2013年3月19日星期二

オーケストラデビュー

今日はついに夢月のオーケストラデビューだ。
 
朝から両親は慌しく出て行き、夢月も同じようについていく。
 
「それじゃ、蒼空お兄ちゃん。行って来ます」
 
「あぁ。僕もあとでコンサートホールに行くから。頑張れよ、応援している」
 
「うん。任せて。張り切ってやっちゃう」狼1号
 
にっこりと微笑む夢月。
 
心の底から楽しみたいと言う気持ちでいっぱいなのだろう。
 
今日という日は特別な日になるはずだ。
 
「あの子には緊張という言葉がないのかしら?」
 
「いや、緊張はしているだろう。ただ、それよりも楽しさが勝っている、それだけさ」
 
「そういう強さは夢月らしいですね」
 
強さか、そうなのかもしれないな。
 
僕達以上に夢月は心の強い女の子なんだ。
 
「さぁて、僕らも準備をしよう。高町さんが待ってくれているはずだ」
 
「高町さんっていうのはお父さんのお弟子さんなんですよね?」
 
「あぁ。そうか、星歌は会った事がなかったんだな」
 
「でも、名前は聞いた事があります。若手有望な指揮者だそうですよ」
 
ああいう風に自分の夢を叶えていく人間って素直に羨ましく思える。
 
僕も何かそう言うのを見つけられたらいいんだけどな。
 
 
 
僕達は準備を終えて家を出た。
 
開演まではまだ時間を残して、コンサートホールに辿り着く。
 
「……結構たくさんの人がいるな」
 
「有名な楽団ですし、お父さんも人気者ですから。大盛況、という感じですね」
 
若い人の姿もちらほらと見える。
 
音楽関係者なんだろうけど、そう言う意味では僕は少し躊躇してしまう。
 
「あれは海外の招待客でしょうか?」
 
入り口の前に外国人が何人か集まっていた。
 
「……ん?」
 
その中の1人、中年のおじさんが僕らに気づくとこちらにやってきたのだ。
 
「キミたちはもしかして、宝仙君の子供達かい?」
 
「え、あ、はい。そうですけれど?」
 
「やはり、そうか。私がキミたちに出会ったのはまだ子供の頃だったからな。私の名前はジャン。キミ達の妹である夢月を留学先で指導していた人間だよ」
 
この人が夢月の憧れて尊敬しているというジャン先生か。
 
確か父さんとは親友関係にあると聞いている。
 
「そうだったんですか。妹がお世話になりました」
 
「あぁ。今日はあの子のオーケストラデビューと聞いて来たんだ。あの子の才能は本物だ。経験さえ積めばどこまでも高みにいける力を持っている」
 
「……これからも夢月はきっと自分の道を全力で進みますよ」
 
流暢な日本語を話す彼と雑談を交わす。
 
夢月が世間でどう評価されているのかを実感する。
 
日本の同世代ではトップクラス。
 
それだけではなく海外からも注目されているとはやるな……。
 
彼が他の人に呼ばれて別れた後に星歌はくすっと微笑んだ。
 
「私達の妹は音楽という世界では人気者です」
 
「そうだな。普段は悪戯好きな女の子。でも、ちゃんと自分の世界を持っている」
 
「私は夢月を尊敬しますよ。生まれて初めて、そう言う気持ちになれました」
 
音楽にコンプレックスを抱えていた星歌もようやく夢月という存在を受け入れたんだ。
 
星歌の手を握りしめて、僕は笑いかける。
 
「星歌も負けないように自分の道を進むんだぞ」
 
「はいっ。もちろんです。あの子はいつだって私のライバルですから」
 
人にはそれぞれの世界がある。sex drops 小情人
 
もちろん、それは輝きに満ち溢れた希望の世界ばかりじゃない。
 
だが、どの道を進むのか、それを決めるのは自分だ。
 
自分の信じた道を進むという事は、望んだ世界を手に入れるという事。
 
夢月は音楽という自分の才能を、力を活かせる世界を選んだ。
 
僕も彼女を見習わないといけない。
 
「ここにいたんですか。探しましたよ」
 
「高町さん。お待たせしました」
 
僕らに声をかけてきたのは高町さんだった。
 
時間になって僕達を探してくれたようだ。
 
「星歌さんは初対面ですね。初めまして、宝仙先生の弟子をさせてもらっている高町です。蒼空さんとは先日にお会いしました。今日はおふたりを案内させてもらいます」
 
「こちらこそよろしくおねがいします」
 
彼に案内されて用意された席に向かう。
 
「ここってVIP席ですか?」
 
星歌が驚いた声で言うのも無理はない。
 
周りは有名な音楽家が座っている席なのだから。
 
先ほど挨拶を交わしたジャン先生も近くの席に座っていたので会釈する。
 
「……なんだか恐縮しちゃいますね、お兄様」
 
「まぁ、僕達も関係者と言えば関係者なんだし。気負いせずに見させてもらおう」
 
「何かあれば僕か、スタッフに声をかけてください」
 
高町さんも指揮者としてのデビューするらしい。
 
彼の出番は後半の1曲のみだが、それでもたいしたものだ。
 
「……あの、高町さん。夢月の様子はどうでしたか?」
 
「夢月さんなら、今日も朝から元気よく皆を和ませていましたよ。彼女はムードメーカー的な存在ですね。実力もあるし、初オーケストラなのに緊張もせず。すごい子だと思います。妹さんがお姉さんとしては気になりますか?」
 
