2013年1月27日星期日

カフェ・デート

初夏を迎えた。
 ミレが王宮に上がりだいぶ日も経って、そろそろ家が恋しくなってきたある日の午後――予告なく、アーティスが部屋を訪ねてきた。
 ミレはちょうどユアンのもとへ赴くために身支度を済ませたところで、ビスカは後片付けの最中、闇騎士と聖職者は待機、あとの者は不在だ。VIVID XXL
「こんにちは、ミレ殿」
 相変わらず、胡散臭い愛想のよさでアーティスが入室してくる。
 貴族服ではない。平服だ。
 さすがに生地や縫製は上等だが見ためはかなり地味だ。髪型もラフで、装飾物はおろか、剣も帯びていない。そのためか、いつもよりだいぶ若く見える。
「……」
「……こらこら、そんな珍品でも見るような眼で見るんじゃない」
「……」
「なんだ、なにが言いたい?」
「地味です」
「お忍びで出かけるんだ。控えめなくらいでちょうどよかろう。それともなにか? 君はこんな地味な男の隣を歩くのは嫌だというのかね?」
 なんで私の意見が必要なのだろう?
 そう疑問に思いながらもミレは正直に感想を述べた。
「地味ですがシンプルでいいと思います。いつもの華美な恰好より好きです」
 するとアーティスはなぜか少し焦ったように顔を上気させた。
「そ、そうか、好きか。なるほど、君はシンプルな装いを好むのか」
 ミレの服装の好みなどどうでもいいだろうに、アーティスはまじめくさった調子でブツブツ言っている。たまりかねて訊く。
「なんの用ですか」
「デートの誘いに」
「誰を」
「君を」
「お断りします」
 速攻辞退すると、眼の前で、ピクリとアーティスの頬の筋肉がひきつった。眼に剣呑な光が射す。一段低い声が地を這う。
 危険な微笑を浮かべながらアーティスが言った。
「……そう言うと思ったよ。じゃあ選びなさい。気絶するまでキスして欲しいか、それとも私と一緒に虹パフェを試しに行くか」
「……虹パフェ?」
 今度はミレの頬の筋肉がピクリと反応した。
 アーティスが声に弾みをつけて、身振り手振りをまじえて、説明する。
「七種類のアイスクリームを盛ってたっぷりの生クリームをしぼり、その上に飴がけし、生チョコレートを添えてウェーハスとフルーツを飾った大きなパフェだ。ゆうに二人前はあるらしい」
 ミレはゴクリと生唾を呑んだ。
 想像して、ときめく。
 それまで黙って二人の会話を聞いていた闇騎士が呆れ顔で呟く。
「……たかが菓子で姫の気を惹くとは策(て)が幼稚すぎやしねぇか?」
「なんとでも言え」
 アーティスは「フン」と鼻を鳴らしてミレとの距離を詰めた。
「キスかデートか。私は前者でもまったくかまわないが」
 と、アーティスがおもむろにミレの顎に指をかけ、頬を傾けてきた。
 うっとりと虹パフェを空想していたミレはハッと我に返った。
「デートに行きます」
「早くそう言えばいいのに」
 ぬけぬけと言ってアーティスが笑い、ミレの手をすくって、指先に軽くキスを落とした。
「……デートの誘いを受けてくれて嬉しいよ。少しは私に気があると思ってもいいのかね?」
「いいえ、まったくありません」
 ミレが大きく首を振って断固否定すると、なんと、アーティスにパクッと指を齧られた。
「い、痛い」
 甘噛みではない。
 振りほどこうにも、振りほどけない。
「……っ」
 
