2012年7月5日星期四

閉ざされた扉

だだっ広い部屋の中、真子が部屋を見回してくるりと一回転するのを和磨は愛しさを持って眺めた。
この部屋は、多目的に利用できるように作られた部屋だ。
壁には長子の描いた絵、亡くなった祖父の、そして母の描いたものも飾られている。
壁に掛けられた、それら一作一作の前に和磨は立ち止まっては、真子に紹介した。sex drops 小情人
家族の絵ばかりではなく、両親の気に入りの絵もこの部屋には飾られている。
中には、誰でも知っている巨匠の絵画もある。
はっきりいって、真子にそれらを紹介したくはなかった。
だが、わざと口にしないと言うのは、おかしなものだろう。
考え直した和磨は、真子に本当のことを告げた。
真子は、驚くというより、とんでもなく引いたようだった。
「なんか、他の絵と特別視されてなくて、さりげなーく飾られているところが、なんていうか…こう、すさまじいですね」
真子の表現に和磨は吹き出し、なかなか笑いを収められなかった。
そんな中で、真子が立ち止まって魅入ったのは、若い長子を描いた和磨の祖父の絵だった。
若さ、華やぎ…その絵は明るさに満ちている。
そして祖母の聡明な瞳には、形容しがたい熱い思いが湧き出ているかのようだ。
「とんでもなく愛が詰ってますね。この絵…」
和磨は真子の感想を嬉しく受け止めた。
「ああ。そうだな」
「お祖父様の思い出は?」
真子の問いに、和磨は記憶を探った。
祖父は和磨が幼い頃に亡くなっている。
それでもどっしりとした存在感は、和磨の胸にはっきりと残っている。
「祖父の腕に抱かれた記憶はあるよ。熱いひとだったな。そう感じた」
「和磨さんに似てらしたんですね」
「それは僕が熱いということか?」
和磨は軽く言った。
真子が真面目な顔で頷いた。
「和磨さんの小さな頃の写真…みたいです」
真子のその言葉に、和磨は口元を曲げた。
「あまり見せたくないな」
「どうしてですか?」
その問いに和磨は詰った。
自分でもなぜそう思うのか理由が分からなかった。
彼は首を捻った。
「どうしてかな?」
「和磨さんってば…」
真子が拗ねたような呆れたような笑いを零した。
その複雑な表情に野性を刺激され、和磨がすばやく真子を抱き寄せた途端に、ドアがノックもなしに開いた。
「あ、す、すみません」
ひどく慌てた声が、和磨の背中に飛んできた。
驚いた真子が、両手に力を入れて和磨の胸を突き飛ばした。
だが、彼女は和磨の体格に負けて、自分の方が飛ばされる形になった。
よろけて転びそうになった真子を、和磨はさっと腕を伸ばして支えた。
「こちらにおいでとは…知りませんで…」
突然の侵入者は、顔を赤くしてひたすら頭を下げたが、真子は彼の倍ほども赤くなっている
彼は笑みを浮かべて、真子の赤い頬を見つめてから、後ろに振り返った。
「別に構わないよ。それより、どうしたんですか?ずいぶん慌てているようだけど」
「いえ。システムの具合を点検に…」
和磨が女性といるところなど見たことがなかったせいかもしれない。
ひどくうろたえて足をもじもじさせている馴染みの相手に、和磨は笑いを噛み殺した。
「ああ。そうだった。この部屋は大丈夫そうだ」
「そうですか。それでは、これで」
すぐにも退散しようとする相手に、和磨は呼びかけた。
「僕が見てみようか」
「よろしいんですか?」
相手は笑顔を見せてそう言ったが、すぐに笑みをけしてかしこまった。
「ですが、和磨様にそんなことをお願いしては…」
「真子にシステム管理室を見せてやれるし…。真子、見てみたくないか?」
「迷惑でなければ、見たいです」
真子が遠慮がちに言った。
和磨は頷くと彼に向いた。
「迷惑か?」
相手はフルフルと首を左右に振った。
「もちろんお願いできれば、助かります」


「いかがですか?」
パソコンの画面を見つめている和磨に、期待を込めた声が掛けられた。
「うん」
和磨は言葉にしづらくて、それだけ口にした。
真子は初めの物珍しさも解消したのか、勧められた椅子にかしこまって座っている。
周りに人がいるせいで、かなり緊張しているようだ。
もしかすると、先ほど乱しに乱してきた客間のことを、後ろめたく感じているのかもしれない。
「復旧させるとなると、少し時間が取られそうなんだ。いまは…悪いが…」
かなりの期待を持っていたらしい相手は、和磨の言葉にがっかりした様子で肩を落とした。
和磨は申し訳なさが増した。VVK
「役に立てなくて、すまない」
「と、とんでもございません。ありがとうございました」

