エンジュは目論見どおり、天の島のガイア本体の城へと地上から引き抜かれた。
強引な真似をして危険を冒す事無く、短期間でそれを成し遂げられるほど、エンジュの情報処理能力は他を圧倒する物だった。簡約痩身
天の島へ上がる為の身元チェックは、想定内の厳しさだった。
エンジュの偽装は見破られる事なく、真の身分がアルピニス側に知られるような事はなかった。
リファーサスから来た、親戚にコンピュータの扱いを教わり高い技能を持つ、その親戚も両親も今は居ない天涯孤独の少年。
最初に提出した個人情報に不審を抱かれる事無くエンジュは天の島へと上がり、アルピニスの頂点である三家当主の一人、ラヴィニア・イーリスの城へと連れて行かれた。
『神の実』 は、アルピニス一族の長であるジーン・アルピニスの城に保管されている。そこまでは、掴んでいた。
何より大切で貴重な実だ。最も守りの堅いところに置かれるのは当然だが、予想通りの保管場所に、もう少し侵入の容易い場所なら良いのにと思わないでもないエンジュだった。
だが、エンジュの勝手な要望を、アルピニスの一族が叶えてくれる筈などない。
ぼやく前に 『神の実の保管場所』 への確実な侵入経路を探る方が先だった。
地上のコンピュータルームからでは、どんなに足跡を残さないよう必死に探っても、神の実はジーンの城にあるとそこまでしか掴めず、城のどこに保管されているのか、その正確な位置は分からなかった。
そろそろ採集が終わる時期の筈だ。
何とかこの天の島で正確な位置を探り出し、急いで採集された神の実を奪わなければならない。
実が、購入した人間達の手に渡ってしまえば、そこで終わりだ。
誰に渡るのかも実の保管場所同様に、アルピニス一族の機密情報として扱われている。
従い、ガードが厳しく調べが付かない上に、もし調べが付いたとしても、手に入れた人間はすぐにでも飲んでしまう筈だ。奪うような時間は無いだろう。
採集された直後、購入者達の手に渡る前の、保管されている今が、最初で最後の最も実に近づける時なのだ。
これからはさらに慎重に、だが今まで以上に急いで行動しなければならない。
エンジュは広い室内に通された。
そこには、紅茶色の髪を複雑に美しく結い上げた、同色の瞳を持つ愛らしい女性が、二人掛けのソファに一人優雅に腰掛けていた。
気品溢れる調度の中に佇むのが相応しい、最高の気品を備えた存在。可愛らしいお姫様だとエンジュは思った。
「ようこそ。エンジュ・デリック。……あなたは、ずいぶんと優秀なようですので、本日よりここで働いて頂きます」
これまで、エンジュの生家フィンデールは、エラノールの中心三家に名を連ねた事はない。
なので、家名がアルピニスに知られているとは思わないが、万が一の事はある。エンジュは姓は偽名を使っていた。
「光栄に思います。お役に立てるよう、がんばります」
エンジュは丁寧に頭を下げて、心にも無い事を言った。
エンジュをここに招いたラヴィニア・イーリスは、アルピニスの長の最も信頼する側近だ。エンジュがエラノールの中心三家として立った暁には、最大の敵の一人として渡り合っていかなければならない存在である。
正直、もっと厳しい、悪の一族の頂点に立つに相応しい、男のような女を想像していた。
それだけに、権高さの感じられない、ほんわりと笑うラヴィニアの愛らしい姿と柔らかな物腰に、正直エンジュは拍子抜けしていた。
こんな女性ならば、そう厄介な敵にはならないなと思った。
しかし、エンジュのその思いは、ラヴィニアの瞳を真正面にはっきりと見た瞬間、一瞬で掻き消された。
「!!!」
愛らしいお姫様など、とんでもない。
涼やかに響く心地良い声で、エンジュに席を勧めるラヴィニア・イーリスは、その仕種のすべてが可愛らしく男の庇護欲をそそる。果敢無げですらある。
だが、美しく煌めく紅茶色の瞳の輝きが、それだけの女ではないとはっきりと物語っていた。
その瞳を見て、改めてラヴィニアをよく見ると、それを嫌でも理解させられた。
ラヴィニアを形成している雰囲気は、男の助けを乞うような物ではなく、助力よりも支配を望み、他者を屈服させる事に慣れた物だった。
