「こ……こ?」
お母さんが書いてくれた簡単な地図と、目の前にある表札を見比べてあたしは声を漏らした。
表札には「三嶋」と書かれているし、住所も号室も間違ってない。
本っ当にここに慎がいるんだよね? まさかあのおじさん、別のところに行ってたりしないよね? そうだったらあたしのこの苦労は何なんだ……っ!御秀堂
養顔痩身カプセル
いや、いくら何でもそこまでひどくはないだろう。
とにかく居るかどうか確かめないと。
こくんと唾を飲み込んで、あたしは指を伸ばして、インターフォンのボタンを押した。ピンポーンとありきたりな呼び出し音が鳴る。
『はい?』
「あ……春日です」
『やあ美晴ちゃん、思ったより早かったね』
そりゃあ、おじさんに倣ってルール違反しましたから。
『千鶴にでも教えてもらったのかな?』
あ、ばれてる。
「それより慎は……っ!」
『慎なら寝てるけど』
寝て、る……?
このおじさん、息子が寝てる間に息子の携帯勝手に触ったのか……っ!
いくら実の親でもそれは駄目だろう、とこっそりため息をつく。
でもおじさんはそんなことちっとも気にしてないみたいで、気軽に「入る?」だなんて言ってきた。……入ってやろうじゃないか。取り返しにおいでって言ったのはおじさんなんだし。
拍子抜けしちゃうくらい簡単におじさんはあたしを家に上げてくれて、あたしは前を歩くおじさんを警戒しながら廊下を歩いてリビングに入れてもらった。
何て言うか……びっくりするくらいに、生活感のない家だった。アットホームな雰囲気だらけのうちとは大違いだ。
「慎!?」
リビングにはソファがあって、そこで寝ているのが慎だということが分かってあたしは思わず声をあげてしまった。
朝見たままの姿で、慎がソファで座ったまま、寝てる。倒れちゃわないのかな、と思ったけど、上手い具合に肘掛けと背もたれに支えられていて倒れる気配は全くなかった。かけられているブランケットは、おじさんのなんだろうか。
すーすーと寝息を立ててる慎を見るのは、もしかしたらこれが初めてかもしれない。
慎はほとんど平日は毎日あたしを起こしに来てくれてるけど、あたしが慎を起こしたことはない。悲しいかな、これが寝起きの良さの違いだ。慎は人に起こしてもらわなくても、自力で起きようと思った時間ぴったりに起きることができているから。
初めて見た慎の寝顔。
あ、やっぱり寝てる時でも慎ってお母さんに似てるんだなあ。
おじさんと並べて見ても、ちっとも似てない。
「美晴ちゃん、何か飲みものでも?」
「あ……いえ、お構いなく」
何となくこのおじさんと二人で何か飲み物をすするのは気が重い気がしたから、断っておいた。一番最初におじさんと話をしたのも、飲み物を飲みながらだったし。まああの時は慎がとんでもないやり方で話を中断させたんだけど……。
――あれ?
ちょっとした、違和感。
そう言えばあたしは、知らないことが多すぎる。
どうしてお母さんとおじさんが離婚したのか知らない。
どうしてお母さんが慎の親権を持つことになったかも知らない。
親権はお母さんにあるのに、どうして慎が未だにあたしのお父さんとの養子縁組をしないのかも知らない。
それから、どうして今になっておじさんが慎を家に連れ戻そうとしてるかも、知らない。
本当に知らないことだらけだ。
あたし、これで慎の……か、彼女だって、胸張って言うことができるのかなあ。
あれー? これはちょっと……なんて言うか、ぐさっときたぞー?
