「キリがないな」
「残念だったな、バウマイスター伯爵よ! 魔族よ! 止めを刺せ!」
「それでは、再び攻撃開始なのである!」
ニュルンベルク公爵は、巨大ゴーレムのしぶとさに余計に自信をもったようだ。
巨大ゴーレムの両腕からロケットパンチが飛び、今度はいつの間にか背中に装備していた背負い式の魔砲からも弾が発射される。巨根
ロケットパンチの他に砲撃も加わり、俺達は防戦一方になった。
『魔法障壁』の展開で、魔法使い達は徐々に魔力を減らされていく。
「これって、まずくないか?」
「あと何回壊せば、あの巨大ゴーレムは復活しないのであろうな?」
二本のロケットアームに加えて魔砲による砲撃も防ぎながら、俺は導師とこれからどうしたものかという相談をしていた。
「テレーゼ、何か秘密兵器とかはあるか?」
「攻撃力でいえば、そう魔砲と変わりないからの。その前に一つ聞いてもいいか?」
「何か疑問でもあるのか?」
「うむ。ゴーレム本体を攻撃するよりも、その後方に攻撃して備品を補充する仕組みを破壊した方がよくないか?」
「……それだ!」
そんな当たり前の事を、俺はテレーゼに指摘されるまで忘れていた。
ゴーレム自体を破壊してもすぐに新しい部品が飛んでくるのなら、その部品を飛ばす仕組みを破壊した方がいいというわけだ。
「目標! 巨大ゴーレム後方にある手足が飛んでくる部屋!」
「伯爵様と導師が撃てないから、俺達で頑張るしかないか……」
ロケットパンチと砲撃を防ぐのに忙しい俺と導師は、この攻撃に参加できない。
ブランタークさんとカタリーナが大量の『ファイヤーボール』を放ち、ルイーゼとイーナが魔力を篭めた槍を、テレーゼはまだ弾が残っている魔導噴推砲を連射する。
発射された魔法や弾は巨大ゴーレムをすり抜け、その後方にある壊れた壁に開いた穴に入り込み、暫くすると大爆発を起こした。
「何とぉーーー! 合体システムがぁーーー!」
テレーゼの策は正しかったようだ。
壊れていない手足などの備品が、誘爆に巻き込まれて破壊されてしまったらしい。
「魔族! それよりもあの装置だ!」
「あの爆発では故障した可能性が高いのであるな。我が輩のせいではないとだけ言っておくのであるな」
「あの装置?」
もしやと思って『飛翔』を唱えると、俺の体は宙に浮く。
ほぼ一年ぶりに、俺は久しぶりに飛ぶ事が可能になっていた。
「意外と呆気ない最後だったな。例の装置は」
「伯爵様、今のうちに全員で畳みかけるぞ」
「隙を与えて復活でもされると困難ですね。全員攻撃開始!」
巨大ゴーレムは、壊れた部品の供給システムを破壊されて復活が不可能になった。
ならば、今の内に完璧に破壊しておくべきだ。
「一気に行くのである! ふぬぁーーー!」
導師は魔法で身体機能を強化してから『魔法障壁』を解き、そのまま両腕でロケットパンチを掴み、万力のように締め上げはじめる。
導師による魔力を惜しまない攻撃で、そのロケットパンチは徐々にひしゃげて罅が入っていく。
「イーナ!」
「エル!」
次は、二人で投擲用の槍を投げる。
槍は巨大ゴーレムのロケットパンチとの接合部分に当たり、その部分がひしゃげた。
これで、二度とロケットアームを合体させられないはずだ。
「次はボクね」
『飛翔』を取り戻したルイーゼは、俺が『魔法障壁』で動きを止めているロケットアームの上に軽業師のように立ち、強大な魔力を篭めた一撃を上から振り下ろす。
ロケットアームはバラバラになって地面へと落下する。
「伯爵様! 行くぞ!」
「はい!」
