あれから一週間の時が流れた。
俺は未だに城の近隣を拠点に活動している。
「おい、盾のあんちゃん」
「ああ!?」
城を飛び出し、インナー姿という半裸姿で町を歩いていると武器屋の親父に呼び止められた。
ちょうど武器屋の前を歩いていたというのも理由だが、何のようだと言うのだ。levitra
「聞いたぜ、仲間を強姦しようとしたんだってな、一発殴らせろ」
俺の話など最初から聞くつもりの無いのか親父が怒りを露にして握り拳を作っている。
「てめえもか!」
どいつもコイツも俺の話を聞くつもりがありやしねえ。
そりゃあ、俺はこの国、この世界からしたら異世界人で常識には疎いのかもしれないが、間違っても嫌がる女を犯すような真似は絶対にしない。
あー……なんだ。武器屋の親父があのクソ女の顔に見えてきた。
今なら殴り殺せそうだ。
俺も強く拳を握って睨みつける。
「う……お前……」
「なんだよ。殴るんじゃなかったのか?」
親父は握り拳を緩めて警戒を解く。
「い、いや。やめておこう」
「そうか、命拾いしたな」
今ならどんなに攻撃力が低くても満足するまで人を殴れる自信がある。
しかし、無意味に殴るのもなんだと自分を言い聞かせ、これからの活動のために金稼ぎに行こうとする。
バルーンでも殴れば少しは気が晴れるだろう。
「ちょっと待ちな!」
「なんだよ!?」
城門を抜けて草原に行こうとする俺に武器屋の親父がまた呼び止める。
振り返ると小さな袋を投げ渡される。
「そんなカッコじゃ舐められるぜ。せめてもの餞別だ」
袋の中を確認すると少し煤けたマントと麻で作られた安物の服が入っている。
「……ちなみに幾らだ?」
「銅貨5枚って所だな。在庫処分品だ」
「……分かった。後で返しに来る」
下着で動き回るものさすがにどうかと思っていた所だ。一応、商売として受け取ろうじゃないか。
「ちゃんと帰って来いよ。俺は金だけは信じているんでな」
「あーはいはい」
俺はマントを羽織ながら、服を着て、草原へ出るのだった。
それから俺は草原を拠点にバルーン系を討伐していった。
「オラオラオラオラオラオラオラ!」
一匹、五分掛かるが幾ら噛み付かれてもダメージを受けないので困る事態は無い。
憂さ晴らしに一日中戦って、ある程度のバルーン風船を手に入れた。
レベルアップ!
Lv2になりました。
オレンジスモールシールド、イエロースモールシールドの条件が解放されます!
そして、念には念をで色々と仕込みや下調べを日中に行う。
夕方頃になり、俺は空腹を覚えた。
渋々、城下町に戻り、魔物の素材を買い取る商人の店に顔を出した。
小太りの商人が俺の顔を見るなりへらへらと笑っていやがる。
……思いっきり足元を見るつもりだな。
見るだけで分かる。
先客が居て、色々な素材を売っていく。
その中に俺が売ろうと思っているバルーン風船があった。
「そうですねぇ……こちらの品は2個で銅貨1枚でどうでしょう」
バルーン風船を指差して買い取り額を査定している。
2個で銅貨1枚か……。
「頼む」
「ありがとうございました」
客が去り、次は俺の番になった。
「おう。魔物の素材を持ってきたんだが買い取ってくれ」
「ようこそいらっしゃいました」Motivator
語尾にヘヘヘと笑っているのが聞こえないとでも思ったのか。
「そうですねぇ。バルーン風船ですねぇ。10個で銅貨1枚ではどうでしょうか?」
5分の1! どれだけ足元を見やがる。
「さっきの奴には2個で銅貨1枚って言ってなかったか?」
「そうでしたかね? 記憶にありませんが?」
何分、うちも商売でしてねぇ……等と言い訳を続けている。
「ふーん。じゃあさ」
商人の胸倉を掴み、引き寄せる。
「ぐ、な、何を――」
「コイツも買い取ってくれよ。生きが良いからさ」
ガブ!
俺はマントの下に隠れて噛み付いているオレンジバルーンを引き剥がして商人の鼻先に食いつかせる。
「ギャアアアアアアアアアアアアア!」
転げまわる商人の顔に引っ付いているバルーンを引き剥がしてやり、商人を足蹴にする。
「このままお前を草原まで引きずって、買い取って貰おうか?」
マントの下に隠していた5匹のバルーンを見せ付ける。
そう、幾ら噛み付かれても痛くも痒くも無いなら、引き剥がして誰かに引っ付けることが出来るのではないかと閃いたのだ。
我ながら名案であり、こうして交渉の役に立っている。
如何せん。攻撃力が無いので、脅しが出来ないしな。
コイツも理解するだろう。俺がそれを実行した時、自分が骨すら残らずバルーンの餌食になる未来を。
「高額で買えとは言わんよ。でも相場で買取してもらわないと話しにならないからさ」
「こんな事をして国が――」
「底値更新するような値で冒険者に吹っかけた商人の末路はどうなんだ?」
そう、この手の商人は信用が第一、俺を相手ではなく、普通の冒険者相手にこんな真似をしたら殴られかねない。
しかもだ。客が来なくなるオプション付きだ。
「ぐ……」
睨み殺さんとばかりに恨みがましい目を向けていた商人だったが、諦めたのか力を抜く。
「……分かりました」
「ああ、下手に吹っかけたりせず、俺のお得意様になってくれるのなら相場より少しなら差し引いても良い」
「正直な所だと断りたい所ですが、買取品と金に罪はありません。良いでしょう」
諦めの悪い人物だと理解したのか、買取商は俺のバルーンを相場よりちょっとだけ少なめで買い取ってくれた。
「ああ、俺の噂を広めておけよ。ふざけたことを抜かす商人にはバルーンの刑だ」
「はいはい。まったく、とんだ客だよコンチクショウ!」SPANISCHE FLIEGE
こうして今日の稼ぎを手に入れた俺はその足で武器屋の親父に服とマントの代金を払い。飯屋で晩飯にありついた。
ただ、何故かまったく味がしない。最初はふざけているのかと思ったが俺の味覚がどうかしているようだ。
宿? 金が無いから草原で野宿だよ! バルーンに噛み付かれていたって痛くも無いから問題ない。
次の日の朝、目が覚めると鳥葬みたいにバルーンに食いつかれていたけど、ストレス発散に殴り割りをしてやった。
朝から小銭ゲットだぜ!
それからは死に物狂いで戦わずとも金の稼ぎ方を覚えた。
まず、バルーンの戦利品以外にも売れる品を見つける。
それは草原に群生している薬草である。
薬屋の卸問屋から売っている薬草を見て覚え、買取をしている店を見つける。
後は草原で似た草を摘んでいると、盾が反応した。徐に採取した薬草を盾に吸わせる。
リーフシールドの条件が解放されました。
そういえばウェポンブックを見ていなかったな。
俺はウェポンブックを広げて点灯している盾を確認する。
スモールシールド
能力解放! 防御力3上昇しました!
オレンジスモールシールド
能力未解放……装備ボーナス、防御力2
イエロースモールシールド
能力未解放……装備ボーナス、防御力2
リーフシールド
能力未解放……装備ボーナス、採取技能1
ヘルプで再確認する。
『武器の変化と能力解放』
武器の変化とは今、装備している伝説武器を別の形状へ変える事を指します。
変え方は武器に手をかざし、心の中で変えたい武器名を思えば変化させることが出来ます。
能力解放とはその武器を使用し、一定の熟練を摘む事によって所持者に永続的な技能を授ける事です。
『装備ボーナス』
装備ボーナスとはその武器に変化している間に使うことの出来る付与能力です。
例えばエアストバッシュが装備ボーナスに付与されている武器を装備している間はエアストバッシュを使用する事が出来ます。
攻撃3と付いている武器の場合は装備している武器に3の追加付与が付いている物です。
なるほど、つまり能力解放を行うことによって別の装備にしても付与された能力を所持者が使えるようになるという事か。
熟練度はおそらく、長い時間、変化させていたり、敵と戦っていると貯まる値だろうな。
何処までもゲームっぽい世界だ。
ウンザリした思いをしつつ、リーフシールドの装備ボーナスに興味を引かれる。
採取技能1
おそらく、薬草を採取した時に何かしらのボーナスが掛かる技能だろう。
今、俺は金が無い。
ともすればやることは一つ、どれだけ品質が良くて労力の低い物を手に入れるかに掛かっている。
俺は迷わずリーフシールドに変化させた。
シュン……という風を切るような音を立てて、俺の盾は植物で作られた緑色の草の盾に変わる。
……防御力の低下は無い。元々スモールシールド自体が弱すぎたのだ。
さて、目の前に群生している薬草を摘んでみるか。
プチ。
良い音がして簡単に摘み取れる。
ぱぁ……
何か本当に淡く薬草が光ったように見せた。
採取技能1
アエロー 品質 普通→良質 傷薬の材料になる薬草
アイコンが出て変化したのを伝えてくれる。
へー……簡単な説明も見えるのか、思いのほか便利だな。
その後は半ば作業のように草原を徘徊し袋に薬草を入れるだけでその日は終わった。
ちなみに採取をしていた影響なのか、それとも変化させて時間が経過したからかリーフシールドの能力解放は直ぐに終わった。SPANISCHE FLIEGE D9
ついでに他の色スモールシールドシリーズもその日の内に解放済みとなる。
そして俺は城下町に戻り、袋を片手に薬の買取をしてもらう。
「ほう……中々の品ですな。これを何処で?」
「城を出た草原だよ。知らないのか」
「ふむ……あそこでこれほどの品があるとは……もう少し質が悪いと思っていましたが……」
等と雑談をしながら買取をしてもらう。この日の収入は銀貨1枚と銅貨50枚だった。
今までの収入としてはかなり多い。むしろ記録更新だ。
ちなみに酒場で飯を食っていると仲間にして欲しいと声をかけてくる奴がチラホラと出てくる。
どいつもガラの悪そうな顔の奴ばかりでウンザリした。
……あの日から何を食べても味がしない。
酒場で注文した飯を頬張りながら何度目かの味覚の欠落を自覚する。
「盾の勇者様ー仲間にしてくださいよー」
上から目線で偉そうに話しかけてくる。
正直、相手にするのもわずらわしいのだけど、目つきが、あのクソ女と同じなので腹が立ってきた。
「じゃあ先に契約内容の確認だ」
「はぁい」
イラ!!
落ち着け、ここで引き下がると何処までも着いて来るぞこの手の連中は。
「まず雇用形態は完全出来高制、意味は分かるな」
「わかりませーん」
殴り殺したくなるなコイツ!
「冒険で得た収入の中でお前等に分配する方式だ。例えば銀貨100枚の収入があった場合、俺が大本を取るので最低4割頂く、後はお前等の活躍によって分配するんだ。お前だけなら俺とお前で分ける。お前が見ているだけとかならやらない。俺の裁量で渡す金額が変わる」
「なんだよソレ、あんたが全部独り占めも出来るって話じゃねえか!」
「ちゃんと活躍すれば分けるぞ? 活躍出来たらな」
「じゃあその話で良いや、装備買って行こうぜ」
「……自腹で買え、俺はお前に装備を買ってまで育てる義理は無い」
「チッ!」
大方、俺が装備品を買ってやって、無意味に後ろに着いてこようとしていたのだろう。
挙句の果てにどこかで逃亡して装備代を掠める。
汚いやり方だ。あのクソ女と同類だな。
「じゃあ良いよ。金寄越せ」
「あ、こんな所にバルーンが!」
ガブウ!
「いでー! いでーよ!」
酒場にバルーンが紛れ込んだと騒ぎになったけど俺の知ったことではない。騒いでいる馬鹿に噛み付くバルーンをサッと引き剥がし、食事代を置いて店を去った。
まったく、この世界にはまともな奴は居ないのか。
どいつもコイツも人を食い物にすることしか考えてない。
とにかく、そんな毎日で少しずつ金を貯め、気が付いた頃2週間目に突入した。SPANISCHE FLIEGE D6
2013年10月11日星期五
2013年10月9日星期三
決別
ボスっぽい大物の所に戻ってみると志願兵と村人達が気絶した勇者達を守っていた。
余計な事を……。
さて、お楽しみの波の素材を盾に吸わせる作業なのだが、今回はゴブリンアサルトシャドウとリザードマンシャドウは名前通り影なので素材が吸えなかった。いや、厳密には影の塊みたいな奴を吸って見たのだけど一つしかないと言うかそんな感じだ。簡約痩身
シャドウシールド
能力未解放……装備ボーナス、闇耐性(小)
他の奴等は全部ステータスアップ系の装備ボーナスしかないので省略する。
残ったのは他の勇者たちが倒したと思わしき大きな幽霊のような魚。
「あーん」
「食うな」
フィーロが掴んで頭から食べようとしたので命令した。
今回この鳥が暴走したのは何が原因かわかっているのか。
どう見てもこいつが不用意に腐竜の核を食ったのが原因だろ。
「えー……」
すごく渋々手放して受け取ろうとした所、俺の手をすり抜けて地面に落ちたときは驚いた。
「お前、どうやって持ったんだ?」
「手にね、風の魔法を纏って持ってたの」
「……はぁ」
素手では触ることさえ出来ないへんな魚だ。
他の勇者たちを志願兵が搬送している最中に尋ねてみた所、やはり専用の武器が必要らしい。
誰か持っている奴は居ないかと聞いたら一人だけ安物の属性の入った武器を所持していたので貸して貰い、捌く。
フィーロの話を参考に、魔力付与の要領で手に魔力を宿らせて持つ。
お頭の部分を吸ってみた。
ソウルイーターシールド
能力未解放……装備ボーナス、スキル「セカンドシールド」 魂耐性(中)精神攻撃耐性(中)SPアップ
専用効果 ソウルイート SP回復(微弱)
頭だけで魔物名しか入っていないという事はこれは解体しても意味が殆ど無い事を表している。別の部位を吸ってみるが変化が無い。
しかし、スキルのセカンドシールドとは何だ? 魂耐性は……この系統の攻撃の耐性だろう。
専用効果のソウルイートが若干気になるな。俺が魂を食えるとかだったら嫌だな。
徐に盾の形状を変えてみる。この魔物、ソウルイーターの頭をそのまま盾にしたみたいな意匠が施されている。
……防御力がキメラヴァイパーの方が上だ。
ソウルイートという専用効果が魂を食べる事が出来るのならこのソウルイーターを俺は持つことができる筈だ。
だから手を伸ばしてみる。
するとソウルイーターの肉に触れることが出来なかった。
どうやら違うようだ。
良かった。
さすがに魂を食うとかそんな趣味は無い。V26Ⅳ美白美肌速効
大方、カウンター系の効果だろう。相手の魂に喰らいついてSPを奪い取るとかその辺り。
さて、スキル、セカンドシールドは何だろう?
試しに使ってみる。
「セカンドシールド」
エアストシールド→セカンドシールド
と、視界にアイコンが浮かんだ。
「エアストシールド!」
そしてエアストシールドが出現したのを確認してもう一度叫ぶ。
「セカンドシールド!」
……もう一枚盾が出現した。
あれだ。一枚しか出せなかったエアストシールドの効果時間内にもう一枚出すことができるようになったようだ。
使い道は多そうだが、良いのか悪いのか微妙な性能だ。
そして残りのソウルイーターに目を向ける。
「全部吸ってあいつ等を困らせたいが……」
それをするとうるさそうだからな。
何より他の勇者が弱くて困るのは、何もこの世界の連中だけじゃない。
俺だけ強くなってもあの三人が弱いと楽ができない。
はぁ……一応残しておくか。
「ごしゅじんさまー、残ってるならフィーロにちょうだい!」
涎を垂らしながら鳥が騒いでいる。
「しょうがねえなぁ……」
背骨から尻尾の辺りまでを捌いてフィーロに投げる。
するとパクッと食った。
「骨なのにスライムみたいな食感ー」
「待て鳥。いつ俺達がスライムに会った」
「あのねー」
ここから先はどうでも良いので省略する。
結果は俺が怒ったという事にしておこう。
盾に吸わせられなかったという意味で。
「よし、次は村の復興の手伝いをするぞ」
やることを終えた俺達は志願兵と一緒に魔物の死骸の処理と被害の復興の手伝いを始めた。
さすがに全てを賄うことはできない。だからあくまで、炊き出しや怪我人の治療を最優先にする。
「はい!」
志願兵の奴等、別に大した裏も無く、俺の言う事に素直に従っていた。
だから怪しむ必要はもう無いだろう。
長い戦いから一夜明け、やっと騎士団が到着した。
騎士団の団長の奴、俺が志願兵を召喚したのを物凄く怒っている。
「貴様! 勝手に我が騎士団の兵をもって行きおって!」
「勇者様の所為ではありません! 僕達が勇者様の力になりたいと進言し、勇者様のお力を借りただけです」男根増長素
「なに? それでも貴様等は栄誉あるメルロマルクの兵士か! 盾なんぞに惑わされおって!」
「お前さー……この惨状を見て、問題行動だって、部下を処分するわけ?」
志願兵は俺を庇って素直に自分達の意見を述べた。
聞いた話に寄ると、騎士団の上層部と勇者は打ち合わせをしていたと言うので、一部の選ばれた者が転送され、後で追いつく形で城から出発するのだろうと志願兵も思っていたらしい。
「こいつらが居なかったら被害はもっと出ていたと思うぞ?」
俺の返答に応じるように出迎えた村人も頷く。
「あと、お前達が頼りにしてる勇者達とその仲間達は全員、波で現れた強敵にやられてそこの建物に収容されているぞ」
頼んでもいないのに村人が家に運んで、勇者とその仲間達は治療中だ。軽く薬を処方されたらしいが、完治には数日掛かるだろう。回復は早そうだから今日には意識を戻すとは思うけどな。
「急いで勇者様とその仲間を運び出せ! 早急に治療院へ送るのだ!」
「おい……アイツ等は比較的軽症だぞ。他の重症を負ってる村人も居るんだからそっちを優先して……」
「勇者とその一行を最優先するのは、我が国、そして世界の為だ!」
何とも傲慢な返答な事で……。
まあ、そうなるだろうからと、治療の優先順位は村人の方に重きを置いて居たから問題は無いけど。
「はいはい。サッサと連れてけ、俺は忙しいんだ」
「待て、盾」
追い散らそうと手を振ると騎士団長の奴、志願兵から事情を聞いて俺を呼び止める。
「今度は何だよ……」
「城へ報告に付いてきて貰おう」
「やだよ面倒くさい」
「良いから来るんだ!」
やってられるか。優先すべき事があるのに、どうして無意味な事をしなくてはならない。
俺は無視して踵を返そうとすると志願兵達が懇願する目で頭を下げる。
「お願いします盾の勇者様、どうかご同行を……」
……まあ、コイツ等は俺の指示にちゃんと従って行動していたからなぁ。
無下にする訳にもいかないし、どうせ武器屋の親父に発注している金属製の馬車を受け取りに行かねばならない。
「はぁ……」
ボリボリと頭を掻きながら振り返る。
「分かったよ。行けば良いんだろ、行けば。コイツ等の善意に一度だけ応えてやる」
「ありがとうございます!」
感謝を言葉と姿で表した志願兵に渋々頷いてやった。
こうして俺達は一路城へと向うのだった。
翌日。
城下町に到着し、城へと入る。男宝
「盾の仲間は別の部屋で待っていてもらおう」
「ここまで来て俺だけかよ!」
なんでコイツ等こんなに偉そうなんだ?
