2013年5月15日星期三

始まりは盛大に

その日。
 キヴェラはかつてない混乱に見舞われることとなった。

「い……一大事でございます……!」
 躾の行き届いている筈の文官が息を切らせながら駆け込んで来る姿に部屋に集っていた者達は呆気にとられた。精力剤
 キヴェラは大国ゆえに滅多な事では余裕を失わない。重要な案件であれば慎重に審議するし、多少の混乱が起きても人材・物資共にゆとりがあるので冷静に対処できるのだ。
 勿論、それには人脈や他国との繋がりも含まれている。常に優位に立つ側だからこそ、打つ手に不自由はしなのだ。
 それが何故この有様なのだろうか。同僚の姿に危機感よりも驚きが勝るのも仕方ないと言えよう。
「へ……陛下、に……側近の皆様も……お集まりいただきたく……」
「おいおい、落ち着け。集まって頂こうにも内容が判らなければ連絡しようが無いだろうが」
 近くに居た人物が水を差し出すと、男は一気に飲み干し息を整える。その顔は息が切れるほど激しい運動をしたにも関わらず何故か色を無くしていた。
「王太子殿下が……」
「王太子殿下? コルベラに謝罪に赴いているはずだろう?」
「王太子殿下がコルベラにて魔導師に宣戦布告をしたと」
『な!?』
 その内容は誰もが絶句するに十分だった。魔導師はある意味災厄だと認識されている。それを知らぬは余程の無知か、自分に自信を持つ余り思い上がった愚か者だけだろう。
 つまりはそういう存在だと認識される程度の傷跡を歴史に刻んでいる、ということだ。
「何故そんなことに!? いや、それ以前にどうしてコルベラに魔導師が居るのだ!」
「姫の逃亡に一役買ったそうです。ですが、問題はそれだけではありません!」
 半ば悲鳴のような声を上げる男に周囲は息を飲む。魔導師を敵にするだけでも頭が痛いというのに、まだ何かあるのかと。誰もが血の気の引いた顔で次の言葉を待つ。
「コルベラは……他国から今回の件について問合わせをされていたようです。それを収める意味で王太子殿下直々の謝罪の場に他国からの使者を同席させたらしいのですが……」
「ふむ、それは仕方ないとも言えるな。小国の言い分よりも事実を其々の目で見てもらう方が真実を伝えられる」
 実際、それで得をするのはキヴェラだろう。大国の王太子が直々に謝罪する場を見れば今回の事に関して他国は何も言えなくなる。
 コルベラが自己保身の為にキヴェラに有利な場を整えたと言えなくも無い。……誓約がある限り、王女は謝罪を受け入れるしかないのだから。
「その場で冷遇が事実であったと、明確な証拠と……王太子殿下の証言により証明されたそうです」
「は!? どういうことだ!」
「冷遇映像については見取り図を描き起こし確かに後宮内部だと示し、誓約は王太子妃様のサインが無かったそうです」
「……っ……宮廷魔術師に使いを! 未だ解けておらぬと言っていたはずだぞ!」
「冷遇の証明も誓約の無効化も……全ては王太子妃様の逃亡に手を貸した魔導師によって行なわれたと書かれています。あまりな姫の惨状に見かねて手を貸したのだと。王太子殿下は感情のままに失言を繰り返し挙句にキヴェラに対する侮辱だと魔導師に宣戦布告をしたと」
「……他国の者達の目の前でか」
「……おそらく」
 全員が何とも言えない表情のままに溜息を吐く。魔導師の存在はともかく、あの王太子殿下ならばやりかねないとは共通の認識だった。
 そもそも魔導師は力技で脅迫したわけではないらしい。話を聞く限りでは事実を明らかにした上でキヴェラの誠意を見極めようとしただけではないのか。被害は特に書かれていないのだから。
 力ずくの脅迫ならば『魔導師は災厄であり悪なのだ』と他国の抗議を突っ撥ねる事ができる。だが、今回それは無理というものだろう。謝罪の場において誠意を見せず愚かな真似をしたのはキヴェラなのだ。
