2013年8月25日星期日

後日談

帝国歴四百三十一年六月中旬、クロノが『死の試練』を乗り越えて二週間が過ぎた。季節は夏……クロノの脳裏を過ぎるのはカド伯爵領のことである。
  これからのことを考えると、港の建設、新型塩田の普及、株式会社の経営は決して疎かにできない。もっとも、クロノは素人なので、関心の大半は進捗状況に向けられてしまうのだが蟻力神
  それらと同じくらいウェイトを占めているものがある。カド伯爵領は海に面した土地である。
  そして、クロノには愛人……レイラ、女将シェーラ、エレナ、リオ、デネブ、アリデッド、ティリア、フェイがいる。
  第九近衛騎士団の団長を務めているリオは無理だとしても、海水浴をしたい! と思っていた。
  愛人を侍らせ、怠惰で退廃的な、何の生産性もない海水浴を楽しみたかった。水を掛け合いながら、濡れた布がピタ~と張り付く光景を目に焼き付けたかった。
  キャッキャ、ウフフと爛れた海水浴を堪能したかった。それなのに今のクロノは自分の領地に戻るどころか、南辺境にある養父の家で療養中という有様である。
  クロノはベッドに横になり、部屋に立ち込める煙を眺めていた。ギシギシと軋む体を起こして煙の発生源を見ると、スーが床に座って薬草を焚いていた。
  スーによると、焚いている薬草には鎮静作用があるらしい。他にも鎮痛効果のあるとされる薬草を煎じた物を飲まされたりしている。
 「……リラックスはするんだけど、それってヤバい草じゃないよね?」
 『大丈夫、安全』
 「『死の試練』を生き延びたのに、麻薬中毒なんて嫌だよ」
  ギチィッ! と筋肉が軋み、クロノはベッドの上で呻いた。下手に動くと痛いし、動かなくても痛い。
  この想像を絶する痛みのせいでクロノは二週間もベッドから離れられずにいた。おまけにふとした瞬間に刻印が起動するのだ。
  それでも、最初の一週間に比べれば大分マシになっている。痛みそのものは和らいでいるし、刻印が勝手に起動することも少なくなった。
  ワイズマン先生から刻印術は色に応じた属性を操れるようになる魔術と教わったが、実際は少し違うようだ。
  刻印術の基本的な機能は身体能力の強化である。いや、物理限界まで身体能力を引き出すと表現すべきだろうか。
  当然、物理限界まで身体能力を引き出せば筋肉は破損する。つまり、二週間もクロノを悩ませる痛みの正体は極度の筋肉痛なのである。
  刻印については今一つそれらしい理屈がつけられないんだよな、とクロノは天井を見上げた。
  帝国の魔術と照らし合わせるのならば刻印は術式に相当するはずだが、薬物を使って脳に刷り込んでも良さそうなものである。
  刻印は単なるプログラムじゃなくてパソコンの周辺機器みたいなものなのかも、とクロノはそれらしい理屈を捻り出す。
  ドライバは刻印とセットになっているのか、クロノが標準ドライバみたいな物を備えていたのか。
  そんなことを考えていると、
 「クロノ様、食事の時間でございます」
 「であります」
  扉を開け、マイラとフェイが入室する。
 「いつもすまないね」
 「それは言わない約束であります」
  フェイの手を借りて体を起こし、フェイに料理を口まで運んで貰う。マイラは少し離れた場所でフェイのサポート役に徹している。
 『オマエ、赤チャン』
 「だ、誰のせいで、こんな目に遭っていると」
  この二週間、フェイはクロノの介護士となっている。理由は二つ、一つはフェイならクロノが刻印を起動させても無傷で切り抜けられそうだから。もう一つはクロノを支えられるくらい身長があるからである。
 『オレ、オマエノ、嫁』
 「まあ、そうだね」
 『オレ、嫁、嫁……嫁』
  嫁という言葉が気に入ったのか、スーは反芻するように繰り返した。
 「他にも八人ばかり愛人がおりまして」
 『……っ!』
  スーは驚いたようにクロノを見つめた。
 『オマエ、甲斐性ナイ』
 「あるよ、甲斐性! 痛っ!」
  ムキになって叫び、クロノは体の痛みに呻いた。