 痛くて、じわっと泣けてくる。
 悲鳴を上げる寸前、解放された。
「……あーあ、歯型がついてしまったね。かわいそうに」
 自分で噛んでおきながらなにを言っているんだ。
 涙目でミレがアーティスをキッと睨むと、アーティスはニヤリと口角を吊り上げて顔を寄せてきた。
「悪かった。つい、君がイジワルを言うものだから苛めてしまった……」
 涙を舌で舐めとられる。
 さすがにびっくりして胸を押し退けようとしたものの、逆に抱きこまれる。暴れても、アーティスはびくともしない。
 ミレの抵抗をやすやすと封じながら、ちらりと背後に眼をやった。くぐもった声で、なにかひとりごちている。
「……ふぅん。私がここまでしても止めないところをみると求婚者とは表向きか……となると、やはり……」
 疲れて、ミレは虚脱した。
 ここにシャレムがいれば撃退してもらうのだが、あいにく一昨日から姿の見えない芸術家を探しにいって留守なのだ。
 唐突に解放される。息が楽になった。
 礼儀正しく腕を差し出されて戸惑っていると、
「行こう。もうだいぶ時間をムダにした。間に合わなくなるぞ」
 なにに?
 ミレは内心そう突っ込んだものの、アーティスの強引さに負けるかたちで拉致された。 
馬車に乗せられ、ミレが連れていかれた先はバールワンズ大講堂だった。
「間に合ったな」
 こんなところへ来る理由がわからない。
 人員整理をしていた係の者がアーティスを見るなりスッと寄って来た。
「お客様、お席にご案内いたします」
「来い、ミレ。なにをしている」
 ぼうっとしていると手首を掴まれ、引っ張られた。
 大講堂は満員御礼、空席は中央前列四番目の二席しか残されていない。
 まさにそこへ着席したところで、開演を知らせる鐘が鳴った。
 同時に大扉が開き、颯爽と現れた人物を見てミレは眼を輝かせた。
 ダリアン博士だ。
 シーズディリ・ダリアン・ルケイン博士は壇上に上がるなり口火を切った。
「これより私、シーズディリ・ダリアン・ルケインによる特別講義、キージェレクト法則とマリナーの定理に関する考察をはじめる。ご来場の方々には静粛なる聴講をお願いするものである。尚、質問等は最後に受け付けする。まずは――」
 ダリアンの眼がミレを見つけて一瞬止まったものの、それだけで、さっそく講義に移る。
 それから二時間かけてダリアンは鋭い論法と式をもって自説を展開し、最後に聴講者たちとの間で活発な質疑応答が制限時間いっぱいまで取り交わされた。福潤宝
 カーン、カーン、カーン。
 と、終了の鐘が鳴るとダリアンは熱心な聴講者にわっと囲まれたが、ミレが近づくと「ミレ!」と大きく声を張り上げて手招いてくれた。
「すばらしい講義でした、博士」
「ありがとう。だが、まだまださ。算数術は奥が深く果てがない――私も君もひたすら勉学の道を精進あるのみだ」
「はい」
 素直なミレにダリアンは相好を崩し、愛弟子の頭をクシャッと撫ぜた。
「それはそうと、私はこれから学会の理事たちと会食の約束があって行かなければならないんだ。また今度ゆっくり会おう」
「はい、ぜひ。楽しみにしています」
 
 ダリアンの手がミレの肩にのる。コソッと、耳打ちされた。
「……王子殿下とデートとは、やるじゃないか。君も隅におけないな」
 
 ニヤリと笑い、ダリアンが去ると、ついでミレが取り囲まれた。
「失礼ですが、シーズディリ・ミレ博士ではありませんか?」
「はい」
「やはり!」
 騒然と場が湧く。
 大勢がミレをしげしげと眺めて、「おー!」とか「へぇー」とか「ううむ」とか感嘆の声を口々に漏らしている。
「お噂はかねがね。シーズディリ・ダリアン博士の秘蔵の愛弟子であるあなたに一度お目にかかりたいと思っておりました。ぜひフェリウルの方程式の――」
「しかし驚いたなあ! あなたがこんなに若くてこれほどお美しいとは!」
「まったくだ。ここで会えたのもなにかの縁。いかがでしょう、私とお食事など」
「あっ、こら、ぬけがけはずるいぞ。俺だって誘いたい」
 
