2013年12月25日星期三

無理矢理

「君は死にたいのか!」
 船長の怒鳴る声とともに、バシンと乾いた音がした。
 それまで穏やかだったヤツはおっかない顔になり、あたしの頬に痛みを感じた。
「せっかくご両親から授かった命なんだから、もっと大切にしなさい」 挺三天
 乗船して初めてこの人の真顔を見たような気がする。声音も重みを増していて真剣そのものだった。
 こんなふうに言われると、さすがのあたしも反論できない。
「わかりました」
 しょげて言うと、船長は満面の笑みを浮かべた。
 こうしている間にまた船が傾き、あたしと船長は床の上を滑り転がって真っ黒な海の中へと落ちてしまった。
 海の中は熱くもなく、冷たくもなかった。救命胴衣と浮き輪のおかげで、海の底に落ちることなくぷかぷかと浮いていた。
 海上は荒波が立ち、空と水平線の境目がわからないぐらい暗闇に包まれている。
 あたしは激しい波に体を上下させられ、その勢いで海水を飲みこむ。咽喉の奥に引っかかり咳きこんでしまった。
「おい、大丈夫か」
 あたしの耳元に息がかかるように声がした。ずうずうしくも船長はあたしの体に、ぴったり密着して寄り添っていた。
「大丈夫です」
 押しのけたい衝動を抑えて答えると、船長は波に顔を叩きつけられて折角のハンサム顔が残念なことになっていた。
 額には前髪がべったりと貼り付き、目なんかは開けてられない状態で埴輪を彷彿させられる。
 思いっきり笑いたいけど、口を空けた瞬間海水が浸入してきて、したくもない塩分補給をする羽目になってしまった。
 そのとき、ばりばりっと音とともに船体が沈んでいくのが見えた。
 船長は情けない顔のまま、「危機一髪だったな」とクールに気取りやがった。
 だけど、あたしたちは大荒れの海に放り出されている。当然、一難去ってまた一難があるわけ。
 あたしたち目掛けて大きな波が襲いかかる。咄嗟に船長はあたしの体を抱きしめ、大波が頭上に迫ってきた。
「きゃあ!」
 あたしの悲鳴とともにザバァーンと海水が襲いかかる。頭を強打されたうえに、海水を飲みこみ咳き込む。
 呼吸を整える暇もなく、船長の「また来るぞ!」と号令通りに次の大波がやってくる。
 あたしと船長は何回も大波をかぶり、気を失ってしまった。

 穏やかな波の音で目覚めると、嵐は嘘のように収まっていた。
 見上げると青空が広がっていて、海も空を反射して青く輝いている。
 あたしは白い砂浜の上に打ち上げれており、奥のほうには緑色の木々が立ち並び、森林を形成していた。
 熱い砂浜に打ち上げられたせいで、喉がからからに渇いている。喉の渇きを潤そうと、起き上がってみた。
 別段、体の不調はなく、この状態なら遠くまで歩けそうな気がする。
 五メートル先に白っぽい固まりが見えるが、恐らく船長だろう。
 下手に起こして馴れ馴れしくされるのも癪なので、そのまま放っておくことにした。
 木々が立ち並ぶところには、きっと真水があるはず。
 そんな頼りない理論を思い浮かべ、森の中を散策することにした。
 森の中は薄暗くて怖かったけど、喉の渇きには敵わない。
 聞いたことのない鳥だか獣の声が木霊して、まるで秘境に足を踏み入れた探検家の気分になった。
 せめてバナナとかマンゴーみたいな実のなる樹木があれば助かったが、葉っぱだけが生い茂った木々ばかりで喉を潤せそうもない。
 折角、助かった命なのに、餓死してしまうのではないかと不安になっていく。
 せめて、あのクソじじいの生死を確認して、アイツを顎でこき使い、真水と食料を持ってこさせればよかったんじゃないかと後悔し始めていた。
 アイツなら果物が取れなくても、魚ぐらいは何とかしてくれそうだもの。 VIVID XXL

