2015年3月16日星期一

一見幕間に見える本文らしい

「ルート1から順番に再度検索開始。現在全ルートの5%を完全封鎖。あちらの世界へのダメージ率2%のラインを行ったり来たりしてますが、許容範囲内と認識。召喚率41%を超えて尚上昇中。インターセプトの成功率が4割を切ってるのが辛いですね。どうしても距離が近い分、あちらに主導権を握られてしまいます……召喚経路発見、これをインターセプト。……あぁだめです、別ルートで抜かれました。侵食率また上がります」

 「召喚元の術者への精神阻害を開始……こっちも無理です、人族の管理者の強力なジャミングがかかっていますので、対象の絞込みが甘くなります。放出したウィルスの98%の無効化を確認。2%は保留か待機状態ですが再起動の可能性なし。防壁が厚すぎます……再度放出しますか?」

 「承認。と言うか、あっちが音を上げるまで連続してぶっこんでやりなさい。少しは他の処理の邪魔になるかもしれないし」

 「了解。修正をかけた亜種を混ぜて再度放出します」

 「あのー……主様?」

 なんだか妙な盛り上がり方をしている雰囲気を察してか、ギリエルは遠慮がちに声をかけた。
 今、彼女がいるのは壁中に何か良く分からない機械が埋め込まれた広大な部屋だ。
 その中央には幼女が仁王立ちをしており、それを取り囲むように多数の端末が配置され、端末の前には目を隠すような半透明のバイザーを装備した天使達が、何故かキーボードのような入力端末をぱちぱち叩きながら意味の分からない台詞を吐いている。

 「お取り込み中申し訳ないのですが、一体何の騒ぎですこれ?」

 「作業内容? 部屋の調度? どっちが聞きたい?」

 「どっちも聞きたいですが……」

 「部屋の事なら、趣向を変えてサイバーパンクっぽくしてみた。かっこいいだろ?」

 言われてギリエルはぐるりと周囲を見回す。
 部屋の天井は高く、壁は大きかったが、その壁を埋め尽くすように用途の分からない機械がぎっしりとはめ込まれており、何を示しているのかわからない計器が、見てもやっぱり分からない値を吐き出している。
 薄暗い部屋の中で、計器の明かりが明滅する様子はその手の話が好きな人が見れば、かっこいいのかもしれなかったが、ギリエルにそっちの趣味は無い。

 「意味あるんですか、それ?」

 「意味なら無い!」

 きっぱりと言い切られて、げんなりとするギリエル。
 それでもなんとか気を取り直して別の質問をぶつけてみる。

 「では、作業内容の方は?」

 「こっちはね……」

 ぎりっと歯軋りの音をさせつつ、作業中の天使達を見回す幼女は、握りこぶしなど固めながら忌々しそうに言い捨てた。

 「勇者召喚の儀式の邪魔をしてるとこ」

 「邪魔ですか……」

 「そう、見てくれはこんなだけど、実際やってるのは、召喚先の世界から召喚元への世界の経路を一つずつ検索して、召喚の魔力を見つけたらこれを潰すって作業。召喚術式に使用される魔力は膨大だし、術者も一人では無理だから、魔力はいくつかの経路に分かれて召喚元の世界へ送られている。一度に多くの魔力を送ることができる太めの経路は最初から閉鎖。でも経路の数は無数にあるし、一体いつどの経路が使われるか分からないので、もう儀式の半分近くまで終了してしまった」

 「主様でも、ですか」

 少し驚いたように言うギリエルに、幼女が向けた顔は、とても幼女が浮かべるような笑みではなく、とても疲れた老人のような笑みであった。

 「私が全能なら、こんな苦労はしないって」

 「そう……ですか。召喚自体は止められないんですね」

 「無理だね。どうしてもこっちが後手に回ってしまう。遅らせることはできても、阻止は無理だ」

 かなり悔しそうな顔をする幼女に、ギリエルはふと思った質問をぶつけてみる。

 「それにしても、どうして召喚を止めようと? 魔族に魔王が出現した以上、人族には勇者がいないとお話にならないのでは?」

 「お話にならないからこそ、だよ」

 意味が分からずに、眉根を寄せるギリエルに対して、幼女はまるで出来の悪い生徒を見る教師の目でギリエルを見る。

 「ギリエル、将棋って知ってる?」

 「え、えぇ。あの蓮弥さんがいた世界のゲームの一つですね」

 「そうそう。あれはお互いに最終的には相手の王を取ろうとするゲームなんだけど、実力差に応じて駒の数を変えたりするんだ。けどね、絶対に数が減ることが無い駒があるんだよ」levitra  北冬虫夏草  Motivat
 「それは……王または玉ですね?」

