「……誰か戦ってる。かなり苦戦している感じ」
現在、俺達のパーティーはレベリングを目的として宵闇の森を周回プレイという感じで動いている。何時ものように迷宮に降りて、暫く宵闇の森を探索していると、シーラが耳に手を当てて目を閉じ、そんな事を言ってきた。印度神油
「方向は?」
「あっちの方。先導する?」
「よろしく」
シーラの後に続き、パーティーが分断されない程度の速度で森の道を走る。迷宮の中で他のパーティーと助け合う事に否やはないが、二重遭難になっては元も子もない。
――戦っている場所、というのはそう遠くもなかった。
ただ、そこにいたのは冒険者グループではなく、騎士達の探索班だ。
「畜生! 何なんだよ! この気持ち悪い声は!」
「く、……そ! 頭がぼうっとして……」
「しっかりしろお前達! 目を覚ませ!」
倒れている仲間に呼び掛けながら、多数のキラープラントに向かって剣を振るって孤軍奮闘しているのは――先日会った、あの女騎士メルセディアだろう。
木の根に絡みつかれて身動きが取れなくなっている者もいた。その足元には壊れたカンテラが転がっている。
メルセディア自身は多勢に無勢でありながら、多数のキラープラントを引き付け、しかも割合良く抑えていると言って良い。目の前のキラープラントを切り結びながら、倒れている仲間に向かおうとするキラープラントに向かって闘気の刃を飛ばしたり、と。
倒れている兵士連中は――ウィスパーマッシュの魔法で眠らされたのか。赤転界石を発動させて帰還用ゲートが開かれてはいるが……眠らされてしまっては退避する事も出来なくなってしまったらしい。
……うーん。綺麗に宵闇の森にハメられてるなぁ。まだ深刻な事態になってなくて良かったが。だがあまり悠長に構えているわけにも行かない。森の奥の茂みが揺れて……新手のキラープラントが集まってきている気配がある。
「行きます」
グレイスは一切躊躇せず、茂みの奥からメルセディアの方へ向かってくるキラープラントに向かって突撃して行く。
「アシュレイは寝ている連中を。シーラはメルセディアの加勢。イルムは2人の援護」
「解りました!」
「了解」
「背中は任せてね」
手早く指示を出すと、彼女達はそれぞれの仕事に取り掛かった。
俺は――茂みの中で眠りの魔法をかけているキノコどもを蹴散らすか。起こした傍から眠らされては元も子も無い。
適当に茂みの深い所に火球を叩き込んで炙り出してやると、ウィスパーマッシュの一団がパニックに陥りながら焼け出されてきた。
その内の一匹は火が点いたままで、兵士達を助けに行ったアシュレイの方へと向かったが……彼女のロングメイスで元いた方向に打ち返される。
こっちにくるな、とばかりに中空で木の根によって弾かれ、森の中を焼きキノコがあちらこちらへとラリーされるという、中々珍しい光景が見れた。
「――助かった」
「全くだ。君達が来てくれなかったら、どうなっていた事か」
メルセディアは大きく息を吐いた。強力催眠謎幻水
俺達が加勢に入った上で兵士達も眠りから起こしてしまえば、もう数の上で後れを取る事もない。
キラープラント達を片付けて一息吐いた所で、メルセディアと兵士達からそんな風に礼を言われた。
話を聞いて見ると、照明として使っていたフェアリーライトがキラープラントとの戦闘中に叩き落されてしまい、兵士の1人が混乱に陥ってカンテラに火を点けてしまったそうだ。
それで木の根で押さえつけられるなどして騒ぎになっている間にキラープラントが集まって来てしまった……というわけだ。
後はキラープラント集団に手古摺っている間に、ウィスパーマッシュが眠りの魔法を掛けて来て、抵抗に失敗して1人倒れ2人倒れ、数で押されて、と。
まあ中々、初見としては典型的な詰まされ方をしてしまったようで。
「フェアリーライトはそれぞれが多めに持ち歩くと良いですよ」
予備を荷物袋などに入れておくと安心なわけである。
「重ね重ねすまない。有り難く参考にさせてもらう」
メルセディアは兜を脱いで真剣な面持ちで頷いた。
どうやら兜のバイザーが壊れてしまったようで、そのまま被っていると視界の妨げになってしまうようだ。
「メルセディアさんが宵闇の森担当?」
「ああ。私達の割り当てはこの森での訓練だが……」
「……メルセディア隊長」
「何だ?」
兵士の1人がおずおずと進言してくる。
「冒険者を雇っても良いと言う事になったんですよね? その方達に協力してもらうというわけにはいかないんですか?」
「それは――難しいな」
「どうしてです?」
「我々は先日冒険者達と諍いを起こしているだろう。あの時は邪魔だが、今は必要だからお願いしますなどとは言えんさ。一旦撤退し、我等全員、上の階層で訓練し直すべきだと私は思う。その間、私はこの森の事を勉強し直す」
……どこぞのフェルナンドに聞かせてやりたいセリフだな。
「……解りました」
兵士達もメルセディアの言葉に納得したらしい。
「ですが、転界石をこの森で集めるのですか?」
「……そうか。赤はさっき、使ってしまったのだったな」
メルセディアは暫く瞑目していたが、やがて俺の方に向き直ると、頭を下げてきた。
「テオドール殿。厚顔無恥なのは重々承知をしている。どうか帰還まで同道しては貰えないだろうか。勿論、正式な依頼として、依頼料も支払わさせていただく」
調査ではなく、帰還まで、か。
迷宮内で赤転界石を売って欲しいと言わないのも、まあ正しい。VIVID
自分の言を翻したのは――自尊心より士気が最低状態の今、この状態から全員を無事に帰す方が先決で、それが隊長としての彼女の責任だからということなのだろうが。
皆に視線を送って意見を求めると、彼女達は頷いた。まあ、人助けだと思えば、だな。
「解りました。受けましょう」
先程の戦い方を見ていた限りでは……目を覚ましてからは兵士達も中々堅実な戦い方をしていたから、不測の事態にさえ陥らなければ宵闇の森でもやって行ける力量はあるのではないかと思うが。
つまり彼らに必要なのは、場数と経験、それから迷宮の知識だろうとは思うのだ。
なので実地で宵闇の森の立ち回り方などを見せながら進む事にした。
立ち回りと言ってもウィスパーマッシュの眠りの魔法を防ぐ魔法をまめにかけ直す事と、フェアリーライトをちゃんと活用する事の2点に気を付けるだけでも、宵闇の森の危険度はかなり下がる。
フェアリーライトを摘んで照明代わりにするとか予備を持つというのは良いのだが、これに時々、回復魔法を掛けてやると長持ちしたり光量が上がったりする。火ではないからと魔法の明かりを灯すのも良くない。フェアリーライトの光と違って、眠っているキラープラントを起こしやすい。
後は基本に忠実に。丁寧に索敵して魔物を回避したり。動かずに擬態しているキラープラントを目ざとく見つけて先制攻撃で各個撃破したり。
そんな風にして、何時になく丁寧に迷宮攻略をしつつ転界石を集めていたのだが……ふと先行しているシーラが足を止め、道の脇にある、茂みの奥をじっと見ている。
「ん? どうかした?」
敵だと思ったら敵だと、シーラははっきり言うはずだ。
「何、か……よく解らない」
珍しく歯切れが悪い答えが返って来た。シーラの視線の先を追うが、暗い森に点在するフェアリーライトの明かりがぽつりぽつりと見えるだけだ。
「あの辺り?」
イルムヒルトが茂みの一角を指差し、シーラは頷く。
俺もライフディテクションを使って見てみると、確かに――何かいる。
小さな反応。温血動物の輝き。そしてそのシルエットは――人間の、女の子?
がさり、と葉擦れの音を立てて、茂みの上から顔を出す。魔法を解除して通常の視界に戻す……と、金色に輝く双眸と視線が合った。
闇に溶け込むような黒い髪と、浮かび上がるような白い面。
「女の、子?」
「どうして、こんな所に?」
兵士達が疑問の言葉を口にする。その疑問は尤もだ。子供の冒険者というのは俺も含めてそれなりにいるが……ソロで宵闇の森というのは……中々に異常だろう。それとも仲間とはぐれたか?
少女はこちらをじっと見ていたが、やがて身を翻すと、茂みを揺らしながら森の奥へと進んでいく。蔵八宝
「おっ、おい!」
「危ないぞ! 戻れ!」
兵士達が口々に呼び掛け、少女を追いかけて茂みに飛び込んでいく。まあ、確かに。仲間達とはぐれた子供冒険者だとすれば保護すべきなんだろうが。
「今の、子。どこかで――」
呆然とした面持ちで呟いたのはイルムヒルトだ。
どうやら……追わない、という選択肢はないようだ。
「プロテクション」
第6階級の防御用光魔法。薄い光のヴェールだが、金属鎧に匹敵する防御力を持つ。そんな魔法の防御膜を展開して、茂みをかき分けながら少女を追う。
すぐに――異常に気付いた。茂みを進む速度が異常に早い。中々距離を縮められない。
俺だけ先行すべきかとも思うが、分断する策だったら目も当てられないので突出するわけにもいかない。
やがて俺達は宵闇の森の外縁部まで到達した。
つまり、森の外側を包んでいる迷宮の外壁部分だ。木と木の間に隠れるようにして、それは在った。
幾重にも重なる楕円形のレリーフが刻まれた……閉ざされた扉だ。
その封印された扉の前に、場違いなドレス姿の少女は立っていて――。
「なん、だ?」
「おい、嘘だろ?」
少女が扉に触れたかと思うと、水が染み込むようにその向こう側へと消えて行った。
イルムヒルトに視線を送る。いつもにこやかに笑っている彼女だが、今回ばかりは目を丸くしている。
「イルム。今の子を知ってる?」
小声で尋ねると、彼女は眉根を寄せる。
「わか、らないの。どこかで見た事があるような、ないような」
イルムヒルトの曖昧な記憶というのは――迷宮時代のそれに他ならない。
今の迷宮の壁に溶けていくような消え方と言い……そもそも迷宮側にとって侵入者ではない可能性が高い。
それに――この扉。
「封印の扉、か」
見つけてしまったと言うべきか、それとも、さっきの女の子に誘導されたと言うべきか。
だが、俺の知るそれと、レリーフのデザインがかなり異なるものだ。
このレリーフには、景久の経験則に照らし合わせるなら意味があるはずだ。正確に記憶しておくべきだろう。新一粒神
図形を寸分違わず記憶するなら、カドケウスに任せるのが良さそうだ。
2014年12月4日星期四
2014年12月2日星期二
魔術師の事情
「よし。これで一区切りかな」
アルフレッドは嬉しそうな声を上げると、大きく伸びをした。
「いや本当、お疲れ様」印度神油
道具を運んだり加工を手伝ったり。工房に顔を出した時は、俺も出来る作業を手伝ってきた。アルフレッドの奮闘もあり、警報装置は一先ず完成。孤児院の人数分に加え、常駐する騎士用の通行証が揃ったわけだ。
出来上がった通行証は後で孤児院に届けるとして……実動部隊を叩き潰したのが効いたのか、あれから教団の方に動きはない。あちらが動いた事で見回りも活発になっているし、動きにくくはあるだろう。俺も封印の扉の事があるからその間、大腐廃湖の探索や工房での作業などを進めさせてもらっているが……油断は出来ないな。
教団については尋問も進んでいるだろうから、遠からずその結果が聞けるだろうとは思うのだが。
「そう言えば、デュオベリス教団の刺青ってどうなの?」
アルフレッドが尋ねてくる。
「どうって言うと?」
「魔人と瘴気云々は置いておいて、魔法技師としては気になる話ではある……とか言ったら不謹慎なのかな」
「ああ……そういう事か。いや、不謹慎とは思わない」
敵方の技術を分析して盗める部分は盗んでしまおうという話だ。刺青対策は考えたし、あれはあれで有効だと思うが、仕組みの面から考える事で他に見えてくる部分もあるだろう。
となると、あの刺青がどういう種類の術なのか、という話になってくるか。
「信徒は刺青をしているだとか、どんな武器を持っているかまでは良いとしても。教団の事はそこまで詳しくはないんだよな……。連中、南方で活動してる奴らだし」
BFOでは……連中の使うリストブレードなどはアサシンスタイルに憧れたプレイヤーが、南方で鹵獲して複製などしていたから知っているのだが。
刺青は恐らく、マジックサークルや魔道具と同じような仕組みで動作するのだと思う。魔道具が素材に応じて術の書き方を工夫するように。人体に書き込むのに適した翻訳(・・)がなされた記述を行うのだろう。そこまでは察しが付く。
「問題は瘴気をどうやって扱っているか、かな?」
「そうだね」
連中自身は瘴気に蝕まれたりしないのだろうかという疑問が湧く。そこの仕組みを探る事でまた別の瘴気対策に繋がるかも知れないし。
可能性としては……刺青を施された者の魔力を瘴気に変換しているか、或いはもっと根本的に、体質を変えて魔力資質を魔人に近い物にしているか。後は……巫女や神官が女神や精霊の力を借りるように、魔人と何らかの契約を結んで一時的に力を借りるという方式も考えられる。
そう言ったいくつかの可能性を提示するとアルフレッドは苦笑した。強力催眠謎幻水
「どうにも対策には結びつきそうにないね。瘴気に対抗する為に瘴気を扱うとか、本末転倒な気がする」
「無効化しているって感じはしないからな」
「契約を結んで、借りているかもというのは気になるね」
「……魔人が背後にいるかもって事になるだろうしな。有り得ない話ではないけど……」
そんな風にアルフレッドと話をしていると、ビオラが顔を覗かせた。
「お話し中済みません。迷宮からバリュス銀が送られて来ていたみたいなんですが」
「……それね。転送したけど忙しいから後回しと思ってたんだ。製法についても色々あるし、警報装置も一区切りした所だから今日はその話はいいよ」
「ああ、いえ。使い道だけでも聞いておこうかと」
「そうだね。金属っていう事は、装備品になるんだろう?」
ビオラの言葉に、アルフレッドも頷く。
「うん。グレイスの斧にと思ってた。ノーチラスの魔石も残ってたし、それも組み込もうかなって思ってたけど」
「なるほど。ではグレイスさんの意見も反映させたいので聞いてきます」
と言っている所に、当人であるグレイスがトレイに焼き菓子を乗せて入ってくる。焼き菓子。要するにクッキーだな。美味しそうな匂いがしている。
「お疲れ様です。お茶とお菓子はいかがですか? 焼きたてですよ」
「ありがとう。丁度区切りが付いて話をしてた所なんだ」
「それでしたら、お庭の方でどうでしょうか?」
「今日は天気も良いし、そうしようか」
工房の庭では例によって皆が訓練の最中である。
「ではそちらでお茶を淹れますね」
グレイスと一緒に庭の方へ移動する。
「ああ、グレイスさん。新しくバリュス銀で斧を作るのですが、何かご希望とかありますか?」
移動の途中でビオラに問われたグレイスはほんの少し目を丸くしてから答える。
「そうですね。基本の形はあのままで……バランスをあまり変えない方がとは思うのですが」
「扱い慣れた形が一番ですからね。分かりました。作る際に留意してみます」
素材を変えても使用感を残すというのは中々難しそうだ。その辺はビオラの腕の見せ所なのだろう。
中庭ではタルコットとチェスターがアクアゴーレムと戦闘訓練していた。パーティーのみんなは休憩を取っている。入れ替わりで特訓中と言った所か。
主に空中戦装備の熟練度を上げる為の訓練内容だ。3次元的な挙動を前提としたアクアゴーレムの動きに、2人ともやや戸惑っている様子が見受けられるが……あれはあれで楽しそうにも見える。
「2人ともお茶にしない?」
「いや。俺はまだ訓練を始めたばかりでな」
「ああ。段々面白くなってきた所だ」VIVID
という答えが返って来た。2人とも、意外に気が合うようだ。
まあ、そういう事ならこちらは先に焼き菓子と茶を頂きながら観戦させて貰う事にしよう。
チェスターが前衛となりアクアゴーレムと矛を交える傍らで、タルコットはゴーレムと一定の距離を取りながら、遠距離設置型の砲台として使えるマジックスレイブをあちこちに配置。チェスターの隙を埋めるように様々な方向からエアバレットを撃つ事で支援と攻撃を両立させている。
「タルコットの制御、かなり安定してるな」
チェスターの邪魔にならないようにきっちりカバーしている。以前のような不安定な危なっかしさは感じられない。
「基礎をみっちりやって来たみたいだからね」
アルフレッドが笑みを浮かべて、それから女性陣のテーブルの方に視線を送った。
オフィーリア嬢の隣に座って、訓練風景に目を丸くしている三つ編みの少女は、シンディー=バニスターというそうだ。例の、タルコットの片思いの相手と言う事らしい。
「どうもね。タルコットと似合い過ぎる相手だなと思っていたら、オフィーリアがお節介を焼いていたみたいなんだ」
「……なるほど」
つまり、オフィーリア嬢の友人と言う事か。シンディーはオフィーリアの紹介でタルコットと知り合ったと言う事になるだろうか。
「バニスター家は騎士の家だけど……シンディー嬢は魔法の方が才能があるからって、フォブレスター侯爵家に士官の口を求めてきたそうだ」
「ああ、それで知り合ったと」
「うん。将来性を見込んでフォブレスター侯が学舎にと送り出された。見習いではあるけれどなかなか魔法の腕は立つし、将来的にはオフィーリアの護衛に据える方向で考えておられるそうだよ」
アルフレッドがここに連れてくるのを了承するぐらいだから、身元はしっかりしているのだろうとは思っていたが。うん。そうなると、オフィーリアの身内ぐらいの感覚だな。納得がいった。
「シンディーもタルコットと一緒に訓練に混ざってはいかがかしら?」
「わ、私はあんな高度な白兵戦、まだ出来ませんよ。遠距離射撃ばっかりですから訓練の邪魔になってしまいます」
などと、オフィーリアとシンディーの会話が聞こえてくる。
シンディーは遠距離型か。要するに、正統派の魔術師だ。蔵八宝
「あら、テオドール様。丁度良い所にいらっしゃいました。シンディーは最近伸び悩んでいるそうなのです。何か助言はありませんか?」
オフィーリアは俺とアルフレッドの姿を認めると相好を崩して尋ねてくる。
「遠距離戦は僕の専門外ではありますが……そうですね。使い魔を得る事でしょうか」
「使い魔ですか?」
「ええ。遠隔魔法でマジックスレイブを置き、使い魔の視界を利用する事で、術者自身は全く姿を見せずに超遠距離射撃を行うことが出来ます」
対抗策としては相手の使い魔を潰す事で遠隔魔術師の目を奪う、という形になってくる。ライフディテクションで壁越しに位置を把握してスレイブから射撃という手を使っている奴もいたが、それはそれでフレンドリーファイアが起きやすいから、味方がいない状況で使うべき手だ。
「……ごめんなさい。高等過ぎて無理です。マジックスレイブは使えますが……」
シンディーは申し訳なさそうに首を横に振るが……マジックスレイブは魔術師として割と正統派な系統樹の技法だ。目指すべき方向性としての話でしかない。
