さて、ルドルフ達の誤解も解けた。
という訳で!
一月ぶりにイルフェナに帰ります!
魔王様の説教あるだろうけど。
アル達に無駄に引っ付かれそうだけど。韓国痩身1号
まあ、今回ばかりは心配させた自覚があるので大人しくしていよう。
だって、やっちゃったものは取り消せませんからね!
砦イベントを筆頭に商人さん達が涙ながらの報告をしてると思います。
さすがの狸様も絶句しているだろうと推測。
と言ってもセシル達は物凄く面白がっていたのですが。
レックバリ侯爵……貴方のセシル像は一体幾つで止まっているんだ?
一年でここまで逞しくなったとは思えないぞ?
その点に関して『私の悪影響』で済ますのはやめてくれ。私は無実だ。
「じゃあ、帰るね。セシル達の武器ありがと」
「おう、気にするな。一般的なものだからゼブレストが関与を疑われる事も無い筈だ」
「それを徹底的に強化したから伝説の武器くらいにはなってるかも」
「はは、『絶対に折れない・切れ味が落ちない』だったか?」
「うん。折れても新しい武器を入手できるか判らないしね」
セシル達の武器は私によって魔改造が施されている。
セシルの剣は強度や切れ味を上げてあるし、エマの短剣も同様。
足止めする程度の怪我なら外交問題になることもないだろう。自己防衛の為であることに加え、セシルは王族なので向かってきた相手の方が不敬罪でヤバい。
エマはナイフ投げもするみたいなので私の魔血石付きのナイフも数本作って渡してみた。
大型の魔物とかにはこのナイフを接点に魔法を展開するという攻撃方法がとれます。かなり小さい魔血石だしナイフにも強度が無いので完全に使い捨てになるけど、備えあれば憂いなし。
余談だが私はナイフ投げができない。ダーツ程度ならまだしもナイフになると無理だった。思い通りに飛ばないし上手く刺さらないよ、あれ。
現実は甘くないですね、もう魔法一本で行こうと思います。
「ミヅキ様! これをお持ちください」
若干遠い目になった私にリュカが短剣を差し出してくる。
「ごめん、私、武器使えない」
「いえ、お持ちくださるだけでいいんです! 何かの時に役に立てば」
はて、一体どういうことだろう?
訝しむ私にリュカはやや伏目がちに告げる。
「これは俺の父親の形見なんです。十年前、親父は志願兵として戦に参加し亡くなりました」
「形見なら持っていた方がいいんじゃない?」
「……親父はルドルフ様の代になれば必ずゼブレストが持ち直すと信じていたんです。「あの方が居るならこの国は守る価値がある」と。今だからこそ俺はそれが正しかったと思います」
なるほど。
ルドルフは幼い頃から愚かな父親に見切りをつけ色々とやってきたと聞いている。
先代は全く期待されていなかったが、ルドルフは国の未来を託せるほどに信頼を得ていたのか。
それがリュカが騎士に拘った理由だろう。
騎士という職業に憧れたのではなく、父親の想いを継ぎルドルフを守る側になることが望みだったのか。
「俺はミヅキ様に騎士となる切っ掛けを与えて貰いました。今、俺の忠誠はルドルフ様に捧げられています。ですが、ミヅキ様もルドルフ様に準じて尊敬しております。お仕え出来ない分、どうぞこれをお持ちください」
「いいの?」
「はい! 何かの助けになれば本望です。親父も貴女様の役に立てるならば喜ぶでしょう」
短剣は柄の部分にゼブレスト王家の紋章が浮き彫りにされていた。
恐らくは志願兵達に配られた支給品だったのだろう。それが遺品としてリュカの手に残ったのか。
「ありがと。じゃあ、遠慮なく。代わりにこれ持ってなさい」
短剣を受け取ると代わりに万能結界付加のペンダントを渡す。