ロケットパンチの完全破壊を見届けてから、俺とブランタークさんは巨大ゴーレムへと駆け寄る。
相変わらず魔砲による攻撃は続いていたが、カタリーナが極限まで圧縮して威力を増した『ウィンドカッター』を操作してゴーレムの後方に回し、魔砲を背中から切り落とした。
「お師匠様から言われていた、魔法のコントロールが上達していてよかったですわ」
切り離されて魔力の供給を絶たれた魔砲は、そのまま沈黙してしまった。
「魔族! 何とかしろ!」
「これが俗にいう、大ぁーーーい、ピぃーーーンチ!」
「殺すぞ!」
「うるさい、見苦しい、チームワークがなっていない。撃つ」
ニュルンベルク公爵の慌て怒鳴る声が聞こえてくるが、追加でヴィルマが狙撃で巨大ゴーレムの両眼を撃ち抜き、彼らの視界を完全に奪ってしまう。狼1号
「ここは、我が輩の魔法で……。うぐっ!」
「魔族! 何事だ!」
「体が上手く動かないのであるな。体中水ぶくれで、頭もフラフラするのであるな」
「なぜそんな事が? バウマイスター伯爵の魔法か?」
「残念ながら、俺じゃないよ」
「私です」
魔族の闇魔法を抑える役割を静かにこなしていたエリーゼは、同時に魔族の方に奇襲で逆撃を仕掛けていた。
魔族も生物なので人間と同じく治癒魔法で回復するという性質を生かし、少しずつ強く、繰り返しで治癒魔法をかけたのだ。
どんな治癒魔法でも、かけすぎれば逆に害になる。
エリーゼは、遠方から魔族だけを狙い撃ちして、高濃度の治癒魔法をその体に浸透させるという難事に成功したのだ。
「過治癒状態になると、肌の水ぶくれ、動機、息切れ、眩暈、精神への悪影響が起こります。更にそれを放置しますと……」
最悪、死に至る事もあるとエリーゼは俺たちに語る。
「あれ? 前に俺の治癒魔法が強過ぎるって……」
「必要量の数倍~数十倍くらいなら何も起こりません。必要量の数百倍以上をかけませんと」
「これは予想外なのであるな」
巨大ゴーレムの壊れた部分を交換するシステムが破壊され、自分も過治癒の副作用で調子が悪い。
魔族は相当に弱っているようだ。
止めを刺す最大のチャンスは、今をおいて他にないはずだ。
「ブランタークさん!」
「おう!」
ここで、魔力を温存していたブランタークさんと共に巨大ゴーレムに向かって走り出す。
「接近を許すな!」
「魔族使いが荒いのであるな」
過治癒に悩みながらも、さすがは魔族。
その強大な魔力を使って、『ウィンドカッター』をまるで嵐のように展開する。
「だから俺がいるんだよ!」
だが、それらは全てブランンタークさんの展開する『魔法障壁』によって防がれていた。
「伯爵様、あの巨大ゴーレムの胴体部分がかなり頑丈なようだがどうする?」
ブランタークさんが展開した『魔法障壁』を使って前進しながら、俺はどんな魔法であの巨大ゴーレムを戦闘不能にしようかと考える。
確かに、どんなにダメージを与えても肢体はともかく操縦席がある胴体にはダメージを与えられなかったからだ。
「放出する魔法では……」
威力が低いので、巨大ゴーレムの胴体部分にダメージを与えられない。
ではどうするのか?
答えは、前に師匠と戦った時に見出していた。
「膨大な魔力を放出せず、一点に纏めて……。いや、この場合は『一刀』にか……」
師匠の形見である魔力剣の柄を取り出し、今までにないほどの膨大な魔力を篭める。
だが、具現化させる刀身はなるべく細くだ。
長さも最低限にするが巨大ゴーレムを切り裂く物なので、短くなり過ぎないようにする。
俺のイメージの問題なのか?
