2014年11月28日星期五

教育開始らしい

初撃に剣を投げつけられて床に倒れたまま気絶していた生徒の姿が掻き消える。
 結界の保護機能で外に弾き出されたらしい。
 それが指し示す意味は、蓮弥の一撃は即死ダメージをその生徒に与えていたと言うことだ。花痴
 いかに刃が潰されていようが、全力で投げつけられた鉄の塊を側頭部に、なんの構えもない所に打ち込まれては、当然と言えば当然の結果と言える。
 投げつけた本人からすれば、あ、なんか即死したっぽい? 程度のものであったのだが、周囲の生徒達の雰囲気は険悪なものへと変わっていく。
 いきなり現れて、いきなり一人殺したようなものなのだから、仕方がないと言えば仕方のないことなのだが、蓮弥がそれを気にした様子は全くない。

 「証明してみせろ、か。下賎な冒険者の、さらに下級のクラスの者が口にしていい言葉ではないな」

 剣を抜き放ち、蓮弥と相対するオーランは15歳と言う年齢にしてはかなり背丈も高く、がっちりとした体型で、いかにも力重視の戦士といった感じを漂わせている。
 一応18歳設定のはずの蓮弥と向かい合っても、全く引けを取っていない。

 「前言を撤回し、謝罪をするならば受け入れなくもないぞ、冒険者」

 オーランが何か言っているが、言葉は蓮弥の耳を素通りしている。
 どうせどうでもいい事を口にしているんだろうと、蓮弥は相手の観察を続けた。
 オーランは腕の太さもかなりなもので、蓮弥はそっと自分の腕を見てから、筋肉の量だけなら圧倒的に自分が負けていることを悟って苦笑する。
 さらに、ちらっとリアリスの方へ目を向ければ、リアリス自身は華奢と言う程でもないが細くしなやかな体型をしており、タイプで言うならばおそらくは速度重視の軽戦士タイプだ。
 それだけの情報で、蓮弥はリアリスがオーランに負けた理由を悟る。

 「相手に戦い方を合わせてもらって、勝てたからといってどれだけの意味があるのかね?」

 「なんだと?」

 「ああ、独り言だよ。聞こえても気にするな」

 面倒くさそうにぱたぱたと手を振って、蓮弥はもう一人の問題児に目をやる。
 その問題児は、蓮弥の声が聞こえたのか、やはりこちらも取り巻きを引き連れながらオーランの隣まで歩いてくると、腰に手を当てて言い放った。

 「まぐれ勝ちとは聞き捨てならないわね。その侮辱、今すぐ地面に平伏して許しを請うのであれば、大目に見ないでもないけど、どうするの?」

 ものすごい高みから見下ろした台詞を吐いたのは、金髪縦ロールのナタリアだ。
 軽く胸を反らし、蔑みまくった視線で蓮弥を見ているが、迫力という点においては猫の威嚇にも劣る、とは蓮弥の感想だ。
 ついでに反らした胸は非常に、悲しくなる程に薄い。
 リアリスも体型的に薄い方だが、きちんとあるのがわかるくらいにはある。
 ボリュームとしては圧倒的な大敗を喫しているなと蓮弥は笑ったが、その笑みの意味が分からずにナタリアは怪訝そうな顔になる。
 それにしてもと、蓮弥は首を傾げる。
 力重視のオーランと違って、ナタリアはおそらくリアリスと同じ速度重視型のはずだ。
 それで勝てたと言うことは、こちらは一応技量的にリアリスに匹敵、あるいはそれに勝ると言うことなのだろうか、と。
 その疑問に対する答えは、離れた所にいるフラウからもたらされた。

 『マスター、聞こえますかー?』

 「うん?」

 思わず声に出してしまった蓮弥だが、フラウの声は耳元と言うよりは頭の中で聞こえた。

 『声に出さなくても大丈夫なの。これは念話なの。フラウはマスターに憑いてる状態だから思念で会話ができるの』福源春

 『流石妖精。高スペックだな』

 『もっと褒めてもいいの。アズさんが言うには、その金髪縦ロールさんは、マッチョさんの後に連戦でリアリスさんと戦ったらしいの。たぶんマスターがその辺りを疑問に思ってるだろうから伝えてくれってアズさんが言ってるの』

 『そうか、なるほど。ありがとうな』

 『お安い御用なの』

 安全保護の為の結界には、蓮弥が思うに欠陥がある。
 致命傷を受けた場合、死なない程度までダメージを軽減する、と言うのがそれだ。
 これは逆に言うと、致命傷でない限りはそのダメージは残留すると言い換えることができる。
 普通ならば、戦闘訓練後に治癒の法術でもって治療を行うのだろうが、連戦したと言うことは、リアリスはオーランと戦った後にそのままの状態でナタリアと戦ったと言うこと。
 これはつまり、オーラン戦で受けたダメージを引きずったままナタリアとの戦いを行ったと言うことだ。
 加減を知らない脳筋戦士が与えたダメージが、リアリスの速度を殺していたのだろうと言うことを予想することは難しくない。

