2013年11月27日星期三

現世

「じゃあね、ナツ。また今度」
 「……うん」
  家まで送ってくれたトモ兄と門の前で別れ、私は少しげっそりしながら、「ただいま」 と玄関を開けた。D10 媚薬 催情剤
 「知哉君は?」
  リビングから顔を出した母親の、おかえり、の前の第一声がこれである。彼女の中で、一人娘のランクは一体どれくらいの低位置にあるのか、一度じっくり問い詰めてみねばなるまい。
 「帰ったよ」
 「んまあ、帰っちゃったの? 残念だわあー、お母さん、もっと知哉君と話したいことがあったのに」
 「多分、トモ兄にはないと思う」
  そんなにトモ兄とお喋りしたけりゃ、もうちょっと強硬にファミレスに行くのに反対してこの家に引き止めたりだとか、さもなきゃ一緒について来ればよかったではないか。一緒に来られたら来られたで、うるさいし鬱陶しいに決まっているが、あの居たたまれない時間と空気を耐えるよりはマシだった。
 「で、あんた、ちゃんとお金は自分で払ったんでしょうね」
  いきなり母親が厳しい目つきと口調になって、チェックを入れてきた。私の母はわりと粗忽でウッカリなところが多い人だが、忘れて欲しいことは絶対に忘れない。
 「う……それは」
 「んまあ、なんなの、また知哉君にお金を払わせたの?!」
 「……だってさ、トモ兄が、自分が誘ったんだから、って……」
  もごもごと口の中で言い訳すると、「んまあー」 と母は呆れかえったように音量を上げた。今度のその感嘆詞には、「なんて非常識で図々しいのかしらこの子は」 という副音声が思う存分盛り込まれてあって、私はなんとなく小さくなる。理不尽だ。
 「あんたねえ、知哉君はまだ学生なのよ? そうそうお金を遣わせて、いいと思ってんの? 甘えるのもいい加減にしなさい」
  そんなことは判っているし、私はそんなに甘えているつもりもない。とは思うのだが、実際に自分の食べた分をトモ兄に支払わせている以上、それを口に出す権利はないような気がして、私は口を噤むしかない。母親から見ると、私とトモ兄は今でも、子供の頃の過保護な兄と甘える妹、という関係から変わっていないのだろう。本当にそのままならよかったのだが。
 「可哀想にねえー、知哉君ったら、あんたみたいなのにお金を遣わされて、しばらく清貧に甘んじることになるわね。毎日毎日インスタントラーメンとパンの耳で、栄養失調になって倒れるかもしれないわ。お金がなくて病院にも行けず、食べるものもなくて、アパートで一人寂しく弱っていって、『ああ、こんなことならあの時、大喰らいの従妹に好き放題に食べさせるんじゃなかった……』 と後悔の涙にくれるのよ」
 「いくらなんでも、そんなわけあるか!」
  わざとらしく鼻を啜る母親に、私は思わず大声を出して突っ込んだ。代金を払わせたといっても、所詮ファミレスである。ピザとコーヒーで、千円もいかないくらいだ。それくらいで破産するほどビンボーだと思われることのほうが、よっぽど可哀想だ。
 「じゃ、そんなことにならないように、またウチに夕飯を食べに来てもらいましょう」
 「…………」
  結局そこに行くのか。私はしばらく無言になってから、少し目を逸らした。
 「……けどさ、大学生だっていろいろと忙しいんだから、そんなに頻繁に呼びつけたりしたら、かえって迷惑じゃないのかな。トモ兄だって気を遣うし」
  言ってはみたものの、やっぱり通じないらしく、母親はきょとんとした。
 「なに言ってんのよ、親戚同士で」
 「親戚付き合いなんて、学生のうちは面倒なだけだよ、きっと」
 「そんなことないわよ。知哉君は自分からちょくちょく電話かけてきて、『変わりはないですか』 って聞いてきてくれるくらいだもん。あんたのことだって、高校ではどうか、とか、友達とはうまくいってるのか、とかってよく気にかけてくれてるわよ。あの年齢であそこまで配慮できる子って、そうはいないわよね」
 「…………」
  背中をヒヤッとしたものが駆けあがる。「配慮」、なのだろうか、それは、本当に? 母は言わなくてもいいことをベラベラ喋ることにかけては天才的なので、これではうっかりと学校であったことや、バイト先であったことなんかを話すことも出来ない。紅蜘蛛(媚薬催情粉)
 「あーあ、本当に、あんな子があんたのお婿さんになってくれればいいのにねえー」
 「……だからそういうことを……」
  しゃらっと口に出すのはやめろと言うのに。募る苛々をなんとか抑え込んで、はあーと溜め息をつくと、私は自分の部屋に行くために階段に足をかけた。
  母親は何も知らないし、何も判っていないのだ。かといって、事情を説明することも出来ないのだから、諦めるしかない。従兄として接しようとすれば甘えるなと責められ、距離を置こうとすれば冷たい子だとなじられる。どうすりゃいいというのか。孤立無援とはこのことだ。
 「夏凛」
  階段を上がりかけたところで、名前を呼ばれた。ん? と振り向くと、母親が冷ややかな顔つきで右手をこちらに向けて突きだしている。
 「使わなかったのなら、お母さんが渡したお金、返して」
 「…………」
  はあーっ、と私はもう一度大きく溜め息を吐いた。

           ***

  傷心のままバイト先の本屋に行くと、蒼君に 「遅い」 と叱られた。
 「ちゃんと時間通りだよ」
 「新人バイト風情が、時間きっちりに来るな。もっと前から来て、しっかり準備しろ」
  言い返すと、さらに注意された。ここでは蒼君は私の先輩にあたるので、反抗は許されない。大人しく、ごめんなさい、と頭を下げる。
  午後からバイト入りの私と違い、蒼君は学校が休みの日はほとんどフル勤務である。何がそこまで彼を労働意欲に駆り立てるのかは謎だが、黒いエプロンをきっちり着用し、店内の隅から隅までを移動しながら、新刊本を手にキビキビと働く姿は眩いばかり。眩しくたってやっぱり全然愛想はないので、お客さんは探している本がある時でも、わざわざ蒼君を避けて他の店員に訊くんだけど。
 「鷺宮は真面目だねえ」
  レジに入ると、先に入っていた先輩バイトの須田さんが、感心したように言った。どうやら、私が蒼君に叱られていた場面を見ていたらしい。
 「そうですね、仕事してる蒼君は真面目です」
  相変わらず、「何かご不幸でも?」 と聞きたくなるくらいに不機嫌そうな顔をしている蒼君なのだが、私が見る限り、仕事中にサボったりダラけたりしていたことは一度もない。ただ、学校では、よく授業中に居眠りをしていたり、ズル休みをしたりするようなので、性格そのものが真面目かどうかはすこぶる怪しい、と私は踏んでいる。
 「そして厳しいねえ」
 「そうですね、蒼君が優しいところは見たことないです」
  そこは学校でもバイトでも変わらないので、きっぱりと断言した。私に仕事の指導をする時なんて、鬼教官なみの厳しさだ。叱られて私が落ち込んだって、そのあとのフォローも、もちろん皆無。
  須田さんは、まじまじと私の顔を見た。
 「ないんだ?」
 「ないですね」
 「カケラも?」
 「カケラもないです」
 「……そんな男の、どこがいいわけ」
 「ええっ、なんで知ってるんですか?!」
  自分では蒼君への気持ちは上手に隠しているつもりだったので、飛び上がるほど仰天したのだが、須田さんはいつもの口の悪さで 「知られてない、と思うあんたの頭のほうがよっぽどおめでたいね」 とズケズケ言った。
  推定年齢二十代半ばの須田さんは、黙っていればたいそうな美人だが、非常にサッパリとした性格で、別の言い方をすると、ものすごくドライな人である。本が大好きで、本さえ読めりゃ、あとはどうだっていい、というのが須田さんの生きる上でのポリシーだ (と、本人が言い切った)。同じバイトという立場ではあるが、長いこと勤めているためか、この店のことは店長よりも詳しく知っているという。
 「どこが……と言われても、私にもよく判らないんですが」
  私は赤くなってぼそぼそ言った。須田さんに、私が蒼君に関心を抱くきっかけとなった一件を話しても、きっと理解してはもらえまい。ますます、そんな男のどこが、と言われること請け合いだ。なにしろ私自身にだって、今ひとつ理解できない。
 「よく判らない男のために、わざわざバイト先まで追っかけてきたの。物好きだね」
  ふふん、と皮肉っぽく口の端を上げられ、私はさらに赤くなった。
 「だって学校では、なかなか話も出来ないんですよ」
  言い訳がましいなと思いつつ、そう言った。紅蜘蛛 II(水剤+粉剤)

  ──二カ月前のあの件以来。
  私は学校で蒼君と顔を合わせるたび、折を見ては彼に話しかけようと努力した。仲良くなりたい、とまでは言わなくとも、もう少し話らしい話をしたかったからだ。理由は判らないけれど、蒼君のことがもう少し知りたい、と胸の中をせり上がってくる気持ちに、私はどうしても抗えなかった。
  ……しかし問題は、蒼君のほうに、そんな気持ちがてんからなかった、ということだ。
  橘の呼びたいように呼べばいい、と言ってくれた蒼君は、名前を呼んでも、確かに怒ったりはしなかった。蒼君、と話しかけても、(それほど) イヤそうな顔もしなかった。立ち止まり、振り返る。それくらいはしてくれる。
  でも、それだけ、なのだった。
  有り体に言って、廊下で姿を見かけて、私これから音楽室なんだよ、とか、今日の体育はバスケだったんだ、なんてことを話しかけても、ちっとも会話がつながりゃしないのである。蒼君は一応、「うん」 とか 「ああ」 とかの返事はしてくれるけど、それ以上続けようという意思はさらさらないらしく、すぐにスタスタ立ち去ってしまう。私は何度、その後ろ姿を歯ぎしりしながら見送ったか判らない。これならまだ、男に絡まれていたあの時のほうが交わした言葉が多かったよ!
  要するに、私と蒼君の間には、彼の心を動かすほど共通する話題が何もないのだ、と思い知るまでに、そう時間はかからなかった。同じ学校、同じ二年生、という、それだけでは、蒼君は私との会話にまったく意義を見出そうとしない。彼にとって、私の存在というのは、それほどに吹けば飛ぶような軽いものであるらしいのだった。
  あまりにも蒼君との距離が一向に縮まらないので、終いには私は、蒼君の周りにいる男の子たちにまで嫉妬する始末だった。蒼君は誰といてもそう笑いもしないしお喋りもしないけど、少なくとも、その場に留まってはいる。友人の誰かがぽんぽんと蒼君の肩を叩き、蒼君が黙ってそれを許容しているところを、私は物陰からハンカチをギギギと噛みつつ見るしかない。もう本当に羨ましくて羨ましくてしょうがなかった。何度、たった今私とあの男の子の身体を取り換えてください神様、と願ったことだろう。
  そして悟った。これはもう、私の方からもう一歩か二歩踏み込まないことには、状況は絶対に改善されない、ということを。蒼君との間に、もっと共有する何かを作らなければ、どうにもならない。声をかける、のと、話をする、のとはまったく意味が違う。
  彼女になりたいとか、興味を持ってほしいとかいう以前に、私はなんとしても、蒼君ともう少しお喋りがしたかった。蒼君の声をもっと聞きたかった。彼の視界に何気ない景色として混じっていたかった。
  だから、苦労して彼のバイト先を探り当て、その本屋で 「バイト募集」 の張り紙を見つけた時は、嬉しくて舞い上がりそうだった。新しく入ったバイトです、お願いします、と挨拶をした時、蒼君はちょっとイヤそうな顔をしただけで、特に何も言わなかった。
  蒼君は、基本いろんなことに対して無関心だが、だからといって、寄ってくるものを拒絶することもしないのだ。

