2012年5月21日星期一

人知るらめや

殿方のように装いながら、艶やかに舞い、みなを魅了する少女の優雅な身のこなし
は、賞賛に値すると泰子は感じ、視線を静かに少女から皇后へと移した。白拍子など
粗末で下品なものだと高笑いしていた姿は見る影もなく、醜く歪められた尊顔を袙扇
で隠し、側らに座する天皇を横目で窺っている。そうして探りを入れる藤紫宮(ふじ
しのみや)を意に介さず、帝は無表情で白拍子を見つめていたが、無造作に盃の酒を
煽ると微笑するように唇を歪めた。V26Ⅳ美白美肌速効

 可愛らしい顔貌の中でも印象的だった野心を秘めた瞳。右大臣である父に政のため
利用されただけでなく、少女自身にも帝に取り入りたい気持ちはあるようだ。泰子は
無意識に、羽織っている袿を掴んだ。そこへ訪れた尚侍(ないしのかみ)に、居住まい
を正し礼をとる。女官の長として帝を補佐している冷徹な尚侍が、口にする君主から
の伝令に刹那、指先が凍った。しかし穏やかな微笑みを湛えて、乱れる胸中を隠し通
す。頂に立つ好色な帝が、女遊びに興じるのは今に始まった事ではない。少女の家柄
から見ても入内は確実だろうと踏んでいたが、泰子が賜ったこの白梅殿に住まわせる
とは、露程も予想していなかった。
 尚侍が殿を去り、女房の甘葛(あまづら)は憤った様子で唇を噛んでいる。皇后、中
宮より格下の女御とはいえ、妻妾である事に変わりない泰子を蔑ろにする帝を、甘葛
が呪い始める前に、その肩をなだめるよう触れた。そうしながら、泰子は己自身も静
めていた。
 程無くして、白梅殿を共用する右大臣の娘が挨拶に現れたが、言葉遣いこそ低姿勢
なものの、野心を秘めた双眸は、日陰の女御である泰子を見くびっていた。
「どうか仲良くしてくださいませ、白梅宮(はくばいのみや)」
愛らしい花の如く、人目を惹きつける右大臣の娘は齢十七。それより四つも上の泰子
には、白い肌も長い髪も全てが若々しく魅力的に見えた。目下、気まぐれな帝の寵愛
を受けている者はいないが、もしかするとかの者が、凪いだ水面に波紋を広げていく
やもしれない。菊黄宮(きくおうのみや)が寵愛を一身に受けていた時のように、均衡
が、女性達の心が、崩壊しようと己には関係のない事だと割り切った。帝に最も蔑ろ
にされている女だと嘲笑される事には慣れて、今ではこの立場を幸運にすら思う。哀
れな菊黄宮のように、嫉妬の猛火で焼かれる恐れはないのだから……。
 垂れ下げた御簾越しに、女官を従え廊を進んでいく帝の姿が見え、すぐさま畳に平
伏した。泰子の存在に気づいているであろうに、声をかける事はおろか、一瞬たりと
も歩みを止めない。かすかな衣擦れの音が聞こえなくなっても、上体を伏せたままで
いた。帝は常と変わらず、泰子には目もくれない。容易く他者を虜にできるほどの美
貌と才知を持つ皇后らに求められていれば、秀でた所がなく凡庸な泰子などとても愛
でる気にはなれないだろうが、そう理解していても、自尊心は傷つけられた。
 夜中、帳で四方を覆われている御帳台の中で、頻りに寝返りを打つ。冴えた夜のせ
いか、邸宅内のにぎわいがここまで聞こえてくる。右大臣の娘の甲高い笑い声、嬌声。
泰子は落ち着きなく畳を引っ掻いた。悪い癖だと、甘葛にまた叱られてしまうかもし
れない。だけど止められなかった、こんな方法でしか感情を抑えられない。
 その日を境に、右大臣の娘、桃香宮(とうかのみや)のもとを帝が定期的に訪れるよ
うになった。
「あんな狡賢そうな小娘のどこが良いのでしょうね」