とても、エンジュに簡単にあしらう事の出来そうな 『可愛いお姫様』 ではない。
ここで少しでも気を抜けば、自分の正体などすぐに知られて殺される。
ラヴィニア・イーリスは、容姿のような愛らしい性格をしていない。侮れない、悪の一族の中心三家に立つに相応しい人間だった。V26Ⅳ美白美肌速効
ラヴィニアが案内の男を下がらせる。
エンジュがソファに座ると広い部屋には二人きりとなった。
エンジュは緊張しつつ膝の上で軽く手を握った。
見かけの愛らしい容姿に騙されてはいけない。
騙されそうになった己を心で諌めながら、ここは敵地なのだと改めて言い聞かせた。気を抜いて良い瞬間など、一瞬たりともないのだ。
誰にも、ほんの少しでも疑われないよう細心の注意を払いながら、実の保管場所の詳しい位置をコンピュータから引き出し、アルピニスの城へ侵入する。
それは、これまで辿って来た道のりよりも、遥かに困難な道だ。
だが、やり遂げないわけには行かない。
早くしないとマユラが死んでしまうのだ。
ラヴィニアの雰囲気に圧倒されて、怯んでいる場合ではなかった。
「わたくし、あなたにとても期待しておりますの。……ガイアの城の居住区も地上の物と遜色ありませんので、不自由はないかと思います。地上とこの島を行き来するに必要なパスは、後ほど渡しますので……」
「はい」
ガイアの城に入る特に重要な機密を扱う人間には、エディナへの情報漏えいを考慮して、見張りが付けられる。
一生不自由しない金は与えられるが、レギアを出る自由は与えられないと、ここに来るまでにエンジュは教えられた。
地上のサポートルームとは言え、ガイアのプログラムの一端に関わったエンジュが、その言葉に逆らった後、素直に仕事を辞めさせて貰える訳がない。
問答無用で処分される事が分かっていながら、頷かない者は居ない。
エンジュは首都に閉じ込められる籠の鳥となる事を了承し、天の島へ上がってきた。
最も、最初からそれこそがエンジュの目的だったのだ。逆らう事無く喜んで従った。
エンジュは生半な術師の目なら晦ませる自信がある。
一切天の城から外に出さないと言うのではなく、レギア(地上)までは自由に動けるパスまでくれると言うなら、上手くすれば実を奪って逃げられる。
悪くない状況に、心の内で笑みを零した。
色々と、これからの計画を脳裏に描きながらも、真剣にラヴィニアの話を聞いていると、軽いノックの音と共に、この城の執事らしき人間が入ってきた。
「失礼致しますラヴィニア様。統主様とフェリシア様がいらっしゃいました」
執事がラヴィニアに告げた名を聞いて、エンジュはどきりとした。
統主。それは、神の実の保管場所となっている城に暮らす人間だ。そして、エラノール一族の最大の敵。
だが、エンジュはその存在も気になったが、最も気にしなければならない重要な存在と同じくらいに、フェリシアという名の方にも意識が向いてしまっていた。
フェリシアというのは、エンジュが人買いの門で出会った、世間知らずのお嬢さんの事だろうか。
統主が買い取ったというのは知っていたが、様付けで呼ばれるほどの存在になっているとは。驚きだった。
執事の言葉に、ラヴィニアが頬を綻ばせて頷いた。
「こちらにお通しして下さい。……エンジュにも紹介しておきますね」
「はい」
立ち上がって客人を迎える姿勢を取ったラヴィニアに、エンジュも従い立ち上がる。
まさか、天の島に入ってすぐ、真近に統主を見ることになるとは思わなかった。
だが、ここまで来たらいつかは真近で相対する事もあるだろうと、覚悟はしていた。
統主、ジーン・アルピニスは神の実が欲しいエンジュにとって、その望みを阻む、最も厄介で強大な力を持つ術師だ。
ラヴィニアに対するよりも緊張し、背筋がちりちりと痛むほどだった。
だが、不意に、緊張する所か統主の事などまったく知らない人間も居たなと脳裏に浮かんだ。
その人間が、今ジーンと一緒にこの部屋にやってくる。男根増長素
心配していたような、玩具にされてボロボロになっているといった事はなく、大切に扱われている様子にホッとしたが、何故そんなに気に入られたのかは気になるところでもあった。
内心で首を傾げるエンジュを余所に、執事はジーンとフェリシアを案内してきた。