ちなみにアシュレイは治癒術士寄りなので射程は短い部類。マルレーンは巫女兼召喚術士なのでやはり基本からは離れる。2人とも魔法資質の面から言えば、あまりマジックスレイブの習得に向いていないのだ。
「今は使い魔に慣れておくのは重要、と言う事で理解しておいていただければ十分かと。矢面に立たずに戦うのも魔術師の戦い方の1つですから」
「しょ、精進します」
「テオドール様は学舎の講師にもなれそうですね」
アシュレイが微笑みを浮かべて言うと、マルレーンがこくこくと頷く。
「どちらかと言うと、テオドールは教導官な気がする」
シーラが焼き菓子を摘まみながら言う。
「教導官って?」
イルムヒルトが首を傾げると、シーラが答えた。
「先生の先生。グランドマスターとも言う」
いや……それはどうなんだろう。専門であるバトルメイジはピーキー過ぎてあまり需要が無い気がする。それ以前に魔力資質絡みで魔力循環が出来る人間が殆どいないようだし……。新一粒神
アルフレッドは嬉しそうな声を上げると、大きく伸びをした。
「いや本当、お疲れ様」印度神油
道具を運んだり加工を手伝ったり。工房に顔を出した時は、俺も出来る作業を手伝ってきた。アルフレッドの奮闘もあり、警報装置は一先ず完成。孤児院の人数分に加え、常駐する騎士用の通行証が揃ったわけだ。
出来上がった通行証は後で孤児院に届けるとして……実動部隊を叩き潰したのが効いたのか、あれから教団の方に動きはない。あちらが動いた事で見回りも活発になっているし、動きにくくはあるだろう。俺も封印の扉の事があるからその間、大腐廃湖の探索や工房での作業などを進めさせてもらっているが……油断は出来ないな。
教団については尋問も進んでいるだろうから、遠からずその結果が聞けるだろうとは思うのだが。
「そう言えば、デュオベリス教団の刺青ってどうなの?」
アルフレッドが尋ねてくる。
「どうって言うと?」
「魔人と瘴気云々は置いておいて、魔法技師としては気になる話ではある……とか言ったら不謹慎なのかな」
「ああ……そういう事か。いや、不謹慎とは思わない」
敵方の技術を分析して盗める部分は盗んでしまおうという話だ。刺青対策は考えたし、あれはあれで有効だと思うが、仕組みの面から考える事で他に見えてくる部分もあるだろう。
となると、あの刺青がどういう種類の術なのか、という話になってくるか。
「信徒は刺青をしているだとか、どんな武器を持っているかまでは良いとしても。教団の事はそこまで詳しくはないんだよな……。連中、南方で活動してる奴らだし」
BFOでは……連中の使うリストブレードなどはアサシンスタイルに憧れたプレイヤーが、南方で鹵獲して複製などしていたから知っているのだが。
刺青は恐らく、マジックサークルや魔道具と同じような仕組みで動作するのだと思う。魔道具が素材に応じて術の書き方を工夫するように。人体に書き込むのに適した翻訳(・・)がなされた記述を行うのだろう。そこまでは察しが付く。
「問題は瘴気をどうやって扱っているか、かな?」
「そうだね」
連中自身は瘴気に蝕まれたりしないのだろうかという疑問が湧く。そこの仕組みを探る事でまた別の瘴気対策に繋がるかも知れないし。
可能性としては……刺青を施された者の魔力を瘴気に変換しているか、或いはもっと根本的に、体質を変えて魔力資質を魔人に近い物にしているか。後は……巫女や神官が女神や精霊の力を借りるように、魔人と何らかの契約を結んで一時的に力を借りるという方式も考えられる。
そう言ったいくつかの可能性を提示するとアルフレッドは苦笑した。強力催眠謎幻水
「どうにも対策には結びつきそうにないね。瘴気に対抗する為に瘴気を扱うとか、本末転倒な気がする」
「無効化しているって感じはしないからな」
「契約を結んで、借りているかもというのは気になるね」
「……魔人が背後にいるかもって事になるだろうしな。有り得ない話ではないけど……」
そんな風にアルフレッドと話をしていると、ビオラが顔を覗かせた。
「お話し中済みません。迷宮からバリュス銀が送られて来ていたみたいなんですが」
「……それね。転送したけど忙しいから後回しと思ってたんだ。製法についても色々あるし、警報装置も一区切りした所だから今日はその話はいいよ」
「ああ、いえ。使い道だけでも聞いておこうかと」
「そうだね。金属っていう事は、装備品になるんだろう?」
ビオラの言葉に、アルフレッドも頷く。
「うん。グレイスの斧にと思ってた。ノーチラスの魔石も残ってたし、それも組み込もうかなって思ってたけど」
「なるほど。ではグレイスさんの意見も反映させたいので聞いてきます」
と言っている所に、当人であるグレイスがトレイに焼き菓子を乗せて入ってくる。焼き菓子。要するにクッキーだな。美味しそうな匂いがしている。
「お疲れ様です。お茶とお菓子はいかがですか? 焼きたてですよ」
「ありがとう。丁度区切りが付いて話をしてた所なんだ」
「それでしたら、お庭の方でどうでしょうか?」
「今日は天気も良いし、そうしようか」
工房の庭では例によって皆が訓練の最中である。
「ではそちらでお茶を淹れますね」
グレイスと一緒に庭の方へ移動する。
「ああ、グレイスさん。新しくバリュス銀で斧を作るのですが、何かご希望とかありますか?」
移動の途中でビオラに問われたグレイスはほんの少し目を丸くしてから答える。
「そうですね。基本の形はあのままで……バランスをあまり変えない方がとは思うのですが」
「扱い慣れた形が一番ですからね。分かりました。作る際に留意してみます」
素材を変えても使用感を残すというのは中々難しそうだ。その辺はビオラの腕の見せ所なのだろう。
中庭ではタルコットとチェスターがアクアゴーレムと戦闘訓練していた。パーティーのみんなは休憩を取っている。入れ替わりで特訓中と言った所か。
主に空中戦装備の熟練度を上げる為の訓練内容だ。3次元的な挙動を前提としたアクアゴーレムの動きに、2人ともやや戸惑っている様子が見受けられるが……あれはあれで楽しそうにも見える。
「2人ともお茶にしない?」
「いや。俺はまだ訓練を始めたばかりでな」
「ああ。段々面白くなってきた所だ」VIVID
という答えが返って来た。2人とも、意外に気が合うようだ。
まあ、そういう事ならこちらは先に焼き菓子と茶を頂きながら観戦させて貰う事にしよう。
チェスターが前衛となりアクアゴーレムと矛を交える傍らで、タルコットはゴーレムと一定の距離を取りながら、遠距離設置型の砲台として使えるマジックスレイブをあちこちに配置。チェスターの隙を埋めるように様々な方向からエアバレットを撃つ事で支援と攻撃を両立させている。
「タルコットの制御、かなり安定してるな」
チェスターの邪魔にならないようにきっちりカバーしている。以前のような不安定な危なっかしさは感じられない。
「基礎をみっちりやって来たみたいだからね」
アルフレッドが笑みを浮かべて、それから女性陣のテーブルの方に視線を送った。
オフィーリア嬢の隣に座って、訓練風景に目を丸くしている三つ編みの少女は、シンディー=バニスターというそうだ。例の、タルコットの片思いの相手と言う事らしい。
「どうもね。タルコットと似合い過ぎる相手だなと思っていたら、オフィーリアがお節介を焼いていたみたいなんだ」
「……なるほど」
つまり、オフィーリア嬢の友人と言う事か。シンディーはオフィーリアの紹介でタルコットと知り合ったと言う事になるだろうか。
「バニスター家は騎士の家だけど……シンディー嬢は魔法の方が才能があるからって、フォブレスター侯爵家に士官の口を求めてきたそうだ」
「ああ、それで知り合ったと」
「うん。将来性を見込んでフォブレスター侯が学舎にと送り出された。見習いではあるけれどなかなか魔法の腕は立つし、将来的にはオフィーリアの護衛に据える方向で考えておられるそうだよ」
アルフレッドがここに連れてくるのを了承するぐらいだから、身元はしっかりしているのだろうとは思っていたが。うん。そうなると、オフィーリアの身内ぐらいの感覚だな。納得がいった。
「シンディーもタルコットと一緒に訓練に混ざってはいかがかしら?」
「わ、私はあんな高度な白兵戦、まだ出来ませんよ。遠距離射撃ばっかりですから訓練の邪魔になってしまいます」
などと、オフィーリアとシンディーの会話が聞こえてくる。
シンディーは遠距離型か。要するに、正統派の魔術師だ。蔵八宝
「あら、テオドール様。丁度良い所にいらっしゃいました。シンディーは最近伸び悩んでいるそうなのです。何か助言はありませんか?」
オフィーリアは俺とアルフレッドの姿を認めると相好を崩して尋ねてくる。
「遠距離戦は僕の専門外ではありますが……そうですね。使い魔を得る事でしょうか」
「使い魔ですか?」
「ええ。遠隔魔法でマジックスレイブを置き、使い魔の視界を利用する事で、術者自身は全く姿を見せずに超遠距離射撃を行うことが出来ます」
対抗策としては相手の使い魔を潰す事で遠隔魔術師の目を奪う、という形になってくる。ライフディテクションで壁越しに位置を把握してスレイブから射撃という手を使っている奴もいたが、それはそれでフレンドリーファイアが起きやすいから、味方がいない状況で使うべき手だ。
「……ごめんなさい。高等過ぎて無理です。マジックスレイブは使えますが……」
シンディーは申し訳なさそうに首を横に振るが……マジックスレイブは魔術師として割と正統派な系統樹の技法だ。目指すべき方向性としての話でしかない。
ちなみにアシュレイは治癒術士寄りなので射程は短い部類。マルレーンは巫女兼召喚術士なのでやはり基本からは離れる。2人とも魔法資質の面から言えば、あまりマジックスレイブの習得に向いていないのだ。
「今は使い魔に慣れておくのは重要、と言う事で理解しておいていただければ十分かと。矢面に立たずに戦うのも魔術師の戦い方の1つですから」
「しょ、精進します」
「テオドール様は学舎の講師にもなれそうですね」
アシュレイが微笑みを浮かべて言うと、マルレーンがこくこくと頷く。
「どちらかと言うと、テオドールは教導官な気がする」
シーラが焼き菓子を摘まみながら言う。
「教導官って?」
イルムヒルトが首を傾げると、シーラが答えた。
「先生の先生。グランドマスターとも言う」
いや……それはどうなんだろう。専門であるバトルメイジはピーキー過ぎてあまり需要が無い気がする。それ以前に魔力資質絡みで魔力循環が出来る人間が殆どいないようだし……。新一粒神
2014年12月1日星期一
嵐の前らしい
なんにせよ、一度村まで戻ろうと言うシオンの提案に、反対する者はいなかった。
森の中にいた為に、蓮弥は時間の感覚がなかったのだが、シオンが言うにはこのまま探索を続ければ、森の中で日没を迎えることになり、夜行性であるゴブリン相手に、用意のない人間が立ち回るのは非常に危険だと言う。狼1号
ゴブリンって夜行性なのか、と新しい情報に驚く蓮弥に、魔獣や魔物と呼ばれる存在達は、一様に夜行性であり、これは常識であるとシオンは言い切る。
「だからといって、昼間に行動してないわけではないがな」
村に戻って、拠点として借りたと言う空き家に置いてあった荷物を漁りながらシオンが言う。
荷物は森の中に置いてきた6人の分も合わせてかなりの量が置いてあった。
村に戻った時に、村人達は人数が減っているのを見て何があったのかとシオンに問いかけたが、シオンは6人は途中ではぐれてしまって行方が分からなくなったと説明している。
「まさか、こちらを襲ってきたから叩きのめして森に放置しました、とは言えないからな」
「ギルドへの報告もそんな感じで?」
蓮弥が尋ねるとシオンはすぐにそれを否定した。
「ギルドに嘘はつけない。本当のことを報告する」
「俺、犯罪者扱いにならないかな?」
この世界にだって殺人罪はあるだろうと心配する蓮弥。
ただ、この場合の心配は、自分が犯罪者になるであろうことへの心配ではなく、犯罪者として拘束される面倒さへの心配ではあったのだが。
その心配をシオンはあっさりと否定した。
「問題ない。私とロウが証人になるから。依頼中の事故は同行していた者の証言が証拠として一番有力視される」
「ああいう人達は常日頃から素行が悪いものだから、きちんと説明すればすぐ無罪放免になりますよ」
こちらも荷物をかなり適当に漁りつつ、ローナが請け負ってくれるが、口ぶりからしてある程度は拘束されるらしいことを察して、蓮弥はげんなりとした表情になる。
「それにしてもこいつら、本当に武器持ってないんだな」
「使えないですね。着替えとかはもう使う人もいませんから、全部燃やしてしまいましょう」
備え付けの暖炉に火を入れて、二人は本当に適当かつ大雑把に、必要のなさそうな荷物をぽんぽんと放り込んで燃やしてしまっている。
そのあまりに適当な扱いに、おそらくはすでにこの世にはいないであろう6人の冥福を蓮弥はこっそりと祈った。
「何か探しているのか?」
容赦なく燃えて灰となっていく荷物を見ながら蓮弥が尋ねる。
「適当に金品。それとレンヤに武器があればいいなと思ったんだが」
言ってる事がほぼ完全に泥棒の口ぶりなのに、軽く引く思いをしながら、武器ならば一応持っていることを、竹刀を指し示しながら蓮弥は言うが、シオンはそれをあっさりと却下した。
「レンヤがそれに思い入れがあるのは分かるが、ちゃんと刃のついた武器を使うべきだ」
流石に、竹刀を棒扱いした時の蓮弥の豹変っぷりを見ているので、同じ愚を犯すことはなかったが、言外にそれは戦闘に向かないと言う旨を口にするシオン。
「攻撃が突きに限られるようでは、戦闘の幅が狭まるだろう?」
「あの身のこなしなら、問題ない気もしますけどね」
シオンの言葉に蓮弥をフォローするようにローナが言うが、シオンはそれを否定した。
「突き技だけで問題ないのであれば、斬撃が使えればもっと余裕のある戦いができるはずなのだから、やはり武器は変えるべきだ」sex drops 小情人
「そういう考え方もありますね」
「これはもう、私の予備の武器を渡す以外ないかな」
「えーと、まぁ、迷い人なら問題ないでしょう」
ローナがなんだか引っかかる物言をするが、シオンは気にした様子も無く、自分の荷物の中から一振りの長剣を引っ張り出すと、蓮弥に手渡す。
渡された長剣の鞘を払って、蓮弥は刃を露わにすると、目の高さで長剣を水平に右手一本で構えてじっと刃に目を凝らす。
しばらくそうしていた蓮弥は、抜いた時と同じく慣れた手つきで剣を鞘へ戻した。
「どうした?」
「いや、造りのいい剣だな、と」
シオンに聞かれて答えた蓮弥の声はどことなく平坦だった。
本音の部分を言ってしまえば、蓮弥は渡された長剣の作りが非常に不満だったのだ。
刀身自体は装飾の施されていない、実用一辺のものだったが、刃に使われている鉄は蓮弥から見れば非常に粗悪でとても命を預けようと言う気持ちにはなれなかった。
刃自体も、ある程度鋭くなるように研いだだけの代物で、これできちんと斬れるかと言われると、はなはだ疑問であるとしか返答できない。
中世の武器は、板金鎧の上へ叩きつけるような代物で、斬ると言うよりは叩き潰すというのが正しい程度のものでしかなかった、と言う知識が蓮弥の頭の中にはあった。
おそらくは、それと似通った技術しか普及してなく、またそれと同じような使われ方しかしない武器なのだろう。
刃部分のおそまつさとは対照的に、柄の部分に施されている細工は見事なものだった。
握りの部分は無駄な装飾は使い勝手の悪さにしか繋がらないので、なめした革を細く割いて編みこんで巻きつけただけであったが、鍔の部分には絡み合う龍の細工が金と銀で施されており、中央には向かい合った二匹の竜をデフォルメして紋章としたものが掘り込まれている。
「柄の部分は、えらい高価そうだね」
「柄の部分は伝来のものだが、刀身は何回か折れて替えているものだから、お眼鏡にはかなわなかったようだな」
ちょっと悔しそうな表情をシオンが浮かべた。
品質的には不満が残る代物ではあったが、せっかく貸してくれたものなのだから、使わなくては申し訳が立たないだろうと、蓮弥は竹刀をインベントリに収納する。
「おや、虚空庫持ちか、うらやましいな」
「本当ですね。それだけで荷物運びの依頼が殺到する技能ですよ」
竹刀が何もない空間に消えるのを見て、二人が感心したような声を上げる。
何を言われたか分からずに、視線だけで蓮弥が疑問を提示すると、シオンが説明を続けた。
「今、何もない空間にその武器を仕舞っただろう? それは虚空庫と呼ばれる技能で、持っているものはそんなに多くない」
「しまっておける個数はそんなに多くないと聞きますが、重さを無視できるのは羨ましい技能ですよね」
蓮弥は床に広げられている荷物へ目をやる。
当初より、次の馬車の定期便が来るまでの調査のつもりだったのだろうが、二日分とは言え、二人の荷物はそこそこの量になっていた。
主に、食料やら水、傷薬やら装備の整備に必要な小道具が目に付く。
おそらく目に付かない所には着替えやらなにやらも詰まっているのだろう。
そう言った物を運ばずに済む技能と言うのは、二人のようにあちこちに移動することの多い者からすれば、確かに羨ましい限りの技能といえるはずだ。
「帰り足は、二人の荷物を俺の、その虚空庫とやらで運んでもいいが?」
「それは助かる。運賃も浮くしな」
馬車の運賃は、人数もさることながら、荷物込みの重さで決まるらしい。
ローナが言うには、別に秤に載せられるわけではないのだが、馬車の御者が乗る人の装備やら荷物のかさ等から判断して値段を決めるのだと言う。曲美
「お安い御用だよ。その前に、調査とやらを無事に終える必要があるが」
「そうだな。相手はゴブリンとは言え十分に気をつけなくては」
「不慣れな土地ですからね」
調査と漠然と言ってしまっているが、森の中の地図などあるわけがないので、基本的には適当にうろうろとして、ゴブリンの集落でも見つかれば儲けもの、くらいの話だとシオンは言う。
もしくは、エサ等を探しているゴブリンたちの後をつけて、集落の位置を割り出せればいいと言う事らしいが、地図も無いのに森のどの辺に集落がある、と報告するつもりなのだろうという疑問が沸いてくる。
その辺りを確認してみようと口を開きかけた蓮弥は、首筋になにやら冷たい感触を覚えて、思わず背筋を振るわせた。
右手で寒気を感じた辺りをさすりながら、蓮弥は一人窓辺に近寄る。
この世界、ガラスを作成するくらいの技術は開発されているらしく、窓には蓮弥が元いた世界のものとは比べ物にならなかったが、やや不透明で少々凹凸が見えるものの、外の様子をうかがい知ることができるくらいの透明度のものが嵌めこまれていた。
そのガラス越しに外を見れば、外はもうすぐ夜という時間帯に変わろうかと言うくらいの薄暗さで、赤く染まった空に太陽の姿は無い。