苛立ちを吐き出す甘葛の通称を呼び、止めさせる。噂となり流れるような事は、口に
しない方がいい。
「甘葛の大好きな、甘い甘葛をたっぷりかけたかき氷でも頂きましょうか」
「え、こんなにお寒いのに……?」
「それなら、そうね、椿餅にしましょう。皆も呼んできて、この辺で一休みよ」
嬉しそうに返事をした甘葛が、すぐに四人の女房を連れてきた。漆器の位置など細か
い事に時間をかける女房達を横目に、椿の葉で包まれた餅をつまみ食いすれば、叱ら
れた。見て見ぬふりをする四人と異なり、律儀な甘葛はいつも愉快だ。
 全員で椿餅と貝合わせを楽しんでいた所、吹放ちの廊を辿る一行に気づき、深く平
身低頭する。わざわざ挨拶をしてきた桃香宮に応えるべく、顔を上げて息を引く。優
越感を隠しもせずに桃香宮は微笑み、帝にしなだれかかっていた。付き従う女房達の
瞳も嘲笑で細められており、泰子は一行を見送ってから、堪らず呟きかけた。だが、
泰子が軽んじられるせいで肩身の狭い思いをしている女房達に謝罪した所で、何にも
ならない。現状を良くしたいなら、帝の寵愛を得なければ。しかし、容易く得られる
ものなら、この五年でとうに手に入れている。何も上手くできず、美しくもない泰子
にはやはり叶わぬ望みなのだ。
 眠れずに真夜中、白い月を見上げた。こんな時怜悧な中宮、萩紅宮(しゅうこうの
みや)なら流麗な和歌を詠むのかもしれないが、気の利いた言葉すら思いつけない泰
子は、遠くの月から目をそらし、はっと息を呑んだ。お供の一人もつけず、帝が渡殿
を渡ってくる。薄暗くてもわかる典雅な美貌の持ち主は、声をかけもせずに泰子の腕
を引き、片手で御簾を払いのけた。燈台の火の灯りに照らされた室内、抱きしめられ
て感じた甘やかなお香と酒の匂いに、肌が粟立つ。
「おやめください」
慣れた手つきで長袴の紐を解く帝を無礼と承知で突き放すが、それで怒りを買ってし
まったのか、強引に畳に押しつけられた。桃香宮と愛し合った証が残る。うなじを目
にして、視界が赤く染まる。
「嫌、嫌ですっ、甘葛っ、甘葛ぁっ、助けてぇっ」
「静かにいたせ」V26Ⅲ速效ダイエット
苛立ちを帯びた声の主に口を塞がれ、その麗しい唇に激しく噛みついた。凪いだ水面
のように美しく、どこか冷めた眼がいつになく怒りを宿して、抗う泰子から衣を奪い
取った。胸中を掻き乱すものは、嫉妬だ。そしてそれを否定する弱さと、悲しみ。桃
香宮と愛し合った後で、ついでのように泰子を抱く帝に憎しみが溢れ、赤紫な証が無
数に残る胸板を、血が滲むほど引っ掻いた。その事に対する憤りか、腰の動きが激し
くなり、もはや声を押し殺せない。
「呼べ」
命じられ、泰子は喘ぎながら帝の諱(いみな)を口にする。
「泉仁…泉仁…」
お互いを貪るよう、夢中で口づけていた。
「泰子…」
吐息混じりに呼ばれ、骨張った指の背でそっと頬を撫でられて、無性に泣きたくなる。
愛しいだなんてとても言えない。決して泰子だけの人にはならず、愛してもくれない
帝を愛しいと認めてしまえば、己の気が狂ってしまう。一糸纏わぬ姿で絡み合ってい
ても、夜が明ければ袴や袍に身を包み、肩にかかる髪を結い上げて、冷めた眼で白梅
殿を出て行く。そうして今度は、他の女性と交わるのだ。あちらへ行ったりこちらへ
行ったりしているうちに時が流れて、不意に泰子の存在を思い出しては、気まぐれに
やってくる。その繰り返しだ、過去も未来も。
 帝の寵愛を乞い、数多の女性への嫉妬に身を焦がし生きている藤紫宮は、泰子には
とうに狂っているように見えた。菊黄宮暗殺の容疑が色濃いかの人は、圧倒的な権力