 「このバイトを始めるようになって、ようやく蒼君とまともな会話ができるようになったんですよ」
  しみじみとそう言うと、須田さんは鼻先でせせら笑った。
 「へー。『もっとちゃんと働け、このボケ、役立たず、時給泥棒』 みたいな内容の叱責を、あんたは会話と呼ぶわけね」
 「蒼君はそこまで言いませんよ! 言うのはおもに須田さんじゃないですか! 蒼君は冷たい目で見て、『言ったことは一度で覚えろ、面倒だから二度言わせるな、お前には脳味噌がないのか』 とか、それくらいです!」
 「どこがどう違うのよ。あたしが見る限り、鷺宮はあんたのことなんて、本のスリップ程度にしか思ってないね、絶対」
 「ひっど!」
  スリップとは、新刊本の中に挟んである、書名とか出版社とかの書いてある細長い紙のことだ。パソコンが普及していなかった頃は、いろいろと使い道があったらしいが、現在、うちの店ではレジで抜き取った後、ほとんど見向きもしないでまとめて捨てるだけのシロモノである。否定できないだけに悔しい。
 「ほれ、仕事」
  文句を言いかけた私の背中を、須田さんはぐいっと手で押しやった。本を手に近寄ってきたお客さんに、慌てて、いらっしゃいませと声をかける。日曜だから、今でもそこそこお客さんは多いけれど、これからの時間、レジはますます忙しくなるだろう。
  働きながらちらっと店内に目をやると、蒼君が黙々と、無秩序状態の絵本売り場を整頓していた。手つきは丁寧だし、別に怒ってはいないんだろうけど、顔つきは怒っているようにしか見えない。
  蒼君蒼君、近くにいる子供たちが、完全にビビった顔をして遠巻きに眺めてますよ……と私は心の中で呟いて、ちょっとだけ笑った。紅蜘蛛赤くも催情粉

  バイトが終わると、外はもう真っ暗だ。
  自転車で通ってきている蒼君は、バイトを終えると、必ず店の前に据えつけてある自動販売機で缶コーヒーを一本買う。イヤホンで音楽を聞きながら、片手にコーヒー、片手にハンドルという格好で、のんびり自転車を漕いで帰っていく。お巡りさんに見つかったら怒られそうだな、と思うけど、蒼君は見つかったとしても気にしないのだろう。
  一緒に店から出て、蒼君が外の販売機に小銭を入れて缶を取り出すところまでをなんとなく眺めていたら、手に取ってからくるりと振り向かれた。
  ポケッと突っ立っている私を見て、「いらないのか」 と訊ねる。
 「え、奢ってくれるの?」
  びっくりして問い返したら、顔をしかめられた。
 「百二十円くらい自分で出せ」
  蒼君は、百二十円くらいなら出してやる、という方向へは、決して思考が向かわないのである。さすがだなあと感心しながら笑って、私も財布を出して缶のおしるこを買った。それを見て、蒼君の顔がますますしかめられる。
 「よくそんな気色の悪いもん飲むな」
 「私が自分のお金で買ったものに対してまで、ケチをつけないでください。美味しいよ、甘くて。飲んでみる?」
  かなり下心ありありで言ってみた私の提案は、案の定すげなく却下された。
 「そんなものを飲むくらいなら、水を飲む」
 「そこまで嫌わなくてもいいじゃない」
  美味しいのになあ、と首を捻りつつ、心のノートに、蒼君はおしるこが嫌い、と書き足した。甘いもの全般が嫌いなのかな、今度聞いてみようかなと少し悩む。蒼君は、あまり自分のことを聞かれるのが好きではない、というバイトを始めてから得た情報も、ちゃんとノートには書いてあるのだ。
  蒼君がコーヒーを手に自転車に跨ったのを見て、「じゃあ、また明日ね。お疲れさま」 と笑いかけた。蒼君は、ああ、と返事をし、それから何かを言いかけたようだったが、また思い直したように口を閉じた。
 「明日な」
  と自転車ごと方向転換して背を向ける。
  軽快に走っていく自転車を見つめながら、私は自分の手の中で缶を転がした。
  こうしてなんでもない会話が交わせるようになって、少しずつ蒼君のことを知っていく。少なくとも、これまでのふた月の間で、「通りすがりの変な女」 から、「役立たずのバイト仲間」 に立ち位置は変化している。それは嬉しい。今、とても幸せだ。蒼君の透明な空気を感じ、蒼君のいい声を聞くたび、ドキドキするのは変わらない。日ごとに、そのドキドキは大きくなっていくような気もする。けれど。
  ……それから?
  そこでいつも、私の頭は停止してしまう。フリーズ状態、真っ白だ。浮かぶのは、こうしよう、こうしたいという意思ではなく、他人事のような疑問ばかり。
  それから、私はどうするんだろう。どうしたいんだろう。
 「…………」
  私はただ黙って、夜空を見上げた。
  ここにいる 「私」 の目で見る空は、いつも、夢の中の 「私」 が見ていたものほど美しくはない。紅蜘蛛

2013年11月23日星期六

四度目の春に

ジェイド・ヴァン・クライフドルフにとって、騎士とはただの通過点に過ぎない。
  クライフドルフ侯爵家は代々騎士の家系として、帝国軍部の要職を努めてきた名門である。
  ジェイドもまた、名門の家の長子として十三歳の年に騎士学校へと入学。一年で准騎士に、二年の終わりには正騎士の資格を手に入れていた。田七人参
  とはいえ、騎士学校には六年通う必要があるため、正式な身分はいまだ学生である。
  今ジェイドは帝都にある、クライフドルフ家の屋敷へと戻っていた。
  屋敷の中で一番広い一室。円卓を挟んで座っているのはウェルト・ヴァン・クライフドルフ侯爵。
  ジェイドの父である。
  将軍の地位を持つウェルトは軍人でありながら色白で、顔も身体もぶくぶくと太っており、その手もまた剣を握らなくなってからどのくらい経つのか、醜く脂肪に包まれていた。
  ジェイドは部屋に入ると、父親に向かって一礼した。
 「ただいま戻りました、父上」
 「よく帰ったな、ジェイド」
  座れと対面の椅子を指し示す父親に頷きゆっくりと席に着く。
  ――こんな男が帝国騎士団の将軍か。
  醜く膨れ上がった腹、弛みきった顎の肉。
  ――この男程度で将軍になれるなら、おれは……
 実の父親を腹の中で蔑みながらも、口の端に笑みを浮かべにこやかに話を切り出した。
 「それで父上。この度の急なお呼び出しは?」
 「勇者のことは知っているか?」
 「それはもちろん有名人ですから。メイヴィス公爵令嬢のレティシア・ヴァン・メイヴィス殿でしたか」
 「そうだ」
 「大層美しいお方だと聞き及んでいます」
  ジェイド自身はレティシアとは面識がない。
  幼少時は問題児として扱われていたレティシアが、社交界へとお披露目されていないからだ。それに勇者として託宣を受けた後はすぐに旅立ってしまっている。
  だが、レティシアの絵姿は新聞などに良く描かれていたし、その容姿に関する記事も多く書かれていたため、彼女が見目麗しいということは知っていた。
 「わしは陛下との謁見の際と、夜会とで二度ほど顔を合わせておるが、確かに絶世の美姫というに相応しい。まだ十四の小娘だというのに、わしですらむしゃぶりつきたくなったわ」
  下卑た笑みを浮かべるウェルト。
 「ほぅ、それはさぞかし周囲の男どもが放っては置かなかったのでは?」
 「陛下もアルフレッド皇太子殿下の妃として皇室に迎えたがっている。まあ、勇者に一度断られたがな」
  身を震わせてくつくつとウェルトが薄く笑う。
 「勇者を皇室に迎えることで、我ら名門貴族を牽制したいのだろう」
 「皇太子殿下の!」
  ジェイドは驚く。
  貴族の娘にとって皇太子妃という地位はとてつもない魅力であるはず。それを袖にするとは――
 家格が釣り合わず、たとえ皇族が望んでも娘の方が身を引くというのなら話はわかるが、レティシアは公爵令嬢。家格でいえば、皇族に次ぐ。
  しかし皇帝に自分の息子の妃にと望まれながらも、それを断るという不遜ができる。さすがは勇者といったところか。
 「メイヴィス公は何もおっしゃられなかったのですか?」
 「娘とはいえ、勇者だからな。どうやら強くは出られないようだ。もっとも、わしらとしては助かる」
 「父上、それはどういう?」
 「ジェイド、勇者を手に入れろ」
  ウェルトが笑いをおさめすっと目を細めた。
 「お前とは年齢も近い。勇者を手に入れれば、クライフドルフ家は皇室をも凌ぐ力を手に入れることができる」
  庶民にとって、いやこの大陸の人々にとって勇者は特別な存在。
  その勇者をジェイドの妻として迎えることができれば――

 最近の皇室は貴族たちの領地の経営についても、五月蠅いくらい口を挟んでくる。
  クライフドルフ侯爵領についても、領民への税金の掛け方や生活水準の向上に関して口を挟んでくるので、ウェルトは辟易していた。威哥十鞭王
  そこに勇者を息子の妻として迎え入れることができれば、いかに皇室といえども口を挟むことが難しくなるだろう。
  貴族たちの筆頭となって皇室を黙らせることも可能となり、更なる利権を手にすることもたやすくなるだろう。
  勇者を妻に迎えたジェイドと共に、帝国内で更なる権勢を握っていく展望を語る父を、ジェイドは笑みを浮かべつつ相槌を打ちながらも、冷めた目で眺めていた。
  勇者を手に入れたとして、この程度の展望しか描けないのか。
  自分の力によらず、ただ名門の生まれというだけで将軍という地位に就いた男。
  恐らくは何もしなくとも、自分もこの男のように将軍の地位に就くことはできるだろう。
  だが、ジェイドの中ではさらなる欲望が渦巻いている。
  この男程度が帝国の将軍を勤めることができるのだ。
ならば、その先には何があるのか――。
  もしも、自分が勇者レティシアを妻に迎えることができたなら、それは至尊の地位へと続く道を切り開くことができるのではないだろうか。
  ジェイドは不意に血が熱くなるのを感じた。
  今の皇室は平民に甘い。
  選ばれた高貴な血筋の者だけがなれるはずだった騎士に、今では平民たちも多数登用され、さらには最高学府たる騎士学校にすら、平民が大手を振って歩いている。
  ジェイドにはそれが我慢ならない。
  勇者レティシアは公爵家という高貴な血を引いている。
  ジェイドにとって己の妻になる女の美醜はどうでも良い。
  だが、血は重要だった。
  自らの野望のためにいずれは皇室もろとも、メイヴィス公爵家にも消えてもらうが、少なくとも公爵家の高貴なその血には申し分ない。
  彼女を手に入れることによって、多くの者が味方につくだろう。
  本当の血の貴さを知る貴族たちだけでなく、愚かな平民たちも自分を支持するに違いない。
  そしてこの国を生まれ変わらせるのだ。
  高貴な血を引く貴族たちが平民たちを支配するという、至極当然な国に――
「それで、父上」
  考えを巡らせている間にも、自身のこれから先の展望を滔々と語るウェルトの言葉を遮り、ジェイドが口を挟む。
 「なんだ?」
 「レティシア嬢は今どちらにおられるのです?」
  自らの野望を描くにしても、まずは勇者を手に入れる必要がある。
  勇者とはいえど十四歳の小娘。手に入れる方法は幾らでもある。
  だがまずは、本人に会わねばならない。
  話の腰を折られて、少し苦い表情を浮かべたウェルトは椅子から立ち上がると、腹を揺らしながら窓まで歩く。
 「今は宮殿に滞在している。どうも師匠とやらのところへと帰りたがっているが、陛下がどうしても帰したくないようでな。晩餐会やら夜会やらに連夜、連れ出しておる」
 「となりますと、私も夜会にでも出席すればよろしいので?」
 「そうだ。近く我がクライフドルフ家でも夜会を主催する。その際にでも機会を作ろう。何か贈り物でも考えておけ」
 「そうですね」
  自分たち以外の貴族たちも、勇者レティシアの取り込みに動くはず。
  恐らくは諸外国にとってもだ。
  その中でいかに彼らを出し抜くか。
  ジェイドは無意識のうちに口の端に笑みを浮かべたのだった。  