柄からは日本刀に似た赤い刃が現れた。
赤色なので火系統なのだが、炎のような物は見えない。
極限まで刃を細くしたせいだ。
「これで焼き切る」
『飛翔』で巨大ゴーレムの前まで接近してから、一気に炎の刀身を振り下ろす。
「いくらバウマイスター伯爵とはいえ、この巨大ゴーレムの胴体も『極限鋼』とミスリル合金の複合装甲なのだぞ。斬る事など不可能……何ぃ!」
ニュルンベルク公爵から驚きの声があがる。
なぜなら、巨大ゴーレムの胴体が切り裂かれ、その亀裂からニュルンベルク公爵の姿が見えたからだ。
ただ、完全に両断は出来なかった。
あれだけの魔力を篭めたのに、巨大ゴーレムの前部装甲を切り裂いただけだ。
「もう一度……」
と思ったのだが、予想上に魔力を使ってしまったらしい。
俺は眩暈を感じてその場に座り込んでしまう。三體牛鞭
「伯爵様」
「ブランタークさん、続きを……」
「俺の魔力量じゃ、ひっかき傷も怪しいところだよ。導師!」
「無理であるな。ここに侵入するまでと、巨大ゴーレムの手と戦っていたら魔力の消費が予想以上に激しいのである」
「カタリーナの嬢ちゃんは?」
「私の残り魔力を結集しても、ヴェンデリンさんのような刀身は出せませんわ」
「なぁーーー!」
地下遺跡の一番奥にあるこの部屋に向かう途中での戦いと、巨大ゴーレムとの戦闘で全員の残り魔力量は心許無い。
通常の戦闘ならば十分に余裕があるが、巨大ゴーレムの胴体部分を壊す事など不可能であった。
「困った……」
まだ、巨大ゴーレムは活動を完全に停止していない。
早く止めを刺さないと敵に援軍がくる可能性もあり、俺はどうにか巨大ゴーレムを破壊する方法を考え始めた。
だが、その心配は予想外の人物によって解決される。
「ヴェル! 俺が行く!」
「エル?」
「待て! お前は魔法なんて使えないだろうが!」
相手が相手なので、今まであまり攻撃を行っていなかったエルの突進を、慌ててブランタークさんが止めに入った。
「これがありますよ! ルイーゼ!」
「了解! エルが駄目なら、ボクとイーナちゃんの投擲で止めを刺すから」
「これを、ハルカさんから借りていてよかった!」
エルは、ハルカから借りていたらしい魔刀を抜き、それに限界まで火魔法を刀を纏わせる。
まだ肢体を壊されたゴーレムは宙に浮いていたので、そこまでの移動はルイーゼによる強制打ち出しだ。
「投石機の石になった気分だな」
「いくよ! エル!」
魔力を纏ったルイーゼによって撃ち出されたエルは、先ほど俺が作った亀裂を広げるようにゴーレムの胴体に正確な一撃を加える。
着地したエルはすぐに魔刀を仕舞うが、見た目では巨大ゴーレムが斬られたような印象は受けない。
「エル、何も変化がないけど?」
「安心しろ。既にあの巨大ゴーレムはもう真っ二つだ」
エルが自信満々に答えた直後、本当に巨大ゴーレムは縦に真っ二つに割れて崩れ落ちた。
さすがに、ここまで壊れると宙には浮けないようだ。
ガシャンと音を立てて地面に落ち、ただの残骸と化して活動を停止する。
「だから言っただろう。もう切れているって」
「ええっ! 凄いな!」
最後の最後で、一番の難敵に止めを刺した。
エルは、かなり美味しい所を持っていったのだ。
「エル! 凄い一撃だったな!」
「タネを説明すると、あの巨大ゴーレムはヴェルの一撃で大ダメージを受けていたのさ」
見た目には胴体部分の正面装甲の一部が切れただけに見えたが、実際には他の部分も見えない傷でボロボロになっていたらしい。
そこにエルが、魔刀で一撃を加えてその崩壊を促したのだと言う。
「それで真っ二つであるか……」
みんな大量の魔力を使ってしまったが、あのしぶとかった巨大ゴーレムは倒れた。
一番頑丈だった胴体部分も真っ二つとなり、崩壊して崩れ落ちている。
「ヴェンデリンよ、あの二人の確認をしないと」
「そうだった」
テレーゼの指摘で急ぎゴーレムの残骸の山へと向かい、ゴーレムに乗っていたニュルンベルク公爵と魔族を探す。
まず最初に、右腕、右足が切り落とされ大出血したニュルンベルク公爵の姿を発見した。