を誇る摂関家の出身で、自尊心が強く気が荒い。女房達への仕打ちは以前から眉を顰
めるものがあったが、最も信頼していた女房が帝と契っていた事が発覚した際には、
女房を丸裸にして庭の木にくくりつけ、泣き喚かれても容赦せず鞭で打ち続けた。そ
して実家まで破壊させた藤紫宮が恐ろしかったが、今では哀れにも感じる。藤紫宮に
は、心を許せる者が一人もいないのだ。女子を産んでもそれは変わらず、正常とは言
いがたい皇后に我関せずな帝は、あくまで勝手な憶測だが、菊黄宮の仇をとっている
のかもしれない。
 帝と泰子より四つほど年上であったたおやかな佳人、菊黄宮が賜った菊黄殿と白梅
殿は渡殿で繋がっており、近接していたためか、時折そよ風と共に菊黄宮が奏でる琴
の音が聞こえてきた。心を震わす音色に憧れて泰子も嗜んでいたが、菊黄殿に入り浸
っていた帝に御粗末と貶されて以来、琴には触れていない。しかし菊黄宮が亡くなり、
恋しさからか琴を聴かせるよう命じられ、屈辱を感じながらも糸を弾いた。その拙い
音を聴いていたのか定かではないが、あまり感情を表に出さない帝が珍しく疲れを露
にしていたので、泰子は黙って己自身も疲労するほど、琴を奏で続けていた。その後、
藤紫宮と萩紅宮、それから女官の一人が帝の御子を生したが、待望の男子であった女
官の御子は、産まれてすぐに葬られた。それは萩紅宮の陰謀だとまことしやかに囁か
れているが、真相は藪の中だ。次代の天皇に血縁者を据え、地位を上げたい者は多い。
 女性でその願望が最も強いであろう桃香宮と、甘葛が争っていると聞き、急ぎ駆け
つけると庭の池上に設けられている釣殿にて、桃香宮と女房達が声をたてて笑ってい
た。真冬の池に、半身を浸からせている濡れ鼠な甘葛を目にした瞬間頭に血が上り、
何枚もの衣を勢いよく脱いで桃香宮に投げつけた。憤慨されても構わず、低い手すり
から飛び降り、顔色の悪い甘葛の背中を押して、冷たい池の水をかきわけ進んだ。
「上様、無茶をなさらないでください」
「お説教なら後にして。一体何があったの、甘葛」
言いよどむ甘葛ととにかく室内へ入ろうとすると、釣殿から移動してきた桃香宮が行
く手に立ち塞がり、くすりと笑った。
「仕える者も仕えられる者も愚かだなんて、救いようがありませんこと」
「愚かなのは、上様ではなく貴女ですっ」
花のかんばせを怒りに染め、桃香宮は甘葛に扇を叩きつけた。
「女房の分際で、二度も妾を愚弄するなんてっ、許さない、帝にお頼み申し、白梅宮
もろとも島流しに処して差し上げますわ」
女房達の狼狽と共に現れた帝に、桃香宮が甘えて身を寄せ、無礼な泰子と甘葛を流刑
にしてほしいと我儘を言っている。加害者に仕立て上げられ、甘葛が耐えかねて意見
しようとするが、それを帝が冷ややかな目線で制した。
「謝罪せよ」
ずぶ濡れの二人を目にしながら、桃香宮だけを擁護する帝には、もはや反論する気も
起きなかった。
「大変……申し訳御座いませんでした」
木造の廊に額をこすりつけ、目を閉じると勝ち誇った桃香宮の顔が浮かびあがった。
 流刑にはさすがにならなかったが、丸二日飲食を禁じられ、帝の寵愛の有無を思い
知る。堪らなく惨めで、辛い。釣殿で泰子の事を笑い者にしていた桃香宮に歯向かっ
たせいで、池に突き落とされたという甘葛は、翌日、意を決した顔つきで現れた。
「上様、ここを出ましょう。これ以上大内裏におられても、上様には百害あれど一利
などございませぬ」
憤り、案じてくれてもいる甘葛の申し出に心が揺れる。嘲笑、屈辱、嫉妬、憎悪、そ
んなものばかりが渦巻いている宮廷から遠く離れ、穏やかに暮らしたい。甘葛も行く
