4月の新学期が始まってまだ間もないというのに、転校生が、しかも一度に二人もこのクラスに入ってくるとは、誰も思わなかった。
噂すら立たず、それは突然に、学校にぱっとその朝、降って湧いたごとくやって来た。
担任の後に続いて教室に入ってきた転校生。
ざわめいていた教室が一瞬にシンと静まり返る。簡約痩身
誰もが目の前の光景に信じられないとばかり目を見開いた。
「今日からこのクラスに入ることになった、トイラとキースだ」
なんと二人は外国人。
この高校始まって以来の海外留学生だった。
クラス中、鳩が豆鉄砲を食ったようになっていた。
ただ一人、春日ユキだけは冷静だった。というより、冷めた目でちらりと見てはため息を小さく吐いて、窓の外の空に目をやった。
まるで転校生二人を毛嫌い しているようだった。
これには彼女なりの訳があった ──。
クラス中が転校生に注目する中、一人だけそっぽを向くユキのしぐさは、転校生二人の関心をひいた。
二人は慎重な面持ちでユキを見つめる。
「見ての通り、彼らは外国人だ。日本にはまだ慣れていない。それじゃ自己紹介を一応してくれるか。Please introduce yourself」
このクラスの担任の村上先生は英語担当。
二人も留学生が入ってきたのも、担任がまず英語を理解できるというのが考慮されたのだろうか。
そうしてもう一人 都 合のいい生徒がいる。
それが春日ユキ──。
春日ユキは直感で感じ取っていた。
自分がこの二人の面倒を押し付けられるということを。
そしてそれが自分にとても都合の悪いことだった。
その瞬間、鼓動 が不規則に波打ち、不安という振動を発生させ、神経を伝わって体の隅々までそれがいきわたる。
空気がないくらい息苦しい状態に陥った。
ユキは無意識に膝元 で強くスカートの裾を握り締める。
「I am Toyler」
転校生の一人が『俺はトイラだ!』とでもぶっきらぼうに叫ぶ。
すらりとした長身。
黒髪。
肌は日に焼けたような小麦色。
目は 宝石のような緑の光が漏れる。
まさにエメラルドの輝き。
美しいがそれは清涼さと非情さを同時に持ち合わせていた。
冷たく悪びれた態度でクラスに挑戦するよ うに鋭く睨みを利かす。
まるで野獣にでも睨まれているかのごとく、クラス中緊張に包まれた。
自分の名前だけ冷然に言うと、後は面倒くさそうにプイっと首を横に一振りした。誰も近寄るなと警告している様だった。
「この子はトイラという。出身はカナダだ」
先生は顔を引きつらせ、気を遣ってフォローをいれる。
これは先がやっかいだとでも言わんばかりに苦笑いしながら、もう一人に手を差し出して自己紹介を促 した。
「ボク …… ハ キース デス。カナダ カラ キタ。 ヨロシク」
キースはたどたどしいながらも日本語が話せた。
トイラと違ってにこやかで笑顔を振りまいている。
その笑顔はうらうらと温かい陽をふりまいてるようだった。
こちらも背は高く、髪は少し長めの金髪、白い肌、目はブルーといった王子 様のような風貌。
女子生徒はあっという間にその美しさに魅了され、目はとろんとしては口元がほころび、キースの笑顔につられて笑みを浮かべてい た。
トイラはキースのその媚びた態度が気に入らなさそうに、隣で鼻をフンっと鳴らしていた。
そして春日ユキをちらりと一瞥する。
冷たいはずの緑の目は、そのとき、懐かしいものを見るかのように優しい眼差しとなっていた。
張り詰めていた気持ちが突然緩み、トイラの足が前に出る。
キースは手を差し伸べダメだと知らせる。
はっとして、トイラは下唇を少し噛んでうつむいた。
それは注意されて鬱陶しがっているようにも、心から湧き出る感情を必死で押さえつけ、耐えてるようにもみえた。
春日ユキは二人の自己紹介など聞いてもおらず、どんよりと暗く、ここに居たくないと頭を垂れて、机の上をおぼろげに見つめている。
先生が授業をしていた ときなら注意されるくらい、完全にその場に参加していない失礼な態度だった。