「コルベラは今回の事に対し抗議するそうです。ですが、婚姻が成立していなかった以上は滞在した姫の待遇についてという事になるでしょう。それから謝罪の場に居合わせたイルフェナのエルシュオン殿下とゼブレストの宰相殿は魔導師と懇意らしく、条件次第で取り成すと言っています」
「イルフェナの魔王殿下とゼブレストの冷徹宰相が? 何故その場に居たのだ?」
「キヴェラの噂が広がり過ぎた為ではないかと。我が国の王太子妃の逃亡となれば無関心ではいられますまい。特にカルロッサとアルベルダは追っ手に迷惑を掛けられていますし」
「……厄介な相手に借りを作ることになりそうだな。その魔導師がキヴェラをどうするかにも因るだろうが」
 深々と溜息を吐く。良い方向に捉えるならば魔導師を抑える術があるということだろう。だが、相手はキヴェラが常に狙っている国。間違っても友好的な態度で交渉に臨んでくれるとは思えなかった。
「……陛下に通達を。もはや我々が扱うべき問題ではない」
 そう、下手をすれば国の滅亡が待っている。王太子妃様を……いや、コルベラの王女を解放した手腕といい、魔導師を名乗っている以上は間違いなく実力者なのだ。

 何故なら……周囲が魔導師であると認めた上で行動を起こしているのだから。

 これが魔術師程度ならば他国とて『少々賢い』くらいの扱いで『キヴェラを相手にするとは何と無謀な』とばかりに遠巻きに眺めていた事だろう。
 だが、彼等は行動を起こした。それは『勝てる要素があるから』だ。
 『愚かな王太子』
 身分ゆえに決して口にできない言葉が全員の頭の中を過ぎる。期待をしていたといえば嘘になるだろう。だが、それでも彼とて国を背負う者。国を滅ぼすような選択はすまいと無意識に思っていた……下の者が軌道修正すればお飾りでも良いのだと。
 そんな思いを抱きこうなった今だからこそ思う。彼をそのままにしていた我々も『愚かな臣下』なのだろう、と。
※※※※※※※※※
 ふふ……ついに来たぜ。キヴェラよ、再び!
 まあ、コルベラでも色々あったんだけどね。一番の予想外はセシルが私の守護役になったことだろうか。勿論、これは私の為ではなくセシル側の事情なのだが。
「セレスティナ姫を君の守護役の一人にしなさい。暫くは注目されるだろうからね」
 これ、魔王様の御言葉。キヴェラの事があったから最悪一生独身――あくまで建前上――と思いきや、魔導師との繋がりという意味で利用される可能性があるんだそうな。今後、魔導師の守護があるのだと匂わせた方がセシルもコルベラも安全らしい。
「セレスティナ姫は君と……キヴェラを出し抜く魔導師と懇意なんだよ? 政略結婚を強制される事態は回避したいんだろう?」媚薬
「お前にも同性の友人が必要だろうしな。落ち着くまでは守護役に加えておいた方がいい。強行手段をとられてお前が暴れるよりも穏便な方法だろう」
「強行手段って?」
「誘拐でもされて既成事実を作られれば王家の名を落とさぬ為にも嫁ぐしかないだろう」
 宰相様、ぶっちゃけ過ぎだ。でもその可能性があるわけですか。あ~……私に対する人質みたいになっちゃうってことか。
 魔王様だけじゃなく宰相様もセシルの守護役加入を推進する裏事情ですな。どうも放っておけばセシルは魔導師を味方につける駒扱いをされるらしい。で、その結果私が暴れて被害が出る事を未然に防ぎたいんだそうな。
 そういや守護役って性別関係なかったね。期間限定とはいえ、これもある意味保護に該当するのか。
 それに守護役は立場上男性が多いだけで女性が居ないわけではないらしい。通常は同性の守護役が一人は必ず居るんだと。私に居なかったのは守護役連中が早々に婚姻前提発言かました事と未婚の該当者が居なかった事が原因だとか。
 ……。
 魔導師を押さえ込める女性が居なかっただけじゃなく『他の守護役に恋心を抱く・もしくは繋がりを作ろうとする奴は論外』って感じで弾かれたな、多分。それでも何の不自由も無かったけどさ。
 魔導師ゆえにこの状況だったようです、でも話を聞く限り他の候補者は潰されているような。
 初耳だな、おい。守護役どもよ、裏で一体何をやっていた?
