2013年10月31日星期四

再び、野望の道へ

目覚めると、そこは牢獄ではなくなっていた。
 黄泉の国の様式というのは、随分と立派な物らしい。
 目にする光景に、イリアスは最初、知らぬ間に自分は死んだのだろうと、小さく息を吐きながらそんな事を思った。簡約痩身美体カプセル
 広く豪奢な寝台に寝かされ寝心地の良い寝具に包まれている。
イリアスは、牢獄よりも遥かに良い環境に置かれていた。
ゆっくりと身を起こす。
そうでなければ身体が動かなかったのだ。手足が萎え、随分と細く弱っている己を気味悪く感じた。
 腕には点滴まで受けている。病人のような扱いに、眉が寄った。
 「???」
 牢獄にて厳しい尋問は受けた。しかし、こんなにやつれてはいなかった筈だ。
 己の身体の事なのに、どうしてこうなっているのか皆目見当がつかない。
 軽く首を巡らせ室内を見渡すが人気は無く、疑問を問う事もできない。部屋はどれ程眺めても記憶に該当する物の無い、まったく見覚えの無い場所だった。
 己が暮らしていた屋敷よりも遙かに華麗な室内装飾が施され、置かれている家具調度に関しても、歴史的価値も技術も尋常の物でないのが容易に窺い知れた。
 例えるなら、王弟殿下の宮に近い。
 贅を尽くした部屋で、イリアスは小さく首を傾げた。
 「……どこだ、ここは?」
まさか、本当に黄泉の国ではあるまい。
だからと、窓の外に見える景色のみでははっきりとした事は分からないが、リディエマに居るような気もしない。
 王弟殿下が自分を助けてどこか知らぬ場所に運んだ。という事はまったく考えられなかった。
もし、助命を願って下さっていたとしても、王と公爵がそれを受け入れる筈がないのだ。殿下を処刑としないなら、余計にイリアスにすべての罪を被せるに決まっている。牢獄から出して処刑するならまだしも、こんな豪奢な部屋で静かに眠らせてくれる訳などない。
イリアスはその処刑を覚悟し、牢獄にて過ごしていた事は覚えている。
それが、突然壁が外部より破壊されたのだ。
その衝撃により身体が飛ばされ全身を強打した。訳が分からぬまま痛みに意識が朦朧とするイリアスに、開いた壁より入り込んできた者達が何かを強引に飲ませたのだ。
そこでイリアスの記憶は途絶え、現在となっている。
 萎えた身体に、見知らぬ部屋。
 美しい場所ではあるが天の国とも思えない。黄泉の国よりも酷い地獄にでも落とされたのか、と苦笑と共に馬鹿げた妄想をしかけた所で、少し離れた場所にて扉の開く音がした。
そちらに目を向ける。西班牙蒼蝿水口服液+遅延増大
すると、まったく癖の無い銀髪を背の中程まで長く伸ばした、身なりの良い男が一人入って来た。
 自分よりも少し年上に見える、堂々たる体躯の持ち主だった。
 品の良い立ち姿に、己を強者と自覚している自信に溢れた美貌。
 他者に命令し慣れている雰囲気をはっきりと滲ませているのに、間違いなく貴族だと感じた。
ただ、リディエマの貴族ではない。やはりここは外国のようだ。
 男はイリアスを見て、満足そうに笑った。
 「目覚めたようだな。……少々薬を使い過ぎたので目覚めぬ可能性もあったのだが、こうして話が出来る事を嬉しく思う」
 寝台の傍らにある椅子に腰掛け、長い足を組んだ。
 腕も組み、尊大な態度でこちらを見ている。しかし、オーサーなどとは違いそれが様になっていた。
 男はイリアスを威圧しようとわざとそうしているのではなく、そうするのが極自然の事なのだと見て取れた。
その、低いが良く通る声音は、耳に悪くない。悪くないが、ルーク・メイナードが側に居て話し掛けているようにも感じ、イリアスはあまり良い気がしなかった。
しかも、さらりと何でもない事のように語られたが、薬の使い過ぎとは不穏な言葉だ。
だから、己の身体がこんな風に弱っているのだろうか。
 処刑を覚悟していたとは言え、見知らぬ者に突然薬を盛られて好きにされるなど許し難い事だった。
 「薬の影響で口がきけぬのか?」
 不快な信用ならぬ相手に警戒し、無言でいるとそう問われる。
 氷と言っても良い、酷薄な気配を漂わせる切れ長の紫暗の瞳がイリアスを射抜くように見つめた。
 心臓が跳ね、背筋が寒くなる。
 「……ここは、どこですか? あなた様は、一体どういった方なのでしょうか?」