「なあ、もう帰って良いか?」
どうせ碌な事言わないだろうし、時間の無駄だろう。
「そうはいかん。貴様には色々と聞かねばならないことが山ほどあるんだ」
「ここに来るまでに話しておいただろうが」
他の勇者がやられて、その敵を俺達が倒した経緯は既に説明してある。志願兵も遠くからその様子を確認していたので裏は取れているので嘘とは思われない。
クズ王の場合、捏造するかも知れないが、その場合早々と逃げ出せば良い。
今の俺なら可能だし、ラフタリアとフィーロが居れば簡単には捕まらない。
「静かに! 王の御前である!」
ギィイイっと玉座の間に案内され、クズ王が険しい顔で俺を出迎えた。
既に話は行っているのだろう。苦虫を噛み潰したような苛立ちを持っているのが伝わってくる。
「非常に遺憾だが、よくぞ波を鎮めてくれた、盾。ワシは信じておらんが」
「それが人に礼を言う態度か」
「無礼な! ……まあ、良いだろう。そこで一つ尋ねたいことがある。虚言だと思っておるが」
「……なんだよ」
一々語尾に信じていないとか、虚言だとかうざいな。
「盾、お前はどのように他の勇者を出し抜き、強さを手に入れた? 信じてはおらんが、それを話す義務が貴様にはある。さあ、話せ。嘘だと思うがな」
……これはアレだよな。他の勇者が俺より弱い事をクズ王は懸念して直接問い詰めているという事か。
はぁ。呆れて物も言えない程のクズッぷりだ。
正直、なんで他の勇者を倒したグラスに俺達は普通に戦えたのかは分からない。
むしろ多勢に無勢で挑んだ勇者達が勝てるはずなのにだ。
単純に俺と相性が良かったのか、相手が消耗していたのか、それとも情報通の勇者が弱かったのか、憶測は尽きない。
その辺りはいずれ、確かめなくてはいけない、けれど俺も暇ではない。
だが、ここはアレだよな。
うん。
俺はクズに晴れやかな笑みで、親指を下に向ける。
「知りたければ土下座しろ」
「は?」
クズ王の奴、呆気に取られた表情で固まる。
なんとも面白い顔だ。写真とかに残しておきたい。
「聞こえなかったのか? 耳が遠いようだなクズ。知りたかったら地面に頭を擦りつけて懇願しろと言っているんだ!」
「き、き、き」
「どうした? 猿の様な奇声を上げて。あーなるほど、この国の王は猿以下のクズだもんなー? ワシはクズ猿を信じておらんが」
語尾にマネをしながらバカにするとクズ王の奴、見る見る顔を真っ赤に染めて親の仇みたいな目で俺を睨みつける。
あ、かなり気分が良いな。これ。
「貴様ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
クズ王の叫びは城中に響き渡る程だった。
敵は前方に厄災の波、後方にはクズ。三体牛鞭
だが、俺はどちらにも負けるつもりはない。
こうして俺は、真なる意味でクズ王と決別した。
余計な事を……。
さて、お楽しみの波の素材を盾に吸わせる作業なのだが、今回はゴブリンアサルトシャドウとリザードマンシャドウは名前通り影なので素材が吸えなかった。いや、厳密には影の塊みたいな奴を吸って見たのだけど一つしかないと言うかそんな感じだ。簡約痩身
シャドウシールド
能力未解放……装備ボーナス、闇耐性(小)
他の奴等は全部ステータスアップ系の装備ボーナスしかないので省略する。
残ったのは他の勇者たちが倒したと思わしき大きな幽霊のような魚。
「あーん」
「食うな」
フィーロが掴んで頭から食べようとしたので命令した。
今回この鳥が暴走したのは何が原因かわかっているのか。
どう見てもこいつが不用意に腐竜の核を食ったのが原因だろ。
「えー……」
すごく渋々手放して受け取ろうとした所、俺の手をすり抜けて地面に落ちたときは驚いた。
「お前、どうやって持ったんだ?」
「手にね、風の魔法を纏って持ってたの」
「……はぁ」
素手では触ることさえ出来ないへんな魚だ。
他の勇者たちを志願兵が搬送している最中に尋ねてみた所、やはり専用の武器が必要らしい。
誰か持っている奴は居ないかと聞いたら一人だけ安物の属性の入った武器を所持していたので貸して貰い、捌く。
フィーロの話を参考に、魔力付与の要領で手に魔力を宿らせて持つ。
お頭の部分を吸ってみた。
ソウルイーターシールド
能力未解放……装備ボーナス、スキル「セカンドシールド」 魂耐性(中)精神攻撃耐性(中)SPアップ
専用効果 ソウルイート SP回復(微弱)
頭だけで魔物名しか入っていないという事はこれは解体しても意味が殆ど無い事を表している。別の部位を吸ってみるが変化が無い。
しかし、スキルのセカンドシールドとは何だ? 魂耐性は……この系統の攻撃の耐性だろう。
専用効果のソウルイートが若干気になるな。俺が魂を食えるとかだったら嫌だな。
徐に盾の形状を変えてみる。この魔物、ソウルイーターの頭をそのまま盾にしたみたいな意匠が施されている。
……防御力がキメラヴァイパーの方が上だ。
ソウルイートという専用効果が魂を食べる事が出来るのならこのソウルイーターを俺は持つことができる筈だ。
だから手を伸ばしてみる。
するとソウルイーターの肉に触れることが出来なかった。
どうやら違うようだ。
良かった。
さすがに魂を食うとかそんな趣味は無い。V26Ⅳ美白美肌速効
大方、カウンター系の効果だろう。相手の魂に喰らいついてSPを奪い取るとかその辺り。
さて、スキル、セカンドシールドは何だろう?
試しに使ってみる。
「セカンドシールド」
エアストシールド→セカンドシールド
と、視界にアイコンが浮かんだ。
「エアストシールド!」
そしてエアストシールドが出現したのを確認してもう一度叫ぶ。
「セカンドシールド!」
……もう一枚盾が出現した。
あれだ。一枚しか出せなかったエアストシールドの効果時間内にもう一枚出すことができるようになったようだ。
使い道は多そうだが、良いのか悪いのか微妙な性能だ。
そして残りのソウルイーターに目を向ける。
「全部吸ってあいつ等を困らせたいが……」
それをするとうるさそうだからな。
何より他の勇者が弱くて困るのは、何もこの世界の連中だけじゃない。
俺だけ強くなってもあの三人が弱いと楽ができない。
はぁ……一応残しておくか。
「ごしゅじんさまー、残ってるならフィーロにちょうだい!」
涎を垂らしながら鳥が騒いでいる。
「しょうがねえなぁ……」
背骨から尻尾の辺りまでを捌いてフィーロに投げる。
するとパクッと食った。
「骨なのにスライムみたいな食感ー」
「待て鳥。いつ俺達がスライムに会った」
「あのねー」
ここから先はどうでも良いので省略する。
結果は俺が怒ったという事にしておこう。
盾に吸わせられなかったという意味で。
「よし、次は村の復興の手伝いをするぞ」
やることを終えた俺達は志願兵と一緒に魔物の死骸の処理と被害の復興の手伝いを始めた。
さすがに全てを賄うことはできない。だからあくまで、炊き出しや怪我人の治療を最優先にする。
「はい!」
志願兵の奴等、別に大した裏も無く、俺の言う事に素直に従っていた。
だから怪しむ必要はもう無いだろう。
長い戦いから一夜明け、やっと騎士団が到着した。
騎士団の団長の奴、俺が志願兵を召喚したのを物凄く怒っている。
「貴様! 勝手に我が騎士団の兵をもって行きおって!」
「勇者様の所為ではありません! 僕達が勇者様の力になりたいと進言し、勇者様のお力を借りただけです」男根増長素
「なに? それでも貴様等は栄誉あるメルロマルクの兵士か! 盾なんぞに惑わされおって!」
「お前さー……この惨状を見て、問題行動だって、部下を処分するわけ?」
志願兵は俺を庇って素直に自分達の意見を述べた。
聞いた話に寄ると、騎士団の上層部と勇者は打ち合わせをしていたと言うので、一部の選ばれた者が転送され、後で追いつく形で城から出発するのだろうと志願兵も思っていたらしい。
「こいつらが居なかったら被害はもっと出ていたと思うぞ?」
俺の返答に応じるように出迎えた村人も頷く。
「あと、お前達が頼りにしてる勇者達とその仲間達は全員、波で現れた強敵にやられてそこの建物に収容されているぞ」
頼んでもいないのに村人が家に運んで、勇者とその仲間達は治療中だ。軽く薬を処方されたらしいが、完治には数日掛かるだろう。回復は早そうだから今日には意識を戻すとは思うけどな。
「急いで勇者様とその仲間を運び出せ! 早急に治療院へ送るのだ!」
「おい……アイツ等は比較的軽症だぞ。他の重症を負ってる村人も居るんだからそっちを優先して……」
「勇者とその一行を最優先するのは、我が国、そして世界の為だ!」
何とも傲慢な返答な事で……。
まあ、そうなるだろうからと、治療の優先順位は村人の方に重きを置いて居たから問題は無いけど。
「はいはい。サッサと連れてけ、俺は忙しいんだ」
「待て、盾」
追い散らそうと手を振ると騎士団長の奴、志願兵から事情を聞いて俺を呼び止める。
「今度は何だよ……」
「城へ報告に付いてきて貰おう」
「やだよ面倒くさい」
「良いから来るんだ!」
やってられるか。優先すべき事があるのに、どうして無意味な事をしなくてはならない。
俺は無視して踵を返そうとすると志願兵達が懇願する目で頭を下げる。
「お願いします盾の勇者様、どうかご同行を……」
……まあ、コイツ等は俺の指示にちゃんと従って行動していたからなぁ。
無下にする訳にもいかないし、どうせ武器屋の親父に発注している金属製の馬車を受け取りに行かねばならない。
「はぁ……」
ボリボリと頭を掻きながら振り返る。
「分かったよ。行けば良いんだろ、行けば。コイツ等の善意に一度だけ応えてやる」
「ありがとうございます!」
感謝を言葉と姿で表した志願兵に渋々頷いてやった。
こうして俺達は一路城へと向うのだった。
翌日。
城下町に到着し、城へと入る。男宝
「盾の仲間は別の部屋で待っていてもらおう」
「ここまで来て俺だけかよ!」
なんでコイツ等こんなに偉そうなんだ?
「なあ、もう帰って良いか?」
どうせ碌な事言わないだろうし、時間の無駄だろう。
「そうはいかん。貴様には色々と聞かねばならないことが山ほどあるんだ」
「ここに来るまでに話しておいただろうが」
他の勇者がやられて、その敵を俺達が倒した経緯は既に説明してある。志願兵も遠くからその様子を確認していたので裏は取れているので嘘とは思われない。
クズ王の場合、捏造するかも知れないが、その場合早々と逃げ出せば良い。
今の俺なら可能だし、ラフタリアとフィーロが居れば簡単には捕まらない。
「静かに! 王の御前である!」
ギィイイっと玉座の間に案内され、クズ王が険しい顔で俺を出迎えた。
既に話は行っているのだろう。苦虫を噛み潰したような苛立ちを持っているのが伝わってくる。
「非常に遺憾だが、よくぞ波を鎮めてくれた、盾。ワシは信じておらんが」
「それが人に礼を言う態度か」
「無礼な! ……まあ、良いだろう。そこで一つ尋ねたいことがある。虚言だと思っておるが」
「……なんだよ」
一々語尾に信じていないとか、虚言だとかうざいな。
「盾、お前はどのように他の勇者を出し抜き、強さを手に入れた? 信じてはおらんが、それを話す義務が貴様にはある。さあ、話せ。嘘だと思うがな」
……これはアレだよな。他の勇者が俺より弱い事をクズ王は懸念して直接問い詰めているという事か。
はぁ。呆れて物も言えない程のクズッぷりだ。
正直、なんで他の勇者を倒したグラスに俺達は普通に戦えたのかは分からない。
むしろ多勢に無勢で挑んだ勇者達が勝てるはずなのにだ。
単純に俺と相性が良かったのか、相手が消耗していたのか、それとも情報通の勇者が弱かったのか、憶測は尽きない。
その辺りはいずれ、確かめなくてはいけない、けれど俺も暇ではない。
だが、ここはアレだよな。
うん。
俺はクズに晴れやかな笑みで、親指を下に向ける。
「知りたければ土下座しろ」
「は?」
クズ王の奴、呆気に取られた表情で固まる。
なんとも面白い顔だ。写真とかに残しておきたい。
「聞こえなかったのか? 耳が遠いようだなクズ。知りたかったら地面に頭を擦りつけて懇願しろと言っているんだ!」
「き、き、き」
「どうした? 猿の様な奇声を上げて。あーなるほど、この国の王は猿以下のクズだもんなー? ワシはクズ猿を信じておらんが」
語尾にマネをしながらバカにするとクズ王の奴、見る見る顔を真っ赤に染めて親の仇みたいな目で俺を睨みつける。
あ、かなり気分が良いな。これ。
「貴様ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
クズ王の叫びは城中に響き渡る程だった。
敵は前方に厄災の波、後方にはクズ。三体牛鞭
だが、俺はどちらにも負けるつもりはない。
こうして俺は、真なる意味でクズ王と決別した。
2013年10月7日星期一
探索
「気をつけろよ」
「はい」
ラフタリアが魔法で光の玉を作り出して洞窟内を照らす。
俺が先頭を歩き、ラフタリア、フィーロ、リーシアと続き、連合軍が付いて来る。
洞窟内の壁から設置型の目玉の使い魔や芋虫のような使い魔が現れるが戦えない事は無かった。D9 催情剤
問題はこの洞窟……どうも迷路みたいに複雑な構造をしているみたいなんだよな……。
壁は生き物ではなく石や土壁だ。
「道はわかるか?」
「一応、過去に洞窟を調査した時の物の控えを仰せつかっております」
「それは助かる」
一からマッピングしていたら時間が掛かりすぎるからな。
地図を広げて確認する。
やはり洞窟内は迷路のように複雑な構造をしているようだ。
後、皮肉な事に入り口はもう一つ、町の方にもあるっぽい。
くそ……。
まあ、知らなかったんだからしょうがない。そもそも俺とフィーロだけで行ってどうするんだ。
心臓を封印する為の護衛なんだから合流しなきゃ意味がない。
問題は……心臓のある場所までの道が描かれていない所か。
途中までというか、霊亀が蘇らないと進めなくなっているとかそういうものだったんだろうな。
あんまり頼りには出来ないか……。
「お?」
地図を確認していると若干広い場所を発見。ここに待機してもらって探索班を出すのが良さそうだ。
正直、人数が多過ぎて逆に身動きが取りづらい。
これがラフタリアやフィーロと同じ位実力がある奴等なら問題無いんだが、二人と同じレベルを求めるのは酷だろう。
ともあれ、休憩と称して連合軍を待機させるのは良い手だ。これで行こう。
俺はそう決めると洞窟内の広い場所を目標に定めて連合軍を進ませる。
やがて見えてきたのは地図通り、開けた広場。
元は何に使っていたのか皆目見当も付かないが地図は信用できると見て良いだろう。
しかし、目的の場所に到着したのは良いんだが……。
「なんかデカイ魔物がいるな」
広い所にはそれ相応の霊亀の使い魔が幅を利かせている。
無駄にいる使い魔と比べて全長が大きい。挺三天
広場で侵入者を排除する為だけに配置された様な陣取り方だ。
RPGなんかでいう所の中ボスって感じだな。
霊亀がアレだからな。雑魚よりも強いと相場が決まっている。
問題は数か。
一匹位なら俺達だけでも余裕だろうが、あの数だと連合軍がやばそうだ。
「そうですね。どうしましょう?」
倒しても次々と出現したら困るのだが……やってみるしかないか。
「よし、幸いそこまで数は居ないから、俺達が仕留めて様子を見よう。連合軍の奴等は待機、後方に注意しろ」
「了解!」
「はーい」
「ふぇ……頑張ります」
「はぁ……」
相変わらず、注意した言葉をリーシアは言いそうになった。
まあ、途中でやめたからここで注意はしないでおこう。
今リーシアに必要なのは経験と自信だ。
女王の所に置いていっても良かったが、強くなるにはLvだけでなく実戦経験も積ませておきたい。
その上で霊亀は絶好の相手と言える。
……少々荒療治な気もするが。
「よし、突撃!」
俺達は広場を占拠している使い魔たちに向って突撃した。
外に居るゴリラや雪男とは異なる……亀男タイプ? 全長4メートルの化け物だ。
「でりゃあああ!」
フィーロが使い魔の甲羅を思いっきり蹴り飛ばす。
バキッと音がして甲羅が陥没し、壁にぶつかって動かなくなる。
「やあああああああ!」
ラフタリアは使い魔の首を一閃して跳ね飛ばす。
頼りになるな。
リーシアは、弱い攻撃魔法で注意を引いてラフタリア達の援護をしている。
自らがターゲットになった場合は俺の流星盾の範囲入って身を守る。
一応連携は理解しているな。及第点だ。
というか、連携自体は問題無い。後は実力が身に付けば伸びていくはずだ。
問題はその実力であるステータスの方なんだがな。
……今は前に集中するか。
「呆気ないものですね」
剣に付いた血を薙ぎ払って飛ばしたラフタリアが使い魔の殲滅を確認した。
確かに予想より遥かに弱かった。
霊亀がアレだったからな。警戒し過ぎたか?
いや、連合軍を後ろに連れているんだ。警戒し過ぎる位が丁度良い。
「うん。ちょっと硬いけど」
「フィーロはあえて硬いところを蹴っているではないですか」
「だって、他が柔らかいだもん」
「無駄な動作ですよ」
二人は他愛無い会話をしている。
天才と秀才って感じの会話だな。
「お二人はとても強いですね」
「リーシア」
「ふぇ――目標にします!」
むう……言わないように努力しているのだけは評価するしかないか。
完全に癖だな。コレは。VIVID XXL
「増援は……今のところ無いか」
「ですね」
倒したその場から無限に沸いてくるとか可能性としてはあったが、どうやらそういうトラップでは無い様だ。
「すごい……」
連合軍の連中が俺たちにポツリと漏らす。
俺から言わせて貰えばお前等が弱いと思うのだが……。
平均Lvはどれくらいなんだ?
これで60Lvとかだったら泣けるぞ。
「盾の勇者殿」
影が現れた。というか居たのか。
手に持っている短刀は使い魔の返り血が付いている所を見るに戦ってはいたみたいだな。
「どうした?」
「作戦通りここを拠点に調査をするでごじゃるな」
「ああ……というか付いてきていたのか」
「今回の作戦では連合軍の護衛を仰せつかったでごじゃる。他、盾の勇者殿の指示を仰ぐようにと女王からの命令を受けているでごじゃるよ」
「そうだな」
影に連合軍の護衛って……コイツ等も一応戦う為の部隊のはずなんだがな。
霊亀の使い魔はそこまで強い魔物だったか?
まあ……連合軍は霊亀を封印する為の特殊部隊の様な物と考えれば良いんだろう。
戦闘能力よりもそちらに能力を割り振ったと計算しておこう。
「よし! 連合軍の諸君、ここを拠点に霊亀の心臓を捜そうと思う。諸君はここを守る事を重視してくれ。俺達は探索を始める」
「りょ、了解!」
連合軍は緊張を解いて、洞窟内の広場で各々警戒しつつ休む。
極度の緊張と連戦で大分疲労していた様で、疲労困憊って感じだ。
そんなに疲れる程戦ったつもりは無いんだが……。
盾の影響なのか?
それともラフタリアやフィーロがおかしいのか。
どちらにしても霊亀を再封印したら色々と考えないとダメそうだな。
「影……ついでに知っているなら、連合軍の平均Lvはどれくらいだ?」
「霊亀の心臓封印の部隊の平均は65でごじゃる」
……予想より悪いじゃねえか。
何? 成長補正ってこんなにも差が開くのか!?
リーシアのステータスが低いんじゃなくて、補正が無いとこの程度とか?