 「そうそれ。それが無くてはゲームにならない。それはこちらの陣取りゲームも同じなのさ」

 しゃべっている内に、あの世界の管理者達への怒りがこみ上げてきたのか、幼女の瞳が危険な光を帯びる。
 さすがに前に一度止めているので、考え無しに怒りに任せて力を振るうことはないだろうとギリエルは思っていたが、それでもやはり怒っているこの幼女は、ギリエルからしても非常に怖い存在だった。

 「魔王がいて、勇者がいる。これで初めて駒が揃ってゲームとかお話になるのよ。どちらかが欠けていたらそれはお話にならない」

 「つまり、主様がここで勇者の召喚の邪魔をしている限りは、あの世界での陣取りは始まらない、と?」

 「そういうこと。できるならば、完全に止めてやりたかったんだけど、やはりダメだった」

 「あれ? そういえば、そうなると言うことは今回は人族と魔族だけのゲームになるんですか?」

 悲壮感漂う幼女を完全に無視して、ギリエルが頭に思い浮かんだ疑問を口にする。
 古今東西、あの世界においては何故か勇者を異世界から召喚するのは人族ばかりで、他の種族が勇者召喚の儀式を行ったと言う記録は、ギリエルの知る限りなかった。

 「そんなわけないでしょ。人族だけが異世界から勇者を呼ぼうとするだけで、他の種族は自分達の中から勇者を選出するって言うだけ」

 「そうすると、既に他の種族は勇者を選出してしまっている?」

 「いや、まだだね」

 幼女は頭をがしがしとかきむしりながら答えた。

 「他種族に勇者が出現するのは、人族の勇者召喚が引き金になる設定だから。だからこそこの召喚の儀式を潰せれば、いくら魔族が遊びたがっても、ゲームは始まらないんだけどね」

 「そうなんですか……でも阻止に失敗しちゃったんですよね」

 「お前……なんかイラっとするな」

 じろりと幼女に睨まれたギリエルは慌てて明後日の方を向く。
 実の所、上司である幼女が力及ばず失敗する様子は、見ていてなんだかちょっとだけ気持ちが良くなるギリエルだったが、そんなことを正直に答えてしまったらどんな目にあわされるか分かったものではない。
 しかも、目が合っただけでもその辺を悟られそうな気がするので、ギリエルは必死に視線をそらす。

 「まぁいいけど。召喚元と召喚先に対する影響を考えなければ、完全阻止は難しくなかったんだよ。とても簡単に、繋がっている経路を全部封鎖すればいいだけなんだから」

 「それをしなかった理由をお聞きしても?」

 「簡単。どっちの世界もたぶん滅茶苦茶になる」

 幼女が天使の一人が覗き込んでいたモニターを指差す。
 そこには無数の数字が並び、刻一刻とその数値を変動させていたが、そのうちの幾つかは赤い文字でゼロを示したまま、変動が無い。
 そのモニターの横に付いている計器は、0.02と言う数値を中心にして、上に行ったり下に行ったりしていた。

 「これが経路の監視モニター……と言うことにしてある」

 「はぁ」

 「この赤いゼロが封鎖されている経路。現状、既知の経路全体の5%を完全に封鎖してみた。結果は蓮弥さんのいた世界の側へ天変地異が起こり始めてる。長いことこのままにはできないから、もう封鎖を解除するべきかもしれない。封鎖し続けていても召喚が止められないのだし」