俺とエルの両断に巻き込まれて、その身を切り裂かれたようだ。
辛うじて意識はあるようであったが、その怪我の具合と出血量を見ると助かりそうにない。
「あなた、『奇跡の光』がありますが……」
そうだ、エリーゼの『奇跡の光』だけは例外であった。
俺に使用するかどうか聞いてくるが、それに答える前にニュルンベルク公爵の方が声を上げる。男宝
「ここで中途半端に情けをかけるな。魔法で全治しても、あのバカ皇帝の三男の裁きを受けてどうせ死刑になる。なら、ここで無様に死んだ方がマシだ」
「いや……、しかし……」
さすがに死にそうな人間を放置する事への罪悪感と、生かしてペーターの元に差し出すという案もあるのだという考えで揺れていると、そこにテレーゼが意見を述べる。
「そうじゃの。このまま死なせてやれ。反乱の首魁は帝都で曝し首になるはずじゃ。死体から切り落とすも、生かして首を刎ねて処刑するも同じであろう」
「テレーゼらしい言い方だな。だが今は感謝する」
俺はテレーゼの言に従い、ニュルンベルク公爵をこのまま死なせてやる事にする。
「やはり負けたな。最初にテレーゼを帝都で殺し損ねた時に……そしてそれを助けたのがバウマイスター伯爵であると聞いた時にそういう予感はした」
ニュルンベルク公爵の口調は普段と変わらなかったが、手足の切断と大量出血で苦しそうな表情を浮かべていた。
「せめて、苦しみの無い死を」
それを見たエリーゼが、緊急で切断傷を塞いでこれ以上の出血を防ぐ。
失った血を補填していないのでじきに死ぬが、傷の痛みなどは消えたはずだ。
「感謝する。敵に情けをかけるとは聖女の二つ名に相応しいのか……。羨ましいな、バウマイスター伯爵」
「はい」
こういう時にどう答えていいものかわからない。
なので、一言で簡潔に答えておく。
「いい奥さんであるという一般的な羨ましいはともかく、俺はバウマイスター伯爵が羨ましいよ」
「そうですか?」
魔法は使えるが、中身が小市民なのと優柔不断なせいで、色々と利用されてしまっているように思うのだ。
「貴族で次男以下に生まれてその身分を失う。俺にはその悲哀があまり理解できなくてな。話に聞いた事を抽象的には理解できても、俺は長男で跡取りだ。次男以下でもないのに理解できるという方がおかしい」
「そうですね」
ニュルンベルク公爵が言いたい事は、俺にも理解できた。
自分がその立場でもないのに、その気持ちがわかるという奴は、ただの偽善者であったからだ。
「だから、子供の頃には冒険者などになって自由に生きていける彼らを羨ましいと思っていた。彼らからすれば、公爵家の跡取りである俺がそんな事を言えば激怒するのであろうが……」
人は、自分にない物を欲しがる。
『隣の芝生は青い』というのが正しいのであろうか?
「幼少の頃に、何度か妾と冒険者ゴッコをして遊んだの」
「あの時は楽しかったな……、テレーゼも女剣士役をして……」
ニュルンベルク公爵の脳裏には、子供の頃にテレーゼと一緒に冒険者ゴッコをした光景が浮かんでいるのであろう。
「だが、俺はニュルベルク公爵で、テレーゼは結局フィリップ公爵になったな。俺らから言わせれば、これは血の呪いであろう」
「そうじゃの。『嫌だ、継ぎたくありません』とは口が避けても言えぬ。誰かに言うわけにもいかぬ」
「千二百年の歴史があるニュルンベルク公爵家とはいえ、俺が自分で創設したわけでもない。惜別の念など沸かぬよ。ただ義務感でニュルンベルク公爵をやっていたのだから……」
能力があったニュルンベルク公爵は、公爵就任後によき為政者となり、帝国中枢でも軍事の天才として将来帝国軍を率いる立場になる事を期待された。
若き才人として期待されたわけだが、それを本人が望んでいたわけではない。
だから次第に、心に闇のような物が生まれていったのであろう。
「よき領主様、将来を期待された軍指揮官。こんな俺を周囲の人達は称賛し羨むが、俺は全然嬉しくなくてな……。だから、こう思ったんだ。ならば、この能力と地位を使って何か大胆な事をしようと……」
どうせなら、帝国を掌握して王国も攻め滅ぼして大陸を統一する。
