カミュが地面に魔力を流し始めると、ヒヨミがその行為を見て呟く。
「……何かする気だな」
しかし傍観者といった態度を崩さず、ただ腕を組んで黙って見つめているだけだ。まるでカミュがこれから何をしようとしているか楽しみにしている雰囲気さえ漂わす。Motivator
「デザートストームッ!」
カミュが砂漠化した部分の砂がウネウネと動きだし、その上に立っている木のモンスターたちは身動きを拘束される。次第に砂が渦を巻き始め、その回転力が増していく。
そして竜巻を描きながら重いはずの木のモンスターたちは天へと風に運ばれ昇っていく。ただの砂嵐ではなく、その砂が刃物状に鋭くなっているので、巻き込まれたモンスターたちは風に遊ばれながら体中を切り刻まれてしまう。
そして竜巻から弾き飛ばされたモンスターたちは地面に激突し沈黙する。
モンスターたちがいなくなったお蔭で、ハッキリとヒヨミの姿を視界に捉えることができた。
「……いくよニッキ」
「了解ですぞ!」
カミュの声に反応したニッキがまず先に砂を巻き上げながらヒヨミとの距離を詰めていく。その背後にピタリとつき追従するカミュ。
「前回はお前たちの勝ちだが、今回は譲れんぞ?」
ヒヨミが地面に手をかざし膨大な魔力を注ぎ込んでいく。
「来い……《仙樹宝剣フェルバスター》」
地面に亀裂が走り、そこから剣の柄が突き出てくる。ヒヨミはそれを力任せに引っ張り上げる。
全長五メートル。刃の太さ三十センチ。ニスでも塗ったかのように艶光りを放っている黒い樹で創り上げられた大剣。今その剣がヒヨミの右手に装備された。
以前戦った時も、ヒヨミはこの剣を使い二人を圧倒していた。ニッキの《爆拳》でも傷一つつけられないほどの頑丈さを持った武器なのだ。SPANISCHE
FLIEGE D5
普通ではその大きさや重さから扱うにも一苦労するが、鋼のような筋肉の塊を全身に纏うヒヨミは、いとも簡単にそれを振り回す。
「ニッキ、合図したら……いい?」
「オッケーですぞ!」
走りながらカミュはニッキに言うと、二人がその場から左右に分かれてヒヨミを挟む形になった。
そしてすかさずカミュが地面に手を触れると、まだ地面のままだった場所が砂漠化していきヒヨミの足元にも広がっていく。
「準備ができたらさっさと来い」
余裕綽々といった感じで発言するヒヨミに対し、カミュは睨みつけながら答える。
「なら思い知らせてあげる。……クローンサンド」
砂からカミュそっくりの物体が出現する。徐々にヒヨミの周囲を囲んでいく。
「なるほど、大した数だ」
ヒヨミはガシッと《仙樹宝剣フェルバスター》を肩に担ぐと視線だけを動かして複数のカミュを確認していく。
それぞれのカミュが双刀を構えてヒヨミへと突っ込んでいく。するとヒヨミの目が鋭く光り、ブオォンッとヒヨミの周囲に風切り音が響く。
考えられない速度で大剣を振り回した。その行動によって生み出された風圧は凄まじいもので、カミュたちを後方へと吹き飛ばしていく。だが中には上空からヒヨミ目掛けて突撃している者もいた。ヒヨミの意識もそちらに向き、同じように大剣を上空に向けて振る。
砂でできているカミュは一瞬で霧散して大地に降り注ぐ。しかしそこでヒヨミは足元の違和感に気づく。
「む?」
見れば足元の砂がヒヨミの身体を上っていく。K-Y
「ふむ、上空に意識を向かわせてから、足元の砂を動かして相手を拘束か……理にかなった攻撃だ」
動きを奪われながらもいまだに余裕を見せて分析しているヒヨミ。
「今だよニッキッ!」
カミュが叫ぶと、今まで沈黙を守ってきていたニッキがカッと目を見開き、
「待ってましたぞ! 《爆拳・参式》っ!」
地面にその右拳を突き立てると、その威力が大地を伝ってヒヨミのもとへと向かう。そして彼の足元が突如として爆発を起こした。
「まずは先制成功ですぞぉっ!」
ニッキは力強く拳を高く突き上げて、カミュも納得気にコクンと頷く。そして爆煙の中から、含み笑いが聞こえてくる。
「ククククク、やはりなかなかのコンビネーションだな」
そこにいるであろうヒヨミが大剣を振り回し、その風圧によって煙を晴らす。
「以前よりも、若干攻撃力も上がっている。まさに発展途上か……面白い」
ニッキの攻撃によって無傷ではないが、それでも大したダメージにはなっていないのが分かる。
「やっぱり《参式》ではその程度ですか……」sex drops
小情人
ニッキは自身の技があまり効いていないことに悔しくて歯噛みをしている。
「……やはり《四式》をやるしか……」
「けどそれはまだ完璧じゃねえだろ?」
いつのまにかカミュの肩からニッキの背後へと位置取っていたテン。
「で、ですがこのままではダメージを与えられないですぞ」
「……まだカミュだってアレがある。それに《四式》をするにも力を溜める間はお前は無防備になっちまうしな」
そこへカミュがやって来て、テンがニッキが《四式》を使おうとしていることを話す。
「……分かった。それじゃ俺が時間を稼ぐ」
「い、いいのですかな?」
「うん、それに俺もアレを使おうと思ってたから。だからニッキは少し離れたところで準備しといて?」
「……はいですぞ」
ニッキも覚悟を決めたようにしっかりした返事を返した。だが突然ヒヨミが突っ込んできた。ハッとなったカミュは咄嗟に前方に砂壁を作る。
「ニッキ、ここは俺に任せて!」
ニッキは頷くとその場から離れていく。だが次の瞬間、砂壁が力任せに弾かれ、中からヒヨミが飛び出してきて大剣をカミュに向けて振り回した。VVK
カミュは大きくしゃがみ込んで回避し、ヒヨミが振り切った隙をついて刀を鞘から抜いて喉元へと突き刺そうと懐へ入るが、突如下から先端が尖った木が出現する。
「っ!?」
気づいたカミュは何とか身体を捻り避けようとするが、左腕に掠ってしまい血が飛び散る。カミュは一旦攻撃を止め、その場から脱出する。
そしてある一定の距離を保ちヒヨミと相対する。彼の左腕の傷口からはドクドクと血が流れ出ている。
さすがはアヴォロスの直近。いくら懐へ入ろうが、今のような対応をされれば、なかなか攻撃を当てることすら難しい。
「だけど……この血はちょうど良かった」
カミュは左腕を振り、自身の鮮血を砂へと撒いた。
「ここからは第二ラウンド……俺の血は感染する」
次第に砂に染み込んだ赤が広がっていく。その光景を見てヒヨミは眉をひそめて警戒を高めている。
「俺のレッドアイドル……見せてあげる」
それはかつて、日色と戦った時にだけ見せた魔法だった。漢方蟻力神
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