  青く澄み渡る空はどこまでも高く、穏やかな日差しは春の訪れを感じさせてくれた。
  騎士学校の入学式の準備のため、早朝から大聖堂へと赴いていたウィンは、少し汗ばんだ額を首からかけたタオルで拭うと、眩しげに目を細めて空を見上げた。老虎油

挿絵(By みてみん)

  春の訪れを告げる渡り鳥たちが、青一色の空を白い線となって飛んでいく。
 「おーい、ウィン!」
  背後から声をかけられて振り返ると、学生寮で同室のロック・マリーンが手を振りながら走ってきた。
 「おはよう、ロック」
 「何だ、入学式に参加するだけじゃなくて、式場の手伝いもするのか?」
  ロックの視線はウィンの両手に注がれていた。
  ウィンの両手には、大聖堂にある分だけでは足りず、急遽運んで欲しいと頼まれた椅子が抱えられている。
 「自主訓練していたら、教官に捕まった。どうせ式まで予定はないんだろうって」
 「四回目だものな」
  片方の椅子をロックがウィンから受け取り歩き出す。
 「それよりも、ロックは今日から准騎士じゃないか。おめでとう」
 「ああ、まあな」
  空いている左手でがりがりと頭を掻いて、ロックが生返事を返す。
 「正直、お前を差し置いて俺なんかがと思ってしまうんだけど」
 「俺が試験に落ちたのは実力が足りなかったからだ」
  三度目の試験。
  訓練用の騎士剣に何故か・・・魔力を通すことができなかった。
  魔力の通っていない鋼の剣では、きちんと魔力を通した剣の前では木の棒にも等しい。
  しかも、相手はその年の学年主席。
  二年前と同様、魔法で牽制された挙句、相手の剣を受けた際にあっさりと叩き折られてしまいウィンの試験は終わってしまった。
 「それにしたって、対戦相手といい試験内容といい、お前にとって不利なことばかりだ」
 「戦場では相手を選べないんだ。誰が相手であろうと勝てなかったなら、俺にはまだ騎士の資格はなかったということだ」
  まったく、頑固な奴め。
  ロックは話しながらも、椅子を運び終えた後も手を休めずに黙々と働いている友人を見つめた。
  入学して一緒の寮で生活すること丸三年。
  ロックにとってウィンはこれまで周囲にいないタイプの人物だった。
  入学したその翌日から、ロックが朝起きだした時にはすでに寝床にはウィンの姿はなく、捜してみれば中庭で一人古びた木剣を振っていた。
  毎日の帰りも遅く、座学や厳しい訓練を終えたあと、そそくさと教室を出て行ってしまう。
  貴族や金持ちの子息たちが集まる学校である。
  授業が終わったあとに街へと遊びに出かける者は多かったが、毎日遊びに出かけるという者は少ない。
  どこで遊び呆けているのか気になったロックは、自分も街を散策がてらにウィンの後をつけてみた。
  ウィンは小さな酒場の厨房の裏で芋を洗っていた。
  洗い終わると、店のホールで注文を取ったり、料理を運んだりしている。
  慣れた動きだった。
  夜遅くに帰ってくるのは、働いていたから。
  働いているウィンに声をかけることもできず、その日ロックは街で遊ぶ気分にもなれずに真っ直ぐに寮へと帰宅した。
  友人はその日も何事もなかったように帰ってきた。しかも、また木剣でも振ってきたのか汗だくになって――
 それ以来、入学してからの剣技や体術といった授業において、ウィンが群を抜いた成績を修めたことに周囲は驚いていたが、ロックは当然の結果として受け止めることができた。
  あれだけの努力を見せつけられれば。
  幼少の頃、冒険者から少し手ほどきを受けただけというウィンの剣術は、我流ながらも洗練された剣捌きで、有名どころの師に習ってきたはずの貴族の子女を寄せ付けず、教官をすら圧倒した。麻黄
  しかしそんなウィンでも、座学には苦労していた。
  家庭教師を雇って勉強してきた他の生徒に比べると、どうしても彼の学力は劣っていた。
  また、その少ない魔力。
  一年目の試験、攻撃魔法の得意な生徒と当たってしまい、ウィンは為す術なく敗北してしまった。
  二年目はその対策を練って挑んだが、試験において使用できる武器は訓練用騎士剣のみという規定が加えられ、結局その対策も使うことができずに一年前と同様の敗北。
  三年目は訓練用騎士剣に魔力が通らないという不具合。
  その剣を見せろとロックが友人のために教官に迫ったが、教官の「生徒が試験に口を挟むな」の一言と、ウィンの無言の制止で諦めた。
  そして、ロックの方はといえば准騎士の資格を手に入れている。
  元々、ロックは商家の次男坊。
  家は長男が継ぐだろうし、かといって父親の言われるままにどこかの商家に奉公に行くか、婿入りをするよりかは自由に生きようと思い、金を出してもらって騎士学校へと入学した。
  その程度の覚悟の自分が必死に努力をしているウィンを差し置いて、准騎士の資格を取ってしまった。
  ロックはウィンに後ろめたさを感じていた。


 「あの、すみません」
  大聖堂で係官へ頼まれた小荷物を渡し、別の仕事へ取り掛かろうと来た道を戻る途中――
「先輩の方でしょうか?」
  振り返ると、一人の少女が佇んでいた。
 「おお、美人」
  ロックが思わずつぶやく。朴念仁であると自認するウィンですら、思わず見とれてしまう。 
  春の日差しを反射して柔らかな金色の輝きを放つ髪に、透き通った緑の瞳。
  どこか透明感のある美しさを持つ少女だった。
 「あ、ああ、先輩といえば先輩になるのかな。君は新入生?」
 「はい」
  柔らかな微笑を浮かべ、にっこりと頷いた。
 「受付を済ませたら、大聖堂ではなくて貴賓用の更衣室で制服に着替えてくれと言われたのですが、場所がわからなくて」
 「ああ、それならこっちじゃない」
  少女が向かおうとしていた方向は大聖堂内の普通の更衣室だ。
 「すみません、時間が早すぎたのかまだほとんど人もいなくて、お尋ねしようにも皆さん忙しそうですし」
  申し訳なさそうに言う少女。
 「そこに暇そうな先輩二人がぶらぶらしていたってわけだ」
 「ええ、まあ」
 「だったらウィン、お前が案内してやれよ。どうせ、お前も入学式には参加するんだ。一緒について行ってやれ」
 「いや、まだ手伝いがあるし」
 「どうせ、雑用だろう? 後は俺がやっておくさ。準備に手を取られて間に合わなかったら本末転倒だろうが」
  手を振って背を向けると、ロックはさっさと歩き出す。
 「じゃあウィン、また後でな」
 「ありがとう、ロック」
  その背に声をかけ、ウィンは少女へと向き直る。
 「それじゃあ行こうか」
 「はい」
  少女はウィンより、数歩後ろについて歩き出す。
  それに何かが引っ掛かるものを感じる。
 「先輩と思ったのですが、私と同じ新入生の方なのですか?」
 「先輩は先輩だけど、今度四回目の入学式となる新入生だよ」
 「なら、私と同級生になるんですね」
 「そうなるね。ところで失礼なこと聞くようだけど、貴賓用の更衣室だなんて他国からの留学生?」
  通常であればどの貴族の子女であっても、大聖堂の更衣室で着替えを行うようにされている。
  例外は皇室の者か、他国から留学してきた高位貴族にのみ貴賓として別室を宛てがわれるのが習わしだ。D9 催情剤