イヤイヤ、さすがにそれは無いだろう。
樹はリーシアが弱いから理由を作って解雇した訳だし。
……そのリーシアもフィーロきぐるみのお陰で多少は戦力になっているんだからなぁ。
親父に頼んでフィーロきぐるみを増産させるか? 材料が後2着しかないけど。
量産型フィーロきぐるみか……。福潤宝
フィーロの毛をむしったら出来るかな。
「!?」
フィーロが羽毛を波のように逆立たせてキョロキョロとする。
「どうしたんですか?」
「なんか変な気がしたの!」
口に出してもいないのに気付かれた。
……勘が良い奴だ。むしるのは無理そうだな。
「影はアイツ等よりは強いよな」
カルミラ島で少しだけ一緒に戦ったから分かる。
あのレベルの影が一部隊もいれば便利に使えるはず。
「一応、暗殺や戦闘も視野に入れた専門部隊でごじゃるから、Lvと武術の心得はあるでごじゃる」
「じゃあ影部隊の半分を護衛、残り半分を探索に回してくれ」
「分かったでごじゃる。とは言っても、今回の件で影もかなり損耗しているでごじゃるから、そこまで期待しないでほしいでごじゃる」
「わかっている」
勇者に付けた影が消息不明……おそらくは動けない状況にいるか、最悪死んでいる。
その分を含めても連合軍よりは頼りに出来る。
ともあれ、作戦は決まったな。
まだまだ先は長い。心臓部は俺達が見つけ、それまで連合軍を休憩させる。
「リーシア、お前は連合軍と一緒にここで待機、魔物が出てきたら戦え」
「わ、わかりました!」
「ラフタリアとフィーロは俺と一緒に探索だ。フィーロ、鼻を使え。頼りにしているぞ」
「はーい! がんばるー!」
「了解です」
リーシアに後を任せ、俺達は複数に分岐した洞窟内の先を進むのだった。OB蛋白の繊型曲痩 Ⅲ
「はい」
ラフタリアが魔法で光の玉を作り出して洞窟内を照らす。
俺が先頭を歩き、ラフタリア、フィーロ、リーシアと続き、連合軍が付いて来る。
洞窟内の壁から設置型の目玉の使い魔や芋虫のような使い魔が現れるが戦えない事は無かった。D9 催情剤
問題はこの洞窟……どうも迷路みたいに複雑な構造をしているみたいなんだよな……。
壁は生き物ではなく石や土壁だ。
「道はわかるか?」
「一応、過去に洞窟を調査した時の物の控えを仰せつかっております」
「それは助かる」
一からマッピングしていたら時間が掛かりすぎるからな。
地図を広げて確認する。
やはり洞窟内は迷路のように複雑な構造をしているようだ。
後、皮肉な事に入り口はもう一つ、町の方にもあるっぽい。
くそ……。
まあ、知らなかったんだからしょうがない。そもそも俺とフィーロだけで行ってどうするんだ。
心臓を封印する為の護衛なんだから合流しなきゃ意味がない。
問題は……心臓のある場所までの道が描かれていない所か。
途中までというか、霊亀が蘇らないと進めなくなっているとかそういうものだったんだろうな。
あんまり頼りには出来ないか……。
「お?」
地図を確認していると若干広い場所を発見。ここに待機してもらって探索班を出すのが良さそうだ。
正直、人数が多過ぎて逆に身動きが取りづらい。
これがラフタリアやフィーロと同じ位実力がある奴等なら問題無いんだが、二人と同じレベルを求めるのは酷だろう。
ともあれ、休憩と称して連合軍を待機させるのは良い手だ。これで行こう。
俺はそう決めると洞窟内の広い場所を目標に定めて連合軍を進ませる。
やがて見えてきたのは地図通り、開けた広場。
元は何に使っていたのか皆目見当も付かないが地図は信用できると見て良いだろう。
しかし、目的の場所に到着したのは良いんだが……。
「なんかデカイ魔物がいるな」
広い所にはそれ相応の霊亀の使い魔が幅を利かせている。
無駄にいる使い魔と比べて全長が大きい。挺三天
広場で侵入者を排除する為だけに配置された様な陣取り方だ。
RPGなんかでいう所の中ボスって感じだな。
霊亀がアレだからな。雑魚よりも強いと相場が決まっている。
問題は数か。
一匹位なら俺達だけでも余裕だろうが、あの数だと連合軍がやばそうだ。
「そうですね。どうしましょう?」
倒しても次々と出現したら困るのだが……やってみるしかないか。
「よし、幸いそこまで数は居ないから、俺達が仕留めて様子を見よう。連合軍の奴等は待機、後方に注意しろ」
「了解!」
「はーい」
「ふぇ……頑張ります」
「はぁ……」
相変わらず、注意した言葉をリーシアは言いそうになった。
まあ、途中でやめたからここで注意はしないでおこう。
今リーシアに必要なのは経験と自信だ。
女王の所に置いていっても良かったが、強くなるにはLvだけでなく実戦経験も積ませておきたい。
その上で霊亀は絶好の相手と言える。
……少々荒療治な気もするが。
「よし、突撃!」
俺達は広場を占拠している使い魔たちに向って突撃した。
外に居るゴリラや雪男とは異なる……亀男タイプ? 全長4メートルの化け物だ。
「でりゃあああ!」
フィーロが使い魔の甲羅を思いっきり蹴り飛ばす。
バキッと音がして甲羅が陥没し、壁にぶつかって動かなくなる。
「やあああああああ!」
ラフタリアは使い魔の首を一閃して跳ね飛ばす。
頼りになるな。
リーシアは、弱い攻撃魔法で注意を引いてラフタリア達の援護をしている。
自らがターゲットになった場合は俺の流星盾の範囲入って身を守る。
一応連携は理解しているな。及第点だ。
というか、連携自体は問題無い。後は実力が身に付けば伸びていくはずだ。
問題はその実力であるステータスの方なんだがな。
……今は前に集中するか。
「呆気ないものですね」
剣に付いた血を薙ぎ払って飛ばしたラフタリアが使い魔の殲滅を確認した。
確かに予想より遥かに弱かった。
霊亀がアレだったからな。警戒し過ぎたか?
いや、連合軍を後ろに連れているんだ。警戒し過ぎる位が丁度良い。
「うん。ちょっと硬いけど」
「フィーロはあえて硬いところを蹴っているではないですか」
「だって、他が柔らかいだもん」
「無駄な動作ですよ」
二人は他愛無い会話をしている。
天才と秀才って感じの会話だな。
「お二人はとても強いですね」
「リーシア」
「ふぇ――目標にします!」
むう……言わないように努力しているのだけは評価するしかないか。
完全に癖だな。コレは。VIVID XXL
「増援は……今のところ無いか」
「ですね」
倒したその場から無限に沸いてくるとか可能性としてはあったが、どうやらそういうトラップでは無い様だ。
「すごい……」
連合軍の連中が俺たちにポツリと漏らす。
俺から言わせて貰えばお前等が弱いと思うのだが……。
平均Lvはどれくらいなんだ?
これで60Lvとかだったら泣けるぞ。
「盾の勇者殿」
影が現れた。というか居たのか。
手に持っている短刀は使い魔の返り血が付いている所を見るに戦ってはいたみたいだな。
「どうした?」
「作戦通りここを拠点に調査をするでごじゃるな」
「ああ……というか付いてきていたのか」
「今回の作戦では連合軍の護衛を仰せつかったでごじゃる。他、盾の勇者殿の指示を仰ぐようにと女王からの命令を受けているでごじゃるよ」
「そうだな」
影に連合軍の護衛って……コイツ等も一応戦う為の部隊のはずなんだがな。
霊亀の使い魔はそこまで強い魔物だったか?
まあ……連合軍は霊亀を封印する為の特殊部隊の様な物と考えれば良いんだろう。
戦闘能力よりもそちらに能力を割り振ったと計算しておこう。
「よし! 連合軍の諸君、ここを拠点に霊亀の心臓を捜そうと思う。諸君はここを守る事を重視してくれ。俺達は探索を始める」
「りょ、了解!」
連合軍は緊張を解いて、洞窟内の広場で各々警戒しつつ休む。
極度の緊張と連戦で大分疲労していた様で、疲労困憊って感じだ。
そんなに疲れる程戦ったつもりは無いんだが……。
盾の影響なのか?
それともラフタリアやフィーロがおかしいのか。
どちらにしても霊亀を再封印したら色々と考えないとダメそうだな。
「影……ついでに知っているなら、連合軍の平均Lvはどれくらいだ?」
「霊亀の心臓封印の部隊の平均は65でごじゃる」
……予想より悪いじゃねえか。
何? 成長補正ってこんなにも差が開くのか!?
リーシアのステータスが低いんじゃなくて、補正が無いとこの程度とか?
イヤイヤ、さすがにそれは無いだろう。
樹はリーシアが弱いから理由を作って解雇した訳だし。
……そのリーシアもフィーロきぐるみのお陰で多少は戦力になっているんだからなぁ。
親父に頼んでフィーロきぐるみを増産させるか? 材料が後2着しかないけど。
量産型フィーロきぐるみか……。福潤宝
フィーロの毛をむしったら出来るかな。
「!?」
フィーロが羽毛を波のように逆立たせてキョロキョロとする。
「どうしたんですか?」
「なんか変な気がしたの!」
口に出してもいないのに気付かれた。
……勘が良い奴だ。むしるのは無理そうだな。
「影はアイツ等よりは強いよな」
カルミラ島で少しだけ一緒に戦ったから分かる。
あのレベルの影が一部隊もいれば便利に使えるはず。
「一応、暗殺や戦闘も視野に入れた専門部隊でごじゃるから、Lvと武術の心得はあるでごじゃる」
「じゃあ影部隊の半分を護衛、残り半分を探索に回してくれ」
「分かったでごじゃる。とは言っても、今回の件で影もかなり損耗しているでごじゃるから、そこまで期待しないでほしいでごじゃる」
「わかっている」
勇者に付けた影が消息不明……おそらくは動けない状況にいるか、最悪死んでいる。
その分を含めても連合軍よりは頼りに出来る。
ともあれ、作戦は決まったな。
まだまだ先は長い。心臓部は俺達が見つけ、それまで連合軍を休憩させる。
「リーシア、お前は連合軍と一緒にここで待機、魔物が出てきたら戦え」
「わ、わかりました!」
「ラフタリアとフィーロは俺と一緒に探索だ。フィーロ、鼻を使え。頼りにしているぞ」
「はーい! がんばるー!」
「了解です」
リーシアに後を任せ、俺達は複数に分岐した洞窟内の先を進むのだった。OB蛋白の繊型曲痩 Ⅲ
2013年10月4日星期五
仮面の男
「と言う訳で、Lv上げもしたし、盗賊狩りをしようと思う。宝を奪った後はLv上げを再開すればいい」
「ちょっと待て! 盗品をどうするつもりだ!?」蟻力神
翌朝。
キャンピングプラントで休んだ俺達は盗賊が住み着く街道近くの山で準備を整えていた。
ちなみに突っ込みを入れてきた女騎士は無視した。
盗賊の宝は俺の物だ。
「精々40が限界だろうからな、盗賊は」
クラスアップは信用が無いと出来ない。だから盗賊のLvはそこまで高くない。
もちろん、ゼルトブルとかでクラスアップをした流れ者とかが居るかもしれないけど、今まで遭遇した試しはない。
コロシアムで実績が必要なんだろうな。
しかしコロシアムで稼げる奴が盗賊になるかと言われると微妙だ。
まあ知った事ではないけど。
「とりあえず、二人一組でアジトを探してくれ。ボスに関しては、まだ情報が足りない」
また聞きだし、盗賊は脅しで情報を聞かねば話にならない。
手始めに数名捕えないとな。
「えっと、リーシアとアトラ、女騎士と谷子で探してくれ」
「理由は?」
「特にない。イヤなら好きに別れてくれ」
「なんでガエリオンはアンタとなのよ」
「ボスは一人の奴を狙うらしいから、ガエリオンを偵察に出して、防御力の高い俺は囮だ」
「ああ、そう言う事か」
「そっちでも見つけたら魔法なり、照明を撃ちあげろ。ガエリオンに乗った俺が急いで追いつく」
「ガエリオンに危険な事をさせないで」
「空を飛ばすにきまってるだろ、メンバーの回収がガエリオンの目的だ」
「キュア!」
「なるほど、わかった。では行こう」
女騎士が納得して谷子の背に手を当てて歩かせる。
「アトラ、お前は察知能力が高いから頼りにしているぞ」
「お任せください」
「では、行ってきます」
リーシアも落ち着いているのか、アトラと一緒に探し始めた。
「さて……」
ガエリオンと俺も、盗賊のアジト探しを始める。
「ふむ……人の手が入った山だな」
「街道が近いからな、どこにあるか特定できるか?」
「多少は……だな、自然に出来た洞窟なのか、それとも砦でも作っているのか?」
「盗賊によりけりだな。今回の連中は洞窟だと思うぞ」
「なら難しい。この辺りは洞窟が非常に多い」
「そうか」
なんだかんだでガエリオンと話をする機会が増えている。
普通に話が通じるし、情けないドラゴンだけど頼りにしているのかもしれない。
というか、フォウルを除けば希少な男だからな。芳香劑
正直、話していて楽なんだよ。
「では我も上空から人影を探すとしよう」
「任せたぞ」
「ああ」
バサァっとガエリオンは高らかに羽ばたいて飛んで行った。
ま、俺が盗賊の不意打ちで傷を負う事はないはずだから、この依頼も余裕だな。
なんて散歩気分で一人、山道を歩いていた。
そこに突然――
「アサッシングソード!」
「グハッ!」
いきなりの声と共に後ろからグサっと刺されて痛みが走った。
まあ、すっげー痛いで済む程度の攻撃だった訳だけどさー……。
血は出たな。鎧はなんか壊れたような音が聞こえた。
俺の防御を突破するって、なんだよ!
他の奴等だったら死んでいるんじゃないか?
「いってえな! いきなり何すんだ!」
ブンッと盾を振り回して俺を後ろから突き刺した馬鹿を凪ぐ。
バッと俺を突きさした奴の姿を確認する。
「正々堂々勝負だ……!」
「な――」
俺は自分でも信じられない者を見たと自覚し、絶句してしまった。
怪しい骸骨を模した仮面を付けて顔を隠しているが、体型、声、武器の構えから、仮面の人物の素顔が浮かんだ。
天木錬、剣の勇者が真っ黒な禍々しい剣を握りしめて構えていたのだ。
「チッ!」
気のせいか前見た時より装備が凄く貧相になっていて、仮面の隙間から見える目付きもやさぐれているのかおかしい。
いや、俺が言うのもなんだけど、そんな次元じゃない。
精神的に擦り切れているのか、瞳孔が開いているように見える。
「れ、錬!?」
「……ハイド……ソード」
ゆらぁと錬は陽炎のように姿を消した。
なんだ? 何か幻覚の魔法でも掛けられて変な幻でも見てしまったのか?
とりあえず、ハイドなんてスキルを使っている所であやしさ抜群。
だから俺も交戦状態に入る。
そもそも正々堂々勝負とかほざいておきながら、背後から突然切り掛かったり、姿を消すスキルを使うとか、どういう神経をしているんだ?
ゲームシステム上正々堂々とでも言うつもりか?
それにしても、妙に覇気の無い声だったな。
まあいい、今は敵に集中しよう。情愛芳香劑
「ヘイトリアクション!」
魔物を引きつけるこのスキル。実はもう一つ隠し効果があるのがカルミラ島で判明している。
それは軽度の潜伏魔法やスキルで隠れている相手を引き摺りだして正体を判明させる事が出来る。
ラフタリアが幻影剣を放つ時に、俺がヘイトリアクションを使った時だった。
ラフタリアの潜伏状態が解除されてしまったのだ。
だから隠れている場合は発見できる。
また俺の背後に回り込もうをしていたのか、錬が俺の左後方に移動している最中だった。
ちょっと間抜けな光景だが、逆にイラっとくる。
その手のスキルを使うなら一度離脱しろよ。
「く……」
「お前……錬だろ」
「…………」
これが幻覚だったら良かったんだがなー……まさかこんな所に潜んでいるとは。
もしかしてヴィッチが盗賊の親玉でもやっているのか?
……すげぇ似合う。
アイツは王女の器じゃない。
どちらかと言えば海賊とか盗賊がお似合いだ。
「羅刹・流星剣!」
流星剣のモーションで錬が俺に剣を振るう。
すると流星剣で飛び散る隕石のような剣の残滓が黒く俺に向かって飛んできた。
「チェーンバイント! チェーンニードル!」
ぐ……盾で構えたが、鈍い痛みが走る。
その隙に、錬が連続でスキルを放つ。
『その愚かなる罪人への我が決めたる罰の名は処刑による斬首也。叫ぶ暇すら無く、自らの首と胴体の分離に絶望するが良い!』
「ギロチン!」
いきなり地面から現れた鎖に体を縛られ、しかも鎖がとげのついた物に代わって俺の肌に突き刺さる。そして俺の頭上に巨大な刃の付いた処刑具が出現した。
この攻撃……雰囲気から憤怒の盾にあるアイアンメイデンと同系統の攻撃だと思う。
く……受けてたまる物か。
「ふざけんなぁああああああ!」
鎖を引きちぎって、降り注ぐ刃を手で抑える。
いってぇな。血が出たじゃないか。
だけど耐えられない攻撃では無かったようだ。
ぐ……だけどSPがごっそり削られてる。
「錬……いい加減にしろよ!」
俺もラースシールドに変えるか? 簡易的にメニューを開き、精錬画面を呼び出す。
実戦範囲は+4とレアリティR程度で十分だろう。
プルートオプファーを使うまでもない、アイアンメイデンで仕留めてくれる。
ボキンボキンと精錬失敗が連続する。三體牛鞭
ふざけんな!
「ギャオオオオオオオオオオ!」
ガエリオンが異常事態を察知して降ってくる。
よし、そのまま錬を押さえつけろ!
「転送剣!」
「あ、てめぇ!」
俺が掴むよりも早く錬は転送スキルで跳躍して消える。
な、なんだったんだ?
錬のフリをしていた魔物か人か?
いや、俺の防御を突破出来るって相当の化け物のはず。
もしくはババアみたいな防御無視や防御力比例攻撃でも使わないとダメだろ。
真後ろからアサッシングソードというスキルを放ってきた。
スキルや名前から察するに隠蔽状態、ステルス、ハイディングからの必殺攻撃と見て良い。
しかも……なんかカースシリーズ臭い、禍々しい剣持ち。
突然、背後からの襲撃って……アイツはネットゲームに出没するPKかなにかか。
錬だと判明し、盗賊のボスがこの世界の住人では無いとわかった今、完全にやっている事がPK……プレイヤーキラーだ。
まあVRMMOとか言う怪しいゲーム出身だからな、アイツは。
そもそも、あれだけ酷い目にあって、未だにゲーム気分なのか。
俺じゃなかったら即死を通り越して、真っ二つになっているんじゃないか?
