニャんでタロウとおニャじニオイがするのニャ?」


 それは同一人物だからなのだがとは誰も突っ込みは入れてくれない。前に日色と会った時は、彼は獣人の姿で本名を名乗らずタロウ・タナカと名乗っていた。だが赤ローブに眼鏡、態度、そしてニオイまでも酷似していたのだ。


 だからこそ余計に混乱するのだ。日色が姿を変えることができると知っているのなら、すぐに答えに行きつくのだが、残念ながらクロウチは知らない。


「…………ああもう!」


 またもゴロゴロと体を動かす。


「どうでもいいニャ! そんなことよりもう一度戦いたいニャ! ヒイロと会わせてほしいニャ~!」男根増長素


 牢屋の中で甲高い声が響く。同じ牢屋に囚われている獣人たちは、「ああ、また癇癪かんしゃく起こしてるな」と呆れるような溜め息交じりの声が聞こえてくる。


 牢屋番をしている者も、そんなことが何度もあったのか、軽く諦めている雰囲気で肩を竦めているだけだった。だが注意をしないわけにはいかない。


「こら、もう少し静かにしていろ」


 少しだけ口調が優しいのは、クロウチの見た目が明らかに子供だからだろう。確かに敵だが、何もできない子供を一方的に憤怒の対象とするのは気が引けたようだ。


「う~ニャらヒイロ呼んできてニャ」
「それは無理だと前にも言ったろ? あの人はこの国の恩人にして、まさに英雄のような方だ。こんな場所にお連れするわけにはいかん」
「ニャ? ヒイロはそこまで人気なのかニャ?」
「まあな。あの戦いを直に見た奴らはみんなそう思ってるはずだ。それにあの人は一人で橋まで壊してくれたんだぞ? 俺たち『魔族イビラ』のためにそこまでしてくれた人を英雄と呼ばず何て呼ぶんだ?」


 牢屋番の男は目を輝かせて、羨望の眼差しで遠くを見つめている。


「橋を!? 一人で!? す、すごいニャ……」


 クロウチは橋にかなりの戦力が防衛に当たっていることを知っている。そんな中に一人で突っ込み、橋を壊した日色の強さにクロウチも目を光らせている。


 男の言葉を全く疑わないクロウチもクロウチなのだが。彼の様子から本気で言っていると判断したのかもしれない。


「それに驚くことにあの人は『人間族ヒュマス』だったんだぞ?」
「……へ? 『人間族ヒュマス』ってどういうことニャ?」
「いやな、何でも変化の魔法が使えるらしくて、本来の姿は『人間族ヒュマス』らしいんだよ。いや~それにしても人間の中にもああいう人っているんだなぁ。【ヴィクトリアス】の人間とは大違いだ。あ、でもあの人も元は【ヴィクトリアス】出身……って言っていいのか?」
「……どういうことニャ?」


 クロウチの顔が真剣な表情になり、探りを入れているということは、恍惚な表情に陥っている男は気づいていない。むしろ自分の言葉に酔っている感じだ。


「何でもよ、あの人は勇者と一緒に召喚された人らしいんだよ」
「…………」
「まあ、勇者じゃないみたいだけどな。本人はただ巻き込まれてこっちに来たって言ってたけどな……っておい聞いてるか?」男用99神油


 クロウチが返事をしていないので気になって様子を確認したら、彼女は先程と違い静かに藁の上で横になっていた。そんな彼女を見てハッとなって冷静になる牢屋番。


「やっべえ。これって言って良かったことだっけ?」


 つい熱くなってしまい敵に情報を流してしまったことに焦る。だが動かない彼女を見て、もしかしたら寝たのかもと思い、心の中でそのまま忘れてくれと願うように両手を合わし、そのまま仕事を継続した。


 だが彼女が今の話を忘れるわけは無かった。何故なら今の話でヒイロとタロウが繋がったからだ。


(変化……そうニャ……やっぱり同一人物だったのニャ!)


 心の中で湧き上がってくる衝動に胸が躍る。そして先程よりも会いたいという思いがさらに増していく。


 それにもっと興味深い話も聞けた。


(それに異世界の住人……面白いニャ! ヒイロはホントに面白いニャ!)