ならば、逃げ出してしまいたい。きっと追っ手も寄越されないだろう、帝にとって泰
子は取るに足らない存在なのだから。それでも、決断できずに苦悩した。相反する想
いが口を堅くさせる。
 今年も、白梅殿の庭で立派な梅の木が花開き、楚々とした白梅を愛でる会が左大臣
らによって執り行われた。この場は男性陣にとっては出世の好機でもあり、みな競っ
て和歌を詠んでいる。藤紫宮の父親であり、天皇の代理でもある関白は、楽しみなさ
いと言いながら、教養ある者を値踏みしているようだった。その傍ら、あちこちから
声をかけられている帝を見つめ、寵愛を欲しているのは、何も女性だけではないのだ
と実感する。梅をゆっくり眺める事もできない帝は、しかし機嫌を損ねたりせずに勧
められた筆を手に取った。V26即効ダイエット
「折りつれば 袖こそにほへ 梅の花 ありとやここに 鶯の鳴く」
麗しい唇が静かに言葉を紡ぎ、公家が競うように賞賛を送る。梅を手折った事で香り
が移った袖に、鶯が止まり鳴いてはくれないか。現実的な帝らしくない和歌を泰子な
りに解釈すると、手折った梅は白梅殿を追い出された泰子、美しく囀る鶯は桃香宮…
…。他意などないかもしれない、けれどもうそうとしか、帝に疎まれているとしか思
えなかった。
 それから数日後、泰子の元を尚侍が訪れた。
「帝の御手を煩わせませんよう」
冷徹な眼で圧力をかけるよう牽制され、戸惑いを隠せない。菊黄宮の歌集を持ち出し
てきた尚侍の意図が、わからなかった。漆塗りの座卓に置き、心中で菊黄宮に断り頁
をめくる。流れるような筆跡が綴る、たおやかな菊黄宮らしい和歌を目で追ううち、
動悸が乱れてくる。
〝不憫な御方と存じていたけれど、今では帝が憎らしい。わたくしの御傍におられて
も、拙い琴の音に耳を傾けてばかり。梅を欲し、菊を愛でるふりをなさる不憫で憎ら
しい御方……。まことに諱で人を操れるのだとしたら、わたくしは帝の諱が知りたい。
頑なにお教えくださらないけれど……〟
 菊黄宮の和歌に目を通し、泰子同様愕然としていた甘葛と多くの言葉は交わさなか
った。胸中を理解し、心配そうな顔をしながらも両手で手を包みこんでくれた甘葛に、
強がって微笑みかけた。
 夜更け、梅の木に引き寄せられるかのように庭へ降り立つと、月明かりに照らされ
ている後姿が、砂を踏む音のせいか振り返った。その静かな眼差しに見つめられ、泰
子も目を逸らさずにいた。
「菊黄宮の歌集を届けさせたのは……帝でございますか?」
「……尚侍か。余計な事を」
眼光が鋭くなり、戸惑う。本心を確かめたくても、唇が動かず困り果てる泰子の腕を、
帝が痛いくらいの力で掴んだ。
「厭うなら厭うがよい、だがそなたがどれほど余を拒もうと、逃がしはせぬ。決して、
どこへも逃がさぬ」
逃亡を企てていた事に気づいているのであろう帝の、骨張った手に触れる。
「もう逃げも隠れもしません。私は、最期の時まで、帝の……泉仁の御傍におります。
ずっと、御傍にいさせてください」
冷たくなっている手のひらに、そっと頬を寄せた。愛しくて、だけど気持ちをさらけ
だす事に慣れず、妙な表情になっているかもしれない泰子を、帝は目を瞠り見つめて
いる。冴えた静寂の中、指先がぎこちなく頬を滑った。細められた目に苦悩が絡みつ
く深い愛情を感じ、泰子は強く帝の手を握りしめる。哀れな末路を辿ろうとも、もは
や悔いはなかった。V26Ⅱ即効減肥サプリ

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