日色たちが宴を楽しむ前日、【獣王国・パシオン】では【ヴァラール荒野】から戻った獣王レオウードたちは、目の前に広がっている光景に誰もが言葉を失っていた。
決闘に行く前の【パシオン】は、実に見事な緑豊かな大自然が覆う国だったのだが、今はその緑は破壊され、燃やされたのであろう炭化している。蒼蝿水
それだけでなく、明らかに鋭い刃で受けた斬撃を示すような痕跡もあちこちに発見できる。消火が終わった瞬間なのか、煤煙(ばいえん)が舞っている場所もある。
そして皆が一番驚愕したことは、【パシオン】の象徴である《始まりの樹・アラゴルン》の変わり果てた姿であった。
年中艶やかな緑を宿している大樹は、一度も枯れたことなど無いし、その巨大な存在感は、皆の心を優しく包んでいるような慈愛を与えてくれていた。
だが今、彼らの目前に映っているのは生命力溢れる大樹などではなく、まるで切り倒されて何十年も放置されたような生気の感じさせないソレだった。
瑞々しく生い茂っていた葉は一枚も発見できず、逞しく太かった枝は、少し力を入れただけで折れそうなほど痩せ細っていた。
そして誰もが一見して感じること。それは……
この樹はもう死んでいる。
目にしているものを疑いたい思いは誰もが同じ。だがこれは紛れも無く現実であり、それを成したのが……
「……コクロゥ……」
レオウードは無意識に呟いた。怒気と殺気を最大限に込めた憤慨の呟きだった。
「……いいか、お前たちは怪我人の手当てと救助に当たれ」
レオウードは、一緒に帰って来た兵士たちに指示を与えると、彼らは弾かれたようにその場から動き出した。
「《王樹(おうじゅ)》に向かうぞ。民たちから聞いたがコクロゥは一度《王樹》に入ったらしいからな。ブランサたちが心配だ」
そうしてレオウードたちは王子たちとともに《王樹》へと足早に向かって行った。
ミュアとアノールドの二人は、国民たちの救助に向かっていた。
「……ひどい」
ミュアは体中に傷を負い倒れている国民たちを見て顔をしかめる。中には幼い子供もいる。家は大木をくり抜いて作られてあるのだが、その大木が切り倒されて下敷きになっている者もいるとのことだ。
それに火に包まれて住処を失っている者や、その火で大火傷を負っている者もいる勃動力三体牛鞭 。
「どうしてこんなことが……」
こんな惨劇を作る人物の考えが計り知れない。
「狂ってんだよそいつは」
アノールドもその表情には怒りが込められている。歯をギリギリと噛み締めながら、救助が必要な所があるか視線を動かしている。
あちこちから悲鳴や呻き声が聞こえる。子供の声を呼ぶ母親や、その逆に母親を呼ぶ子供の声。痛々しい叫びが留まることなく飛び交っている。
「許さねえ……」
「おじさん……」
「話によると、これをやったのは同じ獣人ってことじゃねえか! 何で同族にこんなことできんだよっ!」
『獣人族(ガブラス)』は種族の結束が固い。何よりも絆を重んじる獣人たちは、一度仲間と認めた者を決して裏切らないのだ。
「その人は……この国に友達が一人もいなかったのかな……」
そうとしか考えられなかった。
「……分からねえ。けど何があったって、こんなことをしていい理由には絶対にならねえ」
「……そうだよね」
「……ったく、せっかく良い具合に同盟が纏まったと思ったらこれかよ!」
長年争い続けてきた『魔族(イビラ)』と『獣人族(ガブラス)』の同盟。それが成したことで、少なくとも平和へ一歩近づいたと判断しても間違いではない。
それなのに今度は味方であるはずの『獣人族(ガブラス)』の裏切りのような行為。同盟で得た喜ばしい気分が台無しにされてしまった。
「と、とにかく一人でも救おうおじさん!」
「ああそうだな!」
二人は怒りは胸に押し流し、今は一刻も早く命を助けることを優先するために尽力した。
