どうしてこうなった、と蓮弥は手の中のコップをなんとなく撫で回しながら思った。
コップの中に入っているのは、元の世界で言う所の緑茶に近い味のお茶である。
こちらの世界にも紅茶、緑茶の類は存在しているのだが、紅茶は間違いなく紅茶の味をしていたのだが、エルフの国で口にした緑茶はなんとなくであるが味が違う気がする蓮弥だった。男宝
匂いも味も、元の世界の緑茶に似てはいるのだが、ほんのわずかにだが緑茶にはない香りと、甘味があるような気がして仕方ないのだ。
香りの方はなんとなくではあったが、木の香りではないかと蓮弥は思っている。
おそらくは保存方法がなんらかの木製の入れ物に入れて保管しているのだろうが、その入れ物の匂いが移ってしまったのではないか、と言う推測だ。
嫌な匂いではないが、やはりお茶の清々しい香気を殺してしまっている感じが否めない。
甘味に関しては、蓮弥としてはあまり信じたくないのだが、砂糖が入っているのではないかと思っている。
元の世界でも緑茶にミルクと砂糖をぶち込んで緑茶オレ、等と言う飲み物があったと言う知識が蓮弥にはあるが、到底好みに合うものではない。
総じて、提供されたこの飲み物は蓮弥の嗜好には合わない代物だった。
それはまぁ仕方がない、と自分に言い聞かせる。
提供された食べ物に、ケチを付けると言うのは、エルフと人間の嗜好の差を考えてみても実に失礼な行為に当るだろうと蓮弥は思う。
お茶に関する考察はさておいて、蓮弥は自分が置かれている状況へと目をやる。
膝の上で、両手でコップを持ち、ふーふー吹きながらお茶を啜っているのはフラウだ。
肩車か膝の上で抱っこするのがほとんど定位置となってきている雰囲気があるが、実害があるわけではないので蓮弥もそこは容認している。
蓮弥の左隣では、僧服姿のローナが、こちらもカップを両手で保持してお茶に口をつけている。
済ました顔をしているが、時折ちらちらとフラウの方を見る目がなんとなく羨ましそうな表情に見えるのが蓮弥は気になったが、現状の把握には関係ないので見なかったことにする。
さらにその左には、いつもの黒い上着に赤い袴で、デザイン的には巫女服のような格好をしたシオンが、コップをテーブルに置いたまま、テーブルを挟んだ反対側に向けて、威嚇するような視線を送り続けている。
その視線の先にいるのはクロワールだ。
こちらもコップには手をつけず、送られているシオンの視線に臆することなく睨み返している。
二人の間に何があったのか、蓮弥には知る由もなかったが、雰囲気としては険悪であるらしいことは間違いないようであった。
これにはワケがある。
転送門と言うものは行って帰って一往復すると、行き先がエルフの国の場合、また様々な手続き等で二日の猶予が必要になるのだ。
いましがた通ったばかりだから、と言うのが通用せず、手続きがまた最初からやりなおしになる為だ。
クロワールはこれを利用して、シオン達がククリカの街に帰った後、その二日間の間に蓮弥をエルフの国の首都である皇都へ連れて行こうとしたのである。
名目上は報酬の相談と手渡しだ。
実態はエルフの国の奥深くまで蓮弥を誘い込んだ後に、できることならば人族の大陸には返さずに永住してもらおうという意図があった。
これは桁外れの魔力と戦闘力を持ち合わせる蓮弥をエルフの国に引き止めておくことからくる実益もさることながら、クロワール自身が蓮弥を帰したくないと思った所に起因している。
35番目だろうが皇帝の娘、と言う肩書きはそれなりの権力の行使を可能にするのだ。
余談だが、エルフの国において、それなりに裕福で地位のある家柄であれば、娘や息子の数の総計が30を超えることは珍しいことではない。
作って養えるのであれば、作ることになんの罪悪感があろうか、がエルフの価値観であり、それを可能にする若さと寿命を持ち合わせているのだから、自然な事である、とも言える。男根増長素
この世界におけるエルフの繁殖力は、それなりに逞しい。
そうでなければ、エルフと言う一つの種族だけで一つの大陸を席巻することなどできなかっただろう。
話は戻る。
クロワールの計画は、なんとなくにでも意図を察した蓮弥の抵抗にあって難航していたのだが、これにとどめを刺したのがシオンだった。
