2012年7月29日星期日

魔女の狂宴

自分がまったくの無力だとは思わない。
 魔女である自分には他の人間より強い魔力があることは、よく分かっている。
 けれどそれだけで何ができる?V26Ⅲ速效ダイエット
 いくら人より魔力が強いと言っても、私一人にできることなんてたかが知れているのに。

 静かに頷いたヴァノッサは、それからもくもくと料理に手をつけていた。いくら時が経ったといっても食事のマナーはあまり変わってはいないらしく、見ただけで本当に皇族なのだと分かる仕草で料理を嚥下していく。
 そういえばこの人は何も言わずに食べているけれど、料理は口に合っているんだろうか。
 普段から自分やビーの食事しか作らないから、自分好みの味付けしかしていないというのに。
 まぁ、まずいと言ったその瞬間に料理を下げるぐらいのことはするのだけれど。
 ……とりあえずは私の作った料理が今のファルガスタでも食べられていますようにと祈るばかりだ。
 この料理は何だと訊かれたら年月が過ぎたことを嫌でも思い知らされて嫌だったし、何より懐かしい故郷の料理を食べたら国が恋しくなることだろうから。そしてそれは私とビーにとっては歓迎すべきことで。夜風と料理の湯気の両方に頬を撫でられながら、私はそれを確認しようかと考えて止めた。
 そんなことを話すためにわざわざここに来たわけじゃない。
 私が話し出すのを待っているのだろう、あくまでも静かに料理を嚥下するヴァノッサの紅蓮の瞳を一度見やってからついと指先を動かして自分ごと椅子をふわりと浮かせ、リィズネイションが咲く方へと向けた。
 そうしてそんな特に意味のない動作をしてから、ヴァノッサに顔を見られないようにしてようやく声を出した。
「オルド暦四六一年」
「?」
「この年に何が起こったか、貴方は知っていますか?」
 雪とともにファルガスタに地獄が舞い降りたあの冬のことをこの男は知っているのだろうか。いや、史実としてはもちろん知っているだろう……仮にも炎帝を名乗るなら。
 けれど、ほんの一欠片でも想像することができるだろうか。
「原因不明の伝染病に国中が侵され、多くの民が死に絶えました。皮膚の色が変わり激痛に襲われ、最後には狂って死んでいく死の病です」
「……魔女の狂宴か」
 変わりゆく肌の色と激痛に死を感じ怯えながら、それでも生きていた人々のことを。
 大事な人が目の前で死に逝く中、悲しむこともできないぐらい狂っていった民のことを。
 国が滅びなかったのが不思議なぐらい多くの人が、あの冬に死んだ。
 それをこの男はどれだけ理解しているのだろうか。
 集中していないと聞こえないほどの風音にあえて意識を集中させながら、私は微かに声を震わせて努めて静かに言った。
 姉妹月に浮かされてぼうと浮かび上がるテラスに目を細めて、ともすれば泣き出しそうな心を叱咤しながら。
 できることなら思い出したくない、けれど思い出さなければ話なんて進まない。
 椅子の背もたれに深く腰掛け、同時に嗚咽を吐き出すまいと深く深く息を吸う。すると喉の奥でひゅっという音がして、私はそれを悟らせないために微かに身動ぎした。
 そう、あれはまさに狂宴だった。
 決して魔女や魔導師が起こしたことではないのだけれど、そう思われても仕方がないほどに私達には異変がなかったし為す術がない出来事だった。
 誰に責めることができただろう、誰よりも苦痛を味わう人々が何の苦痛も知らない魔女へ怒りをぶつけることを。
 私からすればとんでもないことだったけれど、どうでもいいと思える程度ではあっても強い憎しみに囚われるほどではなかった。
 何より陛下に止められない狂気を私に止められるはずがない。
 辺境から城下へと迫った狂気は、やがて。
「そう。だから人々は、炎帝の傍に侍る氷の魔女を殺せと国中で声を上げた」
「確かに、手紙にも史実書にもそう書いてあった……だがなぜだ? 当時は他にも魔力を持った者が存在したと――」
