2013年10月28日星期一

英 雄

ユリウスがフローラの囚われた檻に杖を投げ付けたのを見て、ジルベールはぎょっとした。
 外部から触れられれば爆発すると言ったのユリウスだ。それが、なんという真似をするのだと思いつつも、爆風の吹き荒れる中ジルベールは玉座へと跳んだ。OB蛋白の繊型曲痩 Ⅲ
ユリウスは、フローラを自分以上に深く愛しているのだ。
その気持ちに嘘があるとは思えない。傷一つ付けないといった言葉を今は信じるべきだと己に言い聞かせ、ジルベールは爆発に気を取られているラジールに斬りかかった。
ラジールはジルベールの攻撃をかわそうとしたが、ジルベールはそれよりも早く動く事が出来た。しかも、ユリウスに譲られた剣は、これまで誰が斬りかかろうとまったく傷を負わせる事の出来なかったラジールの身を簡単に斬り伏せた。
その直後。
ラジールを倒せた事に快哉をあげる間もなく、怒りと憎悪を滾らせた魔女王に力をぶつけられた。強大な力をジルベールに防ぐ術はなく、これで自分は死ぬと本気で思った。
だが、魔女王の事はきっとユリウスが倒してくれるだろう。
フローラの事も守ってくれている筈だ。
 驚くほど強大な魔力を有する魔術師だった親友に後を託したその時、ふわりと全身をあたたかく柔らかな膜のようなものが包む込んだ。
 魔女王の攻撃は、ジルベールに一切触れる事は無かった。
 魔女王の攻撃を弾き、ジルベールを守ってくれたのはユリウスではなく、人間にはありえない漆黒の翼を持つフローラだった。
そして、魔女王はユリウスの力の前に成す術無く、消された。
だが、それを喜ぶよりも、ジルベールは信じ難い現実に、身を震わせるばかりだった。
 「フローラ様が……魔族だなんて……」
 魔女王もラジールも消滅し、この宮殿に仕える大勢の魔獣や魔兵士。そして、魔術師もすべてユリウスとジルベールによって倒されている今、玉座の間に駆け込んで来る者は居なかった。
しんと静まり返った場に、ジルベールの掠れた声だけが響く。
フローラに庇われたままの姿勢で、立つ事を忘れて見上げるばかりのジルベールに、フローラがユリウスの腕の中から困ったように微笑んだ。
 「驚かせてごめんなさい、ジルベール。私は、人間の王女で居る事よりも、魔界でユリウスの傍に居たいの。だから、魔族になる道を選んだの……」
 「そんな……あなたは国中の人間に愛されている王女なんですよ! それが、魔族になるだなんて……」
 何と言う選択をしたのだ。
 酷い事実を信じたくない気持ちを露わに、ジルベールは大きく首を横に振って叫んだ。
そんなジルベールに、フローラは静かな口調ではっきりと言った。
 「国中の人間の愛よりも、私はユリウス一人の愛が欲しいの」
 「ですが、フローラ様。ヨーゼフ陛下には貴女様しか世継ぎがいらっしゃらないのですよ! その貴女様が国を去れば、王家に波が立ちます。国民に不安を抱かせてもよろしいのですか!」
 「……それは……」
 堪らず非難の滲む叫びを上げてしまったジルベールに、フローラは言い淀んで俯いた。
それを見て、ジルベールはフローラの肩を抱いているユリウスを睨みつけて叫んだ。
 「お、お前がフローラ様を誑かしたのかっ! 魔族にするなど、よくもそんな真似を…っ! あ、……魔術師長……フローラ様の幼馴染みの陛下の遠縁のご子息……なんて居ない……ユリウスなど俺は知らない。俺にもそんな幼馴染みなど居ない……記憶がおかしい……」
 頭の中で記憶がすり替わっていく。ジルベールは、奇妙な状態に目を見張って呆然とした。
 「さすがだな。精神力が強いだけはある。フローラの姿を見て驚いて、術の効き目が弱まったようだ……」V26 即効ダイエット
ユリウスの感心したような声が聞こえる。
ジルベールは、作られた偽りの記憶を己の頭の中から追い払うように頭を振り、剣を構えて立ち上がった。
 「お前、何を言ってフローラ様を魔族にしたんだ! 我が国の大事な王女に人間である事を捨てさせるなど非道な真似を!」
 激昂するジルベールに、ユリウスは平然と言った。
 「ルーダー王国の侵略からフォルビナを守る事と引き換えにだ。私は、きちんと約束を守った。フォルビナ王国の誰も傷付いていないだろう? ルーダー王国は、諸悪の根源の魔女王とラジールが居なくなった今、これまでのような侵略戦争は出来ない。フォルビナ王国は完全に安全だ。契約は為された。フローラは我が世界に連れて行く」
 殺気を込めて睨むジルベールに、ユリウスは穏やかとも言える口調で語り、笑みすら浮かべていた。
ジルベールにフローラを奪い返す事が出来ないと確信している、その余裕の態度が癇に障る。
 「この卑怯者がっ! フローラ様の国を思う心に浸け込んだのか。最低だな!」
 「何とでも言うが良いさ。さっき言っただろう。私は誰よりもフローラを愛している。この想いは譲れない。手に入れる為なら何でもするし、何と言われようと構わない」
 「きさま、殺してやるっ!」
 「やめて、ジルベール!」
 叫んだと同時にユリウスに飛び掛っていたジルベールをフローラが止める。そうしてユリウスを背に庇い、間に割って入った。
 「ユリウスに剣を向けないで! ユリウスは重要な事をあなたに言ってないわ!」
 「重要な事?」
 動きを止めたジルベールにフローラが頷き、必死の目をして言い募った。
 「私には嫌だと言う権利もあったの。ユリウスは私に何も強要していないの。魔族になるのは嫌だと言っても、ユリウスはフォルビナ王国を守ってくれると言ってくれたのよ。それでも私を愛して見守ってくれると……」