本当、反吐が出るな。
「大丈夫か?」
「ああ……だけど」
「そうだな、我も見ていたぞ」
ガエリオンが殺気を放つ。
谷子との生活、そして自分の命と妻を奪った宿敵だからな。
「なんなんだ、この山は」
とりあえず、受けた傷の回復をするために、俺は回復魔法を唱える。
ああ、ちなみにプルートオプファーの呪いの所為で、あのギロチンってスキルの攻撃は凄く痛かった。
しかも回復が遅い……。
谷子と合流して、サディナから教わったという聖水の能力向上魔法で辛うじて完治させるに至った。
盗賊探しをして僅か三十分。俺は今回の任務の先行きが非常に不安になるのだった中華牛鞭。
「ちょっと待て! 盗品をどうするつもりだ!?」蟻力神
翌朝。
キャンピングプラントで休んだ俺達は盗賊が住み着く街道近くの山で準備を整えていた。
ちなみに突っ込みを入れてきた女騎士は無視した。
盗賊の宝は俺の物だ。
「精々40が限界だろうからな、盗賊は」
クラスアップは信用が無いと出来ない。だから盗賊のLvはそこまで高くない。
もちろん、ゼルトブルとかでクラスアップをした流れ者とかが居るかもしれないけど、今まで遭遇した試しはない。
コロシアムで実績が必要なんだろうな。
しかしコロシアムで稼げる奴が盗賊になるかと言われると微妙だ。
まあ知った事ではないけど。
「とりあえず、二人一組でアジトを探してくれ。ボスに関しては、まだ情報が足りない」
また聞きだし、盗賊は脅しで情報を聞かねば話にならない。
手始めに数名捕えないとな。
「えっと、リーシアとアトラ、女騎士と谷子で探してくれ」
「理由は?」
「特にない。イヤなら好きに別れてくれ」
「なんでガエリオンはアンタとなのよ」
「ボスは一人の奴を狙うらしいから、ガエリオンを偵察に出して、防御力の高い俺は囮だ」
「ああ、そう言う事か」
「そっちでも見つけたら魔法なり、照明を撃ちあげろ。ガエリオンに乗った俺が急いで追いつく」
「ガエリオンに危険な事をさせないで」
「空を飛ばすにきまってるだろ、メンバーの回収がガエリオンの目的だ」
「キュア!」
「なるほど、わかった。では行こう」
女騎士が納得して谷子の背に手を当てて歩かせる。
「アトラ、お前は察知能力が高いから頼りにしているぞ」
「お任せください」
「では、行ってきます」
リーシアも落ち着いているのか、アトラと一緒に探し始めた。
「さて……」
ガエリオンと俺も、盗賊のアジト探しを始める。
「ふむ……人の手が入った山だな」
「街道が近いからな、どこにあるか特定できるか?」
「多少は……だな、自然に出来た洞窟なのか、それとも砦でも作っているのか?」
「盗賊によりけりだな。今回の連中は洞窟だと思うぞ」
「なら難しい。この辺りは洞窟が非常に多い」
「そうか」
なんだかんだでガエリオンと話をする機会が増えている。
普通に話が通じるし、情けないドラゴンだけど頼りにしているのかもしれない。
というか、フォウルを除けば希少な男だからな。芳香劑
正直、話していて楽なんだよ。
「では我も上空から人影を探すとしよう」
「任せたぞ」
「ああ」
バサァっとガエリオンは高らかに羽ばたいて飛んで行った。
ま、俺が盗賊の不意打ちで傷を負う事はないはずだから、この依頼も余裕だな。
なんて散歩気分で一人、山道を歩いていた。
そこに突然――
「アサッシングソード!」
「グハッ!」
いきなりの声と共に後ろからグサっと刺されて痛みが走った。
まあ、すっげー痛いで済む程度の攻撃だった訳だけどさー……。
血は出たな。鎧はなんか壊れたような音が聞こえた。
俺の防御を突破するって、なんだよ!
他の奴等だったら死んでいるんじゃないか?
「いってえな! いきなり何すんだ!」
ブンッと盾を振り回して俺を後ろから突き刺した馬鹿を凪ぐ。
バッと俺を突きさした奴の姿を確認する。
「正々堂々勝負だ……!」
「な――」
俺は自分でも信じられない者を見たと自覚し、絶句してしまった。
怪しい骸骨を模した仮面を付けて顔を隠しているが、体型、声、武器の構えから、仮面の人物の素顔が浮かんだ。
天木錬、剣の勇者が真っ黒な禍々しい剣を握りしめて構えていたのだ。
「チッ!」
気のせいか前見た時より装備が凄く貧相になっていて、仮面の隙間から見える目付きもやさぐれているのかおかしい。
いや、俺が言うのもなんだけど、そんな次元じゃない。
精神的に擦り切れているのか、瞳孔が開いているように見える。
「れ、錬!?」
「……ハイド……ソード」
ゆらぁと錬は陽炎のように姿を消した。
なんだ? 何か幻覚の魔法でも掛けられて変な幻でも見てしまったのか?
とりあえず、ハイドなんてスキルを使っている所であやしさ抜群。
だから俺も交戦状態に入る。
そもそも正々堂々勝負とかほざいておきながら、背後から突然切り掛かったり、姿を消すスキルを使うとか、どういう神経をしているんだ?
ゲームシステム上正々堂々とでも言うつもりか?
それにしても、妙に覇気の無い声だったな。
まあいい、今は敵に集中しよう。情愛芳香劑
「ヘイトリアクション!」
魔物を引きつけるこのスキル。実はもう一つ隠し効果があるのがカルミラ島で判明している。
それは軽度の潜伏魔法やスキルで隠れている相手を引き摺りだして正体を判明させる事が出来る。
ラフタリアが幻影剣を放つ時に、俺がヘイトリアクションを使った時だった。
ラフタリアの潜伏状態が解除されてしまったのだ。
だから隠れている場合は発見できる。
また俺の背後に回り込もうをしていたのか、錬が俺の左後方に移動している最中だった。
ちょっと間抜けな光景だが、逆にイラっとくる。
その手のスキルを使うなら一度離脱しろよ。
「く……」
「お前……錬だろ」
「…………」
これが幻覚だったら良かったんだがなー……まさかこんな所に潜んでいるとは。
もしかしてヴィッチが盗賊の親玉でもやっているのか?
……すげぇ似合う。
アイツは王女の器じゃない。
どちらかと言えば海賊とか盗賊がお似合いだ。
「羅刹・流星剣!」
流星剣のモーションで錬が俺に剣を振るう。
すると流星剣で飛び散る隕石のような剣の残滓が黒く俺に向かって飛んできた。
「チェーンバイント! チェーンニードル!」
ぐ……盾で構えたが、鈍い痛みが走る。
その隙に、錬が連続でスキルを放つ。
『その愚かなる罪人への我が決めたる罰の名は処刑による斬首也。叫ぶ暇すら無く、自らの首と胴体の分離に絶望するが良い!』
「ギロチン!」
いきなり地面から現れた鎖に体を縛られ、しかも鎖がとげのついた物に代わって俺の肌に突き刺さる。そして俺の頭上に巨大な刃の付いた処刑具が出現した。
この攻撃……雰囲気から憤怒の盾にあるアイアンメイデンと同系統の攻撃だと思う。
く……受けてたまる物か。
「ふざけんなぁああああああ!」
鎖を引きちぎって、降り注ぐ刃を手で抑える。
いってぇな。血が出たじゃないか。
だけど耐えられない攻撃では無かったようだ。
ぐ……だけどSPがごっそり削られてる。
「錬……いい加減にしろよ!」
俺もラースシールドに変えるか? 簡易的にメニューを開き、精錬画面を呼び出す。
実戦範囲は+4とレアリティR程度で十分だろう。
プルートオプファーを使うまでもない、アイアンメイデンで仕留めてくれる。
ボキンボキンと精錬失敗が連続する。三體牛鞭
ふざけんな!
「ギャオオオオオオオオオオ!」
ガエリオンが異常事態を察知して降ってくる。
よし、そのまま錬を押さえつけろ!
「転送剣!」
「あ、てめぇ!」
俺が掴むよりも早く錬は転送スキルで跳躍して消える。
な、なんだったんだ?
錬のフリをしていた魔物か人か?
いや、俺の防御を突破出来るって相当の化け物のはず。
もしくはババアみたいな防御無視や防御力比例攻撃でも使わないとダメだろ。
真後ろからアサッシングソードというスキルを放ってきた。
スキルや名前から察するに隠蔽状態、ステルス、ハイディングからの必殺攻撃と見て良い。
しかも……なんかカースシリーズ臭い、禍々しい剣持ち。
突然、背後からの襲撃って……アイツはネットゲームに出没するPKかなにかか。
錬だと判明し、盗賊のボスがこの世界の住人では無いとわかった今、完全にやっている事がPK……プレイヤーキラーだ。
まあVRMMOとか言う怪しいゲーム出身だからな、アイツは。
そもそも、あれだけ酷い目にあって、未だにゲーム気分なのか。
俺じゃなかったら即死を通り越して、真っ二つになっているんじゃないか?
本当、反吐が出るな。
「大丈夫か?」
「ああ……だけど」
「そうだな、我も見ていたぞ」
ガエリオンが殺気を放つ。
谷子との生活、そして自分の命と妻を奪った宿敵だからな。
「なんなんだ、この山は」
とりあえず、受けた傷の回復をするために、俺は回復魔法を唱える。
ああ、ちなみにプルートオプファーの呪いの所為で、あのギロチンってスキルの攻撃は凄く痛かった。
しかも回復が遅い……。
谷子と合流して、サディナから教わったという聖水の能力向上魔法で辛うじて完治させるに至った。
盗賊探しをして僅か三十分。俺は今回の任務の先行きが非常に不安になるのだった中華牛鞭。
2013年10月2日星期三
ラフのラフ種
夜、温泉で治療をし、火照ったままポータルで帰還した俺は呪いの所為で作業が出来ず、且つ訓練をする程でもない程度に暇なのでラトの新築した研究所に顔を出した。
「ラフー」
「タリー」
「リーアー」
……おかしくなった俺に改造された魔物共が出迎えてくれる。SPANISCHE FLIEGE D6
一応ラフ種の亜種扱いで、肌触りは悪くない。むしろ良い。
元キャタピランドの魔物は、ラフ種に改造された事を大層喜び、Lv上げの戦闘組で頑張っている。
見た目は大型ラフ種で、尻尾が僅かに名残がある程度だ。
どう名残があるかと言うと、尻尾に芋虫の足があって常時地面にぺたりと付けている。
尻尾と言うか……昆虫の腹みたいな感じの、あれだ。
カチカチと石板で何かをうちこんでいるラトに挨拶をする。
ん? サディナも居る。
「調子はどうだ?」
「ラフー」
「ナオフミちゃん。今日は良い夜ね。お姉さんと飲み比べしない?」
「しない」
補佐するようにミー君だったかが俺を出迎えるが、俺は無視した。
先入観なんだろうが、コイツはなんか気に食わないんだよな。
「ああ、侯爵……よく平然と私の所へ来れるわねー……その根性は侯爵らしいけど」
ラトが嫌味を言っている。
まあ気持ちはわかるが、いつまでも罪悪感に浸ってなどいられない。
鳳凰との戦いが目の前まで迫っているんだ。
やるべき事は一つ一つやっておかないといけない。
それに……メルロマルクとは直接的な関係こそ無いが、城下町が少しピリピリしていたしな。
波でもそうだが、やはりこの時期は慎重になってしまう。
「こいつ等を改造したのは俺じゃない。俺を乗っ取った何かだ」
「わかってるわよ」
「サディナの治療中だったのか?」
「ううん。そっちは既にやってるとこ、と言うかミー君を相手に呑み比べしないで」
「ラフー」
「あはは、だってこの子お酒強いからお姉さん楽しいんだもん」
……よく見たらミー君って奴の造詣が滅茶苦茶だ。
ラフ種っぽいけど何か違うようだ。
「ミー君。そろそろ寝なさい」
「らふー」
なんかイントネーションもおかしい……って溶けた!?
ドロドロと形を崩し、這うようにミー君はズルズルと気色悪い音を立てて、部屋から出ていった。
トラウマになりそうだ。
「で? 侯爵は何の用?」
「ああ、調子はどうかと思ってな」
前々から心配はしていた。
「そうね……正直な所、おかしくなった侯爵の研究は、悔しいけど称賛に値するものね」
「……」
「気にしてるのはわかっているし、認めたくないけど、なんて言うか……これだけの事が出来る天才なんてまずいないわ」SPANISCHE FLIEGE D5
「どう天才なんだ?」
「まずは副作用とかそう言うのが殆ど無いの。それでありながら確実な成果が目に見えて存在する。治療中だった子然り、魔物達然り」
「副作用ねー……」
「治療前の……ここで治療中だった子達いるでしょ? ああいう、犠牲者が確実に出る類の物ばかりなのよ」
「そう言う連中無しで作り上げたと」
「ええ」
俺もあいつ等、治療を受けて俺を神と呼ぶ連中は見ている。
それだけで良かったとは思うけど、その先の改造は余計だと思う。
一応は本人達が望んだらしいが、超えちゃ行けない一線は超えるなよと。
「自分にもしもの事があったらってミー君の中に情報を詰めた魔石を埋め込んでいたみたいでね。私のやりたかった事の設計図もかなり入っていたわ」
と、ラトが石板を操作して画面を映し出した訳だけど……正直、内容は全然理解できない。
それほど、高位な物だ。
俺がやったと言われても、信じられない。
「これをなぞれば私のやりたかった事の大半が叶うけど……って粗を探していたって訳」
「で? 結果は?」
「完敗よ。悔しくて涙が出るわね」
「じゃあ成長する武器とかも作りだせるのか?」
「そこは手を入れてなかったわ。どちらかと言うと新種の創造に力を入れていたみたいだから」
「ラフ種か」
「ええ、仮名だけどね。正式名称はどうする?」
既にラフ種でイメージが固定されているんだが。
何か付けるとしても、元がラフタリアだからな。
そもそもラフタリアが元だからといって、ラフだのタリだのリーアだの、安直過ぎるよな。
まあ、今更考えるのも面倒か。
「そのままラフ種で良いだろ?」
「タリ種、リーア種とか色々とあるのよ。それを纏めてラフ種ね。わかったわ。フィロリアルのアリア種みたいな感じで、ラフのラフ種と」
う……なんか呼び名を考えよう。
ラフタリアのラフ種とか決めたら怒られそうだ。
さすがにそんな名前にはしないが。
「俺としては第七世代ラフ種と第一世代ラフ種の違いがわからないんだが」
撫でても感触は同じだし、違いがよくわからない。
出来る技能に違いがあるっぽいけど。
「デフォルメしたラフタリアみたいな奴は数が少ないが、アレはなんなんだ?」
「アレは第七……侯爵にわかりやすく言うと七日目に作られたラフの一匹と言うべきかしら?」
日数か。
じゃあタヌキとアライグマ、レッサーパンダの混合魔物はラフ種の基礎で、デフォルメラフタリアはその亜種と見て良いのだろう。
「ミー君だったか。アレはラフ種の第何世代なんだ?」K-Y
「一応はあの体は八日目に作った物なのかしら? よくわからないけど、日によって違うし、換装も出来るわ。構造は大きく違うようよ」
「換装って……まるでロボットだな」
「ロボット?」
「この世界で言うゴーレムの事、というのが一番近いか」
「へぇ……」
「で、どう違うんだ?」
「まず、あの体はスライムの概念を取りこんである。肉塊と呼べる要素があるわ」
肉塊……。
ちょっと引くぞ。その表現。
「衝撃も斬撃にも魔法にも強靭な防御力を持っている」
「隙がないな……」
俺の勘が告げている。
あいつの弱点は、おそらく――。
「ただ、弱点と呼べる要素として、水を被った状態で伝導率の高い魔法を受ける、動きが止まってしまうのと内部のコアにダメージが入るわ」
「他に大きな衝撃で肉塊を弾けばコアが露出するとかだろ?」
「正解、さすがは侯爵ね。問題は相当強い力で露出させないといけないけど。それを受けたら終わりね」
「アイツは裏切り癖があるんじゃないか?」
「あー……ミー君? どちらかと言うと強さに貪欲なのよ。弱い所為で奪われ続けちゃって……でも私は信じてくれているわ」
「はいはい。そう思っているのはお前だけなんじゃないか?」
我が子はかわいいって奴だな。
ラトは魔物に対して親みたいなポジションだし。
「違うわよ。おかしくなった侯爵の塔の半分は、あの子が暴走した振りで破壊したんだから」
「そうなのか!?」
「そうよ。塔の重要拠点の守りから外されたら、穴を開けて近道を作ったり、防御装置を破壊したり、塔を守ろうとした子の邪魔をしたりと、下手をすれば廃棄されるような事をしてたわ」
「よく、捨てられなかったな」
「そこは……勇者相手に善戦したりと活躍もしてたから……かしらね」
役には立つが暴走が……って奴?
性能を考えれば制御できれば優秀だから残したって事か。
「侯爵も暴走に関して相当、手を焼いていたみたいよ。何重にもセキュリティを掛けようとしていたみたいだし。まあ、ミー君はその辺りのログを弄ってたみたいだけどね」
と、ラトは石板の画面を移す。
「ミー君。どうやらこの錬金装置を手に取るように操れる様に技能を詰め込まれたみたいなの」
う……途端に難しい事を。
えっと、俺の常識で簡単に言うと、インターネットの世界に物理的に入る事が出来るような物で、ログと言うノートに書かれた記述を消しゴムで簡単に消して書きなおせるような……感じ?
俺がパソコンを動かし、やっとの事ネット内の的に当てる事が出来るのに、あっちは目の前の目標を指一つで壊せるとか……それに近いかも。曲美
まあ、ファンタジーの世界でパソコンが一台あっても出来る事なんてタカが知れているけどさ。インターネットで世界中につながっている訳じゃないし。
つまり、ログを見て暴走を直そうとしていたけど、本人が暴れて邪魔してただけな訳ね。
最終的に改造を終えた後、ラトの方について、おかしくなった俺を裏切ったと。
やっている事は一応、サディナとおんなじか。
「一応、私が作ったラフ種のホムンクルスボディに換装する予定」
「なんでだ?」
「まだ未完成だったみたいなのよ。だから問題を抱えているみたい。とはいえ、殆ど完成って所だけど」
「そうか」
「話終わったかしらー?」
「まあな。ところで、そっちはどうなんだ?」
俺はサディナの体に関して尋ねる。
「ああ、まあ……大分良くなってきているわよ。明日には毛は無くなるかしらね」
ボロボロと見ればサディナの毛が少しずつ落ちて黒と白のあの色合いが見えている。
トドっぽい牙も既に無い。
何でも折ったその場で生えてくるとか楽しげに言ってたけど。
「ただ……」
「ただ?」
「……なんでもないわー」
「そうか?」
気にしたら負けだな。
軽いのがコイツの強みだし。
「ナオフミちゃんはどんなお姉さんが好み? やっぱモフモフしている方が良いのかしら? ラフ種ちゃんみたいに」
「いやー……」
お前の茶色は目と心に痛い。
「サディナは自然体の方が良いな。その流線型はそれはそれで味がある気がするし」
「あらー……褒められちゃった。恥ずかしいわお姉さん」
「はいはい」
とまあ、村でも年齢の高い女二人と話をしてから、俺は家に帰るのだった。sex drops 小情人
「ラフー」
「タリー」
「リーアー」
……おかしくなった俺に改造された魔物共が出迎えてくれる。SPANISCHE FLIEGE D6
一応ラフ種の亜種扱いで、肌触りは悪くない。むしろ良い。
元キャタピランドの魔物は、ラフ種に改造された事を大層喜び、Lv上げの戦闘組で頑張っている。
見た目は大型ラフ種で、尻尾が僅かに名残がある程度だ。
どう名残があるかと言うと、尻尾に芋虫の足があって常時地面にぺたりと付けている。
尻尾と言うか……昆虫の腹みたいな感じの、あれだ。
カチカチと石板で何かをうちこんでいるラトに挨拶をする。
ん? サディナも居る。
「調子はどうだ?」
「ラフー」
「ナオフミちゃん。今日は良い夜ね。お姉さんと飲み比べしない?」
「しない」
補佐するようにミー君だったかが俺を出迎えるが、俺は無視した。
先入観なんだろうが、コイツはなんか気に食わないんだよな。
「ああ、侯爵……よく平然と私の所へ来れるわねー……その根性は侯爵らしいけど」
ラトが嫌味を言っている。
まあ気持ちはわかるが、いつまでも罪悪感に浸ってなどいられない。
鳳凰との戦いが目の前まで迫っているんだ。
やるべき事は一つ一つやっておかないといけない。
それに……メルロマルクとは直接的な関係こそ無いが、城下町が少しピリピリしていたしな。
波でもそうだが、やはりこの時期は慎重になってしまう。
「こいつ等を改造したのは俺じゃない。俺を乗っ取った何かだ」
「わかってるわよ」
「サディナの治療中だったのか?」
「ううん。そっちは既にやってるとこ、と言うかミー君を相手に呑み比べしないで」
「ラフー」
「あはは、だってこの子お酒強いからお姉さん楽しいんだもん」
……よく見たらミー君って奴の造詣が滅茶苦茶だ。
ラフ種っぽいけど何か違うようだ。
「ミー君。そろそろ寝なさい」
「らふー」
なんかイントネーションもおかしい……って溶けた!?