2013年11月21日星期四

世界の守り手

ジンは背後に感じるプレッシャーに反応し、その場で反射的に振りむいた。
  倒した蔦魔獣を挟んだ向こう側、つい数瞬前には何も存在していなかったはずの岩山の上に、それ・・は存在していた。巨根
  岩山の上に立ち、此方をジッと見つめるその存在は、通常サイズの二倍近い大きさの白馬のような姿をしていた。しかし、それは単なる大きな馬などではなく、額から真っ直ぐに伸びた一本の角を生やしている。
  また、背中の鬣たてがみは白銀に輝いて揺れ、その目は青く深い知性の光を感じさせた。
  それは優美かつ力強い姿だが、その身にまとう雰囲気はどこか荒々しいものだった。
 「ユニコーン……」
  ジンは荒々しくも美しいその姿に魅了され、ただ呆然とつぶやく。
  ユニコーンと言えば、処女を守護する優美な幻獣というイメージが一般的だ。だが今ジンの目の前にいる存在は、そうした一般的なユニコーンのイメージとは大きさも力強さも段違いだ。
  ただ、与える印象は違えども、その根本にある美しさだけは共通していた。
  数瞬の後、漸ようやく我に返ったジンは今の状況を思い出し、慌てて手に持ったままだった武器を『無限収納』にしまった。
  だが、背後のアリア達はまだ茫然自失の状態で、呆然とユニコーンを見つめたままだ。
 「皆、武器を収めるんだ!」
  ジンのその言葉に反応し、ようやく我に返った三人も急いでそれぞれ武器をしまった。
  それを確認した後、ジンは再び向き直ってユニコーンに話しかける。
 「私はジン、彼女達はアリア、エルザ、レイチェルと申します。私達に何か御用でしょうか?」
  相手がどういう存在なのかは分からない。しかし此方を警戒はしても、現段階では敵意は持っていない事はわかる。
  そうでなければ、わざわざジン達にメッセージを伝えて存在をアピールする必要は無いはずだ。
  もし敵意があるのならば、何も言わず不意打ちすれば良いだけの話だ。
  こうした状況を考えれば、相手がコミュニケーション可能な言葉の通じる相手であり、かつ極めて理性的な存在である事は自明の理だった。
  ジンはユニコーンの態度に敬意を表し、自然と丁寧な口調で話していた。
  ユニコーンはその巨体にもかかわらず軽やかに岩山を駆け下ると、ジン達から5メートル程離れた距離にまで近づく。
  そして、そこで再び思念を発した。
 「《人間達よ、ここは吾が守護する領域の一つである。吾が配置した見張りを倒した事は許そう。しかし、先程お前達はこの上に登ると言っておったが、それに相違ないか?》」
  ユニコーンの放つ思念は、ジン達に圧迫感を与えるだけでなく、その感情のようなものまでジン達に伝えてくる。現在ジン達が感じているのは、静かな怒りに近い感情だ。
  ジンはその感情とプレッシャーに気圧されそうになりながらも、必死で考えを巡らせる。
  最初に自分達にかけられた「そうはいかない」という台詞を考えると、この質問に対するYesの返事は、ユニコーンが望むものではないのだろう。しかし、だからと言って嘘をつくわけにもいかない。ここで引く事はできないのだ。
 「はい。私達は病の特効薬となる、『マドレンの花びら』を採取する目的で参りました」
  ジンのその返答と共に、ユニコーンが発するプレッシャーが爆発的に増大した。
 「《戯言を! また、お前達人間は過ちを繰り返すつもりか! この愚か者めが!!》」
  ユニコーンが発する思念は、まるで荒れ狂う感情の嵐だ。それはほとんどを怒りの感情が占めていたが、悲しみの感情も少なからず存在していた。
  その大きな怒りの感情とプレッシャーは凄まじく、アリア達は無意識に後ずさって倒れこみ、ジンも思わず膝を突きそうになってしまう。
  だがここで屈してしまえば、自分が言った事が戯言であると認めてしまう事になりかねない。
  そんな事では、アイリス達を救う事など出来やしないのだ。狼一号
  そう考えたジンは自分に〔気合〕を入れて踏み止まり、負けじと声を張り上げて言葉を返す。
 「嘘なんかではありません!!」
  一度言葉を発した事で楽になったジンは、そのままプレッシャーに負けじと言葉をつなげる。
 「私達が『マドレンの花びら』を求める理由は、それにより『滅魔薬』という薬を作り、『魔力熱』に苦しむ子供達を救いたいからです!」
  ここまで来た目的は、病で苦しむアイリス達を助けたいが為だ。
  その為にビーンは禁忌とされた薬のレシピを提供し、グレッグも特例を認めてサポートしてくれた。アリアは実際に同行してくれているし、クラークも子供達の治療に走り回っている事だろう。
  自分達がこうしてここまで戦って来たように、子供達やその家族も同じく戦っているのだ。
  ここで自分が屈する訳にはいかないと、ジンは必死で想いを伝える。
 「貴方が何にお怒りなのか私には理由が分かりませんが、私達が『マドレンの花びら』を求める理由はその一点のみです。ここが貴方の土地であるのならば、どうかお願いいたします。私達に『マドレンの花びら』を少しだけ分けていただけないでしょうか」
  ただひたすらに子供達の事を思い、何とか分かってもらいたいとジンは無我夢中だった。
  そしてふと気付くと、先程まであった荒れ狂う感情の嵐は静まっていた。
 「《人間よ。名を聞こう》」
  元々ユニコーンが発していたプレッシャーは変わらないが、既に一時の激情の影は無い。ただ静かにジンに問いかける。
 「リエンツの街で冒険者をしております、ジンと申します」
  姿勢を正し、ジンはユニコーンの目をしっかりと見つめて答えた。
 「《ジンよ、お前が子供達の病の為に『マドレンの花びら』を欲している事は分かった。その理屈は分からないが、お前がそれが病の特効薬となると主張するのも、とりあえずは良しとしよう》」
  ジンの言い分に一応の理解は示しつつ、ユニコーンは話を続ける。だが、その続いて発せられた台詞は、ジンにとって想定外のものだった。
 「《だがジンよ。お前は、自分が今の世界を壊しかねない事をしようとしていると気付いているか? 遥か昔の過ちを繰り返そうとしている事に気付いているのか?》」
  先程までとは違い、その台詞から伝わってくる感情はどこまでも静かだ。
 「いいえ、まさか。それは一体どういう意味なのでしょうか?」
  世界の崩壊など、寝耳に水もいいところだ。まさか花びらで世界が崩壊するなど、考えるはずも無い。
 「《ジンよ、お前は世界を滅ぼすかもしれないと聞いても、まだマドレンの花を求めるか。お前に世界の滅びを背負う覚悟があるのか?》」
  ユニコーンから伝わってくる感情は、どこまでも真剣だ。
  だからジンも真剣に答える。
 「それがマドレンの花びらを得るのに必要なのであれば、覚悟を持ってその責を背負います。そして、必ず世界を滅ぼすような事はさせないと誓います」
  世界を滅ぼしかねないと言われても、アイリス達を諦める事など出来る訳が無い。
  例え利己的と言われようとも、ジンはアイリス達を見捨てる事など出来ない。しかし同時に、自分達が暮らす世界を滅ぼすような事をさせるつもりも無いのだ。
  ジンが返答をした後、お互いにしばし無言の時が過ぎた。
 「《……ただ言葉だけでそれを吾に信じさせる事は出来ないのは、お前も分かっていよう。では、何をもってその覚悟を示す? 》」
 「貴方が要求される事で、可能な事全てをもって」
 「ジンさん!」
  その問い掛けに即答で答えるジン。
  相手に全権をゆだねてしまうのは、誠意に置いては最上級かもしれないが、交渉において最もやってはいけないことであろう。
  邪魔をしてはいけないと黙って聞いていたアリアだったが、つい口から出てしまった叫びが空しく響く。
 「《よかろう。……では、お前の利き腕をもらうぞ》」
  ユニコーンから出されたその要求にジンは大きく息を呑み、アリア達三人は小さな悲鳴を上げた。
  片腕を失うなど、ジンにとっても簡単な事のはずがない。三體牛鞭
  自分は交渉に失敗したのかもしれないと、ジンは思わないでもなかった。しかし、事が自分ひとりだけで済むのなら、まだマシな要求なのかもしれないと思い直す。
  また、かなり難易度の高い魔法とは言え、失った部位を取り戻す回復魔法も存在したはずだ。使い手の数は多くは無いだろうが、失われた腕を取り戻せる可能性もちゃんと残っているのだ。
  そうして元通りになる方法が存在する事を考えると、この要求は妥当なのかもしれないとジンは結論付けた。
  それに、もし今後ずっと片腕をなくしたままだとしても、片腕が無い生活とアイリス達がいない生活を比べた場合、ジンにとっては後者の方が圧倒的に耐え難いのだ。
 「……分かりました。しかしそれは少し難しいかもしれません」
  ジンは、最悪の事態を想定した上で承諾した。
  しかし、自分の体は傷つく事がないという一点だけが気にかかっていた。
 「《吾には出来ないと言うのか?》」
  自分より遥かに弱い者から出来ないと言われ、その思念がどこか不機嫌そうになるのも無理はない。
  しかしこれは強い弱いの話ではなく、体の作りそのものの話なのだ。
 「私は、この体を損なう事がないという祝福を授かっております。そういう意味で、難しいかもしれないと申し上げました」
 「《私も長く生きているが、そんな話は聞いた事が無い。そのような戯言でごまかすつもりか。それがお前の覚悟か?》」
  そう言われてしまうと、あとは実際にやって見せるしかない。それにもし腕を失ったとしても、それはそれで覚悟を示した事になるので問題は無いだろうとジンは判断する。
 「分かりました。それではお試しください。もし腕を失ったならば、それで覚悟の証明とさせていただきます」
 「《まだ、言うか。……いや、よかろう。では、その腕を貰い受ける》」
  ユニコーンはジンの台詞に一瞬怒りをにじませたものの、これまでのジンの態度を思い出してその怒りをおさめた。
  ジンが言った祝福の話が真実だとは思わないが、何か理由があっての発言かもしれないと思い直したのだ。
  少なくともこれまでジンがとった言動は、彼にとっても信頼に値するものと言えた。
  ジンが右手を前に突き出すと、その腕の周囲をシャボン玉のような球体が包む。そして、それが消えると同時にジンは腕に激しい痛みを感じ、思わず声をあげる。
 「ぐあっ!!」
  それは、これまでジンが経験した中で一番の激しい痛みだった。
  しかし、その腕にあった服の裾の部分や手甲等は消えていたが、むき出しになったジンの腕は変わらずそこに存在したままだ。
  消えた装備等はユニコーンの足元に現れたが、彼は本来なら腕ごとそうするつもりだったのだ。
 「《馬鹿な!?》」
  この事実に、ユニコーンは驚愕を隠せない。
  先程彼が使ったのは、『空間魔法』の一種だ。シャボン玉の様な球体に囚われた物を任意の空間に飛ばすというもので、蔦魔獣をこの地に運んだのもこの魔法だ。
  ユニコーンは、ジンの腕だけを転移させる事でその腕を切断するつもりだった。
  他にも色々な方法はあったが、空間によって切り取られて出来るその切断面は、刃物で切るのとは比べ物にならないくらい綺麗で治療もしやすい。
  ジンの覚悟を確認した後は、元通りに治してやるつもりでこの攻撃手段を選択したのだ。
  この魔法には、魔力が高いものによっては抵抗する事も可能だが、ユニコーンの魔力はジン達人間とは比べ物にならないほど高く、人間に防がれる事など普通ではありえない。
  しかし、この防ぐ事が難しいこの魔法を、単なる人間であるはずのジンは耐えて見せたのだ。
 「私が嘘を言っている訳ではないと、分かっていただけましたでしょうか?」
  ジンは痛みで脂汗をかきながら言った。体に傷がつく事は無いとは言え、HPは減るし痛みも感じるのだ。その痛みは瞬間的なものなので今も痛んでいるわけではないが、それだけ強烈な痛みだったという事だ。男宝
  その様子に気付いたレイチェルが慌ててジンに近寄り、回復魔法をかけ始める。
 「《……お前は何者だ》」
  自分と同じような存在ならばともかく、ただの人間にあれを防ぐ事は出来ない。ユニコーンは混乱していた。
 「申し上げましたように、ただの冒険者です。ただ、ちょっと他の人とは違う事もありますが」
  苦笑いしつつジンはそこで一旦区切ると、ジンは治療をしてくれたレイチェルに小声でお礼を言った。そして再度姿勢を正すと、ユニコーンに向かって言葉を放つ。
 「お待たせして済みませんでした。それでは、代わりに何をすれば宜しいでしょうか?」
  今回は自分の体質で無効となってしまったからと、代わりの試練を要求するジン。
  ジンも正直言うと出来ればもう少し楽なのがありがたいのだが、それでも試練を受けないという選択肢はないのだ。
 「《……もう良い。お前は覚悟を示した》」
  そうしてユニコーンは、少し疲れたようにジンの覚悟を認めた。
  体に傷が無いとは言え、痛みを感じているのならばそれは一つの証明となる。ユニコーンはそう判断したのだ。
  思わずホッと力を抜いたジンとは対照的に、今度はアリア達三人が前に進み出る。
 「恐れながら聖獣様に申し上げます」
  アリアが口にした聖獣という単語で、ようやくジンはユニコーンが聖獣と呼ばれる存在である事に気付いた。
  絵本で見たのとは違うが、確かに言われて見れば聖獣以外にはありえない。
  そんなジンの感想を余所に、アリアはさらに言葉をつなげる。
 「私達にもどうか試練をお与え下さい!」
 「「お願いします!」」
  アリアに続いて、エルザとレイチェルも試練をお願いした。それはジンだけに重荷を背負わせないという事なのだろう。
  しかし、それはジンにとっては許容しがたい事だ。自分がやった事を棚に上げ、そんな風に思うジン。
  黙って自分の判断を尊重してくれたアリア達に感謝していたが、だからと言って逆の立場では、黙っている事が出来ないのだ。
  それはある意味ジンの弱さなのだろう。
 「いや、それは……」「《もうよい》」
  思わず口を出そうとしたジンを遮り、ユニコーンはアリア達にそう答えた。
 「《お前達の覚悟はわかった。それほどに『マドレンの花びら』を求めている事もな》」
  そこで一旦区切り、続いた次の台詞はこれまで以上に真剣なものだった。
 「《これから話す事は他言無用。例え親兄弟であろうと話さず、秘密を守る事を誓え》」
  それはジン達にとって当然の話で今更なのだが、それだけ重大な話という事なのだろう。
 「「「「誓います!」」」」
  間髪いれず答えるジン達四人。それは反射的な答えではなく、世界に関わる重大な話との認識をした上での答えだ。
 「《よかろう》」
  ユニコーンはその答えに満足すると、その秘密を話し始める。
 『《では、ジン。お前は『マドレンの花』の別名を知っているか?》」
 「いえ、存じません」
 「《娘達はどうだ?》」
  ジンと同様に首を振るアリア達。
 「《その別名は『吸魔花』と言う》」
  重々しくその別名を告げるユニコーン。
 「《それは大気中を流れる余剰魔力を吸い取り、その花びらに蓄えて大地に流す事から呼ばれるようになった花だ。そしてこの花こそが、遥かな過去においてこの世界を壊しそうになった原因の一つだ》」VVK
  そうして語られたのは、世界の仕組みと知られざる歴史だった。