 「そうですねぇ。迷惑になるだけならさっさと封鎖解除するべきでしょうねぇ」

 「……なんだか、お前一人軽い調子だね」

 あっさり言い放ったギリエル。
 それが酷く不満に感じる幼女。
 もしかしてこいつ、自分の話を半分も理解していないんじゃないかと疑う幼女だったが、これは単に立ち位置の差がもたらしている反応の差でしかなかった。

 「まぁ、私のお仕事の範囲ではありませんし。なんとかしろと言われても主様にどうすることもできないことが私風情にどうにかできるわけもありませんし?」

 「正論だけど……なんだかイラッとするな……」

 「それは八つ当たりです、主様。それで、この大掛かりな妨害作業は止めにされるので?」

 「そうだな。続けていても時間稼ぎだけで成果がないわけだし。ここを維持するコストもかさむだけだしな」

 そう決めてしまえば行動に移すのは早い。
 幼女の撤収! の一言でそれまでモニターの前でキーボードをカチャカチャとやっていた天使達は、何かの冗談にも見える手際のよさで、どういう原理なのかさっぱりギリエルには分からなかったが、彼女達がいた部屋を、その部屋自体を分解してどこかへと撤去していく。
 近未来的サイバーパンクの舞台になりそうな薄暗い電算室は、あっと言う間に無くなり、見渡す限り真っ白ないつものなにもない空間へと変貌する。
 撤去作業を行っていた天使達は、もう片付けるものがないことを確認すると一斉にお疲れ様でした、と頭を下げるといずこへとも知れず飛び去っていった。
 きっと、他の仕事に戻ったのだろうと、ギリエルは思う。
 こちらの寸劇の方が彼女達にとってはイレギュラーな仕事だったはずだ。

 「時間稼ぎを止めたから、すぐにでも勇者が召喚されるだろうね」

 飛び去っていった天使達を見送った状態で、幼女が呟く。

 「まぁ召喚される人間の選定から始まって、人族の管理者による現状説明と界渡りのお願いから、その人族がそれを了解して……勇者っぽい技能の添付とかギフトの選択なんかをするお決まりの流れがあるから、儀式自体が成功しても、勇者が降臨するまではいくらかの時間があるとは思うけど」

 「面倒な手続きが多いんですねぇ。もう必要そうな技能とギフトを適当にくっつけて、送っちゃえばいいじゃないですか」

 何をそんな効率の悪い方法を取っているのかと呆れるギリエルに、幼女はそのさらに上を行く呆れ具合でギリエルを見て言った。

 「お前ねぇ。世界の管理者にとって、召喚された者の前におぉ勇者よ……ってな感じで姿を現すのは、管理者だったら誰でも一度は夢見る素敵イベントの一つなんだぞ?」

 「マジですか? どれだけ脳みそが毒されてるんですかそれは?」

 「知らないけど、事実なんだからしょうがないじゃないか」

 「もしかして主様も、実はそういう感じで話を進めたかったりしてたんですか!?」

 「一緒にするな!」

 酷く嫌そうな顔で、幼女は詰め寄るギリエルに対して叫び返すのだった。

 
 ここではないどこか。
 今ではないいつか。
 時間も場所も存在しない空間。
 そうとしか形容できないその場所で、彼は目を覚ました。
 動かない身体を覗き込んでいるのは、緑色の長い髪を自然に流し、純白の貫頭衣を身に纏った一人の女性。

 「貴女は……? ここは一体……?」

 緑の髪の女性は、質問される声を遮り、そのたおやかな白い手で彼の瞼を塞いだ。
 瞼の上に置かれて手の平から感じる、温もりと芳香が、彼の気持ちを落ち着けていく。

 「おぉ……勇者よ。弱き者達の呼び声に応えてくださった事に感謝をします」

 厳かに告げる緑の髪の女性。
 瞼を塞いでいることで、彼からは女性がどんな顔をしてその言葉を口にしたのかは見えなかったが、慈愛に満ちたその声に、きっと優しげな顔をしているのだろうと彼は思った。
 そして彼女は、彼がきっとそう思っているのだろうと考えて、ほんのわずかに口の端を吊り上げるのだった。蒼蝿水(FLY D5原液)  Motivator  SPANISCHE FLIEGE

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