 なお、セシルは私とこれまでと変わらぬ関係でいられることを非常に喜んだ。
 異世界人であろうとも王族と対等な関係でいられる筈は無い、けれど守護役ならばこれまで通り気安い間柄で過ごせるのだと大変乗り気だった。
 ……侍女達の『道ならぬ関係でも魔導師様と姫様ならば応援しますわ!』との言葉が気になるが。セシル、やっぱり仲良しアピールの仕方が間違ってたんじゃね?
 ちなみに守護役連中も歓迎派だ。
「女性の友人も必要ですし、セレスティナ姫ならば我々の良き理解者になってくださると思います。姉上達と仲良くなられるより数倍マシです」
「お前に喧嘩を売ってくる貴族令嬢への最高の牽制になるだろう。まずセレスティナ姫に目が行くだろうしな、王族に喧嘩を売る馬鹿は居まい」
「今後女性の集まりに引っ張り出される可能性もあるんです。王族でしかも女性など最高の味方では?」
 ……という理解の方向が私に傾いている素敵な回答と共に『是非!』とばかりに歓迎された。彼等は全員公爵子息、これまでの経験から思うところがあるのだろう。
 完全に先手を打った形だが、これでセシルは守られると見て間違い無い。手を出したら他の守護役を出している国だけでなく、狸様と私が手を取り合って報復することは確実だ。
 予想外の展開だけど、結果的にコルベラは後ろ盾を得られたのだから喜ぶべきことだろう。
「ところで……君の手がキヴェラに防がれる可能性は?」
 城への馬車の中でセシル兄が尋ねてくる。聞いては来ないが同行している全員の疑問なのだろう。
「可能性は……無しです!」
 胸を張って言い切っちゃうぞ? 絶対に防げないから。
「その根拠は? キヴェラだって優秀な魔術師を抱えていると思うよ?」
「魔術師だから、でしょうか? この世界の常識があるからこそ、私の行動が予測不可能なのですよ」
 実際、この世界において異世界人が強い理由はそれだと思う。知らないからこそ対策の取りようがない、ということなのだから。
 私は娯楽に溢れた世界出身の魔導師だからこそ強いのだ。
 だからって手加減しないけどな、博愛主義者じゃないんだし。
 この世界における私の最高の武器は自分の知識や経験なのだ、それを利用して何が悪い? 
 そもそも私は善人じゃないから大切なのは極一部なんて当然でしょ?
「そろそろ着きます。皆様、準備は宜しいですか?」
 そんな声が聞こえてきた。同時に私は笑みを浮かべる。
 うふふ……暫くぶりのキヴェラ王都ですよ。今回は堂々とラスボスの城に乗り込みます!
 ラスボス様よ、覚悟しやがれ? お前の息子が撃沈した今となっては私の獲物……もとい最終目標はキヴェラ上層部、もしくは王。
「どうして悪役にしか見えないんだろうねぇ……」
「行動と結果はともかく動機が個人的過ぎるからでは?」
 親猫様と宰相様、結果良ければ全て良しって言葉を知りません? 
 細けぇことはいいんだよ。周囲の評価なんて気にしない!