 頬を紅潮させて笑みを浮かべる。


「ニャハハ…………ニャハハ…………ニャハハ…………」


 しばらく牢屋には彼女の笑い声だけが響いていたという。ちなみに牢屋番はその笑い声が何となく不気味で声を掛けなかったらしい。蔵秘回春丹

2015年4月1日星期三

第二王女ファラ

日色が生命力コントロールをララシークから教わる約束を得た頃、人間界のある場所では一人の少女が眠りから目覚めていた。


「ようやく目が覚めたようじゃわい」VIVID XXL


 少女は突然耳に入ってきた言葉を発した人物に驚き、目を見張ってしまう。何故なら見たこともない人物だったからだ。刹那的に体を引いて距離を取ろうとしたのも無理はない。


「そう怯えんでもよろしいわい。わしゃこう見えてもチンチン……いや紳士じゃからわい」
「その間違いはよしてほしいですの!」


 つい少女は顔を染め上げながら目の前の老人が言った言葉に反応してしまっていた。しかし大きな声を出した反動で「うっ……」と目頭を押さえてしまう。


「これこれ、まだ大声など出してはいかんわい」


 誰のせいだと少女は言いたいがグッと抑えて周囲の状況の把握に努める。ここはどこかの小屋であり、それほど広くは無いその場には簡易式のベッドが二つほどあり、その一つに少女は寝ていた。


 どうやら今ここに居るのは、少女と頭が禿げ上がってはいるが優しそうな雰囲気を醸し出している男性の二人だけだった。


「それにしてもよく眠っとったわい。覚えておるかい? お主が城から連れ出されてあれから三日間寝込んでいたんじゃわい」


 老人の説明により自身に何が起きたのかそこでハッキリと思い出した。そして自分を城から連れ出した人物のことも……。


「……貴方は、ジュドム様のお仲間なんですの?」
「ひゃひゃひゃ、あのジュドム坊やを様扱いなど無用じゃわい。筋肉お馬鹿とでも呼ぶがよろしいわい」
「き、筋肉お馬鹿……」


 老人のあまりの言い草に少女は頬を引き攣らせている。そこへ扉が開き中へ入って来たのが、今噂をしていたジュドムだった。


「おお、目が覚めたか!」


 ジュドムはニカッと白い歯を見せてきた。少女はその笑顔を見てホッと胸を撫で下ろし、先程まで感じていた緊張感と不安が少し和らいだ。CROWN 3000


「ジュドム様……」
「……いろいろ聞きたいことがあるだろうが、まずはこれを飲め」


 そう言ってジュドムが小さな器に入っている透明なスープを手渡してきた。


「これは……?」
「薬草と果実を混ぜ合わせて作ったスープだ。薬草だけじゃないからまだ飲み易いはずだぞ」


 少女は小さく頷くと恐る恐る口をつけてゆっくり味を確かめる。確かにジュドムが言ったように苦いだけのものではなかった。ほのかな果実臭と果実の甘みがブレンドされており飲み易かった。


「まだ起きたばっかで食べ物は無理だろうが、栄養はとらねえといけねえからな」


 ジュドムは小屋の隅に置かれてある椅子を持って来て少女の近くへ腰を下ろした。


「さて、何から話せばいいか……まずファラ、生きていてくれてホントに良かった」
「ジュドム様……」


 そう、その少女の名はファラ。ファラ・ヴァン・ストラウス・アルクレイアムであり、【ヴィクトリアス】の第二王女だ。


 彼女は勇者を異世界から召喚するための魔法に失敗して二度と目覚めないかもしれない眠りの世界に取り込まれてしまっていた。


 彼女が召喚魔法を使って、そのような状況に陥ってから大分経ったが、こうして生きていてくれて良かったとジュドムは言ったのだ。


 そして彼女もまた自分が長い間眠っていたことを自覚していた。痩せ細った体、いまだに抜け切れない虚弱感、自覚するには十分な材料だった。


 だがそれでも目を覚ますことができたことは素直に嬉しかったと思っているファラ。こうして心から自分の目覚めを喜んでくれる人がいることが喜ばしいのだ。


「ファラ、まずお前が召喚を失敗して眠りについてから一年以上が経っちまってる」
「……そうですの」魔鬼天使性欲粉


 一年……言葉にすれば短いが、されど一年。自分の有り様を見て表情を暗くさせる。


「この一年で大分世界情勢が変わっちまった。それは城の雰囲気を少しでも感じたお前なら理解できるはずだ」


 それは確かにその通りだった。血相を変えてファラの自室へ踏み込んできたジュドムは、弱った自分を抱えて逃げていた。


 そして次々と追って来る血の気を失ったように真っ白な顔をした人々。城の異様な雰囲気もそうだが、よく見れば兵士が血を出して倒れていた場面も見た。


 始めはジュドムが国を裏切ったのかと思い焦りはしたが、自分を抱えている手から温かい優しさを感じて、この人は自分を守ってくれているのだと理解できた。


 そして今、何が起きたかは分からないが城に、いや国に危機が迫っているのではと推測できた。それでも運ばれている途中で意識を失い思考は止まってしまったが。


「もしかして、『魔族イビラ』か『獣人族ガブラス』が国を襲ってきたんですの?」
「……そうとも言えるし、そうじゃねえとも言える」
「……ど、どういうことなんですの?」


