2015年3月26日星期四

歴史的瞬間

【獣王国・パシオン】へ帰ると、さっそくレッグルスとプティスは《黒樹の種》をレオウードのもとへ持っていった。日色はその前に用事があると言って、厨房へと急いだ。


 もちろん《銀米草》がちゃんと届いているかの確認である。ニッキもミミルもついてくるというので一緒に向かった。SPANISCHE FLIEGE D5


「……あ、オッサン?」


 厨房に入ると見知った顔を見つける。アノールド・オーシャンだ。


「おうヒイロじゃねえか! お前だろ、この大量の花を送ってきたの? 料理人たちがあまりの量でひっくり返ってたぞ?」
「一応送ると前もって言っておいたはずだ」
「にしてもこの量はなぁ」


 厨房の三分の二ほどの空間を埋め尽くすほどの大風呂敷の群れ。この一つ一つに《銀米草》が詰め込んである。料理人たちは風呂敷を解いて大量のソレを整理するのにてんやわんや中らしい。


「オッサンは何故ここに――――ってアンタの後ろでチラチラ見えてるのは何だ?」


 よく見ると、アノールドの陰に隠れてチラチラと日色を見ている少女がいる。いやまあ、誰かは分かってるのだが……。


「何やってるんだ、ミュア?」
「あぅっ!?」


 顔を真っ赤に染め上げながら素早く全身をアノールドの後ろに隠すミュア・カストレイア。もう何度か会っているはずなのだが、まだこうして面と向かうと照れた素振りを見せる。


「や、やっぱ名前で呼ばれるのは緊張するよぉ……」


 小声でそんなことを言っているが、日色の耳には届いていない。そんな彼女を見てミミルはクスッと笑みを零すと近づいていく。


「ミュアちゃん!」
「あ、ミミルちゃん、お、おかえり」
「はい、ただいまです! ほらミュアちゃん、そんなところに隠れていないで出てきましょう!」
「あ、引っ張らないでミミルちゃん! わ、わたしまだ心の準備が!」
「もう、いつもそれなのですから! ダメです!」K-Y


 強引にミュアの腕を引っ張り表に出すミミル。


(まあ、オレも最初は何となく恥ずかしい感じだったが、コイツのこれは少し大げさ過ぎやしないか?)


 さすがの日色も、キスをされて好きだと言われてそれが親愛からくるものだなどとは誤解しない。それまでは精々が兄を慕う妹のような想いだと思っていたが、ミュアの日色への想いが異性に対するソレなのだということはさすがに理解できている。


 なので戦争が終わり目を覚まして初めてミュアに会った時は、日色も初めて会いたいような会いたくないような不可思議な想いと緊張感があったが、今ではそれも和らいでいる。


 だが会う度にミュアはまだ新鮮な態度を見せてくるので、逆にこちらが恥ずかしくなってしまう感じだ。


「あ、あのあの、そのですね……ヒイロ……さん」
「何だ?」
「あ……っ!?」


 前に出てきたミュアと目を合わせた瞬間にボフッと彼女の頭から湯気が立ち昇り、その衝撃のせいかよろめいたので日色はそっと彼女を受け止める。


「はにゃっ!?」


 さらに紅潮する彼女の顔。これは熱湯風呂我慢大会でも参加したみたいにのぼせ上がった表情だ。どことなく涙目だし。


「あ、あうあう……ヒイロさんの顔……ふにゅ~……!」


 グルグルと目を回してそのまま日色の腕の中で失神してしまった。


「お前……初心うぶ過ぎるだろ」
「ふふふ、ミュアちゃんですから。でも羨ましいです」
「は? 何がだ?」
「だってヒイロさまの初めてを奪ったんですから、ミュアちゃんは。一歩リードされちゃいました」
「…………」


 彼女―――ミミルの気持ちももう分かっている。彼女もミュアと同じ想いを自分に抱いているということは。sex drops 小情人


「ミミルだって負けていられません! 覚悟していて下さいね、ヒイロさま!」
「むむむ! ボクだって師匠のこと大好きですぞ!」


 ニッキも参加してくる。この子に関しては純粋に師を慕っている気持ちの方が強いだろう。だが本当に何故だろうか……。


(何故こうもオレは子供に好かれるんだ……?)