 「クロノ様は甲斐性があるであります」
  フェイは自慢げに胸を張って言った。
 「クロノ様は領地持ちの貴族であります。エレナ殿に聞いた所によれば去年の税収は金貨六万五百枚、カド伯爵領に港が完成すれば……更なる収益が期待できるであります」
 「詳しいね、フェイ」
 「当然であります」
  そういうことに興味がなさそうだったので、意外と言えば意外である。
 「……クロノ様?」
 「何でしょうか、マイラさん」
  マイラは微笑みを浮かべ、軽く首を傾げた。
 「もう一人、愛人を囲う気は?」
 「ま、間に合ってます」
 「そう仰らずに」
 「え、じゃ……奴隷みたいに首輪を付けて、鞭で叩いたり、胸を力一杯揉んだり、お尻の××に××して、●●を△△するけど」
 「ええ、それくらいならば許容範囲です。お尻を××するだけではなく、□□□して頂いても構いませんし、所有物として◇◇に××して頂いても構いませんが? 合意の上ですので、雌として扱って頂きたく」
  女将シェーラをドン引きさせた台詞にアレンジを加えて言うと、マイラは全く動揺する素振りを見せずに淡々と答えた。『雌として』の部分をやや強調していたような気もするが。
 「攻めてるんだか、攻められてるんだか、分からないよ! 痛っ、イダッ!」
  正直、主導権を握るマゾとか訳が分からない。
 「主人を立てるのがメイドとしての役割ではないかと」
 「年下を手の平で転がしたいだけじゃないの?」
  マイラは考え込むように押し黙った。
 「いえ、あくまで主人を立てたいと考えております。もちろん、自分の利益もしっかりと確保しますが」三便宝カプセル
 「しっかりしてるよ」
  まあ、これくらい図太くないと、帝国の動乱期や南辺境の開拓期は乗り越えられなかったんだろう。
 「クロノ様、食事の途中でありますよ?」
 「重ね重ね、すまないね」
  気分は時代劇……貧乏長屋の病弱な父親と孝行娘の気分である。
 「一生懸命、働くであります」
 「頼もしいな~」
  フェイの手を借り、カップに入ったスープを飲む。
 「なので、ムリファイン家の再興に協力して欲しいであります」
 「え?」
 「え? じゃないであります」
  クロノが聞き返すと、フェイは気分を害した様子もなく言った。
 「騎士は主君に忠誠を捧げ、主君は騎士を保護するものであります」
 「い、一生涯、変わらない愛と忠誠を誓って貰ったような気がするんだけど?」
 「愛に代価は求めないでありますが、忠誠に代価は欲しいであります」
  セットじゃなかったのか、とクロノは今更のように後悔した。
 「よくよく考えてみると、フェイが僕の子どもを生んだら相続問題が発生するよね」
 「クロノ様とティリア皇女の間に子どもが生まれても領地と爵位の相続問題は発生するであります。異母兄弟で骨肉の争いをして欲しくないでありますね」
  生々しい表現だな~、とクロノは食事を終える。
 「参考までに聞くけど、フェイにとってムリファイン家の再興……って言うか、具体的な目的って何?」
 「……難しい質問でありますね」
  食器を重ねてマイラに渡すと、フェイは思案するように眉根を寄せた。
 「正直に言えばムリファイン家は立派な家柄じゃないであります。近衛騎士団でそこそこの地位に就ければ元に戻ったと言えるかも知れないであります」
 「レオンハルト殿か、エルナト伯爵にお願いすれば何とかなりそうだけど、フェイに抜けられると困るんだよね。明るい領地計画的に」
  レオンハルトか、エルナト伯爵の部下になればフェイは間違いなくムリファイン家を再興できるだろう。
  だが、フェイに抜けられると、非常に困る。少なくともケインが過労でぶっ倒れるのは間違いない。
 「むむっ、ムリファイン家の再興は息子の代までお預けでありますね」
 「だからと言って、『近衛騎士団に入れてやるから、そこから先は自分で頑張れ』って鬼じゃない?」
  エラキス侯爵領、カド伯爵領、将来はクロフォード男爵領も僕の領地になるとして、とクロノは領地を思い浮かべる。