 「…………」
それなら魔族になる道など選ばずとも、と言い掛けたジルベールに、フローラは苦笑した。
 「でも、そうしてユリウスの思いに甘えれば、私の寿命なんてユリウスにとっては一瞬の間でしかないのよ。私はそれが嫌だったの。ユリウスの傍には私が永遠に居るのでないと我慢出来ないと思ったの。それには、ユリウスと同じ存在になるしかなかった。だから、これは私が望んだ事なの。ユリウスはそれを叶えてくれただけよ。何も悪い事なんてしてないの!」
 「ですが……」
 全身から搾り出すようにして叫んだフローラの思いを聞いても、それでも愛しい王女が魔族になってこの国を去るなど、そう簡単には納得出来る事ではない。
でも、ここで自分が反対していても、良い結果など何も得られないようにも思う。ジルベールは、どうすれば最良の結果が得られるのか分からず、立ち尽くして眉を寄せた。
 「一人しか居ない王女が国を捨てる。してはならない事だとどんなに言い聞かせても、私はユリウスを諦められなかった。悪いのは、自分の事しか考えられない私よ。ユリウスではないわ」
フローラはジルベールより目を逸らし、ユリウスに添った。その背を優しく撫でるユリウスの目は、ジルベールが書物や伝聞で知る凶悪な魔族の者とはとても思えなかった。
 魔女王やラジールと同じ、人間に擬態している魔族。
そうであると知っても、同じとはどうしても思えない。福潤宝
 植えつけられた偽りの記憶がそう思わせるのだろうかとも思うが、ユリウスが居てくれたからこうして魔女王もラジールも倒す事が出来たという事実に間違いはない。
もし、ユリウスが魔界から来てくれなければ、フォルビナ王国は滅ぼされ、フローラは魔女王に嬲り殺しにされていたのだ。
そう考えると、ユリウスが魔族だからと恨みに思うのもどうかと思う。それどころか、大きな恩を感じた。
 「……そう言えば、フローラ様とユリウスは結婚するのでしたね」
 「え?」
 呟くように口にした言葉に、フローラが顔を上げてこちらを見た。
 「背中の翼は消す事も出来るようですし……他にご容姿に変わったところは見受けられませんから……このまま変わらずフォルビナにいらっしゃれば良いではありませんか。考えてみれば、ユリウスはいつもごろごろするばかりで、魔族らしく振る舞って特別害になるような事はありませんでしたし……今回の事で、ユリウスは国の英雄です。誰もお二人の結婚を反対などしないと思いますし。俺、これでも口の固い男ですから、誰にもこの事を話したりなどしません。ユリウスにも態度を変えたりなどしませんから、フォルビナで幸せになってください。魔界になど行かないでください!」
それが良いと思いながら願いを伝えた。
 「ジル……」
 口元に手を当て、今にも泣きそうな顔をでこちらを見るフローラに、ジルベールはにっこりと笑った。
 「それなら、何の問題も無いでしょう?」
そうだ。そうだ。
 魔族だという事に、自分が変に拘らなければ良いのだ。
それで、王女を国から失わずに済むならそれが一番だ。
 明るく笑ったジルベールに、ユリウスが真率な目をして首を振った。
 「すまないが、それは出来ない。私達の今の身は、揃って長く人間界で暮らせるものではないのだ」
 「なんだと?」
 妙案と思うそれを撥ね退けられ、ジルベールは眉を顰めてユリウスを見た。
 「我が魔界は天界の者と、人間界には過剰な干渉をしないと決めている。それを守らぬ者は、魔女王のように掟破りとして処分される。……もし、フローラが私を呼んでいなくとも、あと一年も経たぬうちに天界か魔界、どちらかより処刑者が送られていたことだろう」
 「一年も後では……我がフォルビナは滅びていた……」
そんな処刑者では意味が無い。
 「だろうな。だが、天界や魔界の動きとはそんなものなのだ。……私が、大した力を持たない下級の魔で、何もせずにフローラの側に居るのであれば、お前の言う通りフローラを魔界に連れて行く必要はないし、天界も魔界も動かないだろう。だが、私一人ではなく上級魔族として覚醒したフローラまでもがずっとここに留まれば、必ず天界王家の者が出てくる……要らぬ諍いとなる」
 「天界王家……というのは、天界の支配者のことか?」
 「そうだ。我が魔界王家の対となる物だ。……大きな力は、何もせずただ人間界に居るだけでも、過剰な干渉を行なうと判断されるのだ」
 「魔界王家……」
そう言えば、ユリウスはさっきもそんな事を言っていた。
そして、魔女王が……と、その言葉を思い出したジルベールは愕然としてユリウスを見た。
 「お前を、魔界王の後継者だと……」
 成程。それほどの者が人間界に居れば、天界としては居るだけでも気になってしまうのだろう。
 自分の知るユリウスはとてもそんな大物とは思えないのだが、とんでもない者がフォルビナを救ってくれたのだという事は理解できた。
 呆然としてユリウスを見つめるしか出来ないジルベールに、ユリウスの方は少し意地悪く微笑んだ。
 「お前の意に副うてやれれば良いのだろうが、それは出来ぬ。だから、私はお前が何を言おうとも、もうフローラを人間世界には返さない。人間が嫌う、恐怖の対象。魔族らしく決着をつける」
ユリウスの右掌に紫色に輝く光の玉が出現する。VIVID XXL
 何をするつもりだとジルベールが叫んだ時には、その光の玉は四方へと飛び散っていた。
 「ユリウス! フローラ様……っ!!!!!」
 飛び散った光の一つを視界いっぱいに受けたジルベールは、その場に昏倒した。