「日本語はそのうちなんとかなるだろう。それまで皆も手助けしてやってくれ。特に春日、お前この二人を宜しく頼むぞ。二人にも何かわからないことがあった らお前に聞けといってあるから、手伝ってやってくれ。なんせお前は帰国子女だしな」
春日ユキはこれを恐れていた。
『帰国子女』とこの言葉を聞く度に耳をふさぎたくなる。
その言葉と同時に冷たい視線が放射線状に体に突き刺さるのを感じていた。
ひそひそと話し声が聞こえると、自分のことを悪く言われているようでさらに被害妄想も強まる。
最悪の瞬間だった。
帰国子女 ──どれだけ違った目で見られたことだろう。
春日ユキの脳裏には嫌なことが次々と映し出される。
英語を話してみろとからかわれ、『アメリカでは…… 』と話始めれば、知ったかぶりの生意気とはやし立てられ、アメリカと日本を常に比べるお高い奴とまで言われる始末。
挙句の果てに、はっきりと自分の意見を言えば、生意気でアメリカナイズされた態度が鼻につくと虐められる毎日。
そこへ二人の留学生の面倒。
またクラスの反感を買うことが目に見えていた。
これが二人の転校生を歓迎できない理由だった。
また虐めの種が増えることを懸 念していたのだった。
案の定、キースを狙っている女子生徒達からは、もうすでに挑戦状を叩きつけられているのか、鋭い視線を受けていた。
先生が教室の後ろに座るユキの席を指差している。
ユキはそのとき初めて自分の両隣が空いていることに気がついた。
どうしてそんなに上手いことその場所が 空いているのだろうとユキは突然首をかしげた。
前日まではこんな席だっただろうかと、思い出せないくらい奇妙な感覚が走った。
そんなことをゆっくりと考える時間も与えられぬまま、ユキの左側ちょうど外が眺められる窓際の一番角の席、そこにはトイラが座り、反対の右側に はキースが座った。
「ユキ …… ヨロシク」
キースが様子を伺いながら、笑顔で親しみを込めて話しかける。
ユキは適当に愛想笑いを返した。そのユキの態度はキースには物足りないのか、がっかりとし た表情を浮かべた。
だが仕方ないと諦 めたように、首を縦に振ってはうんうんと一人で納得するように頷いていた。
その態度でユキのキースの第一印象は『変な人』だった。
苦手なタイプかもしれないと、ユキは顔を背けた。
次にトイラに視線を移した。
一応、義理でも挨拶すべきだろうかと、目だけでも合わせておこうと顔を覗き込んでみた。
左側の窓際に座ったトイラはユキを完全に無視しようとしているのか、全くユキに視線をむけなかった。V26即効ダイエット
しかしそれはどこか不自然だった。
妙にユキを意識して、本当は見たい気持ちを抑え、我慢するかのように葛藤していた。
トイラは机に手を置くと、苛立ってるのか、 爪を立てて引っ掻くしぐさをした。
正反対の性格の二人。
ユキにはまるでトイラが気まま な猫で、キースが人懐こい犬に見えた。
ユキは怖いもの見たさなのか、暫くトイラから目が離せない。
焦点も合わさずに前をじっと見つめるトイラ。
その時、彼の緑の目がユキの記憶をつつくように刺激する。はっとして、ユキの肩がかすかに びくっと動いた。
美しい目の色はどこかで見た草原の輝きを思い起こさせ、埋もれていた記憶の中からバブルのように何かがぷわんと浮かびあがる。
その中で、風がやわらかく体を包み込み、ユキはそれを抱くように胸で手を抱き合わせている。
草木をすり抜けた一陣の風と共に黒いものが現れ、それはユキの頬を愛しく触れた。
その記憶の中の人物のビジョンがはっきりでてこない。
漠然としたイメージの中、視界を不透明なフィルムで隠されたようだった。
ユキはどうしても思い出し たかった。
このままでは中途半端で脳が不完全燃焼を起して掻き毟りたいほどに気持ち悪い。
トイラの緑の目に一層釘づけになって、体ごと前にのめり込んでい た。
突然トイラが睨みをきかせてユキに視線を合わせた。
その時恐ろしいほど近くに緑の目を感じた。