 情の無い王だ。
 何故かそんな事を真剣に思い、腹を立てたり逆らうのは得策ではない相手だと本能が感じた。
 目の前の男は貴族ではなく、それより上位にある王族だ。間違いない。しかも、リディエマの王族とは違い大きな力を持つ存在だ。下手な真似をすれば、一瞬で命を奪われるのを確信した。
 「ここは、イレーゼの帝都カルファークだ。……私の名は、ラーシュ・レヴィ・グランフェルトだ」
イリアスが口をきいたのに軽く頷くと、男はニヤリと笑い、面白そうに問いに答えて名乗った。
 驚け、と言わんばかりの態度に、正直に驚いて見せるなど馬鹿のする事だと思いつつも、動揺するのを隠し切れなかった。
 「イレーゼの……グランフェルト……帝王家……」
リディエマではないと予想していたが、敵国。しかも、目の前に居るのはその直系王族だ。
 最高君主である帝王を輩出する家。
グランフェルトを己の名として名乗れるのは、玉座に在る者と特に血の近い者である証だ。
イレーゼでは王族と言えどすべてがその名を名乗る事は許されず、他の名を与えられる者の方が多いのである。傍系にも許されるリディエマとは違うのだ。
であるからこそ、その名を与えられし者はイレーゼでは特別に尊ばれる。
 尊大な態度が身に付いているのも当然だ。
イリアスは己の知識を脳裏で反芻し、息を飲んでその姿を見つめた。
 「そうだ。お前の生国であるリディエマの敵、今回騙されてオースティンにまんまと領土を取られたイレーゼ帝国王の第二皇子だ」
 「……私をご自身の手で殺す為に、牢から引き摺り出して来たのですか?」西班牙蒼蝿水
イリアスが上手く情報を流せなかった為、公爵に利用されイレーゼは大きな被害を被った。
 自分をここに運んで来たのは、その責任を取らせる為かと素早く結果を導き出したイリアスに、ラーシュ皇子はふん、と鼻で笑った。
 「そんな詰まらぬ真似をする為に、誰がわざわざ手間暇掛けてお前をここまで連れて来たりなどするものか。放っておいても、政争に負けたお前はリディエマで処刑されていた。殺したいほど腹を立てているなら、それで終わりとしたさ。そうでないから、リディエマの捜索網に掛からぬようにしながらここまで連れて来させたのだ。リディエマは統治者たる王は甘く隙だらけだが、その分臣下の公爵に隙が無く面倒で煩わしい。その公爵がしつこく捜すものだから本当に骨が折れたのだぞ」
 「そこまでして私を帝都に招き入れるなど……何用でしょうか?」
 罰を与えるのでもなければ、他に敵国の罪人に何の用があるというのだ。リディエマの情報が欲しいとしても、わざわざ脱獄させてまでと言うのは考えにくい。
 「礼を言おうと思ってな。命を助けてやったのは、その気持ちだ」
 「お礼、ですか?」
まったく思わぬ返事にイリアスは困惑した。
イレーゼとの交易も行い、失敗してしまったが情報も流した。
だが、イリアスが懇意にさせて貰っていたのは第三皇子に繋がる有力者であり、第二皇子ではない。だから、まったく面識が無く名乗られるまで分からなかったのだ。
 初対面の相手から礼として命を助けられても、感謝より先に立つのは疑問であり不信感だった。
 「お前の流した情報を、第三皇子のフィリップ・ライトは意気揚々と帝王陛下に上奏し、オースティンに戦を仕掛けた。そして惨敗だ。……我が父は、息子と言えどそのような失敗は許されぬ方だ。フィリップは王への道を閉ざされ、地方に幽閉された。ははっ……実家の力を盾に煩い奴が何もせずとも勝手に自滅してくれたのだ。これほど嬉しい事はない。見事にフィリップを躍らせる情報を流してくれたお前には感謝するばかりだ。後で褒美もやるぞ。領土は、今は奪われていようといずれ必ず取り戻す」
 上機嫌で語られるのに、それならば礼と言うのも納得出来るな、とイリアスは思った。
 現在、イレーゼの帝王は正式な皇太子を立てておらず、後継者と目される三人の皇子がいる。皇女も居るのだが、イレーゼは女子には王位継承権は与えられない為、皇女という存在は必然的に影が薄くなるのだ。
その、三人の皇子はそれぞれ母親が違う。
 第一皇子が正妃の産んだ息子であり、第二、第三皇子は側妃の産んだ息子である。帝王家は一夫多妻制を取っており、正妃を頂点として、王の寵愛を受けた女性が大勢妻として王宮に暮らしている。