 「なんだ。結局は手加減された阿呆と、ハンデ戦を仕掛けた馬鹿がイキがってるだけか」

 少しでも警戒してた自分が馬鹿みたいじゃないかと額に手を当て、頭を振りつつため息をつく蓮弥。
 その仕草が、自分達を馬鹿にしているように見えたのか、ナタリアも腰の剣を抜き放ち、蓮弥を睨みつけつつ叫んだ。

 「下郎! 態度を改める気がないのであれば、このナタリア=ファタールが身の程と言うものを教えて差し上げますわよ!」

 「是非、ご教授願いたいね」

 剣を肩に担いだまま、さして気負った様子も無く、蓮弥は即答した。

 「前振り、能書きはもういいから。ちゃっちゃとかかってこい。お前らの理屈で言うなら、勝った方がなんだか知らんが偉いんだろ?」

 ぎりっと歯を噛み締めるオーランとナタリアを、つまらないものを見るかのように見ながら、蓮弥は再び手招きをした。

 「タイマンなんてケチな事は言わないよ。取り巻きともどもまとめてかかってこい」

 「その大口、後悔することになるぞ」

 「施術院送りにして差し上げますわ!」

 流石は異世界。
 病院送りではなくて、法術で治療してもらうから施術院送りなのか、と妙な所に感心した蓮弥めがけてオーランとナタリア両名とその取り巻き達がそれぞれ武器を振りかざしながら殺到した。
 クラスの半数以上が一斉に攻撃をしかけたのを見て、リアリスが制止の声を上げかけたが、すぐにアズとフラウがリアリスの身体を引き止めて、静観するように促している。
 その場から動こうとはしない蓮弥に最初に攻撃をしかけたのは、やはり速度重視のナタリアだ。
 突進しつつ胸を狙って放たれた突きを、身体を右半身に捻るだけでかわした蓮弥はすれ違いざまにナタリアの肩を左手で押しやって自分の背後へと突き飛ばす。
 続いて大上段から振り下ろされたオーランの斬撃を、今度は左半身にかわして、こちらは担いでいた剣で腰の辺りを軽く打ってやはり自分の背後へと抜けさせる。
 ここで初めて蓮弥は前に出る。
 取り巻き達が繰り出す攻撃を、剣を打ち合わせることも無くすり抜けた先には、魔術の詠唱中である男女の生徒が一人ずつ、あっと言う間に二桁に上る攻撃をすり抜けてきた蓮弥を呆然と見つめている所へと出た。

 「魔術師を最初に潰すのは定石だよな」

 薙ぎ払った一撃が、女子生徒の腰を捕らえてその身体を吹き飛ばす。勃動力三体牛鞭
 返す刃が男子生徒の肩口に叩き込まれて、こちらは地面に叩きつけられるように倒れた。
 吹き飛ばされた女子生徒はそのまま、床の上をごろごろと思う存分転がりまくった後、回転が止まると同時に姿が消えた。
 叩き伏せられた男子生徒は、肩をおさえながら立ち上がろうとして、自分の目の前に迫り来る、靴底を見て顔を引き攣らせる。

 「あ…・・・やめ……」

 何事か言いかけた男子生徒だったが、蓮弥は構わずにそのまま踏む。
 足の裏に色々と愉快な感触が伝わってくるが、お構い無しに踏む。
 なんとか身体をかばおうとした腕も踏む。
 這いずって逃げようとした背中を踏み、後頭部を蹴り飛ばしてからさらに踏む。
 徹底的に踏む。
 やがて動かなくなった男子生徒の姿が消えたのを確認してから、ゆらりと蓮弥は振り向いた。
 その視線の先には、目の前で突然繰り広げられた惨劇に、動けないままでいる取り巻き達と、呆然と蓮弥を見つめているオーランとナタリアの姿がある。

 『フラウ。リアリス先生の対応はアズに任せて。闘技場の逃げ道、塞いでおいてくれるかな?』

 『任せるの♪』

 何故かウキウキとした思念が返ってきた。
 染まるのが早すぎるんじゃないかな、と思いつつ、なんだか悲鳴のような掛け声と共に振り下ろされた剣を無造作に払う。
 切り込んできたのは女子生徒だ。
 剣を払われて泳ぐ身体の鳩尾へ膝を入れ、胃液を吐きながら身体を折った所へ追撃に後頭部へ肘を落として、倒れた所を一度踏んでから、脇腹へ爪先を蹴りいれる。
 吐いた胃液に赤いものが混じったが、少女の身体は消えない。
 致死ダメージには足りなかったらしいと笑う蓮弥はきっちりもう一発後頭部に踵を落として少女の姿を消す。