 なぜか、ミレの争奪戦がはじまった。
 大勢に包囲されただけでも窮屈なのに、ダリアンは行ってしまうし、前も後ろもふさがれ、声高に騒がれてミレは閉口した。
 そこへ、
「あいにくだが、彼女は私の連れだ」
 
 しびれを切らしたのだろう。
 アーティスがゆっくりと階段を下りて来る。眼が尖っている。どうも不機嫌きわまりない。
「……」
 
 辺りを威嚇する鋭い眼つき。気圧されたようにミレを取り巻いていた面々が道を開ける。
「私たちはデート中でね。邪魔をしないでもらおうか」
 わざわざそんなことを公言しなくてもいいだろうに。
 案の定、ざわついた。そしてアーティスの身分に気づいたものが出はじめる。
「……アーティス殿下?」
「まさか」
「いや、そうだ。まちがいない。アーティス殿下だ!」
 雄叫びとも悲鳴とも怒号ともつかないどよめきが奔って、ミレを除いた全員が礼をした。
 そんな中、アーティスがミレの前を素通りし、扉に向かう。
「ミレ、来なさい」
「はい」
 
 逆らわず、トコトコ追いかける。
 そのまま大講堂をあとにし、ひとでにぎわう参道へ出たところで、アーティスが背中を向けたまま言った。
「……ずいぶんモテるじゃないか。いつもあんなふうなのかね?」
「はい」
「『はい』だと?」
 振り向かれ、ギロリとすごい眼で睨まれる。
 ミレは肩を竦めた。
「ダリアン博士の弟子は私ひとりなので、皆、博士に紹介して欲しいのでしょう」
 
 ダリアンは老若男女問わず、絶大な人気がある。
 すこぶる頭脳明晰で、威勢のいい啖呵(たんか)と気風(きっぷ)のよさ、さっぱりとした気性と女性とは思えない豪快さが好かれているのだ。
「それだけではないだろう」
「それだけだと思います」
「いーや。あからさまに君に気のある男もいたぞ。もっと慎重になりたまえ。だいたいだな、君は普段から人目を気にしなさすぎだ。もっと周囲から自分がどう見られているか意識しなさい。そっけないくせに無防備でそんなふうだから――」
 小言がはじまった。
 ミレはわざと足を遅らせてアーティスと距離をおきながら、キョロキョロした。
 街に出るのは久しぶりだ。このところ、王宮に引きこもり生活だったので、賑やかな雑踏に埋もれるのも悪くない。
 軒を連ねる店々やドーナツ売りのワゴンなどについつい眼を奪われる。
「うひょーっ。かっわいいー! なあ、お嬢さんひとり? 俺たちと遊ばない?」
 いきなり通りすがりの男性二人連れに声をかけられた。
 ミレが返事をするより前に、記録的な速さで駆けつけたアーティスが間に割り込んで、男たちを冷たく睥睨(へいげい)した。
「ひとりじゃないし、遊ばない。貴様らの遊び相手は別にいる」
「は? あんただれ? 俺たちはこっちのお嬢さんに用が――え?」
 
 二人連れの肩をポン、と叩いたのは闇騎士と聖職者だ。
 どちらも冷酷無情な眼をしている。
「連れて行け」
 
 アーティスが非情な声で告げると闇騎士と聖職者は金切り声を上げて暴れる二人の男を押さえこみ、問答無用で連れ去った。
 ミレは一応、訊いてみた。
「……釈放は?」
「するとも。少々傷めつけたあとでな」
 平然と仕置きすると言いきったアーティスに無造作に肩を抱かれる。
 歩きにくいなあ、と不平をいだきつつも我慢して口にしないでいると、苛々した声の叱咤を浴びた。
「君は隙が多すぎる。やたらと男に口説かれるんじゃない」
「声をかけられただけです」
「ついて行く気はなかったというのか」
「はい」
「だが、甘いものでも食べに行こうと誘われたらどうだ? ついて行っただろう」
「……」
 行ったかもしれない。
 だが本音を漏らせばまた怒られるので、ミレは反対のことを言った。
「そんなこと、ありません」
「いま間があったぞ」
 
