2012年7月12日星期四

美味し過ぎる妄想

「あー、美味しかった」
スパゲティーを瞬く間に平らげた詩織は、満足そうに言いながら、お腹をさする。
残る三人は、まだ食べている最中だ。
「詩織ちゃんたら、ほんと食べるのが早いわね」狼1号
芙美子は詩織を眺め、感心したよう言った。
「そうなんですよ。もっとしっかり咀嚼しろって、いつも言ってるんですけど…」
しかめた顔を詩織に向け、千里は小言を言う。
「もおっ、千里は口うるさいんだよぉ。いいじゃんか、美味しいものはパクパクと勢いづいて食べるほうが、さらにうまいの」
詩織の反論に、千里はやれやれというように肩をすくめ、スパゲティーを口に運ぶ。
それにしても、詩織は誰よりもおしゃべりしていたというのに、いつの間に食べてるんだろうと思う。
沙帆子は、みんなの会話に相槌を打っていることの方が多いのに、いつも食べるのが遅い。
詩織は、昼食が出来るのを待つ間も観ていた結婚式のアルバムを、また開いて見始めた。
昨日観せてもらった、佐原の弟の順平が作ってくれたアルバムだ。
新郎の佐原と、花嫁の自分が並んで映っている写真…
照れくさいけど、佐原と結婚したことを実感できるアイテム。
でも、その実感も、写真を観てるときだけなんだよね。
現実なのに、現実と思えなくて…
妙なところで頑固な自分の意識に、彼女自身が呆れてしまう。
「ねえ、沙帆子さあ」
スパゲティーをちゅるんと口に入れたところで千里から話しかけられ、沙帆子は顔を向けた。
「うん?」
「いつから佐原先生と付き合ってたのよ? まさか、春ってことはないでしょ? 秋くらい?」
質問の内容にびっくりした沙帆子は、思わず息を吸い込みそうになり、危ういところで息を止めた。
口に入っているスパゲティーを、もう少しで喉に詰まらせるところだった。
「あーっ、それ。わたしも聞きたい、聞きたい」
右手を勢いよく上げ、詩織はテーブルに身を乗り出してきた。
母は、どういう含みなのか、意味ありげな視線を沙帆子に向けている。
「う、うんとね…」
そんな現実は存在していないため、彼女としては、口ごもるしかない。
「今年に入ってからなんじゃないの?」
まるで助け船を出すように母が言ってくれ、沙帆子は反射的に「うん」と頷いていた。
「やっぱし今年かぁ。だよねぇ」
何が、『だよねぇ』なのかわからないが、詩織は自分で言って、納得というようにうんうんと頷く。
「で、いつなのよ? もちろん、佐原先生から告白されたんでしょう?」
千里から直球で問われ、沙帆子は困った。
「そりゃあそうだよ。沙帆子が、自分から告白なんて、世の中がひっくりかえっても、ありえないね」
沙帆子は息を詰めて、口々に言う友を見つめ返した。
確かに、自分から告白なんて、絶対にできない。
けど…先生から告白ってのも…ありえ…
頭の中でそう考えた瞬間、沙帆子はハッとした。
さ、佐原先生からの告白っ!
さ、された、されたしっ!
「さ、さ、された…」
思い出したことに激しく動揺し、沙帆子はうわごとのように口にしていた。
「さされた?」
小首を傾げて、詩織が繰り返す。
「ち、違う」
沙帆子はぶんぶん首を横に振った。
「沙帆子?」
「沙帆子、どうしたの?」
千里と母に問いかけられ、焦った沙帆子は、さらに首を振り続けた。
わたしってば、な、なんで、忘れてたんだ。あんな凄いこと。
佐原先生が、『俺が付き合ってくれって言ってたら、お前、なんて返事した?』とかって聞かれて…、どうしても想像つかないから、告白してみてくれって、お願いしたんだ。
そ、そしたら…
言ってくれたよね?
あれは、現実だったよね?
衝撃の強さに、あの瞬間、頭の中身がすべて吹っ飛んじゃって。
返事を強要されたんだ。けど、思い出せなくて、それで…それで…
誤魔化したんだった。
ちょっと待ってくれとか言って…
そんで、いたぶりされそうな気配にびびって、進退窮まった挙句、佐原の名前を呼び捨てにした。
そしたら、なんでか…名前を呼ぶの、あと一回でいいってことになって…
なんで、一回に減らしてもらえたのかが、わからないんだが…男宝
返事は帰ってからでいいって、言われたっけ。
そこまで思い出せたことに、沙帆子は「はあっ」安堵のため息を漏らした。
「沙帆子ってば、何を思い出して、ため息ついてんのよ」
「そりゃあもう、佐原先生に告白されたときのこと、思い出してるに決まってんじゃん。ねっ、沙帆子ぉ」
「へっ?」
友達ふたりに話しかけられて我に返った沙帆子は、いまさら自分を見つめている三人に視線を向けた。
「そいで? なんて告白されたの?」
「つ、付き合ってくれって」
「きゃはーーっ!」
詩織が悲鳴のような叫びを上げる。
「やっぱりね。ほんと佐原先生らしい、ストレートな告白だったってわけだ」
千里は納得と言うように言う。