「もちろんいました。けれど皆とっくに身を隠していましたから、一番目立つ魔女である私に白羽の矢が立ったのです」
 反乱という波となって、城へ……私へと襲いかかった。
 もちろんそれは予想していた通りの流れで、分かりきっていた話なのだけれど。それでも私は身を隠したりはしなかった、というと格好良い言い方だけど別に自己犠牲に酔っていたわけではない。
 見上げた先にある姉妹月がすれ違いそうなほどに近付くのをぼんやりと見ながら、ささやかに甲高い音をさせてヴァノッサが食事を止めた気配を半身に感じた。そうして気配を感じた方の頬に、強い視線が向けられるのも。
 まるで怒っているようなその気配は一体何を言いたいのだろうか。横顔で視線を受け止める私には分からなかったけれど、別に気にする必要はなかったらしい。
 がた、と音がしてそれからすぐに姉妹月が消える。自然と降りた影を見ると、それはやはり怒っていた。
 肩を怒らせてこちらを見る紅蓮の瞳は私に何も伝えない、だが代わりに言葉で怒りを伝えてくる。
「なぜ逃げなかった」
「……」
「他の魔女達とともに身を隠せば、民だって貴女に憎しみをぶつけることはなかった」
「……一つ、勘違いをしているようですが」
 どうして貴方がそんなに怒るのか。
 私としてはその方がずっと問題なのだとこの男は気付いて……いないに違いない。
 刺すような視線に私は呆れ混じりの溜息をつき、首を振る。するとヴァノッサの怪訝そうな瞳とぶつかった。
 確かに普通に考えればそれが正しい。私だって誰かが同じことをしていたら馬鹿にするかもしれない。
 けれどヴァノッサは分かっていない。
「私がここにいるということ。生きているということ。その意味が、貴方になら分かるはずです」
「だが――」
「あの時国中の人が、私の死を確信したでしょう。でも私は生きている……逃げて、ここで生きている」
 遅かれ早かれ私は逃げたのだ。
 なのに逃げなかったことに対して怒られるのは筋違いというもので、なぜ逃げたと言われれば文句は言えないけれど逆は認められない。
 そう言った私の顔は、一体どんな表情をしていたのだろう。ヴァノッサが怯んだように目を逸らし、眉を寄せて苦渋を浮かべたのが見えた。
 影になっているからそれが本当に苦渋なのかは分からないけれど、きっとそうなのだと思う。
 ふわり、と自分の体だけ浮かせてそのままの体勢でテラスの手すりに腰掛ける。体重をかけると何かの拍子に落ちそうだったから、触れるか触れないかという程度にだけど。
 そうして自身の身に纏うワンピース生地を柔らかに揺らしながらヴァノッサを見ると、一変して明るい場所で見えた彼の顔にはやはり苦渋が浮かんでいた。
 複雑そうなその表情を見て、もしかしたらこの男は気付いたのかもしれないと思った。
「貴女を逃がしたのは、先代の炎帝か」
「えぇ」
 気付いた、というよりは確信したというべきか。
 予想はしていても確信するには私自身が認めるしかない。
 搾り出すような声にできる限り平静を保って答えると、その演技がそのまま私の心を平静にする。
 リィズネイションに囲まれて白いテラスの中に佇むヴァノッサはともすれば浮いてしまいそうなその場所で、自然に自己の色を浮かび上がらせる。
 特に欠点のないその姿はまるで一枚の絵画のようで、自分が同じ場所にいるとはとても信じられない。姉妹月に背を向けていなければ、その二つの月ですら絵画の中にすんなりと入れてしまいそうだ。
 美しいというわけではない、確かに幻想的ではあるがそれが理由ではない。ただ異常なまでの強さがすべてを巻き込んで、それがゆえにヴァノッサと世界が溶け込んでいるように見えたから。……これが炎帝と言われる所以だとするならば、やっぱりあの人とこの男は別人なのだと思った。V26即効ダイエット
 見た目はほとんど同じなのに私はあの人にこんな強さを見たことはない。見たいとも思わなかった。
 私がそう思っている間に、ヴァノッサは拳を軽く握りしめてこちらを見る。
