2014年3月19日星期三

望まない結婚

それは寒風吹きすさぶ、ある冬の日のこと。
「お帰りなさいませ、旦那様。――――おや、どうされましたか」
「非常に不愉快だ」
 イヴリル公国北方将軍ヴァン・ラングレンは自宅に帰り着くなり、しかめっ面でそう吐き捨てた。Xing霸 性霸2000
 異国の血が入っているせいか、イヴリルの一般成人男性より一回り、二回りほど高い背丈。
アーモンドのような褐色の肌に、鍛え抜かれた頑丈な肉体。
そして、銀色の頭髪とつり上がった眉。赤に近い茶色の瞳は眼光鋭く、見る者を石にするかのようだ。
 よく女子供から「怖い顔」と称されるヴァンが、こうして怒っている姿は正に凶悪の一言に尽きる。
 常人であれば恐ろしくて目を合わせようともしないであろう主に、しかし出迎えた執事のフィーユは臆した様子もなく、銀縁の眼鏡の奥に楽しげな表情を浮べる。
「大公殿下が、何か?」
 今日ヴァンは、朝から大公に呼ばれて宮殿へと赴いていた。
夕刻になっても帰ってこないので、何か軍事関係で深刻な事態でもあったかと心配していたが、どうやらそうではないらしい。
「あの狐野郎、俺の結婚が決まったとか抜かしやがった」
 フィーユは一瞬呆けたような顔をしたが、すぐに完璧かつ礼儀正しい微笑でもって取り繕う。
「それはそれは、おめでとうございます。とうとう旦那様が身を固めるときがやってきたのですね。喜ばしいことです」
 この国のトップである大公を堂々と狐野郎呼ばわりしたヴァンが、苛々と質問に答え、フィーユは大仰に胸に手を当て頭を下げて祝福して見せた。
 もちろん、ヴァンの表情を見れば何か訳ありの結婚なのだろうことは予想できたし、微塵も喜んでいないことは、言わずもがなである。
 フィーユとて、馬鹿ではない。何も本気で祝福しているわけではないのだが、生真面目で一直線な主人をからかって面白がるのが、この執事の悪い癖である。
案の定、余計に機嫌を悪くしたヴァンが近くの壁を、自慢の蹴りで破壊した。白壁がパラパラと音を立てて崩れる。
「あー、ちょっとやめてくださいよ。こないだもアンタの部屋の机修理したばっかりでしょうが。馬鹿力は大概にしてくださいよ。ったく」
「おい、アンタとは何だ。アンタとは」
「これは失礼、つい昔の癖で」
 ピクリと眉を上げるヴァンに、「おっと」とでも言いたげにフィーユが己の口元を塞いだ。
百戦錬磨、武道一筋の主と違い、理知的で細身のフィーユだが、こう見えて二人は幼馴染で親友同士だ。
 ちなみに、年齢はフィーユが七つも年下である。
「……もう良い。今の俺には怒る気力もない」
「ホントにどうしたんですか、旦那様。そんなに結婚がお嫌なんですか?ハ……ッ!まさか旦那様、あなた実は男にしか興味がな」
「そんなわけあるか馬鹿がっ!!」
 たった今怒る気力がないなどと言っていたわりには、ヴァンの額にはピクピクと青筋が立っている。
「はは、やだな冗談ですよ。昔は若気の至りで、二人して娼館巡りなんかもしてましたもんねー」
「その頃のことはあまり思い出したくない」絶對高潮
 遠い目で昔の思い出に浸る執事とは対照的に、ヴァンの表情は浮かない。
当時娼婦に引っ張りだこだったフィーユと違い、ヴァンは少し声を掛けるだけでも悲鳴を上げられ、すっ飛んできた用心棒に思い切り不審者扱いされたからだ。
 不器量なわけではなくむしろ整っている顔立ちなのだが、如何せんその鬼気迫る迫力顔のせいで、そんなことも一度や二度ではなかった。
 ――――左目から頬に走る、大きな傷跡も原因の一つかもしれない。
「それで一体、何が気に喰わないんですか?お相手の方のお名前は、何と仰るんです?」
