2013年3月7日星期四

恋に落ちて&愛の行方

大学の春休みも残りわずか。
 
4月に入り、2週間の滞在をしていた希美は再び実家へと戻った。
 
この2週間で関係を深めた希美と梨紅ちゃん。
 
まるで姉妹のように仲好くなり、後半はほとんど一緒にいる事が多かった気がする。狼1号
 
希美も俺に対する過剰な反応はなくなり、溺愛していたあの頃が懐かしく思えるほどに、妹はすっかりと兄離れをしてしまったのだ。
 
依存する相手を代えた、と言う言葉が正しいのか分からないがそう言う事なんだろう。
 
兄離れされた事はあの事件があっても悲しいものだ。
 
希美の事を思えば兄離れするのは必然的なものかもしれない。
 
だが、こんな事件であっさりと離れられるのモノ、そこはかとなく悲しい。
 
俺の青春よ、さよなら。
 
心に穴があいたようなそんな不思議な感覚。
 
でも、希美は俺に言ったんだ。
 
『大河兄さんはずっと私にとってのたった一人の兄さんですっ』
 
その言葉に俺は安心した。
 
兄妹である事に変わらない。
 
ならば、俺も覚悟を決めるしかないな。
 
いい加減、妹離れをしなくちゃいけないのは俺の方だったから――。
 
 
 
今日は春休み最後の家庭教師の日。
 
次からは彼女も中学3年生として受験シーズンに突入する。
 
梨紅ちゃんの部屋で俺はいつものように勉強を教えていた。
 
「というわけで、次からは問題のレベルもあげていくから」
 
「はい、先生。実は私の通う私立中学にはエレベーター式なので、そんなに頑張って高校受験をする必要もないよ」
 
「ダメ。エレベーター式でも上に上がるための試験はあるし、数学もその科目に入ってるんだろ?他は抜群に賢いんだから、これだけはしっかり頑張ってくれ」
 
確かに他の高校に行かない限りは私立のエレベーターは上にあがるのはそれほど難しくない……が、油断はできない。
 
「梨紅ちゃんの成績なら別の私立の高校へも行けるんだろ?可能性がある以上、楽して勉強から逃げることはないよな?」
 
「うぅ、数学のない国へ行きたい。将来、役に立つのは電卓計算だけでしょ」
 
「身も蓋もない事を……。梨紅ちゃんは頭いいんだから、もう少し忍耐力をつけてくれ。数学のテストだって3学期のテストでは40点も取れたんだ。この調子ならもう少しで平均点くらいは狙えるようになる、はず」
 
実際、ものすごく目に見えて得意になった様子はない。
 
とはいえ、ある程度、数学と言う物を理解し始めてきている。
 
家庭教師を受けた当初は数学から逃げ続けてきただけだったからな。
 
ちゃんと向き合うようになっただけでも進歩と言える。
 
「元々、理解力はあるんだ。応用力さえきっちりこなせば、梨紅ちゃんなら良い点を取れるようになると思うけどな」
 
「……うん。頑張る」
 
「よし、いい子だ。それじゃ、続きを始めるか」
 
軽く頭をなでてやりながら機嫌を伺い、梨紅ちゃんを教えているとちらちらとこちらを伺ってくる。
 
「ん?どうした、何かあったのか?問題が難しい」
 
「うん、それは難しいけど……」
 
「他に何か?」
 
「何でもないっ。気にしないで」
 
そう言ってるけど、こちらを気にしているのは見て分かる。
 
毎回している小テストの採点時、彼女は希美の話題を切り出す。
 
「希美お姉ちゃん、帰っちゃったね」
 
「そうだな。ていうか、何で梨紅ちゃんと希美が急激に仲良くなったのはよく分からない。ふたりに何があったんだ?」
 
ふたりが姉妹のように仲よくなった理由があるはず。
 
「うーん。私は元々、お姉ちゃんが欲しかったから。希美お姉ちゃんは妹みたいな甘えられる存在が欲しかったみたい」
 
「美鶴姉ちゃんも似たような事を言っていたっけ」
 
「ふふっ。希美お姉ちゃんが甘えてくれなくなってさびしい?」
 
梨紅ちゃんにからかわれて、俺は「さぁな」と呟く。
 
俺にも男の意地があるのです。
 
素直に兄離れされた現実を受け止めたくないだけ。
 
「その分、私が先生に甘えてあげる」
 
「はいはい。それは楽しみしているよ(棒読み)」
 
「うぅ、全然、感情がこもってない」
 
膨れる彼女は、いつもと違う。
 
何やら企んでいる様子なのは気のせいなのだろうか?
 