「えぇ。そうですね。あの子は私の分の夢も託していますから」
 
星歌にも思う所があるのだろう。
 
本当の意味でふたりはようやく姉妹になれたのかもしれない。
 
しばらくすると、オーケストラの公演が始まった。
 
こうして、オーケストラを聴くのは初めてではない。
 
だが、日本の若手を中心にした交響楽団という事で、とても新鮮な感じを受ける。
 
夢月も一生懸命に演奏しているその音色は素晴らしくホールに響き渡る。
 
自分の父親が指揮する姿、彼がまとめた音楽は一体感に満ちていた。
 
海外からも評価されるだけのことはある。
 
「……すごいと思います。こんな風に音楽を奏でられるという事も、ひとつにまとめ上げるという事も。圧倒されます」
 
スケールの大きさ、その重厚な音色の迫力。
 
星歌もそれを感じているに違いない。
 
周囲の人間の評価もおおむね好評価のようだ。
 
自分の家族が認められているのは嬉しい気持ちになる。
 
「夢月もやるなぁ。ホント、楽しそうに見えるよ」
 
ヴァイオリンを奏でている夢月。
 
焦る事もなく、緊張している様子もない。
 
あれだけの余裕を見せられるというのも、精神力の強さもあるのだろう。
 
「それがあの子の最大の持ち味です。聴いている人を楽しませる音楽。それはオーケストラでも変わらず伝わってきますよ」
 
「……1番大切な物を見失わない限り、夢月は大丈夫だ。いい成長を遂げるに違いない」
 
ふたりで妹の華麗なる成長を喜んでいた。
 
オーケストラは無事に大盛況のまま終わりを迎えた。
 
人々の鳴り止まぬ拍手に舞台上の夢月は柔らかな笑みを見せる。
 
初めての大舞台、満足のいく結果だと言えるだろう。
 
だが、それは僕達にとっての“分岐点”にもなったんだ。
 
 
 
帰り道、僕は疲れた夢月と一緒に深紅の空の下を歩いていた。
 
星歌は両親と共に帰ってくるとコンサートホールで別れた。
 
こうして夢月とふたりで話す機会って最近は忙しくてあまりなかったな。
 
「今日は本当によかったよ、夢月。演奏も素晴らしかったぞ」
 
「ホント?私も自画自賛できる内容だったと思ってる。もっと褒めて~」
 
子供みたいに頭を撫でてあげるとすごく嬉しそうだ。曲美
 
オーケストラという仕事を終えた夢月はいい経験をしたんだろう。
 
「……何か迫力が違うよね。ほら、普段は演奏してもひとりだけじゃない。こうして皆でするとか、そういう経験なかったから新鮮で、楽しくて、とても興味が湧いた」
 
「今後はそういう道に歩むかもしれない?」
 
「可能性はあるね、ううん、そんな世界を目指したいの」
 
夢を語る彼女の瞳は輝いて見える。
 
だが、そんな彼女はふと思い出したように言ったんだ。
 
「前もこんな風に一緒に歩いて帰ったよね。ほら、夏のプールの帰り……」
 
「あぁ。そうだな、あの時は泳ぎ疲れた彼女をおぶって帰ったんだっけ」
 
「覚えている?私の留学の話をしたことを……。私、決めたの。私は留学する、自分の将来のためにまた留学したいの。今回のオーケストラで自分のしたい未来のビジョンが見えた。私は世界で通用するヴァイオリニストになりたいって」
 
その言葉に身体が震える、夢月が再び留学するという現実に。
 
何となく雰囲気でそうじゃないかと思ってはいた。
 
今日のジャン先生も、ただ夢月の様子を見に来ただけではなさそうだったし。
 
「夢月がそう決めたのなら僕は兄として精一杯応援するさ。いつ留学するつもりだ?」
 
「パパ達と一緒に外国に渡るつもり。だから、夏休みが終わると同じくらいかな。それに、私はお姉ちゃんに負けたから日本にいる理由もなくなっちゃったから。今度は自分のために夢を見たいの」
 
元々、彼女が日本に留まろうとしたのは恋のためだ。
 
僕と星歌が付き合い始めた頃から既にその話を決めていたんだろう。
 
残り1週間もない急な話だが、この話をするという事は夢月たちの準備はもう終わっているはずだ。
 
「……私は自分の目指して憧れる世界を目指すの。だから、お兄ちゃん達とは別の道を歩む事になる。でもね、兄妹だから心は離れていないってそう思いたいな。この繋がりを信じたいの」
 
いつのまにか妹はずいぶんと音楽の面だけではなく、精神的にも成長していたらしい。
 
だとしたら、僕にできる事は彼女を後押ししてあげるだけ。
 
「しっかり勉強してこい。お前の夢を掴んでくるんだ。いつか成長した夢月の姿を僕に見せて欲しい」
 
「うんっ。頑張ってくる、私の夢を手にしてくるから。大好きだよ、蒼空お兄ちゃんっ!」
 
僕の腕にしがみついてくる夢月を僕は精一杯に抱きしめた。
 
きっとそう遠くない将来、僕らの想像以上に夢月は大きく成長してくれるに違いない。
 
そして、僕達の元に再び帰ってくる日を信じて、僕は彼女を見送りたいと思ったんだ。K-Y

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