ユキは知らずとトイラの顔の側まで迫っていた。
ユキは触ら れたカタツムリのように慌てて体を引っ込める。
何をしてたんだと、自分でも急に恥ずかしくなり、その後ずっともじもじと下を向いていた。
トイラは窓に顔を向け、ユキに気づかれないようにひっそりとため息をついた。
二人の転校生の噂はあっという間に学校中に広まり、2年A組の教室は休み時間になる度に、見世物小屋となった。
見物料でもとりたくなるほどだった。
「また来たわ。次々と来るもんだわ。外国人なんて今の時代珍しくもないのに」と、ユキは冷めた目で少し馬鹿にした。
自分は違う人間だとでも主張したかったのか、見物人の目の前で得意げについ英語を話してしまう。
「Say, Kieth. Why did you come to Japan? Moreover, it's a very boring place」
(ねぇ、キース、あなた達なぜ日本に来たの。しかもこんなつまらないところに)
「ユキ、ニホンゴ デ ダイジョウブ。ニホンゴ デ ハナシテ。ベンキョシタイ」
キースは典型的な外国人訛りの日本語だったが、その訛りが却って作り物のように聞こえるくらい、日本語は上手に話せるようだった。
「キース、日本語上手いんだね。ねぇ、トイラも話せるの?」
「トイラ ニ チョクセツ キイテミテ」
なぜかキースはクククと愉快とでもいうように声を押し殺して笑っていた。
この笑いに何か意味でもあるのだろうか。
ユキは言われるままにトイラに質問してみた。
トイラは面倒くさそうに振り向くと、やはりまたユキを睨んでいた。
「Toyler, please don't give me a mean look. Do you hate me?」
(トイラ、お願い、私を睨むのはやめて。私のことが嫌いなの)
ユキは咄嗟に英語で話していた。
やはりここでもキースは肩を震わせて笑いを堪えていた。
ユキには何がおかしいのか全くわからない。
それよりもトイラのこの意地悪そうな性格にはうんざりだった。
「あら、春日さん、さすが帰国子女ね。英語でペラペラと見せ付けてくれること」
そう言って現れたのは、このクラスでもちょっと突っ張ってる矢鍋マリだった。
先頭に立ってユキをいじめるリーダー的存在である。
「ヤア、キミ ハ ダレ?」
キースがにっこりと白い歯をみせて話しかけた。
「あっ、私はマリ。あの…… その…… 」
矢鍋マリは答えにつまった。
キースの心に沁みるようなやさしい笑顔が、ピーンと突っ張っているきついマリの性格をも変えた。
マリは小魚のように口をパクパクしながら慌てている。
気の強い、弱みなど見せぬ女だが、やはりこの手の王子様には弱いらしい。
いわゆるツンデレタイプなんだろう。
キースの魅了させる笑顔は、魔法をかけたようにマリを恥じらいのある乙女に変身させた。キースはマリから言葉を巧みなく引き出す。
それに乗せられてマリは上機嫌にキースとの会話に声を弾ませていた。
ユキはほっとした。
このマリほど陰険でユキを面と向かって虐めるものはいない。
ここでキースが入り込んでくれて、ワンクッションの役割をしてくれたことに深く感謝した。
矢鍋マリがキースと楽しそうに話している中、周りに自然と女子がそれにあやかろうと集まってきた。
キースは集まってきた女の子全員に愛想を振りまいている。自分がモテルことをよく知っているかのようだ。
しかしそれを鼻にかけることはなく、あくまでも優しい気の遣う男として振舞っている。
ユキはキースのその態度をみると、何か意図があるように思えてならなかった。
そしてまたトイラに視線を向けた。
「ねぇ、トイラ、さっきの続きだけど、私のことそんなに嫌い?」
今度は日本語で問いかけてみた。
トイラは深い湖の底に神秘的な何かが沈んでいるような目をしてユキをじっと見つめていた。
先ほどの冷酷さは感じられず、優雅な光を発している。
──美しい緑、まるで宝石のエメラルドのよう。
『エメラルド』と例えたその時、ユキのずれてたピントが合った。