リディエマのヴェルルーニ家も本来ならそうなる筈なのだが、現王が王妃以外は要らぬと激しく拒否する為、側妃という存在が居ないだけである。
 「私の母の実家もそう悪くはないのだが、フィリップの実家はそれ以上に力を持つ侯爵家だったからな。それも、今回の事で没落して行くだろう。……正妃殿の実家には歴史はあるが力は左程強くない。その上、兄のクリストファーは、生来身体が弱くてな……第一皇子ではあるが、恐らく父は後継者に指名しないだろう。となれば、もう私しか居ないのだよ」
 満足げに笑って教えられるのに、イレーゼでは弟が兄に勝つのかと、リディエマとは逆の情勢に心の内で苦笑した。
 「左様でございますか。……命をお助け頂き、誠にありがとうございました。ところで、捜索の目を欺かれたとは……一体どのようになさったのですか? よろしければ、お聞かせ願えませんか?」
 「リディエマに潜り込ませた手練れの者を使って牢を襲撃した際、薬を使って仮死状態にし、人形の型に入れてリディエマの南から海に出たのだ。そこから北上し、イレーゼの領土に入った。港の検問さえ突破してしまえば、陸路よりは監視の目が緩いからな。民衆の好む大道芸では大人と同じほどの大きさの人形を使う芸もある。それらの道具をしまう道具箱の最も底に、お前を入れた人形も入れて運んだのだ。仮死とは言え、死んだ状態だ。物も言わず食事も摂らない。しかもその人形は一見しただけでは継ぎ目が分からない仕様で作られていてな、中に人を入れているなど余程人形に精通した人間でなければ分からぬ代物なのだ。検問が厳しくとも、わざわざ人形の中まで開いて見るような兵は居らず、お陰でここまで運べたのだ」
 「……人形に入れて運んだ……」
ここで目覚めるまでにそんな事になっていたなど、かなりの衝撃だった。procomil spray
それで身体が萎えているのかと納得しても、何日も仮死状態にされるなど、そんな無茶をされれば目覚めぬまま腐敗した可能性もある。いつ本当に死んでいてもおかしくなかった筈だとぞっとした。
 皇子は礼をすると言いつつ、実際はイリアスが生きようが死のうがどうでも良かったのだろう。
 所詮自分は敵国の人間だ。それも当然だろうと、常軌を逸した国外逃亡方法に思う所はあるが、不満を述べたりはしなかった。
 「約三週間……そうして運んだからな。身体は萎えているだろう。しばらく、元に戻す訓練を行い、その後はわたしの側に居ると良い」
 「あなた様の側にですか? ですが、第三皇子に連なる方々は私を許さないかと……そんな私をお側に置くのは、ご迷惑となるだけかと……」
 意外な申し出に目を瞬いた。
てっきり、それでは後は好きにしろとの一言で、縁は切れると思っていたのだ。
 「お前がここで寝ている間、お前のイレーゼでの身分を作っておいた。それと同時に、お前と取引きしていたフィリップに繋がる者達はすべて処分しておいた。フィリップ自身はもう二度と帝都の土は踏めぬだろうから、お前が気にするような事は何もない」
 「……何故、親しい縁がある訳でもない私に、そこまでして下さるのですか? 礼にしては過剰過ぎると存じますが……」
ラーシュ皇子は、親切な人の好い人間とは到底思えない。
イリアスは自分のその目を正しいと思う。そんな人間からの破格とも言える配慮に、素直に礼を述べるより先に怪訝に眉を寄せた。
 厚意に対して不信を募らせるイリアスに、皇子は不快を示さず平坦な口調で言った。
 「リディエマがどうしても恋しいと言うなら、今から帰って処刑の道を歩んでも構わないが、せっかく助かったのだ。そうでないなら、この先はイレーゼで野望を叶えてはどうかと思ってな」
 「野望……で、ございますか……」
 生国であるリディエマ国内でも叶えられなかった野望が、身分を作って貰ったからと、まともな知り合いも、手持ちの情報も少ないイレーゼで叶えられると思うほど、イリアスは楽天家にはなれなかった。
 「私の調べた所、お前はリディエマ一の貴族となりたかったから、王弟ファーガス・ヴェルルーニに与しリディエマを牛耳るメイナードの一族に喧嘩を売ったのだろう?」
 「はい」
