ダレットと名乗った娘の嬉々とした声に皇太子(ジュリアス)が応えた。
「ラゴール伯?……ああ、地方都市伯の『ラゴール』か」
―――既にこの時、娘の『名』をジュリアスは知っていた。
マーゴより耳打ちされていたからだ。SEX DROPS
あの娘が『ラゴール伯ダレット嬢』、その後ろにいるそばかすの赤茶の侍女が『ロベルタ』だと。
話はまた遡る。
「……ここに『ロベルタ』という女はいるか?」
「ロベルタ?はて、そのような『妾妃候補(むすめ)』はここにはいませんが、……」
ややあって女官長は思い当たる節を口にした。
「ああ、そういえばあれの名が確か『ロベルタ』と言ってましたか!」
「あれの名?」
「ええ、確か……つい1月ほど前に後宮(ここ)に上がっている『ラゴール伯爵』の娘付きですわ」
「ラゴール伯爵?……ああ、地方都市伯の『ラゴール』か?」
「左様でございます、あの成金の『娘』でございます!!」
―――帝国内の幾つもの都市(まち)、特に繁栄を誇る都市を治めるものを『都市伯』と呼ぶ。
一般の『伯爵』と違い、その歴史が浅く、また成り立ちが元々その都市で成功を収めた豪商が都市の権力を握り「奉税」することが『国献』として認められた結果、時の皇帝に「伯爵位」を授与されたという経緯がある。
つまり平民だったのだ。
『宮廷』と『荘園』で暮らす元来の『伝統』貴族たちは、商業を持って財を成す彼らとは当然のごとく相容れない。
故に彼らは帝都に住む貴族たちからは「成金」と揶揄される。
そしてラゴールは北の『サラニア』に近い工業都市である。
北のサラニアと北帝国内の鉱山で産出される鉱資源で発展を遂げている都市。
近年の技術革新のお陰で工業製品の需要が増え、最も飛躍している都市だろう。
ジュリアスは『地方都市伯爵』自体を嫌いではない。
結果で勝ち取った地位である、実力ある手腕の持ち主なら厚遇する。
―――もっとも『地方都市伯爵』も、初代から代を重ねるごとに『伝統』ある貴族同様なのだが。
親の―――先祖の『遺産』で生きているならば!
重要なのはそれを生かす努力をしているかだろう。
女官長の声がジュリアスを思想の中から引き戻した。
「しかし、何故殿下が『ロベルタ』をご存じで?こう言っては何ですが……、心根はともかくそれほどの器量(・・)の娘ではありませんよ。」
「……妹(サリア)を傷つけた。言葉でな。
その女はいったそうだ『神をも畏れぬ罪(・)を犯している皇女』、『背徳の契り』、『罪悪感』はないのか……とな!!」
「!!」
マーゴは手で口を覆い、蒼白になり立ちつくした。
……<その女、何てことを!!>
誹謗中傷の方がまだ良かった。
それならいつものことであり、側付きの女官たちも然るべき対処をして妹皇女(サリア)を庇うことが出来た。
だが―――
ジュリアスは片手で目を覆い自嘲するかのごとく独白した。
「背徳だと?笑わせる、何も解っていない女ごときに!マーゴ、お前なら解るだろう?妹(サリア)が悪いわけではない!!」
マーゴは皇太子と目を合わせられなかった。
辛すぎて。
かつての悲劇を。
「『あの時』の妹(サリア)を救うために……余は……、あれと『契った』。あれは……まだ13になったばかりだった……」
ジュリアスの心は高ぶる、普段の冷静沈着さは失われ感情があふれ出していた。蒼蝿水
「……そうしなければ妹(サリア)が壊れてしまう、このままでは死んでしまうと思ったからだ」
「…………」
「……暗示のように、……言い聞かせるように、そうすることであの忌まわしき『記憶』を少しづつ『封じた』」
「…………さようでございましたね。」
――――「兄」と「妹」が愛し合うこと。
――――近親相姦。
――――「禁忌(つみ)」であることを。
すべてが愛する妹皇女(いもうと)のためだった。
彼女の『過去(きず)』を消すために。
「……今のサリアは覚えていないのだ、『あの時』のことは……」
ジュリアスは沈思する。
――――<……元はといえば『あの男』が!『あの男』が余とそなたを狂わせたのだ、そなたではない!>
昨夜そう思わず口にしたとき、サリアは『あの男』のことが解らないようだった。
無論、『何をされた』のかも……。
――――<……それで、いい>
忘れたままでいて欲しいから。
「…………」
その場にいたマーゴはただ黙って皇太子の次の言葉を待った。
やや経って、ジュリアスは言葉を紡いだ。
「……思い出させる訳にはいかぬ、『あの時』のことは!!