「……花嫁の名は、ベルニア・レヴーナだそうだ」
「聞いたことありませんね。新興の資産家か、どこか辺境の貴族のご令嬢か何かですか?」
「隣国サランドの、侯爵家の娘だと。年は二十二歳」
 そこまで聞いて、フィーユは首をかしげた。
サランド王国と言えば、イヴリル公国と友好な関係を築いている国の内の一つ。
爵位を持たない将軍の妻として身分も申し分ないし、二十二歳と言えば、かの国の貴族の子女の平均的婚期よりやや遅れているとは言え、もうすぐ三十五歳を迎えるヴァンとは丁度つりあいもとれる。
「それは、とても理想的な相手なのではありませんか?あ、それともお顔がすごく残念な感じだとか、ハムみたいな体型だとか、そんなことですか」
「それは別に良い。俺とて、この顔で相手の容姿をどうこう言う気はない」
 苦々しい表情が、彼のこれまでの苦労を物語っている。
「しかしだ。彼女は、彼の国では黒い真珠と褒め称えられるほどの美貌。歌声はセイレーンの如く、舞を舞わせれば女神も恥じらい、雲隠れするほどの実力らしい。但し……」
「……但し?」
 フィーユが、緊張した面持ちで息を飲む。あれほど主人が怒っていたのだから、身分や美貌諸々の魅力を掻き消すほどの、威力のある大問題があるに違いない。
「そのベルニアと言う女は、素行調査によると大層な男好きで尻軽。毎晩夜会に現れては多くの男と逢瀬を楽しみ、他人の夫や恋人を寝取る大変な悪女らしい」
「そ、それは何とも大胆で行動的な女性です、ね」
「しかもだ」
「ま、まだ続きがあるんですか!?」
「彼女の実家、レヴーナ家は破産寸前だと。その一番の理由が、ベルニアとその母親の散財。毎日のように新しいドレスだの宝石だのと贅沢三昧し、気の弱いレヴーナ公爵は妻と娘の言いなりらしい」 
 つまりは、男好きで奔放で、金目当てで結婚。その後も簡単に浮気するような不実な女。
 よく大公も、それほどの相手をヴァンの妻にと推したものだ。
しかし、あの大公ならやりかねない。とフィーユは思った。
 今年で御年三十八歳を迎える大公は、まだかつて公子だった時代に、身分を隠して軍隊に所属していたことがある。同じ部隊にいた駆け出しの頃のヴァンとは、年齢が近いせいかよく一緒に行動をしたらしい。
人をからかうのが大好きな公子の当時の趣味は、生真面目なヴァンを怒らせること。
彼なりにヴァンを『友達』として気に入っているゆえの行動らしいのだが、その屈折した愛情表現はヴァンには全く伝わっていない。美人豹
「それで殿下は、その話をどう言う風に旦那様にお伝えになったのです?」
「『君みたいな顔の男のところにお嫁に来てくれるまともな女性なんて、国内にはいないだろうし。かと言って顔が知られていない国外で探そうにも、イヴリルの悪鬼(イヴィル)なんて、恐ろしげな二つ名を持つ将軍に喜んで娘を嫁がせるような親もいない。だから、生活に困ってそうな良家の子女で、他に嫁の貰い手もなさそうな難のある人を探したんだ。あ、断るって選択肢はないから。相手方の了承ももう得てるし。感謝してよね全く、かなり苦労したんだからさ、あっはっはっはっはー!』……だそうだ」
「……」
 大公の長台詞も高笑いも、怒りに打ち震えるヴァンの姿も、まるでその場で見てきたかのようにはっきりくっきりと想像できた。
 面白い。面白すぎる。大公、アンタ最高ですよ。
フィーユは、唇が釣りあがりそうになるのを必死で堪えた。
「ついでに言うと、花嫁の到着は一ヵ月後。ありがたくもないが、結婚式には狐野郎も参列するそうだ」
 ――――なるほど、参列して特別席から大笑いしながら見届ける気満々か。大公、アンタ最高。
 大公が目の前にいたら、そう言ってやりたい。とフィーユは思った。