その通りなので、何も隠さず頷くとラーシュ皇子は続けた。
 「お前が、己は本当に国一の貴族となり采配を振るえると思うなら、それをこのイレーゼで叶えてみろと言っている。私が思うに、お前が口先だけではない本物ならば、こちらの方が楽に叶えられる筈だ。リディエマは建国当初よりメイナードという一族が変わらず力を握ってきた国だ。それを覆すのは並大抵の事で出来る物ではない。……だがな、イレーゼにはメイナードのような一氏族で貴族を束ね、王族よりも力を所持する異常に突き抜けて力を持つ者は居らず、新興の者が古株を蹴落とすなど日常茶飯事なのだ。どうだ、こう聞いても心が揺れぬか?」
にやりと笑む、イリアスの心情を正確に読んでいるとしか思えない誘いに、否とは言えなかった。
イレーゼには、メイナードのような貴族の長と呼ばれる存在が居ない。
そして、貴族の勢力図が常に入れ替わる。
 才覚さえあれば、新興が古参を蹴落とせる。
そうと聞かされ心が湧き立たないほど、イリアスは人生を投げてはおらず、心が枯れてもいなかった。
 「イレーゼで力を付け、帝王となった私の傍らに立ち、共にリディエマを奪わぬか?」
どんな言葉よりも力を持つ甘い誘惑に、イリアスはその場で頭を下げ、従う意思を示した。
まだ、人生を諦めなくても良いのだ。
 再び、リディエマの権力に挑戦出来る。闇しかなくなったと思っていた世界に光が灯った。
その僥倖を作ってくれたラーシュ皇子に、素直に感謝を捧げた。WENICKMANペニス増大

2013年10月30日星期三

恐 怖

エンジュは目論見どおり、天の島のガイア本体の城へと地上から引き抜かれた。
 強引な真似をして危険を冒す事無く、短期間でそれを成し遂げられるほど、エンジュの情報処理能力は他を圧倒する物だった。簡約痩身
 天の島へ上がる為の身元チェックは、想定内の厳しさだった。
エンジュの偽装は見破られる事なく、真の身分がアルピニス側に知られるような事はなかった。
リファーサスから来た、親戚にコンピュータの扱いを教わり高い技能を持つ、その親戚も両親も今は居ない天涯孤独の少年。
 最初に提出した個人情報に不審を抱かれる事無くエンジュは天の島へと上がり、アルピニスの頂点である三家当主の一人、ラヴィニア・イーリスの城へと連れて行かれた。
 『神の実』 は、アルピニス一族の長であるジーン・アルピニスの城に保管されている。そこまでは、掴んでいた。
 何より大切で貴重な実だ。最も守りの堅いところに置かれるのは当然だが、予想通りの保管場所に、もう少し侵入の容易い場所なら良いのにと思わないでもないエンジュだった。
だが、エンジュの勝手な要望を、アルピニスの一族が叶えてくれる筈などない。
ぼやく前に 『神の実の保管場所』 への確実な侵入経路を探る方が先だった。
 地上のコンピュータルームからでは、どんなに足跡を残さないよう必死に探っても、神の実はジーンの城にあるとそこまでしか掴めず、城のどこに保管されているのか、その正確な位置は分からなかった。
そろそろ採集が終わる時期の筈だ。
 何とかこの天の島で正確な位置を探り出し、急いで採集された神の実を奪わなければならない。
 実が、購入した人間達の手に渡ってしまえば、そこで終わりだ。
 誰に渡るのかも実の保管場所同様に、アルピニス一族の機密情報として扱われている。
 従い、ガードが厳しく調べが付かない上に、もし調べが付いたとしても、手に入れた人間はすぐにでも飲んでしまう筈だ。奪うような時間は無いだろう。
 採集された直後、購入者達の手に渡る前の、保管されている今が、最初で最後の最も実に近づける時なのだ。
これからはさらに慎重に、だが今まで以上に急いで行動しなければならない。
エンジュは広い室内に通された。
そこには、紅茶色の髪を複雑に美しく結い上げた、同色の瞳を持つ愛らしい女性が、二人掛けのソファに一人優雅に腰掛けていた。
 気品溢れる調度の中に佇むのが相応しい、最高の気品を備えた存在。可愛らしいお姫様だとエンジュは思った。
 「ようこそ。エンジュ・デリック。……あなたは、ずいぶんと優秀なようですので、本日よりここで働いて頂きます」
これまで、エンジュの生家フィンデールは、エラノールの中心三家に名を連ねた事はない。