 きつい一瞥を向けられてミレは眼を泳がせた。見抜かれていたようだ。
 アーティスの眼が吊り上がる。眉間に皺が寄る。そしてまたクドクドと説教される。今度は肩を押さえられているから離れたくとも離れられない。V26 即効ダイエット
「そもそも、男というものは総じて下心のあるイキモノだ。おまけに勘違いしやすいし衝動のまま行為に及ぶこともある。まして夏は理性のタガが外れやすい季節だ、煽るような振る舞いは慎むべきで――なっ、なにをしている!」
 ギョッ、とアーティスが眼を剥いた。
 ミレはキョトンとした。
「なにって……暑苦しいので」
 少し胸元をはだけて手で煽っただけだ。
 だがアーティスはおかしいくらいおおげさに動揺している。慌てて胸元を掻き合わされ、猛烈な剣幕で怒鳴りつけられた。
「……っ。そういう君の無防備さが男を煽ると言っているんだ。いいか、他の男の前で絶対にいまのようなみだらな真似をするんじゃないぞ。そんな白い胸元をさらけるなんて眼の毒だ。悩ましいにもほどがある。私以外の奴の眼に触れたら八つ裂きにしてくれる……!」
 本当にやりかねない。
 薄々察してはいたが、さっきのことといい、発言の狂暴さといい、アーティスは敵にまわしては恐ろしい人間だ。
 怖いひとには、逆らわない。
 アーティスに執着される理由はよくわからないが、できるだけそうしようとミレはあらためて肝に銘じた。
「喉が渇いたな」
「虹パフェが食べたいです」
 
 率直に伝えると、アーティスはクッと笑った。
「よし、虹パフェを食べに行こう」
カフェ・ゲランは裏参道にある老舗のカフェのひとつで、店外には黒いパラソルと焦げ茶の上品なテーブル席、店内にはワゴン式ショーケースがあり、中には生ケーキやタルト、チョコレート、ティラミス、ビスコッティなどが並んでいる。
 他にはレースやリボンでパッケージされたコンフェッティが銀器に盛られ、焼き菓子などと一緒に売られていた。
 ミレはショーケースに張り付いた。
 どれもすごくおいしそうで、目移りする。
 眼福だ。
 と、ミレがうっとり見惚れていたところ、アーティスがさっさと空いている席についてミレを呼ぶ。
「こらこら、そんなところでもの欲しそうにするんじゃない。心配しなくても、好きなだけ頼めばいい」
「本当ですか」
「本当だとも」
 
 なんていいひとなのだろう。
 
 ミレはおとなしくアーティスの前の席にちょこんと座った。テーブル席は半分ほどが埋まっており、闇騎士と聖職者も二人から少し離れた席に腰を落ち着けている。
「ご注文をお伺いします」
 ウェイトレスがメニューを持って来た。アーティスがそれに眼を通し、
「私と向こうの二人にボンズ・ビールを、こちらのお嬢さんにはあのショーケースの中身全部と虹パフェをひとつ」
 ウェイトレスはポカンとした。
「ショーケースの中身を全部ですか」
「そうだ。虹パフェも大盛りで頼む」
「は、はいっ。畏まりました!」
 
 ウェイトレスが厨房にすっ飛んで行く。
 ミレがワクワクしながら待っていると、テーブルに片肘をついてアーティスが話しかけてきた。
「ドナの世話は慣れたかね」
「最近、つつかれることが少なくなりました」
 ドナはアーティスの飼い鳥だ。大きな美しいオウムで、やや癇癪が激しいものの、非常にかわいい。ミレが面倒をみるようになってだいぶ日が経っている。
「十回に一回は呼べば返事をしてくれます」
「そうか」
「いまは私の名前を憶えさせている最中です」
「ドナに、君の名前を?」
「いけませんでしたか」
 
 図々しかっただろうか。
 ミレが意気消沈すると、アーティスは慌ててかぶりを振った。
「いや、それはかまわない。まったくかまわないのだが……しかしドナが君の名前を連呼するようになれば、まるで私が君に夢中のようだな……」
 