だから許せぬ、妹(サリア)に『いらぬ知識(こと)』を『与えた者』を!!」
「……殿下」
だからこそ彼(ジュリアス)は、今まで「近親相姦(そのこと)」に関する事は、細心の注意を払い彼女に接してきた。
……やがてジュリアスは一度瞑目すると冷静さを取り戻し女官長にむき直した。
マーゴもまた頷くと自分の考えを述べた。
「……宮仕えの心得もなっていない者が『道徳心』となどとは、聞いて呆れます。
しかも皇家の方々に許しも得ずに直(じか)に進言するとはなんて軽々しい!
……それで、その『女』が『ロベルタ』だと、殿下はおっしゃるのですか?」
「そう名乗ったそうだが、……『本人』とも限らぬかもな」
それにはマーゴも同意した。
「ええ、そうでしょう。先ほど申した『ロベルタ』でございますが、明らかに私の存ずる『ロベルタ』とは思えません。
話を聞くと明らかに嫉妬(・・)に狂った女のようでございます。
まるで皇太子殿下の妾妃のような振る舞いではないですか?」
「……では誰だと思う?」
「おそらくは彼女の主かと」
ジュリアスはその先を促した。
「ラゴール伯が娘、ダレット。お話の女の『気性』といい、よく似ております」
ジュリアスの蒼穹の瞳が氷を帯びるがごとく冷たく光った。
「……その娘の顔を見てみたいものだな。マーゴ、後で教えてくれ。」
「わかりました。殿下のお望みのままに―――」
ラゴール伯が娘ダレット。
赤銅色の髪、萌黄の瞳、白磁の肌に見事な豊満な胸、さも自分の美貌とプロポーションに自信があるのが見て取れる。
そしてその父親ラゴール地方都市伯爵―――ジュリアスは宮廷内での彼を思い出す。
地方都市伯故に年に1度の新年参賀くらいしか合わないが、割腹のよい愛想笑いの脂ぎった顔、金糸をふんだんに使った衣服の中年貴族だったことは覚えていた。
―――身なりからは財力の高さを伺うことが出来る、余程ため込んでいるだろう。
その男と面会したときそう皮肉を思ったものだ。勃動力三体牛鞭
しかし到底親子には見えなかった。
よほど『佳い女』に産ませた娘だろう、かろうじて失笑を抑えた。
再びジュリアスは娘―――ダレットに質問した。
「初めて見る顔だな、いつごろここに来た?」
ラゴール伯の娘ダレットはこれ幸いとアピールした。
「はい、1月ほど前から後宮(ここ)に。貴方様の武勇伝を聞く度に、国政の活躍を拝見する度にお仕え出来る日を心待ちしていました。
私は、いつも幼きころよりただひたすら、皇太子殿下のみを慕っておりましたから」
ますますジュリアスは心の中でほくそ笑む。
だが態度に示したのは違った顔であった。
「そうか、残念(・・)だな。あいにく今日、余が探している『女の名』ではない」
いかにも残念そうにため息なども漏らした。
それを聞いたダレットは硬直した―――屈辱で。
一方おや?という風に女官長マーゴが皇太子に問うた。
―――実は『わざと』だが。
「殿下、どのような名の娘をご所望で?」
「……ふむ、昨日、世の妹に実にありがたい『話』をした者だ。確か、『ロベルタ』と言っていたな。……しかし『春日殿(ここ)』にいないのかもしれぬ、また別の所に……」
―――「探しに行く」とジュリアスが言いかけた時、
「ロベルタ!?」
その名が出たとたんに周囲はざわめき、一人の『侍女』に視線が集中する。
それはダレットの後ろにいた娘だった。
視線を周りから受けた当人は何のことだか解らず、また突然の場面(こと)に面食らっていた。
皇太子はそれに気づき侍女に話しかけた。
「お前の名は『ロベルタ』というのか?」
皇子が笑みを浮かべて問いかけた。
美貌を誇る皇太子の笑みにすっかり侍女、『ロベルタ』は舞い上がった。
「はっはい、わ、わた、私が『ロベルタ・パペット』であります」
侍女『ロベルタ』は緊張と気恥ずかしさですっかり赤面した。
「そうか……」
笑みを浮かべたまま、ジュリアスは『侍女ロベルタ』に近づくと彼女の前に自らの手を差し伸べて言った。
「今宵(・・)の相手(・・)をしてくれぬか?ロベルタ。余の妹に語ったように……、余にもその話をして欲しい」
それは晴天の霹靂の発言だった。福源春
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