本来はセシル達が『何も出来ないお姫様と侍女』だった場合に渡す筈だった物だ。今は彼女達が守られるだけではないと知っているのでヴァルハラの腕輪を渡してある。
魔術の複数付加を施したアイテムは信頼できる相手にしか渡さないようにしているが、二人ならば大丈夫だろう。
……戦闘になったら私以上に突撃しそうな性格をしているんだもん。最初から装備を整えておきますよ。
性能の素晴らしさ以上に『ミヅキと御揃いか!』とはしゃいでいたので単なる友情アイテム扱いかもしれないが。
ルドルフや魔王様達も持っているので『異世界人製・信頼の証』とでも思っておくれ。私の愛情は効果付き。
「ペンダント、ですか?」
「服の下に付けてなさい。それ、万能結界を組み込んであるから。シンプルだから問題ないでしょ」
「ちょ、ミヅキ様!? それ、物凄く高価な魔道具じゃないですか」
慌てるリュカに笑って先程の彼と似たような言葉を返す。
「私は常にルドルフの傍に居るわけじゃない。私の代わりにルドルフを守りなさい。必要ならば盾となれ」
「……っ! ……はい! はい、必ずや盾となり御守りいたします!」
自分勝手な事を言っているがリュカにとっては最上級の信頼を見せた形になる。
それが伝わったのかリュカは感極まるとばかりに跪き頭を垂れた。
ルドルフの敵は未だ多い。だが、リュカなら期待通りの働きをするだろう。
何せリュカの忠誠は『ゼブレスト王』ではなく、『ルドルフ』という個人に捧げられているのだから。
貴族の柵の無いリュカはルドルフにとっても有効且つ信頼できる駒だろう。本人も駒となる事を当然と考える性格をしている。
『敵を倒す事』は身分的な問題もあり近衛などの仕事だろうが『盾となる者』は多い方がいい。
「一応こちらでもキヴェラの動向には気を配っておく。ただ、追っ手に関しては何も出来ないが……」
「大丈夫。保護者の目が無いからって羽目を外し過ぎたりしないから」
「うん、お前はそういう奴だよな。もう少し悲壮感とか緊迫感はないのか?」
「無い。弄ぶ未来にわくわくが止まりませんね!」
「ああ、うん……とりあえず死なない程度に頑張れ」
「勿論! どっちかといえばイルフェナでの説教が怖い」
「よく判った! 納得した!」
ルドルフだけでなく宰相様まで深く頷き納得している。そうか、同意するのかい。
……魔王様、貴方は一体外交で何をやってらっしゃるのですか?
いえ、間違いなく報告後は説教ですけどね!?
「では、そろそろ行こうか。セシルにエマ……」
「……」
「……」
「……。二人とも? カエルと戯れるのは今度にしなさい」
「む? わかった」
「残念ですわ」
タマちゃん他カエル達と戯れているのは実に微笑ましいのですが。
君達、本っ当〜に危機感ねえな? やっぱり一年間ストレス溜まりまくってたのか!?
キヴェラを出てから晴れ晴れとした表情なのは気の所為じゃなかったようです。
追っ手と交戦する可能性を話しつつ武器を渡した際、妙に目が輝いていたので二人とも殺る気なのだろうか。
「随分と懐かれていますね。確かに彼女達はカエル達を嫌悪しないのですが」
『八つ当たりとストレス解消を兼ねて交戦上等』という可能性を考えていた私に二人の様子を眺めていたセイルが微妙な表情で言う。
……うん、言いたい事は判る。誰もが口に出さないだけだよね。
姫様方よ……君達、カエルを食料扱いしてなかった?
祖国に戻ってからの食糧事情は大丈夫ですか?
「お帰り、ミヅキ」
転移方陣を抜けた先には笑みを湛えた魔王様。
お迎えに来るなんて聞いてませんよ。いえ、城のすぐ近くなんですけどね?
ル〜ド〜ル〜フ〜? 魔王様に直接連絡入れやがったな、何を言った!?