 アーティスはなぜか表情をゆるませてブツブツ言っている。
 やはり不都合があるのだろうかと思い、問い質してみる。
「なんですか」
「なんでもない」
「そうですか」
 
 ミレの返答が気に食わなかったのか、アーティスがドン、とテーブルを叩く。
「そう淡泊にかまえないで、もう少し物事を追求したまえ! 君ときたらいつもあっさりと張り合いのない……せっかくのデートだ。相互理解を深める機会だろう。なにか、そう、私に訊ねたいことや知りたいことはないのかね」
 ミレはちょっと考え、ズバリと言った。
「殿下は王位継承権をユアン殿下に譲られるおつもりなのですか」
 アーティスが息を呑んで絶句する。
 空気が一瞬にして緊張したそこへ、不意に男が飛び込んできた。
「覚悟!」
 
 男の手に白刃が閃く。狙われたのはアーティスだ。
 だが覚悟が必要だったのは男の方だったろう。
 刃が届く前に、男の背中に二本の矢が命中し、眉間とのどは聖職者のナイフと闇騎士の短剣が貫いて、吐血しながら男はどうっと倒れた
 あっけない襲撃者の最期だ。どこかからソーヴェと他一名が現れて男を回収し、店員が石畳に水をまいて血を洗い流した。
 なにごともなかったかのように、喧騒が戻る。OB蛋白の繊型曲痩 Ⅲ

「殿下」
「なんだ」
「いまのようなことは頻繁(ひんぱん)にあるのですか」
「まあそれなりに」
「悠長にデートなんてしている場合ですか」
「暗殺が怖くて王子なんてやってられるか」
「そういうものですか」
「そうだ。だから容易に私から逃げられると思うんじゃない」
 誰もそんなことは言ってない。
 
 しかし急に不機嫌になったアーティスはミレを睨んで言った。
「デートは続ける」
「はい」
「相手が私でつまらなかろうが、がまんしなさい」
「はい」
「『はい』と言うな! むなしくなるだろう」
 いったいどうしろというのか。
 面倒くさいひとだなあ、とミレが内心嘆息すると、すかさず見透かされた。
「いま、面倒くさい男だと思っただろう」
 ギクリとして冷汗が噴き出る。
 ミレがいいわけしようとしたところへ、ウェイトレスが「お待たせしましたぁ」とワゴンを押して登場し、ミレの眼の前に特大のパフェを置いた。
 ミレは自分でも眼がキラキラと輝くのがわかった。
「いただいてもよろしいのですか」
「どうぞ」
 アーティスに勧められ、さっそく柄の長い銀のスプーンを持ち、ミレは食べはじめた。
「おいしいです」
「そうか」
「幸せです」
「よかったな」
 
 他愛のないやりとりに、ミレはアーティスト見つめ、にこっと笑いかけた。
 にわかに、アーティスは固まってしまった。
 ミレは放っておいて食べることに専念した。
「……君は本当においしそうに食べるな」
「おいしいので」
 
 なにがおかしいのか、アーティスは楽しそうに、嬉しそうに、ミレがパフェと格闘するさまを、相好を崩して眺めている。
 ふと思いついて、ミレはスプーンでアイスクリームと生クリームをすくい、アーティスに差し出した。
「どうぞ」
「え?」
「味見されてみてはいかがですか」
「……」
 ややうろたえつつ、アーティスがおずおずとスプーンを口に含む。
「どうですか」
「……味がしない」
 
 そんなばかな。
「チョコレート味ですよ」
 アーティスは横を向いて口元を押さえ、沈黙している。顔が真っ赤だ。
「君は普段からこんなことを……いや、なんでもない」
 
 それきり、また押し黙ってしまう。だが甘いもので機嫌が直ったらしく、にやけていて、とてもしまりのない表情を浮かべている。
 ミレがパフェを完食し、ひとつめのケーキを半分胃におさめたところで、ようやく平常心を取り戻したらしいアーティスが口を切った。
「さっきの質問についてだが、君は誰からその情報を得たのだね」強効痩

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