なので、家名がアルピニスに知られているとは思わないが、万が一の事はある。エンジュは姓は偽名を使っていた。
 「光栄に思います。お役に立てるよう、がんばります」
エンジュは丁寧に頭を下げて、心にも無い事を言った。
エンジュをここに招いたラヴィニア・イーリスは、アルピニスの長の最も信頼する側近だ。エンジュがエラノールの中心三家として立った暁には、最大の敵の一人として渡り合っていかなければならない存在である。
 正直、もっと厳しい、悪の一族の頂点に立つに相応しい、男のような女を想像していた。
それだけに、権高さの感じられない、ほんわりと笑うラヴィニアの愛らしい姿と柔らかな物腰に、正直エンジュは拍子抜けしていた。
こんな女性ならば、そう厄介な敵にはならないなと思った。
しかし、エンジュのその思いは、ラヴィニアの瞳を真正面にはっきりと見た瞬間、一瞬で掻き消された。
 「!!!」
 愛らしいお姫様など、とんでもない。
 涼やかに響く心地良い声で、エンジュに席を勧めるラヴィニア・イーリスは、その仕種のすべてが可愛らしく男の庇護欲をそそる。果敢無げですらある。
だが、美しく煌めく紅茶色の瞳の輝きが、それだけの女ではないとはっきりと物語っていた。
その瞳を見て、改めてラヴィニアをよく見ると、それを嫌でも理解させられた。
ラヴィニアを形成している雰囲気は、男の助けを乞うような物ではなく、助力よりも支配を望み、他者を屈服させる事に慣れた物だった。
とても、エンジュに簡単にあしらう事の出来そうな 『可愛いお姫様』 ではない。
ここで少しでも気を抜けば、自分の正体などすぐに知られて殺される。
ラヴィニア・イーリスは、容姿のような愛らしい性格をしていない。侮れない、悪の一族の中心三家に立つに相応しい人間だった。V26Ⅳ美白美肌速効
ラヴィニアが案内の男を下がらせる。
エンジュがソファに座ると広い部屋には二人きりとなった。
エンジュは緊張しつつ膝の上で軽く手を握った。
 見かけの愛らしい容姿に騙されてはいけない。
 騙されそうになった己を心で諌めながら、ここは敵地なのだと改めて言い聞かせた。気を抜いて良い瞬間など、一瞬たりともないのだ。
 誰にも、ほんの少しでも疑われないよう細心の注意を払いながら、実の保管場所の詳しい位置をコンピュータから引き出し、アルピニスの城へ侵入する。
それは、これまで辿って来た道のりよりも、遥かに困難な道だ。
だが、やり遂げないわけには行かない。
 早くしないとマユラが死んでしまうのだ。
ラヴィニアの雰囲気に圧倒されて、怯んでいる場合ではなかった。
 「わたくし、あなたにとても期待しておりますの。……ガイアの城の居住区も地上の物と遜色ありませんので、不自由はないかと思います。地上とこの島を行き来するに必要なパスは、後ほど渡しますので……」
 「はい」
ガイアの城に入る特に重要な機密を扱う人間には、エディナへの情報漏えいを考慮して、見張りが付けられる。
 一生不自由しない金は与えられるが、レギアを出る自由は与えられないと、ここに来るまでにエンジュは教えられた。
 地上のサポートルームとは言え、ガイアのプログラムの一端に関わったエンジュが、その言葉に逆らった後、素直に仕事を辞めさせて貰える訳がない。
 問答無用で処分される事が分かっていながら、頷かない者は居ない。
エンジュは首都に閉じ込められる籠の鳥となる事を了承し、天の島へ上がってきた。
 最も、最初からそれこそがエンジュの目的だったのだ。逆らう事無く喜んで従った。
エンジュは生半な術師の目なら晦ませる自信がある。
 一切天の城から外に出さないと言うのではなく、レギア(地上)までは自由に動けるパスまでくれると言うなら、上手くすれば実を奪って逃げられる。
 悪くない状況に、心の内で笑みを零した。
 色々と、これからの計画を脳裏に描きながらも、真剣にラヴィニアの話を聞いていると、軽いノックの音と共に、この城の執事らしき人間が入ってきた。
 「失礼致しますラヴィニア様。統主様とフェリシア様がいらっしゃいました」
 執事がラヴィニアに告げた名を聞いて、エンジュはどきりとした。
 統主。それは、神の実の保管場所となっている城に暮らす人間だ。そして、エラノール一族の最大の敵。