「じゃ、行こうか。とても心配だったから早く話が聞きたくてね」
……。
なるほど、それほど心配させたわけですね。
『さっさと行くぞ、この問題児。問題行動が多過ぎて生きた心地がしなかったと商人達から聞いている。やらかした事を洗い浚い吐け』(意訳)
本音はこんな感じでしょうか、魔王様。
笑顔が何だか怖いです。
「随分心配されているな。すまない、我々の為に」
「とても危険ですもの。本来ならば反対するのが当然ですわ」
セシル、エマ。
方向性は間違ってないけど、そんなに一般的な感覚の持ち主なら『魔王』なんて呼ばれない。
「ミヅキ?」
「……帰って来れたという実感が湧きまして」
「そう」
色々な意味でな。
ところで魔王様。小さな子にするみたく手を引くのは逃げないようにする為ですよね?
……。
親猫様ぁぁぁっ! 少しはアホな子猫を見逃してくださいぃぃぃっ!
品がよく、おりこうな血統書付きではなく本能で生きる雑種です。感情で生きる珍獣なんです!
「ああ、二人はレックバリ侯爵の所へ行ってあげてくれ。随分と心配していたから」
フォロー要員まで遠ざけられたー!!
せ……先生に期待しよう。あの人も今回は共犯だ。
そんなわけで現在、騎士寮の食堂です。
ここに居る人達は事情を知っているということだろう。白黒騎士は全員居るみたいですが。
王族である魔王様が居るので仕事扱いです。サボリに非ず。
「で。随分と色々やったみたいだね?」
「えー、向こうが冗談みたいな状況でして。多分、王太子とその後宮に働く連中のみですが」
「ほう」
うん、それ以外言えませんねー。誰だって信じないよ、あの後宮の実態。
さすがに王太子が残念な奴だとは知っていたみたいだけど、予想の斜め上を行く事実に誰もが言葉も無い。
ちなみに人数分コピーされた報告書が全員の手元にある。全部読んでも俄かには信じられないだろうな、あれは。
……ああ、やっぱり皆微妙な表情になっている。エリート騎士だもんね、君達。
「キヴェラ王は何をやっていたんだろうね」
「あ、国の上層部はまともっぽかったです。単にこれまでの伝統とか今後継承権争いが起こる事を想定して動けなかっただけかと」
「弟二人はまともな筈だけど」
「いえ、次の代だけじゃなくて今後。あと、王太子を『一途な王子様』に仕立て上げているから民からの反発も予想されます」
「なるほど。誰もが納得する廃嫡の決定打が無かったわけか」
さすが王族、一応そこら辺に理解はあるらしい。
尤もイルフェナではそんな真似が許されないので自害か廃嫡・幽閉させられそうだ。
公爵家以上に王族の責任は重いだろう。
「よく神殿へ侵入できたね?」
「警備兵が居ませんでした。横領の証拠を見るかぎり警備費をケチってたみたいです」
「後宮へは……」
「侍女の案内で普通に抜け道から入れました。姫が与えられてた部屋って物置に見せかけた隠し通路の入り口だったみたいです。家具が殆ど無いのも入り口発見に繋がったと思います」
「じゃあ、冷遇の証拠入手はどうやった?」
「侍女服着て顔が正しく判別できなくなる魔道具装備したら普通に仕事に混じれました」
「民へは証拠映像を流しただけかい?」
「噂話に混じりつつ、王太子黒幕説を流して批難を王太子に向くように情報操作しましたが」
「……」
イルフェナではありえない実態の数々に魔王様は頭を抱え沈黙した。
『いや、ちょっと待って、それありえないから! つか、おかしくね!?』という感じでしょうか。
気持ちは判りますよー、魔王様。誰もが通る道ですからね、それ。イルフェナでやらかしてもキヴェラと同じ事態にはならないだろう。
「ミヅキ、貴女の事をキヴェラが問い合わせてきたのですが」
「ああ、それ。逃亡した姫を探して騎士達がうろついてたから『王太子妃の予算の横領の可能性』を教えてあげたの。上層部が王太子妃への異様な冷遇に気付かない可能性ってそれしかないでしょ」
「なるほど。一般人はそんな考えを持ちませんからね。で、目的は?」
「迂闊に指摘する私を『未熟な魔術師』と印象付ける為、問い合わせさせて確実に疑いの目を逸らす為、そして周囲の人達に『諸悪の根源は王太子』と認識させつつ噂を更に広める為かな」
アルの質問にも淀み無く答えますよ。全部計算してやってましたからね!