2013年11月17日星期日

毒針

八階層を走破して、九階層に移動した。
  ベイルの迷宮八階層のボスは、すでに戦ったことのある相手だし、たいした問題ではない。
  メッキで防御を固めつつデュランダルで叩き斬り、楽勝だ。
  ベイルの迷宮九階層の魔物はスローラビットらしい。天天素
  セリーがクーラタルの探索者ギルドで調べてきた。
  スローラビットなら、クーラタル八階層でも戦っているし、動きも遅い。
  何の問題もない。
  こっちも楽勝だ。
 「そんなふうに考えていた時期が、俺にもありました」
  ファイヤーボール六発でスローラビットLv9を沈めた後、つぶやく。
  六発か。
  Lv9からは、魔物を倒すのに魔法六発が必要になるようだ。
  階層が上がるごとに、やはり敵も確実に強くなっていく。
 「魔法を使う回数は一つ増えましたが、そう大きな違いはないでしょう。数回で倒せるなんてさすがご主人様です」
 「その分、魔物と打ち合う時間が長くなるが」
 「回避すれば何の問題もありません」
  倒すのに必要な魔法の回数が増えれば、戦闘時間が延びる。 
  戦闘が延び、魔物と近接している時間が長くなる。
  当然、攻撃を浴びることも増えるだろう。
  約一名を除いて。
  俺が前に出るのはデュランダルを持っているときだから問題はない。
  攻撃を喰らってもHP吸収ですぐに回復できる。
  問題は、セリーの方だ。
 「九階層は大変じゃないか?」
  しばらく戦闘をこなしてから、セリーに確認した。
  セリーは何度か魔物の攻撃を喰らっている。
  被弾の増加はやはり避けられない。
 「いえ、大丈夫です。八階層より特にきつくなった感じはありません」
 「魔物の攻撃を受けることが増えてないか」
 「すぐに手当てをしてもらっていますし、問題ありません。えっと。やはりご迷惑でしたでしょうか。がんばってロクサーヌさんのように回避できるようになりたいと思います」
 「いやいや。手当てをするのは別に面倒じゃない。セリーがきつくなければ、大丈夫だ」
  あわてて否定した。
  セリーは気丈にもがんばってくれるようだ。
  まあセリーがいいというのなら大丈夫だろう。
  九階層もなんとかなりそうか。

  翌朝、クーラタルの迷宮でも九階層に移動する。
  ボス戦は例によってデュランダルでぼこった。
 「クーラタルの迷宮九階層の魔物はニートアントです。毒を使った攻撃をしてくるのが大きな特徴です。水魔法がニートアントの弱点になります」
  八階層のボス部屋から九階層に飛ぶと、セリーが説明してくる。
  毒か。
  クーラタルの迷宮九階層は一筋縄ではいかないようだ。
 「ありがとう。水魔法を使えばいいんだな」
 「はい」
 「分かった。しかし毒を使ってくる魔物は初めてだな」
 「えっと。スパイスパイダーも、低確率ですが攻撃されると毒を受けることがあります。それと、グリーンキャタピラーのボスのホワイトキャタピラーは毒を浴びせるスキル攻撃を仕掛けてきます。糸で動きにくくした後に毒攻撃をしてくるのが定番です。強力な連携技で、これにやられる人も多いと聞きます」
  あれ。そうだったのか。
  確かに毒消し丸は必需品だと聞いた。
  それだけ毒攻撃をしてくる魔物が多いということだろう。
  毒を使ってくる魔物がいないと思っていたが、運がよかっただけか。
  スパイスパイダーは、大体のところロクサーヌが相手をしている。
  つまり攻撃はほとんど当たっていない。
  ホワイトキャタピラーのスキル攻撃は全部キャンセルした。三鞭粒
 「気づかなかったな」
 「低階層で毒を使ってくる魔物の代表格はなんといってもニートアントです。ニートアントの恐ろしいところは、通常攻撃でも毒を受けることがあるし、こちらに確実に毒を与えるスキル攻撃もしてくるところです」
  二段構えということか。
  そして、スキル攻撃は上の階層であればあるほど使ってくる。
 「毒を喰らうとどうなるんだ」
 「どんどんと衰弱していき、放っておけば最後には死にます」
 「毒消し丸で治せるよな」
 「はい」
 「後遺症とかはないか」
 「毒そのものは薬で消せます。ただし、ダメージは受けたままです。必要なら傷薬を使うか手当てをするのがいいでしょう」
  予後は良好のようだ。
 「分かった。毒消し丸はアイテムボックスにあるから、二人とも毒を受けたらすぐ取りに来い」
 「はい、ご主人様」
 「かしこまりました」
  リュックサックに入れるよりアイテムボックスから取った方が早いだろう。
  アイテムボックスはセリーにもあるが、詠唱が必要だ。
  俺なら詠唱なしですぐに取り出せる。
  俺が動けなくなった場合のことも想定はしておくべきか。
  ボス戦でもなければ今のところそこまでの心配はいらないだろうが。
 「セリーにも毒消し丸をいくつか渡しておく。万が一の時にはそれを使え」
  セリーにアイテムボックスを開けさせ、毒消し丸を渡した。
  探索者Lv10でなれる鍛冶師のアイテムボックス容量は、やはり十種類×十個のようだ。
  毒消し丸十個を入れさせる。
  ロクサーヌの案内で進み、ニートアントに対面した。
  でかいアリだ。
  形そのものは、普通のアリである。
  ただしでかい。
  異様なほどでかい。
  遠くで見てもでかい。
  見方によってはちょっと気持ち悪い。
  いや、気味が悪いというよりかは、おどろおどろしい。
  うん。
  でかいカブトムシだと思えば、そう気持ち悪いわけではない。
  あれはカブトムシの仲間だ、カブトムシ。
  黒光りするからといって、決してGを思い浮かべてはいけない。
  うわっ。
  思い浮かべてしまった。
  脚のギザギザの辺りが、似ていなくもない。
  違う。
  アリだ。
  ただのアリだ。
  Gではない。
  ウォーターボールと念じた。
  水の球が頭上にでき、洞窟内を進んでいく。
  ニートアントは、Gのようにそそくさと移動したり、飛んだりすることはなかった。
  ウォーターボールが命中して弾ける。
  よかった。
  やはりGではない。
  ゴキブリなら絶対に今の水球を回避していただろう。
  二発めのウォーターボールを撃ち込む。威哥王三鞭粒
  動き自体は他の魔物と変わらないようだ。
  やはりアリだ。
  働きアリじゃなくてニートアントだけどな。
  働いたら負けかなと思ってそうだ。
  近くで見ると全長一メートルくらいはあるだろうか。
  これだけでかいとやはりちょっと気持ち悪い。
  続いて三発め。
  働けよ。
  まあ魔物が働くとろくなことにはならないだろうが。
  ウォーターボールを正面から喰らい、ニートアントが倒れた。
  三発か。
  水魔法は弱点なので、威力が倍になるようだ。
  Lv9だから、通常なら六発かかるところなのだろう。
  三発なので、こちらと接触する前に倒せた。

 毒針

  緑の煙が消えると、なにやら恐ろしい名称のものが残る。
  まがまがしい。
  セリーが無造作に拾い上げて持ってきた。
  大丈夫なのか?
 「はい」
 「えーっと。手で持っても問題ないのか」
 「人間や動物相手には食べさせないと毒にならないそうです」
  手で触れても大丈夫のようだ。
  思い切って、受け取った。
  黒くて円錐形をした五センチくらいのアイテムだ。
  先っぽのところが毒針になっているかとも思ったが、そうでもないらしい。
 「経口摂取しないと駄目なのか。蛇の逆だな」
 「そうなのですか?」
 「そうだ」
  蛇の毒はタンパク質でできているから、食べると消化されると聞いた。
  蛇が毒を使うのは獲物を狩るためだ。
  獲物を毒で倒した後、今度は毒に汚染された獲物を自分が食べることになる。
  自分の出した毒で自分がやられてしまったのでは目も当てられない。
 「そうなのですか。そんなことを知っているなんて、すごいです」
 「さすがご主人様です」
  無駄な現代知識で尊敬を買ってしまった。
  毒針も知らないことで評価を下げたからな。
  それを相殺する。
  セリーは口にも目にも出さなかったが、毒針も知らない田舎者だと少しは思ったことだろう。
  この世界の蛇は地球とは違う可能性もあるが。
  この世界の蛇が獲物を狩るために毒を使うのなら、地球と同じ理由で食べても大丈夫だろう。
  捕食者である蛇が身を守るために毒を持つなんてことはそうはあるまい。
 「毒針は魔物相手には有効です。投げつけたりすることで、うまく当たれば毒状態にできます。実力の拮抗したボスとの戦闘では、最初に毒針を使うことが基本戦略になります」
 「ボスも毒を受けるのか」
 「六人パーティー全員で二、三個も投げれば、毒を与えることができます」
 「確率低っ」
  六人で二、三個なら、全部で十二個から十八個だ。威哥王
  確実に毒を与えるには結構な数が必要になるらしい。
  一個や二個ではあまり毒にならないということだろう。
 「その他に特殊な使い方もします。迷宮の外に出ている魔物には、こちらから攻撃しない限り積極的には人を襲ってこないものも多くいます。この毒針は毒にする以外は何の効果もないアイテムなので、その魔物に投げつけても攻撃とは認識されません。毒状態になると攻撃したと判断されますが、毒にしてから倒すことで、短時間で倒すことができます」
  そんな裏技があるのか。
  いろいろたくましいというべきか。
 「あ。私も子どものころ、それで遊んだことがあります」
  ロクサーヌが声を上げた。
  ロクサーヌはやったことがあるらしい。
 「ロクサーヌがか」
 「えっと。結構元手がかかるのでは。私は貴族やなんかの子弟がするものだと聞きましたが」
  なるほど。
  毒針もただではない。
  コボルトソルトだって買い取ってくれるのだから、毒針もそれなりの値段はするだろう。
  それを何個も魔物に投げるのはもったいない。
 「近くにニートアントの湧く場所があったので、毒針はそこで集めました。どうせ毒針を持って帰っても危ないことをするなと怒られるだけなので、今度は森の奥に行き、強い魔物相手に毒針を使います」
  やり方としては、理にかなっているような。
  確かにやり方としては。
 「ニートアントは、普通に狩るんだよな」
 「そうです」
 「でもばれたら危険だと怒られると」
 「非力な子どもなので、倒すのに数時間はかかりますから」
  何か非常識な言葉が聞こえたような気がしたが、空耳に違いない。
  それとも、この世界の数時間は地球時間では数秒だったか。
 「えっと。ニートアントは毒にするスキル攻撃もしてくるので、非常に危険だと思いますが」
 「攻撃をかわしてしまえば問題はありません」
 「数時間も戦うのにですか」
 「はい」
  セリーよ。そこは突っ込んではいけないところだ。
 「それで、倒して得た毒針を他の魔物に使うと」
 「はい」
 「その魔物は普通に狩るだけじゃ駄目なのか?」
 「もちろん、私ではとても手が出せないような強い魔物を狙います。こちらの攻撃ではびくともしません。住んでいたところの近くでは、ノンレムゴーレムが比較的安全に近づけて強い魔物でした」
  普通に狩れるニートアントを倒して得た毒針を使って、普通では狩れないノンレムゴーレムを狙うということか。MaxMan