 踏み分けて歩けば歩くほど何にもなく、心細くなり始めたその時――。
 目の前にある草むらがザザッと揺れ動いた。
「げっ!」
 分け入って出てきたのは、身長は180センチぐらい、腕の筋肉が気持ち悪いぐらい隆起しており、外国の映画スターのようにほりの深い顔立ちをした男だった。
 相手の男は魂を抜かれたような目で、あたしの全身を見渡した。
 一方、当然あたしはその男の眼差しに、背筋がぞぞぞっと凍りつく。
「おい……」
 あたしを視姦しているくせに、威嚇しているような鋭い声。
 怖くなったあたしは自然に足が後退していく。そんなあたしを男は捕まえようと、腕を伸ばしてきた。
 アブナイ! 危険です。逃げろ!
 脳内に警告令が発動し、一目散に逃げ出した。
 背後から「おい、待て!」という声が聞こえてきたけれども、体が声に反応して勝手に動いてしまう。
 その代償として、藪があたしの腕を、あたしの足を、突き刺していく。
 痛みをこらえ走り抜けた先に、大きな池が現われてほっとする。これで、ようやく渇きを潤せる。

 早速、水面に自分の顔を映し出すと、顔はすすけて真っ黒で、髪はばさばさになっていた。
 そんなみっともない自分を壊し、バシャバシャと水音を立てて顔を洗う。そして、からからの喉の渇きを潤していった。
 どうやら、あたしはアイツとともにほぼ無人の島に流れついたらしい。
 これから先どうすればいいのだろう?
 イカレおじ様も、今さっき会った男も、ハンサムだった。他には住民がいないのだろうか。
「んっ?」
 突然、左ふくらはぎに違和感を感じて見ると、十センチぐらいの巨大ヒルが貼り付いていた。ヒルはあたしの血を吸ってどんどん膨らんでいく。
 はやく外さなきゃとは思うものの、気持ち悪くて触りたくない。一体、どうすればいいんだろう?
 途方に暮れていると、横から細長い指先が見えたかと思うと、素早く透明な液体をあたしのふくらはぎにかけた。
 するとコロンとヒルが落ちる。
「失礼」
 男の声は丁重さが含まれていて、そのまま屈んでふくらはぎに触れた。
 そしてヒルにかまれたところを押し出して、池の水で丁寧に洗ってくれた。
「お嬢さん、これで大丈夫ですよ」
 立ち上がりながら、ずれた眼鏡を指で押し上げる。その顔を見て、唖然としてしまった。
 神経質、いやナルシストっぽい顔立ちの俺様的イケメンだったから。
 さっき森で見かけた男や船長よりはまともそうだけど、眼鏡を押し上げる仕草が気障過ぎて引いてしまう。
 しかも、その眼鏡は小さなひびが入っており、滑稽にすら感じた。
 滑稽だけどそれでも、脳内から警報装置が作動してすでに逃げ腰になっている。
「あ、ありがとう。あたし行かなくっちゃ!」
 もう限界に近かった。行く宛てもないのに、くるりと背を向け走り出すと、「ちょっと!」と背後から声が聞こえてきた。
再び森に入り、道なりに従って駆け抜けると、海岸線が見えてきた。あたしが打ち上げられた浜辺とは、まったく様子が違っていた。
 砂浜に下りて歩き出すと、土肌色の尖った山が見えた。山はナイフみたいに鋭く尖っており、その先端からは煙は上がっていない。
 たぶん死火山か、ただの山? あたしには地学的な知識は皆無なのでよくわからないけど、どっちかだと思う。