「で、お前はそれを何処でやった?」
「人の多い酒場。情報収集してる人達が沢山居たからよく広まったと思うよ?」
にやり、と笑ってクラウスの問いに答えるとアル共々苦笑した。どうやら『問い合わせ』が来た時点で何か派手な事をしたと思っていたらしい。
ああ、ついでだからこれについて聞いておこう。
「クラウス。この『誓約』って解除したら術者にバレたりする?」
ぴら、と差し出すのはセシルと王太子の婚姻の誓約書。セシルの名前は抜いたけど紙には未だ魔力が篭っている。
クラウスは受け取ると暫し内容を確認し……何故か顔を顰めた。
「おい、これ変だぞ。姫の名前が無い」
「あ、セシルの名前は抜いちゃった。誓約に縛られちゃうんでしょ?」
「はぁ!?」
さらっと言ったらクラウスだけではなく黒騎士全員が驚愕の表情になった。
あれ? 何かマズイことでも?
「抜いた、だと……? どうやって?」
「え、転移の応用でサインを他の紙に移した。文字じゃなくインクと捉えれば可能でしょ?」
「……。普通は無理だ」
「え、そうなの!?」
意外な事実判明です。悪戯の技術が黒騎士にもできないとな!?
「いいか、こういった魔術が掛けられている物は重要なものばかりだ」
「うん、それは聞いた」
「だからこそ『簡単に解けるようにはできていない』。いや、『解呪せずに無力化する術が無い』んだ。解けば術者には判るようになっている」
おお! 言われてみれば確かに! あったら困るな、そりゃ。
ぽん、と手を打って納得すればクラウスは深々と溜息を吐いた。
でも手は誓約書をしっかり握っています。お前達の玩具じゃないからな、それ。
「私の世界だと不可能とは言い切れないから気付かなかった! それ、ゼブレストで悪戯の為に開発したんだよ」
「悪戯……」
「うん。偽物の手紙製作に使った。そっか、誓約そのものを解除するわけじゃないから『術はそのまま、名前が消えた人だけ誓約から免れる』って状態なんだ」
随分と器用なことをやらかしていたみたいです。
重要だったんだ……サイン消した、くらいにしか思わんかったぞ。
「ちなみに誓約のやり方って?」
「基本的には『行動の制限』の魔術に条件を組み込む。その段階で対象者の血を一滴認識させる。これで個人が特定される」
DNA判定みたいなものだろうか。よく判らんが。
でも確かにこれなら偽造は出来ないね。
「次にその魔術を紙に定着させる。これで誓約書の完成だ。後は認識させた人物に承諾のサインをさせればいい」蔵八宝
「紙に魔力があるんじゃなくて紙に魔術を定着させてたのか。それは承諾のサインがあって初めて完成?」
「ああ。二度手間だが確実に本人を特定する為には仕方ない。別人がサインすれば拒否されるからな」
あれですか、婚姻拒否の家出でもされて本人が居ない時の替え玉阻止か。
確かに誓約は『絶対に逃げられない状況のみ』使われるものみたいに聞いたけど。
ここまでされると逃げられんよなぁ、普通。セシルが助けを求めたのも理解できるぞ。
「マジで呪いじゃん……解呪するしか破棄できないでしょ、それ」
「そういうことだ。おそらく宮廷魔術師が関わっているだろうから誓約は解けていないと思われているだろう」
ほほう、良い事聞いた。つまりこのまま持っていれば誓約書が見付からなくても誓約の効果ありと思ってくれるわけか。
つまり『一度は完成してるから術はそのまま続行・セシルは誓約から除外された状態』ってことですね。
よっしゃ! あいつはコルベラに姫が現れるまで絶対に王太子のままだ!