勝手に勘ぐって勝手に落ち込むあたしを見て何を考えたのかは分からないけど、おじさんはあたしを手招きしてソファに座らせた。慎のことを気にしたあたしだったけど、結局促されるまま座ることになる。……寝てる慎の、隣に。
あたしと慎の向かいに座ったおじさんは、にこにこと笑ってあたしを見た。
おじさんの本性を知らないあたしだったら愛想笑いくらいしてみせただろうけど、あたしはもうおじさんが見かけ通りの人じゃないって知ってるから、ここで愛想笑いができるほど大人じゃない。だから目をそらさずに、にこにこ笑ってあたしを見てるおじさんを見つめ返した。あたしの中でおじさんは「敵」に分類されてるから、きっとその時のあたしの目つきは剣道の試合中と同じくらいだっただろう。
「――良いね、その目」
「へ?」
「『あんたなんかに負けるもんか』……目がそう言ってるよ、美晴ちゃん。さしずめ僕は恋の邪魔者というところかな?」
「……おじさん、一つだけ訊いても良いですか?」
あえておじさんのふざけた言葉には答えずに、あたしは不躾に質問をぶつけた。
おじさんは年齢に似合わず、可愛らしく目をぱちぱちとした後で、口元に笑みを浮かべた。
「どうぞ?」
あたしは知らないことが多すぎる。
全部知りたいけど……でも、今は、これだけは訊いておかないと、という質問だけを口にすることにした。
「どうして、慎を連れ戻そうとするんですか?」
こういう言い方は悪いかもしれないけど、慎はもう高校生だ。幼稚園児や小学生ならともかく、今更父親と暮らし始めたって、特に何も変わるところはないと思う。高校生の息子とかって、父親には素っ気ないものなんじゃないのかな?御秀堂養顔痩身カプセル第3代
またしてもあたしの不躾な質問にも、おじさんは笑顔を変えなかった。
「単純な、理由だよ」
にこ、と笑って。
それから、ぴたりと笑うのをやめてあたしをじっと凝視した。
「……な、何ですか……?」
「君は……どうして僕と千鶴が離婚したと思う?」
そんなの、知らない。
それはお母さんとおじさんの個人的な問題だ。確かに慎はそれに関係があるかもしれないけど、お母さんの再婚相手の娘であるあたしには、そこまで立ち入る権利はないと思う。もしあたしだったら……いや、離婚とかではなく。そんな大きな問題でなくとも、自分っていう個人的な領域にまで踏み込まれるのは嫌だ。
「美晴ちゃん、たった五歳の子供が、両親のいない家で夜を過ごすのをどう思う?」
にこりともしないまま、おじさんが淡々とあたしに訊く。
おじさんの質問を頭の中で繰り返して、あたしは黙り込んだ。
たった五歳の子供。
そう言ったって、あたしだってそれくらいの時にはもう本当のお母さんは亡くなってたから、お父さんと二人きりだった。弁護士だったお父さんは、その前からも、忙しい依頼が舞い込んだら事務所に泊まり込んで帰ってこないことも多かった。だからあたしも小学生の頃は、家に一人だった。お父さんはあたしを心配してよく電話をかけてきたけど、あたしはそれがそんなに辛いとは思わなかった。少し、寂しかっただけ。
「僕はね、千鶴に仕事を辞めて欲しかったんだ。……僕は自分の仕事を辞めたくない。千鶴もカメラマンとしてのプライドがある。結局そうやってお互いが譲らなかったから、慎はいつも家に一人だった」
ちらりと眠ったままの慎におじさんとあたしは視線を向ける。
優しくて、暴力的なところなんてどこにもないし、気遣ってくれる、童話の中の王子様みたいな人。
料理だってあたしなんかよりよっぽど上手かったから、小さい頃から自分で作ってたんだろう。
あたしがもし慎の母親だったら、慎に注意することなんて一つもなかったかもしれない。
「……昔から奇妙なくらい物わかりの良い子だったよ、慎は」
成績だっていつも良いから、先生に成績のことで怒られることも、素行について注意されることもなかった。
女の子には優しいから好かれるし、スポーツが出来て、冗談言ったり面白いところもあるから、男の子の友達だって多い。
でも。でも……それは。
「一度、慎に訊いたことがあった。『父さんと母さんが家に居た方が良いかい?』ってね。そしたら何て答えたと思う?」
どう思う、って。
さっきから何度もおじさんはあたしにそう言ってるけど。
あたしはそれに答えられなくて。
「七歳の子供が。まだ小学校の低学年だった子供が、『大丈夫だから、ぼくより仕事を優先して良いよ』って、笑って言ったんだ」
ぼすっとソファの背もたれに沈み込んで、おじさんは天井を見上げた。
「大人は、大人の勝手で物事を考えてるって思われがちだけど、違うんだ。僕も、千鶴も、慎が可愛くなかった訳じゃない。ただ……ただ、物わかりの良すぎる慎に甘えて、子供の気持ちを考えてあげられなかった」
自分を責めるようなおじさんお言葉を聞いていると、慎がものすごく可哀相に思えてくる。
でもそれって、本当にそうなのかな?
確かに慎は物わかりは良い気がするけど……でも、何も百パーセントおじさんとお母さんのせいだとは思えない。
「それから、僕と千鶴はたびたび口論するようになった。……慎のことでね。カッとなって千鶴に手を上げたことがあって……慎が、怒った。あの子の怒ったところを見たのは、それが初めてだったよ。あの子は、口論の本当の理由を知らないから、きっと僕が千鶴に暴力を振るったから離婚したんだと、今でも思ってるだろう」
よくこれだけ第三者が話してる横で眠られるな、と慎の顔を見る。
あたしも、慎が本気で怒ったところはちょっとしか見たことがない。
当の本人が眠ってる間にこんなに聞いちゃって良いんだろうか。
あたし……こういうのは、何か嫌だな。
ちょっと、後ろめたい。
「離婚した時、慎は千鶴についていくと言った。離婚後も、慎は僕が千鶴に近づくのを許さなかった。……まあ、手を上げたのは、僕だからね。だけど僕は――――」
「――べらべら喋りすぎです、あなたは」
「!」
あたしがびっくりしてもう一度慎の顔を見ると、慎がうっすらと目を開けるところだった。
眠たそうに目を擦って、首を動かす。
「やあおはよう、慎」
さっきまでちっとも笑わなかったくせに、慎を見ておじさんはにっこりと笑った。
「慎、いつから起きてたの!?」
「ちょっと前……。だいたいこんな話し声の中で寝ていられる訳が……。…………まさかとは思いますが、俺に変な物飲ませたりしてませんよね?」
「何のことかな? 言った通り、毒なんて入れてないよ?」
「ふざけないで下さい。……あなたが入れた紅茶を飲んでから……眠くて……」
慎らしくなく、まだ眠たそうに何度も瞬きをする。
「おじさん!?」
あたしはキッとおじさんを睨み付けた。
おかしいと、思ってた。
だって慎は、ちゃんと睡眠を取ってるから、こんな風に寝ちゃったりしない。
「僕不眠症でねー。大丈夫、問題はない筈だよ。医者に処方してもらったものだから。……だって君、こうでもしないと僕の話聞かずにさっさと帰ったでしょ?」
「……あなたって人は……患者はあなたであって俺じゃない」
「まあまあ良いじゃないか。そのおかげで美晴ちゃんがこうやって迎えに来てくれたんだから」
「あ……そう言えば美晴、何でここに?」
今気付いた、という顔で慎があたしを見た。
あたしは思わずそっと視線をずらしてしまった。だって、勝手にこんなところまで来て、慎の小さい頃の話聞いたなんて、何か、ちょっと……。御秀堂養顔痩身カプセル第2代
「僕が呼びだしたんだ。慎を返して欲しいなら取り返しにおいで、ってね。そのついでに色々話していた訳さ」
おーじーさーーん!