──私、この目を知っている。どこかで見たことがある。
その時トイラが口を開いた。
「オマエ ノ コト キライ デハ ナイ。 オレ ハ コウイウ オトコ ダ」
トイラも日本語が話せる。
やはりその訛りは典型的な外国人アクセント。
でもどこか変に聞こえた。
一度うつむいて表情をリセットしたのか、再び顔をあげたとき、また仏頂面になってきつく睨み返してくる。
嫌いではないのに、この極端な態度は何だ。
ユキの口はただぽかんと開いていた。
放課後、整理に困るほどの女子生徒が押し寄せるように窓や戸口でひしめきあっていた。
キースは「ハーイ」と手を振って愛想良く構っている。
その度に『キャー』と歓喜が湧き上がっていた。
もうアイドルであった。
「さてと、あなた達ちゃんと家まで帰れるよね? それじゃ あまた明日ね」
やっと離れられると思ったのもつかの間、次の瞬間ユキの顔が引きつった。
「マッテ ユキ、イッショニ カエロウ。 トイラ、 オマエも カエルゾ」
キースの声で、トイラは命令を受けたロボットのように立ち上がった。
そして二人はユキの後をついていく。
その後にも、女子生徒達がぞろぞろついてきた。
先頭を歩くユキは観光で案内する添乗員の気分だった。
学校の門を出たところでキースが振り返り「バイバイ」と手を振ると、女子生徒たちはこれ以上ついて来るなと察知したのか、その場で名残惜しそうに手を振って見送っていた。
静かに3人で歩いているときだった。V26Ⅲ速效ダイエット
「ふー疲れた。日本語話せないフリするのもしんどいな」
「えっ、フリ?どういうこと」
突然溝に足を取られたようにがくんと体が傾きながら、ユキは顔をしかめて振り返った。
なんとキースは普通の日本人と変わらぬほどの発音で日本語を話している。
いや、もうそれは日本人そのものだった。
「まあね、僕達は言葉には困らないってことさ、なあトイラ」
キースに言葉を振られたが、そんなことどうでもいいというようにトイラは無言のままだった。
「ということは、トイラもフリをしているってこと?」
ユキは珍種の動物を見つけたような驚きの顔でトイラを見つめた。
「そっ、そういうこと」
キースがトイラの変わりに答えてやった。
「どうして、そんなことする必要があるの? 話せるんだったら普通にすればいいじゃない」
「だから、こっちにも訳があるってこと。それに皆だって僕達が日本語ペラペラだって思ったらつまんないだろう。ちょっとした演出さ」
ユキは顎をがくっと落とすように呆れた。
この二人はどうも何かをたくらんでいる。
自分は巻き込まれたくない。
本能的に逃げるスイッチが体に入った。
「そう、わかったわ。好きにすればいい。私も聞かなかったことにするから。それじゃ私こっちだから」
走りさろうとしたユキ。キースは狙った獲物を逃がさないかのごとく、素早くユキの腕をつかんだ。
その動作0.01秒。
「ちょっと待ってくれよ。僕達同じ方向なんだから。しかも同じ場所に行くのに、一人だけ走って帰ることないだろ」
ユキは耳を疑った。
ソフトに笑っているキースの顔が却って不気味にみえた。
「あの、同じ場所って、近所ってこと」
恐る恐るユキは聞いた。
「近所じゃないよ」とキース。
「近所じゃないのに、同じ場所?どこそこ?」
「ユキの家」トイラがぼそっと言った。
「えーーーーーーー、嘘でしょ。どうして私の家? なんで」
「あれ、博士から聞いてないの。僕達ユキの家でお世話になるって」
キースはクスクスと笑っていた。
博士と言えば、ユキの父親、生物学者なのでそう呼ばれている。
ユキが海外で過ごしたのもこの父親が海外の大学で働いていたからだった。
「聞いてません!」
ユキは蕁麻疹が出る勢いで体中ぞわぞわした。
突然降って湧いた二人の転校生。
しかも一緒に住むなんて、そんなことがあってたまるものかと、何かの間違いだとお経をつぶやくように 何度も繰り返していた。
「ユキ、俺達のこと、嫌いか?」