誓約がそのままな以上、有効な駒をキヴェラ上層部が手放すとは思えん。元凶という事も含めパシリに使われるぞ、絶対。
寧ろそれしか使い道が無ぇ!
もうセシルに対して効果が無い事を知っているだけに大笑いな展開ですね……!
「お前が規格外だとは思っていたが、技術だけでなく発想も非常識だな」
深々と溜息を吐くクラウスに黒騎士達は深く同意する。
褒めてるのか貶してるのか判らないぞ、職人ども。
……だから誓約書を手放せ、懐に仕舞おうとするな、帰ってからなら幾らでも実演してやるから!
「しかし、妙ですね。国が揺らいでいるからといってキヴェラ王にしては動くのが遅過ぎます」
「追っ手のこと?」
「ええ。旅人全てを拘束する事はしないでしょうが、騒動の犯人を容易く逃すとは思えません。他国に要請も出ていないとは」
「砦を落とされた事実がバレることを警戒してるからだと思うよ?」
「……え?」
難しい顔をしていたアルは一瞬呆けたような表情になり。
「うわ!?」
即座に私を捕らえて自分の膝の上に確保した。隣に居たからって素早過ぎだぞ、アル。
背凭れの無い簡易の椅子なので猫を抱き抱える如く、ひょいっといきました。
一気に拘束モードです。……覚悟してたけどね、うん。
「ミヅキ、素直に答えてくださいね? 何が、あったのですって?」
「ゼブレスト国境付近の砦が数人の復讐者によって落ちた」
「……で。事実はどういったものでしょう?」
信じてねぇな! 当たり前だけど。
若干引き攣った笑みが怖いですよ、アル。
何時の間にか魔王様や騎士達も無言でこちらをガン見してるし。
「えーと……先生との共同作戦で追っ手の質と数を落とす為に」
「落とす為に?」
「キヴェラへの復讐者を装って砦を無力化してみました。重傷者・死者共に無し、しかも今後他の砦を狙う事を仄めかしてあるから国の上層部が対応に追われていると思われます」
ね、と傍に控えていた先生に視線を向ければ『うむ! よくやった!』とばかりに頷き親指を立てる。
師弟の共同作戦ですよ。罠を追加するって事前に言ってたじゃないか。
「ちなみに通称・砦イベント。証拠映像を見た姫達にも大受けしました」
「砦……いべんと?」
「映像編集技術に感激される娯楽です。楽しく砦を無力化」
『娯楽って何!? 砦陥落は娯楽じゃねぇっ!!』
絶句した皆(一部除く)の心の声がハモった気がします。でも私がやったのは『裏方』『演出』『役者』なので娯楽で間違ってません。それに砦の兵士の皆さんも役者さんですが、何か?
まあ、見て貰った方が早いので冷遇の証拠映像から一通り流してみるか。
「では、キヴェラで起きたセレスティナ姫への冷遇の実態から砦イベントまでを御覧下さい。詳しくはお手元の解説書(パンフレット)に明記されています。質問は終了後にどうぞ」
言葉と共に固まったアルの腕から脱け出し魔道具その他を準備する。
この食堂、寮に生活するのが白黒騎士だけなのでちょっとした説明会にも使われるのだ。つまり大型スクリーンもどきがあったりする。
若干透けていようが大画面って良いですね! 迫力が違いますよ!
……そんなわけで一通り妙なタイトル付きの証拠映像を見た皆様は。
ある者は絶句し、ある者は頭を抱え、ある者は遠い目となり。
さらに約一名は『でかした! それでこそ私の弟子だ!』と大絶賛。期待に応えられて何よりです、先生。
気持ち的には大真面目に復讐者対策をしているだろうキヴェラの上層部を『あっさり引っ掛かってやがる! ざまあっ!』と嘲笑いたい心境ですね!
