今俺は里長であるルシャさんの家の前に来ている。
「何か……素朴な感じだ」
外観は二階建ての木造コテージで、別にこの里にある他の家と特に変わった点はない。
里長の家なので他より大きいものだと思っていたのだが…………。
「僕はあまりそういうことには頓着しないからね。
普通が一番だよ、変に大きくても暮らしづらい。印度神油
三人家族にはこれくらいがちょうどいい」
「三人?」
「僕とディアナ、そして僕の奥さんでディアナの母親の……」
「セレネです」
ルシャさんの言葉に続くように家の中から出てきた一人の女性が、後の言葉を引き継いだ。
どうやらこの人がディアナの母親らしい。
見た目はディアナにそっくりで、ディアナの顔から厳しさを取って大人びた雰囲気を纏わせたらこうなるのだろうと思わせる姿だ。
「初めまして、ええっと……」
「ああ……ショウです。
一応人間の旅人で、今は不法侵入者です」
「不法侵入者? ……ああ、もしかして皆が言っていた人間の侵入者ってあなたのことですか?」
「ええ、まぁ……結構警戒されてるようですし」
「そうなんですか? 別にあなたはそんなに悪い人には見えないのだけれど」
フフフフ、と柔らかい笑みを浮かべるセレネさん。
外見こそディアナに似ているが、性格が全然違いすぎる。
本当にディアナの母親なのか疑わしくなるな。
「……フンッ!」
「おっと」
そんなことを考えている俺に、右横にいるディアナが顔面狙って左の裏拳を放ってきた。
もちろん俺はしゃがんで避けたが。
「……何すんだよ」
「貴様、今失礼なことを考えていただろう」
「そうやって邪推する方が失礼なんだぞ」
まあ、考えてたけど。
「セレネ、三人分の……いや、四人分のお茶の用意を頼む。
君も話し合いには同席した方が良いだろうしね」
「はい、わかりました」
そんな俺たちにお構いなしでルシャさんとセレネさんは話を進め、話が終わったのかセレナさんが家の中に戻って行った。
「さて、なら上がろうか。
君の今後についての話し合いはそれからだ」
そう言ったルシャさんとディアナが家に入っていくのを見て、俺もその後に続いて家に入った。
「やっぱり……中も素朴な感じだな」
家の中に入った俺が抱いた第一印象だそれだ。
別に豪勢なものがあるわけでもなく、家具などの生活に必要な調度品しか置いていない。
「人間の貴族みたいに無駄なものを置いてもしょうがないからね。
これだけあれば長命なエルフでも十分生活していけるよ」
ルシャさんの言葉からは卑屈な感情は感じられず、ただ真実だけを述べていることがわかる。
さすが、長く生きているだけあって言葉に重みがある…………何歳か知らないけど。
「それじゃあ話し合いと行こうか。
ショウ君、そこに座りなよ」
木のテーブルの周囲にある三つの椅子の内一つを指差しながらルシャさんはそう言うが……。
「あの……俺が座ったら一人あぶれちゃうんじゃ……」
「ああ、大丈夫だよ。
予備の椅子があるから」
「――そうですか、なら遠慮なく」
いらない心配だったらしい。
ルシャさんに指差された椅子に座る。田七人参
そして俺の横にルシャさん、向かいの二席のうち一つにディアナが座る。
「お茶です」
お茶を乗せたお盆を持ったセレネさんが奥から出てきて、そのまま俺たちの前にお茶を置いていく。
「……どうも」
「いえいえ」
お茶を全て置き終わったセレネさんは、そのままディアナの横にある椅子に座った。
それを準備完了と取ったルシャさんが口を開く。
「全員揃ったことだし、今からショウ君の今後についての話をしようか」
「……お願いします」
さてはてどうなることやら。
「最初に言ったけど、見張りはこのままディアナ、君だ」
「…………」
黙って頷くディアナ。
さっきから妙に静かだな。
「そしてお手伝いの件だけど、まずエルフの戦士たちの魔物討伐に君が同行するのはそのままだ。
これは構わないね?」
「ええ」
「あなた、大丈夫なんですか?