「それで、沙帆子、あんたなんて答えたの?」
千里に聞かれ、沙帆子は戸惑った。
こ、答え?
それはこれから考えるんだけど…
いや、考える必要もないじゃないか。
「は、はいって…」
思わず照れてしまい、沙帆子は顔を真っ赤にして「てへへ」と頭を掻いていた。
不思議なもんで、こうして口にしたことで、まるで本当にそんな過去があったような気になってしまう。
「へーっ。なんか意外だよ」
詩織の言葉に、沙帆子は驚いた。
「えっ、な、なんで?」
眉を寄せた詩織は、「うーん」と唸りながら腕を組み、口を開く。
「だってさぁ。あの全校女生徒憧れの存在、佐原先生そのひとからのマジ告白だよ。それも告白されたのは沙帆子なわけだしさ。『はい』なんて、普通に返事できたなんて、信じらんないよ」
的を射すぎている言葉に、沙帆子は目を丸くした。
「確かにね。冷静でいられたわけないわ。あんた、嘘ついてるでしょ?」
千里にそんな風に言われ、沙帆子は言葉をなくした。
「え…えっと…」
詩織の言ったとおりだ。
佐原に切ない片思いをしてた自分がマジ告白されて、『はい』なんて言えたとは思えない。
絶対に叶うはずのない恋だと思ってたんだし…
「じ、実は…言われた瞬間、頭が真っ白になっちゃって…」
「やっぱしぃ」
「う、うん」
沙帆子は汗を掻き掻き、俯きがちに頷いた。
すでに結婚したいまになって、それもこちらからお願いしてまで告白してもらったというのに、それでも頭真っ白現象に陥ったのだ。
これが付き合う以前だったら…?
間違いなく、気絶してる。
「頭、真っ白になって、それでどうしたのよ?」
「え、えーっと。ど、どうしたっけ?」
思わず聞き返すように言った沙帆子に、三人は同時に吹き出した。
そして、そろってお腹を押さえ、爆笑する。
沙帆子は自分を笑いものにしている三人に、拗ねた目を向けた。
「と、ともかく、啓史君にあんたの気持ちは伝わって、ふたりは付き合うことになったわけね?」
「う、うん」
「芙美子ママ。美味しい部分の話をすっ飛ばしちゃ、楽しみがなくなっちゃう」
「まあまあ、いいじゃない。そういうのはふたりの秘密にしときたいものよ」
「ちぇーっ、秘密かぁ」
どうやら詩織は、芙美子の言葉で、渋々のようだが納得してくれたらしい。
しかし、このやりとりのおかげで、佐原からのマジ告白に対する自分の反応はだいたい予測がついた。VVK
少なくとも、冷静に『はい』などと答えられてはいないということなのだ。
それにしても、佐原から出された宿題が多すぎて、ころりと忘れてしまいそうだ。
呼び捨て、残り一回。
こいつは絶対に忘れちゃならない。
忘れずに言えたら、ご褒美がもらえて、白衣でぎゅっが現実になり、でかうさも救えるのだ。
告白に対する返事のほうは、佐原がすんなり納得してくれるだろう答えを、家に帰るまでにしっかりと考えておくとしよう。
「芙美子ママ、ご馳走様でした」
千里も食べ終えたようで、フォークを置き、両手を合わせてお礼を言う。
見ると母も食べ終えていて、沙帆子だけになってしまっている。
母が片づけを始め、沙帆子は急いで残りのスバゲティーを口に運んだ。
千里は詩織の隣に移動し、一緒にアルバムを見始める。
はしゃいでいるふたりを横目に、沙帆子は佐原マジ告白の場面を想像してみることにした。
まずは、佐原先生に、呼ばれるところからだよね。
佐原が、沙帆子に告白しようとして、実行に移すとすれば…校舎の中で呼び止めてなんてシチュエーションはまず不可能。となると、佐原の部屋に呼び出されてって感じだろうか?
もし、呼び出されたとしたら…
わたし…何か悪いことをして、叱られるために呼び出されたと思うんだろうな。
そいで、いったい自分は何をやらかしたんだろうと、涙目になって、佐原の部屋に行くのを怖がったに違いない。
な、なんか…それって、あまりに情けなさすぎないか?
告白されるんだよ。
いや、いや、信じられないし…
「沙帆子?」
小声で呼びかけられ、沙帆子は顔を上げた。
「な、なに、ママ」
「もう片付けていい?」
母に言われて、お皿に視線を落とすと、スパゲティーが一本残っているだけだった。
「あ…ごめん」
沙帆子は、急いで最後のスパゲティーを口に入れ、空になった皿を母に渡した。
まったく、やれやれだ。
現実には体験できなかったことを、必死になって想像してるとは…
それでも…
結婚の前であろうと、後であろうと、佐原から付き合ってくれとの言葉をもらったのは事実。
考えたら、この妄想、美味し過ぎるじゃないか。
よ、よしっ。あとでゆっくり味わうとしよう。
そう決めた沙帆子は、三人の目が自分に向いていることにも気づかず、目尻を下げてにやついたのだった。sex drops 小情人

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