本来、二日間は戻れないはずのシオンが、翌日あっさりとエルフの国に舞い戻ってきたせいである。
流石にクロワールもこれには驚いた。
慌てて手続きを見直させたのだが、どうやらシオンは通常の手続きをすっ飛ばしてかなり強引な手段で転送門の使用の許可をおろさせたらしい。
できないことではない。
できないことではなかったが、それをする為にはそれ相応の権力が求められる。
シオンが蓮弥の所に戻る前に、蓮弥の皇都行きの言質だけでも取ってしまおうと焦ったクロワールが蓮弥を説得している最中に、シオンが乱入。
そのまま、どういう理屈なのか事態をあっさりと把握したシオンがクロワールと口喧嘩をし始めて、事態は混乱し始めて、最終的にはにっこり笑う蓮弥の両手を駆使したアイアンクローにシオンとクロワールが一気に撃沈されて沈黙。
人族の共通語とエルフ語の間で、通訳なしになんで口喧嘩が成立したのだろうと訝しがりながら、蓮弥はこれ以上騒ぐようなら割るからなと警告を送り、割られてはたまらないからと睨み合うだけとなったシオンとクロワール。
ローナとフラウは我関せずを貫き、さてどうやって収拾をつけたものかと蓮弥が思案し始めた辺りでエルフの衛兵が、来客の到着と客間へご足労願いたいと言う言葉を携えて蓮弥を訪問してきた。
そして今に至るわけだが、と蓮弥はうんざりした視線をテーブルの上座へ向ける。
そこに座っているのは、一言で言うならば美男子であった。
所謂イケメンと言う存在である。
短くさらさらとした金髪は綺麗に整えられ、細く整った顔立ちは女性ならば十中八九はすれ違えば振り返って二度見することは間違いないだろう。
身につけている萌黄色の衣装には、きらびやかではあるが嫌味にはならないくらいの装飾が施されており、細くしなやかなその手には宝石をあしらった錫杖が握られている。
その背後には完全武装のエルフの兵士が数人、かなり緊張した面持ちで直立不動の体勢で待機しており、座っている人物が醸し出している雰囲気とあわせて、相当な地位にあるエルフなのだろうことはたやすく見当がついた。
「なぁ……本物か、あんた?」
本物なんだろうなぁと思いつつではあったが、一応確認のために蓮弥は尋ねてみる。
その人物が誰であるかと言うことは事前にクロワールから説明されていたのだが、今一つ信じられないと言うか実感が沸かない。
普通に考えて、クロワールが口にした人物は、おいそれと出歩くことなど出来ないはずだからだ。
そんな蓮弥の疑いの視線を向けられても、上座の人物は気を悪くした様子も無く、ほんの少しだけ首をかしげてみせた。
動作の一つ一つが妙に優雅で、蓮弥はやっぱり本物なのだろうなぁと思う。
「本物なのか、とは?」
尋ね返してきた声は低く通りの良い美声だ。男用99神油
女性ならば、耳元で囁かれただけで腰が抜けるかもしれないくらいに艶も含んでいる。
「だから、目の前におわしますあんたが、35人も子供作っちゃった、人族の俺から見れば信じられない程の種馬たる、ロイシュ=パス=ティファレト皇帝陛下ご本人でしょうか、と尋ねてる」
蓮弥の質問に、部屋の空気が凍る、ようなことはなかった。
相変わらず兵士達は緊張した面持ちのままであったし、種馬呼ばわりされた本人は聞いているのか聞いていないのか分からないようなおっとりとした表情のままだ。
一応、シオンとローナの表情は固くなったが、クロワールはテーブルの上に突っ伏してしまったままぴくりともしなくなっている。
「その質問にならば、否、と答えよう」
てっきり怒り出すかと蓮弥は思っていたのだが、上座の人物はあくまで優雅にゆっくりと首を左右に振って蓮弥の質問を否定した。
首を振る動作にまで気品が溢れてるとか、高貴な人物と言うのは恐ろしいなと思う蓮弥であったが、すぐにその首を傾げる。
答えが否定だと言うことは、目の前の人物はクロワールから聞かされていた皇帝陛下本人ではない、と言うことなのではないかと。
「どういうことだ?」
「それは、だな」
上座の人物は言葉を続けるのに少しためを作ってから。
「私は第12代皇帝であるロイシュ=パス=ティファレトであることは相違ない」
「ふむ?」