「……私、先生へのアタックの仕方を変えるべきだと気づいたの」
 
「何のことやら?」
 
「こういうことよ、大河先生っ」
 
いきなり俺に抱きついてくる彼女。
 
今までも何回か同じようなシチュエーションがあった。
 
だから、俺は特に驚く事もなかったんだが……今日はいつもと違った。
 
「香水、変えたんだ?」
 
「そうだよ、先生が好きそうな匂いでしょ?」
 
「背伸びしすぎじゃないかな。これって姉ちゃんとかが使うような匂いじゃないか」
 
これまで、梨紅ちゃんがつけていた香水と違い、すごく大人びて見える。
 
顔を近づけてくる彼女。三體牛鞭
 
潤んだ瞳がこちらを見つめている。
 
「――大河先生、私は先生が好き」
 
それまで明確に言葉にされた事はあまりなかった。
 
何ていうか、こういう告白のようなシーンもなかったはずだ。
 
「私は、ずっと先生が好きだった。もう、どうしようもないくらい」
 
「……ふ、ふーん」
 
何だ、なぜだ、今、俺は告白をされているのだ!?
 
これが彼女の言う甘え方の違いと言う奴なのか。
 
「真剣に考えてみて、欲しいな。私、先生に比べたら子供かもしれない。けれど、気持ちじゃ負けてないと思うの。先生に釣りあえるだけの女の子になるから……だから、私と付き合ってください」
 
最後は真剣な顔を見せて俺に告白する彼女。
 
それは俺を小悪魔のようにからかうでもなく、ひとりの女として俺に向き合っている。
 
俺に抱きつく彼女はどこか震えているようにも感じた。
 
緊張しているのか、あの梨紅ちゃんが?
 
「大河先生、私の事を子供扱いばっかりして全然進展してくれないから。こうして態度に出さないと考えてもくれないと思ったの。ねぇ、先生。私じゃダメかな?先生の初めての恋人に選んでくれないかな?」
 
「梨紅ちゃん……」
 
「歳の差は、私にとっては良い事でも、先生にとっては子供と付き合う気ないって分かってる。でもさ、私だってあと1年たてば高校生だよ?そう考えたら、今からでも付き合ってみる気ない?出来る限り、大人っぽくするから」
 
この香水も、言われてみればいつものツインテールの髪型も大人しくまとめている。
 
雰囲気が違う気がしたのは、改めて言われてみればいろいろと気がついた。
 
「……だから、考えて見るだけ考えて。お願いっ」
 
必死な様子で俺にそう告げる彼女。
 
その日、授業を終えた後も俺は複雑な心境だった。
 
梨紅ちゃんが俺に好意を抱いているのは知っていた。
 
子供だからと相手にしてこなかったのは俺だ。
 
だけど、彼女は今度は真っすぐに俺に向かってきた。
 
それを誤魔化す事はできそうにない。
 
今度は答えを出す、好きか嫌いか、どちらかはっきりと出さなくちゃいけない。
 
「俺はどうすればいいんだろう?」
 
俺は梨紅ちゃんの顔を思い浮かべながらただ悩むことしかできなかった。

希美の悪行(?)が明らかになってから一夜があけた。
 
当初はショックで俺も希美にひどい事を言ったが、翌日になれば怒りも冷めた。
 
あの子はあの子なりに俺を想ってくれていた。
 
そう考えれば、一方的に望みを責めたのは間違いだ。
 
「謝っておくか」
 
朝、目が覚めてから俺は彼女の寝室を訪れる。
 
まだ寝ているのかと思ってドアを開けると既に希美は起きていた。
 
ベッドで眠る梨紅ちゃんの寝顔を見つめている。
 
優しい笑みを浮かべている。
 
「……あら、兄さん?おはようございます」
 
「おはよう。その、昨日は……」
 
「昨日はすみませんでした。兄さんに謝っても足りないでしょうけど、本当に反省してます。……もう兄さんの恋愛の邪魔はしませんから許してください」
 
「俺もきつく言いすぎたよ」
 
希美はこれからも可愛らしい妹でいてくれ。
 
姉があんな悪魔なので俺にとっては救いであり続けて欲しいのだ。
 
「それで、何をしているんだ?」
 
「“梨紅”の寝顔を見ていました」
 
「梨紅……?」
 
希美が誰かを呼び捨てるのは珍しい。
 
誰相手でも敬語口調の彼女だからな。
 
年下相手でも口調を変えることはまずない。
 
「昨日、梨紅が言ってくれたんです。私をお姉ちゃんみたいだって。私、今まで姉扱いされたこともなかったんですけど、初めて妹のような存在を愛しく思えて……」
 
そういや、姉ちゃんが言っていた。
 
希美と梨紅ちゃんの仲がよくなっている、と。
 
それはこういう意味だったのか。
 
寝顔を見つめ続ける彼女。
 
梨紅ちゃんの寝顔は確かに可愛い。
 
「梨紅ってばすごく可愛いんですよ。昨日も一緒に寝たんですけど、その前にずっと兄さんの話をしていたんです」男宝
 
「俺の話って何の話だ?」
 
 
「兄さんのどういう所が好きなのか。惹かれたのかって事です。梨紅は昔から年上の人を好きになる傾向があったようですけど、大河兄さんは他の人達と違い、本気で好きになった相手だと言っていました」
 