借りている家が村の外れの方にある為に、見える景色は村の防備として設置されている胸の辺りくらいの高さの木の塀ごしに、少々離れて森が黒く影絵のように見える。
じっと目を凝らしてみても、影絵の森の中は蓮弥のいる場所からはなにも見えない。
だが、蓮弥の勘のようなものは間違いなく、その森の中になにかあることを教えていた。
「どうした、レンヤ?」
険しい顔で森を見つめていることに気がついたシオンが、声をかけてくる。
「分からない、だが何かある。森の中だ」
「迷い人の技能みたいなものか?」
蓮弥の隣まで歩いてきたシオンも、窓から森の方を眺めてみるが何も感じないらしく、首をかしげながら蓮弥に問う。
ほんのわずかな時間、迷うように考えてから蓮弥は首を左右に振った。
「技能ではない、と思う」
「勘か」
「ああ、だけどかなり確信を持って言える」
記憶の方はあの神様に消されていたとしても、身に付いた感覚は消えない。
その感覚を信じるべきである、と蓮弥は確信していた。
「私は何も感じないし、見えないが。レンヤがそこまで言うのであれば調べてみる価値はあるのかもしれないな。ロウ、頼めるか?」
「はい、問題ありません」
シオンがローナの方へ向き直りながら頼むと、ローナは頷いて胸の前で両手を組んだ。
豊かすぎる胸がぎゅっと押し上げられてその存在を無理やりにでも意識させるかのように強調されるポーズだが、今はそんなことを考えている場合では無さそうだと蓮弥は軽く頭を振る。K-Y
何をするつもりだろうと、蓮弥が注意深く見守る中、ローナの唇から淀みなく言葉が紡がれていく。
「我は請い願う。我が信奉せし尊き方に。我らが安寧を乱す存在を、指し示さんことを」
ローナの組まれた両手の間から、何か力強い波紋のようなものが広がるのを蓮弥は知覚した。
それはまるで、潜水艦のエコーのように素早く広範囲に広がって行き、しばらくしてから広がって行ったのと同じ速さで戻ってくると、またローナの両手の間へと収束していった。
波が収束すると同時に、ローナが顔を上げて蓮弥を見つめた。
「確かに、森の中に敵意を持った何かがいます。それもかなりの数です。50以上で……はっきりとは分かりません。この分だと探査範囲外にもかなりの数が……」
「今のは……?」
はっきりと言い切られても、蓮弥には今、何が起こったのか理解できない。
「今のは法術と言って、神に仕える僧侶が扱うものの中の<探査>だ。効果範囲内に害意を持つ者が在れば術者に教えてくれる。しかし……50以上だと? 一体何が……」
「瘴気の森で、これだけの群れを作るものとなりますと」
「……不味いな。指揮官付のゴブリンどもか」
シオンの言葉に蓮弥は、村に戻る前に見たヘルプの情報を思い出す。
稀に個体能力の高い者が生まれると大集団を形成するような書き込みがあったのを。
「取りあえずロウ、村長の所へ走ってくれ。大急ぎで女子供の退避と戦えるものの準備を」
「わかりました」
答えと同時にローナは走り出している。
その背中を見送ったシオンは、蓮弥へ向き直る。
「どうにも運の悪いことばかり続くが、手伝ってもらえるか?」
尋ねる口調に余裕がない。
相当に不味い状態なのだなと蓮弥は察した。
「攻めてくるかな?」
蓮弥が疑問を提示すれば、シオンは即座に頷いた。
「50以上も数を集めて、偵察に来たと言うことはないだろう。指揮官付なら尚更だ」
「戦力差はどの程度だ?」
「この村の人口は50人ちょっと。そのうち十全に戦える若い男は10人くらいだ。数の上だけなら私達を含めて13対50以上と圧倒的に不利だ。しかも村の男達は戦闘の訓練を受けているわけではないから1対1でなんとか、1対2以上になると防戦一方になるな」
「負けた場合は」
「考えたくはないが」
渋い顔で前置きしてからシオンは言う。
「村一つ食い物にされる。奴らは人の死体もエサとしか見ない。私も含めて若い女は、殺されなければ、殺されていた方がマシだったと思うような目に遭うだろうな」
「ひゃっほー、子沢山な未来が待ってるな。AVも真っ青な展開だ」
おどけて蓮弥が言うが、あまり意味は通じなかったらしい。
当然といえば当然だろう。
この世界にAVがあるとは思えない。
だが、何を言おうとしているのかは通じたらしく、心底嫌そうな表情を向けてくる。SPANISCHE FLIEGE D5
森の中にいた為に、蓮弥は時間の感覚がなかったのだが、シオンが言うにはこのまま探索を続ければ、森の中で日没を迎えることになり、夜行性であるゴブリン相手に、用意のない人間が立ち回るのは非常に危険だと言う。狼1号
ゴブリンって夜行性なのか、と新しい情報に驚く蓮弥に、魔獣や魔物と呼ばれる存在達は、一様に夜行性であり、これは常識であるとシオンは言い切る。
「だからといって、昼間に行動してないわけではないがな」
村に戻って、拠点として借りたと言う空き家に置いてあった荷物を漁りながらシオンが言う。
荷物は森の中に置いてきた6人の分も合わせてかなりの量が置いてあった。
村に戻った時に、村人達は人数が減っているのを見て何があったのかとシオンに問いかけたが、シオンは6人は途中ではぐれてしまって行方が分からなくなったと説明している。
「まさか、こちらを襲ってきたから叩きのめして森に放置しました、とは言えないからな」
「ギルドへの報告もそんな感じで?」
蓮弥が尋ねるとシオンはすぐにそれを否定した。
「ギルドに嘘はつけない。本当のことを報告する」
「俺、犯罪者扱いにならないかな?」
この世界にだって殺人罪はあるだろうと心配する蓮弥。
ただ、この場合の心配は、自分が犯罪者になるであろうことへの心配ではなく、犯罪者として拘束される面倒さへの心配ではあったのだが。
その心配をシオンはあっさりと否定した。
「問題ない。私とロウが証人になるから。依頼中の事故は同行していた者の証言が証拠として一番有力視される」
「ああいう人達は常日頃から素行が悪いものだから、きちんと説明すればすぐ無罪放免になりますよ」
こちらも荷物をかなり適当に漁りつつ、ローナが請け負ってくれるが、口ぶりからしてある程度は拘束されるらしいことを察して、蓮弥はげんなりとした表情になる。
「それにしてもこいつら、本当に武器持ってないんだな」
「使えないですね。着替えとかはもう使う人もいませんから、全部燃やしてしまいましょう」
備え付けの暖炉に火を入れて、二人は本当に適当かつ大雑把に、必要のなさそうな荷物をぽんぽんと放り込んで燃やしてしまっている。
そのあまりに適当な扱いに、おそらくはすでにこの世にはいないであろう6人の冥福を蓮弥はこっそりと祈った。
「何か探しているのか?」
容赦なく燃えて灰となっていく荷物を見ながら蓮弥が尋ねる。
「適当に金品。それとレンヤに武器があればいいなと思ったんだが」
言ってる事がほぼ完全に泥棒の口ぶりなのに、軽く引く思いをしながら、武器ならば一応持っていることを、竹刀を指し示しながら蓮弥は言うが、シオンはそれをあっさりと却下した。
「レンヤがそれに思い入れがあるのは分かるが、ちゃんと刃のついた武器を使うべきだ」
流石に、竹刀を棒扱いした時の蓮弥の豹変っぷりを見ているので、同じ愚を犯すことはなかったが、言外にそれは戦闘に向かないと言う旨を口にするシオン。
「攻撃が突きに限られるようでは、戦闘の幅が狭まるだろう?」
「あの身のこなしなら、問題ない気もしますけどね」
シオンの言葉に蓮弥をフォローするようにローナが言うが、シオンはそれを否定した。
「突き技だけで問題ないのであれば、斬撃が使えればもっと余裕のある戦いができるはずなのだから、やはり武器は変えるべきだ」sex drops 小情人
「そういう考え方もありますね」
「これはもう、私の予備の武器を渡す以外ないかな」
「えーと、まぁ、迷い人なら問題ないでしょう」
ローナがなんだか引っかかる物言をするが、シオンは気にした様子も無く、自分の荷物の中から一振りの長剣を引っ張り出すと、蓮弥に手渡す。
渡された長剣の鞘を払って、蓮弥は刃を露わにすると、目の高さで長剣を水平に右手一本で構えてじっと刃に目を凝らす。
しばらくそうしていた蓮弥は、抜いた時と同じく慣れた手つきで剣を鞘へ戻した。
「どうした?」
「いや、造りのいい剣だな、と」
シオンに聞かれて答えた蓮弥の声はどことなく平坦だった。
本音の部分を言ってしまえば、蓮弥は渡された長剣の作りが非常に不満だったのだ。
刀身自体は装飾の施されていない、実用一辺のものだったが、刃に使われている鉄は蓮弥から見れば非常に粗悪でとても命を預けようと言う気持ちにはなれなかった。
刃自体も、ある程度鋭くなるように研いだだけの代物で、これできちんと斬れるかと言われると、はなはだ疑問であるとしか返答できない。
中世の武器は、板金鎧の上へ叩きつけるような代物で、斬ると言うよりは叩き潰すというのが正しい程度のものでしかなかった、と言う知識が蓮弥の頭の中にはあった。
おそらくは、それと似通った技術しか普及してなく、またそれと同じような使われ方しかしない武器なのだろう。
刃部分のおそまつさとは対照的に、柄の部分に施されている細工は見事なものだった。
握りの部分は無駄な装飾は使い勝手の悪さにしか繋がらないので、なめした革を細く割いて編みこんで巻きつけただけであったが、鍔の部分には絡み合う龍の細工が金と銀で施されており、中央には向かい合った二匹の竜をデフォルメして紋章としたものが掘り込まれている。
「柄の部分は、えらい高価そうだね」
「柄の部分は伝来のものだが、刀身は何回か折れて替えているものだから、お眼鏡にはかなわなかったようだな」
ちょっと悔しそうな表情をシオンが浮かべた。
品質的には不満が残る代物ではあったが、せっかく貸してくれたものなのだから、使わなくては申し訳が立たないだろうと、蓮弥は竹刀をインベントリに収納する。
「おや、虚空庫持ちか、うらやましいな」
「本当ですね。それだけで荷物運びの依頼が殺到する技能ですよ」
竹刀が何もない空間に消えるのを見て、二人が感心したような声を上げる。
何を言われたか分からずに、視線だけで蓮弥が疑問を提示すると、シオンが説明を続けた。
「今、何もない空間にその武器を仕舞っただろう? それは虚空庫と呼ばれる技能で、持っているものはそんなに多くない」
「しまっておける個数はそんなに多くないと聞きますが、重さを無視できるのは羨ましい技能ですよね」
蓮弥は床に広げられている荷物へ目をやる。
当初より、次の馬車の定期便が来るまでの調査のつもりだったのだろうが、二日分とは言え、二人の荷物はそこそこの量になっていた。
主に、食料やら水、傷薬やら装備の整備に必要な小道具が目に付く。
おそらく目に付かない所には着替えやらなにやらも詰まっているのだろう。
そう言った物を運ばずに済む技能と言うのは、二人のようにあちこちに移動することの多い者からすれば、確かに羨ましい限りの技能といえるはずだ。
「帰り足は、二人の荷物を俺の、その虚空庫とやらで運んでもいいが?」
「それは助かる。運賃も浮くしな」
馬車の運賃は、人数もさることながら、荷物込みの重さで決まるらしい。
ローナが言うには、別に秤に載せられるわけではないのだが、馬車の御者が乗る人の装備やら荷物のかさ等から判断して値段を決めるのだと言う。曲美
「お安い御用だよ。その前に、調査とやらを無事に終える必要があるが」
「そうだな。相手はゴブリンとは言え十分に気をつけなくては」
「不慣れな土地ですからね」
調査と漠然と言ってしまっているが、森の中の地図などあるわけがないので、基本的には適当にうろうろとして、ゴブリンの集落でも見つかれば儲けもの、くらいの話だとシオンは言う。
もしくは、エサ等を探しているゴブリンたちの後をつけて、集落の位置を割り出せればいいと言う事らしいが、地図も無いのに森のどの辺に集落がある、と報告するつもりなのだろうという疑問が沸いてくる。
その辺りを確認してみようと口を開きかけた蓮弥は、首筋になにやら冷たい感触を覚えて、思わず背筋を振るわせた。
右手で寒気を感じた辺りをさすりながら、蓮弥は一人窓辺に近寄る。
この世界、ガラスを作成するくらいの技術は開発されているらしく、窓には蓮弥が元いた世界のものとは比べ物にならなかったが、やや不透明で少々凹凸が見えるものの、外の様子をうかがい知ることができるくらいの透明度のものが嵌めこまれていた。
そのガラス越しに外を見れば、外はもうすぐ夜という時間帯に変わろうかと言うくらいの薄暗さで、赤く染まった空に太陽の姿は無い。
借りている家が村の外れの方にある為に、見える景色は村の防備として設置されている胸の辺りくらいの高さの木の塀ごしに、少々離れて森が黒く影絵のように見える。
じっと目を凝らしてみても、影絵の森の中は蓮弥のいる場所からはなにも見えない。
だが、蓮弥の勘のようなものは間違いなく、その森の中になにかあることを教えていた。
「どうした、レンヤ?」
険しい顔で森を見つめていることに気がついたシオンが、声をかけてくる。
「分からない、だが何かある。森の中だ」
「迷い人の技能みたいなものか?」
蓮弥の隣まで歩いてきたシオンも、窓から森の方を眺めてみるが何も感じないらしく、首をかしげながら蓮弥に問う。
ほんのわずかな時間、迷うように考えてから蓮弥は首を左右に振った。
「技能ではない、と思う」
「勘か」
「ああ、だけどかなり確信を持って言える」
記憶の方はあの神様に消されていたとしても、身に付いた感覚は消えない。
その感覚を信じるべきである、と蓮弥は確信していた。
「私は何も感じないし、見えないが。レンヤがそこまで言うのであれば調べてみる価値はあるのかもしれないな。ロウ、頼めるか?」
「はい、問題ありません」
シオンがローナの方へ向き直りながら頼むと、ローナは頷いて胸の前で両手を組んだ。
豊かすぎる胸がぎゅっと押し上げられてその存在を無理やりにでも意識させるかのように強調されるポーズだが、今はそんなことを考えている場合では無さそうだと蓮弥は軽く頭を振る。K-Y
何をするつもりだろうと、蓮弥が注意深く見守る中、ローナの唇から淀みなく言葉が紡がれていく。
「我は請い願う。我が信奉せし尊き方に。我らが安寧を乱す存在を、指し示さんことを」
ローナの組まれた両手の間から、何か力強い波紋のようなものが広がるのを蓮弥は知覚した。
それはまるで、潜水艦のエコーのように素早く広範囲に広がって行き、しばらくしてから広がって行ったのと同じ速さで戻ってくると、またローナの両手の間へと収束していった。
波が収束すると同時に、ローナが顔を上げて蓮弥を見つめた。
「確かに、森の中に敵意を持った何かがいます。それもかなりの数です。50以上で……はっきりとは分かりません。この分だと探査範囲外にもかなりの数が……」
「今のは……?」
はっきりと言い切られても、蓮弥には今、何が起こったのか理解できない。
「今のは法術と言って、神に仕える僧侶が扱うものの中の<探査>だ。効果範囲内に害意を持つ者が在れば術者に教えてくれる。しかし……50以上だと? 一体何が……」
「瘴気の森で、これだけの群れを作るものとなりますと」
「……不味いな。指揮官付のゴブリンどもか」
シオンの言葉に蓮弥は、村に戻る前に見たヘルプの情報を思い出す。
稀に個体能力の高い者が生まれると大集団を形成するような書き込みがあったのを。
「取りあえずロウ、村長の所へ走ってくれ。大急ぎで女子供の退避と戦えるものの準備を」
「わかりました」
答えと同時にローナは走り出している。
その背中を見送ったシオンは、蓮弥へ向き直る。
「どうにも運の悪いことばかり続くが、手伝ってもらえるか?」
尋ねる口調に余裕がない。
相当に不味い状態なのだなと蓮弥は察した。
「攻めてくるかな?」
蓮弥が疑問を提示すれば、シオンは即座に頷いた。
「50以上も数を集めて、偵察に来たと言うことはないだろう。指揮官付なら尚更だ」
「戦力差はどの程度だ?」
「この村の人口は50人ちょっと。そのうち十全に戦える若い男は10人くらいだ。数の上だけなら私達を含めて13対50以上と圧倒的に不利だ。しかも村の男達は戦闘の訓練を受けているわけではないから1対1でなんとか、1対2以上になると防戦一方になるな」
「負けた場合は」
「考えたくはないが」
渋い顔で前置きしてからシオンは言う。
「村一つ食い物にされる。奴らは人の死体もエサとしか見ない。私も含めて若い女は、殺されなければ、殺されていた方がマシだったと思うような目に遭うだろうな」
「ひゃっほー、子沢山な未来が待ってるな。AVも真っ青な展開だ」
おどけて蓮弥が言うが、あまり意味は通じなかったらしい。
当然といえば当然だろう。
この世界にAVがあるとは思えない。
だが、何を言おうとしているのかは通じたらしく、心底嫌そうな表情を向けてくる。SPANISCHE FLIEGE D5
2014年11月28日星期五
教育開始らしい
初撃に剣を投げつけられて床に倒れたまま気絶していた生徒の姿が掻き消える。
結界の保護機能で外に弾き出されたらしい。
それが指し示す意味は、蓮弥の一撃は即死ダメージをその生徒に与えていたと言うことだ。花痴
いかに刃が潰されていようが、全力で投げつけられた鉄の塊を側頭部に、なんの構えもない所に打ち込まれては、当然と言えば当然の結果と言える。
投げつけた本人からすれば、あ、なんか即死したっぽい? 程度のものであったのだが、周囲の生徒達の雰囲気は険悪なものへと変わっていく。
いきなり現れて、いきなり一人殺したようなものなのだから、仕方がないと言えば仕方のないことなのだが、蓮弥がそれを気にした様子は全くない。
「証明してみせろ、か。下賎な冒険者の、さらに下級のクラスの者が口にしていい言葉ではないな」
剣を抜き放ち、蓮弥と相対するオーランは15歳と言う年齢にしてはかなり背丈も高く、がっちりとした体型で、いかにも力重視の戦士といった感じを漂わせている。
一応18歳設定のはずの蓮弥と向かい合っても、全く引けを取っていない。
「前言を撤回し、謝罪をするならば受け入れなくもないぞ、冒険者」
オーランが何か言っているが、言葉は蓮弥の耳を素通りしている。
どうせどうでもいい事を口にしているんだろうと、蓮弥は相手の観察を続けた。
オーランは腕の太さもかなりなもので、蓮弥はそっと自分の腕を見てから、筋肉の量だけなら圧倒的に自分が負けていることを悟って苦笑する。
さらに、ちらっとリアリスの方へ目を向ければ、リアリス自身は華奢と言う程でもないが細くしなやかな体型をしており、タイプで言うならばおそらくは速度重視の軽戦士タイプだ。
それだけの情報で、蓮弥はリアリスがオーランに負けた理由を悟る。
「相手に戦い方を合わせてもらって、勝てたからといってどれだけの意味があるのかね?」
「なんだと?」
「ああ、独り言だよ。聞こえても気にするな」
面倒くさそうにぱたぱたと手を振って、蓮弥はもう一人の問題児に目をやる。