「……ゴードン? 君は知っていたのかい?」
「ええ。ミヅキも『罠を追加する』と言っていたではありませんか」
「だからって……だからってねぇ……! 止めなさい、幾ら何でも」
「死者も重傷者も居ませんよ、魔王様ー。目が覚めるまで一日放置されてただろうから風邪くらいひいてるかもしれませんが」
「兵士なのだからそんな軟弱者などいないだろう。気にせんでいいと思うぞ?」
「なら弄んだだけですね。問題無しです、先生」
「うむ!」
「いや、大有りでしょう!?」
「お前、出かける前に楽しそうに計画してたのはこれなのか!?」
「うん」
「「お前は一体何しに行ったんだよ!?」」
煩いぞ、騎士s。絶句から復活したら即突っ込みかい。
魔王様もいつもの天使の笑みを忘れて焦り・呆れ・脱力と大変忙しそうですね。
やだなぁ、理由はちゃんと説明してあるじゃないですか……個人的な感情が多分に含まれてますが。
それにしても今回は珍しいもの見たな。後でルドルフに教えてやろうっと。
「あの手紙が来た時点で諌めておくべきでしたね」
「諌めたくらいで聞くのか、こいつが」
「少なくとも我々の心境的にまだ救いはあったかと」
「ああ、自分に対する言い訳か」
アルやクラウスも諦めモードで話している。
二人とも、過去は変わらないんだぞ? 少しは前向きにだなぁ……
「その原因の君が言うんじゃないっ!」
「痛っ!?」
ぺしっ! と魔王様に問答無用で頭を叩かれ威圧と共にお説教が開始され。
妙に怖い笑みのアルに逃亡阻止の意味で膝の上に固定され。
クラウスに呆れと諦めと技術に対する期待の篭った視線を向けられ。
騎士sや白黒騎士達が頭を抱えていようとも。
私は反省なんて全然、全く、これっぽっちもしていなかった。
目指せ、キヴェラの災厄! 歴史に残る魔導師!VIVID
偉大なる魔導師の先輩方、私は遣り遂げてみせますよ!
――一方その頃、レックバリ侯爵邸では――
「……」
「……」
「いや、物凄く見事だったのですよ。ミヅキの手腕は」
「あれほど簡単に脱出できるとは思ってもみませんでしたわね」
騎士寮で繰り広げられる阿鼻叫喚の地獄絵図――心理的なもので体に被害は無いのだがダメージがでかい――の縮小版ともいうべきことが起きていた。
取り乱していないように見えるのは映像を見ている二人が侯爵と長年付き従った執事という年齢的に枯れた二人だからである。
単に若さが無いだけだ。
「な……何と大胆な……」
「これは……その、予想外といいますか、予想以上と申しますか……」
ある程度の事には表情に出す事なく受け流せる二人が絶句。
姫の冷遇やキヴェラの騒動もそれなりに唖然としたが、まさか逃亡の為と個人的な感情から砦を落とすなど誰が予想するだろう。
発想からして普通ではないと知っていても物には限度というものがある。しかも娯楽扱い。
解説書を見る限りその理由というか考えの深さが知れるが、何故ここまで凝るのだろうか。
普通に考えて『娯楽が本命』と言われても仕方あるまい。現に姫達は物凄く楽しげだ。
「姫……随分と楽しそうですな」
呆れと疲れを滲ませつつレックバリ侯爵が言葉をかければ、侍女と顔を見合わせ楽しげに笑う。
「この一年、王族の勤めと割り切っても自分で思っていた以上に辛かったようだ。今だからこそ思うことだが」
「私達は報復などするわけには参りません。ですから、ミヅキの起こす騒動は胸がすく思いなのです。こう言っては何ですが、彼女が我等の為に怒ってくれた事がとても嬉しいのですわ」
「そう、か」
「ああ。個人的な目的の為だけならあれほど派手な事はしないだろう。今こうして笑っていられるのもミヅキのお陰だ」