ドロドロと形を崩し、這うようにミー君はズルズルと気色悪い音を立てて、部屋から出ていった。
トラウマになりそうだ。
「で? 侯爵は何の用?」
「ああ、調子はどうかと思ってな」
前々から心配はしていた。
「そうね……正直な所、おかしくなった侯爵の研究は、悔しいけど称賛に値するものね」
「……」
「気にしてるのはわかっているし、認めたくないけど、なんて言うか……これだけの事が出来る天才なんてまずいないわ」SPANISCHE FLIEGE D5
「どう天才なんだ?」
「まずは副作用とかそう言うのが殆ど無いの。それでありながら確実な成果が目に見えて存在する。治療中だった子然り、魔物達然り」
「副作用ねー……」
「治療前の……ここで治療中だった子達いるでしょ? ああいう、犠牲者が確実に出る類の物ばかりなのよ」
「そう言う連中無しで作り上げたと」
「ええ」
俺もあいつ等、治療を受けて俺を神と呼ぶ連中は見ている。
それだけで良かったとは思うけど、その先の改造は余計だと思う。
一応は本人達が望んだらしいが、超えちゃ行けない一線は超えるなよと。
「自分にもしもの事があったらってミー君の中に情報を詰めた魔石を埋め込んでいたみたいでね。私のやりたかった事の設計図もかなり入っていたわ」
と、ラトが石板を操作して画面を映し出した訳だけど……正直、内容は全然理解できない。
それほど、高位な物だ。
俺がやったと言われても、信じられない。
「これをなぞれば私のやりたかった事の大半が叶うけど……って粗を探していたって訳」
「で? 結果は?」
「完敗よ。悔しくて涙が出るわね」
「じゃあ成長する武器とかも作りだせるのか?」
「そこは手を入れてなかったわ。どちらかと言うと新種の創造に力を入れていたみたいだから」
「ラフ種か」
「ええ、仮名だけどね。正式名称はどうする?」
既にラフ種でイメージが固定されているんだが。
何か付けるとしても、元がラフタリアだからな。
そもそもラフタリアが元だからといって、ラフだのタリだのリーアだの、安直過ぎるよな。
まあ、今更考えるのも面倒か。
「そのままラフ種で良いだろ?」
「タリ種、リーア種とか色々とあるのよ。それを纏めてラフ種ね。わかったわ。フィロリアルのアリア種みたいな感じで、ラフのラフ種と」
う……なんか呼び名を考えよう。
ラフタリアのラフ種とか決めたら怒られそうだ。
さすがにそんな名前にはしないが。
「俺としては第七世代ラフ種と第一世代ラフ種の違いがわからないんだが」
撫でても感触は同じだし、違いがよくわからない。
出来る技能に違いがあるっぽいけど。
「デフォルメしたラフタリアみたいな奴は数が少ないが、アレはなんなんだ?」
「アレは第七……侯爵にわかりやすく言うと七日目に作られたラフの一匹と言うべきかしら?」
日数か。
じゃあタヌキとアライグマ、レッサーパンダの混合魔物はラフ種の基礎で、デフォルメラフタリアはその亜種と見て良いのだろう。
「ミー君だったか。アレはラフ種の第何世代なんだ?」K-Y
「一応はあの体は八日目に作った物なのかしら? よくわからないけど、日によって違うし、換装も出来るわ。構造は大きく違うようよ」
「換装って……まるでロボットだな」
「ロボット?」
「この世界で言うゴーレムの事、というのが一番近いか」
「へぇ……」
「で、どう違うんだ?」
「まず、あの体はスライムの概念を取りこんである。肉塊と呼べる要素があるわ」
肉塊……。
ちょっと引くぞ。その表現。
「衝撃も斬撃にも魔法にも強靭な防御力を持っている」
「隙がないな……」
俺の勘が告げている。
あいつの弱点は、おそらく――。
「ただ、弱点と呼べる要素として、水を被った状態で伝導率の高い魔法を受ける、動きが止まってしまうのと内部のコアにダメージが入るわ」
「他に大きな衝撃で肉塊を弾けばコアが露出するとかだろ?」
「正解、さすがは侯爵ね。問題は相当強い力で露出させないといけないけど。それを受けたら終わりね」
「アイツは裏切り癖があるんじゃないか?」
「あー……ミー君? どちらかと言うと強さに貪欲なのよ。弱い所為で奪われ続けちゃって……でも私は信じてくれているわ」
「はいはい。そう思っているのはお前だけなんじゃないか?」
我が子はかわいいって奴だな。
ラトは魔物に対して親みたいなポジションだし。
「違うわよ。おかしくなった侯爵の塔の半分は、あの子が暴走した振りで破壊したんだから」
「そうなのか!?」
「そうよ。塔の重要拠点の守りから外されたら、穴を開けて近道を作ったり、防御装置を破壊したり、塔を守ろうとした子の邪魔をしたりと、下手をすれば廃棄されるような事をしてたわ」
「よく、捨てられなかったな」
「そこは……勇者相手に善戦したりと活躍もしてたから……かしらね」
役には立つが暴走が……って奴?
性能を考えれば制御できれば優秀だから残したって事か。
「侯爵も暴走に関して相当、手を焼いていたみたいよ。何重にもセキュリティを掛けようとしていたみたいだし。まあ、ミー君はその辺りのログを弄ってたみたいだけどね」
と、ラトは石板の画面を移す。
「ミー君。どうやらこの錬金装置を手に取るように操れる様に技能を詰め込まれたみたいなの」
う……途端に難しい事を。
えっと、俺の常識で簡単に言うと、インターネットの世界に物理的に入る事が出来るような物で、ログと言うノートに書かれた記述を消しゴムで簡単に消して書きなおせるような……感じ?
俺がパソコンを動かし、やっとの事ネット内の的に当てる事が出来るのに、あっちは目の前の目標を指一つで壊せるとか……それに近いかも。曲美
まあ、ファンタジーの世界でパソコンが一台あっても出来る事なんてタカが知れているけどさ。インターネットで世界中につながっている訳じゃないし。
つまり、ログを見て暴走を直そうとしていたけど、本人が暴れて邪魔してただけな訳ね。
最終的に改造を終えた後、ラトの方について、おかしくなった俺を裏切ったと。
やっている事は一応、サディナとおんなじか。
「一応、私が作ったラフ種のホムンクルスボディに換装する予定」
「なんでだ?」
「まだ未完成だったみたいなのよ。だから問題を抱えているみたい。とはいえ、殆ど完成って所だけど」
「そうか」
「話終わったかしらー?」
「まあな。ところで、そっちはどうなんだ?」
俺はサディナの体に関して尋ねる。
「ああ、まあ……大分良くなってきているわよ。明日には毛は無くなるかしらね」
ボロボロと見ればサディナの毛が少しずつ落ちて黒と白のあの色合いが見えている。
トドっぽい牙も既に無い。
何でも折ったその場で生えてくるとか楽しげに言ってたけど。
「ただ……」
「ただ?」
「……なんでもないわー」
「そうか?」
気にしたら負けだな。
軽いのがコイツの強みだし。
「ナオフミちゃんはどんなお姉さんが好み? やっぱモフモフしている方が良いのかしら? ラフ種ちゃんみたいに」
「いやー……」
お前の茶色は目と心に痛い。
「サディナは自然体の方が良いな。その流線型はそれはそれで味がある気がするし」
「あらー……褒められちゃった。恥ずかしいわお姉さん」
「はいはい」
とまあ、村でも年齢の高い女二人と話をしてから、俺は家に帰るのだった。sex drops 小情人
2013年9月29日星期日
過分な(?)報酬
「……以上が、今回の精霊神殿での異常についてのクズノハ商会による見立てです。あの場におりました私の考えとしましても、彼らの報告に嘘は無いと考えて良いものかと」
「なるほど。上位精霊までもを酔わせる程の歪んだ力場が祭壇に発生、か。明らかに人為的なものだな」男宝
「はい。識殿が仰るには空気に溶ける触媒を利用した、数日間程度の効力を見込んだ儀式魔術ではないかと。犯行は恐らく……陛下への反対勢力によるものではないでしょうか」
「間違いあるまい。ヒューマンの工作員はそもそもこの都には入り込んでおらんし、かの組織にも女神の神殿にも変わった動きはない。となれば、内々の者の仕業としか考えられぬ」
宴の時を待つ、夜を控えたひと時。
魔王ゼフは数名の文官と、側近でもある魔将イオ、ロナを伴ってある報告を聞いていた。
報告者は魔王の子供二名。
ルシアとサリである。
精霊神殿に客人であるクズノハ商会一行を案内して事件に巻き込まれた彼女達は、その解決までの一部始終を見届けて城に帰還。
その有様を魔王に報告し終えた所だった。
ゼフからの幾つかの質問にもサリは淀みなく答え、ゼフはその事件の黒幕までも前もって知っていたかのようにサリの言葉を肯定した。
「しかし、上位精霊が二体揃ってもライドウには傷一つ負わせられんか。魔人とは、伊達やハッタリで付けられた名では無いという事だな。聞けばその時も奴の一撃で四桁単位の兵が死んでいる。まったく、少しは過大に評価された結果であって欲しかったものだ。大きく見積もってもまだ上とは恐れ入る」
「……あの者らの力は大国に匹敵、いえより慎重に考えるのならこの戦争における第三勢力として数えてよい程の規模です。いかに暴走していたとはいえ、荒れ狂う精霊の園そのを涼しい顔で通り抜けベヒモスとフェニックスを制圧して話をしてきたのですから」
「従者一人が上位精霊並みとなれば、強あながち否定も出来ぬな。しかしロナ、お前の報告ではあの識とかいう者は精々強力なリッチ程度の実力だったはずだが?」
ゼフの言葉が横に腰掛けているロナに向けられる。
「はい、確かにあの識はラルヴァに憑依されている者の筈です。この数年、奴とは連絡すら取っていませんでしたが……信じられません。リッチとしてのラルヴァの実力は既に伸びしろの限界近くまで高まっていたはず。いくら何でも地の上位精霊に勝てる訳がないのです。アンデッドの力でベヒモスに立ち向かうなど……松明たいまつを振り回して山火事を消そうとするような、愚かで信じ難い行為です。無謀としか言い様がありません」
「幾分か暴走に助けられていた部分はあったのかもしれないが、識殿は途中見事な剣技も交えつつ幾つもの禁呪クラスの魔術を同時に行使してベヒモスと渡り合っていた。接近戦の実力といい、魔術の強大さといい……あれがリッチだとは信じられない」
これまで沈黙を貫いていたルシアが、ロナの戸惑いを感じさせる言葉に反応して識の戦いぶりを口にした。
「剣……。ますますラルヴァのイメージから離れます。どうやら、私の把握している事情が真実ではないかもしれません。再度、識についても調査を致します」
「うむ。ただし、穏便にな。強硬な手は禁ずる」
「はっ」
「で、サリ。精霊殿たちはなんと? 正気に返られたのだったな?」
「はい。それが、開口一番に元々腕試しをする気だったから丁度よかったなどと申されまして」
「なんと……」
イオが呆れたように短く呟く。
「澪殿に時折折檻されながらも、基本的には和やかに話が進みました」
「ふむ。まあ興味は持たれていたようだから、その可能性も考えてはいた。それで?」
澪については触れずに、ゼフが続きを促す。
「結局のところ、フェニックスが澪殿に、ベヒモスが識殿に。それぞれ困った事があれば呼んでいいというような約束を結ばれました」
「くくっ、そうか。まったく、どんどん手がつけられなくなっていくな、あの商会は」
「後にもいくつか話があったようですが、私と姉様は保護した者らの様子を見てくるように言われその場を離れるしかなく、どのような会話があったのかはわかりませんでした」
「よい。さて、大体はこちらの想定した範囲におさまっているようだが……」
ゼフの、思惑を確かめる様な表情。
それを見てサリが目を大きく見開き、そして口を開いた。
「失礼ながら申し上げます。陛下は、精霊神殿の異変を既に把握しておられたのですか?」
「……うむ。いや、そうであるかもしれぬ、と考えていた程度だ」
「その後のクズノハ商会の行動も?」
「お前達に引き摺られ、干渉はするであろうなと思っていた」
「……彼らの、実力もでしょうか」
「その点は、お前達が出来るだけ引き出してくれる事を期待していたが……余が考えていた程度の異変ならば問題なく帰って来ると確信はあった」
「ライドウ殿は。こともあろうに、あの男は。ベヒモスと対峙していた時にフェニックスまで乱入してきた最悪の状況で、ラッキーと言いました。神殿一個分楽になったと。陛下は! それほどまでの力をライドウ殿から感じておられたのでしょうか!?」三體牛鞭
「……ふっ、ラッキーか。恐ろしい言葉を吐く。いや、そこまでは考えておらぬよ。第一、まさか上位精霊が二体とも狂っておったとも想定しておらん。それほどの事態なら余が自ら軍を率いて鎮圧に臨んだであろう。その用意もしていた。そうだな、イオ、ロナ?」
ゼフの言葉にイオとロナが首肯する。
サリは、どこか安堵したように息を吐いた。
「そうですか。いえ、私たちにはとにかく危険な人物としか把握できなかったので、陛下にはどこまでわかっておられたのか、どうしても気になりました。ご無礼をお許し下さい」
「無礼などとは思わん。気にするな。だが、此度の一番の問題はやはりタイミングだな」
「タイミング?」
「クズノハ商会が神殿を訪れる日時を把握していたのはごくごく限られた人物。であれば、その情報をクーデターを望む輩に流した者が余の身近にいるという事になる。上位精霊までを巻き込む精霊の暴走など、内容からして発作的、衝動的に起こせる事件でもない。計画的にやれるだけの者らが、事前に情報をある程度掴んだ上でクズノハ商会を、余が招いた客人を巻き込もうとしたとも考えられる」
『!?』
一同に緊張が走る。
魔王の言葉は、この場にいる者が“そう”かもしれないと言っていたのだから無理もない。
「やれやれ、こちらも春までには片付けたい問題ではあるな。クズノハ商会ほどではないにせよ、な」
「陛下。客人である彼らにあれ程働かせたままとあれば、こちらの体裁も」
「わかっている、イオ。なに、それについては昨日ロナが識を通じて、あちらにある程度伝えてある。そうだな、ロナ」
「はい。確かに伝えました。が、あれは親善試合の代価としてだった筈ですが」
「少し色をつけ、目録よりも先にモノを渡す。見たところ、ライドウはそのような手法にも恩を感じるタイプに見えた。識は納得するかわからぬが、あの一行は間違いなくライドウが一番発言権を持っている。最悪、奴さえ納得させられれば問題はあるまい」
「確かに……」
「とは言え、無茶はせぬがな。実は内情が厳しい、と泣き落としでもして見せようか。この環境を見て、魔族が豊かだとも思ってないであろうからな」
ゼフが笑う。
この王はクズノハ商会と向き合う、早くもその方法を彼なりに見出しているようだった。
「では親善試合について――」
「待て」
ルシアが話題を変えて自らも関わるであろう翌日のイベントに触れようとした時。
魔王は笑顔のまま、その言葉を制した。
「その前に、二人に確認しておきたい事がある。今日同行した上での意見を聞く。ライドウに嫁げと言ったら、どうする?」
「問題ありません」
ルシアが先に即答する。
「即答か。随分と早い心変わりだな」
「あの者は野放しには出来ません。陛下の仰る通り、またサリの言う通りにそれは事実です。私などで役に立つならあの力、魔族に向けぬよう全力を尽くします」
「ふむ……サリ、お前は?」
「私は……ライドウ殿に嫁ぐ事は出来ません」
「ほう」
ゼフが興味深そうにサリを見る。
周りも、どちらかと言えば婚姻に前向きだったサリが拒絶の言葉を口にした事に驚いた様子だった。
「恐らく、その申し出はライドウ殿には逆効果になると考えます」
「どうしてだ? 嫁をもらうという事はヒューマンであろうと魔族であろうと、親類となる事を意味する。時に種族の諍いをも調停する古来からの方法の一つだが?」
「澪殿です。あの方は識殿に比べ、かなり感情に素直に振舞われる方でした。そして、ライドウ殿に想いを寄せている。そう見て取れました。ならば、嫁というのは彼女にとっては面白くないはずです。もし澪殿だけでも裏から魔族に何か妨害を考えでもしたら甚大な被害がでかねません」
「……それほどに、情を優先するだろうか。仮にもあの、ライドウの側近だぞ?」
「します。クズノハ商会は、我ら魔族の組織と比べてかなり自由が許されているようでした。話がまとまる前に、何かあると」
「む……、それは少し予想外だな。ライドウの下、一枚岩の組織で奴の意思は絶対だと考えていた」
「それに、ライドウは陛下が考えるよりもずっと」
「ずっと?」
「幼く、奥手な男性であるように見受けられました。少なくとも平時においての彼は」
「幼く、奥手か」
「はい」
「だから婚姻は適切な策ではないか。命のやり取りが平然と出来て心が幼いという事もないと思うが……だが、あの夜の話でも確かに……」
「ただし陛下、私は既に種を蒔きました。今日彼を見て、婚姻よりもライドウ殿を縛れそうな策にも使えそうです。私にお任せ頂けませんか?」
「サリ!」
ルシアの叱責を兼ねた言葉。
クズノハ商会、ライドウ。
どちらも、いまだ勉強中であるルシアやサリに任せられる案件ではない。
ことは魔族の未来にも関わることなのだから、ルシアの厳しい口調は正しい。
「……自信はあるのか?」
「はい」
「詳しく申せ」
「……後ほど、人払いの後で申し上げたく存じます」
「……わかった」
サリとゼフの視線が真っ向からぶつかる。狼1号
どちらも真剣で、割り入る事の出来ない雰囲気を生んでいる。
ゼフが先に視線を外した後も、サリは彼をしばらく見つめ、そして小さく頷くと、後には一言も発さずに沈黙した。
「ロナ。先ほども言ったが、ごく限られた者の中に裏切り者がおる。捜せ、明日の試合には響かせるなよ」
「……必ず」
「うむ。イオ、親善試合で少し変更を加える。神殿の一件が伝わる事を念頭に、観戦できる者をより制限したい。それから、対戦相手もだ。サリ、お前は余の部屋の前で待機しておれ。ルシアは戻ってよい、それから明日の試合にお前は来るな。既に心折れた者が見ても参考にならぬ光景であろうからな。部隊訓練を任せるゆえ、終日務めよ」
ゼフの言葉に各々から肯定の返事がある。
ルシアは唇をかみ締めたが、反論はしなかった。
既にライドウやクズノハ商会の力を見た彼女だから試合を見るのはそこまで必要な事でもない。
そんな意図がゼフから伝わったかどうかは別にして、ルシアは頷き、返事を返した。
「それが終わったら夕食、ライドウ殿と話をせねばな。想定内とはいえ、つくづく忙しくさせてくれる客人だよ彼らは」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「そう言ってもらえると助かる。ライドウ殿にはこの都を救ってもらったようなものだ。親善試合を引き受けてくれた事といい、いくら頭を下げても追いつかんよ」
「い、いえいえ! 陛下にそのようにしていただくなんて。殆ど従者に働いてもらったようなものです。ルシアさんにもサリさんにも怪我がなくて本当に良かった」
えー。
今ゼフが隣にいます。
近いです。
王様の隣です。
食べ物の味とか、昨日より一層わかりません。
ついでに、満腹具合もわかりません。
直々に取り分けてくれるし、昨日よりも規模が小さくて、より上の人だけを参加させたらしい今夜の宴。
僕にはより嬉しくない仕様です、はい。
「原因の目星までつけてもらったのだ。もっと尊大に構えてもらって良いのだがな。ん、もう杯が空だったか。気付かずにすまんな」
「もう大分頂いていますので、その……頂きます。どうぞ、陛下も」
既に注がれる液体を見て観念する。
こういう時ってどう断るのが正解なのか。
飲みかけを置いておけばと思ったけど、そうするとどこからともなく空の杯が差し出されてゼフがそれを満たす。
お手上げだ。
「ありがとう。いや、余もこうして誰かと飲み交わす機会は実は少なくてな。まるでライドウ殿が息子の様に思えてきてしまう、いや、参った」
なにをサラッと言うんだ、この人は。
絶対酔ってないだろう。
朝あの二人の念話を聞いている身としては前振りにしか聞こえない。
「ご立派な息子さんがお二人もおられるじゃないですか、あはは」
「ロシェに、セムか。確かに、良く頑張ってはいる。が、優れた教育が作るのは大抵秀才までだ。あの二人もな。やはりライドウ殿のような突き抜けた才は中々出ぬ。今日案内させたルシア、それにサリ。まあサリはまだ少し幼いが、どうだ? どちらか、なんなら両方でももらってくれると余も安心なのだが」
……話題かわんねえ。
なにこの人。
「ご冗談を。私、ヒューマンですし」
「力ある者なら構わぬ。孫もこちらに預けろとは言わんよ? ん?」
ん、じゃねえ……。
結婚なんてそもそも考えてないし。
「本当に良いお話だとは思いますが、未だ商人としても未熟な身。お断りさせて頂きます」
「……駄目かね」
「……はい」
どう言おうか迷ったけど、はっきり断る事にする。
曖昧に言っても引いてくれないもんな。
「どうしても?」
「どうしてもです」
「むぅ」
黙ってしまうゼフ。
機嫌を悪くさせちゃったかな。
でも、これは流石に。
なあなあで結婚はできない。
「なら仕方ないな」
「へ?」
「残念だが、私の娘ではライドウ殿は射止められなかったという事だろう。即ち魅力不足。力が及ばぬなら、これはもう仕方がない」
「は、はあ」
ここでも力か!?巨根
凄いな、おい。
と言うか、凄いあっさりと引いてくれたよ。
嬉しいけど、少し不安もよぎる。
これが魔王クオリティ、いやゼフクオリティか。
恐るべし。
「ルシアなどはあれで結構締め付けておってな、脱ぐとそれなりに女らしゅうもなるし、ドレスなど着ればそれなりに映はえるのだが……女の身で軍人などやっておるから確かに“そちら”の修練は怠っている所がある。このままだと売れ残りそうで少し不安だが、ライドウ殿の好みでないならば仕方あるまい」
ヒューマンだと女神の祝福ありきだから女性の軍人も別に珍しくない、いやむしろ多い所もあるんだけど、亜人や魔族だと少し割合が減るんだよな。
少しなのは魔術の存在も関係してくるような気はするものの、ルシアさんのような娘さんが軍の上の方にいるのは珍しいのは確か。
だけどさ。
血が繋がってるか知らないけど、娘なのに。
なんて言い草だ。
チラ見されても頷けないものは頷けない!