その問題児は、蓮弥の声が聞こえたのか、やはりこちらも取り巻きを引き連れながらオーランの隣まで歩いてくると、腰に手を当てて言い放った。
「まぐれ勝ちとは聞き捨てならないわね。その侮辱、今すぐ地面に平伏して許しを請うのであれば、大目に見ないでもないけど、どうするの?」
ものすごい高みから見下ろした台詞を吐いたのは、金髪縦ロールのナタリアだ。
軽く胸を反らし、蔑みまくった視線で蓮弥を見ているが、迫力という点においては猫の威嚇にも劣る、とは蓮弥の感想だ。
ついでに反らした胸は非常に、悲しくなる程に薄い。
リアリスも体型的に薄い方だが、きちんとあるのがわかるくらいにはある。
ボリュームとしては圧倒的な大敗を喫しているなと蓮弥は笑ったが、その笑みの意味が分からずにナタリアは怪訝そうな顔になる。
それにしてもと、蓮弥は首を傾げる。
力重視のオーランと違って、ナタリアはおそらくリアリスと同じ速度重視型のはずだ。
それで勝てたと言うことは、こちらは一応技量的にリアリスに匹敵、あるいはそれに勝ると言うことなのだろうか、と。
その疑問に対する答えは、離れた所にいるフラウからもたらされた。
『マスター、聞こえますかー?』
「うん?」
思わず声に出してしまった蓮弥だが、フラウの声は耳元と言うよりは頭の中で聞こえた。
『声に出さなくても大丈夫なの。これは念話なの。フラウはマスターに憑いてる状態だから思念で会話ができるの』福源春
『流石妖精。高スペックだな』
『もっと褒めてもいいの。アズさんが言うには、その金髪縦ロールさんは、マッチョさんの後に連戦でリアリスさんと戦ったらしいの。たぶんマスターがその辺りを疑問に思ってるだろうから伝えてくれってアズさんが言ってるの』
『そうか、なるほど。ありがとうな』
『お安い御用なの』
安全保護の為の結界には、蓮弥が思うに欠陥がある。
致命傷を受けた場合、死なない程度までダメージを軽減する、と言うのがそれだ。
これは逆に言うと、致命傷でない限りはそのダメージは残留すると言い換えることができる。
普通ならば、戦闘訓練後に治癒の法術でもって治療を行うのだろうが、連戦したと言うことは、リアリスはオーランと戦った後にそのままの状態でナタリアと戦ったと言うこと。
これはつまり、オーラン戦で受けたダメージを引きずったままナタリアとの戦いを行ったと言うことだ。
加減を知らない脳筋戦士が与えたダメージが、リアリスの速度を殺していたのだろうと言うことを予想することは難しくない。
「なんだ。結局は手加減された阿呆と、ハンデ戦を仕掛けた馬鹿がイキがってるだけか」
少しでも警戒してた自分が馬鹿みたいじゃないかと額に手を当て、頭を振りつつため息をつく蓮弥。
その仕草が、自分達を馬鹿にしているように見えたのか、ナタリアも腰の剣を抜き放ち、蓮弥を睨みつけつつ叫んだ。
「下郎! 態度を改める気がないのであれば、このナタリア=ファタールが身の程と言うものを教えて差し上げますわよ!」
「是非、ご教授願いたいね」
剣を肩に担いだまま、さして気負った様子も無く、蓮弥は即答した。
「前振り、能書きはもういいから。ちゃっちゃとかかってこい。お前らの理屈で言うなら、勝った方がなんだか知らんが偉いんだろ?」
ぎりっと歯を噛み締めるオーランとナタリアを、つまらないものを見るかのように見ながら、蓮弥は再び手招きをした。
「タイマンなんてケチな事は言わないよ。取り巻きともどもまとめてかかってこい」
「その大口、後悔することになるぞ」
「施術院送りにして差し上げますわ!」
流石は異世界。
病院送りではなくて、法術で治療してもらうから施術院送りなのか、と妙な所に感心した蓮弥めがけてオーランとナタリア両名とその取り巻き達がそれぞれ武器を振りかざしながら殺到した。
クラスの半数以上が一斉に攻撃をしかけたのを見て、リアリスが制止の声を上げかけたが、すぐにアズとフラウがリアリスの身体を引き止めて、静観するように促している。
その場から動こうとはしない蓮弥に最初に攻撃をしかけたのは、やはり速度重視のナタリアだ。
突進しつつ胸を狙って放たれた突きを、身体を右半身に捻るだけでかわした蓮弥はすれ違いざまにナタリアの肩を左手で押しやって自分の背後へと突き飛ばす。
続いて大上段から振り下ろされたオーランの斬撃を、今度は左半身にかわして、こちらは担いでいた剣で腰の辺りを軽く打ってやはり自分の背後へと抜けさせる。
ここで初めて蓮弥は前に出る。
取り巻き達が繰り出す攻撃を、剣を打ち合わせることも無くすり抜けた先には、魔術の詠唱中である男女の生徒が一人ずつ、あっと言う間に二桁に上る攻撃をすり抜けてきた蓮弥を呆然と見つめている所へと出た。
「魔術師を最初に潰すのは定石だよな」
薙ぎ払った一撃が、女子生徒の腰を捕らえてその身体を吹き飛ばす。勃動力三体牛鞭
返す刃が男子生徒の肩口に叩き込まれて、こちらは地面に叩きつけられるように倒れた。
吹き飛ばされた女子生徒はそのまま、床の上をごろごろと思う存分転がりまくった後、回転が止まると同時に姿が消えた。
叩き伏せられた男子生徒は、肩をおさえながら立ち上がろうとして、自分の目の前に迫り来る、靴底を見て顔を引き攣らせる。
「あ…・・・やめ……」
何事か言いかけた男子生徒だったが、蓮弥は構わずにそのまま踏む。
足の裏に色々と愉快な感触が伝わってくるが、お構い無しに踏む。
なんとか身体をかばおうとした腕も踏む。
這いずって逃げようとした背中を踏み、後頭部を蹴り飛ばしてからさらに踏む。
徹底的に踏む。
やがて動かなくなった男子生徒の姿が消えたのを確認してから、ゆらりと蓮弥は振り向いた。
その視線の先には、目の前で突然繰り広げられた惨劇に、動けないままでいる取り巻き達と、呆然と蓮弥を見つめているオーランとナタリアの姿がある。
『フラウ。リアリス先生の対応はアズに任せて。闘技場の逃げ道、塞いでおいてくれるかな?』
『任せるの♪』
何故かウキウキとした思念が返ってきた。
染まるのが早すぎるんじゃないかな、と思いつつ、なんだか悲鳴のような掛け声と共に振り下ろされた剣を無造作に払う。
切り込んできたのは女子生徒だ。
剣を払われて泳ぐ身体の鳩尾へ膝を入れ、胃液を吐きながら身体を折った所へ追撃に後頭部へ肘を落として、倒れた所を一度踏んでから、脇腹へ爪先を蹴りいれる。
吐いた胃液に赤いものが混じったが、少女の身体は消えない。
致死ダメージには足りなかったらしいと笑う蓮弥はきっちりもう一発後頭部に踵を落として少女の姿を消す。
「アズ君!? あの人最初から殺す気まんまんじゃないのっ!?」
「いや、リアリス先生。死なないのは分かってますから」
なにか悲鳴のようなものと、それを宥める声が聞こえたが、聞こえないフリをして無視。
瞬く間に三人を消されて、生徒達は腰が引けてしまっている。
それを見て、蓮弥はつまらなそうに鼻を鳴らした。
これならば、開拓村で襲ってきたゴブリン達の方がまだ戦い甲斐がある。
怯えた目で蓮弥を見るだけの男子生徒の襟首を掴んで引き寄せる。
何事か口を開く前に、眉間に頭突きを数度入れ、手を放してやると膝から崩れ落ちたので、一発股間を蹴り上げてやると、泡を吹いてのたうちまわった。
これは消さない方がいいか、と放置して、蓮弥はまだ動こうとしないオーランとナタリアへ笑顔をむける。
「おい、そこのボス猿二匹。そんな所でぼーっと突っ立ってると、仲間がいなくなるぞ?」
斬りかかってこない二人を挑発してみた蓮弥だったが、ナタリアは顔を青ざめさせたまま、剣を持つ手が震えており、とても戦えるような状態ではない。
オーランは一つ舌打ちをし、剣を両手で構えると、気合の声をあげつつ蓮弥へ斬りかかってきた。
なんとかの一つ覚えのように、また振り下ろされる一撃を、蓮弥は右手だけで握っている長剣を下からの掬い上げるような斬撃で迎え撃った。蒼蝿水
振り下ろし対掬い上げで、両腕対片腕と言う、どちらが有利なのか一目瞭然な剣撃の勝敗は、蓮弥に軍配があがる。
衝撃に負けて手から剣がすっぽぬけてしまったオーランを、険しい目で見つめた蓮弥は、振り上げた状態になっている剣の柄頭で、オーランの額を強打した。
「ぐあっ!?」
痛みに額を押さえてのけぞるオーランの腹部に、蓮弥の前蹴りが突き刺さる。
たまらず尻餅をついたオーランめがけて、蓮弥の怒鳴り声が飛んだ。
「剣士が戦いの最中に剣を手放すとは、ふざけてんのかっ!? 拾って来い! 犬のようにな!」
怒鳴られて、よたよたと立ち上がったオーランに、容赦ない蓮弥の蹴りが飛ぶ。
「犬が二本足で立つか! 四つん這いでいけっ!」
まだ立とうとしていたオーランを容赦なく蹴りつけ、踏みにじり、ようやく四つん這いでひぃひぃ言いながら飛んでいった剣を回収に向ったオーランを見送りながら、背後に迫っていた男子生徒を肩越しに振り返りつつ睨み付ける。
その一瞥だけで動きを止めてしまった男子生徒の態度が、また蓮弥の怒りを加速させた。
「見られたくらいで」
技術も何もなく、ただたっぷりと力を溜めた剣による一撃を、振り向きざまに振り抜く。
「止まるな、馬鹿が!」
腕も胴も一緒くたに薙ぎ払われて、悲鳴を上げることもできずにその男子生徒の身体が打ち倒された。
一拍置いて、その男子生徒は打たれた腕をもう一方の腕で抱きかかえるようにしながら、悲鳴を上げて転げまわる。
まともに胴を薙がれていれば、絶命ダメージと判断されたのかもしれないが、途中に腕がクッションになってしまった為に、腕が完膚なきまでに折れるだけで済んでしまったようだ。
振りぬいた剣をゆっくりと手元に戻し、蓮弥はじろりと周囲を見回す。
その視線に圧し折られるようにして、生徒達は視線を地面へと落とす。
「ま、まだですわ!」
そんな中で声を上げたのは、ナタリアだ。
取り巻き達の中にあって、手がまだ震えてはいるが、蓮弥を睨みつけて大声で周囲を叱咤する。
「相手は一人です! まだこちらに勝ち目が消えたわけではありません!」
まだ自分達の方が人数が勝っていると言う事実。
加えてナタリアが戦意を失っていないと言う事が、取り巻き達の折れかけた心をなんとかもたせる。
さらに、情けない格好で武器の回収に向かわされはしたが、オーランとて未だ戦闘不能には陥っていない。
「まだやるか。……そーかそーか」
武器を構え、今度は蓮弥を取り囲むように移動しはじめた生徒達を見て、蓮弥がとても嬉しそうに笑った。
「ま、死なずに済む戦場だ。経験を積んで見るのもいい事だろうさ、なんせ……蹂躙される側なんて、そうそう体験できないだろうしな」SEX DROPS
肉体的にはともかく、精神的な死者が出ないといいんだがと思いつつ、蓮弥は次の獲物を求めて一歩踏み出した。
結界の保護機能で外に弾き出されたらしい。
それが指し示す意味は、蓮弥の一撃は即死ダメージをその生徒に与えていたと言うことだ。花痴
いかに刃が潰されていようが、全力で投げつけられた鉄の塊を側頭部に、なんの構えもない所に打ち込まれては、当然と言えば当然の結果と言える。
投げつけた本人からすれば、あ、なんか即死したっぽい? 程度のものであったのだが、周囲の生徒達の雰囲気は険悪なものへと変わっていく。
いきなり現れて、いきなり一人殺したようなものなのだから、仕方がないと言えば仕方のないことなのだが、蓮弥がそれを気にした様子は全くない。
「証明してみせろ、か。下賎な冒険者の、さらに下級のクラスの者が口にしていい言葉ではないな」
剣を抜き放ち、蓮弥と相対するオーランは15歳と言う年齢にしてはかなり背丈も高く、がっちりとした体型で、いかにも力重視の戦士といった感じを漂わせている。
一応18歳設定のはずの蓮弥と向かい合っても、全く引けを取っていない。
「前言を撤回し、謝罪をするならば受け入れなくもないぞ、冒険者」
オーランが何か言っているが、言葉は蓮弥の耳を素通りしている。
どうせどうでもいい事を口にしているんだろうと、蓮弥は相手の観察を続けた。
オーランは腕の太さもかなりなもので、蓮弥はそっと自分の腕を見てから、筋肉の量だけなら圧倒的に自分が負けていることを悟って苦笑する。
さらに、ちらっとリアリスの方へ目を向ければ、リアリス自身は華奢と言う程でもないが細くしなやかな体型をしており、タイプで言うならばおそらくは速度重視の軽戦士タイプだ。
それだけの情報で、蓮弥はリアリスがオーランに負けた理由を悟る。
「相手に戦い方を合わせてもらって、勝てたからといってどれだけの意味があるのかね?」
「なんだと?」
「ああ、独り言だよ。聞こえても気にするな」
面倒くさそうにぱたぱたと手を振って、蓮弥はもう一人の問題児に目をやる。
その問題児は、蓮弥の声が聞こえたのか、やはりこちらも取り巻きを引き連れながらオーランの隣まで歩いてくると、腰に手を当てて言い放った。
「まぐれ勝ちとは聞き捨てならないわね。その侮辱、今すぐ地面に平伏して許しを請うのであれば、大目に見ないでもないけど、どうするの?」
ものすごい高みから見下ろした台詞を吐いたのは、金髪縦ロールのナタリアだ。
軽く胸を反らし、蔑みまくった視線で蓮弥を見ているが、迫力という点においては猫の威嚇にも劣る、とは蓮弥の感想だ。
ついでに反らした胸は非常に、悲しくなる程に薄い。
リアリスも体型的に薄い方だが、きちんとあるのがわかるくらいにはある。
ボリュームとしては圧倒的な大敗を喫しているなと蓮弥は笑ったが、その笑みの意味が分からずにナタリアは怪訝そうな顔になる。
それにしてもと、蓮弥は首を傾げる。
力重視のオーランと違って、ナタリアはおそらくリアリスと同じ速度重視型のはずだ。
それで勝てたと言うことは、こちらは一応技量的にリアリスに匹敵、あるいはそれに勝ると言うことなのだろうか、と。
その疑問に対する答えは、離れた所にいるフラウからもたらされた。
『マスター、聞こえますかー?』
「うん?」
思わず声に出してしまった蓮弥だが、フラウの声は耳元と言うよりは頭の中で聞こえた。
『声に出さなくても大丈夫なの。これは念話なの。フラウはマスターに憑いてる状態だから思念で会話ができるの』福源春
『流石妖精。高スペックだな』
『もっと褒めてもいいの。アズさんが言うには、その金髪縦ロールさんは、マッチョさんの後に連戦でリアリスさんと戦ったらしいの。たぶんマスターがその辺りを疑問に思ってるだろうから伝えてくれってアズさんが言ってるの』
『そうか、なるほど。ありがとうな』
『お安い御用なの』
安全保護の為の結界には、蓮弥が思うに欠陥がある。
致命傷を受けた場合、死なない程度までダメージを軽減する、と言うのがそれだ。
これは逆に言うと、致命傷でない限りはそのダメージは残留すると言い換えることができる。
普通ならば、戦闘訓練後に治癒の法術でもって治療を行うのだろうが、連戦したと言うことは、リアリスはオーランと戦った後にそのままの状態でナタリアと戦ったと言うこと。
これはつまり、オーラン戦で受けたダメージを引きずったままナタリアとの戦いを行ったと言うことだ。
加減を知らない脳筋戦士が与えたダメージが、リアリスの速度を殺していたのだろうと言うことを予想することは難しくない。
「なんだ。結局は手加減された阿呆と、ハンデ戦を仕掛けた馬鹿がイキがってるだけか」
少しでも警戒してた自分が馬鹿みたいじゃないかと額に手を当て、頭を振りつつため息をつく蓮弥。
その仕草が、自分達を馬鹿にしているように見えたのか、ナタリアも腰の剣を抜き放ち、蓮弥を睨みつけつつ叫んだ。
「下郎! 態度を改める気がないのであれば、このナタリア=ファタールが身の程と言うものを教えて差し上げますわよ!」
「是非、ご教授願いたいね」
剣を肩に担いだまま、さして気負った様子も無く、蓮弥は即答した。
「前振り、能書きはもういいから。ちゃっちゃとかかってこい。お前らの理屈で言うなら、勝った方がなんだか知らんが偉いんだろ?」
ぎりっと歯を噛み締めるオーランとナタリアを、つまらないものを見るかのように見ながら、蓮弥は再び手招きをした。
「タイマンなんてケチな事は言わないよ。取り巻きともどもまとめてかかってこい」
「その大口、後悔することになるぞ」
「施術院送りにして差し上げますわ!」
流石は異世界。
病院送りではなくて、法術で治療してもらうから施術院送りなのか、と妙な所に感心した蓮弥めがけてオーランとナタリア両名とその取り巻き達がそれぞれ武器を振りかざしながら殺到した。
クラスの半数以上が一斉に攻撃をしかけたのを見て、リアリスが制止の声を上げかけたが、すぐにアズとフラウがリアリスの身体を引き止めて、静観するように促している。
その場から動こうとはしない蓮弥に最初に攻撃をしかけたのは、やはり速度重視のナタリアだ。
突進しつつ胸を狙って放たれた突きを、身体を右半身に捻るだけでかわした蓮弥はすれ違いざまにナタリアの肩を左手で押しやって自分の背後へと突き飛ばす。
続いて大上段から振り下ろされたオーランの斬撃を、今度は左半身にかわして、こちらは担いでいた剣で腰の辺りを軽く打ってやはり自分の背後へと抜けさせる。
ここで初めて蓮弥は前に出る。
取り巻き達が繰り出す攻撃を、剣を打ち合わせることも無くすり抜けた先には、魔術の詠唱中である男女の生徒が一人ずつ、あっと言う間に二桁に上る攻撃をすり抜けてきた蓮弥を呆然と見つめている所へと出た。
「魔術師を最初に潰すのは定石だよな」
薙ぎ払った一撃が、女子生徒の腰を捕らえてその身体を吹き飛ばす。勃動力三体牛鞭
返す刃が男子生徒の肩口に叩き込まれて、こちらは地面に叩きつけられるように倒れた。
吹き飛ばされた女子生徒はそのまま、床の上をごろごろと思う存分転がりまくった後、回転が止まると同時に姿が消えた。
叩き伏せられた男子生徒は、肩をおさえながら立ち上がろうとして、自分の目の前に迫り来る、靴底を見て顔を引き攣らせる。
「あ…・・・やめ……」
何事か言いかけた男子生徒だったが、蓮弥は構わずにそのまま踏む。
足の裏に色々と愉快な感触が伝わってくるが、お構い無しに踏む。
なんとか身体をかばおうとした腕も踏む。
這いずって逃げようとした背中を踏み、後頭部を蹴り飛ばしてからさらに踏む。
徹底的に踏む。
やがて動かなくなった男子生徒の姿が消えたのを確認してから、ゆらりと蓮弥は振り向いた。
その視線の先には、目の前で突然繰り広げられた惨劇に、動けないままでいる取り巻き達と、呆然と蓮弥を見つめているオーランとナタリアの姿がある。
『フラウ。リアリス先生の対応はアズに任せて。闘技場の逃げ道、塞いでおいてくれるかな?』
『任せるの♪』
何故かウキウキとした思念が返ってきた。
染まるのが早すぎるんじゃないかな、と思いつつ、なんだか悲鳴のような掛け声と共に振り下ろされた剣を無造作に払う。
切り込んできたのは女子生徒だ。