そのくらい無謀な夢に挑もうという結論に至ったのであろう。
「そう思って動くと虚しさを少し忘れられてな。それで出る犠牲者の事なんて考えなかった。勝てば虐殺者であるはずの俺が称賛される。負けても無謀な賭けに出て敗れ去った愚か者としての評価が残る。楽しいじゃないか」漢方蟻力神
「……」
みんな、誰もニュルンベルク公爵を非難しなかった。
なぜなら、そんな事をしてもこの男には何ら効果がない事に気がついたからだ。
「俺が無様に敗死して、歴史あるニュルンベルク公爵家は断絶する。テレーゼは俺に勝ったのにフィリップ公爵位と次期皇帝の座を失った。皮肉なものだな……」
ニュルンベルク公爵は、俺に意味ありげな笑みを浮かべながらテレーゼと話を続ける。
「そうよな。今の妾は強制引退させられ名誉伯爵となった。帝国におれば飼い殺しは確実で、為政者としてのペーター殿の心変りがあれば消されるかの。まあ、その心配は帝国を出るので無用ではあるが」
「帝国を出る? 自分一人で自由に生きていくのか?」
「平民のように全く自由というわけではないが、フィリップ公爵時代よりは遥かに自由じゃの」
「そうか……」
「ペーター殿とヴェンデリンによって引き摺り降ろされた時には驚いたがの。今にしてみれば、これ幸いというわけじゃ」
テレーゼが笑いながらニュルンベルク公爵に言うと、彼は一瞬だけ羨ましそうな表情を浮かべた。
「テレーゼがこれからどう自由に生きるのか見物だな……。数十年後……あの世で会おう……」
「そうじゃな、さらばだマックス」
そこまで話したところで、ニュルンベルク公爵は静かに目を瞑った。
最後の気力を振り絞って気丈に話を続けていたが、これが限界だったようだ。
「亡くなられています」
エリーゼが呼吸と脈を確認して、ニュルンベルク公爵の死が正式に確認される。
「自由にか……、バカ者めが……」
テレーゼは、顔を上を向けながら呟いていた。
そうしないと、涙を流しているのが俺達にバレてしまうと思っているのであろう。
大貴族が人の前で泣くなど、みっともない行為とされている。
今は構わないのだが、昔の癖でそうしているようだ。
「そんなにニュルンベルク公爵の地位が嫌なら、自分で辞退して出て行けば……。いや、それは妾にも出来なかった。だから、マックスの事は言えぬか……。しかし、他に選択肢は無かったのか? お前は本当にバカ者じゃ」
「ねえ。ヴェル」
「いや……」
イーナは『テレーゼとマックスが、お互いに異性として好意を抱いていたのでは?』と思ったようだが、俺はそうは思わない。
どちらかと言うと友情寄りで、二人は若い身で継ぎたくもない選帝侯という地位とそれに伴う重責に耐えていた同志のようなものだと予想した。
「反逆者として永遠に批判されるかもしれぬのに、他にもっと違う選択肢はなかったのか?」
テレーゼは涙を溢さないように上を向いたままだ。
「真面目過ぎたんだろうな」
今まで静かに耳を澄ませていたブランタークさんがボソと自分の考えを漏らす。
「伯爵様みたいに出来ないと割り切って、他に任せて自分の好きにするみたいな事が出来なかった……」
「ブランターク。前にマックスがヴェンデリンは天才だと言っておったのを覚えておるか? 妾はそれに一部賛同する。ヴェンデリンの魔法の才は他の貴族としての才能など簡単にカバーするから、領地の運営が人任せでも問題ないのじゃ。妾がそれをしたら、あの兄達の傀儡であったの。ニュルンベルク公爵家は武断の家柄、軍系の家臣達の力が強いから、それをすると軍事一色に染まる危険があった。バウマイスター伯爵領のようにはいかぬよ」
「そうですか……」
「世の中とは、なかなか思うようにいかぬの」
「そうですね。ニュルンベルク公爵の遺体を回収して、他にも仕事がありますよ」
例の装置は壊れたようだが、まだ破壊が完全ではないであろう。
他にも、この奥に大量の発掘品が眠っている可能性もある。
これも、なるべく回収なり破壊する必要があった。VVK
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