「!!!」
本当は、ジーン・アルピニスを観察しなければならないのに、エンジュの目は、自然とその隣に立つ少女に引き寄せられてしまっていた。
仕立ての良い美しい衣裳に身を包み、髪も肌も艶やかに磨き込まれているのが良く分かるフェリシアは、エンジュと出会った時よりも美しさがさらに向上していた。
女性は手を掛けて磨けば光るのは知っている。
だが、こんなにも美しくなる物なのかと、エンジュは呆然としてその姿に見入ってしまった。
綺麗なお嬢さんだとは思っていた。
しかし、何をすればここまで美しい存在になるのだろう。
纏う雰囲気にも、妙に艶かしい物が入り混じっているフェリシアは、少女と女が違和感無く同居している。その、人間を超えているような美しさは、ずっと見ていると目の毒だとまで思った。
綺麗過ぎて怖いくらいだった。
「エンジュ。彼が我らが長のジーン・アルピニスです。お隣の方はフェリシアと仰ってジーンの伴侶となられる方です。ジーンと同じく、粗相のないようにお願いいたしますわね。……ジーン。彼はエンジュ・デリックと言います。個人情報はご覧頂いていると思いますが……とても優秀な技師ですので、地上からこちらに上がって貰いました」
思わぬ所にエンジュを見つけて目を丸くしているフェリシアよりも、エンジュの方が驚きに固まってしまった。
伴侶?
エンジュの一族にもその言葉を使われる存在は居る。
もし、こちらでも同じ意味で使っているならば、三家当主の内の誰かの配偶者と言う事になる。
ラヴィニアは、はっきりとジーンの伴侶と言った。
買われた少女が、何故統主の妻?
唖然とフェリシアを見つめてしまうエンジュに、その時穏やかな声が掛かった。
「確かに優秀そうだったな。……ラヴィニアが大丈夫と判断したのなら、大丈夫だろう。私は反対しない。……しっかり頼む」
「!!!」
ラヴィニアに頷いてから、視線をこちらに向けたジーンと真正面から目を合わせた。その瞬間、エンジュは全身総毛立つ程の衝撃を受けた。
地上で見た時には、これ程の力は感じなかった。
ジーンの術師としての能力の高さは、調べられる限りは調べているので、概ね知っているつもりでいた。
だが、そんな情報などまるでアテにならない物だと知らされた。
ただ視線を交わしただけで、他者に恐怖を抱かせるような術師だとは、どの情報にもなかった。
それに、自分に対してそんな事の出来る人間は居ないとエンジュは思っていた。
自分で言うのもなんだが、エンジュの術師としての能力は高く、術師相手に恐怖を感じた事など今まで一度もなかった。
統主サミュエル相手でも、エンジュの力はほぼ互角である。
その、サミュエルが憎々しげに認めるジーンの力は本物だ。
ジーンはエンジュに向かって特別力を誇示している訳ではない。ただ普通に立って見ているだけだ。
それなのに、尋常でない力を感じるのだ。
ジーンから感じ取るそのあまりの力に硬直してしまい返事も返せずにいると、柔らかな声が耳に届いた。
「久しぶりね、エンジュ。ここでエンジュと逢えるとは思わなかったけど、元気そうで良かったわ。エンジュもこれからはここで暮らすの?」
「……あ、フェリシアさん……」
エンジュの硬直を解いてくれたのは、何とも暢気な口調のフェリシアからの問いだった。
「はい、フェリシア。彼には、ガイアの城で暮らして仕事をして頂きます。……フェリシアは、エンジュをご存知なのですか?」
フェリシアの問いに答えたのはエンジュではなく、柔らかく微笑んでいるラヴィニアだった。ジーンとフェリシアに席を勧めて座らせてから、自分も腰掛ける。
その後にエンジュは腰掛けたのだが、まさかこの場で会うことになるとは思わなかった二人の存在に嫌な予感がしてならず、背筋が微かに震えた。
ラヴィニア一人を相手にしているだけでも、相当の緊張を感じていたと言うのに、それより上の人間プラス、エンジュにとっては何を言い始めるか分からないフェリシア。
エンジュに言わせれば、世間知らずのお嬢さんでしかないフェリシアは、世間を知らないが故に、エンジュを驚かせ冷静さを失わせるような事を言いそうで、ある意味ジーンやラヴィニアよりも不安を掻き立てる怖い存在だった。