ジルベールは英雄になった。
ルーダー王国の宮殿が突如崩壊した異変に、いまだに魔女王に抵抗していた数カ国の騎士団が、首府に乗り込み宮殿に突撃した。
そこに、倒れ伏しながらも魔女王とラジールの首を落としていると分かるジルベールを見つけ、皆が歓声を上げたのは言うまでもない事だった。
 魔女王はユリウスが塵にしたのだが、人間達に分かりやすく勝利を実感させる為に、これもジルベールが倒したように見せる術を施し、ユリウスはフローラを伴ってその場から消えていた。
 騎士団の人間たちは、意識の無いジルベールを丁重にフォルビナ王国へと運んだ。そして、事の次第をヨーゼフ国王に報告し、大陸を救った英雄として称えた。
 何故、遠く離れたフォルビナ王国の地で暮らすジルベールが、一人でルーダー王国の中枢へ乗り込めたかに関しては、誰にも分からない事だった。
しかし、魔女王モルダーナとその息子ラジールは確かに討ち取られ、多くの、王城を守る魔兵や魔獣、魔術師も倒されている。
とても、一人の人間の成し遂げた事とは思えない行いだったが、これで平和が訪れるのなら、それらの不思議には目を瞑る。というのがすべての人間の思いだった。
この時には、フォルビナ王国にフローラという王女が居た事も、その幼馴染みが王国の王宮魔術師長をしていたという事も、皆の記憶から綺麗に消えていた。
フォルビナ王国国王、ヨーゼフ・アイエバーグには後継者となる子供がおらず、この事により、名門貴族で騎士でもある英雄ジルベールは、何の反発を受ける事無く、それどころか国中から望まれてフォルビナ王国の次期国王と定められた。
その決定に慌てたのは、当の本人のジルベールだった。
 「な、何故に、俺が王になるのだ?」
 激しく動揺して騒ぎ立てたが、皆はそれは当然のことだとジルベールに言うばかりで、ジルベールが逃げ腰になる方がおかしいと言った。
 目覚めたジルベールは、自分がどうやってルーダー王国を訪れたのかを覚えていなかった。
ただ、ラジールを斬り伏せた事だけは覚えていて、皆はそれで充分だとジルベールを讃えた。
ジルベールとしても、皆に大陸を平和に導いた英雄だと言われ、喜びの笑顔が見られるのは嬉しい事だった。
しかし、その褒美が王位とは過分である。
ジルベールは何度も辞退した。
だが、何度言っても誰もその言葉に耳を傾けてくれる者は無かった。結局ジルベールは、数年の後には周囲に押し切られ、フォルビナ王国国王として即位していた。
 腰に、いつ手に入れたのかまったく分からない、どんな物でも斬り伏せられる手入れいらずの漆黒の長剣を帯びて。


「でも、本当に……正当な王位継承者が誰かいたと思うのだが……」
 即位後も、首を傾げてジルベールがそう言ってしまう度に、皆がそれは誰ですかと面白そうに笑う。
それにジルベールは、はっきりとした答えを返せず、いつも困った笑みを浮かべることしか出来なかった。
ジルベールは、心に誰かの影を追いながらも、前国王同様内政に尽くした。
 侵略者の居なくなったフォルビナに善王として立ち、いつも民の笑顔の絶えない穏やかで豊かな国としたのだった。挺三天

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