2013年11月15日星期五

聖槍

ハルバーの迷宮二十三階層に入った。
  聖槍とひもろぎのイアリングをテストしてみる。
  いきなりシザーリザード相手は怖いような気もするが、聖槍は前にも試したことがある。
  問題はないだろう。韓国痩身1号
  試してみると、やはり今までより早く魔物を倒せた。
  しっかり強くなっている。
  聖槍そのものはひもろぎのロッドより弱かったから、ひもろぎのイアリングの知力二倍がちゃんと効いている。
  大丈夫だ。
  聖槍だといい点がもう一つあった。
  セリーがやっているように、槍なら二列めから攻撃が届く。
  ミリアかベスタの斜め後ろから魔物を攻撃することもできた。
  ロクサーヌの後ろは危険すぎるとして。
  聖槍を持てば魔法を使う合間合間に攻撃ができる。
  今はまだ突いたり叩いたりするだけだが、慣れていけば斬ったりなぎ払ったりすることもできるようになるだろう。
  MP吸収のスキルでもつければだいぶ楽になるな。
 「この先にいる魔物はマーブリームだけのようです」
 「お。そうか。さすがロクサーヌだ。次はちょっと実験してみるから、倒すのに多少時間がかかる」
  ロクサーヌがアドバイスをくれたので、聖槍をしまいダマスカスステッキを取り出した。
  ダマスカスステッキを試すのは、さすがにシザーリザード相手ではない方がいいだろう。
  魔物が現れる。
  マーブリーム二匹だ。
  サンドストームを二回念じた。
  念じた後で走り出そう、としたら、誰も動かない。
  何故だ。
  いや、そうか。
  マーブリームしかいないのだから、こっちから近づく必要はない。
  ロクサーヌがわざわざ進言してきたのはそのためか。
  ダマスカスステッキを手に入れたことは教えていないし、マーブリーム相手に試すとも言ってないからな。
  走り出さないように、敵はマーブリームだけだと教えたのか。
  動いたときに聖槍を放り投げるのが嫌でアイテムボックスにしまったのだが、この場で迎え撃つならしまうことはなかった。
  ミリアもベスタもよく走り出さなかったものだ。
  セリーはともかく。
  二人ともすましているが、きっと内心では驚いているに違いない。
  気づかなかったのが俺だけということはないはずだ。
  俺も何ごともなかったかのような顔で魔法を放っていく。
  魔法を撃ってから移動する魔法使いでよかった。
  下手をしたら一人だけ走り出して恥をかくところだった。
  マーブリームを倒す。
  ダマスカスステッキの強さは、ロッドよりも上でスタッフよりは下というところか。
  アクセサリーにつけた知力二倍はもちろん有効になっているはずだ。
  聖槍より弱いからメインで使うことはないが、予備としては十分だろう。
  武器を聖槍に戻して、探索を続ける。
  シザーリザード四匹にロートルトロール一匹が現れた。
  大所帯だ。
  今度は四人がすぐに駆け出す。
  ちゃんと分かっているのか。
  不可解だ。
  俺はその場でサンドストームを二度念じてから、追いかけた。
  ロートルトロールを先に倒すなら弱点は火属性だが、シザーリザードは火魔法に耐性があるので使えない。
  耐性がなかったとしても、ロートルトロールを優先して倒すべきかどうかは相変わらず判断が難しい。
  今の場合、ロートルトロールを一匹減らしてもあまり意味はない、かもしれない。
  二十二階層までの魔物に比べたらシザーリザードはかなり強くなっている。
  シザーリザードを倒すのを遅らせることはないだろう。韓国痩身一号
  ロクサーヌたちが魔物に対峙した。
  ロートルトロールを挟んでシザーリザード三匹が横に並び、迎え撃つ。
 「来ます」
  後ろに回ったシザーリザードの足元に魔法陣が浮かんだ。
  ロクサーヌの警告の後、周囲に火の粉が舞う。
  全体攻撃魔法だ。
  魔物の全体攻撃魔法もファイヤーストームと変わらないらしい。
  一瞬、体全体がカッと熱くなった。
  胸が締めつけられ、節々が痛む。
  足の指がもがれそうだ。
  肌がちりちりと焼け、痛覚神経が悲鳴を漏らした。
  三匹のシザーリザードが隙を逃さず攻めかかる。
  ロクサーヌが身体を揺らして避け、ミリアが大きく足を引き、ベスタが剣で弾いた。
  今のがよくかわせるもんだな。
  俺なら確実に喰らっていた。
  それでも、痛かったのは一瞬だ。
  すぐに熱さはやみ、痛みも引く。
  服やリュックサックに燃え移ることもないようだ。
  体だけが熱せられたのかもしれない。
  ロートルトロールが遅れて大きく腕を振った。
  ロクサーヌが何ごともなかったかのようにかわす。
  俺はお返しにサンドストームをぶち込んだ。
  セリーは、連発されないように槍をかまえて魔物をにらみつける。
  シザーリザードの全体攻撃魔法に致命的なまでの威力はないようだ。
  これなら一発二発で死ぬことはない。
  サンドストームを連発し、次を浴びる前に魔物を倒した。
 「これが全体攻撃魔法か」
  それでも、さすがに二桁は耐えられる自信がない。
  連発されると結構大変かもしれない。
 「単体の魔法より威力があるような気がしますが、気のせいでしょうか」
  ロクサーヌがシザーリザードの単体攻撃魔法を受けたときにはメッキをかけていた。
  いずれにせよ威力の正確な測定はできない。
  測るとしたら、何発浴びたら死ぬか、くらいだ。
  測りたくない。
 「分かりませんが、耐えられないほどではないですね。きついことはきついですがしょうがありません。何発かは耐えられそうですから問題ないでしょう」
  セリーは頼もしいことをおっしゃる。
 「はい、です」
 「革もあったのか」
  全員に順次手当てをかけていると、ミリアが革を持ってきた。
  革のブラヒム語は、すでに忘れているらしい。
 「そうですね。これくらいならたいしたことはないと思います。あ、手当てはもう必要ありません」
  ベスタにいたっては手当て一回で断ってくる。
  たくましすぎだろう。
  竜騎士だから堅いのだろうか。
 「危なそうじゃなくても、ダメージが残ってそうなら言え」
 「はい。大丈夫です。ありがとうございます」
  別に遠慮しているわけでもないようか。
  俺なら大丈夫と思ってから念のためにさらにもう一度自分に手当てしてしまうが。
  この差は何だろう。
  覚悟の違いだろうか。
  必要ないそうなので手当てを終え、探索を再開する。
  全体攻撃を喰らったとき、全員に手当てをかけるのは面倒だな。
  戦闘中に手当てが必要なくらいダメージを受けたら、間に合わなくなる恐れもある。
  全体手当てができる神官の早期取得が望まれる。
  あるいはセリーのジョブを巫女にするか。御秀堂養顔痩身カプセル第2代
  セリーを巫女もいいが、鍛冶師のレベルを伸ばしていきたい感じもするんだよな。
  これからもいろいろ新しい装備品を作ってもらうことを考えると。
  ミリアは暗殺者だし、ベスタには竜騎士があっているだろう。
  となると、消去法で残るのはロクサーヌか。
  ロクサーヌならどんなジョブでもこなしてしまいそうではある。
  まあそれはもっと厳しくなってからでいいだろう。
  その日は、夕方まで探索を行い、風呂を入れて一日の活動を終えた。
  ロクサーヌやセリーたちには夕食の後片づけや鍛冶も残っているが。
  遊び人のスキルに初級水魔法をセットすれば風呂を入れるのも楽になったし、今日は少し温度も高かったようだ。
  風呂でさっぱりするのがいいだろう。
  汗も少しはかいたはずだ。
  迷宮の中はそれほど暑くはないとはいえ。
  寝汗とか。
  朝方はベスタにひっついているとひんやりした感じもあるとはいえ。
  とにかく、風呂に入って一日を終える。
  風呂に入った後、少し運動もしたが、終える。
  色魔をつければ疲れることもない。
  腰の運動など、あってないようなものだ。
  翌朝、地図を持ってクーラタルの二十二階層に入った。
  さすがに二十二階層までくると早朝に入る必要はないかもしれないが、混んでたりしたら嫌だし。
 「ミリアのジョブだが、石化の剣を生かすため、暗殺者にしようと思う」
  二十二階層の入り口で、全員に告げる。
  昨日ついにミリアのジョブが戦士Lv30に達した。
  暗殺者と騎士もちゃんと取得している。
  黙って変えるのも悪いような気がするので、宣言した。
  いっても暗殺者だしな。
  嫌がらないだろうか。
 「はい」
 「確かに、毒付与なんかがあるといいそうです」
 「はい、です」
  ジョブの名前は暗殺者だが、別に嫌われているわけでもないようか。
  取り越し苦労だったようだ。
  まあLv1になるという問題もある。
 「新しいジョブに就くので、慣れるまで少しの間、ミリアは後列に回した方がいいだろうか」
 「必要ないと思います」
 「ギルド神殿でジョブを変更した場合でもパーティーを組んでいるのなら奴隷にそんな配慮はしません。必要ないのでは」
 「だいじょうぶ、です」
  ロクサーヌ、セリー、ミリアが大丈夫だと言い張った。
  パーティーの中にいれば他のパーティーメンバーが持つジョブの効果がその人に及ぶ。
  Lv1になったからといって極端に弱体化はしないのだろう。
 「うーん。問題ないのか」
 「いつまで後列にいればいいか分かりませんし、二十三階層より上の階層の魔物には全体攻撃魔法があるので、後列だからといって安心はできません」
  セリーのいうことは、この世界では合理的なんだろう。
  俺には獲得経験値二十倍があるし、レベルを見て判断することもできるが。
  ミリアが後列にいるのは多分クーラタルの二十二階層にいる間くらいだ。
 「分かった。だが、しばらくはくれぐれも慎重にな」
 「はい、です」
 「ベスタは硬直のエストックを試してみたくないか?」
 「ええっと。そうですね、興味はあります」
 「なら、魔物の数が少ないときには、ミリアは武器をベスタと交換して後列に回ってくれ。二匹以下ならそれで問題ないだろう」御秀堂養顔痩身カプセル第3代
  妥協案を出す。
  ミリアのジョブを暗殺者にするのは魔物が二匹以下のときにすればいいだろう。
  パーティージョブ設定でそれはどうにでもなる。
  魔物が三匹以上のとき戦士Lv30のままにしていても分からないはずだ。
 「はい、です」
 「ありがとうございます」
 「では、途中魔物の少なそうなところがあったら積極的に回ってくれ」
  ロクサーヌに地図を渡し、案内してもらった。
  魔物が二匹以下のときには、ロクサーヌとベスタが相手をする。
  ミリアのジョブを暗殺者にして、後列に回らせた。
  二匹だから横から攻撃させてもいいが、安全のため下がらせる。
  ミリアの暗殺者のレベルは順調に上がっていった。
  後はベスタの石化待ちだ。
  ベスタが魔物を石化させたのは二十二階層をある程度進んだときだった。
 「できました」
 「やった、です」
  クラムシェルが石化している。
  ロクサーヌが相手をしているクラムシェルとともに土魔法で始末した。
 「これでベスタも硬直のエストックの威力を感じただろう」
 「はい。すごい武器だと思います」
 「次からはミリアが専用で使ってくれ。ジョブを変えたばかりだから、あまり無理はしないようにな」
 「はい、です」
  暗殺者はLv5まで進んでいる。
  前列で戦わせても大丈夫だろう。
 「ではボス部屋まで頼む。魔物の少ないところにはもう回らなくていい」
  指示を変更し、ロクサーヌの先導で進んだ。
  途中何度か戦ったが、ミリアの石化がいきなり増えたということはないようか。
  それはそれでいい。
  というか、むしろその方がいいのかもしれない。
  暗殺者のスキルには状態異常確率アップがある。
  暗殺者になっていきなり石化の確率が上がったら、そのスキルが効いたということだ。
  いきなりは上がらなかったとしても、状態異常確率アップのスキルが効いていないということでは、必ずしもない。
  暗殺者になってもいきなりは石化の確率が上がらないのなら、状態異常確率アップは暗殺者のレベル依存になっている可能性がある。
  ミリアはこのまま暗殺者で使っていくつもりだ。
  レベルもすぐに上がるだろう。
  状態異常確率アップはレベル依存であった方が、最終的には確率がアップするかもしれない。
  レベルが上がるのを楽しみにしておこう。
  オイスターシェルに対してはミリアの石化が発動した。
  暗殺者のおかげ、かどうか。
  博徒の状態異常耐性ダウンとの相性はいいのかもしれない。
  しかしオイスターシェルは元々貝殻なので石化してもよく分からんな。
  動かないだけで。
  料理人はつけずに、デュランダルをしまって魔法で片づける。
  狙いどおり、オイスターシェルは牡蠣を残さなかった。
  残されても一個だけでは困る。
  残したボレーはベスタに渡す。
  ベスタにボレーが必要なことを考えると、クーラタルの二十二階層はこれからもまだ世話になるな。
  人の多い夕方にどれくらいボス部屋が混雑するか、確かめておいてもよかったかもしれない御秀堂 養顔痩身カプセル

