一歩足を踏み入れるとギィっと木の板で出来た床が軋む。
「ここにストレインがいるのか」
室内は薄暗いながらも、所処に明かりが灯されて真っ暗というわけではない。
視界を気にしながら智弘は慎重に足を踏み出す。OB蛋白痩身素(3代)
手に持つのは兄が残した形見の銃だ。
「……これでストレインは殺せないと言っていたな。このカードみたいなのが一体何の役に立つっていうんだろう。団長は戦闘になれば分かると言っていたが」
神殺しの武器だと言われたが彼は信じていない。
朽ちた教会内を歩き、ストレインの居場所を探す。
やがて、彼は礼拝堂へとたどり着く。
そこには壊死した片腕を失ったストレインがひとりでいた。
「ほぅ、外が騒がしいと思っていたが、最初に来たのはお前か。覚えているぞ、我が左腕を失わさせた人間の弟だな」
「お前の左腕をダメにした男の名前は菅野憲司。そして、その兄の意思を継ぎ、お前を殺す男の名前は菅野智弘。どちらも覚えておけよ」
「笑わせてくれる。貴様ごときに私が倒されるはずがないだろう?この片腕、失わせたあの男は確か人間にしては強い相手だった。手強かったが、所詮は人間だ。致命打を負えば死ぬ。神と人、その差は圧倒的な差があるのだ」
ストレインは身体能力を活性化させ、傷の再生能力を飛躍的にあげる薬の錠剤を多量に摂取しはじめた。
自らの命を削りながらも、すべてを破壊するために――。
「人間と神族の差?そんなもの、どうでもいいよ。俺はストレインをぶち殺す。それだけが望み、そのためにここにいる」
交差する視線、お互いにやる気に満ちていた。
ストレインは剣を構えて、智弘は拳銃を向ける。
「神殿騎士団によってすでにここは包囲されているぜ。お前に逃げ場所などない」
「さっさとお前を殺して神殿騎士共も血祭りにあげればいいいだけだ。人間は脆く弱い生き物だ。さぁ、始めよう」
「いいぜ、ストレイン。ジャッジメントタイム、裁きの時間だ。俺がお前を断罪する」
智弘は殺意を込めて銃の引き金を引いた。
「ストレイン。アンタを殺す。殺してやる!」
「殺せるものなら殺して見せろ」
突如、周囲を巻き込む爆発が起きて教会内が燃え始めた。
燃え盛る炎の中で、ストレインは智弘を剣で切り刻む。
智弘は瞬時に判断し、上半身を逸らしてその攻撃を避けた。
「正義、正義とほざいたワリにはこの程度か?」
ストレインは余裕の笑みで智弘をさらに追い込んでいく。
「……何で銃が効かないんだよ」
智弘は息を荒くして、空になった弾倉を交換する。
彼はストレインに既に数発の銃弾を打ち込んだ。
しかし、相手はそれを苦ともしない。
再生能力が銃弾の攻撃が致命傷になる前に回復させているのだ。
だが、痛みがないわけではないので、若干ながら足は止まる。
「これなら神殿騎士団の連中を相手にしていた方が楽しめたな」
「ちくしょう。好き勝手にさせるかよっ!!」
湧き上がる憎悪が智弘を突き動かしている。
悪態つきながら彼はストレインに再び発砲する。
「小賢しい。そろそろ……フィナーレにしようか。もう貴様には飽きた」
振り下ろされたストレインの剣が智弘を襲う。
彼はかろうじて自らの銃を盾にして、その重い一撃を耐える。
「ぐっ、ぁああ!!」
だが、剣の勢いは防ぎきれずそのまま吹き飛ばされる。
燃えさかる祭壇に衝突し、彼はむせかえった。美諾荷葉纖姿
炎と煙にまかれ、視界はさえぎられ呼吸もままならない。
盾にした拳銃は真っ二つに寸断されてもう使い物にならなかった。
智弘の瞳にうつるのは絶望の二文字。
「終わりだな。最後にひとつだけ聞かせろ」
地面にひれ伏せたの智弘にストレインは剣を首筋に突きつけた。
「人間ふぜいがなぜ、この私に牙を向けた?」
「アンタが俺の兄貴を殺した。罪のない人たちの命を奪ったアンタを絶対に許せない。だから、俺がアンタを殺す。全ての罪を断罪するために」
痛みに苦しみ、うわ言のようにそう答える智弘にストレインは失笑した。
「断罪、くだらんな。人ごときが我を断罪する?できぬことを言うな。人間が神を殺すなど不可能。子供の戯言だと知れ」
これ以上智弘に興味がなくなったのか、彼は剣を首筋から離した。
火災により柱が朽ちていく、教会が崩れるのは時間の問題だろう
果てしない闇が広がるのを感じながら智弘はストレインを睨み付けていた。
まるで獣のような強く荒々しい闘志を持つ瞳。
身体が燃えるように熱い、体力を消耗し、傷だらけになりながらもまだ諦めない。
額から流れる血を智弘は拭い去った。
「神は死なない。そんなのはやってみなきゃ分からないだろ」
自分の血の匂いに震えながら、それでも立ち上がろうとする。
その時だった、神宮司から渡されたカードが光を放つ。
『――我らが剣、我らが正義。その意思と共に解放する』
人ならざる者の声に智弘は自らの意識を集中させる。