トイラがぼそっと言った。
トイラのその質問は意外だった。
あんなに人を睨んでおいてこの質問は信じられない。
「ちょっと、そういう問題じゃ、それにどうしてあんた達日本に来たわけ? 何の目的で?」
「それはそのうち嫌がおうでもわかるさ」
さっきまでクスクス笑っていたキースが突然影を落としたように暗く沈んでいる。
二人とも態度にギャップがありすぎる。
これは何を意味しているのだろうか。
質問してもはっきりと答えるわけもなくはぐらかされる。
一体どんな訳があるのだろうと、ユキは帰ったら父親をとっちめる気分でいた。
自然と鞄を持つ手に力が入り、蟹股でどしどしと闊歩していた。
「へぇ、ここがユキの家か。なかなか大きいな」
キースがここに住むことをわくわくするように見上げていた。
遠くに山が重なるように屹立し、周りは畑や更地が広がり、その間を砂利の混じる道がタンポポや雑草に飾られながら通っていた。
家がポツポツと広い田園で小さな島が浮いてるようにところどころに建っていた。
ユキの家は小高い丘の上に小山を背にしてどんと構えていた。
純日本風の二階建て、庭が広く、周りは低木で囲ってあった。
玄関の鍵を開け、ドアをスライドしてユキは家の中に入った。
二人は玄関でまず首だけつっこんだ。
入るなともいえず、手招きでカモーンと合図すると、いそ いそと土足のままあがりこんでしまった。
「ちょっと、靴、靴脱いで。日本は家の中で靴履かないの」
二人は顔を見合わせて靴を脱ぐ。
家にあがれば、体を低く構えて、鼻をヒクヒクと動かし、匂いを確かめるように辺りをキョロキョロしていた。
その行動は見 知らぬところを警戒している犬や猫を連想させた。
「日本の家が珍しいのね」
ユキが一通り家の中を案内してやった。
掛け軸を床の間に飾った畳の部屋で、トイラとキースの動きが止まる。
畳の匂いが心地いいのか、目を瞑って、鼻で深く息を吸い込んでいた。
「森の匂いに似ている」
トイラが小さく呟いた。
案内が終わると、居間のソファーに二人は大人しく腰掛け、暫くじっとしていた。日本風の家でありながら、モダンを取り入れて居間は洋風の作りになっている。
ダイニングキッチンがアルファベットのLの字型に居間と続いていた。
二人は被告人が判決を待つようにこの後どうなるかハラハラしていた。
ユキはどうすべきかと、二人を目の前に腕組をして仁王立ちをしている。
「僕達、迷惑かけないから。安心して」と懇願の目でキースが言った。
トイラは黙ってじっとユキを見つめていた。
「とにかく、この状況をパパに説明してもらわないと、私だって何をすべきなのかわからないわ。パパどこにいるのかしら?」
「博士なら、今日僕達と入れ違いにカナダに行ったよ」とまたキースが言った。
「えっーーーーー、嘘! 聞いてない」
ユキの素っ頓狂な声で家が揺れる勢いだった。
「突然だったんだ。でも俺達がユキのことちゃんと守るように頼まれたから、だから心配しなくていい」トイラがなだめるように言った。
「昨日までパパは何も言わなかったわ。こんな大事なことどうして黙っているのよ」
ユキは納得できなかった。
しかも連絡先もわからない。
この二人はなぜここに来ないといけなかったのか。
訳を知っている父が居ない今、ユキは力が急に抜けてへなへなと床に座り込んでしまった。
「大丈夫かい、ユキ」
突然側に駆け寄り、心配してユキの体を支えようとしたのはトイラだった。
ユキの体がふわっと持ち上がったかと思うとトイラはお姫様抱っこしてソファーに座 らせてやった。
キースが肩を震わせて笑っている。
そしてまた急にプイッと顔をそらしてトイラは冷たい態度になった。
ただ訳がわからず放心状態のユキだった。
一体これから何が始まるのだというのだろうか。
それは毛糸が絡んでしまって一本の糸になれず、困りながら何度も引っ張ってイライラする感情に似ていた。V26Ⅳ美白美肌速効
解こうにも解けない。