剣を払われて泳ぐ身体の鳩尾へ膝を入れ、胃液を吐きながら身体を折った所へ追撃に後頭部へ肘を落として、倒れた所を一度踏んでから、脇腹へ爪先を蹴りいれる。
吐いた胃液に赤いものが混じったが、少女の身体は消えない。
致死ダメージには足りなかったらしいと笑う蓮弥はきっちりもう一発後頭部に踵を落として少女の姿を消す。
「アズ君!? あの人最初から殺す気まんまんじゃないのっ!?」
「いや、リアリス先生。死なないのは分かってますから」
なにか悲鳴のようなものと、それを宥める声が聞こえたが、聞こえないフリをして無視。
瞬く間に三人を消されて、生徒達は腰が引けてしまっている。
それを見て、蓮弥はつまらなそうに鼻を鳴らした。
これならば、開拓村で襲ってきたゴブリン達の方がまだ戦い甲斐がある。
怯えた目で蓮弥を見るだけの男子生徒の襟首を掴んで引き寄せる。
何事か口を開く前に、眉間に頭突きを数度入れ、手を放してやると膝から崩れ落ちたので、一発股間を蹴り上げてやると、泡を吹いてのたうちまわった。
これは消さない方がいいか、と放置して、蓮弥はまだ動こうとしないオーランとナタリアへ笑顔をむける。
「おい、そこのボス猿二匹。そんな所でぼーっと突っ立ってると、仲間がいなくなるぞ?」
斬りかかってこない二人を挑発してみた蓮弥だったが、ナタリアは顔を青ざめさせたまま、剣を持つ手が震えており、とても戦えるような状態ではない。
オーランは一つ舌打ちをし、剣を両手で構えると、気合の声をあげつつ蓮弥へ斬りかかってきた。
なんとかの一つ覚えのように、また振り下ろされる一撃を、蓮弥は右手だけで握っている長剣を下からの掬い上げるような斬撃で迎え撃った。蒼蝿水
振り下ろし対掬い上げで、両腕対片腕と言う、どちらが有利なのか一目瞭然な剣撃の勝敗は、蓮弥に軍配があがる。
衝撃に負けて手から剣がすっぽぬけてしまったオーランを、険しい目で見つめた蓮弥は、振り上げた状態になっている剣の柄頭で、オーランの額を強打した。
「ぐあっ!?」
痛みに額を押さえてのけぞるオーランの腹部に、蓮弥の前蹴りが突き刺さる。
たまらず尻餅をついたオーランめがけて、蓮弥の怒鳴り声が飛んだ。
「剣士が戦いの最中に剣を手放すとは、ふざけてんのかっ!? 拾って来い! 犬のようにな!」
怒鳴られて、よたよたと立ち上がったオーランに、容赦ない蓮弥の蹴りが飛ぶ。
「犬が二本足で立つか! 四つん這いでいけっ!」
まだ立とうとしていたオーランを容赦なく蹴りつけ、踏みにじり、ようやく四つん這いでひぃひぃ言いながら飛んでいった剣を回収に向ったオーランを見送りながら、背後に迫っていた男子生徒を肩越しに振り返りつつ睨み付ける。
その一瞥だけで動きを止めてしまった男子生徒の態度が、また蓮弥の怒りを加速させた。
「見られたくらいで」
技術も何もなく、ただたっぷりと力を溜めた剣による一撃を、振り向きざまに振り抜く。
「止まるな、馬鹿が!」
腕も胴も一緒くたに薙ぎ払われて、悲鳴を上げることもできずにその男子生徒の身体が打ち倒された。
一拍置いて、その男子生徒は打たれた腕をもう一方の腕で抱きかかえるようにしながら、悲鳴を上げて転げまわる。
まともに胴を薙がれていれば、絶命ダメージと判断されたのかもしれないが、途中に腕がクッションになってしまった為に、腕が完膚なきまでに折れるだけで済んでしまったようだ。
振りぬいた剣をゆっくりと手元に戻し、蓮弥はじろりと周囲を見回す。
その視線に圧し折られるようにして、生徒達は視線を地面へと落とす。
「ま、まだですわ!」
そんな中で声を上げたのは、ナタリアだ。
取り巻き達の中にあって、手がまだ震えてはいるが、蓮弥を睨みつけて大声で周囲を叱咤する。
「相手は一人です! まだこちらに勝ち目が消えたわけではありません!」
まだ自分達の方が人数が勝っていると言う事実。
加えてナタリアが戦意を失っていないと言う事が、取り巻き達の折れかけた心をなんとかもたせる。
さらに、情けない格好で武器の回収に向かわされはしたが、オーランとて未だ戦闘不能には陥っていない。
「まだやるか。……そーかそーか」
武器を構え、今度は蓮弥を取り囲むように移動しはじめた生徒達を見て、蓮弥がとても嬉しそうに笑った。
「ま、死なずに済む戦場だ。経験を積んで見るのもいい事だろうさ、なんせ……蹂躙される側なんて、そうそう体験できないだろうしな」SEX DROPS
肉体的にはともかく、精神的な死者が出ないといいんだがと思いつつ、蓮弥は次の獲物を求めて一歩踏み出した。
2014年11月26日星期三
竜騎兵の探索らしい
真昼間の空に一頭のドラゴンが飛んでいる。
全身を赤い色に染めたそのドラゴンは、ドラゴンと言う種族の中では中級に位置するレッドドラゴンだ。
風を切って飛ぶその姿は、人族の大陸においては絶望の象徴として知られている。
それはそのまま、このドラゴンと遭遇することが死に直結しているからだ。花痴
その恐るべき存在の背中に、通常では信じられないことに二人の人影があった。
二人の人影のうち、一人は全身をドラゴンの身体と同じ赤色に染め上げた全身鎧を身に纏っている。
その格好では、ドラゴンから降りてしまったらまともに歩くのもかなりの重労働だろうと思われるほどの重装備だ。
もう一人はその赤の全身鎧の人物の腰に手を回し、振り落とされないようにしている赤毛の若い男だ。
身につけているのは魔術師の装備としてはおなじみの、質素なローブであるが、かなりの勢いの風の中にいるはずの男のローブは思ったほどはためいてはいない。
ドラゴン自身が、背中に乗っている騎手達を護る為に防御用の壁を展開しているせいだ。
これのおかげで乗り手は風圧を気にせずにドラゴンの背中に乗ることが可能になるのだが、これが無いとドラゴンの速度で飛ばれてしまえば、乗り手は呼吸すらままならないような状況に陥ってしまう。
「ドラ君! 急いで!」
赤の全身鎧が声を上げる。
実際は声を上げる必要は無い。
乗り手とドラゴンの間には精神的なパスが通っており、頭に思うだけで意志は通じる。
しかし、乗り手側がそれに慣れていないのか、どうしても口に出してしまうらしい。
<目一杯です……>
「泣き言は聞かない! 急ぎなさい!」
べしべしと、手甲をはめた手の平でドラゴンの身体を騎手が叩く。
いくら人間の力で叩かれようがドラゴンにとってはわずかな痛痒すら感じることはないのだが、乗り手が相当焦っていることは、ドラゴンにも通じる。
そんなに焦ることだろうか、とドラゴンは首を傾げてしまう。
乗り手の持っている情報は、確かに緊急の事態と言えなくも無いとドラゴンは思ったのだが、それを伝える相手からしてみれば、大したことが無い情報と取られるような気しかしないのだ。
なにせあの人は、と考えた所でドラゴンはわずかに身震いをした。
未だに初めてあの人と出会った時の恐怖は、ドラゴンの心へ深々とした傷を残している。
目があった瞬間に、死んだと思った。
確かにものすごい大きな力が自分達の住処に近づいてきているのは感じていたし、仲間達が必死に逃げ出そうとしている気持ちも分からないでもなかった。
群れの中で、一番弱い自分が生贄として残らされたのは少しばかり哀しいことだったが。
それでもその人と出会う前は、まだドラゴンとしての誇りがあった。
どれだけ強力な存在が来ようが、群れの中で一番弱かろうが、自分は死と絶望の化身とまで言われたドラゴンの末端に身を置くものである、と言う誇りがだ。
ならば、ただで殺されるわけにはいかない。
例え結末が自らの死であろうとも、少なくとも道連れにしてやろうと思う気持ちくらいはあったのだ。
だがそれがすぐ間近に来た時に、それまで抱いていたそんな気持ちは微塵に崩れて無くなった。
ドラゴンの頭の中身を「なんだこれは」と言う言葉だけが埋め尽くしたのだ。
自分の心臓の真上ぎりぎりまで刃を突き刺されたような感触、とでも形容すればいいのだろうか。福源春
辺りを覆いつくすような濃密な魔力の気配。
その中にあって、そっと触れることすら許さないような冷たく研ぎ澄まされた刃の気配。
ドラゴンは即座に悟った。
あ、これちょっとでも抵抗した瞬間に死ぬわ、と。
生き残る術は、無条件に降伏する以外に無い。
この瞬間にドラゴンは、誇り等と言う持っていても大して役に立たない代物を全力で投げ捨てた。
その後の出来事は、蓮弥達が見たそのままのことであるのだが、ドラゴンは今思い返してもあの時のあの行動は自分が今まで生きてきた時間の中でもっとも正しく、間違いの無い選択であったと思っている。
その後、人族の眷属として契約させられ彼らを街まで乗せた後、住処に戻った彼を仲間達は信じられないものに出くわしたような目で見てこう言った。
「お前、なんで生きてるの?」
お前ら絶対、いずれ力を身に付けたら全力で殴る、と心に誓ったドラ君だった。
それはまた別のお話だとしても、あれだけの存在が今背中に乗ってぎゃーぎゃー騒いでいる、一応の主人であるところの、リアリスが持っている情報一つで右往左往する光景など、ドラ君は想像ができない。
なんだか鼻で笑われて、あっそ、の一言が待っている気がして仕方が無いのだ。
それでも主人の命令は、なるべくその意向にそった形で行動しないと頭の中にある竜魔石にあの恐ろしい魔族が刻んだ契約が、自分に何をするのか分かったものではない。
「リアリス、あまり無理を言うな。こんな高さから落ちでもしたら俺達はひとたまりも無いぞ」
赤い全身鎧にしがみついている赤毛の男がたしなめるように言った。
やせていて、いつも地味な色のローブを着ている上に、赤毛を逆立てているのでドラ君が密かに「松明」と呼んでいる魔術師だ。
知られたらどんな目に遭わされるか分かったものではなかったが。
主人であるリアリスの恋人にして、貴族の血筋であり、現在は冒険者を休業して学校の先生をやっているこの男とリアリスの関係は非常に良好であることをドラ君は知っている。
それはもう、口から滝のように蜂蜜を流しかねない程甘々な二人だ。
人族の営みになど全く興味の無いドラ君であるのだが、夜毎にリアリスからダダ漏れになっている思考の波をなんとか夜の間だけでも遮断できないものかな、と思うほどにである。
主人のプライベートな話であるので、どこへ情報を漏らすこともできないドラ君ではあるのだが、聞かれればそれこそノロケとそっち方面の話だけで一冊本が書けるくらいの分量の、二人の営みに関する情報を持っている。
あのほっそい身体のどこに、毎晩あれだけのことをする体力が詰まっているのか、人族と言うものは実に不思議な生き物なのだな、と思ったりもする。
「何考えてんの、ドラ君?」
身体を叩く手が、平手から拳になっている。
基本的にドラ君の側からリアリスの方への思考の漏れは全く無い。
これはリアリスに比べてドラ君の方が思考の操作と言うものに関して長けているからなのだが、それでも色々と考えている最中は、なんとなく余計な事を考えているみたいだな、くらいの気配は伝わってしまうらしい。
まさか正直に答えるわけにもいかないので、ドラ君はなんと答えたものか考えてから応じた。勃動力三体牛鞭
<情報、あの方にはあんまり意味ないんでは、と>
「レンヤさんはどうとでもするだろうけど、今あの人は100人の兵士と一緒なの! そっちは普通の人なのよ!」
それはレンヤは普通じゃないと言ってしまっているのではないか、とドラ君は思うが、確かにあれを普通の人と言ってしまっては、普通の定義が崩壊する気がするのでいいのかな、とも思う。
その身体にそっと触れたアズが、落ち着いた口調で話しかける。
「レンヤはあんな風だけれども、あいつとて人間だ。不意をつかれる状況、予測しない出来事と言うものは必ず存在すると思う。俺達が持っていく情報は、その可能性を幾分潰せると思うんだ。だから、急ぐ必要がある」
なるほど、そう言う話なのであれば理解できるとドラ君は頷いた。
確かにどれだけ偉大な力を持った存在でも、予期しない一撃で滅びることは稀にではあるが無い事ではない。
そういう感じで分かりやすく説明してくれればいいのにと、少し恨めしい気持ちを主人に向けるドラゴンの背中を、リアリスは手甲をはめた手を手刀の形にして、がすがす突き刺している。
もちろん、そんな攻撃がドラ君の鱗を貫通して刺さるわけもないのだが、なんだかとても怒られている気分にはなる。
ついでに何十枚かの鱗は生えたばかりのまだ弱いものなので、あまり乱暴に扱って欲しくないなとも思ってしまうドラ君である。
生え変わりの理由は、今探しているあの人が引きちぎって行ったせいなのだが。
「まだ見つからない?」
「日数からして、もう戻り足だとは思うが……なにせこの速度だ。いくら相手が100人からの集団とは言え、見逃す可能性も……」
「ドラ君! ゆっくり飛ぶ!!」
<無茶です……墜落する可能性があります……と言いますか速くとかゆっくりとかどっちなんですか>
悪い主人ではない。
無理矢理契約させられた身ではあったが、不平不満からくるストレスで胃を痛めない程度には良い主人であるとドラ君はリアリスを評価しているが、たまにあまり賢くない命令をしてくるのが玉に瑕だった。
ブレスを吐く時はなるべく殺さないように、とかはその最たるものだとドラ君はげんなりする。
ちなみに、ゆっくり飛んだからといって必ず墜落するわけではなかったのだが、とても疲れる作業なのでできればやりたくない気持ちから、ドラ君は簡単に落ちるからヤだ、と言っている。蒼蝿水
「なんかこう、匂いとかで見つけられたりしないの?」
<犬と違います……まぁ見落としている可能性は無いと思いますよ>
背中の人族は、視力で探しているらしいが、ドラ君は気配で探索をしている。
あれだけ強力な気配を放つ蓮弥の存在を、見落とすわけがないと言う自負がドラ君にはあった。
ククリカの街から瘴気の森までは街道が一本通っているだけである。
蓮弥達が何か妙な気を起こして、わざわざ整備されていない場所を、しかも街道を大きく遠回りして街へ戻ると言う意味不明な行動を選択しない限りはどこかで必ずドラ君の探索範囲に入るはずだった。
「さっさと見つけて合流したい所だな。……それでなくともドラゴンと言うのは騒ぎを起こしやすい」
それは自分のせいではない、と主張したいドラ君であったが、しても無駄なので黙っている。
実際にアズが言う通り、街道の上をそれに沿って飛ぶドラゴンの姿は、街道を行く旅人達にちょっとした騒ぎを引き起こし続けていた。
竜騎兵がククリカの街にいる、と言う情報は人族の大陸に広く流布してはいるが、今頭の上を飛んでいくドラゴンがその竜騎兵のものなのか、それとも住処から迷い出てきた野良なのかは彼らに判断が付くわけもない。
上に載っている人が見えれば、竜騎兵なのだろうとすぐ分かるかもしれないが、下からドラゴンを見上げてその背中に乗っている人を視認するのは角度的に難しいかもしれず、しかも飛行速度が速いのも見えづらい原因の一端を担っている。
<私だってさっさと住処に帰りたいです>
「だったら早く見つけなさい!」
早く帰ってアズさんといちゃいちゃしたいんですか、と思念で問いかけると、それまでガスガスと手刀をドラ君の身体に突き立てていたリアリスの動きが止まった。
背中に張り付いているアズが、一体何があったのだろうと訝しげな表情をする。
念話のパスは、ドラゴンとリアリスの間にだけある専用のパスなので、思念による会話はアズに聞かれる心配は無い。
「リアリス? どうした?」
「ひゃい!? ……な、なんでもないです!」
聞こえやすいように、背後からアズがリアリスの耳元に唇を寄せて囁くと、面白い声を上げてリアリスの身体が跳ねた。
きっと鎧に負けないくらい赤い顔を兜の中でしているんだろうな、とドラ君がにやりと笑った時、その感覚に大きな反応がようやく引っ掛かった。
<見つけました>
「よ、よし。急降下!」
<死にますって……>
それとも主人の命令なのだから、一度死ぬような目に遭ってもらった方がいいんだろうかと思うドラ君ではあったが、無意味に主従関係を悪くする必要は無いと思いなおす。
そんなことを考えているドラ君の視界に、米粒程の小さな人の集まりが見えてくる。
おそらくは蓮弥が引き連れているらしい兵士達の集まりなのだろうが、街道でドラ君とすれ違った旅人なんかはそれだけで腰を抜かしたり、全力で走り出したりしていたと言うのに、ゆっくりと街道沿いを進むその集団は、列が乱れることもなく一定の速度で街に向かって進んでいる。
あまり過剰に怯えられるのも困るが、ほとんど反応してもらえないのも、一応は強い部類に入る種族の一員としてわずかながらに哀しいものがある。
近くに住んでいるドラゴンだけでは足りずに、かなり離れたところにいるドラゴンにまで声をかけて、彼らを森へ運んだ時も、物珍しさからくる反応はあったが、恐怖とか混乱とかとはまるで無縁の兵士達だった。SEX DROPS
やっぱり指揮官がアレだと、部下もそれに染まるのかな、等と蓮弥に聞かれたら鱗の何十枚かをまた引きちぎられるようなことを考えつつ、ドラ君は一度軽く羽ばたくと、見つけたその集団の近くへゆっくりと高度を下げていくのだった。
全身を赤い色に染めたそのドラゴンは、ドラゴンと言う種族の中では中級に位置するレッドドラゴンだ。
風を切って飛ぶその姿は、人族の大陸においては絶望の象徴として知られている。
それはそのまま、このドラゴンと遭遇することが死に直結しているからだ。花痴
その恐るべき存在の背中に、通常では信じられないことに二人の人影があった。
二人の人影のうち、一人は全身をドラゴンの身体と同じ赤色に染め上げた全身鎧を身に纏っている。
その格好では、ドラゴンから降りてしまったらまともに歩くのもかなりの重労働だろうと思われるほどの重装備だ。
もう一人はその赤の全身鎧の人物の腰に手を回し、振り落とされないようにしている赤毛の若い男だ。
身につけているのは魔術師の装備としてはおなじみの、質素なローブであるが、かなりの勢いの風の中にいるはずの男のローブは思ったほどはためいてはいない。
ドラゴン自身が、背中に乗っている騎手達を護る為に防御用の壁を展開しているせいだ。
これのおかげで乗り手は風圧を気にせずにドラゴンの背中に乗ることが可能になるのだが、これが無いとドラゴンの速度で飛ばれてしまえば、乗り手は呼吸すらままならないような状況に陥ってしまう。
「ドラ君! 急いで!」
赤の全身鎧が声を上げる。
実際は声を上げる必要は無い。
乗り手とドラゴンの間には精神的なパスが通っており、頭に思うだけで意志は通じる。
しかし、乗り手側がそれに慣れていないのか、どうしても口に出してしまうらしい。
<目一杯です……>
「泣き言は聞かない! 急ぎなさい!」
べしべしと、手甲をはめた手の平でドラゴンの身体を騎手が叩く。
いくら人間の力で叩かれようがドラゴンにとってはわずかな痛痒すら感じることはないのだが、乗り手が相当焦っていることは、ドラゴンにも通じる。