 ジュドムは先代魔王であるアヴォロスに【ヴィクトリアス】を乗っ取られた経緯を話す。そして『魔族イビラ』と『獣人族ガブラス』の同盟についてもだ。


 聞いている間、ファラは瞬き一つせず固まったように耳を傾けていた。


「は、話が大き過ぎて理解が追いつきませんですの」
「ハハ、だろうな。……けどな、一番きっつい話はまだあるんだわ」
「……え?」
「……いや、この話はお前の体調がもっと落ち着いてからした方がいいな」


 ジュドムはそう言い立ち上がろうとしたが、


「ジュドム様、聞かせて下さいですの」
「ファラ……けどこの話はお前が思ってる以上に重いぞ?」
「構いませんわですの。わたくしは【ヴィクトリアス】第二王女ファラ・ヴァン・ストラウス・アルクレイアムですの。国事から目を背けるわけには参りませんですの。重い話なら尚更……」D8媚薬


 それはとても強い目だった。頬はこけて、目の周りも少し窪みができて明らかに生気が弱っているというのに、瞳に込められた光りは眩しく輝いていた。


「……ハハ、相変わらず王女の中でお前だけだな、そんな頑固で真っ直ぐなのは」
「……もしかして馬鹿にされていますの?」


 ムッと口を尖らせてファラは言うが、


「アハハハハ! 褒めてんだよ! お前ならどんな話でも受け止められると思ってな!」
「もう、ジュドム様のいけずですの」


 頬を膨らませてそっぽを向く。


「悪い悪い、けど心して聞けよ」
「……はい」


 ジュドムは勇者が第一王女リリスによって召喚された出来事から今までのことについて、かいつまんでファラが理解できるように話した。


 勇者召喚、同盟会談、戦争、様々なことを人間は……いやルドルフ国王は行った。そしてそのルドルフが醜い化け物の姿にされて、恐らく今はアヴォロスのもとにいるだろうことも全て話した。


 ファラは目を閉じながらその話を聞いていた。唇だけでなく全身を小刻みに震わせているが、何が彼女の体をそうさせているのかは正確なところはジュドムにも分からなかった。


 話し終えると、ファラの額からはじんわりと汗が噴き出ていた。見るからに衝撃を受けている顔つきだった。


「……少し休むか?」
「い、いいえ……お話しして頂いて感謝致しますの」アリ王 蟻王 ANT KING


 強張った表情をしているファラの顔を見て、ジュドムはそっと彼女の頭に手を当てる。


「…………強がんな。一気に話されたんだ。頭と心の整理がそう簡単につくわけがねえ」
「…………はい」
「国に起こっていること、そしてこれからのことはみんなで考えりゃいい。お前は一人じゃねえんだ。今はこうして俺や、俺の仲間たちがいる」


 ジュドムは安心させるような笑顔を浮かべ、ファラもまた微笑を返す。だがファラはそこでふと思い出す。


「あ、そう言えばここへ連れて来られる前、綺麗な女性のお方にお助けして頂いた記憶がありますがあのお方は……」


 ファラはそう言うが、ジュドムは苦笑を彼女に向けると頭をかく。


「ああ、あの女のことか。アイツなら自分のことはファラが目を覚ましてから教えるとか言ってたぞ。もしかして知り合いか?」
「い、いいえ、記憶にありませんですの」
「あの女、俺たちを亡者どもから救ってくれたのはいいが、突然一言言うと消えちまいやがった」
「一言?」
「ああ、彼女が目を覚ます時に来るってな。ホントに知らねえのか?」


 本当に知らないのかキョトンとしているファラ。その時、ギィ……っと扉が開き、そこから一人の女性が姿を現した。


 ジュドムはサッと立ち上がって警戒するが、相手を見て虚を突かれる。


「言った通り来たわよ」


 その人物こそ、アヴォロスが刺客として放っていた亡者からジュドムたちを助けてくれた女性だった。唐伯虎