何でそうさくっとばらすかな!
「あ、いや、えっと……その、ちょっと、心配で」
しどろもどろになりながらそう言い訳する。
慎が今どんな顔をしてるのか見るのが何だか怖くて、あたしは視線を逸らしたままだった。同じ家で暮らし始めた頃と違って、最近の慎は色んな表情を見せてくる。熱っぽい表情とか、怒った表情とか。もしかしたら今、怒ってるかもしれない。
そーっと、視線を戻して。
慎を見たら。
「……普通、お迎えにあがるのは俺の役目なのに」
――そう言って笑った慎が、少し照れくさそうで。それでいて、嬉しそうで。
あたしとおじさんは、不覚にもその笑顔を見て固まってしまった。
慎はいつも大抵優しい笑顔だけど、こんなに嬉しそうに笑うことは少ない。嬉しそうな笑顔を見せてくれた原因が、あたしの言葉だって思ったら、その途端にドキドキが止まらなくなって、あたしまで嬉しくなった。
余計なお節介かもしれないと思ってたのに、慎が笑ってくれた。余計なお節介なんかじゃない。もう少し立ち入っても良いって、言われたみたいだ。
もう一歩。慎の、心の中に。
ただ同じ家で暮らしてるだけの家族じゃ、絶対に立ち入れないところまで。
「僕は……負けた、のかな?」
くすくすとおじさんが面白そうに笑った。あたしをからかってる時のような笑い方じゃなくて、ずっと浮かべてるだけの偽物っぽい笑い方でもなくて。
はーっと長いため息を漏らすおじさんに、立ち上がりながら慎が声をかける。
「……あなたのやり方は好きじゃない。何年も前から……あなた、俺に構い過ぎです。俺はもうそんなに子供じゃないんですから、子離れして下さい」
言い方はただ単調に話しているみたいだったけど。
それでも、初めてあたしがおじさんに会った日みたいに、刺々しいところはなくて。
「だけど僕は……僕は、君が好きで仕方なかったんだ」
さっき言いかけて慎に止められた言葉を言ってるのかな。
おでこに手を当ててそう言ったおじさんは、何だか満足げだった。
慎の方に視線を向けると、慎と目が合う。
あたしはそんなに物言いたげな顔はしてなかった筈だけど、慎は「分かったから」とでも言いたげにふっと肩の力を抜いて。
「……たまになら、食事くらい、付き合っても良いですけど。……『父さん』」
照れくさいのか、ちょっととがった口調でそう言った。
「慎ーっ!」
顔を上げたおじさんが嬉しそうな笑顔でがばっと慎に抱きつこうとする。それをするりと避けて、慎はほっぺたを少し赤くして叫んだ。
「だから、俺はあなたのそういう所も嫌いなんです! ちょっとは反省して下さい! 美晴、もう帰ろうっ!」
「え、良いの?」
「良いよ、どうせ、父さん開き直りと立ち直りにかけては人一倍早いんだから」
ぷいと顔を背ける慎は、いつもの大人びた慎と違って、可愛いかもしれない。
慎に繋がれた自分の手を見て、あたしは思わず吹き出して笑ってしまった。
「何?」
ずんずんと廊下を進みながら、慎が肩越しにあたしを見る。
「……何かちょっと、おじさんが慎を構いたがる気持ちが分かったかも」
笑い続けるあたしを見て、慎は不可解そうに眉をひそめた。
「美晴ちゃん、慎が嫌いになったらいつでも連絡して。僕が傷心の慎を連れ去るから」
そう、リビングの方からおじさんの声がして。
あたしと慎は顔を見合わせて、同じタイミングでおじさんに返事をした。
「「しません!」」
靴を履いて玄関から外に出てドアが閉まるその直前に、おじさんの楽しそうな笑い声が聞こえた。韓国痩身一号
没有评论:
发表评论