※※※※※※※※※
 謁見の間には王と王妃、それに側近達の他には側室も王妃の背後に控えていた。本来ならば彼女達はこういった場にいるべきではないが、場合によっては王妃になる可能性もある。加えて言うなら今にも倒れそうな王妃に対する配慮だろう。
 大変だねー、原因が正妃の子だと。王妃は気を失うことすら許されないか。
 なお、王太子は蓑虫のままヴァージル君によって運ばれこの場に居る。私の足元に転がってるけどさ。
「よく来たな、魔導師」
 言葉だけなら歓迎しているようだが、状況的には殺意と敵意の集中砲火を浴びとります。まあ、それも仕方なかろう。では私もそれに見合った対応を。
「出迎え御苦労! 宣戦布告されたから来てあげたわ、感謝なさい」
『……』
 足元の王太子を踏み付けつつ、にやりと笑いながら返す。場の空気が微妙になろうと一度言ってみたかったこの台詞、これほど馬鹿にした対応もあるまい。
 でも大丈夫、魔導師だから。そういうものです、魔導師は。
「無礼な!」
「あら、私からしたら貴方達は敵だもの。いきなり殺さないだけマシじゃない?」
「な……」
「これまでキヴェラが滅ぼしてきた国はどんな対応をされたんだっけ? それとも王様一人で王族貴族を皆殺しにしたとでも? 身分を重視するならば王族を手にかけるのは王族でなければならないよね?」
 激怒する近衛騎士に対し全く余裕を失わずに応えてやる。お前達こそ今まで『敵』に対してどういう扱いをしてきたのかと。性欲剤
 近衛騎士は漸くキヴェラと私の関係が敵対だと悟ったのか沈黙した。これまでキヴェラがしてきた事を振り返れば私の態度に文句など言えるはずは無いと自覚して。
 その様子を眺めていたキヴェラ王は溜息を吐くと視線をセシル兄に向ける。
「先にコルベラからの訴えを聞こう。先程、書状に添えられていた婚姻の誓約書を確認した。確かに姫のサインは無い……『滞在していたセレスティナ姫』への不敬は儂がこの場で詫びよう。すまなかった」
 そう言って頭を下げる。その様子に私は瞳を眇めて内心キヴェラ王を賞賛した。
 凄いな、この人。先に頭を下げる事でコルベラからの抗議を潰したよ。この場合、一番確実で誰も文句が言えない対応だ。
 婚姻の事実は無かったというコルベラの言い分を受け入れ、大国の王自らが頭を下げる。ここまですればコルベラは振り上げた拳を収めるしかないだろう。
 コルベラの言い分を受け入れた事=姫の解放を承諾。
 王が不敬を詫びる=この件についてコルベラが不利になるような事はしない。
 直接言葉にすればキヴェラ(大国)がコルベラ(小国)に屈したように受け取られる可能性もあるが、この言い方なら誠実さをアピールするだけだろう。
 魔王様達が居ることも踏まえて王太子とは違うのだと見せつけるつもりか。
「……貴方の謝罪を受け取りましょう。そうそう、王女の持ち物を返していただきたいのですが」
「無論だ。全て保管してある。……誰か!」
「はっ」
 声と共にセシル兄の前にテーブルが用意され、その上に装飾品が並べられていく。これも言い出すことを予測していたのか随分と手際がいい。
「こちらでも確認してあるが、一応そちらでも見てもらえないだろうか」
「感謝いたします。……ところでこれらは今まで誰が所持していたのでしょうか?」
「話は聞いているだろう? 全て寵姫エレーナが所持しておった」
 やはり寵姫が持っていたらしい。数と物を確認するコルベラ勢は暫くすると頷いた。
「はい、確かに。全て揃っているようですし、保管状態も問題ありません」
「そうか、それは良かった」
「お気遣い感謝します」
 ……? はい? 『全部』? 
「ちょーっと待った! ……本当に全部あるんですか? 姫が身に着けていた物まで?」
「ああ。国から持って来た一覧と照らし合わせても欠けている物は無いよ」
 私の勢いにやや驚きながらもセシル兄は答えてくれた。一方、キヴェラ勢は何か不手際でもあるのかとややざわめいている。
「……。寵姫をここへ呼んでもらえるかな。確認したい事ができた」
「寵姫を? 構わぬが……本人に確認でも取りたいのか?」
「そんなとこね」
 黙って見ていた私の突然の発言に怪訝そうになりながらもキヴェラ王は承諾し、傍仕えに寵姫を連れて来るよう言いつけた。即座に行動する辺り彼等は何も不審に思わなかったらしい。
 ……いや、セシル達の状況を知らないからこそ何故不審がるのか判らないというべきか。
 セシル兄が何か言いたげにこちらを見るけど説明するなら寵姫が来てからの方がいい。ごめんよ、セシル兄。公の場だから気になってもすぐ私に聞けないんだよね。