実は諦めてないのか!
表情が同じ人懐っこい笑顔だから読めん!
ずるい。
「一から仕込む楽しさはあると思うが、確かにライドウ殿はまだその手間を楽しまれる歳でもないか」
「へ、陛下。その少しお酒を飲みすぎでは?」
絶対に酔ってないし、酒の力なんて微塵も介在してないとわかるけど、酒の所為にしてフォローしてみる。
「なればサリも駄目であるか。あれなどは正にこれから女になる段階、体すら未成熟だ。今だけ楽しめる背徳感も好みではないと、そういう訳か」
止まってくれない。
後で酒の所為にするだろうし、話題にされた二人が手を止めてプルプル震えているし。
そう、結構大きな声で叫んでくれていやがります。
実は悪ふざけ大好きなのか、魔王。
レンブラントさんっていう娘さんのいる父親を知っているけど、大概こういう状況の後は酷い目に遭ってるぞ。
僕は逃げるけど、覚悟はあるんだよね?
頼まれても止めないからな?
「正直、サリ殿と結婚と言われても流石にピンと来ません。私の周りには王族や貴族の方のようにご結婚が早い方もおられなかったので……」
常識的。
せめて僕は彼女達を逆撫でしないようにしておこう。
「ではライドウ殿の好みの女とは、どのような女性なのだ?」
「私の好みですか!? え、ええと。普段はサバサバしていても不意に女らしい仕草をする子だったり」
「……ほう」
「一生懸命に練習を頑張る一途な子、とか」
「……」
「いや、例えばの話なんですが」
何を言ってるんだか、僕は。
飲みすぎだな。
注つがれてご返杯して、の繰り返しで強めの酒を大分飲まされているのは事実。
「ふむ、澪殿などはそういう性しょうの女性ということかね?」
ぶふぅっ!!
ゼフの何気ない発言に驚いてつい澪を見る。
話が聞こえているのかはわからないけど、澪も背筋が不自然に伸びている気がする。
念話で……いや、確認するのもなんだかな。
「な、なぜそこで澪が」
「いや、あれ程お綺麗な女性だ。当然手をつけているだろうから、そうなのかとな」
何が、当然手をつけているだろうから、だ。
断じてしてないわ!
「彼女は、部下です。それに何と言いますか、家族のような付き合いをしているものですから。あまりにも想像していないお言葉で粗相をしてしまいました。失礼しました」
口の中にあった酒の一部が口からもれてクロスを汚してしまった事を謝る。
ゼフの発言は、何一つ安心というものが出来ない気がしてきた。
疲れる。
宴と言っても、要は僕らが接待を受ける側の飲み会の筈なのに。
すっごい疲れる。
「ははは、失礼は下世話な事を聞いた余の方だ。こちらこそすまなかった」
自覚があるー。
最悪な人だな、おい。
そう言って、ゼフは椅子をこちらにずらして体を密着させるような距離に寄ってきた。
そして懐から筒を取り出した。
大きくはない。
細長い筒だ。
あ、賞状なんかを入れる丸筒か。
ってことは書類?
あと、併せて少し厚みのある板も出してテーブルに置いた。
材質は不明だけど、何か刻んである。勃動力三體牛鞭
「なるほど。上位精霊までもを酔わせる程の歪んだ力場が祭壇に発生、か。明らかに人為的なものだな」男宝
「はい。識殿が仰るには空気に溶ける触媒を利用した、数日間程度の効力を見込んだ儀式魔術ではないかと。犯行は恐らく……陛下への反対勢力によるものではないでしょうか」
「間違いあるまい。ヒューマンの工作員はそもそもこの都には入り込んでおらんし、かの組織にも女神の神殿にも変わった動きはない。となれば、内々の者の仕業としか考えられぬ」
宴の時を待つ、夜を控えたひと時。
魔王ゼフは数名の文官と、側近でもある魔将イオ、ロナを伴ってある報告を聞いていた。
報告者は魔王の子供二名。
ルシアとサリである。
精霊神殿に客人であるクズノハ商会一行を案内して事件に巻き込まれた彼女達は、その解決までの一部始終を見届けて城に帰還。
その有様を魔王に報告し終えた所だった。
ゼフからの幾つかの質問にもサリは淀みなく答え、ゼフはその事件の黒幕までも前もって知っていたかのようにサリの言葉を肯定した。
「しかし、上位精霊が二体揃ってもライドウには傷一つ負わせられんか。魔人とは、伊達やハッタリで付けられた名では無いという事だな。聞けばその時も奴の一撃で四桁単位の兵が死んでいる。まったく、少しは過大に評価された結果であって欲しかったものだ。大きく見積もってもまだ上とは恐れ入る」
「……あの者らの力は大国に匹敵、いえより慎重に考えるのならこの戦争における第三勢力として数えてよい程の規模です。いかに暴走していたとはいえ、荒れ狂う精霊の園そのを涼しい顔で通り抜けベヒモスとフェニックスを制圧して話をしてきたのですから」
「従者一人が上位精霊並みとなれば、強あながち否定も出来ぬな。しかしロナ、お前の報告ではあの識とかいう者は精々強力なリッチ程度の実力だったはずだが?」
ゼフの言葉が横に腰掛けているロナに向けられる。
「はい、確かにあの識はラルヴァに憑依されている者の筈です。この数年、奴とは連絡すら取っていませんでしたが……信じられません。リッチとしてのラルヴァの実力は既に伸びしろの限界近くまで高まっていたはず。いくら何でも地の上位精霊に勝てる訳がないのです。アンデッドの力でベヒモスに立ち向かうなど……松明たいまつを振り回して山火事を消そうとするような、愚かで信じ難い行為です。無謀としか言い様がありません」
「幾分か暴走に助けられていた部分はあったのかもしれないが、識殿は途中見事な剣技も交えつつ幾つもの禁呪クラスの魔術を同時に行使してベヒモスと渡り合っていた。接近戦の実力といい、魔術の強大さといい……あれがリッチだとは信じられない」
これまで沈黙を貫いていたルシアが、ロナの戸惑いを感じさせる言葉に反応して識の戦いぶりを口にした。
「剣……。ますますラルヴァのイメージから離れます。どうやら、私の把握している事情が真実ではないかもしれません。再度、識についても調査を致します」
「うむ。ただし、穏便にな。強硬な手は禁ずる」
「はっ」
「で、サリ。精霊殿たちはなんと? 正気に返られたのだったな?」
「はい。それが、開口一番に元々腕試しをする気だったから丁度よかったなどと申されまして」
「なんと……」
イオが呆れたように短く呟く。
「澪殿に時折折檻されながらも、基本的には和やかに話が進みました」
「ふむ。まあ興味は持たれていたようだから、その可能性も考えてはいた。それで?」
澪については触れずに、ゼフが続きを促す。
「結局のところ、フェニックスが澪殿に、ベヒモスが識殿に。それぞれ困った事があれば呼んでいいというような約束を結ばれました」
「くくっ、そうか。まったく、どんどん手がつけられなくなっていくな、あの商会は」
「後にもいくつか話があったようですが、私と姉様は保護した者らの様子を見てくるように言われその場を離れるしかなく、どのような会話があったのかはわかりませんでした」
「よい。さて、大体はこちらの想定した範囲におさまっているようだが……」
ゼフの、思惑を確かめる様な表情。
それを見てサリが目を大きく見開き、そして口を開いた。
「失礼ながら申し上げます。陛下は、精霊神殿の異変を既に把握しておられたのですか?」
「……うむ。いや、そうであるかもしれぬ、と考えていた程度だ」
「その後のクズノハ商会の行動も?」
「お前達に引き摺られ、干渉はするであろうなと思っていた」
「……彼らの、実力もでしょうか」
「その点は、お前達が出来るだけ引き出してくれる事を期待していたが……余が考えていた程度の異変ならば問題なく帰って来ると確信はあった」
「ライドウ殿は。こともあろうに、あの男は。ベヒモスと対峙していた時にフェニックスまで乱入してきた最悪の状況で、ラッキーと言いました。神殿一個分楽になったと。陛下は! それほどまでの力をライドウ殿から感じておられたのでしょうか!?」三體牛鞭
「……ふっ、ラッキーか。恐ろしい言葉を吐く。いや、そこまでは考えておらぬよ。第一、まさか上位精霊が二体とも狂っておったとも想定しておらん。それほどの事態なら余が自ら軍を率いて鎮圧に臨んだであろう。その用意もしていた。そうだな、イオ、ロナ?」
ゼフの言葉にイオとロナが首肯する。
サリは、どこか安堵したように息を吐いた。
「そうですか。いえ、私たちにはとにかく危険な人物としか把握できなかったので、陛下にはどこまでわかっておられたのか、どうしても気になりました。ご無礼をお許し下さい」
「無礼などとは思わん。気にするな。だが、此度の一番の問題はやはりタイミングだな」
「タイミング?」
「クズノハ商会が神殿を訪れる日時を把握していたのはごくごく限られた人物。であれば、その情報をクーデターを望む輩に流した者が余の身近にいるという事になる。上位精霊までを巻き込む精霊の暴走など、内容からして発作的、衝動的に起こせる事件でもない。計画的にやれるだけの者らが、事前に情報をある程度掴んだ上でクズノハ商会を、余が招いた客人を巻き込もうとしたとも考えられる」
『!?』
一同に緊張が走る。
魔王の言葉は、この場にいる者が“そう”かもしれないと言っていたのだから無理もない。
「やれやれ、こちらも春までには片付けたい問題ではあるな。クズノハ商会ほどではないにせよ、な」
「陛下。客人である彼らにあれ程働かせたままとあれば、こちらの体裁も」
「わかっている、イオ。なに、それについては昨日ロナが識を通じて、あちらにある程度伝えてある。そうだな、ロナ」
「はい。確かに伝えました。が、あれは親善試合の代価としてだった筈ですが」
「少し色をつけ、目録よりも先にモノを渡す。見たところ、ライドウはそのような手法にも恩を感じるタイプに見えた。識は納得するかわからぬが、あの一行は間違いなくライドウが一番発言権を持っている。最悪、奴さえ納得させられれば問題はあるまい」
「確かに……」
「とは言え、無茶はせぬがな。実は内情が厳しい、と泣き落としでもして見せようか。この環境を見て、魔族が豊かだとも思ってないであろうからな」
ゼフが笑う。
この王はクズノハ商会と向き合う、早くもその方法を彼なりに見出しているようだった。
「では親善試合について――」
「待て」
ルシアが話題を変えて自らも関わるであろう翌日のイベントに触れようとした時。
魔王は笑顔のまま、その言葉を制した。
「その前に、二人に確認しておきたい事がある。今日同行した上での意見を聞く。ライドウに嫁げと言ったら、どうする?」
「問題ありません」
ルシアが先に即答する。
「即答か。随分と早い心変わりだな」
「あの者は野放しには出来ません。陛下の仰る通り、またサリの言う通りにそれは事実です。私などで役に立つならあの力、魔族に向けぬよう全力を尽くします」
「ふむ……サリ、お前は?」
「私は……ライドウ殿に嫁ぐ事は出来ません」
「ほう」
ゼフが興味深そうにサリを見る。
周りも、どちらかと言えば婚姻に前向きだったサリが拒絶の言葉を口にした事に驚いた様子だった。
「恐らく、その申し出はライドウ殿には逆効果になると考えます」
「どうしてだ? 嫁をもらうという事はヒューマンであろうと魔族であろうと、親類となる事を意味する。時に種族の諍いをも調停する古来からの方法の一つだが?」
「澪殿です。あの方は識殿に比べ、かなり感情に素直に振舞われる方でした。そして、ライドウ殿に想いを寄せている。そう見て取れました。ならば、嫁というのは彼女にとっては面白くないはずです。もし澪殿だけでも裏から魔族に何か妨害を考えでもしたら甚大な被害がでかねません」
「……それほどに、情を優先するだろうか。仮にもあの、ライドウの側近だぞ?」
「します。クズノハ商会は、我ら魔族の組織と比べてかなり自由が許されているようでした。話がまとまる前に、何かあると」
「む……、それは少し予想外だな。ライドウの下、一枚岩の組織で奴の意思は絶対だと考えていた」
「それに、ライドウは陛下が考えるよりもずっと」
「ずっと?」
「幼く、奥手な男性であるように見受けられました。少なくとも平時においての彼は」
「幼く、奥手か」
「はい」
「だから婚姻は適切な策ではないか。命のやり取りが平然と出来て心が幼いという事もないと思うが……だが、あの夜の話でも確かに……」
「ただし陛下、私は既に種を蒔きました。今日彼を見て、婚姻よりもライドウ殿を縛れそうな策にも使えそうです。私にお任せ頂けませんか?」
「サリ!」
ルシアの叱責を兼ねた言葉。
クズノハ商会、ライドウ。
どちらも、いまだ勉強中であるルシアやサリに任せられる案件ではない。
ことは魔族の未来にも関わることなのだから、ルシアの厳しい口調は正しい。
「……自信はあるのか?」
「はい」
「詳しく申せ」
「……後ほど、人払いの後で申し上げたく存じます」
「……わかった」
サリとゼフの視線が真っ向からぶつかる。狼1号
どちらも真剣で、割り入る事の出来ない雰囲気を生んでいる。
ゼフが先に視線を外した後も、サリは彼をしばらく見つめ、そして小さく頷くと、後には一言も発さずに沈黙した。
「ロナ。先ほども言ったが、ごく限られた者の中に裏切り者がおる。捜せ、明日の試合には響かせるなよ」
「……必ず」
「うむ。イオ、親善試合で少し変更を加える。神殿の一件が伝わる事を念頭に、観戦できる者をより制限したい。それから、対戦相手もだ。サリ、お前は余の部屋の前で待機しておれ。ルシアは戻ってよい、それから明日の試合にお前は来るな。既に心折れた者が見ても参考にならぬ光景であろうからな。部隊訓練を任せるゆえ、終日務めよ」
ゼフの言葉に各々から肯定の返事がある。
ルシアは唇をかみ締めたが、反論はしなかった。
既にライドウやクズノハ商会の力を見た彼女だから試合を見るのはそこまで必要な事でもない。
そんな意図がゼフから伝わったかどうかは別にして、ルシアは頷き、返事を返した。
「それが終わったら夕食、ライドウ殿と話をせねばな。想定内とはいえ、つくづく忙しくさせてくれる客人だよ彼らは」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「そう言ってもらえると助かる。ライドウ殿にはこの都を救ってもらったようなものだ。親善試合を引き受けてくれた事といい、いくら頭を下げても追いつかんよ」
「い、いえいえ! 陛下にそのようにしていただくなんて。殆ど従者に働いてもらったようなものです。ルシアさんにもサリさんにも怪我がなくて本当に良かった」
えー。
今ゼフが隣にいます。
近いです。
王様の隣です。
食べ物の味とか、昨日より一層わかりません。
ついでに、満腹具合もわかりません。
直々に取り分けてくれるし、昨日よりも規模が小さくて、より上の人だけを参加させたらしい今夜の宴。
僕にはより嬉しくない仕様です、はい。
「原因の目星までつけてもらったのだ。もっと尊大に構えてもらって良いのだがな。ん、もう杯が空だったか。気付かずにすまんな」
「もう大分頂いていますので、その……頂きます。どうぞ、陛下も」
既に注がれる液体を見て観念する。
こういう時ってどう断るのが正解なのか。
飲みかけを置いておけばと思ったけど、そうするとどこからともなく空の杯が差し出されてゼフがそれを満たす。
お手上げだ。
「ありがとう。いや、余もこうして誰かと飲み交わす機会は実は少なくてな。まるでライドウ殿が息子の様に思えてきてしまう、いや、参った」
なにをサラッと言うんだ、この人は。
絶対酔ってないだろう。
朝あの二人の念話を聞いている身としては前振りにしか聞こえない。
「ご立派な息子さんがお二人もおられるじゃないですか、あはは」
「ロシェに、セムか。確かに、良く頑張ってはいる。が、優れた教育が作るのは大抵秀才までだ。あの二人もな。やはりライドウ殿のような突き抜けた才は中々出ぬ。今日案内させたルシア、それにサリ。まあサリはまだ少し幼いが、どうだ? どちらか、なんなら両方でももらってくれると余も安心なのだが」
……話題かわんねえ。
なにこの人。
「ご冗談を。私、ヒューマンですし」
「力ある者なら構わぬ。孫もこちらに預けろとは言わんよ? ん?」
ん、じゃねえ……。
結婚なんてそもそも考えてないし。
「本当に良いお話だとは思いますが、未だ商人としても未熟な身。お断りさせて頂きます」
「……駄目かね」
「……はい」
どう言おうか迷ったけど、はっきり断る事にする。
曖昧に言っても引いてくれないもんな。
「どうしても?」
「どうしてもです」
「むぅ」
黙ってしまうゼフ。
機嫌を悪くさせちゃったかな。
でも、これは流石に。
なあなあで結婚はできない。
「なら仕方ないな」
「へ?」
「残念だが、私の娘ではライドウ殿は射止められなかったという事だろう。即ち魅力不足。力が及ばぬなら、これはもう仕方がない」
「は、はあ」
ここでも力か!?巨根
凄いな、おい。
と言うか、凄いあっさりと引いてくれたよ。
嬉しいけど、少し不安もよぎる。
これが魔王クオリティ、いやゼフクオリティか。
恐るべし。
「ルシアなどはあれで結構締め付けておってな、脱ぐとそれなりに女らしゅうもなるし、ドレスなど着ればそれなりに映はえるのだが……女の身で軍人などやっておるから確かに“そちら”の修練は怠っている所がある。このままだと売れ残りそうで少し不安だが、ライドウ殿の好みでないならば仕方あるまい」
ヒューマンだと女神の祝福ありきだから女性の軍人も別に珍しくない、いやむしろ多い所もあるんだけど、亜人や魔族だと少し割合が減るんだよな。
少しなのは魔術の存在も関係してくるような気はするものの、ルシアさんのような娘さんが軍の上の方にいるのは珍しいのは確か。
だけどさ。
血が繋がってるか知らないけど、娘なのに。
なんて言い草だ。
チラ見されても頷けないものは頷けない!