そんなに焦ることだろうか、とドラゴンは首を傾げてしまう。
乗り手の持っている情報は、確かに緊急の事態と言えなくも無いとドラゴンは思ったのだが、それを伝える相手からしてみれば、大したことが無い情報と取られるような気しかしないのだ。
なにせあの人は、と考えた所でドラゴンはわずかに身震いをした。
未だに初めてあの人と出会った時の恐怖は、ドラゴンの心へ深々とした傷を残している。
目があった瞬間に、死んだと思った。
確かにものすごい大きな力が自分達の住処に近づいてきているのは感じていたし、仲間達が必死に逃げ出そうとしている気持ちも分からないでもなかった。
群れの中で、一番弱い自分が生贄として残らされたのは少しばかり哀しいことだったが。
それでもその人と出会う前は、まだドラゴンとしての誇りがあった。
どれだけ強力な存在が来ようが、群れの中で一番弱かろうが、自分は死と絶望の化身とまで言われたドラゴンの末端に身を置くものである、と言う誇りがだ。
ならば、ただで殺されるわけにはいかない。
例え結末が自らの死であろうとも、少なくとも道連れにしてやろうと思う気持ちくらいはあったのだ。
だがそれがすぐ間近に来た時に、それまで抱いていたそんな気持ちは微塵に崩れて無くなった。
ドラゴンの頭の中身を「なんだこれは」と言う言葉だけが埋め尽くしたのだ。
自分の心臓の真上ぎりぎりまで刃を突き刺されたような感触、とでも形容すればいいのだろうか。福源春
辺りを覆いつくすような濃密な魔力の気配。
その中にあって、そっと触れることすら許さないような冷たく研ぎ澄まされた刃の気配。
ドラゴンは即座に悟った。
あ、これちょっとでも抵抗した瞬間に死ぬわ、と。
生き残る術は、無条件に降伏する以外に無い。
この瞬間にドラゴンは、誇り等と言う持っていても大して役に立たない代物を全力で投げ捨てた。
その後の出来事は、蓮弥達が見たそのままのことであるのだが、ドラゴンは今思い返してもあの時のあの行動は自分が今まで生きてきた時間の中でもっとも正しく、間違いの無い選択であったと思っている。
その後、人族の眷属として契約させられ彼らを街まで乗せた後、住処に戻った彼を仲間達は信じられないものに出くわしたような目で見てこう言った。
「お前、なんで生きてるの?」
お前ら絶対、いずれ力を身に付けたら全力で殴る、と心に誓ったドラ君だった。
それはまた別のお話だとしても、あれだけの存在が今背中に乗ってぎゃーぎゃー騒いでいる、一応の主人であるところの、リアリスが持っている情報一つで右往左往する光景など、ドラ君は想像ができない。
なんだか鼻で笑われて、あっそ、の一言が待っている気がして仕方が無いのだ。
それでも主人の命令は、なるべくその意向にそった形で行動しないと頭の中にある竜魔石にあの恐ろしい魔族が刻んだ契約が、自分に何をするのか分かったものではない。
「リアリス、あまり無理を言うな。こんな高さから落ちでもしたら俺達はひとたまりも無いぞ」
赤い全身鎧にしがみついている赤毛の男がたしなめるように言った。
やせていて、いつも地味な色のローブを着ている上に、赤毛を逆立てているのでドラ君が密かに「松明」と呼んでいる魔術師だ。
知られたらどんな目に遭わされるか分かったものではなかったが。
主人であるリアリスの恋人にして、貴族の血筋であり、現在は冒険者を休業して学校の先生をやっているこの男とリアリスの関係は非常に良好であることをドラ君は知っている。
それはもう、口から滝のように蜂蜜を流しかねない程甘々な二人だ。
人族の営みになど全く興味の無いドラ君であるのだが、夜毎にリアリスからダダ漏れになっている思考の波をなんとか夜の間だけでも遮断できないものかな、と思うほどにである。
主人のプライベートな話であるので、どこへ情報を漏らすこともできないドラ君ではあるのだが、聞かれればそれこそノロケとそっち方面の話だけで一冊本が書けるくらいの分量の、二人の営みに関する情報を持っている。
あのほっそい身体のどこに、毎晩あれだけのことをする体力が詰まっているのか、人族と言うものは実に不思議な生き物なのだな、と思ったりもする。
「何考えてんの、ドラ君?」
身体を叩く手が、平手から拳になっている。
基本的にドラ君の側からリアリスの方への思考の漏れは全く無い。
これはリアリスに比べてドラ君の方が思考の操作と言うものに関して長けているからなのだが、それでも色々と考えている最中は、なんとなく余計な事を考えているみたいだな、くらいの気配は伝わってしまうらしい。
まさか正直に答えるわけにもいかないので、ドラ君はなんと答えたものか考えてから応じた。勃動力三体牛鞭
<情報、あの方にはあんまり意味ないんでは、と>
「レンヤさんはどうとでもするだろうけど、今あの人は100人の兵士と一緒なの! そっちは普通の人なのよ!」
それはレンヤは普通じゃないと言ってしまっているのではないか、とドラ君は思うが、確かにあれを普通の人と言ってしまっては、普通の定義が崩壊する気がするのでいいのかな、とも思う。
その身体にそっと触れたアズが、落ち着いた口調で話しかける。
「レンヤはあんな風だけれども、あいつとて人間だ。不意をつかれる状況、予測しない出来事と言うものは必ず存在すると思う。俺達が持っていく情報は、その可能性を幾分潰せると思うんだ。だから、急ぐ必要がある」
なるほど、そう言う話なのであれば理解できるとドラ君は頷いた。
確かにどれだけ偉大な力を持った存在でも、予期しない一撃で滅びることは稀にではあるが無い事ではない。
そういう感じで分かりやすく説明してくれればいいのにと、少し恨めしい気持ちを主人に向けるドラゴンの背中を、リアリスは手甲をはめた手を手刀の形にして、がすがす突き刺している。
もちろん、そんな攻撃がドラ君の鱗を貫通して刺さるわけもないのだが、なんだかとても怒られている気分にはなる。
ついでに何十枚かの鱗は生えたばかりのまだ弱いものなので、あまり乱暴に扱って欲しくないなとも思ってしまうドラ君である。
生え変わりの理由は、今探しているあの人が引きちぎって行ったせいなのだが。
「まだ見つからない?」
「日数からして、もう戻り足だとは思うが……なにせこの速度だ。いくら相手が100人からの集団とは言え、見逃す可能性も……」
「ドラ君! ゆっくり飛ぶ!!」
<無茶です……墜落する可能性があります……と言いますか速くとかゆっくりとかどっちなんですか>
悪い主人ではない。
無理矢理契約させられた身ではあったが、不平不満からくるストレスで胃を痛めない程度には良い主人であるとドラ君はリアリスを評価しているが、たまにあまり賢くない命令をしてくるのが玉に瑕だった。
ブレスを吐く時はなるべく殺さないように、とかはその最たるものだとドラ君はげんなりする。
ちなみに、ゆっくり飛んだからといって必ず墜落するわけではなかったのだが、とても疲れる作業なのでできればやりたくない気持ちから、ドラ君は簡単に落ちるからヤだ、と言っている。蒼蝿水
「なんかこう、匂いとかで見つけられたりしないの?」
<犬と違います……まぁ見落としている可能性は無いと思いますよ>
背中の人族は、視力で探しているらしいが、ドラ君は気配で探索をしている。
あれだけ強力な気配を放つ蓮弥の存在を、見落とすわけがないと言う自負がドラ君にはあった。
ククリカの街から瘴気の森までは街道が一本通っているだけである。
蓮弥達が何か妙な気を起こして、わざわざ整備されていない場所を、しかも街道を大きく遠回りして街へ戻ると言う意味不明な行動を選択しない限りはどこかで必ずドラ君の探索範囲に入るはずだった。
「さっさと見つけて合流したい所だな。……それでなくともドラゴンと言うのは騒ぎを起こしやすい」
それは自分のせいではない、と主張したいドラ君であったが、しても無駄なので黙っている。
実際にアズが言う通り、街道の上をそれに沿って飛ぶドラゴンの姿は、街道を行く旅人達にちょっとした騒ぎを引き起こし続けていた。
竜騎兵がククリカの街にいる、と言う情報は人族の大陸に広く流布してはいるが、今頭の上を飛んでいくドラゴンがその竜騎兵のものなのか、それとも住処から迷い出てきた野良なのかは彼らに判断が付くわけもない。
上に載っている人が見えれば、竜騎兵なのだろうとすぐ分かるかもしれないが、下からドラゴンを見上げてその背中に乗っている人を視認するのは角度的に難しいかもしれず、しかも飛行速度が速いのも見えづらい原因の一端を担っている。
<私だってさっさと住処に帰りたいです>
「だったら早く見つけなさい!」
早く帰ってアズさんといちゃいちゃしたいんですか、と思念で問いかけると、それまでガスガスと手刀をドラ君の身体に突き立てていたリアリスの動きが止まった。
背中に張り付いているアズが、一体何があったのだろうと訝しげな表情をする。
念話のパスは、ドラゴンとリアリスの間にだけある専用のパスなので、思念による会話はアズに聞かれる心配は無い。
「リアリス? どうした?」
「ひゃい!? ……な、なんでもないです!」
聞こえやすいように、背後からアズがリアリスの耳元に唇を寄せて囁くと、面白い声を上げてリアリスの身体が跳ねた。
きっと鎧に負けないくらい赤い顔を兜の中でしているんだろうな、とドラ君がにやりと笑った時、その感覚に大きな反応がようやく引っ掛かった。
<見つけました>
「よ、よし。急降下!」
<死にますって……>
それとも主人の命令なのだから、一度死ぬような目に遭ってもらった方がいいんだろうかと思うドラ君ではあったが、無意味に主従関係を悪くする必要は無いと思いなおす。
そんなことを考えているドラ君の視界に、米粒程の小さな人の集まりが見えてくる。
おそらくは蓮弥が引き連れているらしい兵士達の集まりなのだろうが、街道でドラ君とすれ違った旅人なんかはそれだけで腰を抜かしたり、全力で走り出したりしていたと言うのに、ゆっくりと街道沿いを進むその集団は、列が乱れることもなく一定の速度で街に向かって進んでいる。
あまり過剰に怯えられるのも困るが、ほとんど反応してもらえないのも、一応は強い部類に入る種族の一員としてわずかながらに哀しいものがある。
近くに住んでいるドラゴンだけでは足りずに、かなり離れたところにいるドラゴンにまで声をかけて、彼らを森へ運んだ時も、物珍しさからくる反応はあったが、恐怖とか混乱とかとはまるで無縁の兵士達だった。SEX DROPS
やっぱり指揮官がアレだと、部下もそれに染まるのかな、等と蓮弥に聞かれたら鱗の何十枚かをまた引きちぎられるようなことを考えつつ、ドラ君は一度軽く羽ばたくと、見つけたその集団の近くへゆっくりと高度を下げていくのだった。
2014年11月20日星期四
ルビドラと先行するらしい
エメドラの警告から10分程後。
ほとんどルビドラと寄り添うようにして飛んでいたエメドラから再度の警告が入る。
<やはり戦闘中だ。魔物の軍勢と龍人族。それに邪竜と我らの同胞が戦闘に入っている>巨根
「悪い予測ほど的中率が高いってジンクスはなんとかならんもんかな!」
舌打ちと共にはき捨てる蓮弥であるが、起こっているものはどうしようもない。
今更引き返すわけにもいかず、引き返せた所で行き着く先がないのだ。
「念の為尋ねるが、エメドラとルビドラの二匹が介入して、劇的に変化があったりしそうか?」
<無茶言わないでくれる!?>
<期待を裏切って申し訳ないが、一応我々もそれなりに上位種ではあるが、相手にも同じ存在がいる>
二匹の竜が乱入して、並居る敵を皆殺しにしてくれないかな等と言う甘い期待はあっさりと打ち砕かれ、蓮弥はエメドラに声をかける。
「エメドラ、俺をそちらに乗せてくれ。代わりにそっちのメンバーをこちらに移して、俺と先行しよう!」
<それはだめ!>
妙に鋭い思念で静止されて、蓮弥は口ごもりエメドラは驚いたような表情を浮かべる。
竜の顔でも驚いている表情って作れるんだな、と場違いな感想を蓮弥が抱いている中、ルビドラが蓮弥に言い募る。
<速度も攻撃力も私の方がエメドラより上だわ! 先行するなら私とにしなさい!>
<事実だが……どうするね? レンヤ>
足り無そうなのは思慮くらいか、と実に失礼なことを考えながら蓮弥は背後にいるクルツへ視線を送る。
やや怯えたような狐耳の巫女二人を落ち着かせるように撫でていたクルツは、蓮弥の視線が自分に向いているのに気が付くと、視線を合わせてきた。
「クルツ! その巫女二人とローナとシオンをエメドラの背中まで運べるか?」
「よゆーです、伯爵様」
ぐっと中指を立てて見せたクルツに、蓮弥は声を低く抑えつつ注意する。
「クルツ、立てる指が違う……」
注意してから蓮弥は気が付く。
もしかするとここは異世界なのだから、中指で間違いないのかもしれないと。
「あれ? 小指でしたっけー?」
「親指! 親指だぞクルツ!」
小指をぴんと立てて見せたクルツに慌てて訂正するシオン。
異世界と言えども、そう言った仕草は同じなのかと蓮弥は安心する。
「ちなみに、私は移る気はないからなレンヤ!」
「正直に言って、邪魔だぞ?」
「それでも、だ!」
頑として引く気のないシオンを、説得することを早々に蓮弥は諦める。
何か頭の片隅で、舌打ちのような音が聞こえた気がしたが、それも気のせいと切り捨てて、蓮弥はクルツへ指示を飛ばす。
「ならクルツ! 他のメンバーを連れてエメドラの上へ! あっちに行ったらレパードとグリューンに蓮弥が先行するから後からついて来いと伝えてくれ」狼一号
「了解です、伯爵さまー」
両脇に獣人族の巫女を抱えたクルツの背中から二条の黒いもやが溢れ出す。
見るからにまがまがしいそれの内の一本は、一瞬あっけにとられたローナの腰に絡みつき、ぐいとばかりにその体を持ち上げると、残りのもう一本がするすると伸びてエメドラの足に絡みつく。
ものすごくいやそうな顔をするエメドラには構わず、クルツはニコニコしながら蓮弥に手を振ると、その黒いもやを操作して身を宙に躍らせて軽々とエメドラの背中に着地する。
一拍遅れて、ローナがもやに絡みつかれたままこちらは着地と言うよりは落っこちるような形でエメドラの背中へと運ばれていった。
「便利だなーあれ。練習したら俺も使えるようにならないかな?」
「レンヤ。滅多なことは言わない方がいいと思うんだが……」
もやの正体はシオンには分からなかったのだが、何かあまり良くないものであることくらいは直感的になんとなく察していた。
できればそんなものに触れて欲しくないなと言う思いから出た言葉だったのだが、蓮弥にはあまり伝わらなかったらしい。
「だめかな、あれ?」
「いやまぁ。便利っぽいと言えば便利っぽいんだが、あんまり使いたいとは……」
<くだらない会話はそのくらいでいい? 急いでいるのだから、行くわよっ!>
<無理をするなよ? 確かに火力はルビドラが上だが、防御力は私に劣る。蓮弥、フォローしてやってくれ>
竜が人に竜のフォローを頼む、と言うのは常識的に考えて異常だ。
快く任せておけとも答えにくい蓮弥はあいまいな笑みを浮かべるにとどめ、ルビドラは牙をむき出してエメドラを威嚇する。
<フォローなんて必要ないわ!>
「だ、そうだが……ま、怪我しない程度に頑張るよ」
<いやお前ら、先行するからといって交戦する必要は無いんだぞ? 危険だと思ったら戻ってきていいんだからな?>
エメドラに言われた蓮弥とルビドラは一瞬、視線を交差させる。
「先行って、先行殲滅任務だろ?」
<戦闘中に突っ込んで、攻撃しないで帰るとか馬鹿なの? いっぺん死ぬ?>
<分かった、死なない程度に好きにしろ>
これ以上は言っても無駄だろうと諦めた感じがたっぷりとつまったエメドラの言葉に、気がつくことすらなく蓮弥はルビドラの背中に座りなおし、シオンが蓮弥の背中に張り付く。
<振り落とされないように、しっかり掴まってなさい!>
「おい、騎手の保護は……」
竜がどれだけ加速をしても事故が起きないのは、騎手を振り落とさないように保護しているからだ。
それなのにそんな警告をしてくるルビドラに、蓮弥が声を上げかけたが、次のルビドラの言葉がそれをさっくり遮った。
<速度にまわすから甘くなるかもねっ!>
「いいのかそんなの……でぇっ!?」
背中を蹴り飛ばされたような衝撃に蓮弥の声が上ずる。
慌ててしがみついてくるシオンを支えてやりながら、蓮弥はそれがルビドラの急激な加速によるものであることを悟って、軽くルビドラの首筋をたたく。三體牛鞭
<何?>
「ほんとに保護甘くしてるじゃないかお前っ!」
<加速9割、保護1割!>
「死ぬわ、阿呆が!」
本当にそんな力配分だったのだとすれば、ルビドラの背中にいる蓮弥もシオンもただではすまなかっただろうから、おそらくはルビドラなりの冗談ではあったのだろうが、それに近いような力配分であることは間違いないようだった。
そうでなければ竜の加速で騎手が衝撃を受けるわけがない。
少なくとも蓮弥はエメドラの背中に乗った時にそんな衝撃を受けた覚えがなかった。
<竜の翼は魔力で飛ぶのよ! 急ぐなら当然の処置でしょうが!>
竜が保持している魔力の上限は決まっている。
その振り分けで速度を上げたり防御力を高めたりするのだが、当然なんらかの要素に力を多く注ぎ込めば他の要素が弱くなるのは当たり前のことだ。
納得できる理由ではあるかもしれないが、実際に乗っている蓮弥達からしてみればたまったものではない。
「当然ってお前……」
ぼやきながら蓮弥が肩越しに背後を振り返れば、衝撃に耐えるように目を閉じて背中にしがみつくシオンの、風にわずかにだがなぶられている髪の隙間から、酷く小さくなってしまったエメドラの姿が一瞬だけ見えた。
搭乗人数が増えた為に、エメドラの速度はわずかながらに失速していることは間違いなかったのだがその姿はあっと言う間に芥子粒のようになり、すぐに視界からきえてしまう。
「どんだけ速いのお前……」
<竜族じゃ二番目だけどね>
どこかでそんな言い回しがあったような気がする蓮弥であるが、それがなんであったのかはまったく思い出せない。
<やっぱり一番速いのは風信竜の末裔ね。私は紅玉竜の末裔になるから、攻撃力なら竜族一よ>
「はぁそうなんですか、としか言えないなそれは」
<どうでもいいことだけどね。ほら、見えてきたわ>
ルビドラに言われて進行方向へ視線をやろうとして、弱いながらも襲ってきた風圧に蓮弥は目を背ける。
多少保護されていると言っても、結構な風圧が蓮弥とシオンの二人を襲っており、シオンの方は既に周囲を見ることを完全に諦めて、目を閉じたまま蓮弥に必死にしがみつくだけになっていた。
「少し速度を緩めろ! もしくは保護を強めによこせ! これじゃ前も見れないぞ」
<無茶言わないでくれる? 限られた魔力を運用してぎりぎりの所なんだからね! 根性でなんとかしなさい!>