和磨はそうそうにシステム管理室を出て、無意識に自分の部屋に足を向けていた。
もちろん真子が一緒についてくることは自覚していたが…
システムを故意に混乱に陥れた人物がいることは、はっきりした。もちろん、やったのは和磨の父、真人だ。
システムの復旧は、パスワードが必要になっていた。
いじっているうちに、その表示がポンと画面に飛び出てきて、和磨は表には出さなかったが内心ぎょっとし、誰にも見られないうちに、表示を消した。
もちろんパスワードが分からなければシステムを正常に戻すのは無理だが、父の考え付いたパスワードは推理できた。
その思いついたパスワードを、彼は試してみたくてならなかった。
己の性格で、よくぞそれを思いとどまったと、自分を褒めてやりたいくらいだった。
けれど、パスワードを解いてしまうと、父親の仕業だとみなにばれてしまう確率は高いし、父の企みを、和磨の手で潰してしまうわけにはゆかないだろう。
真人はいつも、深い思慮のうえで行動する。
それがひどく突飛で、ひとをからかっているとしか思えないようなものでも…
まあ、七割がたは、みなの反応を楽しんでいるに違いないが…
「和磨さん、どうしたんですか?」
深い思考に捕らわれていた和磨は、真子の声に我に返った。
「あ、ああ。システムの復旧の見込みを考えていたんだ」
「みなさん、困ってるみたいですね。でも…」
「うん?」
真子が気まずそうな笑みを浮かべた。
「みなさんが慌ててるのをみて、こんなことを言ってはいけないのでしょうけど…なんだか、ほっとします」
和磨は真子をまじまじと見つめた。
「和磨さん?」
どうやら彼は、企みの核に触れたようだった。
「何を笑ってるんですか?」
「いや。ちょっとしたことに気づいただけだ。たいしたことじゃない」
和磨は目の前にある自分の部屋の扉を開けた。
「ここは?」
「僕にあてがわれた部屋。どうぞ」
和磨は真子を先に部屋の中に入れ、自分も後に続いた。
この部屋に入ったのは、本当にひさしぶりのことだった。
真子が部屋を見回している後ろで、この部屋の主なはずの和磨自身も、部屋を物珍しげに眺め回した。
「ずいぶん雰囲気が違うんですね」
「どこと比べて?…ああ、マンションか?」
「はい。あちらは全体的にすっきりとしてましたけど、こちらは…」
この部屋の家具を選んだのは母親だ。
和磨が他人の部屋のように思わずに、心地よく過ごせるようにと考えてだろうが、やたら物が飾ってある。
「寝るだけの部屋なのに、母がね…」
和磨はそう言って苦笑した。
「お母様、和磨さんがここで暮らしてくれたらと、思ってらっしゃるんじゃありませんか?」
「うん、まあ、そうかもしれないな」
「ご両親と一緒に暮らすつもりはもうないんですか?」
「先のことは分からないな。けど、いまは、そのつもりはないよ」
真子の頭の中でいろんな思いが駆け巡っているのが、彼女の瞳の揺らぎで分かる。
無理なことだと分かってはいても、和磨はその全てを知りたいと思う。
彼女が今どんな思いでいて、どんなことを考えているのか…
真子に強い視線を当てていた和磨は、真子の表情の変化に気づいた。
どうやら、彼の視線が強すぎたのか、真子を怖がらせているらしい。
「えっと…そ、そろそろ戻りましょうか?」
「まだいいだろう。せっかく…」
和磨は意味ありげに言葉をとぎらせ、真子をじっと見つめてから、わざとベッドに視線を這わせた。男宝
「み、みんな待ってます。きっと、いえ、絶対に」
真子を怖がらせていることに良心がチクチクする。
だが、彼女の反応が、彼の悪魔な部分を増幅させるのだ。
和磨は、いまは五歩ほど離れたところにいる真子の方へ一歩踏み出した。
真子がびくんと大きく跳ね、和磨の悪魔が狂喜した。
「か、和磨さん」
真子が泣きそうな震える声を上げた。
和磨の中の天使が、ほんの少しほろりとした。が、悪魔は勢いを増すばかりだ。
一歩一歩近付いてくる和磨に何度も呼びかけながら、真子は部屋の壁に背中を押し当てるようにして、ドアの方へといざってゆく。
和磨は間一髪のタイミングで彼女が逃げられるように、甘く追いつめて行った。
やっとドアに辿り着いた真子が、ノブに手を掛けて安堵したのを見届けて、和磨はゲームを終了させた。
彼は湧き上がってくる笑いを噛み殺しながら腕を組んだ。
真子は最高に面白い!
「か、和磨さん、い、いつの間に…」
ドアからすぐに飛び出てゆくと思っていたのに、真子はまだ部屋の中にいて、相変わらず恐怖の色を浮かべて和磨を見つめてくる。
和磨は意味が分からず眉を寄せた。
「どうしたんだ?」
「ど、どうしたって?…鍵を掛けたのは和磨さんでしょう?」
鍵?
和磨は本気でめんくらった。
「僕は鍵など掛けていないぞ」
「え?で、でも、だって、開きませんよ」
真子はなんどもドアノブをガチャガチャさせている。
和磨はドアに歩きよった。
和磨への信頼を完璧に失くしていた真子が、ずざざざと音がしそうな動きで、右側に勢い良く移動した。
その様はあまりにおかしくて、和磨は派手に吹き出した。
和磨の様子を見た真子が、怖れを消してむっとしたのをみながら、和磨はドアノブに手を当てて、ぐっと押した。
確かに、開かない…
和磨は、なんとなしに真子に向いた。
真子の膨らんだ頬から空気が抜け、その目に再び怖れが湧き上がった。
どうやら、彼ら二人は、密室に閉じ込められたようだった。狼1号

没有评论:

发表评论