「だが、人族の貴殿からすれば信じられぬ話ではあろうが、私が成した子の数は、認知していない隠し子も含めれば全部で100を超える。35と言うのは私の正室との間の子の数であり、私の子全てとなればそれは間違いであるが故に、否と答えた」
「おいこら駄目親父? 認知してやれよ……」
「父様っ!?」
流石に聞きとがめて低い声を出した蓮弥の言葉に、どうやら初耳だったらしいクロワールの悲鳴が重なる。
人数に驚いたのか、皇帝陛下のぶっちゃけ具合に驚いたのか、ローナは椅子の上からずり落ち、エルフ語のわからないシオンは何が起こったのかわからず目をぱちくりとさせている。
一人、フラウだけが蓮弥の膝の上で、いまだお茶の入ったコップをふーふーと冷ましている。蔵秘回春丹
「駄目親父とは心外な。全て私の裁量の内で不自由なく育てていると言うに」
「甲斐性はすごいなおい……けど、皇位継承権とかどうするんだよそれ……」
椅子からずり落ちたローナが椅子に戻ろうとして、ずり落ちた時に結構際どい所まであらわになった太ももや、揺れる胸元に皇帝陛下の背後の兵士の何人かが、ガン見と言っていい視線を向けているのを、ここまで改革派の波が届いているのかと慄きながら蓮弥が尋ねる。
「心配には及ばぬ。私の治世はあと300年は続くであろうから、その間にどうとでもなる」
「滅びろ、エルフ……」
「レンヤさん……お気持ちは分かりますが、一応私の国でもありますので……」
初めて聞いた現実から受けたショックから立ち直れていないらしいクロワールが、それでもなんとか声を搾り出す様子に、なんとなく同情が沸いた蓮弥はそれ以上の追求は避けることにした。
「して、レンヤと言ったか。この度、魔物の軍による襲撃からこの街を守ってもらったこと。まずは礼を言わねばなるまい。貴殿のおかげで私の国民や兵士が多数死なずに済んだ。この通り、礼を申す」
皇帝が蓮弥に頭を下げるのを見て、エルフ達の間にどよめきが起きた。
それを蓮弥は嫌そうに手を振りながら。
「止めてくれ、こっちにはこっちの思惑があってやったことだ」
「何を望む、と尋ねてみるが?」
顔を上げながら尋ねられた蓮弥は、指折り数えながら思いつくままに言ってみる。
「えーとだな。醤油と味噌の安定供給とか、なんか珍しい食べ物がいいな。人族の大陸じゃ手に入りづらいものなんか最高だ。アロスって作物があるなら、そいつも欲しいし、それと金属、貴金属の類はもらえるものならもらえるだけ欲しいね。なんかあるんだろ? 珍しい金属とか箔の付いた材料とか? あのエルフの固有魔術と言うのもいいな。教えてくれるなら教わりたい。それと家が一軒ほしいな、小さいのでいいから。別に住む気はないんだが、拠点は沢山あるに越したことはないしな。領地とかくれるならもらわないこともないぞ? 爵位とかはいらないから、徴税権だけくれ。それからー……」房事の神油
「流石に欲張りすぎでしょー……」
蓮弥が何を言っているのか、ローナに通訳してもらっていたシオンが呆れて呟く。
「皇帝陛下が何が欲しいってわざわざ尋ねてきたから言ったまでだぞ? 望むだけならタダだろうに」
当然だろうと蓮弥は悪びれた様子も無い。
蓮弥の要求を黙って聞いていた皇帝は、テーブルの上に身を乗り出し、肘をついて指を組むと、蓮弥をじっと見つめながら口を開いた。
「この身は皇帝の位にあるが故に、貴殿の望み、今の所全て叶えてやれなくはない」
「もったいぶった言い方だな。素直に望みすぎた馬鹿め、と言えばいいものを」
「いや、街一つとそこの住民に兵士の命全ての価値を考えれば、領地はちと行きすぎた気もするが、それ以外はそうでもない。ああ、固有魔術の習得は諦めた方が良い。あれはエルフと言う種族であることが前提条件となるが故に」
「じゃあ領地以外はくれるって言うのか?」
いくらなんでも気前が良すぎやしないだろうかと思う蓮弥。
その蓮弥の言葉に皇帝は頭を振った。
「一つ、私の提示する条件を飲んでもらえるのであれば。領地も下賜しよう。どうだ?」
皇帝は蓮弥の目をじっと見つめながら、にやりと口の端を歪めて見せた。procomil
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