希美は「こちらが妬けてしまうほどに大好きなんですね」と呟く。
 
それは、俺に対してか希美自身に対してか、どちらの意味だろうか。
 
「兄さんは梨紅の好意を受け止めてあげないのですか?」
 
「……歳の差もあるし、梨紅ちゃんはいい子だけど、俺にはちょっとな」
 
「私には大河兄さんにはよくあっていると感じます。本当に兄さんを愛していますし、性格だって背伸びしている子供っぽさが可愛いじゃないですか。自分に無理してでも相手に合わそうとするのは本気の証拠です」
 
梨紅ちゃんが俺に好意を抱いてるのは知っているが、そこまで思われていたのか。
 
当初は振り回されてばかりだった。
 
もう少し、年上ならば魅力もきっと変わっていただろう。
 
「彼女なら、きっと兄さんの良きパートナーになると思いますよ。これから成長していきますから、兄さんもいつまでも子供扱いしないで、女として見てあげてください」
 
「希美がそう言う事を言うなんて珍しいな」
 
昨日までは敵対(?)していた相手のはずだが。
 
「……今は私にとっては大事な妹のような存在ですから。信頼しています。兄さんもこの子の本質に触れてみてください。きっとすぐに好きになりますよ」
 
「そうかな?」
 
「はい。年下だから、好みじゃないから。そんな理由抜きで本当の梨紅と向き合ってみてください。そうすれば、兄さんも梨紅が好きになります。私も昨日までは正直言って気に入らない相手でした」
 
希美ははっきりと言う。
 
昨日、この子の本性も初めて見たのでショックが大きかったな。
 
「でも、思いやりもあり、とても人を惹きつける魅力のある女の子だと知り、考えを変えました。今はとても可愛く思います」
 
希美には年下の相手と付き合う機会がほとんどなかった。
 
俺の従姉妹も大抵年上ばかりだったので、甘えてばかりの存在だったのだ。
 
そんな彼女が目に見えて変化した。
 
その事に俺は驚く。
 
「……そろそろ、朝ご飯の時間ですね。梨紅を起こさないと」
 
彼女はそっと梨紅ちゃんの頬に触れて優しく声をかける。
 
「梨紅、起きて。もう朝だよ」
 
梨紅ちゃんと言う存在が希美を変化させた。
 
不思議な子だ、改めて俺はそれを感じさせられていた。
 
 
 
朝から梨紅と希美は一緒に仲良く出かけてしまった。
 
少し遅めの起床の姉ちゃんはコーヒーを飲みながらその光景を見ていた。
 
「あの二人、仲良くなってよかったじゃない」
 
「……それはいいが、これは姉ちゃんの企みか?」
 
「企み?なんて言い方をされると悪い考えをしていたみたいじゃない。私はずっと希美には甘えてくれる子がいればいいな、と思っていただけ。あの子は人に甘える事に慣れ過ぎていたもの。逆に甘えられる子がいれば、きっと彼女も変われると思ってた」
 
あのふたりを近づけたのには姉ちゃんなりの理由があったのか。
 
「……でも、実際にこううまくいくとは思っていなかったのよ」
 
「最初はどこか仲違いしているように見えたが」
 
「そりゃ、お互いに敵同士。そう単純なものじゃないわ。でも、梨紅ちゃんも一人っ子で甘えられる存在が欲しいって言うのは分かっていたからね。その気持ちを希美に向かせるようにしたのは正解だったみたい」
 
コーヒーを飲み終えた彼女はそう呟いて俺を見つめる。
 
「……大河にとっても妹離れ、寂しい?」
 
「どうだろう。昨日のショックのせいでよく分からないや」
 
「ふふっ。あの子は純粋すぎるの。だからかな、私にはなぜか懐いてくれない」
 
「それは姉ちゃんの性格のせいで……ぐはっ!?」
 
俺の後頭部を襲うクッション。
 
この人は自分を否定されるとすぐに暴力に出るから怖いのだ。
 
「……大河も少しはお姉ちゃんに懐いてくれないかしら」
 
「こう言う事をする姉にどう慕えばいいのやら。地味にクッションで痛みが来るな」
 
勢いによっては衝撃も大きい。
 
クッションを投げた本人はしれっとした顔でトーストを食べていた。
 
この悪魔め……いつか反逆してやりたい、多分無理だろうけどさ。
 
「それで、梨紅さんの事も考えてあげなさいよ?あの子、希美を攻略して、次は本格的に大河を狙いに来るはずだから」
 
「その背後に誰かさんの影を感じるのは気のせいか?」
 
「……気のせいでしょ?誰かさんって誰なのよ」
 
笑みで誤魔化す姉ちゃん。
 
梨紅ちゃんとこっそり手を結んだのは今回の事で明らかだ。
 
「次は何を企んでいるのやら?」
 
「別に何も企んでいないわ。私は大事な家族が幸せならそれでいいのよ」
 
姉らしい言葉を、一番似合わない人に言われる事ほど違和感というものはない。VVK
 
美鶴姉ちゃんの企みはともかく、俺も梨紅ちゃんの事を真剣に考えた方がいいのだろう。
 
春の訪れが俺にも変化を与えようとしていた――。

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