 「う~ん、飛び地になるクロフォード男爵領を任せるのが順当かな? あ~、でも、ケインだって、いつまでも騎兵隊長って訳にいかないし、士官候補のみんなに領地運営に携わって欲しいんだよね」
  どんなポジションに就けるかよりも、どんな組織にするのかを考えなきゃならない段階なので、具体的なことを何も言えないのだが。
 「士官候補はクロノ様の直臣になるのでありますね」
 「なってくれるかは本人の意思を確認しないと分からないけど、いつまでも兵士をやってられるものでもないからね」
  直臣になってくれなくても、何かやりたいことがあるのなら全面的にバックアップするつもりだ。
 「ちょっと、今は具体的な約束ができないんだけど、最低でも僕とフェイの子どもが近衛騎士団に入れるように全力を尽くす、じゃダメかな?」
 「了解であります」
  要求を拒まれると思っていたのか、フェイは安心したように胸を撫で下ろした。格好良い台詞の一つも吐こうと思ったが、考えている間にフェイとマイラは退室していた。
  視線を傾けると、スーは薬草を煎じていた。
 『飲メ』
 「苦いんだよね、これ」
  どす黒い液体を飲むと、効果はすぐに現れた。まるで熱に浮かされたようになり、クロノの意識は徐々に遠退いていった。

 目を覚ますと、部屋に漂う煙は薄まっていた。髪と首筋が汗で塗れ、クロノは不快感から顔を顰めた。
  気になって床を見ると、スーは布にくるまって眠っていた。
 「……無理すれば動けるかな?」
  歯を食い縛り、クロノはベッドから離れた。ギシギシと体が軋むが、壁伝いでなら何とか歩けそうだ。
  トイレ、トイレと繰り返す。部下で、愛人でも、他所様フェイにトイレまで連れて行って貰ったり、服を着替えさせて貰ったりするのは気が引けるのだ。
 「騎士の仕事じゃないもんね」
  ズリズリと壁伝いに扉まで移動し、ドアノブに手を伸ばす。だが、クロノがドアノブを掴むよりも早く、扉が開いた。
 「元気そうで何よりだ」
 「……ガウル隊長、今日は何の用で?」
  ふむ、とガウルは腕を組んだ。
 「蛮族の、いや、ルー族の件で相談したいことがあってな。勝手だとは思ったが、族長を交えて会議を開くことに決めた」
 「……いつ?」
 「今日だ。ああ、勘違いするな。表向きは親交を深めるための食事会ということになっている。まあ、あれだ。政治というヤツだ」
  要は帝国に余計な介入をされる前に当事者同士で詰められる所を詰めるつもりなのだろう。
  現実はどうであれ、帝国を蛮族の脅威から解き放ったのは事実である。その功績を譲ればガウルもルー族のために力を割いてくれるんじゃないだろうか。
 「実は……お願いが二つ」
 「構わんぞ」
 「すみません。トイレに連れて行って下さい」
  断られるかと思いきや、ガウルはトイレに連れて行ってくれた。流石に苦虫を噛み潰したような顔をしていたが。
  クロノがトイレから出てもガウルはその表情を維持していた。
 「貴様は……大物なのか、単なるバカなのか分からんな」
 「一人でトイレに行こうとしていたのに話し掛けるから」
 「で、もう一つのお願いはなんだ?」
 「功績を譲るから、ルー族に有利なように……せめて、不利にならないようにして欲しいなと」
  む、とガウルはクロノを見つめて唸った。
 「貴様は、バカなのか? 命を賭けて説得しながら、その功績を俺に譲り、蛮族どもを守れと」五便宝
 「自分のことも、まあ、考えてるけど……功績を譲る代わりにガウル隊長を矢面に立たせちゃうし」
  ガウルは理解できないとでも言うように髪を掻き毟った。
 「それで貴様が得るものは何だ?」
 「自己満足……族長のオッパイを指の跡が残るくらい強く揉むこと、それからハーレム要員」
  ガウルは呆れ果てたように溜息を吐いた。
 「貴様は……族長の、お、オッパイを揉み、愛人を作るために命を賭けたのか?」
 「無理にオッパイとか言わなくても……まあ、結果的には」