実は諦めてないのか!
表情が同じ人懐っこい笑顔だから読めん!
ずるい。
「一から仕込む楽しさはあると思うが、確かにライドウ殿はまだその手間を楽しまれる歳でもないか」
「へ、陛下。その少しお酒を飲みすぎでは?」
絶対に酔ってないし、酒の力なんて微塵も介在してないとわかるけど、酒の所為にしてフォローしてみる。
「なればサリも駄目であるか。あれなどは正にこれから女になる段階、体すら未成熟だ。今だけ楽しめる背徳感も好みではないと、そういう訳か」
止まってくれない。
後で酒の所為にするだろうし、話題にされた二人が手を止めてプルプル震えているし。
そう、結構大きな声で叫んでくれていやがります。
実は悪ふざけ大好きなのか、魔王。
レンブラントさんっていう娘さんのいる父親を知っているけど、大概こういう状況の後は酷い目に遭ってるぞ。
僕は逃げるけど、覚悟はあるんだよね?
頼まれても止めないからな?
「正直、サリ殿と結婚と言われても流石にピンと来ません。私の周りには王族や貴族の方のようにご結婚が早い方もおられなかったので……」
常識的。
せめて僕は彼女達を逆撫でしないようにしておこう。
「ではライドウ殿の好みの女とは、どのような女性なのだ?」
「私の好みですか!? え、ええと。普段はサバサバしていても不意に女らしい仕草をする子だったり」
「……ほう」
「一生懸命に練習を頑張る一途な子、とか」
「……」
「いや、例えばの話なんですが」
何を言ってるんだか、僕は。
飲みすぎだな。
注つがれてご返杯して、の繰り返しで強めの酒を大分飲まされているのは事実。
「ふむ、澪殿などはそういう性しょうの女性ということかね?」
ぶふぅっ!!
ゼフの何気ない発言に驚いてつい澪を見る。
話が聞こえているのかはわからないけど、澪も背筋が不自然に伸びている気がする。
念話で……いや、確認するのもなんだかな。
「な、なぜそこで澪が」
「いや、あれ程お綺麗な女性だ。当然手をつけているだろうから、そうなのかとな」
何が、当然手をつけているだろうから、だ。
断じてしてないわ!
「彼女は、部下です。それに何と言いますか、家族のような付き合いをしているものですから。あまりにも想像していないお言葉で粗相をしてしまいました。失礼しました」
口の中にあった酒の一部が口からもれてクロスを汚してしまった事を謝る。
ゼフの発言は、何一つ安心というものが出来ない気がしてきた。
疲れる。
宴と言っても、要は僕らが接待を受ける側の飲み会の筈なのに。
すっごい疲れる。
「ははは、失礼は下世話な事を聞いた余の方だ。こちらこそすまなかった」
自覚があるー。
最悪な人だな、おい。
そう言って、ゼフは椅子をこちらにずらして体を密着させるような距離に寄ってきた。
そして懐から筒を取り出した。
大きくはない。
細長い筒だ。
あ、賞状なんかを入れる丸筒か。
ってことは書類?
あと、併せて少し厚みのある板も出してテーブルに置いた。
材質は不明だけど、何か刻んである。勃動力三體牛鞭
2013年9月17日星期二
黒歴史君
「翔(かける)は何もしないで黙っていればもてるよ」
昔から友人たちは口を揃えてこう言ったが、俺はつい最近までその理由がわからなかった。
「猫の名前はエンゲルベルトフンパーディンク、と」
好きな女の子とメアド交換して、たまにメールする仲にまで発展した俺は、逐一その子とのやりとりを記録し、一生の宝だと防災リュックに詰めていた。韓国痩身一号
もちろんそれは予備に過ぎず、暗記もかかさない。寝る直前に覚え、翌朝復習するのがコツだ。
「渡瀬(わたせ)君、よくそんな細かいことまで覚えてるね」
過去のメールから使用頻度の高い単語を抜き出し、語彙の偏りを指摘すると、俺の想い人である前川さんに酷く気味悪がられた。そこで漸く気付いたのだ――俺は痛い人間だと。
高二の終わり、俺は恋を代償に客観性を身に付けた。数々の失態を思い出し、頭を床に打ちつけたくなる。
ああ、あの時の俺はどうして! 恥ずかしさの余り、咄嗟に掃除用具入れに飛び込んだ。
「何してるの?」
親友の優哉(ゆうや)に発見され、呆れ顔で引っ張り出される。ああ、蒸発したい。
そして俺は猛烈に思ったのだ。自分の過去を修正したい、と。だが今の技術力では、どんなに願っても難しいだろう。俺が生きている間にタイムマシーンが開発される可能性は、限りなく低い。
大事なのはこれからだと無理矢理自分を納得させ、その日を境に俺は変わった。
学校で後ろ向きに爆走するのをやめ、変な格好で町をうろつくのも我慢する。
他人と違うことをしたい、目立ちたいという欲求を抑え、受験に向けて一直線! だったらよかったのだが、どうしても過去の挙動を考えると勉強に身が入らない。
三年生の六月。受験まで半年以上あるが、のんびりしていたら出遅れてしまう。ホームルームで散々担任に脅され、俺の気分は低迷していた。
「ため息多いけど大丈夫? まさかもう受験ノイローゼ?」
心配してくれたのか、前席の優哉が振り向いた。
「あんなの大げさに言っているだけだから、気にしなくていいと思うよ。翔、勉強は得意じゃん」
我が校創業以来の天才! と誉れ高い優哉に褒められても素直に喜べない。一定の成績を維持してはいるが、浪人生は俺より一年長く勉強に明け暮れている。国公立を志望する身としては、スタートが早いに越したことはないだろう。
しかし怖いもの見たさで、家に帰ると昔のポエムノートを引っ張り出す俺がいる。
『俺の初恋、それはワンちゃんのようなものだ。尻尾を追い続ける幻影。独りよがりなテイルハンター』
わけがわからない! 悶絶しそうになりながらも、ページをめくる手を止められない。勢い余ってベッドから床に転がり落ちた。
こういう芸術の類は、俺が死んでから認められるかもしれない。そんな淡い期待を抱いてしまうから、いつまで経っても捨てられないのだ。
「このままだと俺は駄目になる……」
とうとう禁じ手を使う時がきたようだ。のっそり起き上がり、押入れを開ける。
奥の方でひっそり息衝く簡易金庫の中には、中学時代に街でスカウトされ、モデルをした時の雑誌が入っている。
前衛的なショットを望んだが、カメラマンに悉く却下され、己の無力さを痛感した苦い思い出が蘇る。
それをこんな厳重に取っておいたのは、常人から逸脱できない自分への戒め――というわけではない。
用があるのは自分の写真ではなく、誰もが見落としてしまいそうな、片隅にひっそり掲載されている広告だ。パソコンを開き、記載されているアドレスを打ち込む。
知る人ぞ知る闇の通販、スペースゴッドD、略してSGD――効果は折り紙付きの秘密結社である。生半可な覚悟で手を出してはいけない領域に、俺は一歩踏み出した。
古来より人間は、自らの力で実現できないことは、人あらざるものに頼ってきた。
科学が及ばない範囲の望みは、人知を越えた存在に。
神仏への祈祷、悪魔との契約――己の願いを叶えるため、人々は必死に足掻いてきた。
中でも治療が難しい病に伏せった者は、健康な肉体を得るため、とある領域に手を伸ばすことが多い。
禁断の魔術――今回俺が実践するのは、比較的安全な部類に入る、神を召喚する儀式だ。時の神クロノスを呼び出し、過去に連れて行ってもらう。
あまりに壮大すぎる計画だが、何を隠そう、過去に俺の祖父も儀式に臨み、見事成功を収めたのだ。祖父はSGDで神をその身に宿し、元気な体を手に入れた。孫である俺にできないはずがない。韓国痩身1号
神を呼び出す儀式には制約がある。成功するまで絶対にやめてはいけないのだ。それを破ると、自己嫌悪に陥るらしい。
俺は長期戦を覚悟し、全てを投げ打つ勢いで儀式に取り組んだ。
「時を司る神、クロノス。我が呼びかけに応じ、姿を現したまえ。ルアウウユルウルボーレンフンフン」
毎日一時間、呪文を暗唱し、特殊なフラフープを回し続ける。服装も、付属の黒いビニール製のズボンと、上に羽織る黒ローブと決まっており、これからの季節は拷問だ。
だがこれは俺の将来に繋がる最重要事項。弱音を吐いてもいられない。
一週間が過ぎた。神は降りて来ない。まだまだこれからなので、焦る必要はない。
今まで一緒に騒いでいた友人たちが自粛し、黙々と勉強しているのを横目に、俺は天に意識を集中させた。
「もしかして痩せた?」
帰り際優哉に指摘されて焦ったが、儀式は他言無用。笑って誤魔化すと、それ以上は追求されなかった。
それから二週間、三週間が過ぎ、神の片鱗にも触れられぬまま、夏休みに突入した。
しかし不思議と焦りは感じない。俺の腰回しは鋭さを増し、抜き身の刃のように研ぎ澄まされてきた。
一心不乱にフラフープを回す間は、世の中全ての柵から解放され、大空に羽ばたいているような気分になる。
熱帯夜は水分補給を欠かせない。全身を熱が支配し、じんわり汗をかく心地良さ。
次第に暑さを乗り越え、見えてくるもの――無だ。俺は地球の一部になっている。
そんな姿に神は心動かされたのだろう。
「……要件を聞こう」
とうとう地上に降臨なされた。マリンブルーのコートに身を包んだ時の神、クロノス。
黒髪にコートと同色の瞳、嫌気がさしてうんざりしているという顔をした、美貌の神様。
神聖で絶美な立ち姿に気圧される。決して人間には辿り着けない奇跡を目の前に、俺は自ずと頭を垂れた。
「お願いがあります」
精一杯の敬意を払い、クロノスの目をまっすぐ見つめる。不思議な光をたたえた、底なしの青。
「拝まなくていい」
自然と手を合わせていた俺を制し、クロノスは続きを促した。
「君の思念は私の元まで届いた。あまりにも必死なので来てやったが、勘違いしているようだから言っておく。古代に存在した魔術を使える人間は現代では皆無に等しく、当然君もそうだし、そもそも……いや、本題に入ろう。一体何が望みだ?」
非常に面倒臭そうだ。
「俺は過去を改変したいんです。どうか力をお貸しください」
詳細を話すと、クロノスは沈痛な面持ちで額に手を当てた。
「そんなことで……」
やはり神様は忙しいのだろう。申し訳なく思ったが、俺にとっては人生を揺るがす一大事なので、必死に協力を仰いだ。
この日のために、俺はクロノスに捧げる詩をノート十冊分書き溜めておいたのだ。迸る情熱を込めた最高傑作を、厳かに朗読する。
「時空を操りし雄大な神の寛大な御心に導かれし、時渡り人。唯一望むはチェンジオブヒストリー。修道者のように祈るは、ブラックメモリアルの――」
「わかった、わかった。それで君の気が済むのなら……」
俺の熱弁が功を奏したのか、早い段階でクロノスの承諾を得られた。いよいよ時間旅行の始まりだ。
「どの時間枠に飛びたい?」
クロノスはコートの内側から金色の懐中時計を取り出した。
「中一!」
小学校時代は諦める、のではない。小学生までなら許される。俺のもみ消したい黒歴史は、中学一年生から時を刻み始める。
「渡瀬翔、十二歳。中学一年生の春」
クロノスが時計の蓋を開けると、わっと銀色の光が迸った。それが意思を持っているかのようにうねり出し、俺の頭上に降り注ぐ。髪の毛が逆立ち、体ごと上に引っ張られる感覚。そのまま足が宙に浮き、俺は過去に飛んだ。
『いいか、これは過去の再現だ。君は傍観者。今はまだ干渉できない』
クロノスの声が直接頭に響いた。辺りを見回そうとしたが、視線が固定され、動けない。俺の目に映るのは、中学三年間担任だった懐かしのおじいちゃん先生だ。
「自己紹介を……相原さんから」
土山先生は温厚な地理担当教師で、初対面でも生徒を安心させるオーラを出している。
教室に漂うぎこちなさは瞬時に消え失せ、和やかにホームルームが始まった新一粒神。
俺はいかに派手な自己アピールをするか考えていたのを覚えている。
「私は西小出身の室井あずさです。趣味は読書です。宜しくお願いします」
皆あっさりと済ませ、長くは語らない。どんどん順番が近付いてきた。
クラスメートの顔を拝みたくても、過去の俺は机を見つめっぱなしで、台詞のシミュレーションに余念がない。
今の状態は、未来の俺が過去の俺の中から、過去を見ているということになる。少しややこしいな。
『強く念じれば体を支配できるが、くれぐれも早まるな』
クロノスの忠告によると、長時間干渉することによって時空のバランスが崩れ、俺が過去に閉じ込められてしまうらしい。慎重に、的確に、素早く修正する必要がある。
まず正したいのは自己紹介だ。中学に進学し、調子に乗った俺は、とにかく目立ちたかった。それ故、突拍子もないことを言って、一人で盛り上がっていたのだ。
「僕は弓削(ゆげ)信一郎(しんいちろう)。鼻毛君ではありません」
俺の前、弓削が立った。若干滑っているが、俺の比ではない。
静まり返る周囲に意気消沈した弓削が座るのと同時に、俺は勢い良く立ち上がった。口を開く前に支配権を奪う!
『駄目だ!!』
しかし突如クロノスが叫んだため、驚いた俺は集中力を欠き、乗っ取り失敗。痛い自己紹介を聞く羽目になった。
「俺は渡瀬翔! 森羅万象、天衣無縫、花鳥風月、神出鬼没! よっろぴくぴくー!」
しーんとしているクラスで、一人ハイテンションな過去の俺。四文字熟語を使えばかっこいいと思っていたあの頃。
『危なかった……』
クロノスの呟きで、羞恥が怒りに変わった。何で止めたんだ!!
『君がまともな自己紹介をすれば、弓削君の人生が変わってしまう。中学では明るくユーモアのある男になりたいと望んだ彼は、見事に滑った。どん底にまで落ち込んだ彼をすくい上げたのは君だ。自分以上に滑った奴がいるという事実に彼は救われた。弓削信一郎は将来立派な医者になる』
もし俺がはっちゃけていなければ、気に病んだ弓削は勉強に打ち込めず、医者の道を断念していた。それに伴い、救われない患者が大勢出る未来に繋がるとか。
『確認しておいてよかった』
クロノスの声音に安堵が滲み出ている。俺は損した気分だが。
『大勢の命を助けたことを、君は誇りに思っていい。運命には大きな一定の流れがあるが、こうした揺さぶりが思いも寄らぬ方向転換をさせることもある。いいか悪いかは、先を見ないとわからないが、私は時を司ると同時に、使命を持った人間が大きく道を踏み外さないよう監視する役目を担っている。君は立派に神の仕事を代行したんだ』
クロノスは綺麗にまとめているが、要は、俺の黒歴史が他人のそれを上回り、塗りつぶしたということだ。毒を以て毒を制す。全く以て嬉しくない。
『今回は諦めて先に進もう』
これ以上粘っても仕方ない。俺は次の黒歴史に標準を合わせ、中一の秋に移動させてもらった。
天高く馬肥ゆる秋。夏の照りつけるような日差しが緩和し、過ごしやすい季節に起こった出来事だ。昼休みにクラスの男子たちとサッカーか野球、どちらをするかで揉めていた。
「サッカーばっかりじゃつまんないだろ!」
野球部村田のブーイング。
「だって俺野球のルールわかんないし」
サッカー部横田の反撃。
「いい加減覚えろよ!」
「やなこった!」
この二人は事あるごとに揉めているので、周りは諦め顔だ。
このままでは貴重な昼休みがなくなってしまう! 俺は諌めるべく、代案を打ち出したわけだが、それをなかったことにしたい。
「二人とも落ち着くんだ! 他にも選択肢はある!」
今だ!!
『待て!!』
強く念じようとした矢先、クロノスに待ったを掛けられた。
「馬ごっこやろうぜ!」
黒歴史通り、過去の俺は校庭に四つん這いになり、ヒヒーン! と大声で馬の嘶きを再現した。そっくりなのがまた憎らしい。かなり練習したんだ。
「さあ、俺に乗れ」
誰も乗ってくれなかった。
痛いほどの沈黙の後、昼休み終了を告げるチャイムが鳴り、皆無言で校舎に戻った。俺は空気を読まずに、教室まで馬になりきっていた。
『ふう……』
クロノスのほっとしたようなため息に苛立つ。今度は何なんだ!?
『この場に居合わせた長谷川君。彼は君の馬声に感化され、将来有名な騎手になる。その運命を避けると、競馬事情が大きく乱れるため、いじらない方が賢明だ』
俺、関係ないよな?
『ある。君の従兄が路頭に迷ってもいいのか?』
わたる兄ちゃんのことか! あの人若い頃から競馬大好きだから……神様には大人しく従っておこう蔵八宝。
それにしても長谷川の奴、俺の馬声に感銘を受けたなら、もう少し反応してくれてもよかったのに。
三度目の正直は、中三の新入生歓迎会。何を勘違いしたのか、俺は体育館のステージで一人トークショーをして、全校生徒の前で恥を晒した。
舞台袖にて順番待ちの俺を、何としてでも阻止しなくては!
『いや、これはまずい』
クロノスは強制的に俺を差し押さえ、抵抗権まで奪った。そのまま俺は、軽い浮遊感と共に第三者の視点に移行し、他人の目線から自分をじっくり観察することになった。
こんな時でなければ楽しいのだろうが、今は使命が優先だ。
過去の俺は意気揚々と体育館全体を見渡し、満足気に頷いた。
「最近俺は、隠れた才能を発掘した。笑いの女神に愛されし、予言の寵児、渡瀬翔――俺は笑いで世界を救う男だ」
気障っぽく前髪をかき上げる俺をはっ倒してやりたい。
「笑顔のためなら不可能すら可能にする……そんな自分が恐ろしい。では、聞いてくれ」
やめてくれ! 俺はご大層な前置きの後に、恐ろしく寒いギャグを連発し、体育館を一瞬で凍りつかせた。誰もクスリとさえ笑わない。
水を打ったように静かな体育館で、昔の俺は平然としている。あまりにも鈍く、厚顔無恥な自分が恥ずかしい。
どうしてこれを変えてはいけないのだろう。あんな一人芝居が他人に影響を与えるとは到底思えない。
『君の正面に座っていた少年、江藤君。彼はあまりにもくだらないトークに腹を立て、煮えたぎるような怒りをばねに、漫才の世界へ。そのまま大スターになる運命だ。笑いが世界を救うと豪語した君が、それを否定するのか?』
後輩にそんな不快感を与えていたとは露知らず。
『君は江藤君の一生の道標だ。彼は君を思い出す度、腸を煮えくり返らせている』
もう許してやってくれ! 中学時代の俺は特に酷かったんだ。
『高校でも大して変わらないだろう』
クロノスは嘆息した。何て失礼な神様だろう。俺だって少しは成長した。だから今苦しんでいるのだ。
『どうしようもない過去を振り返ってはいけない』
クロノスは真理のような事を言っているが、俺は諦めきれなかった。次こそは変えてみせる!
身悶えしたくなるような黒歴史が多すぎて絞り難いが、俺は特に消したいものを厳選した。
それなのに!