2013年11月12日星期二

東と西で

「本当か?」
  ルーベンスはフランクリンからの報告に耳を疑い、思わず聞き返していた。
  まさかアウラニースがとっくの昔に復活していたとは。天天素
 「ええ、どうしますか?」
  フランクリンの質問にルーベンスは短くない時間考え込んでいたが、やがて答えた。
 「仕方あるまい。まずベルガンダを潰せ」
 「はい、その後はどこがいいですか?」
  母親が子供に何が食べたいのか問うような口調でフランクリンは尋ねた。
  答えるルーベンスの口調も何気ないものだった。
 「ベルガンダと隣接している国全てだ。攻め滅ぼせ」
 「了解」
  人類に危険極まりないやり取りを終え、ルーベンスはため息をついた。
  アウラニースは唯我独尊で天衣無縫だが、こんな展開は完全に想像外だった。
  正直なところマリウスと戦う為にアウラニースの力をアテにしていたのだが、協力してもらえない可能性そのものは予想していた。
  だからルーベンスはゲーリックとメルゲンを連れ、アルベルト達と別行動をしているのだ。
 「まさかアウラニース様が既に復活しているとは……」
 「我々に一言知らせがあってもよさそうなものですが」
  メルゲン、ゲーリックの順である。
  両者とも困惑を隠せないでいた。
 「そういう方なのだ、アウラニース様は。側近のソフィアやアイリスもいつも振り回されていたな」
  ルーベンスの言葉には呆れ以外にも懐かしさが混ざった。
  魔人ソフィアと魔人アイリスはアウラニースの側近の上級魔人であり、ルーベンスとも顔なじみだった。
  どちらも倒されたという話は聞かないから、もしかしたら彼女達が主人を復活させたのかもしれない。
  事前にルーベンスに知らせるなど、彼女らの選択肢にあったとは思えない。
  顔なじみと言っても見かければ言葉を交わす程度で、積極的に情報を交換したり行動を共にしたりするような仲ではなかった。
  そして封印を解いた事を教えるかはアウラニースのその時の気分次第である。
  それくらいの事は理解していた。
 「恐らく他の大陸にいらっしゃるのだろう。……この大陸が無事だからな」
  物騒な判断方法でルーベンスは結論を出す。
  アウラニースの恐ろしさ、強さは言葉ではとても表現出来ない。
  計画が狂ってしまったが、ルーベンスはその事を態度に出さず、指示を待つゲーリックとメルゲンに言葉をかけた。三鞭粒
 「予定通り、フランクリン達が動いてからフィラートへ入るぞ」
 「はっ」
  彼らはデカラビアを復活させる為にホルディアに向かっていて、今はランレオ国内にいた。
  旅人が国境を通過する際、素性確認をされるのだが三人は堂々と突破した。
  担当した兵士の目が節穴だと責めるのは気の毒だ。
  ゲーリックは家族や親友すら気づかぬくらいの変装がスキルで可能だし、ルーベンスとメルゲンはマジックアイテムで変装していたのだ。
  一流の魔法使いならばあるいは違和感を覚えたかもしれないが、それだけの人材が国境で素性確認などを担当しないのが人類国家というものである。
  マリウスにしろ他の者にしろ、まさか魔人が律儀に国境を通過するとは想像していなかった。
  もちろん魔人にとってこれは屈辱的なのだが、ルーベンスは別に人類の裏をかいたつもりはない。
  従来通りの方法でフィラートを通過した場合、マリウスやゾフィに察知される危険があると踏んだのだった。
  人間になる事が役目の一つであるゲーリックはともかくメルゲンはやや不満そうだったが、マリウスの危険性が理解出来ぬ程愚かではなかったらしく、何も言わなかった。
  マリウスがいる可能性は低いと知りながら、それでも安全の為にルーベンスはフランクリン達を囮代わり使ったのだ。
  仲間を大切にするルーベンスにとっては屈辱であった。


  ルーベンスとの通話を終えたフランクリンは、仲間達に向き直った。
  連絡を取るより先に一度合流していたのである。
 「まずはベルガンダを潰し、その後は隣接国家全部を攻撃だそうですよ」
  レーベラが口笛を吹き、ガスタークが手を叩いて喜びを表現した。
  これまでが嘘のような過激な命令であった。
 「ルーベンスさん、やけに好戦的だな。……まあいい加減我慢の限界だったし、いいんだけどよ」
  アルベルトはほんの一瞬だけ疑問を持ったが、すぐに打ち消した。
  彼はレーベラ並みに短気で好戦的なのだった。
  むしろ温和で冷静なフランクリンやパルが少数派である。
 「俺、忙しくなりますねぇ」
  ガスタークも闘志を燃やしていた。
  自分が作ったアンデッド兵達が人類国家を蹂躙するというのは、想像しただけでも愉快で仕方がなかった。
  パルだけは相変わらずの無表情を決め込んでいたが、突然ピクリと眉を動かした。
 「フランクリン様、アルベルト様」
  呼びかけの意味を二人の上級魔人は理解していた。
  遠くから大多数がこちらに接近してきている。
  十中八九、異変を察した人間達の兵であろう。
 「ええ、ちょうどいい時に来ましたね」
 「はっ、血祭りに上げてやるか」
  穏やかだった二人の魔人の気配が剣呑なものへと変わっていく。
 「一国を潰すなんざ、チンタラしてたら時間を食う。俺らもやるが文句ねえよな?」
  アルベルトが問いかけたのは主にレーベラとガスタークである。
  事実上の命令を拒否出来るはずもなく、二人は頷いた。威哥王三鞭粒
 「じゃあゾンビどもを下げとけ。俺とフランクリンで片づけるからよ」
  アルベルトは凶悪な笑みを浮かべた。
  巻き添えを食らいたくないパル、レーベラ、ガスタークは素直に城門の中へと退避する。
  遠くからベルガンダ正規軍が近づいてくる。
 「フランクリン、どっちが多く殺るか競争しねえか?」
  とんでもない提案をされたフランクリンは眉を片方だけ上げた。
 「構いませんが、ちゃんと細かく数えて下さいよ。いつも君はいい加減なんですから」
  お説教に近い意見にアルベルトは小さく舌打ちしながらも頷いた。
 「分かってんよ。ズルして勝ってもつまらねぇからよ」
  その点に関してフランクリンはアルベルトを信用していた。
  いい加減で大雑把で行き当たりばったりで短気であっても、仲間に対して不正行為をするような性格ではないのだ。
 「おい、褒めてんのか、それ?」
  アルベルトの疑問にフランクリンは穏やかに微笑んで答えた。
 「君は信頼するに足る戦友です。それで充分ではありませんか?」
 「……はぐらかされたような気がするけどまあいいや」
  フランクリンは口で勝てる相手ではない。
  アルベルトは早々に諦め、ベルガンダ軍の方を向いた。
 「攻撃は公平なように同時にやるぜ?」
 「ええ」
  ベルガンダ軍はようやく魔人に気づいたのか、一キロ程手前でようやく行軍速度を落としたが既に手遅れだった。
  アルベルトとフランクリンの攻撃の射程距離に入ってしまっていた。
  アルベルトは全身の魔力を練り込み、正拳突きのように右拳を突き出す。
  拳から放たれた衝撃波が空気を切り裂くような音を立て、ベルガンダ軍を襲う。
  ベルガンダ軍は何が起こったのか全く認識出来ずにいた。
  味方の兵士達が吹き飛ぶと同時に音が聞こえてきたのだった。
  アルベルトの得意技「ソニックショット」は原理としては人間の武術で言う「遠当て」と同じである。
  魔力を練ったものを飛ばし、触れずに敵を倒すのだ。
  ただ、威力や射程距離が人間のそれとは完全に別物であった。
  アルベルトの出身種族、グリフォンは魔力を衝撃波に変えるのが得意とする魔獣なのだ。
  一方のフランクリンは、普通に人間の魔法を使った。
 「ちょっと合成してみますか。【インフェルノ】【クレイアサルト】【プラズマストーム】」
  闇系魔法と炎系魔法の合成魔法「インフェルノ」、土系魔法と水系魔法の合成魔法「クレイアサルト」、炎系魔法と雷系魔法の合成魔法「プラズマストーム」はいずれも限りなく禁呪に近い一級魔法とされる。
  詠唱省略で放ったにも関わらず、絶大な破壊力を発揮している上にフランクリンは汗ひとつかかずに平然としていた。
  ベルガンダ軍兵士達は黒い炎で焼かれ、土石流に飲み込まれ、プラズマで蒸発した。
  フランクリンの出身種族、スフィンクスはモンスターとしては例外的に優れた知能と強大な魔力を活かした魔法攻撃を得意とする。
  魔人ともなれば、人間の一流魔法使いが束になってもまとめて蹴散らされる程だ。
  ましてや上級魔人となれば言うまでもない。
  帝都救援の為にやってきたベルガンダ軍二十万はあっけなく全滅した。
  ……これより数日後、歴史からベルガンダ帝国の名は消される事になる。
  この国が救われるには、本気の魔人は強すぎた。威哥王


  魔軍が東で猛威を振るい始めていた頃、西ではミスラ、バルシャーク、ヴェスターの三カ国連合軍が快進撃を見せていた。
  国境の砦は占拠しそこねたものの、周辺の都市は支配下に治めていきつつあり、本国では早くも戦勝気分が広がり始めている。
  バルシャーク王ジェシカとミスラの大統領フレデリックは自身の声望の為に、それを否定せずにいた。
  ホルディア側の抵抗が弱い事が意外すぎたが、国内改革による混乱が大きいのだろうという声が多数を占めている。
  ジェシカもフレデリックも大して疑いを持っていない。
  人間とは失敗を犯す生き物だし、アステリアのように全て自分一人で考えて決める体制の場合、取り返しのつかない失敗もやらかしたりするものだ。
  臣下達は失敗の可能性を想定してもきっと諌言出来なかったのだろう、と予想していた。
  ちなみにこの点に関しては全くの的外れというわけでもない。
  アステリアは諫言を行う者を粛清したりはしなかったが、受け入れて方針を改める事もなかったのである。
  ただ連合軍も順風満帆だったとは言いにくい。
  略奪が全く出来ず、売り飛ばす奴隷や金品の類も手に入らなかった為に計画を修正する必要が出てきたのだった。
  住民がいないのでは税収も農作物の収穫も見込めないし、戦争中とあっては商人や旅人の類も寄り付かない。
  収益を確保する為には本国から民を入植させる必要があるだろう。
  だが、ホルディアに致命的打撃を与えたわけでもないのにそこまでするのはさすがに躊躇した。
  ホルディアが逆襲に転じた場合、軍どころか民に被害が出る可能性があるし、それは一番避けなければならない。
  そういう理由で「さっさとホルディア軍に打撃を」となっている。
  そして援軍の派遣が決まったのだ。
  チャンドラーが舌打ちをし、ガレスが頭を抱えている理由である。
  ランドルは王のジョンソンが喜ばずに慎重な態度を変えていない為、他と比べればまだマシだった。
  ただ、国内では慎重論よりも積極論が勝り始めていて、そういう意味ではあまり宜しくはない。
  バルシャークとミスラだけが都市を占領しているのが嫌なのである。
  王が絶対的権限を持っているとは言え、失望されたり無能だと思われても平然とするにはジョンソンはプライドが高かった。
 「美味しい部分はきっちり抑えるよう、ランドルに命令を出せ」
  こうして多少の時間差があってランドルも他の二将の仲間入りをする事になった。
 「現場との温度差を作り出す作戦か?」
  チャンドラーはガレスとランドルに問いかけてみた。
  この三人は急速に仲よくなりつつあるな、と思いながら。
 「そしてその先は離間の策か? ありえんとは思うが、それだけの為に自国領を差し出す真似をするかな?」
  ランドルは豆のスープを飲んだ後、珍しく嫌味抜きで答える。
 「まあな。我々と本国の仲が悪くなっても、別の将が来るだけだ。もちろん、その将相手なら勝算は増えるという可能性はあるが……」
  ガレスも鶏肉の串焼きにかぶりつきながら首をかしげる。
  結局この日も結論は出せず、定期的に情報交換をする事と索敵を怠らない事を約束しあって解散した。
  彼らはまだこの時、東での異変を知らなかった。MaxMan
  つまり本国へ撤退する最大の好機を逸した事になる。