こんな場で、もし平静を装えず自分を見失うような事になれば、一瞬で己の命は消える。
自分に会えて嬉しいのか、にこにこと楽しそうに笑ってこちらを見ているフェリシアには悪いが、早くこの場の会話が終わることを、エンジュは切実に祈った。男宝
しかし、エンジュがいくらこの部屋を出て行きたいと思った所で、雇い主であるラヴィニアに下がって良いと言われない限り、どうしようもない。
そしてそのラヴィニアは、ジーンとフェリシアの来訪を優先してエンジュを下がらせる事はしなかった。
エンジュを室内に留めたまま、ジーンとフェリシアの話し相手も務める様子に、心中で重い溜め息を吐いた。
エンジュの視線の先では、何故かラヴィニアが平然と二人掛けの広い位置に一人で腰掛け、上座に着いている。
だが、それに関してジーンが何かを言うわけでも、不快を示すような事も何もなかった。
本来なら、この場で最も身分の高いジーンが、一人で広い位置に掛ける物なのだ。
だが、その本人はフェリシアの傍が良いのか、フェリシアの隣で穏やかに笑いながら、ラヴィニアを上座に座らせていた。
そうした雰囲気から判断するに、ジーンとラヴィニアはとても気安そうだ。冷えた主従関係ではない。
仲が良い分結束は固い。
己の計画の為には、いがみ合ってくれている方が都合が良いのだが、と思わずにはいられなかった。
エンジュは、入り口の扉に背を向けた位置にある、一人掛けのソファに腰を下ろしていた。
「はい。レギアで知り合いました。そこで、私の良く分からなかった事を、色々と教えてくれたのです。お陰でとても助かりました」
笑顔でエンジュとの関わりを問われるままラヴィニアに答えるフェリシアの隣から、ジーンがエンジュに目を向けた。
「あぁ……そう言えば、私がフェリシアを地上に見に降りた時、隣に居たな。その紅い瞳が印象的で、思い出せた」
「ジーンも印象的だと思う? 真っ赤な宝玉みたいでしょう! ……私、レギアに着いてから、誰も話し相手が居なくて寂しかったの。その時にエンジュが話し掛けてくれて、なんて綺麗な瞳をした人なんだろうって思ったの。……態度はちょっと生意気でびっくりしたけど、色々詳しくて本当に助かったの」
「……確かに綺麗な瞳だな。加工して、装飾品としても良さそうだな」
楽しそうにエンジュの瞳を褒め称えたフェリシアに、ジーンがピクリと軽く片眉を撥ね上げ、薄い唇に意地の悪い笑みを浮かべてこちらを見つめた。
「っ!!!」
その笑みに、ぞっとして背筋が震える。
やはり、予想通りフェリシアはエンジュを窮地に追い込む、いらない事を言う存在だ。
他の男を少し褒めるだけでも気に食わないくらい、ジーンはフェリシアに執着しているのだ。
エンジュが特別に働きかけて、フェリシアを誘惑したわけでもないのに、睨まれたくはない。
フェリシアは何の含みも無く純粋にエンジュを褒めてくれているのだろうが、エンジュはありがたいと思うよりも、黙っていて欲しいとしか思えなかった。
「何、おかしな事を言ってるの。人間の瞳を加工してどうするの? それに、もしそんな事をするなら、ジーンの瞳にして。自分の傍にずっと飾って置いておけるなら、ジーンの瞳の方が良いわ」
この場で唯一、ジーンの言葉を冗談だと思っている人間が、くすくすと笑いながらとんでもない事を言った。
アルピニスの統主に向かって、冗談でも当人の前で 『その瞳を装飾品にしろ』 などと言える人間が存在するとは、夢にも思わなかった。
世間知らずにも程があるだろう、とエンジュは心の内で絶叫した。
しかし、そのとんでもない言葉に、言われたアルピニスの統主がそれまでの不機嫌が嘘のように、蕩けそうな極上の笑みを浮かべるとは思いも寄らず、度肝を抜かれた。
「ふふ……私の瞳の方が良いのか? 彼のよりも」
「ええ。ジーンの瞳の方が良いわ。一番好きよ」
こくりと頷いたフェリシアに、機嫌良くジーンがその目蓋の上にキスをする。
妙に甘ったるい光景を作り出している二人の姿にエンジュが固まっていると、こほんとラヴィニアがわざとらしい咳払いをした。三体牛鞭
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