 「アズ君!? あの人最初から殺す気まんまんじゃないのっ!?」

 「いや、リアリス先生。死なないのは分かってますから」

 なにか悲鳴のようなものと、それを宥める声が聞こえたが、聞こえないフリをして無視。
 瞬く間に三人を消されて、生徒達は腰が引けてしまっている。
 それを見て、蓮弥はつまらなそうに鼻を鳴らした。
 これならば、開拓村で襲ってきたゴブリン達の方がまだ戦い甲斐がある。
 怯えた目で蓮弥を見るだけの男子生徒の襟首を掴んで引き寄せる。
 何事か口を開く前に、眉間に頭突きを数度入れ、手を放してやると膝から崩れ落ちたので、一発股間を蹴り上げてやると、泡を吹いてのたうちまわった。
 これは消さない方がいいか、と放置して、蓮弥はまだ動こうとしないオーランとナタリアへ笑顔をむける。

 「おい、そこのボス猿二匹。そんな所でぼーっと突っ立ってると、仲間がいなくなるぞ?」

 斬りかかってこない二人を挑発してみた蓮弥だったが、ナタリアは顔を青ざめさせたまま、剣を持つ手が震えており、とても戦えるような状態ではない。
 オーランは一つ舌打ちをし、剣を両手で構えると、気合の声をあげつつ蓮弥へ斬りかかってきた。
 なんとかの一つ覚えのように、また振り下ろされる一撃を、蓮弥は右手だけで握っている長剣を下からの掬い上げるような斬撃で迎え撃った。蒼蝿水
 振り下ろし対掬い上げで、両腕対片腕と言う、どちらが有利なのか一目瞭然な剣撃の勝敗は、蓮弥に軍配があがる。
 衝撃に負けて手から剣がすっぽぬけてしまったオーランを、険しい目で見つめた蓮弥は、振り上げた状態になっている剣の柄頭で、オーランの額を強打した。

 「ぐあっ!?」

 痛みに額を押さえてのけぞるオーランの腹部に、蓮弥の前蹴りが突き刺さる。
 たまらず尻餅をついたオーランめがけて、蓮弥の怒鳴り声が飛んだ。

 「剣士が戦いの最中に剣を手放すとは、ふざけてんのかっ!? 拾って来い! 犬のようにな!」

 怒鳴られて、よたよたと立ち上がったオーランに、容赦ない蓮弥の蹴りが飛ぶ。

 「犬が二本足で立つか! 四つん這いでいけっ!」

 まだ立とうとしていたオーランを容赦なく蹴りつけ、踏みにじり、ようやく四つん這いでひぃひぃ言いながら飛んでいった剣を回収に向ったオーランを見送りながら、背後に迫っていた男子生徒を肩越しに振り返りつつ睨み付ける。
 その一瞥だけで動きを止めてしまった男子生徒の態度が、また蓮弥の怒りを加速させた。

 「見られたくらいで」

 技術も何もなく、ただたっぷりと力を溜めた剣による一撃を、振り向きざまに振り抜く。

 「止まるな、馬鹿が!」

 腕も胴も一緒くたに薙ぎ払われて、悲鳴を上げることもできずにその男子生徒の身体が打ち倒された。
 一拍置いて、その男子生徒は打たれた腕をもう一方の腕で抱きかかえるようにしながら、悲鳴を上げて転げまわる。
 まともに胴を薙がれていれば、絶命ダメージと判断されたのかもしれないが、途中に腕がクッションになってしまった為に、腕が完膚なきまでに折れるだけで済んでしまったようだ。
 振りぬいた剣をゆっくりと手元に戻し、蓮弥はじろりと周囲を見回す。
 その視線に圧し折られるようにして、生徒達は視線を地面へと落とす。

 「ま、まだですわ!」

 そんな中で声を上げたのは、ナタリアだ。
 取り巻き達の中にあって、手がまだ震えてはいるが、蓮弥を睨みつけて大声で周囲を叱咤する。

 「相手は一人です! まだこちらに勝ち目が消えたわけではありません!」

 まだ自分達の方が人数が勝っていると言う事実。
 加えてナタリアが戦意を失っていないと言う事が、取り巻き達の折れかけた心をなんとかもたせる。
 さらに、情けない格好で武器の回収に向かわされはしたが、オーランとて未だ戦闘不能には陥っていない。

 「まだやるか。……そーかそーか」

 武器を構え、今度は蓮弥を取り囲むように移動しはじめた生徒達を見て、蓮弥がとても嬉しそうに笑った。

 「ま、死なずに済む戦場だ。経験を積んで見るのもいい事だろうさ、なんせ……蹂躙される側なんて、そうそう体験できないだろうしな」SEX DROPS

 肉体的にはともかく、精神的な死者が出ないといいんだがと思いつつ、蓮弥は次の獲物を求めて一歩踏み出した。

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