 燃えるような瞳は少しの躊躇を持って一度閉じられ、一歩分私へと近付く。自分の歩幅よりもずっと大きな一歩はしかしそれ以上進んでくることはせずに、瞳を開くことで押し止められる。
「それが、救世主を拒む理由か」
「もちろんそれもあります」
 溜息のような問いに肯定と若干の否定を返すと、ヴァノッサはまだあるのかというような顔でこちらを見た。まさかこれだけだと思ったのだろうか、魔女の長い人生を舐めてもらったら困る。
 まぁ……すべてあの冬に起きたことだと考えれば、舐めてかかってこられても仕方がないのかもしれないけれど。
 とりあえず座ってはどうですか? と尋ねればこのままがいい、という返答とともにヴァノッサはもう一歩こちらに近付いてきた。あまり高くはない手すりに腰掛けて、丁度同じ目線になっていることにその時気付く。
 上からでも下からでもなく真正面から見たヴァノッサはやっぱりあの人に似ていて、そのくせ紙一重の差で別人で。
 私は一体この男にどんな顔をすればいいのだろうかと悩みながら。
「一つ、昔話をしましょう」
 少しずつ自分が話したかったことへと近付いていく。
 それは自分が普段思い出すまいとしている記憶との対面だったけれど、何も過去のすべてを事細かに語る必要も思い出す必要もない。ただ、話すべき事柄だけを思い出し話せばいいのだ。なのにどれだけ痛みの少ない記憶を探してもそんなもの見つからなくて、私は痛みに目を閉じた。
 そうして閉じた視界の中で、懐かしいあの国の光景が目に浮かんだ。あぁ、どうして記憶をそのまま見せてあげられる魔法がないんだろうか……あれば思い出すだけで済むのに。
 黙って立ったままのヴァノッサを見えない視界に捕らえながら私は何から話すべきかと思案して。
「病が城下に近付く、ほんの少し前に私は一人の女の子に出会いました」
「……」
「あの頃はまだ場内の者達にしか私の存在は知られていなくて、何も知らないその子は私によく懐いてくれました」
 最後に街に出た日のことを話そうと決めた。
 どうして出会ったのかも分からないたった一人の女の子のことを。 そしてその子が死んだ日のことを。
 意識を集中させて体を浮かせ続けた私は不意にその魔法を解いてゆっくりと手すりに腰掛ける。今もし何かあったら落ちてしまいそうな体勢だったけれど、どうしても何かに触れていたくてその冷たい手すりに指先を這わせた。
 どこか幻想的なこの光景の中で自己を保っているにはそれしかないと思ったから。
「何の話をしていたか覚えていないし、どうして出会ったのかも覚えていないけれど、私もその子のことが好きだったのは覚えています」
 そう、会う度に抱きついてきたあの子の冷たい体を抱きしめるのが好きだった。
 お忍びで城下へ降りてきていた陛下がそれを見て笑うのが好きだった。
 もうすぐ雪が降るなと考えていたのをよく覚えている。
 ……そんな他愛のないことばかりちゃんと覚えている。何を話していたのかとかそういう大事なことは全然覚えていないのに。それが何だかとても悔しくて思わず唇を噛みしめたくなったけれど、そんな姿を目の前の男に見せたくはなくて、寸前で我慢して話を続けた。
「でもあの子も病にかかってしまった。城下の誰より早く、あの子に死が近付いていきました」
 誰もがあの子を遠巻きに見ていた。紫に爛れていく肌を晒したあの子に、誰も手を差し伸べようとはしなかった。
 皆知っていたのだ、それが城下で起こる地獄の始まりだと。
 ただ私だけがあの子に近付いて、何とかできないかとひたすらに薬を調合した。
 魔女がその病にかからないことは、すでに陛下から聞いていたから。
 怪我を治すことができるのに病を治すことができない自分をあの時ほど呪ったことはない。
 手すりに這わせた指先が、そこから冷えていくのを感じながら私は細く深く息を吐いた。平静で、何事もないかのように話していなければならないのにどうしてもそうはできなかった。
 思い出さなければ何てことはないのに、思い出せば後から後から溢れてくる痛みに支配されそうだった。