『無理だ! あまりにも大勢の未来に関わってくる!』
クロノスに駄目出しされ、一つも手をつけられない。
皆俺に影響されすぎだろ!? それも決していい意味ではなく、教訓的な戒めばかりだ。
『彼女は君を知って自分を許せた。思春期の少年少女は繊細で脆い。君の尊い行いが彼らの心を守ったのだ』
クロノスが律儀に解説するため、知らなければ良かったことまで把握させられてしまう。
結局、俺が自分を余と呼んでいたことも、自由研究で自伝を書いたことも消せなかった。恥の上塗りだ。
『どうやらそういう運命(さだめ)らしい』
納得できるか! 渋るクロノスをせっつき、俺は中三の二学期に連れて行ってもらった。
「転入生の常盤優哉(ときわゆうや)君です。彼は家庭の都合で引っ越してきました」
土山先生に紹介されたのは、現在は同じ高校に通う俺の親友。天才児優哉は、この時期に転校してきた。
第一印象は、人形みたいな奴だった。全体的に色素が薄く、アイスブルーの瞳を持つ優哉は、寒々とした排他的なオーラを放っていたため、流石の俺も迂闊には近寄れなかった。
だがあの頃の俺は、自分の直感に並々ならぬ自信を持っており、優哉が未来から派遣されたアンドロイドだと信じて疑わなかった。頭の回転が早くて記憶力抜群、容姿も作りもののように整っている優哉は、感情を一切表に出さない。
そんな同級生がいたら、俺が誤解しないわけがない。
優哉は誰ともつるまず、放課後はとっとと一人で帰ってしまう。それを未来への定期報告だと睨んだ俺は、彼を尾行し、あっさり見つかった。その時初めて交わした会話を正したいのだ。
あれをきっかけに仲良くはなったものの、優哉は俺を残念認定している。第一印象が大きいに違いない。
「何か用?」
中三の優哉は無感動に振り返った。
「見つかってしまったか……では、単刀直入に言おう」
続く台詞を改変! しようと思ったのに、体が全く動かなかった。クロノスの妨害だ。
『……時間旅行はここまでだ』
やけに神妙な声音で告げられ、理由を訊ねても、明確な返事は得られなかった。
『これ以降、君の歴史は重大な意味を持っていることが判明した』
説明する気はないらしく、俺が文句を言う前に、クロノスはきっぱり宣言したVIVID。
昔から友人たちは口を揃えてこう言ったが、俺はつい最近までその理由がわからなかった。
「猫の名前はエンゲルベルトフンパーディンク、と」
好きな女の子とメアド交換して、たまにメールする仲にまで発展した俺は、逐一その子とのやりとりを記録し、一生の宝だと防災リュックに詰めていた。韓国痩身一号
もちろんそれは予備に過ぎず、暗記もかかさない。寝る直前に覚え、翌朝復習するのがコツだ。
「渡瀬(わたせ)君、よくそんな細かいことまで覚えてるね」
過去のメールから使用頻度の高い単語を抜き出し、語彙の偏りを指摘すると、俺の想い人である前川さんに酷く気味悪がられた。そこで漸く気付いたのだ――俺は痛い人間だと。
高二の終わり、俺は恋を代償に客観性を身に付けた。数々の失態を思い出し、頭を床に打ちつけたくなる。
ああ、あの時の俺はどうして! 恥ずかしさの余り、咄嗟に掃除用具入れに飛び込んだ。
「何してるの?」
親友の優哉(ゆうや)に発見され、呆れ顔で引っ張り出される。ああ、蒸発したい。
そして俺は猛烈に思ったのだ。自分の過去を修正したい、と。だが今の技術力では、どんなに願っても難しいだろう。俺が生きている間にタイムマシーンが開発される可能性は、限りなく低い。
大事なのはこれからだと無理矢理自分を納得させ、その日を境に俺は変わった。
学校で後ろ向きに爆走するのをやめ、変な格好で町をうろつくのも我慢する。
他人と違うことをしたい、目立ちたいという欲求を抑え、受験に向けて一直線! だったらよかったのだが、どうしても過去の挙動を考えると勉強に身が入らない。
三年生の六月。受験まで半年以上あるが、のんびりしていたら出遅れてしまう。ホームルームで散々担任に脅され、俺の気分は低迷していた。
「ため息多いけど大丈夫? まさかもう受験ノイローゼ?」
心配してくれたのか、前席の優哉が振り向いた。
「あんなの大げさに言っているだけだから、気にしなくていいと思うよ。翔、勉強は得意じゃん」
我が校創業以来の天才! と誉れ高い優哉に褒められても素直に喜べない。一定の成績を維持してはいるが、浪人生は俺より一年長く勉強に明け暮れている。国公立を志望する身としては、スタートが早いに越したことはないだろう。
しかし怖いもの見たさで、家に帰ると昔のポエムノートを引っ張り出す俺がいる。
『俺の初恋、それはワンちゃんのようなものだ。尻尾を追い続ける幻影。独りよがりなテイルハンター』
わけがわからない! 悶絶しそうになりながらも、ページをめくる手を止められない。勢い余ってベッドから床に転がり落ちた。
こういう芸術の類は、俺が死んでから認められるかもしれない。そんな淡い期待を抱いてしまうから、いつまで経っても捨てられないのだ。
「このままだと俺は駄目になる……」
とうとう禁じ手を使う時がきたようだ。のっそり起き上がり、押入れを開ける。
奥の方でひっそり息衝く簡易金庫の中には、中学時代に街でスカウトされ、モデルをした時の雑誌が入っている。
前衛的なショットを望んだが、カメラマンに悉く却下され、己の無力さを痛感した苦い思い出が蘇る。
それをこんな厳重に取っておいたのは、常人から逸脱できない自分への戒め――というわけではない。
用があるのは自分の写真ではなく、誰もが見落としてしまいそうな、片隅にひっそり掲載されている広告だ。パソコンを開き、記載されているアドレスを打ち込む。
知る人ぞ知る闇の通販、スペースゴッドD、略してSGD――効果は折り紙付きの秘密結社である。生半可な覚悟で手を出してはいけない領域に、俺は一歩踏み出した。
古来より人間は、自らの力で実現できないことは、人あらざるものに頼ってきた。
科学が及ばない範囲の望みは、人知を越えた存在に。
神仏への祈祷、悪魔との契約――己の願いを叶えるため、人々は必死に足掻いてきた。
中でも治療が難しい病に伏せった者は、健康な肉体を得るため、とある領域に手を伸ばすことが多い。
禁断の魔術――今回俺が実践するのは、比較的安全な部類に入る、神を召喚する儀式だ。時の神クロノスを呼び出し、過去に連れて行ってもらう。
あまりに壮大すぎる計画だが、何を隠そう、過去に俺の祖父も儀式に臨み、見事成功を収めたのだ。祖父はSGDで神をその身に宿し、元気な体を手に入れた。孫である俺にできないはずがない。韓国痩身1号
神を呼び出す儀式には制約がある。成功するまで絶対にやめてはいけないのだ。それを破ると、自己嫌悪に陥るらしい。
俺は長期戦を覚悟し、全てを投げ打つ勢いで儀式に取り組んだ。
「時を司る神、クロノス。我が呼びかけに応じ、姿を現したまえ。ルアウウユルウルボーレンフンフン」
毎日一時間、呪文を暗唱し、特殊なフラフープを回し続ける。服装も、付属の黒いビニール製のズボンと、上に羽織る黒ローブと決まっており、これからの季節は拷問だ。
だがこれは俺の将来に繋がる最重要事項。弱音を吐いてもいられない。
一週間が過ぎた。神は降りて来ない。まだまだこれからなので、焦る必要はない。
今まで一緒に騒いでいた友人たちが自粛し、黙々と勉強しているのを横目に、俺は天に意識を集中させた。
「もしかして痩せた?」
帰り際優哉に指摘されて焦ったが、儀式は他言無用。笑って誤魔化すと、それ以上は追求されなかった。
それから二週間、三週間が過ぎ、神の片鱗にも触れられぬまま、夏休みに突入した。
しかし不思議と焦りは感じない。俺の腰回しは鋭さを増し、抜き身の刃のように研ぎ澄まされてきた。
一心不乱にフラフープを回す間は、世の中全ての柵から解放され、大空に羽ばたいているような気分になる。
熱帯夜は水分補給を欠かせない。全身を熱が支配し、じんわり汗をかく心地良さ。
次第に暑さを乗り越え、見えてくるもの――無だ。俺は地球の一部になっている。
そんな姿に神は心動かされたのだろう。
「……要件を聞こう」
とうとう地上に降臨なされた。マリンブルーのコートに身を包んだ時の神、クロノス。
黒髪にコートと同色の瞳、嫌気がさしてうんざりしているという顔をした、美貌の神様。
神聖で絶美な立ち姿に気圧される。決して人間には辿り着けない奇跡を目の前に、俺は自ずと頭を垂れた。
「お願いがあります」
精一杯の敬意を払い、クロノスの目をまっすぐ見つめる。不思議な光をたたえた、底なしの青。
「拝まなくていい」
自然と手を合わせていた俺を制し、クロノスは続きを促した。
「君の思念は私の元まで届いた。あまりにも必死なので来てやったが、勘違いしているようだから言っておく。古代に存在した魔術を使える人間は現代では皆無に等しく、当然君もそうだし、そもそも……いや、本題に入ろう。一体何が望みだ?」
非常に面倒臭そうだ。
「俺は過去を改変したいんです。どうか力をお貸しください」
詳細を話すと、クロノスは沈痛な面持ちで額に手を当てた。
「そんなことで……」
やはり神様は忙しいのだろう。申し訳なく思ったが、俺にとっては人生を揺るがす一大事なので、必死に協力を仰いだ。
この日のために、俺はクロノスに捧げる詩をノート十冊分書き溜めておいたのだ。迸る情熱を込めた最高傑作を、厳かに朗読する。
「時空を操りし雄大な神の寛大な御心に導かれし、時渡り人。唯一望むはチェンジオブヒストリー。修道者のように祈るは、ブラックメモリアルの――」
「わかった、わかった。それで君の気が済むのなら……」
俺の熱弁が功を奏したのか、早い段階でクロノスの承諾を得られた。いよいよ時間旅行の始まりだ。
「どの時間枠に飛びたい?」
クロノスはコートの内側から金色の懐中時計を取り出した。
「中一!」
小学校時代は諦める、のではない。小学生までなら許される。俺のもみ消したい黒歴史は、中学一年生から時を刻み始める。
「渡瀬翔、十二歳。中学一年生の春」
クロノスが時計の蓋を開けると、わっと銀色の光が迸った。それが意思を持っているかのようにうねり出し、俺の頭上に降り注ぐ。髪の毛が逆立ち、体ごと上に引っ張られる感覚。そのまま足が宙に浮き、俺は過去に飛んだ。
『いいか、これは過去の再現だ。君は傍観者。今はまだ干渉できない』
クロノスの声が直接頭に響いた。辺りを見回そうとしたが、視線が固定され、動けない。俺の目に映るのは、中学三年間担任だった懐かしのおじいちゃん先生だ。
「自己紹介を……相原さんから」
土山先生は温厚な地理担当教師で、初対面でも生徒を安心させるオーラを出している。
教室に漂うぎこちなさは瞬時に消え失せ、和やかにホームルームが始まった新一粒神。
俺はいかに派手な自己アピールをするか考えていたのを覚えている。
「私は西小出身の室井あずさです。趣味は読書です。宜しくお願いします」
皆あっさりと済ませ、長くは語らない。どんどん順番が近付いてきた。
クラスメートの顔を拝みたくても、過去の俺は机を見つめっぱなしで、台詞のシミュレーションに余念がない。
今の状態は、未来の俺が過去の俺の中から、過去を見ているということになる。少しややこしいな。
『強く念じれば体を支配できるが、くれぐれも早まるな』
クロノスの忠告によると、長時間干渉することによって時空のバランスが崩れ、俺が過去に閉じ込められてしまうらしい。慎重に、的確に、素早く修正する必要がある。
まず正したいのは自己紹介だ。中学に進学し、調子に乗った俺は、とにかく目立ちたかった。それ故、突拍子もないことを言って、一人で盛り上がっていたのだ。
「僕は弓削(ゆげ)信一郎(しんいちろう)。鼻毛君ではありません」
俺の前、弓削が立った。若干滑っているが、俺の比ではない。
静まり返る周囲に意気消沈した弓削が座るのと同時に、俺は勢い良く立ち上がった。口を開く前に支配権を奪う!
『駄目だ!!』
しかし突如クロノスが叫んだため、驚いた俺は集中力を欠き、乗っ取り失敗。痛い自己紹介を聞く羽目になった。
「俺は渡瀬翔! 森羅万象、天衣無縫、花鳥風月、神出鬼没! よっろぴくぴくー!」
しーんとしているクラスで、一人ハイテンションな過去の俺。四文字熟語を使えばかっこいいと思っていたあの頃。
『危なかった……』
クロノスの呟きで、羞恥が怒りに変わった。何で止めたんだ!!
『君がまともな自己紹介をすれば、弓削君の人生が変わってしまう。中学では明るくユーモアのある男になりたいと望んだ彼は、見事に滑った。どん底にまで落ち込んだ彼をすくい上げたのは君だ。自分以上に滑った奴がいるという事実に彼は救われた。弓削信一郎は将来立派な医者になる』
もし俺がはっちゃけていなければ、気に病んだ弓削は勉強に打ち込めず、医者の道を断念していた。それに伴い、救われない患者が大勢出る未来に繋がるとか。
『確認しておいてよかった』
クロノスの声音に安堵が滲み出ている。俺は損した気分だが。
『大勢の命を助けたことを、君は誇りに思っていい。運命には大きな一定の流れがあるが、こうした揺さぶりが思いも寄らぬ方向転換をさせることもある。いいか悪いかは、先を見ないとわからないが、私は時を司ると同時に、使命を持った人間が大きく道を踏み外さないよう監視する役目を担っている。君は立派に神の仕事を代行したんだ』
クロノスは綺麗にまとめているが、要は、俺の黒歴史が他人のそれを上回り、塗りつぶしたということだ。毒を以て毒を制す。全く以て嬉しくない。
『今回は諦めて先に進もう』
これ以上粘っても仕方ない。俺は次の黒歴史に標準を合わせ、中一の秋に移動させてもらった。
天高く馬肥ゆる秋。夏の照りつけるような日差しが緩和し、過ごしやすい季節に起こった出来事だ。昼休みにクラスの男子たちとサッカーか野球、どちらをするかで揉めていた。
「サッカーばっかりじゃつまんないだろ!」
野球部村田のブーイング。
「だって俺野球のルールわかんないし」
サッカー部横田の反撃。
「いい加減覚えろよ!」
「やなこった!」
この二人は事あるごとに揉めているので、周りは諦め顔だ。
このままでは貴重な昼休みがなくなってしまう! 俺は諌めるべく、代案を打ち出したわけだが、それをなかったことにしたい。
「二人とも落ち着くんだ! 他にも選択肢はある!」
今だ!!
『待て!!』
強く念じようとした矢先、クロノスに待ったを掛けられた。
「馬ごっこやろうぜ!」
黒歴史通り、過去の俺は校庭に四つん這いになり、ヒヒーン! と大声で馬の嘶きを再現した。そっくりなのがまた憎らしい。かなり練習したんだ。
「さあ、俺に乗れ」
誰も乗ってくれなかった。
痛いほどの沈黙の後、昼休み終了を告げるチャイムが鳴り、皆無言で校舎に戻った。俺は空気を読まずに、教室まで馬になりきっていた。
『ふう……』
クロノスのほっとしたようなため息に苛立つ。今度は何なんだ!?
『この場に居合わせた長谷川君。彼は君の馬声に感化され、将来有名な騎手になる。その運命を避けると、競馬事情が大きく乱れるため、いじらない方が賢明だ』
俺、関係ないよな?
『ある。君の従兄が路頭に迷ってもいいのか?』
わたる兄ちゃんのことか! あの人若い頃から競馬大好きだから……神様には大人しく従っておこう蔵八宝。
それにしても長谷川の奴、俺の馬声に感銘を受けたなら、もう少し反応してくれてもよかったのに。
三度目の正直は、中三の新入生歓迎会。何を勘違いしたのか、俺は体育館のステージで一人トークショーをして、全校生徒の前で恥を晒した。
舞台袖にて順番待ちの俺を、何としてでも阻止しなくては!
『いや、これはまずい』
クロノスは強制的に俺を差し押さえ、抵抗権まで奪った。そのまま俺は、軽い浮遊感と共に第三者の視点に移行し、他人の目線から自分をじっくり観察することになった。
こんな時でなければ楽しいのだろうが、今は使命が優先だ。
過去の俺は意気揚々と体育館全体を見渡し、満足気に頷いた。
「最近俺は、隠れた才能を発掘した。笑いの女神に愛されし、予言の寵児、渡瀬翔――俺は笑いで世界を救う男だ」
気障っぽく前髪をかき上げる俺をはっ倒してやりたい。
「笑顔のためなら不可能すら可能にする……そんな自分が恐ろしい。では、聞いてくれ」
やめてくれ! 俺はご大層な前置きの後に、恐ろしく寒いギャグを連発し、体育館を一瞬で凍りつかせた。誰もクスリとさえ笑わない。
水を打ったように静かな体育館で、昔の俺は平然としている。あまりにも鈍く、厚顔無恥な自分が恥ずかしい。
どうしてこれを変えてはいけないのだろう。あんな一人芝居が他人に影響を与えるとは到底思えない。
『君の正面に座っていた少年、江藤君。彼はあまりにもくだらないトークに腹を立て、煮えたぎるような怒りをばねに、漫才の世界へ。そのまま大スターになる運命だ。笑いが世界を救うと豪語した君が、それを否定するのか?』
後輩にそんな不快感を与えていたとは露知らず。
『君は江藤君の一生の道標だ。彼は君を思い出す度、腸を煮えくり返らせている』
もう許してやってくれ! 中学時代の俺は特に酷かったんだ。
『高校でも大して変わらないだろう』
クロノスは嘆息した。何て失礼な神様だろう。俺だって少しは成長した。だから今苦しんでいるのだ。
『どうしようもない過去を振り返ってはいけない』
クロノスは真理のような事を言っているが、俺は諦めきれなかった。次こそは変えてみせる!
身悶えしたくなるような黒歴史が多すぎて絞り難いが、俺は特に消したいものを厳選した。
それなのに!
『無理だ! あまりにも大勢の未来に関わってくる!』
クロノスに駄目出しされ、一つも手をつけられない。
皆俺に影響されすぎだろ!? それも決していい意味ではなく、教訓的な戒めばかりだ。
『彼女は君を知って自分を許せた。思春期の少年少女は繊細で脆い。君の尊い行いが彼らの心を守ったのだ』
クロノスが律儀に解説するため、知らなければ良かったことまで把握させられてしまう。
結局、俺が自分を余と呼んでいたことも、自由研究で自伝を書いたことも消せなかった。恥の上塗りだ。
『どうやらそういう運命(さだめ)らしい』
納得できるか! 渋るクロノスをせっつき、俺は中三の二学期に連れて行ってもらった。
「転入生の常盤優哉(ときわゆうや)君です。彼は家庭の都合で引っ越してきました」
土山先生に紹介されたのは、現在は同じ高校に通う俺の親友。天才児優哉は、この時期に転校してきた。
第一印象は、人形みたいな奴だった。全体的に色素が薄く、アイスブルーの瞳を持つ優哉は、寒々とした排他的なオーラを放っていたため、流石の俺も迂闊には近寄れなかった。
だがあの頃の俺は、自分の直感に並々ならぬ自信を持っており、優哉が未来から派遣されたアンドロイドだと信じて疑わなかった。頭の回転が早くて記憶力抜群、容姿も作りもののように整っている優哉は、感情を一切表に出さない。
そんな同級生がいたら、俺が誤解しないわけがない。
優哉は誰ともつるまず、放課後はとっとと一人で帰ってしまう。それを未来への定期報告だと睨んだ俺は、彼を尾行し、あっさり見つかった。その時初めて交わした会話を正したいのだ。
あれをきっかけに仲良くはなったものの、優哉は俺を残念認定している。第一印象が大きいに違いない。
「何か用?」
中三の優哉は無感動に振り返った。
「見つかってしまったか……では、単刀直入に言おう」
続く台詞を改変! しようと思ったのに、体が全く動かなかった。クロノスの妨害だ。
『……時間旅行はここまでだ』
やけに神妙な声音で告げられ、理由を訊ねても、明確な返事は得られなかった。
『これ以降、君の歴史は重大な意味を持っていることが判明した』
説明する気はないらしく、俺が文句を言う前に、クロノスはきっぱり宣言したVIVID。
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