「連れて参りました」
 そんな声に揃って視線を向けると侍女を連れた女性が騎士によって連れて来られていた。装飾品こそ着けていないが、シンプルなドレスに化粧までしているところを見ると監視対象程度だったのだろう。
 セシルの話を聞く限り彼女は馬鹿どものとばっちりを受けた形になる。彼女の行動を咎めるならば代々後宮で暮らした女の殆どがアウトだしな、さすがに咎められなかったのだろう。
 彼女は王太子の姿に何とも思わないのか、それとも失望し興味を無くしたのか。
 王太子の姿を目にしている筈なのに表情を動かす事もせず、感情の揺らぎも感じられない姿は聞いていた姿と違い過ぎて違和感を覚える。王太子もそんな姿を始めて見たのか戸惑っているようだった。
「エレーナ、魔導師が聞きたい事があるそうだぞ」
「……魔導師様、私に一体何の御用でしょうか」
 王の声と周囲の視線に震える事無く彼女は私を見つめ返す。彼女の傍に控えている男性は顔立ちと年齢的に父親だろうか? 王太子の廃嫡により王族との繋がりが潰える筈の彼もまた随分と落ち着いているように見えるのだが。
「これは貴女がセレスティナ姫から取り上げた物よね?」
「はい」
「……。どうして後宮に無い筈の物まで貴女が持っているの?」
 ざわり、と周囲に動揺が走る。それはそうだろう、姫の持ち物が後宮に無いなど意味が判らないに違いない。
「セレスティナ姫と侍女エメリナは食事さえ満足に与えられない状況だったと言ったわ。だから身に着けていた装飾品を売って糧を得ていたと。どうして売った物が買い戻されているの?」
「な、そこまで酷い状況だったのですか!?」
「侍女がまともに仕事をしないのにどうやって生きていけるの? だいたい、食事だけでも運ばれていたら今頃『私はできることをしていました!』って責任逃れの言い訳にしているでしょう?」
「た……確かに」
 声を上げた側近の一人らしき男性は問題の侍女達を知っているのか納得したようだ。
 さすがにこれには顔色を悪くする人が続出している。逃亡していなければ命の危機と言われても否定できまい。女性用媚薬
 だが、寵姫は相変らず平然として私の質問にも淡々と答えるのみ。
「これはセレスティナ姫様の為に用意されたもの。私如きが手にして良い物ではございません。姫様の身を御守りする為に取り上げましたが、いずれお返しするつもりでございました」
「それはどういう意味?」
「貴族達は姫様が贈り物を断れぬと知っているからこそ、様々な悪意を忍ばせました。ですが、私が取り上げると知れば迂闊な事はしないでしょう。姫様の手に渡る前に処分したこともございます」
 エレーナの言葉に嘘は感じられない。実際、セシルも彼女からの言葉を表面的なものじゃないかと言っていた。
「……そちらはコルベラの王族の方でいらっしゃいますか?」
「ああ」
 エレーナはセシル兄に向き直ると跪き頭を垂れる。
「いくら御守りする為とはいえ、数々の所業が許される筈はございません。何より私が許せません。本来ならば直々に謝罪したく思いますが、そのような我侭が叶う筈はないと思っております。……申し訳ございませんでした。どうぞ、セレスティナ姫様にお伝えくださいませ」
「君は寵姫なのだろう? 何故セレスを庇うんだ?」
 誰もが思うセシル兄の言葉にエレーナは顔を上げて微笑む。それはとても優しく誇らしげな笑み。
「私は寵姫ではありますが、それ以上にアディンセル一族の者だからです。ブリジアスの忠臣にして祖国の復讐を誓う誇り高き一族は祖国の為に己を犠牲にできる尊い方を陥れるほど恥知らずではございません!」
『な!? ブリジアスの復讐だと!?』
 キヴェラ勢がざわめく中、私は『同志』を歓迎すべく彼女に微笑みかける。その気配を察したのかエレーナがこちらを向き、一層笑みを深めた。
 王太子の最愛の寵姫が復讐者ね……随分と面白い展開だ。キヴェラにおいて王太子妃を守り、私達の手助けをしてくれた『味方』もしくは『共犯者』。
 しかもここが公の場であり、どんな状況かを知った上で真実を告げた。その後の動揺を狙った上での暴露にキヴェラ勢は王でさえ表情を変えている。
 やるじゃないか! 彼女はたった今、牙を剥いてみせたのだ!
 ならば私は貴女の為にもキヴェラを貶めよう。これ以上のパフォーマンスをしなければ災厄の名が廃る。 
 盛大に復讐劇を終らせようじゃないか。
 キヴェラ史上、最高にして最悪の舞台はたった今幕を開けたのだから。中絶薬

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