里の周囲の魔物は上級のものばかりで……」
ディアナと同じことを言うセレネさん。
しかしこちらは本当に俺の身を心配してくれていることが分かる声だ。
素直にありがたいと思える。
「それは心配無用だよ。
彼はディアナに一対一で完勝するほどの実力を持っているからね」
「そうなんですか!?」
驚いた様子で俺の顔を見るセレネさん。
「まあ、はい」
「強いんですねぇ。
それなら心配無用と言うのも頷けます」
そう言われると何か照れてしまうな。
しかし。
「…………」
ディアナの方に顔を向けるが、何かを考えているのか難しい顔をしている。
何か気になるな……。
「――――ショウ君?」
「あ、はい、すみません。
ぼーっとしてたみたいで」
ルシャさんの呼びかけで考え事をやめる俺。
今気にするべきなのはディアナじゃなくて俺自身のことだった。
「そうかい、なら話をつづけるよ。
次のお手伝いについてだけど、君は訓練を付けるのは無理だと言ったね」
「はい、俺の剣術は完全に我流ですから。
たぶんこの里の戦士たちに合わないと思います」
ディアナの剣は良く言えば基本に忠実、悪く言えば愚直に過ぎて読み易い。
そして俺の剣は良く言えば変幻自在で読みにくい、悪く言えばお行儀が悪すぎる。
完全に正反対だ。
「なら代替案として、この里の何でも屋っていうのはどうかな?」
「何でも屋?」
「そう、何でも屋。
この里の住民の頼みを聞いてそれを実行するってところかな。
こっちの方が本当にお手伝いと言えそうだけど……どうだい?」
何でも屋…………か。
こちらに他の選択肢を与えてくれるだけでもありがたいんだ。
これ以上ごねるわけにもいかない。威哥十鞭王
それに訓練を付けるよりはましだろう。
「それでお願いします。
まあモノによっては手間取るかもしれませんけど」
「それは構わないよ、誠意を持って働いてくれれば」
こうして俺のこの里でのお手伝いの内容は決定した。
「このくらいですかね、話は」
やることも決まったので、これ以上議論することはない気がする。
「いやいや、まだだよ。
君がこの里に住むのは構わないけど、家はどうするつもりなんだい?」
「あ」
完全に失念していた。
そうだ、この里に暮らすにしても家がなければ始まらない。
まさか里の中で野宿と言うわけにもいかないだろう。
エルフと親交を深めるどころか、逆に怪しい人間という印象を与えてしまう。
「どうしたもんか……」
俺が頭を抱えて唸っていると、ふいにルシャさんが俺の肩に手を置いた。
そして。
「それならこの家に住めばいい。
セレネも別に構わないだろう?」
「ええ、家が賑やかになるのはいいことですもの」
とんでもない提案をし、セレネさんもそれに賛成する。
「えっ! でもディアナが……」
正面に顔を向けるが、ディアナはただ考え事をしているだけで何の反応も示さない。
「ディアナのことなら心配ないさ。
これで監視も楽になるし構わないだろう」
ニヤつきながらそういうルシャさん。
何を企んでるんだこの人は!
「そうですよ、ディアナも構いませんよね?」
「……はい」
セレネさんの問い掛けに心ここに非ずと言った調子で返事をするディアナ。
こいつ話を聞いていないくせに。
無意識に返事だけしやがったな。
「大丈夫だよ、客間が余ってるから君の部屋の心配はないさ」
「それに作る料理の量が一人分増えたってどうってことないですよ。
むしろやる気が出てきます!!」
二人は完全にその気になっている。
「なら……お願いします」
なので俺はそう言うことしかできなかった。
一寸先は闇と言うが、一寸どころの話じゃないぞこれは……。老虎油
没有评论:
发表评论