神殺しのための武器、そう呼ばれる神器がこの世界には8つ存在する。
それぞれの望む形に姿を変え、愚かしい邪神を滅するために作られた武器。
これは守護騎士にだけ与えられた、神を殺す力――。
「――我らが剣、我らが正義。その意思と共に解放する」
智弘は復唱すると、残り少ない力で握り締めていたのは一挺の拳銃だった。
先ほどの拳銃とは違い、銃身を白銀に彩られたその新たな銃。
まるで宝石を施したような装飾銃に魅入られそうになる。
「何をしても無駄だ。そんなに死に急ぎたいのか」
智弘は例え、希望が潰えても死ぬまでは諦めないと覚悟していた。
そのために“彼ら”から託されたこの銃を使用する。
「死ぬのはアンタだよ。……この銃に刻み込んでやる」
必死の形相で彼はその白銀の拳銃を構えた。
「――ストレイン!アンタの名前をなっ!」
彼はその名を叫び、全ての想いを込めて引き金をひいた。
それは狼の咆哮にも似た発砲音だった。
使命感に帯びた弾丸がストレインを貫いたと同時に教会が爆発を起こす。
建物を震わせる爆風に身体を持っていかれる智弘。
勢いよく地面を転がり、彼はそのまま意識を失った。
「……まさ……か。そんな馬鹿な?」
その光景を眺めていたストレインは自らの身体に起こった変化に驚愕していた。
神殺しの騎士銃で胸を撃ち抜かれ、身体を押さえる手についた鮮血を見る。
その血が乾いてくような感覚、まるで身体を毒に浸食されていくようだった。
「神殺しだと。私の再生能力が停止した、そんなバカな……こんなはずでは、グフッ」
ストレインは吐血すると、倒れこんだ智弘の握り締める拳銃を見つめた。
「私の命が終わるというのか……まさかこんな子供に断罪されるとは。視界が闇色に染まる。なるほど……これが……死ぬということか」
彼が最後に呟いた言葉、自らの命を持って自らの罪を知る。
炎と共に崩壊していく教会、二人の男の姿は暗闇に消えていく。
言いようのない憎しみを抱き、戦いに身を投じた少年は兄の仇を討ったのだった。
同時刻、神殿騎士ラルクは神界犯罪人マクスウェルを追い込んでいた。
彼のキャスト、『空間転送(テレポート)』には弱点となる回数制限がある。
無理やり空間を移動する力のために、消費する力も大きいためだ。
前回、ストレインを逃すために使用したためにキャストが使えないのだ。数字減肥
だからこそ、彼は転移結界を使わざるを得ない。
「お得意のテレポートもできませんよ。どうしますか、降伏するならそれもよし。しないのならば、貴方をここで氷殺します」
「ふっ、当然の事を聞くのだな。死なぬよ、ここでは死なぬ」
マクスウェルはラルクに対して攻撃をしようとする。
だが、それよりも早く彼の剣は氷を放ち、マクスウェルの身体を凍りつかせた。
足を凍りつかされ、身動きできない彼にラルクは剣を突きつける。
「貴方はシュバルツだ。神界犯罪人としてその罪を断罪する。覚悟はできましたか?」
「くっ、足が……。なぜだ、こんなはずが……っ!?」
「もう逃げらません。神界犯罪人、マクスウェル。終わりの時間です」
首筋に騎士剣を突きたて、彼は静かに言い放った。
マクスウェルは顔を強張らせて、冷や汗を浮かべていた。
「……逃げるのが得意なマクスウェルもキャストを使えなければ、この程度ですか」
「貴様っ!私を殺したところでどうにもならんぞ。シュバルツこそが、この世界を混沌に導き、破壊と再生を行う。その流れは誰にも止められない」
「シュバルツの理念、信念。その愚かな存在意義を認めるつもりはありませんよ。いずれ、機会があれば俺達、ガーディアンエイトがシュバルツを滅ぼします」
ラルクは守護騎士として神界犯罪人を処刑する。
「自らの罪を死を持って償いなさい、それが貴方のできる唯一の贖罪ですよ」
そのまま、騎士剣を振りおろしてラルクはマクスウェルを切った。
「ぐぅ、うあぁあっ……――」
切り裂かれた傷口が凍りついていき、マクスウェルは絶命し倒れこんだ。
「エルフィーナ。迷える魂を導いてあげてくれ」
彼はそう告げて剣を鞘へと戻し、戦いを終えたラルクは神宮司に連絡をとる。
「こちらはラルクです。神宮寺団長、マクスウェルの処刑は終わりました。ストレインの方はどうなりましたか?智弘は、まだ生きていますか?」
『分からないが、大きな炎上が起きて教会が燃えている。調べたら中の生命反応はひとつしかない。これから部下に現場へ向かわせるが僕の予想だと、ストレインは死んだよ。まさかの展開だ。智弘には“神殺し”の資格があったらしい』
「そうですか。彼も“神殺し”になったのですね」
ラルクは複雑そうな表情を見せてそう呟いた。
それが“白銀の狼”と呼ばれる、世界から恐れられる守護騎士の誕生だった――。玉露嬌
Virgin Vapour
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