一層のことハサミでざくざく切って捨てたらどんなに気持ちがいいだろうと、ごっそりと目の前の二人をもちあげて、玄関から投げ捨てたくてたまらない衝動にかられた。
「なあ、ユキ、お腹空いた」
キースは子犬のように目をウルウルさせ、まるで尻尾を振っているように甘えた声を出していた。
ユキは父親と二人暮し。
母親は物心ついた時にはもうこの世に居なかった。
父娘でずっと暮らしてきて、家事は殆どユキがやっている。
料理を作るのは苦では ない。
だが、この二人は何を食べるのかさっぱり分からなかった。
とにかく家にあるもので料理をこしらえてやった。
「いい、食べるときは、日本では両手を合わせて『いただきます』というのよ」
言われたとおりにする、トイラとキース。
その動作がかわいい。
素直に言うことを聞く二人に驚きつつも、ユキは母性本能をくすぐられた。
暫し二人を見つめ てほんわかな気分が漂う。
次の瞬間、我に返って恥ずかしさがこみ上げ、自分の頬を両手でぴしゃりと叩き、その感情を否定した。
この二人に飲み込まれてはだめと、気を取り直してユキも箸を持った。
ご飯と、味噌汁、焼き魚に、煮物、そういったものが食卓に並んでいる。
トイラとキースはもの珍しそうに眺めている。
「これ、何? 食べられるの。たまねぎ入ってないよね。僕もトイラも玉葱は嫌いなんだ」
キースは柔らかな物腰のくせに、小さなことをいちいち気にしそうな細かさが目に付く。
しかしトイラは何も言わず黙々と食べだした。箸も結構上手く持っている。ユキの作った料理を一心不乱に食べていた。
その食べっぷりはユキは見ていて気持ちよかった。
「玉葱が食べられないって、二人とも子供ね、私なんて玉葱大好きよ」
「へぇ、魚って結構おいしい。これって猫の食べ物だと思ってたよ」とまたキースが言った。
ユキはその一言で欧米の食生活を振り返った。
確かに魚を食べる人は少なく、肉が主食だというくらい肉ばっかりだったと自然と頷いていた。
その間にトイラは骨まで食べたのか、あっと言う間に魚の姿が消えていた。
「やだ、トイラ、魚の骨まで食べたの。よく食べられたわね」
キースはそれを聞いてまたクスクスと肩を震わせていた。
キースはよく喋る。
人懐こい。
子犬が遊んで欲しいのか、自ら玩具を差し出すように会話がぽんぽん出てくる。
それとは対照的に口数少ないトイラ。
何もかも自 分のペースを乱さず我が道を行っていた。
「ねぇ、二人は友達なの? だから一緒に留学してきたの?」
ユキはまだ二人のことについて何一つわからない。いろんなことを聞き出したくてたまらない。
「俺が、こいつと友達?まさか」
そういったのはトイラだった。
「おいおい、僕達友達じゃないか。付き合いも長いし、まあ特別仲がいいって訳でもないけど、知らない仲でもないだろう」
キースはおどけて言った。
「ちょっと、待って、じゃあ二人がここに居るのは偶然って事なの?」
ユキは二人のやりとりが飲み込めない。
英語が母国語なのに二人で流暢に日本語で話しているのも不思議だった。
「話せば長くなる」とあたかも面倒くさいとでも言うようにトイラが答えた。
「だからそのうちわかるって。それまでこのままで楽しもう。こういう感じ、願わくば、しばらくこの状態が続いて欲しいよ、なあ、トイラ」
いちいち引っかかるような言葉をキースは使う。
ユキは首をかしげていた。
この二人にはついていけないと軽くめまいがするほどお手上げだった。
夕食の後、洗い物を手伝ってくれたのはトイラだった。
何も言わず黙々と片付けている。時折視線を感じてユキが振り向けば、慌ててプイッと顔をそらす。トイラは 何 を考えているかユキには全く理解不能だった。
キースがそれを見ては肩を震わせるように笑っているのも不可解だった。
──この二人は一体何者?
謎ばかりが膨らみ、はがゆい憤懣も比例するように益々募る。
疑惑の目つきでトイラとキースを交互に見ていた。 男根増長素
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