「毎日毎日、病の対処法に奔走する陛下と一緒に薬を調合し続けました」
「……貴女は」
「でも駄目だった。何度試しても効果がなくて、あの子が痛みに狂うのを見ながら私まで気が狂いそうになりました」
 いくら自分が救世主に向かないことを証明するためとはいえ、自分の無力を語ることがこんなに辛いことだとは知らなかった。
 卑下ならいくらでもできる、それこそ一晩中自分を卑下し続けよう。
 でもそれだけではきっと納得しないことは分かっていたから。確かな理由と過去と持って証明する必要があった。だからこうして話しているのに、いくら覚悟をしてもそれで痛みが和らぐわけではなく、私は死ぬ間際のあの子の言葉を口にした。
「助けて」
「レイアスティ?」
「助けてって……言ってたのに」
 助けて、と何度も何度も繰り返していたのを思い出す。
 あれはどこだったか、場所は覚えていないけれどそれだけはちゃんと覚えていて。そして私は覚えていないだけで、きっと何度も何度も誰かのその言葉を聞いては助けられなかったことに絶望したのだと思う。
 その中でこれは最初の絶望だった。
 息絶えるその瞬間まであの子は私に助けてと言い続けていた。
 それはもしかしたら私が魔女だと気付いたからかもしれないし、そうではないのかもしれない。でもそんなことはどうでもよかった。
 このまま落ちてしまおうか、何とはなしにそう思いながら軽く体を傾け私は続けた。
「私には何もできなかった。誰も助けられなかった。そのくせ一人逃げ出した」
「……貴女はそれを」
「いくら魔女だと言っても、私一人にできることなんてたかが知れています。それなのに貴方は私に救世主を望むのですか」
 ファルガスタも、そこに生きる民も他国のこともどうでもいい。
 そう思うのは激しい憎しみをぶつけられたせいでもあるし、これ以上関わりたくないという想いのせいでもあるし、本当にどうでもいいと思っているせいでもある。
 けれどたとえばここで何とかしたいと想ったとして、私に何ができる?
 何もできずにまた絶望するの? あの冬のように。
 そんなのはごめんだった、絶対に嫌だった。
 そう思い目を開けると、あまりに近くにヴァノッサがいたので思わず手すりから落ちそうになった。だが魔法を使おうとしたところでヴァノッサの腕に支えられたので止める。
 小さく礼の言葉を口にするものの、支える腕が離れないので怪訝に思ってそちらに視線を向ける。すると彼は表情を隠すように口を引き結んでこちらを見ていた。
 不快感を表すものでもない、同情しているわけでもないだろう、ではこれは何?
 不思議に思いじっとその紅蓮の瞳を見つめていると、ヴァノッサは私から腕を離し――え?
「な、何を!」
「――すまない」
 いきなり目の前で跪いた紅蓮と黒の体に、慌てて手すりから降りる。
 腕を伸ばして肩に触れる。そうして立ち上がらせようとした所で放たれた言葉は、見事に私を固まらせた。
 腕が折れている方の肩に熱を感じて思わず指先を離しそうになったのに、それすらできないほどに驚かされた。
 ……どうして。
「どうして貴方が謝るんですか」
「そうしたかったからに決まってるだろう」
 自分が生まれるよりもずっと前の話を聞いて、どうして謝るのだろう。
 そう思い困惑をそのままに声を出すと、響いた声に重なるように即答で返された。自分の声の余韻と重なったそれはひどく綺麗に聞こえる。
 一歩後ずさってその音の余韻に浸っていると、ヴァノッサはそれにと続けた。
「俺はこれから貴女に残酷なことを言うし、願うからだ」
「……っ」
 こちらを見上げる怖いほどに真摯で強い視線を見てこれから言われ、願われる残酷なことが何なのかに気がついて目を見開いた。
 これだけ話したのに、人がせっかく痛みに耐えて自分の過去を晒したのにこの男は、まだ――。
「貴女がどれだけ絶望したか聞いて、それでも俺は貴女に救世主を望む」
 まだ、私に救世主を望むというの?