  ガウルに功績を譲ればクロノに残されるのは守って貰えるかも判らない約束と嫁さん(スー)だけである。
 「その話を真に受けて、俺は貴様に弱みを握られる訳か?」
 「そういう言い方は好きじゃないな」
  ニヤリとガウルが笑みを浮かべ、クロノは大仰に肩を竦めた。クロノはガウルを心から信用していないし、ガウルもそれは同じだろう。
 「事実だろう。貴様の提案にはそれなりに旨味がありそうだが、苦労も背負う羽目になりそうだ。少なくとも今以上の苦労を、だ」
 「今以上とは?」
 「貴様が寝ている間、俺は怠けていた訳ではない。ルー族の集落に行き、今日のために話し合いを続けていたんだ」
  ますます愚息らしくない、とクロノはガウルを見つめた。
 「族長がよく話を聞いてくれたね」
 「最初は話を聞いてくれなくてな。仕方がないから、ルー族の女と手合わせをしていた」
 「どうして?」
 「俺は負けていない」
  クロノが尋ねると、ガウルは憮然とした表情を浮かべて答えた。
  どうやら、ガウルは何度もルー族にやられたことを根に持っていたらしい。
 「で、貴様に聞きたいんだが……貴様、ララに何をした?」
 「ああ、なるほど」
  ガウルが手合わせしたルー族の女とはララのことらしい。彼女は割と直情的な性格なので、ありえそうである。
 「……ララとリリを誘惑してルー族を内部分裂させようとしたんだけど、スーのせいで大失敗して……正直に本心を明かしてみました」
 「ろくでなしか、貴様は」
  ガウルは間髪入れずに言った。
 「……いやいや、自分だって手柄を立てるためにルー族を討伐しようとしたじゃん!」
  僕はろくでなしなのかも知れない、とクロノは一瞬だけ認めそうになったが、思い直してガウルに反論した。
  ガウルはガウルで手柄を立てるためにルー族を討伐……殺そうとしていたのだから、クロノを責める資格はないはずである。
 「俺は父上に認めて貰うために、帝国を脅威から解き放つために戦ったのだ。貴様のように恥知らずなマネはしていない」
 「一応、被害を最小限に留めたい気持ちもあったんだけど」
 「動機がどうであれ、貴族が取るべき行動ではない」
  評価を改めて貰うのは無理そうだ、とクロノはガウルの説得を諦めた。
 「で、僕の提案は受け入れてくれるの?」
 「ああ、受け入れよう。少なくとも連中は帝国に歩み寄ろうとしているからな。ドラド王国の侵攻に備えられると言えば、帝都のヤツらもルー族を無碍に扱わんだろう」
 「ドラド王国って、帝国の南にある国だっけ?」
  どうして、ドラド王国が関係あるんだろう? とクロノが首を傾げると、ガウルは呆れたように肩を落とした。
 「帝国とドラド王国は敵対している訳ではないが、友好的な関係でもない。ならば敵対した時に備えるのは当然だろう」
 「ルー族はアレオス山地を知り尽くしているけど……ようやくルー族と友好的な関係を結んだのに次の戦争の話?」
 「その戦争の話がなければルー族は無碍に扱われるぞ」
  帝都と交渉するカードのつもりなのかな? とクロノはガウルを見上げた。
 「無論、俺とてルー族を矢面に立たせるつもりはない。ルー族が帝国にとって有用な存在だとアピールすることで有利な条件を勝ち取るつもりだ」
  思わず、クロノはガウルに拍手を送った。たった二週間でもっともらしい理屈をでっち上げたものである。
 「もっとも、全てが上手く運んでもルー族は滅びを免れんがな。戦って滅びるか、戦わずに滅びるか、帝国に取り込まれて滅びるか、過程が違うだけだ」
 「そうだけど、過程が違えば結果も少しは変わるんじゃないかな」
  いずれは帝国に取り込まれて消えてしまうかも知れないが、ルー族は次の世代に血や文化を託す機会を得た。
  滅びて忘れ去られてしまうことに比べれば遙かにマシな終わり方ではないだろうか、とクロノは首飾りを握り締めた。
 「うん、まあ、結局は自己満足なんだけど」
 「……俺は貴様の方法を認められん」