「まさか竜族に根性論をたたきつけられることになるとは思いもしなかったが……魔力が豊富にあれば保護にまわせるのか?」
<当たり前のことを聞かないでくれる!?>
馬鹿じゃないのと言わんばかりのルビドラの、首を叩いて蓮弥は叫んだ。
「だったら魔力供給用のパスを俺に繋げ!」男宝
<人族の魔力ごときで竜族が使用する魔力をどれだけ肩代わりできるってのよ!>
「いいからさっさとしろ! さっさとしないと……お前の首を飛ばしてただの死体にしてから<操作>で操ったほうが実は安全なのかこれ?」
死体は命を持たないので一応物品扱いになり、操作の魔術の適合範囲に入る。
竜の体は元々、ある程度は飛ぶことを前提とした形になっているので、操作の魔術で勢いをつけてやればそれなりに安定して飛行する可能性があった。
ふと、妙案を思いついたとばかりに呟いた蓮弥達の下で、ルビドラが飛行速度を落とさぬままに器用にびくりと体を震わせた。
その視線が色濃く恐怖を纏わり着かせて、おそるおそると言った感じで蓮弥を振り返る。
「別にそうしてやるといってるわけじゃない。そうされたくないなら、俺へのパスを繋いでくれ」
<わ、わかったわ>
表面上は仕方なくしぶしぶといった感じで。
実際は首を飛ばされてたまるものかと、いそいそとルビドラは蓮弥へのパスを繋ぐ。
それは通常、蓮弥がフラウに対して開いている魔力供給用のパスに似た感じのものであった。
現在、蓮弥の魔力はフラウへは距離的な問題から供給されていない。
ひたすら溜まる一方の魔力を、蓮弥はこれ幸いとばかりにルビドラから繋がれたパスへと流し込み始める。
<ちょっとちょっと、何よこれ!?>
「質問は全て終わってからだ。余裕が出来たなら保護を厚くしてくれ!」
蓮弥の求めに応じて、目を開けていられないほどの風圧がぴたりと止んだ。
ごうごうと耳元でなっていた風の音も無くなる。
あまりに急激な変化に、思考の空白が発生しかけた蓮弥であるが見えるようになった進行方向の先の光景に慌てて手放しかけた意識を引き戻す。
そこは少しひらけた平原と、岩山の境目に立てられた城塞都市であった。
高い壁で囲まれた都市の上空には、かなりの数の飛行する竜らしき影が見て取れ、都市自体からは幾筋もの煙が上がっている。
防壁には遠すぎて何なのかまでは蓮弥にも分からなかったが、小さな無数の影が取り付き張り付いて上り、一部は上りきってしまっているようにも見えた。
そして、都市の周囲はしっかり真っ黒な影で包囲されてしまっている。
「攻撃されてるな……」
「しかも結構劣勢っぽいね……」
<数で負け、制空権も取られてるっぽいわね>
都市が近づいたせいなのか、少し制動をかけながら、ルビドラは素早く周囲の状況を見回す。
地上戦はほぼ、龍人族側の圧倒的劣勢と言う状態に陥っているようだった。
地上の戦力の数の差が圧倒的なのに加えて、空においても邪竜が完全に制空権を支配してしまっているせいだ。
制空権を取られた理由は、すぐにルビドラの目に飛び込んできた。
<守備につけておいた同胞が……やられてる>
年齢的にまだ若いとは言っても、それなりに血気盛んで実力のある竜をおいていたはずだった。
しかし、それらの竜は無残に引き裂かれ、焼かれて都市の一角や、平原の上に無残な屍を晒してしまっている。
やや遅れて、蓮弥もそれに気がついたがふと思いついたことは口にしないでおく。
あまりにその場においては思慮が無さ過ぎる言葉に思ったのだ。
その代わりのようにシオンが蓮弥の背中に張り付いたまま、耳元でささやく。VVK
ほとんどルビドラと寄り添うようにして飛んでいたエメドラから再度の警告が入る。
<やはり戦闘中だ。魔物の軍勢と龍人族。それに邪竜と我らの同胞が戦闘に入っている>巨根
「悪い予測ほど的中率が高いってジンクスはなんとかならんもんかな!」
舌打ちと共にはき捨てる蓮弥であるが、起こっているものはどうしようもない。
今更引き返すわけにもいかず、引き返せた所で行き着く先がないのだ。
「念の為尋ねるが、エメドラとルビドラの二匹が介入して、劇的に変化があったりしそうか?」
<無茶言わないでくれる!?>
<期待を裏切って申し訳ないが、一応我々もそれなりに上位種ではあるが、相手にも同じ存在がいる>
二匹の竜が乱入して、並居る敵を皆殺しにしてくれないかな等と言う甘い期待はあっさりと打ち砕かれ、蓮弥はエメドラに声をかける。
「エメドラ、俺をそちらに乗せてくれ。代わりにそっちのメンバーをこちらに移して、俺と先行しよう!」
<それはだめ!>
妙に鋭い思念で静止されて、蓮弥は口ごもりエメドラは驚いたような表情を浮かべる。
竜の顔でも驚いている表情って作れるんだな、と場違いな感想を蓮弥が抱いている中、ルビドラが蓮弥に言い募る。
<速度も攻撃力も私の方がエメドラより上だわ! 先行するなら私とにしなさい!>
<事実だが……どうするね? レンヤ>
足り無そうなのは思慮くらいか、と実に失礼なことを考えながら蓮弥は背後にいるクルツへ視線を送る。
やや怯えたような狐耳の巫女二人を落ち着かせるように撫でていたクルツは、蓮弥の視線が自分に向いているのに気が付くと、視線を合わせてきた。
「クルツ! その巫女二人とローナとシオンをエメドラの背中まで運べるか?」
「よゆーです、伯爵様」
ぐっと中指を立てて見せたクルツに、蓮弥は声を低く抑えつつ注意する。
「クルツ、立てる指が違う……」
注意してから蓮弥は気が付く。
もしかするとここは異世界なのだから、中指で間違いないのかもしれないと。
「あれ? 小指でしたっけー?」
「親指! 親指だぞクルツ!」
小指をぴんと立てて見せたクルツに慌てて訂正するシオン。
異世界と言えども、そう言った仕草は同じなのかと蓮弥は安心する。
「ちなみに、私は移る気はないからなレンヤ!」
「正直に言って、邪魔だぞ?」
「それでも、だ!」
頑として引く気のないシオンを、説得することを早々に蓮弥は諦める。
何か頭の片隅で、舌打ちのような音が聞こえた気がしたが、それも気のせいと切り捨てて、蓮弥はクルツへ指示を飛ばす。
「ならクルツ! 他のメンバーを連れてエメドラの上へ! あっちに行ったらレパードとグリューンに蓮弥が先行するから後からついて来いと伝えてくれ」狼一号
「了解です、伯爵さまー」
両脇に獣人族の巫女を抱えたクルツの背中から二条の黒いもやが溢れ出す。
見るからにまがまがしいそれの内の一本は、一瞬あっけにとられたローナの腰に絡みつき、ぐいとばかりにその体を持ち上げると、残りのもう一本がするすると伸びてエメドラの足に絡みつく。
ものすごくいやそうな顔をするエメドラには構わず、クルツはニコニコしながら蓮弥に手を振ると、その黒いもやを操作して身を宙に躍らせて軽々とエメドラの背中に着地する。
一拍遅れて、ローナがもやに絡みつかれたままこちらは着地と言うよりは落っこちるような形でエメドラの背中へと運ばれていった。
「便利だなーあれ。練習したら俺も使えるようにならないかな?」
「レンヤ。滅多なことは言わない方がいいと思うんだが……」
もやの正体はシオンには分からなかったのだが、何かあまり良くないものであることくらいは直感的になんとなく察していた。
できればそんなものに触れて欲しくないなと言う思いから出た言葉だったのだが、蓮弥にはあまり伝わらなかったらしい。
「だめかな、あれ?」
「いやまぁ。便利っぽいと言えば便利っぽいんだが、あんまり使いたいとは……」
<くだらない会話はそのくらいでいい? 急いでいるのだから、行くわよっ!>
<無理をするなよ? 確かに火力はルビドラが上だが、防御力は私に劣る。蓮弥、フォローしてやってくれ>
竜が人に竜のフォローを頼む、と言うのは常識的に考えて異常だ。
快く任せておけとも答えにくい蓮弥はあいまいな笑みを浮かべるにとどめ、ルビドラは牙をむき出してエメドラを威嚇する。
<フォローなんて必要ないわ!>
「だ、そうだが……ま、怪我しない程度に頑張るよ」
<いやお前ら、先行するからといって交戦する必要は無いんだぞ? 危険だと思ったら戻ってきていいんだからな?>
エメドラに言われた蓮弥とルビドラは一瞬、視線を交差させる。
「先行って、先行殲滅任務だろ?」
<戦闘中に突っ込んで、攻撃しないで帰るとか馬鹿なの? いっぺん死ぬ?>
<分かった、死なない程度に好きにしろ>
これ以上は言っても無駄だろうと諦めた感じがたっぷりとつまったエメドラの言葉に、気がつくことすらなく蓮弥はルビドラの背中に座りなおし、シオンが蓮弥の背中に張り付く。
<振り落とされないように、しっかり掴まってなさい!>
「おい、騎手の保護は……」
竜がどれだけ加速をしても事故が起きないのは、騎手を振り落とさないように保護しているからだ。
それなのにそんな警告をしてくるルビドラに、蓮弥が声を上げかけたが、次のルビドラの言葉がそれをさっくり遮った。
<速度にまわすから甘くなるかもねっ!>
「いいのかそんなの……でぇっ!?」
背中を蹴り飛ばされたような衝撃に蓮弥の声が上ずる。
慌ててしがみついてくるシオンを支えてやりながら、蓮弥はそれがルビドラの急激な加速によるものであることを悟って、軽くルビドラの首筋をたたく。三體牛鞭
<何?>
「ほんとに保護甘くしてるじゃないかお前っ!」
<加速9割、保護1割!>
「死ぬわ、阿呆が!」
本当にそんな力配分だったのだとすれば、ルビドラの背中にいる蓮弥もシオンもただではすまなかっただろうから、おそらくはルビドラなりの冗談ではあったのだろうが、それに近いような力配分であることは間違いないようだった。
そうでなければ竜の加速で騎手が衝撃を受けるわけがない。
少なくとも蓮弥はエメドラの背中に乗った時にそんな衝撃を受けた覚えがなかった。
<竜の翼は魔力で飛ぶのよ! 急ぐなら当然の処置でしょうが!>
竜が保持している魔力の上限は決まっている。
その振り分けで速度を上げたり防御力を高めたりするのだが、当然なんらかの要素に力を多く注ぎ込めば他の要素が弱くなるのは当たり前のことだ。
納得できる理由ではあるかもしれないが、実際に乗っている蓮弥達からしてみればたまったものではない。
「当然ってお前……」
ぼやきながら蓮弥が肩越しに背後を振り返れば、衝撃に耐えるように目を閉じて背中にしがみつくシオンの、風にわずかにだがなぶられている髪の隙間から、酷く小さくなってしまったエメドラの姿が一瞬だけ見えた。
搭乗人数が増えた為に、エメドラの速度はわずかながらに失速していることは間違いなかったのだがその姿はあっと言う間に芥子粒のようになり、すぐに視界からきえてしまう。
「どんだけ速いのお前……」
<竜族じゃ二番目だけどね>
どこかでそんな言い回しがあったような気がする蓮弥であるが、それがなんであったのかはまったく思い出せない。
<やっぱり一番速いのは風信竜の末裔ね。私は紅玉竜の末裔になるから、攻撃力なら竜族一よ>
「はぁそうなんですか、としか言えないなそれは」
<どうでもいいことだけどね。ほら、見えてきたわ>
ルビドラに言われて進行方向へ視線をやろうとして、弱いながらも襲ってきた風圧に蓮弥は目を背ける。
多少保護されていると言っても、結構な風圧が蓮弥とシオンの二人を襲っており、シオンの方は既に周囲を見ることを完全に諦めて、目を閉じたまま蓮弥に必死にしがみつくだけになっていた。
「少し速度を緩めろ! もしくは保護を強めによこせ! これじゃ前も見れないぞ」
<無茶言わないでくれる? 限られた魔力を運用してぎりぎりの所なんだからね! 根性でなんとかしなさい!>
「まさか竜族に根性論をたたきつけられることになるとは思いもしなかったが……魔力が豊富にあれば保護にまわせるのか?」
<当たり前のことを聞かないでくれる!?>
馬鹿じゃないのと言わんばかりのルビドラの、首を叩いて蓮弥は叫んだ。
「だったら魔力供給用のパスを俺に繋げ!」男宝
<人族の魔力ごときで竜族が使用する魔力をどれだけ肩代わりできるってのよ!>
「いいからさっさとしろ! さっさとしないと……お前の首を飛ばしてただの死体にしてから<操作>で操ったほうが実は安全なのかこれ?」
死体は命を持たないので一応物品扱いになり、操作の魔術の適合範囲に入る。
竜の体は元々、ある程度は飛ぶことを前提とした形になっているので、操作の魔術で勢いをつけてやればそれなりに安定して飛行する可能性があった。
ふと、妙案を思いついたとばかりに呟いた蓮弥達の下で、ルビドラが飛行速度を落とさぬままに器用にびくりと体を震わせた。
その視線が色濃く恐怖を纏わり着かせて、おそるおそると言った感じで蓮弥を振り返る。
「別にそうしてやるといってるわけじゃない。そうされたくないなら、俺へのパスを繋いでくれ」
<わ、わかったわ>
表面上は仕方なくしぶしぶといった感じで。
実際は首を飛ばされてたまるものかと、いそいそとルビドラは蓮弥へのパスを繋ぐ。
それは通常、蓮弥がフラウに対して開いている魔力供給用のパスに似た感じのものであった。
現在、蓮弥の魔力はフラウへは距離的な問題から供給されていない。
ひたすら溜まる一方の魔力を、蓮弥はこれ幸いとばかりにルビドラから繋がれたパスへと流し込み始める。
<ちょっとちょっと、何よこれ!?>
「質問は全て終わってからだ。余裕が出来たなら保護を厚くしてくれ!」
蓮弥の求めに応じて、目を開けていられないほどの風圧がぴたりと止んだ。
ごうごうと耳元でなっていた風の音も無くなる。
あまりに急激な変化に、思考の空白が発生しかけた蓮弥であるが見えるようになった進行方向の先の光景に慌てて手放しかけた意識を引き戻す。
そこは少しひらけた平原と、岩山の境目に立てられた城塞都市であった。
高い壁で囲まれた都市の上空には、かなりの数の飛行する竜らしき影が見て取れ、都市自体からは幾筋もの煙が上がっている。
防壁には遠すぎて何なのかまでは蓮弥にも分からなかったが、小さな無数の影が取り付き張り付いて上り、一部は上りきってしまっているようにも見えた。
そして、都市の周囲はしっかり真っ黒な影で包囲されてしまっている。
「攻撃されてるな……」
「しかも結構劣勢っぽいね……」
<数で負け、制空権も取られてるっぽいわね>
都市が近づいたせいなのか、少し制動をかけながら、ルビドラは素早く周囲の状況を見回す。
地上戦はほぼ、龍人族側の圧倒的劣勢と言う状態に陥っているようだった。
地上の戦力の数の差が圧倒的なのに加えて、空においても邪竜が完全に制空権を支配してしまっているせいだ。
制空権を取られた理由は、すぐにルビドラの目に飛び込んできた。
<守備につけておいた同胞が……やられてる>
年齢的にまだ若いとは言っても、それなりに血気盛んで実力のある竜をおいていたはずだった。
しかし、それらの竜は無残に引き裂かれ、焼かれて都市の一角や、平原の上に無残な屍を晒してしまっている。
やや遅れて、蓮弥もそれに気がついたがふと思いついたことは口にしないでおく。
あまりにその場においては思慮が無さ過ぎる言葉に思ったのだ。
その代わりのようにシオンが蓮弥の背中に張り付いたまま、耳元でささやく。VVK
2014年11月18日星期二
談笑
五月二週の闇の日。晴れ。
時刻は真昼間という頃合いだろう。
パスクムの港町は来航する船によって喧騒に包まれており、人で賑わっていた。
ついさっきまで森の中で死闘を繰り広げていたのが嘘のように平和に満ちた光景である。levitra
町の入口付近でギルドへ報告に戻った二人の冒険者が心配そうな顔で待っており、俺達に同行する女性の姿を見ると破顔して走り寄ってきた。
感動の再会ってやつだ。
が、抱きしめ合うのかと思いきや、身体が密着する寸前でリバーブローが放たれる。
「あんた達、よくも私を置いてってくれたわねっ。覚悟はできてんの?」
「ん、んなこと言っても、知らねえうちにお前いなくなってんだ――モベラァッ!」
「俺らだって必死だったんだ――ゼップリャッ!」
……照れ隠し? だろうコミュニケーションを温かい目で見守りながら、俺達はパスクムへと入る。
別れの挨拶を述べると、三人とも深く頭を下げていた。……なんだかんだで仲が良いのだろう。
さて、先程ア―ノルドさんには予定通り剣術スキルを返還したが、怪我は依然として治りきっていない。
宿の一室を借りて横になってもらい、治癒術師を手配することになった。
俺は世話になったことがないが、魔法で傷を癒すことを商売としている者がいるらしい。どのような魔法スキルを所持しているのか興味が尽きないところだ。
ニギニギと掌が反射的に動く。
「それでは僕はギルドに報告へ行くことにします。よければセイジさんにはご一緒してほしいのですが」
「ぇ、あ、はい」
リムはといえば既に目を覚まし、身体も無事に動くようで何よりだが、アーノルドさんの傍に付いていたいそうだ。
結局、ギルドに行くのは俺とベイスさんの二人となったのだった。
――冒険者ギルドに入ると、港町を包む喧騒とはまた異なる雰囲気が漂っていた。
ザワザワ、といった表現がふさわしいかもしれない。
そんな中、ベイスさんは受付に進んで男性職員に声を掛ける。
「失礼、僕はメルベイルのギルド職員のベイスといいます。ブラッドオーガがパスクム街道付近に出没したという情報は伝わっていますか?」
「はい。パスクム警備隊にも連絡を取り、ランクB以上の冒険者に緊急依頼を出そうとしています。何か新たな情報でもありますでしょうか?」
どうやら、ブラッドオーガがパスクム街道近くに出没するというのはかなり異例の事態だったようだ。大森林を抜けたずっと先にあるカラム荒野に生息するとされるブラッドオーガであるが、稀に番いで住処を移動することがあるらしい。
迷惑極まりない新居への引っ越しは控えてほしいものだが、新天地にやって来ていきなり死ぬことになるとは……南無。
……とりあえず、ベイスさんと職員が話す内容を聞いて俺が理解を深めたのはそんなところだ。
「――それでは、本当にブラッドオーガは討伐されたのですね」
「ええ、セイジさん……オーガの角を出してもらえますか?」
ああ、それで俺を一緒に連れてきたのか。Motivator
この角は素材としても、討伐証明部位としても使えるんだろう。
革袋に入れていた大きな角を二本、カウンターの上に取り置いた。
「一本は変色しているようですが……これは確かにブラッドオーガの角ですね。失礼かと思いますが……」
やや言葉を濁すようにこちらを窺う男性職員さんに、ベイスさんが笑顔で応える。
「それらは間違いなく、報告にあったブラッドオーガの角です。ギルド職員として責任を持って保証しますよ」
「分かりました。それでは、報酬をお支払い致します」
例によって、依頼を受けて倒したわけではないために報酬などは貰えないと思っていた。
しかも、本来はまだ受けることの出来ない高ランク依頼だ。