 あまりのやるせなさに眩暈を感じて、私は手すりに体を預けて跪いたままのヴァノッサを力なく見下ろした。V26Ⅱ即効減肥サプリ
 一体どうしてこの男は、そこまでするのだろうか。
 何もできなかった私にこうして謝罪までして、どうして。
 そう考えているとヴァノッサは苦笑を浮かべながら、疑問に対する答えを返してくれた。
「銀の魔女、最果ての魔女が救世主」
「……? それは確か」
「知っているか、あの物語を。うちの預言者があの物語の通りになると預言したから俺はここに来た」
「でもあれは翡翠の――」
「海のような蒼の瞳を持つ、銀の魔女を指名してきたぞ」
 呆れた。
 確かにそんな姿を持つのは世界にそうそういるものではないだろう、更には最果てという単語までついたとなれば。
 けれどこの男はそんな預言者の言葉を信じて、ただそれだけを信じてここまで来て頭を下げているのか。仮にも皇帝が、そんなにしてまで預言者の言葉を信じて。
 紅蓮の瞳から目を逸らして夜風に揺れる紅い髪を何とはなしに見ながら、馬鹿みたいと呟く。本当に馬鹿みたいだ……ただそれだけのために私は振り回されたのか。その預言者にも腹が立つが何よりヴァノッサに腹が立った。
 はぁ、と息をつくと先ほどの私の言葉が聞こえたのだろう。ヴァノッサが苦笑を深めてそうだな、と同じく呟いた。
「確かに馬鹿みたいだ。だが今は、預言者の言葉抜きで貴女に救世主を望んでいる」
「……どうして」
「人の死に絶望して、更には三百年経った今でも痛みを感じ続ける魔女なんて、聞いたことがないからだな」
「馬鹿にしていませんか?」
「まさか。むしろ申し訳ないと思っている。俺の国の先祖や民が貴女を苦しめ続けているのだから」
 いい加減立ち上がればいいのに、ヴァノッサはやはりその体勢のままただ真摯な瞳でこちらを見ているが少しだけその視線を弱めて笑った。
 緩やかに弧を描いた唇が紡いだのはやはり笑みを含んだ声で。
「貴女は自分一人でできることなんてたかが知れていると言ったな」
「えぇ」
「まずその勘違いを正しておきたいんだが」
 口調は先ほどから変わらないのに、ひどく優しい声が辺りを満たす。
 自分ではきっとどう頑張ったって出せそうにないその声をこの男が出していることが不思議で、私はどことなく自分より年上に見える男から視線が逸らせないでいた。
 顔を若干仰向けて姉妹月の光をいっぱいに浴びた瞳は、次の瞬間微かに曇る。想いを隠そうともしない瞳は、最初に出会った頃とは大違いだと思えるほどに分かりやすかった。
 きっと、故意にそうしているのだろう。
 ここで隠し事をするということがどういうことか分からない男ではないはずだから。
「今、モーリス大陸では俺の国を始め多くの国が地震の被害を受けている」
「……知っています」
「何度家を建て直しても次から次から壊れていく。民はいつまで経っても避難所での生活を強いられているし、何より地震の規模も頻度も大きくなっている」
「そうでしょうね。私もそう感じていますから」
「分かるのか?」
「感覚としてなら。体がかなりだるくなりますけど」
 唐突に切り出された言葉に別段何を言うでもなくただ相槌を打つ。すると私に地震の感覚が分かることに驚いたのか、ヴァノッサは微かに眉を上げてこちらを凝視した。
 けれどそれぐらいで驚かれては困る、私は一応魔女なのだし。
 そうなのか、と呟いたヴァノッサはしかしすぐに表情を引きしめてこちらを射抜くように見た。その表情に徐々に影が出てきたのを感じ、そろそろ姉妹月のうちの片方が消える時間かと内心で呟く。
 ということは、もう結構な時間私達はここで話していたということになる。ついとヴァノッサの横に咲くリィズネイションへと視線を向けて、その花が閉じようとしているのを見て確信する。
 そうしてそんな確信を抱いていると。
「俺は俺の国と民を守りたいし、守るためには何だってやってやる」
「……」
「一人で絶望させるつもりはない、その時は国を失い俺も一緒に絶望する。一人でできることなんてたかが知れてるなら、二人でやればいいだろう。その結果本当に国が救えるかは分からないが、もしできなかったとしてもそれは貴女の責任ではなく貴女を選んだ俺の責任だ。貴女が苦しむことなんて何一つない、その代わりに俺は貴女に限界を超えて力を揮うことを願う」
「そんな、無茶苦茶な――」
「だから」
 無茶苦茶だ。
 大体一人増えたぐらいで変わるものではないし、そういう意味で言ったわけではない。
 なのにヴァノッサは私を責めないと言いつつも私に限界を超えろと無茶を言う。
 そうして真摯な瞳と柔らかい声をそのままに折れていない方の手を差し出した。
 ややごつごつとして見えるその手を困惑気味に見ていると、ヴァノッサは続ける。
「俺と来い、レイアスティ。臣下としてではない、救世主として俺の隣に立て」簡約痩身

没有评论:

发表评论