 この島の構造は、中央に山がそびえ、その裾野には森林が広がり、海に囲まれているらしい。
 森の中に入ると幾分か涼しいけど、浜辺は遮るものがないのでめっちゃ暑い。
 その暑い浜辺を歩いていくと、海を眺めている人っぽい姿が見えてきた。
 近付くにつれ栗色の髪をした優しい顔立ちで、まるでお姫様のような風貌の子であることがわかった。
 あたしは安心してゆっくりと近づいていったが、向こうも気づいたようでにこっと愛らしく微笑みかけた。
「ねえ、知ってる?」
 声を発した瞬間ぎょっとし、足を止めた。その声は成人した男性の声そのものだったから。
「どうして、海は青いのかな?」
 コイツ、天然? それとも、あたしの気を引こうとしてるの? 福潤宝
 頭の中に疑問符がいっぱい浮かんだけど、解答を待ち望んでいる気配が瞳から滲み出ていた。
「そんなの簡単じゃない。空の色が反射して、青く見えてるだけじゃないの」
「そっか。僕ひとつおりこうにになったよ。だって誰も教えてくれないんだもん」
 男の子の口調は、寂しさと拗ね半々だった。彼のいう『誰も』は森で会ったワイルド男子と、水辺で会った眼鏡男子のことだろうか。
 あれこれ思い巡らせている間に、男の子はあたしのことをじっと見つめていた。
「君って、僕たちと違うね」
 あたしに鼻を近づけて匂いを嗅ごうとしたので、一歩退き逃げの体勢に入った。
「ねえ、そこってどうして膨らんでいるの? 何かおいしい物でも隠しているの?」
 あたしの胸を指して無邪気に尋ねてきたけど、警告音が鳴り響き出した。
 危険! 危険! 早く逃げてください!
「な、何にもないわよ! 女の子の体って、みんなこうなの!」
「ふうん、そうなんだ。ねえ、触ってみてもいい?」
 天然少年は思春期真っ盛りの中坊みたいに、興味津々に聞いてきた。
 あたしは恐怖のあまり後ずさりながら、腕で胸をおおい隠し、
「ダメッ! 好きでもない人に触らせない!」と強く拒んだ。
「じゃあ、君のことを好きになるよ。だから、君も僕を好きになって」
 手を伸ばしてあたしに触れようとしてくる。
 脳内の警告音はさらに激しさを増し、ビョン、ビョンとサイレンとともに、「危険! 危険!」を繰り返す。
「無理!」
 再度拒絶すると、かわいそうなくらい捨てられた小犬のようにしゅんとなってしまった。その姿を見て少しだけサイレンが弱まる。
 彼は年上のお姉様がたに、玩具のようにかわいがられるタイプで、あたしのタイプとは程遠かった。
 そこへ突然、さっと人が割りこんできた。
「おい、坊主! 私の許可なくこのお嬢さんに迫っていたな!」
 声と姿格好で、げっと思ってしまったわ。だって、よりによってイカレ船長だったから。
「え~。君の許可が要るの? じゃあ、お話してもいいよね?」
 別段がっかりするようでもなく、にこにこと船長に話しかけている。くそジジイの背中からは、「う~ん」と苦渋に満ちた声が聞こえてくる。
「おぬし、なかなかやるのう」
 全くめげない天然少年相手に、さすがの船長もたじろいでいた。
 イカレじいさんとおつむの弱い男の子。気になる対決ではあるけれど、この隙に逃げ出した。