まあ、依頼を受託する際のランク制限ってのは、そもそもギルド側が確かな力量を持った冒険者に受託してほしいという意向から設定されたものなので、実際に倒しちゃった後なら問題はないのかもしれない。
ギルドカードを提示して確認を受ける。
「ランク……E+……!?」
……問題あったようだ。
「み、皆で力を合わせて倒したんですよ?」
「そう……いうこともあり得ますね、確かに」
やや訝しむような顔をされたが、きちんと討伐したことを証明できている冒険者にこれ以上の詮索はしないようである。
俺の見た目がアーノルドさんみたいな感じだったら、対応も違ったんだろうかね。
依頼者はパスクム警備隊。
報酬はブラッドオーガ一匹につき金貨一枚――合計で20000ダラだ。
かなりの高額である。
ベイスさんはいらないそうなので、後で獣人親子と半分ずつ分けることにしよう。
「ブラッドオーガの角はギルドで買取も行っています。よろしければそちらの素材買取カウンターにお持ちください」
これにて、俺の役目は終了である。
素材買取カウンターに向かう俺の後ろで、まだベイスさんと職員は何かを相談していた。
どうやら、番いの二匹以外にブラッドオーガがいる可能性は極めて低いだの、それでも街道付近の森を一度探索して安全を確保する必要があるだの、警備隊と協力してパスクム街道を通る人に注意喚起するだの……色々と大変そうだ。
「すいません。この角っていくらで買い取ってもらえますか?」
「先程報告されていたブラッドオーガの角ですね。状態も……問題ないようなので、一つ15000ダラで買取させていただきます。あら……でもこちらの角は色合いが……」
しばし黒い角の方を調べていた職員のお姉さんは、俺の方を見やる。
「こちらの黒い角は……通常のブラッドオーガの物と比べて硬度が高いようです。20000ダラでいかがでしょう」
うーむ。高額ではあるけど、あんだけ苦労したのに5000ダラしか値段に差がないとは。SPANISCHE FLIEGE
「……あの、ブラッドオーガの角ってどんな用途があるんです?」
「こちらは主に鍛冶を営む方がご購入されますね。なんでも、熱することで金属に似た性質が得られるとかで、武器や防具にも利用されるようです」
なるほど……ね。
なら黒角はここで売らずに取っておこう。
メルベイルに帰ったら、試しに持って行きたい場所がある。
とりあえず今は通常の赤い角だけを売却することにしておくか。
その後、俺とベイスさんは商館へと足を向けた。
バトさんに事の顛末を伝えるためである。
商館で顔を合わせたバトさんは、やはり俺達の行動を咎める気はないようだった。
将来有望な冒険者と今後とも仲良くしておくことの方が、余程有益だと笑っていたぐらいだ。
俺は一言だけ謝罪の言葉を述べ、今後の予定を話し合うことにする。
ベイスさん曰く、念のために今日一杯をかけて街道付近の森が探索されるらしく、出発は明日にすべきだろうとのことだ。
バトさんもそれに同意してくれた。
――宿に戻り、アーノルドさんの容体を確認するために部屋の扉を開ける。
ちょうど治癒術師による治療がなされている最中だったらしく、俺は壁際にもたれかかって邪魔しないように心掛けた。
脚の怪我は既に治療済みなようで、今は折れた右腕を治療中である。
治癒術師の掌が柔らかな光に包まれ、折れた箇所を照らしている。
ふむふむ……《光魔法Lv2》か。魔法についてはまだほとんど知識はないけども、こんなことも出来るんだな。
今後の予定としては……剣術Lvが2に戻ったので、これをLv3まで上げておきたい。そうすればある程度の厄介事からは身を守れることだろう。
そして、今の身体能力だとLv3が丁度良いぐらいだ。
Lv4以上の技術を満足に使いこなすには、やはり身体能力強化のスキルも並行して上げる必要があると思われる。
どこかにバルみたいな魔物(※バルは人間)が生息していないだろうか。
これもメルベイルに戻ったら探してみたい。
そして、何といっても、ここは剣と魔法の世界――イーリスなのだ。
剣ばかりというのも、面白くない。
今、まさに、目の前で行使されているような魔法も扱って世界を掌握……んんっ、ゆるりと世界を旅したいもんだよね。
魔法についても、今後スキルを習得(強奪)していきたい。
俺がそんなことをつらつらと考えていると、どうやら治療も終わったようだ。
折れていたはずの腕を問題なさそうに動かすアーノルドさん。
魔法どんだけ~
と心の中で叫んだが、生命力強化のスキルで自動回復する俺に言われたくはないだろうな。
リムが治癒術師に礼を言って財布から少なくない支払いを済ませた。
財布の中身が寂しい状態になってしまったのか、やや不安そうな表情を浮かべる。
俺はそのタイミングを逃さず、財布袋から金貨を一枚取り出して握り拳を縦にした状態の親指の上にセットした。SPANISCHE FLIEGE D9
「リム。ブラッドオーガを倒した報酬が出たから半分渡しておく」
それだけ言って、親指で弾く。
一度……こんな渡し方をしてみたかった。それだけだったんだ。
弾いた金貨は見当外れの方角へ飛んで行き、虚しい音が床に木霊した。
今、俺の顔はブラッドオーガと対峙した時以上に赤く染まっているんじゃないだろうか。
無言で転がっている金貨を拾い上げ、リムへと手渡す。
「あの、ありがとう。父さんと……あたしも助けてくれて」
……ん? 狂化していた時の記憶ってあるんだろうか?
「ブラッドオーガに向かってった時のこと、覚えてるのか?」
「うん、ボンヤリだけど」
「そっか。俺、リムに殴られそうになったもんな~、あれは怖かったわ~」
リムの白い肌が上気して赤く染まる。耳はしおれるようにペタンと横になり、尻尾は床に擦れそうなほど高度を下げていく。
……ちょっと悪フザケが過ぎただろうか。
「あの時は……なんでか頭が真っ白になって……それで……」
ああ、自分で狂化のことを自覚してるわけじゃないんだよな。
俺は、しおれたリムの猫耳を撫でるように手をポスンと頭にのせて、ワシワシと動かす。
「まあ、いいんじゃないか。リムがあそこで時間を稼いでくれたからこそ準備が……俺の心の準備が整ったんだからな。皆無事だったんだから、万事OKということで」
瞳に輝きを取り戻したリムが、嬉しそうな顔をこちらに向けた。
綺麗な黄金色の瞳がおさまっている目は、最初に出会った頃に比べて随分と柔らかな暖かみを宿しているように思える。
俺は、この少女に対して何か手助けすることが出来ただろうか。
できることなら、少女が辛い過去を背負う前の笑顔を見てみたいと思ったのかもしれない。
だからこそ、こんな言葉が漏れたのか……いや、他愛もない仮定の話だけどさ。
「俺がアーノルドさんみたいに危険な状態になったら、リムは同じように暴れてくれたかな?」
「えと……それってどういう意味なの?」
「さて、どういう意味でしょう」
まだ、無理だろうな。
「さてっ、話はここで終わりっと。出発は明日の朝に決定したので、それまではゆっくりと各自過ごすようにとの、バト司令官のお達しです」
冗談っぽく皆に連絡事項を伝え、港町を見学でもするかと扉に向き直ろうとした。
すると、リムは自分の頭の上に置かれていた俺の手を掴み取り、ジッと見つめる。
その後、何か真剣な目つきで俺に視線を送ってきた。
ゃ、え? なんか照れるんですが。
「セイジって……なんだか……」
「お母さんみたい」
「――いや、お母さんじゃねーし」
静かにその場を見守っていたアーノルドさんは、そこで大きく笑い声を上げたのだった。SPANISCHE FLIEGE D6
時刻は真昼間という頃合いだろう。
パスクムの港町は来航する船によって喧騒に包まれており、人で賑わっていた。
ついさっきまで森の中で死闘を繰り広げていたのが嘘のように平和に満ちた光景である。levitra
町の入口付近でギルドへ報告に戻った二人の冒険者が心配そうな顔で待っており、俺達に同行する女性の姿を見ると破顔して走り寄ってきた。
感動の再会ってやつだ。
が、抱きしめ合うのかと思いきや、身体が密着する寸前でリバーブローが放たれる。
「あんた達、よくも私を置いてってくれたわねっ。覚悟はできてんの?」
「ん、んなこと言っても、知らねえうちにお前いなくなってんだ――モベラァッ!」
「俺らだって必死だったんだ――ゼップリャッ!」
……照れ隠し? だろうコミュニケーションを温かい目で見守りながら、俺達はパスクムへと入る。
別れの挨拶を述べると、三人とも深く頭を下げていた。……なんだかんだで仲が良いのだろう。
さて、先程ア―ノルドさんには予定通り剣術スキルを返還したが、怪我は依然として治りきっていない。
宿の一室を借りて横になってもらい、治癒術師を手配することになった。
俺は世話になったことがないが、魔法で傷を癒すことを商売としている者がいるらしい。どのような魔法スキルを所持しているのか興味が尽きないところだ。
ニギニギと掌が反射的に動く。
「それでは僕はギルドに報告へ行くことにします。よければセイジさんにはご一緒してほしいのですが」
「ぇ、あ、はい」
リムはといえば既に目を覚まし、身体も無事に動くようで何よりだが、アーノルドさんの傍に付いていたいそうだ。
結局、ギルドに行くのは俺とベイスさんの二人となったのだった。
――冒険者ギルドに入ると、港町を包む喧騒とはまた異なる雰囲気が漂っていた。
ザワザワ、といった表現がふさわしいかもしれない。
そんな中、ベイスさんは受付に進んで男性職員に声を掛ける。
「失礼、僕はメルベイルのギルド職員のベイスといいます。ブラッドオーガがパスクム街道付近に出没したという情報は伝わっていますか?」
「はい。パスクム警備隊にも連絡を取り、ランクB以上の冒険者に緊急依頼を出そうとしています。何か新たな情報でもありますでしょうか?」
どうやら、ブラッドオーガがパスクム街道近くに出没するというのはかなり異例の事態だったようだ。大森林を抜けたずっと先にあるカラム荒野に生息するとされるブラッドオーガであるが、稀に番いで住処を移動することがあるらしい。
迷惑極まりない新居への引っ越しは控えてほしいものだが、新天地にやって来ていきなり死ぬことになるとは……南無。
……とりあえず、ベイスさんと職員が話す内容を聞いて俺が理解を深めたのはそんなところだ。
「――それでは、本当にブラッドオーガは討伐されたのですね」
「ええ、セイジさん……オーガの角を出してもらえますか?」
ああ、それで俺を一緒に連れてきたのか。Motivator
この角は素材としても、討伐証明部位としても使えるんだろう。
革袋に入れていた大きな角を二本、カウンターの上に取り置いた。
「一本は変色しているようですが……これは確かにブラッドオーガの角ですね。失礼かと思いますが……」
やや言葉を濁すようにこちらを窺う男性職員さんに、ベイスさんが笑顔で応える。
「それらは間違いなく、報告にあったブラッドオーガの角です。ギルド職員として責任を持って保証しますよ」
「分かりました。それでは、報酬をお支払い致します」
例によって、依頼を受けて倒したわけではないために報酬などは貰えないと思っていた。
しかも、本来はまだ受けることの出来ない高ランク依頼だ。
まあ、依頼を受託する際のランク制限ってのは、そもそもギルド側が確かな力量を持った冒険者に受託してほしいという意向から設定されたものなので、実際に倒しちゃった後なら問題はないのかもしれない。
ギルドカードを提示して確認を受ける。
「ランク……E+……!?」
……問題あったようだ。
「み、皆で力を合わせて倒したんですよ?」
「そう……いうこともあり得ますね、確かに」
やや訝しむような顔をされたが、きちんと討伐したことを証明できている冒険者にこれ以上の詮索はしないようである。
俺の見た目がアーノルドさんみたいな感じだったら、対応も違ったんだろうかね。
依頼者はパスクム警備隊。
報酬はブラッドオーガ一匹につき金貨一枚――合計で20000ダラだ。
かなりの高額である。
ベイスさんはいらないそうなので、後で獣人親子と半分ずつ分けることにしよう。
「ブラッドオーガの角はギルドで買取も行っています。よろしければそちらの素材買取カウンターにお持ちください」
これにて、俺の役目は終了である。
素材買取カウンターに向かう俺の後ろで、まだベイスさんと職員は何かを相談していた。
どうやら、番いの二匹以外にブラッドオーガがいる可能性は極めて低いだの、それでも街道付近の森を一度探索して安全を確保する必要があるだの、警備隊と協力してパスクム街道を通る人に注意喚起するだの……色々と大変そうだ。
「すいません。この角っていくらで買い取ってもらえますか?」
「先程報告されていたブラッドオーガの角ですね。状態も……問題ないようなので、一つ15000ダラで買取させていただきます。あら……でもこちらの角は色合いが……」
しばし黒い角の方を調べていた職員のお姉さんは、俺の方を見やる。
「こちらの黒い角は……通常のブラッドオーガの物と比べて硬度が高いようです。20000ダラでいかがでしょう」
うーむ。高額ではあるけど、あんだけ苦労したのに5000ダラしか値段に差がないとは。SPANISCHE FLIEGE
「……あの、ブラッドオーガの角ってどんな用途があるんです?」
「こちらは主に鍛冶を営む方がご購入されますね。なんでも、熱することで金属に似た性質が得られるとかで、武器や防具にも利用されるようです」
なるほど……ね。
なら黒角はここで売らずに取っておこう。
メルベイルに帰ったら、試しに持って行きたい場所がある。
とりあえず今は通常の赤い角だけを売却することにしておくか。
その後、俺とベイスさんは商館へと足を向けた。
バトさんに事の顛末を伝えるためである。
商館で顔を合わせたバトさんは、やはり俺達の行動を咎める気はないようだった。
将来有望な冒険者と今後とも仲良くしておくことの方が、余程有益だと笑っていたぐらいだ。
俺は一言だけ謝罪の言葉を述べ、今後の予定を話し合うことにする。
ベイスさん曰く、念のために今日一杯をかけて街道付近の森が探索されるらしく、出発は明日にすべきだろうとのことだ。
バトさんもそれに同意してくれた。
――宿に戻り、アーノルドさんの容体を確認するために部屋の扉を開ける。
ちょうど治癒術師による治療がなされている最中だったらしく、俺は壁際にもたれかかって邪魔しないように心掛けた。
脚の怪我は既に治療済みなようで、今は折れた右腕を治療中である。
治癒術師の掌が柔らかな光に包まれ、折れた箇所を照らしている。
ふむふむ……《光魔法Lv2》か。魔法についてはまだほとんど知識はないけども、こんなことも出来るんだな。
今後の予定としては……剣術Lvが2に戻ったので、これをLv3まで上げておきたい。そうすればある程度の厄介事からは身を守れることだろう。
そして、今の身体能力だとLv3が丁度良いぐらいだ。
Lv4以上の技術を満足に使いこなすには、やはり身体能力強化のスキルも並行して上げる必要があると思われる。
どこかにバルみたいな魔物(※バルは人間)が生息していないだろうか。
これもメルベイルに戻ったら探してみたい。
そして、何といっても、ここは剣と魔法の世界――イーリスなのだ。
剣ばかりというのも、面白くない。
今、まさに、目の前で行使されているような魔法も扱って世界を掌握……んんっ、ゆるりと世界を旅したいもんだよね。
魔法についても、今後スキルを習得(強奪)していきたい。
俺がそんなことをつらつらと考えていると、どうやら治療も終わったようだ。
折れていたはずの腕を問題なさそうに動かすアーノルドさん。
魔法どんだけ~
と心の中で叫んだが、生命力強化のスキルで自動回復する俺に言われたくはないだろうな。
リムが治癒術師に礼を言って財布から少なくない支払いを済ませた。
財布の中身が寂しい状態になってしまったのか、やや不安そうな表情を浮かべる。
俺はそのタイミングを逃さず、財布袋から金貨を一枚取り出して握り拳を縦にした状態の親指の上にセットした。SPANISCHE FLIEGE D9
「リム。ブラッドオーガを倒した報酬が出たから半分渡しておく」
それだけ言って、親指で弾く。
一度……こんな渡し方をしてみたかった。それだけだったんだ。
弾いた金貨は見当外れの方角へ飛んで行き、虚しい音が床に木霊した。
今、俺の顔はブラッドオーガと対峙した時以上に赤く染まっているんじゃないだろうか。
無言で転がっている金貨を拾い上げ、リムへと手渡す。
「あの、ありがとう。父さんと……あたしも助けてくれて」
……ん? 狂化していた時の記憶ってあるんだろうか?
「ブラッドオーガに向かってった時のこと、覚えてるのか?」
「うん、ボンヤリだけど」
「そっか。俺、リムに殴られそうになったもんな~、あれは怖かったわ~」
リムの白い肌が上気して赤く染まる。耳はしおれるようにペタンと横になり、尻尾は床に擦れそうなほど高度を下げていく。
……ちょっと悪フザケが過ぎただろうか。
「あの時は……なんでか頭が真っ白になって……それで……」
ああ、自分で狂化のことを自覚してるわけじゃないんだよな。
俺は、しおれたリムの猫耳を撫でるように手をポスンと頭にのせて、ワシワシと動かす。
「まあ、いいんじゃないか。リムがあそこで時間を稼いでくれたからこそ準備が……俺の心の準備が整ったんだからな。皆無事だったんだから、万事OKということで」
瞳に輝きを取り戻したリムが、嬉しそうな顔をこちらに向けた。
綺麗な黄金色の瞳がおさまっている目は、最初に出会った頃に比べて随分と柔らかな暖かみを宿しているように思える。
俺は、この少女に対して何か手助けすることが出来ただろうか。
できることなら、少女が辛い過去を背負う前の笑顔を見てみたいと思ったのかもしれない。
だからこそ、こんな言葉が漏れたのか……いや、他愛もない仮定の話だけどさ。
「俺がアーノルドさんみたいに危険な状態になったら、リムは同じように暴れてくれたかな?」
「えと……それってどういう意味なの?」
「さて、どういう意味でしょう」
まだ、無理だろうな。
「さてっ、話はここで終わりっと。出発は明日の朝に決定したので、それまではゆっくりと各自過ごすようにとの、バト司令官のお達しです」
冗談っぽく皆に連絡事項を伝え、港町を見学でもするかと扉に向き直ろうとした。
すると、リムは自分の頭の上に置かれていた俺の手を掴み取り、ジッと見つめる。
その後、何か真剣な目つきで俺に視線を送ってきた。
ゃ、え? なんか照れるんですが。
「セイジって……なんだか……」
「お母さんみたい」
「――いや、お母さんじゃねーし」
静かにその場を見守っていたアーノルドさんは、そこで大きく笑い声を上げたのだった。SPANISCHE FLIEGE D6
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