  ガウルが呟いたので、クロノは反射的に彼を見上げた。
 「だが、貴様の信念は認めてやっても良いような気がする。勘違いするな。あくまで貴様の信念だけだ」
 「……」
  この世界の人間はツンデレばっかりか、とクロノはちょっと吹き出しそうになった。勘違いするな、という台詞を吐く輩が全てツンデレキャラならば、あるボクシング漫画の会長や世界的に有名な格闘アニメのライバルキャラもツンデレキャラだ。
 「……プッ」
 「何故、笑う?」
 「いや、別に」
  ガウルは窓に視線を移し、
 「もう食事会の時間だ。行くぞ」
 「僕も参加するの?」
 「主賓の貴様が参加せずに誰が参加すると言うのだ?」
 「まだ、体が動かないんですが?」
  仕方のないヤツだ、とガウルはクロノを抱き上げた。
  お姫様だっこで。
  クロノの叫びを無視してガウルは猛然と走り出した。

 庭に到着したクロノとガウルは冷ややかな視線で迎えられた。地面に下ろされたクロノは羞恥心に耐えきれずに顔を覆った。VigRx
  ポンと慰めるようにクロノの肩を叩いたのはフェイだった。
 「……ガウル隊長と」
 「誰がするか!」
  慰めるつもりはないようだった。
 「しかし、『痛い、痛い! もっと、優しく』と悲鳴が聞こえたであります」
 「思いっきり揺するから痛かったんだよ!」
 「何だか、卑猥な表現でありますね」
 「卑猥じゃないよ!」
 「あ~、何だ」
  養父が気まずそうに首を掻きながらクロノに歩み寄った。
 「戦場暮らしが長いと、男色に走っちまうことが」
 「誰も父さんの体験談を聞きたいなんて言ってないよ!」
 「……俺の記憶違いでなけりゃ、お前は第九近衛騎士団の団長を愛人にしてただろ?」
 「そりゃ、まあ、そうなんですけど」
  デネブとアリデッドに異世界なんだからホモになることもあると言ったような記憶もあるのだが、リオは半分女というか、精神的にはともかく、クロノは肉体的に『攻め』なのだ。
 「……クロノ様」
 「レイラ」
  そっとレイラがクロノの服の袖を握る。刻印術を施されて以来、制御ができるようになるまで近づかないように命令していたのだ。
 「私はクロノ様を信じてます」
 「それ、不信感の表れのように聞こえるんですけど?」
 「……信じてます」
  ギュッとレイラがクロノの服の袖を強く握り締める。
 『……我々ハ何時マデ立ッテイレバ良イノダ、婿殿?』
  族長はララとリリを左右に侍らせ、悠然とクロノに歩み寄る。死の淵に追いやった相手を婿殿とか良い根性してるよね、とクロノは思ったが、黙っておくことにした。
 「それじゃ、食堂にでも」
 「今日は食堂を利用しませんが?」
  クロノが言うと、マイラが口を挟んだ。
 「庭でバーベキューでもするの?」
 「言葉の意味はよく分かりませんが、庭で豚を焼きます」
  まあ、そういうのも有りなのかな? とクロノは思った。ルー族は手掴みで食事をしていたので、食器を使い分けるような食事よりも豪快な料理の方が良いのかも知れない。
 「さ~て、ちゃっちゃと料理の準備をしちまうよ!」
  女将シェーラの声が響き、タイガ達が煉瓦と木の棒を運ぶ。煉瓦で竃が、木の棒……かなり貧弱な丸太か、かなり立派な木の棒と言った風である……を組み合わせて支えが造られ、下拵えの済んだ豚が運ばれてくる。
  和やかな食事会になると良いな~、とクロノは思ったが、それは祈りにも似た儚い想いでしかなかった。
  肉の焼ける匂いが漂い、脂が滴り落ちて炎の勢いが強まる。その様子を眺める養父、マイラ、ガウル、族長、ララ、リリは無言だ。
  特に養父とマイラ、ルー族の面々の間にはピリピリとした空気が漂っている。
 「一触即発と言った雰囲気でありますね」
 「それが分かっているんなら、場を和ませて」
 「むむ、難しいでありますね」
  フェイは思案するように眉根を寄せた。巨人倍増

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