「おい、せめて俺のいないところで笑え。斬り殺されたいのか」
「あぁ、すみません。顔に出てましたか?」
「笑い事じゃないぞ」
 腹筋が震えるほど頑張ったのだが、堪え切れなかったようだ。
コホン、とわざとらしく咳払いをし、フィーユは真面目な顔に戻った。
「とは言え、いくらここでジタバタ騒いでも決まったことは決まったことですし、奥様をお迎えする準備は致しませんと」
「準備だと?」
「ええ、夫婦のための部屋を整えたり、内装も女性向けに変えて……。式の花や衣裳に、招待状。列席者の方々へ振舞う料理なども話し合わないといけませんね」
 チッ、と軽い舌打ちをするヴァンの眉間には、イヴリル大峡谷も斯くやと言わんばかりの深い深い皺が刻まれていた。
「部屋は夫婦別で良い。適当に空き部屋でも宛がってやれ。改装も必要ない、金の無駄遣いだ。式の準備は……しない訳にはいかないだろうから、お前に全て任せる」
 普通ならば喜ばしいはずの結婚だというのに、苦虫を噛み潰したような顔で早口で言い捨てると、ヴァンは足早に自室のある二階へと上って行く。
一人残されたフィーユは、
「やれやれ」
 疲れたように頭を振りながら独り言ち、ずり落ちた眼鏡を整える。御秀堂 養顔痩身カプセル
そして、おもむろに両手を打ち鳴らした。
 ややして、深緑の制服を着た年配のメイド長が現れた。
「執事様、何か御用でしょうか」
「旦那様の結婚が決まりました。挙式は一ヵ月後。色々と準備で忙しくなりますので、そのつもりでお願いしますね」
「まあ、旦那様が!そ、それで奥様はどちらの方なのです?」
 浮き立ったメイド長は、期待のこもった眼差しを向けてくる。
女っ気のない主を心配していただけあって、余程嬉しいようだ。
「二十二歳の侯爵令嬢ですよ」
そんな彼女にショックを与えるのも可哀相だと思い、フィーユはその『若奥様』についての、看過できない諸々の問題点を割愛した必要最低限な情報だけを伝える。
「尻軽で男好きの、贅沢か人の男を寝取るのが生きがいのような馬鹿娘です」とでも言ったら、生真面目な彼女は数ヶ月は寝込むに違いない。
「まぁぁ!では、さぞかし麗しく上品な貴婦人なのでしょうねぇ」
「ええ、まあ……そうだと良いとは思いますけどね」
「こうしちゃいられない、早速皆に伝えなければ!ようやく旦那様にも春が……!あぁなんと嬉しいこと!!」
 メイド長は、ダンスのステップを踏まんばかりの喜びようで去って行った。
きっと、今夜中には全ての使用人に主人の結婚が決まったと伝わっていることだろう。
「まあ確かに笑い事じゃありませんよねぇ」
 口調は軽いままだが、表情は怜悧な執事そのものと言った様子で、フィーユは呟いた。
「僕は嫌ですよ、奥様が頭も尻も軽いなんて。折角ヴァンのお陰で将軍家の執事にまでなれたのに、女の贅沢で家が傾くなんて」
 ヴァンと共に下層の町で育った子供時代、必死で読み書きを覚え、皿洗いの仕事をして貯めた金で学校にも行った。
 ヴァンと再会し、若くして将軍となった彼に執事として雇ってもらえたのは、幸運だった。フィーユには、最終的に軍事総統となったヴァンのコネで、王立議会の高等議員になるという夢があるのだ。
「――――ま、噂はあくまで噂ってこともありますから。……でも、もし本当に奥様が馬鹿女だったら、その時はこの屋敷から追い出すだけですけど」
 そう、どんな手を使ってでも。誰にも邪魔はさせない。
「くっくっく……」
腹黒い執事は、人知れず怪しげな笑みを浮かべた。韓国痩身一号

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