レオウードは《王樹》に入ると、さっそく妻であるブランサのもとへと急いだ。ブランサは両手を負傷したアノールドの姉であるライブの介抱をしているところだった。
「お母様っ!」
ミミルとククリアは揃って母親に抱きつく。彼女も二人の娘の無事な姿を見てホッとしたのか表情を緩めている。
「ブランサ……」
「あなた……」
レオウードとブランサは互いに見つめ合い小さく頷く。そして国で何があったのかブランサの口から皆へと伝えられた。
「そうか……やはり奴は……コクロゥはワシを恨んでおるか」
その呟きを拾ったのは第二王子のレニオンだ。福源春
「親父、一体そのコクロゥって野郎は何者なんだよ?」
だが当然の疑問に、険しい表情だけを返しているレオウードとブランサ。どう説明したらいいものか迷っている様子だった。
余程のことがコクロゥとの間にあることは誰もが理解できた。
「……あなた、この子たちには全てお話ししてはどう?」
「しかしブランサ……」
「私のことなら大丈夫よ、ありがとうあなた」
「う、うむ……」
それでもやはり言い難いことなのか口を一文字に構えジッと一点だけを見つめて固まる。皆もレオウードが口を開くのを待って見守っている。
そしてようやくレオウードが、その重い口を静かに開き始めた。
「コクロゥは…………先代獣王レンドックの右腕と称された、ガレオス・ケーニッヒの長男だ。そして……」
レオウードは少し間を置いて、
「……ここにいる、ブランサの義弟だ」
「お……おとう……と?」
その呟きは誰が発したのか分からない。だがその言葉は誰もが口にしてもおかしくない疑問だった。
だがブランサの様子を見ると、彼女も黙認しているように静かにしているので、それが嘘ではないことを知る。
「コクロゥはな、ガレオスが戦場で拾った孤児だった」
レオウードは、噛み砕くように皆に分かりやすく説明していく。
まだレオウードが獣王を冠する以前の話。彼の父であるレンドックが国を治めていた時代、やはりまだ世界は乱世が続いており、戦いの絶えない日々が人々を苦しめている中、ある大きな戦争が『人間族(ヒュマス)』との間で勃発した。花痴
獣人界で行われたそれは、辛くも獣人たちが勝利を収めることができたが被害も甚大だった。幾つもの町や村が犠牲になり、多くの命が散った。
そして【エーグマ】という小さな村も、その戦争に巻き込まれて壊滅に追いやられた。その頃の《三獣士》を束ねていたガレオス・ケーニッヒは、村を救えなかったことに酷く心を痛めていた。
だが幸いなことに、ある一組の家族がまだ生きているという情報を耳にした。慌てて確認しに行ってみると、そこには襲い来る『人間族(ヒュマス)』から、父と母に守られている姉弟がいた。まだ二人とも幼く五、六歳くらいだろう。どちらも雪のような真っ白い髪をしていた。
だが駆けつけた瞬間、人間にその両親は殺され、ついにその牙が姉弟にまで向かおうとした。だがガレオスは何とかその悪刃から二人を守ることができた。
「その姉弟が村の生き残りだった」
姉の名前はネレイ。そして弟の名前が…………コクロゥだった。
「戦災孤児……だったのですか」
第一王子レッグルスの呟きにも似た言葉が流れる。レオウードは微かに頷くと話を続ける。
「ガレオスは身寄りの無いその二人を自らの養子にすることにした」
それが両親を助けられなかった負い目からくる、ガレオスができる精一杯のことだった。幸いにも二人の子供が増えたところで暮らしが切羽詰まるような立場でもなかった彼だからこそできたことだが。
そして彼には七歳になる娘が一人いた。それが……
「ここにいる我が妻……ブランサだ」
皆の目がブランサに向かった。これで先程レオウードが言ったことに辻褄が合った。確かにそれなら義弟になっても不思議では無い。
突然養子の話が舞い込み、無論最初はコクロゥたちも戸惑ってはいた。しかし時が経つにつれ、徐々にだが生活に慣れてきた。D10 媚薬
催情剤
没有评论:
发表评论