 喉は何とか潤しけど、空腹が気になってきた。
 難を逃れて走っていたら岩場に到着し、しゃがみ込み何か獲物はないか探す。
 カキやサザエ、ウニとか転がってないかなと思ったけど、そんなもの容易くあるわけがない。
 だけど今まで出会った男たちは、一応に生きていた。しかも立派ながたいをしている人もいた。 V26 即効ダイエット
 あの人たちは、一体何を食べて生きているのだろう。不思議だ。
 もしかしたら、今までこの島に流れついた人たちはあの人たちに食べられたのではないだろうか。
 昔、ジャングルに迷った探検家が、人食い人種に捕まって熱湯が煮えたぎる大鍋に入れられ、食べられてしまう話を読んだことがあった。
 美味しそうに、あたしを食べる三人のイケメン。考えただけでもぞっとし、背筋が凍り身震いしてしまう。
 その時、何者かに肩を叩かれ振り向くと、青白くあばら骨が浮き出た貧相な体つきの男が一人立っていた。
「ねえ、君一人なの? 僕と遊ばない?」
 姿をよく見ると、太陽に焼けたせいかパサパサの茶髪で、耳にはルビーのピアス、首もとには貧相な体には似合わぬゴールドのネックレスをしていた。
 街でよく女の子をナンパして、食べまくっているチャラ男おっぽかった。
「ご、ごめんなさい。あなたと遊んでいる暇はありません!」
 脳内に警告音が発生する中、一目散に逃げ出した。

 上手くチャラ男をまいて歩き出したその瞬間、あたしの体が弾き飛んだ。
「ごめんなさい。大丈夫っすか」
 差し出された腕はど太く、まんべんなく日に焼けて汗が滲み出ていた。
「大丈夫です」
 太い腕を頼りに起き上がると、真っ黒に日焼けした精悍な顔立ちで、二重まぶたに、すうっと通った鼻筋、口元は白い歯が浮き出ている。
「ひぃ!」
 あたしはびっくりして男を突き飛ばし、再び逃走した。

 その後も行く先々で、顔のいい男の子ばかりに出会った。この島全体がイケメンをコレクションしているみたいで、逃げても逃げてもどこかで必ず遭遇してしまう。
 あたしの心休まる場所など到底なかった。
 あまりにも逃げまわっていたので、空腹感が鈍り始め、足はフラフラになっていた。

 そして、あたしはついに一軒の掘建て小屋を発見した。
 掘建て小屋から伸びた煙突には、白い煙がもくもくと流れ出ていて、鈍感になってしまった空腹を思い起こさせるいい匂いがした。
 あたしはふらふらと匂いにつられるようにして、中に入っていった。
 空腹には勝てず、もう、怖いとか、人の家に勝手に入ってはいけないってモラルとか、完全に払拭されていた。
 家の中はこざっぱりしていて、テーブルには木製のお皿とスプーンが置かれてた。
 白い煙の原因となる暖炉には鍋がかかっており、お芋っぽい物体がごろごろ入ったスープがあった。
 これは天の助け! きっと空腹で居場所のない私を導いてくれたんだ。
 お皿にスープをよそって恐る恐る口に入れてみた。ひと口でイケルと思い、もうその後は野獣のようにガツガツ食べたわ。
 そのスープの味といったらもう……
 人生においてベストスリーに入る美味! ブラボー! 拍手喝采!
 無我夢中で完食してしまうと、逃げ惑っていた疲れと満腹感にほだされ眠くなってしまった。
 あくびをしながらテーブル脇にあるベッドにもぐりこむ。もぐった瞬間、獣臭さがちょっと気になったけど、すぐに寝ついた。
 夢の中のあたしは、肩丸出しのゴールドのロングドレスを着ていた。
 どうやら社交界みたいな高貴な場所にいるみたいで、上品に振舞う男女の姿、ステージには管弦楽団がワルツを奏でている。
 みなそれぞれパートナーとともにダンスを楽しんでいるようだった。
 誰か一緒に踊ってくれる人はいないかしら?
 視線をさまよわせ相手を探し求めると、どこからともなく男性がやってきて慇懃いんぎんに腰を折り曲げ、「お相手頂けませんか」と誘ってくれた。
 あたしは顔を確かめずに「お願いいたします」と手を差し出し、相手はすっと腰を伸ばした。
 向かいあう彼の顔は、モロあたしのタイプで印象の薄い立ちをしてた。
 もう、あたしは喜び勇んで踊った。彼はダンスも上手くて、下手くそなあたしを終始リードしてくれた。 OB蛋白の繊型曲痩 Ⅲ

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