2013年11月11日星期一

運ばれるお話

「わかった。じゃあ今日はよろしく頼むよ」
 「了解なのです! ここまで言わないとパーティー組んでくれないとか、九乃さんは本当に性根から歪んでますね~。わたしが叩き直してあげますから、覚悟するのです!」
 「……ボスを倒しにいくんだよな?」花痴
 「当たり前じゃないですか」
 「だよな」
なにやらフレイが物騒なことを言ってるんだが……ホントに大丈夫か?
 「ちなみに、俺が頑固に行かないっていったらどうするつもりだったんだ?」
 「悲しくなるつもりでした。九乃さんは乙女を悲しませるような人じゃなかったようで一安心です」
 「……うん、それは確かに俺も一安心だ」
 「じゃ、そういう訳なので、今日は引きこもりはNGですよ?」
 「わかってるって……」
 俺の初パーティー戦か。どうなることやら。
その後。
 二時限目の途中で俺は本格的にだるくなったので、保健室に行きましたとさ。
ベッドで昼寝したら全回復だぜ! 玲花が滅茶苦茶心配してたが、丈夫さが取り柄なんだって。むしろ俺がここまでになるとか、俺は昨日どんだけ脳を使ったんだって話だ。
まぁ、VR酔いは脳が慣れれば、同じ原因では再発しないからもう大丈夫だけども。何事も、慣れって大切だよね~。

  ―――

「はい、では只今より、いつまでたっても第二のボスを倒さないクノさんのために、ギルド総出でソルビアルモスを倒しに行きますよ~!」
 「「「「「おー」」」」」
 「ウウレ」の北門。
  そこに、「花鳥風月」の全メンバーが集まっていた。
  ここをまっすぐ進んでいくと、フィールド「恐れの花畑」に到着する。この間だいたい1キロだそうだ。
  どのエリアも、ボスのいるフィールドまでは1キロほどなんだな。第三のボスがいるフィールドまでの道のりもそうだったらしい。
  まぁ、それはいいや。
  で、その「恐れの花畑」の奥に、ボスであるソルビアルモスが出てくるということだな。
 「ではしゅぱーつ……の、前に。クノさん」
 「ん?」
 「あー、その、ごほん……ぶっちゃけクノさんは行軍の足手まといなんですよー」
 「ぐはっ」
  なにやら、棒読みでそんなことを言うフレイ。
  おいこら。
  何いきなり毒吐きやがるよ。棒読みだけど。
  仲間に頼りましょう、迷惑なんかじゃないです、とか言っときながらそりゃないんじゃない……? 棒読みだけど。
 「クノさん。私達は普通にAgiにもステータス振ってますから、ボスまでは終始早歩き……クノさんからするとちょっとしたランニングですが、体力持ちませんよね?」
 「……おっしゃる通りです」福源春
  その通り、俺がボスんトコまでいこうと思ったら、途中の戦闘も考慮するとスタミナ的に、てくてく歩いて行くしかない。フィールドの広さを考えると、道中のモンスターを全て無視しても30分はかかるんじゃないか? 戦闘していったら倍はかかるか?
  はぁ。ほら、こういうところで地味に迷惑がかかるのが俺って奴だ。だからパーティープレイは好きじゃない。
 「でも今日はなるべくちゃっちゃとボスまでたどり着きたいんですよ。私達はここのボスは既に倒しているので、時間がもったいないですから」
 「うん。なんでさっきからそんなに言葉がきついの?」
  追い打ち気味なフレイの言葉。
  なんかいつもと様子が違う。
  具体的には、なんか変な、引きつった笑みを浮かべながら俺を罵倒してくる。意味わからん。腰引けてるし。棒読みだし。
 「あの子、クノさんの歪んだ性根を叩き直すんだ、と言って張り切ってたけれど」
 「私式スパルタなのです、とも言っていたね」
 「なんだそりゃ」
  エリザとカリンが隣に来てこそっと教えてくれる。
  叩き直すっていうか、なんか違うよね。スパルタっていうか、SMだよね。いやそれも違うけど。
  手段にとらわれて目的を見失って更にその手段もずれてるという訳わかんないことになっちゃてる。
  完全に無理してるだろ。お前にはそんな厳しめの役割は似合わんよ……
 いや、言葉はいちいち正確なんだけど、それ以前の心構えとかがもう駄目だ。
 「ふー。こ、こんなもんですかね……という訳で、じゃーん! 私こんなもの買ってきました!」
  そういってフレイが、急に声の調子をがらっと変える。
  あれ? スパルタ(笑)は諦めたのか? や、そのほうがお互いのためだろうけど……一体何がしたかったんだよ……
 メニューをいじって実体化させたものは……なんだこれ?
  木箱にコの字の取ってと大きな車輪がついた、えっと……リアカー?
  小さめで、人一人乗れるかどうかという。
  まさか。
 「はい、何か気付いたような顔してますねぇ! その通りですよ! これにクノさんを乗っけて、私がボスの所まで走っちゃいます!」
 「まじですか?」
 「まじですっ」
  何かの反動のようにテンション高めのフレイ。いや、いつものフレイ。
  いやまぁ、確かに合理的だけども。フレイのステータスならこのくらい訳ないだろうけども。
  ……恥ずかしいじゃない?
  女の子の引くリアカーに乗せられてる俺……シュールすぎる。
  ってか、アイテムショップにはこんなものまで売ってんのかよ。
 「安心するといい。道中引っかけたモンスターは全て後続の私達が倒すから」
 「レベル的には格下なのだしね、楽勝よ。フレイとクノが先頭切って、私達が後を追う形になるかしら。」
 「クノさん……頑張ってくださいね?」
 「後ろは任せろー!」
 「ということですっ」
  満面の笑みを浮かべるフレイ。
  ああうん。もう、いいや。フレイがそれでいいって言うのなら、俺が文句をいう筋合いは無いかな。
  せめて騎獣があればなぁ……
 もしくは、用途に合わせて専用装備的な感じで防具を換装できれば、俺もエリザにAgi特化防具作ってもらってそれ装備するんだが、あいにくとフィールド内では「防具」の変更はできないんだよなぁ。「武器」と「アクセサリ」は出来るけど。勃動力三体牛鞭
  まぁ、できたとしてもそれはそれで、Str極振りとしては邪道な気がするからやらなかったかもだけど。
 「おっけ、わかった。じゃあ頼むぞフレイー」
 「任せてください!」
 「よっこらせ、と」
  フレイが持ち手を支える、小さなリアカーに乗り込む俺。
  スペースが狭いので体育座りだ。
 「ぷっ、くくくく」
 「おいこらエリザ。何笑ってんだ」
 「い、いえ、笑って無いわよ?」
 「口元にやけてる上に眼が泳いでるから」
 「……くっ。貴方がそんなシュールな格好してるのが悪いのよ!」
 「逆ギレ!?」
  エリザは随分と……なんというか、感情表現が豊かになってきた気がする。
  それだけ信頼されてるってことかな?
  や、まぁ。それでもデフォは無表情なんだけど。
 「ドナドナドナドナ……」
 「カリンも不吉なこと言ってんじゃないよ」
 「……はい、良くお似合いです」
 「……うん。流石クノくんだね」
 「ノエル! リッカ! やめて!? そんなに引かないで!?」
  良くお似合いですって何!? 何に対してのフォローだよそれ!
 「はい、では今度こそしゅっぱーつ!」
 「え、まじで? いやちょっとまぁぁぁあああ!?」
  慌ててリアカーにしがみ付いた直後。
  俺の身体に猛烈な加速がかかる! 
  ちょ、速い、速すぎるよフレイ! 落ちる落ちるっ。こんな序盤からぶっ飛ばしてて大丈夫か!? エリザ達をぶっちぎってるぞ!?
  って言う不平を伝えることもできずに。
  ……うへ、気持ち悪ぃ……眼がなんかくらくらする……耳がギュオオ! ってなってる。
 「いえぇぇえい! とばすぜー!」
  こういうところでもAgiだのVitだのが足りないツケが回ってくるというのか。
  俺は直接加速の風にさらされながら、振り落とされないようにされるのが精いっぱい……あ、Vitがないからしがみつく力が弱まってきた!
  そして、その時は無情にも早くにやってきて、
 「うわぁ」
  遂に完全に手が離れてしまった。
 「あわっわわわ」
  落ちるっ! まずい、この速さから落ちたらダメージも相当じゃないか!?
  移動途中に死に戻りとか、洒落になら……
 ……
 ……?
  アレ? なんともない。
  未だ風は吹きつけてくるものの、何故か俺の身体が振り落とされる様子はなかった。
  あらら?
  不思議すぎる……流石、ここら辺はゲームだなぁ、と感心だ。
  まぁ、考えればリアカーに乗せた荷物が途中で転落するのを防ぐ、というのは普通のこと……今更だけど俺荷物扱いか……!?
  ちょっと落ち込みながら、それでも転落の心配のなくなった俺は、特にやることもないので風景を見ながらぼーっ、とする。吹き付ける風は、慣れれば意外とそうでもなかった。
  後ろに小さくエリザ達が見える。
  俺達は寄ってくるモンスター(ソウトバグの上位互換、デイトバグや、巨大芋虫のキャレピン、蝶型のバルタギイなど)をぶっちぎって進んでいる。
  同じパーティー登録をしてあるエリザ達がそいつらの相手をするため、どうしても遅くなってしまうのだな。御苦労さまです。蒼蝿水
  とはいえ、レベル差のせいでエリザも言っていたように“楽勝”なんだろうが。
  ここのモンスターの平均レベルは大体27。対してうちは軒並み37を超えている(俺を除いて)。カリンに至っては40超え、ただいま43だ。
  俺と9も差があるぜ……泣けてくらぁ。
  【異形の偽腕】の訓練をするまえに、レベルをちょいと上げなきゃかな……
「おおおぉぉぉお! スパルタですー!」
  ……はぁ。
  フレイ、そりゃお前にとってだろ、どっちかというと。やっぱ、向いてないな。
  後、そんな大声ださないで欲しい……さっきからちらほらとすれ違うプレイヤーさん達にガン見されてるから。
  俺はいたたまれなくなって、体育座りの膝に顔をうずめ、眼を閉じるのだった。

  ―――

 ボス前のセーフティエリア。
  俺とフレイはそこで一息ついていた。
 「ふぅ、良い汗かきましたぁ」
 「VRだから汗はかかないはずだぞ?」
 「気分ですよ気分っ」
  他の皆もそろそろ追いついてくる頃かな?
  あ、そう言えば地味に俺、レベルアップしました。
  パーティー登録をしていると、パーティーで倒したモンスターの経験値は、パーティーメンバー全員にいきわたるんだよな。
  それでもともとレベルアップが近かったのか、俺は何にもしてないのに勝手にレベルアップ。
  こういうのなんていうんだっけ……寄生?
  ……がーん。
  とりあえず近場の樹に手をついてもたれて、心を落ち着ける。
  大丈夫だ、ボス戦で挽回できる! ……でもそもそもボス自体、皆にとっては倒す必要もないわけで。
  ……まぁ、うん。深く考えたら負けだな。
  折角頼ろうって決めたんだし、少しぐらい迷惑かけても……うんそう、少しくらい……
 あ、でも俺ボス戦でも得意分野?である近接戦NGって言われてるからなぁ……
 と、俺が感情のデフレスパイラルにはまっていると、カリン達が追いついてきた。
 「流石はフレイね……荷物を抱えた状態でもあの速度なんて」
  真顔でそんなことをのたまうエリザ。
 「酷ぇな、おい。荷物て」
 「ふふっ、なんて冗談よ。ごめんなさいね、クノ」
 「……うん、冗談かよ。エリザの冗談は分かり辛すぎる」
 「そうかしら?」
  エリザが、ホントにきょとん、とした様子で小首を傾げる。
  頭の上に?マークでも出てきそうな勢いだ。
 「自覚がないっ……!?」
 「エリザは理知的と見せかけて意外と天然だからね……」
  カリンも苦労してそうだな……SEX DROPS