 日色最大の謎である。


(まあ、嬉しいか嬉しくないかといえば、嬉しい方なんだが…………幼女だしな……)


 こちらとしては恋愛対象としてみるのは抵抗があり過ぎる。また恋愛など今までしてきたことがない日色にとっては、とても難しいテーマなのだ。


 ただ彼女たちに好きと言われると、心の奥が温かくなるのは心地好いとは思っている。


「くそぉ……ヒイロめ……ミュアの初めてを奪っただけじゃなく、ミミル様のも奪うつもりか……このロリコン野郎め……」


 ブツブツとアノールドが爪を噛みながら妬ましいことを言っているみたいだが、


「ロリコンはアンタだろオッサン」
「何っ!? 俺の心を読んだのか!?」
「声に出てたぞバカ」
「くっ……ああもう忌々しいっ! 何でコイツばっかモテんだよぉ! 俺だって恋がしてぇぇぇぇっ!」
「厨房で叫ぶな変態。そんなことより暇なら料理しろ鬼畜」
「おいこらテメエ! 誰が変態で鬼畜だ! いっぺんぶん殴るぞホントまったくよぉ!」


 とまあ、通例のやり取りをした後、気絶したミュアをアノールドに任せて日色はレオウードのもとへと向かうことにした。
 彼がいたのは《玉座の間》であり、すでにレッグルスから粗方の説明を受けていたようだ。VVK


「おおヒイロ、待っておったぞ」
「ああ」
「ずいぶん珍妙な体験をしたようだな」
「まあな。ん? もしかしてタマゴジジイのことも聞いたのか?」
「ざっくりとはな。しかしまさか、あそこにそのような者がいたとはな。しかもアダムスとの交流がある人物とは……驚きだ」
「今そいつのことはいい。それで? 《黒樹の種》はどうするんだ?」
「おお、そのことだ。実はな、今から《始まりの樹・アラゴルン》があった場所へ皆で向かおうと言っていたところだったのだ」
「ほう」
「お前もついてきてくれ」
「別に構わんぞ」


 レオウードは触れを出した。その内容は、これから新たな《アラゴルン》の誕生を見せるというようなもの。


 城中の者だけでなく、国中の民たちが一挙に《アラゴルン》のもとへと集まってきた。レオウードは皆に見えるように《黒樹の種》を高々く持ち上げる。淡い光に包まれた種。
 民たちがそれを見て感嘆の溜め息を漏らしている。


「皆の者! ここに我らの《アラゴルン》の復活を願ってこの《黒樹の種》を埋めたいと思う! 聞いてくれ! この種は我が息子―――レッグルスが我が英雄――――ヒイロとともにある場所へ行き手に入れてきてくれたものである!」
「「「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」」」


 日色を英雄視している者たちや、レッグルスを慕っている者たちばかりなので、大いに喜びの声を上げている。


「これより、新たな《アラゴルン》誕生をその眼に焼き付けておくのだ!」


 レオウードは種を胸の前まで持ってくると、身体をレッグルスへと向け腕を突き出す。


「え……父上?」
「これはお前が試練を乗り越えて勝ち取ったものだ。お前の手で埋めるのだ」
「…………分かりました」漢方蟻力神


 レッグルスが種を受け取ると、ざわついていた観客たちも静まり返る。これから一世一代の歴史的瞬間を見逃さないように誰もが息を呑んでいる。
 レッグルスがゆっくりと歩き、《アラゴルン》が存在した場所に立つ。


「……《黒樹・ベガ》よ。我らが創世の大樹よ。今この時をもって、再び我らの前にその姿を見せたまえ」


 レッグルスが種を持った両手をそっと前方へと突き出す。種がフワリと自然に浮き、ひとりでにゆっくりと雪が落ちるような感じの速度で大地へと落下していく。


 そのまま土の中へ吸い込まれるようにして消失した種。すると乾いた大地から次々と草花が生えていく。《アラゴルン》が死んだ時、周囲に生えていた緑も軒並み枯れ果ててしまていて、大地も乾いていた。


 しかし今、種が吸い込まれた瞬間、大地は瑞々しい色合いを取り戻し、緑を復活させた。更にその中心――ピョコッ!


 一際大きな芽が姿を見せた。その姿を見た者たちが―――――――


「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおっっっ!」」」」


 大気を割らんばかりの歓声を響かせる。その芽はまさしく大樹の新芽である。


「皆の者ぉっ! ここに新たな《アラゴルン》が誕生したっ! 今宵は宴だぁぁぁぁっ!」


 レオウードの声に呼応して、全ての者があらん限りの声を発し喜色満面の態度を現す。やはり獣人にとって《アラゴルン》が特別なのだと改めて理解させられる。


 ここに《始まりの樹》ならぬ《次世代の樹・アラゴルン》が復活した。
 まさに、歴史が作られた瞬間であった。男宝

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