王族の姫があのような冷遇をされ続けるなど屈辱以外の何者でも無い。それはそのままコルベラという国への見下しに繋がるからだ。
気楽に暮らしていたと言っても怒りは募っていたのだろう。そう侯爵と執事は結論付け、改めて二人の境遇を痛ましく思った。
そのまま国へ戻ればそれらの感情は国へ伝染しただろう。滅亡覚悟でキヴェラに一矢報いようとするほどコルベラという国は民と王族の距離が近いのだ。
姫の婚姻も最終的には納得したが、姫本人が説得したに違いないと思っている。
だが、と侯爵は楽しげな二人を見てその予想を否定する。
今の二人を見る限りその心配は無いだろう。逃亡生活とはいえ『楽しい』という感情は事実、しかも既に十分な報復は成されているのだ。
「そういえば……ミヅキ様は『この世界で傍に居てくれる人以上に大切なものなんてない』と仰っていましたね。もしや姫様方やコルベラの民の反応を見越してくださったのでしょうか」
「確かにその可能性はあるの。やっている事は随分と派手だが、それら全てに納得のできる理由がある。現にキヴェラも未だ身動きが取れぬようじゃからな」
「『ゼブレストの血塗れ姫』と呼ばれるのも親友であるルドルフ王の策に協力なさった故。あの方は友の為ならば御自分の評価など気になさらないのでしょう」
しみじみと頷き合う侯爵と執事にセシルとエマは首を傾げる。
「『血塗れ姫』? ミヅキが、か?」
「正直、想像つきませんね。確か砦の兵士も死者や重傷者はいなかった筈ですが」
「うむ……少々意味が異なるのじゃよ。殺戮を好むのではなく『己が策の果てにどれほど処罰される者がいようとも容赦せぬ』という方針でな」
「ゼブレストでの粛清騒動に関わっているのです。かなりの数の家が粛清対象になりましたから」
「恐らく今回は王太子だけでなく国に責任を取らせるつもりなのじゃろう。殺すだけなら王都で魔法を連発すれば済むからの。その実力もあるじゃろう、あの娘には」
なるほどと納得する二人にミヅキに対する嫌悪や恐怖は感じられない。それだけ立場というものを理解しているのだろう。
尤も今回は『責任を取らせる』という対象が国である以上、キヴェラにとっては少なくない被害が出るのだが。
溜息一つで言葉を飲み込みレックバリ侯爵はひっそりと目を伏せる。
「二人とも。……ミヅキの良き友であれ。それが唯一にして何よりの礼となろう」
――あれでは敵も多かろう。護り手は多い方がいい――
本音を胸の内で呟く侯爵に二人は躊躇わず頷く。
「勿論ですわ。私達もそう望むのですから」
「小国といえども王族だ。ルドルフ王やエルシュオン殿下ほどの力はなくとも国が関わらぬ限り味方でいよう」
そう淀み無く口にする二人に侯爵は笑みを浮かべると、執事に合図を送りやや冷めた茶を新しいものと取り替えさせた。
「そうか。……さて、久しぶりに茶を楽しもうではないか」
漂う香りはかつて侯爵の友が好んだもの。茶葉はこの一時がこれからの逃亡生活の慰めとなってくれればいいと用意されたものだ。
目の前の姫が尊敬を向ける先代コルベラ王もこういった時間を好んでいたと思い出し、侯爵は暫し過ぎし日に想いを馳せる。
「そういえば、まだ言っていなかったな。お久しぶりです、『もう一人の御爺様』」
「御無沙汰しておりますわ、『先生』」
(この笑顔を守ってやれたのなら、あの娘のやる事全てを支持してやろう。親猫達が煩そうじゃがな)
そんな決意は誰にも悟られる事無く。おそらくは説教をされているだろうミヅキを思い、レックバリ侯爵は笑みを深めた。強力催眠謎幻水
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