だが、エンジュはその存在も気になったが、最も気にしなければならない重要な存在と同じくらいに、フェリシアという名の方にも意識が向いてしまっていた。
フェリシアというのは、エンジュが人買いの門で出会った、世間知らずのお嬢さんの事だろうか。
 統主が買い取ったというのは知っていたが、様付けで呼ばれるほどの存在になっているとは。驚きだった。
 執事の言葉に、ラヴィニアが頬を綻ばせて頷いた。
 「こちらにお通しして下さい。……エンジュにも紹介しておきますね」
 「はい」
 立ち上がって客人を迎える姿勢を取ったラヴィニアに、エンジュも従い立ち上がる。
まさか、天の島に入ってすぐ、真近に統主を見ることになるとは思わなかった。
だが、ここまで来たらいつかは真近で相対する事もあるだろうと、覚悟はしていた。
 統主、ジーン・アルピニスは神の実が欲しいエンジュにとって、その望みを阻む、最も厄介で強大な力を持つ術師だ。
ラヴィニアに対するよりも緊張し、背筋がちりちりと痛むほどだった。
だが、不意に、緊張する所か統主の事などまったく知らない人間も居たなと脳裏に浮かんだ。
その人間が、今ジーンと一緒にこの部屋にやってくる。男根増長素
 心配していたような、玩具にされてボロボロになっているといった事はなく、大切に扱われている様子にホッとしたが、何故そんなに気に入られたのかは気になるところでもあった。
 内心で首を傾げるエンジュを余所に、執事はジーンとフェリシアを案内してきた。
 「!!!」
 本当は、ジーン・アルピニスを観察しなければならないのに、エンジュの目は、自然とその隣に立つ少女に引き寄せられてしまっていた。
 仕立ての良い美しい衣裳に身を包み、髪も肌も艶やかに磨き込まれているのが良く分かるフェリシアは、エンジュと出会った時よりも美しさがさらに向上していた。
 女性は手を掛けて磨けば光るのは知っている。
だが、こんなにも美しくなる物なのかと、エンジュは呆然としてその姿に見入ってしまった。
 綺麗なお嬢さんだとは思っていた。
しかし、何をすればここまで美しい存在になるのだろう。
 纏う雰囲気にも、妙に艶かしい物が入り混じっているフェリシアは、少女と女が違和感無く同居している。その、人間を超えているような美しさは、ずっと見ていると目の毒だとまで思った。
 綺麗過ぎて怖いくらいだった。
 「エンジュ。彼が我らが長のジーン・アルピニスです。お隣の方はフェリシアと仰ってジーンの伴侶となられる方です。ジーンと同じく、粗相のないようにお願いいたしますわね。……ジーン。彼はエンジュ・デリックと言います。個人情報はご覧頂いていると思いますが……とても優秀な技師ですので、地上からこちらに上がって貰いました」
 思わぬ所にエンジュを見つけて目を丸くしているフェリシアよりも、エンジュの方が驚きに固まってしまった。
 伴侶?
エンジュの一族にもその言葉を使われる存在は居る。
もし、こちらでも同じ意味で使っているならば、三家当主の内の誰かの配偶者と言う事になる。
ラヴィニアは、はっきりとジーンの伴侶と言った。
 買われた少女が、何故統主の妻?
 唖然とフェリシアを見つめてしまうエンジュに、その時穏やかな声が掛かった。
 「確かに優秀そうだったな。……ラヴィニアが大丈夫と判断したのなら、大丈夫だろう。私は反対しない。……しっかり頼む」
 「!!!」
ラヴィニアに頷いてから、視線をこちらに向けたジーンと真正面から目を合わせた。その瞬間、エンジュは全身総毛立つ程の衝撃を受けた。
 地上で見た時には、これ程の力は感じなかった。
ジーンの術師としての能力の高さは、調べられる限りは調べているので、概ね知っているつもりでいた。
だが、そんな情報などまるでアテにならない物だと知らされた。
ただ視線を交わしただけで、他者に恐怖を抱かせるような術師だとは、どの情報にもなかった。
それに、自分に対してそんな事の出来る人間は居ないとエンジュは思っていた。
 自分で言うのもなんだが、エンジュの術師としての能力は高く、術師相手に恐怖を感じた事など今まで一度もなかった。
 統主サミュエル相手でも、エンジュの力はほぼ互角である。
その、サミュエルが憎々しげに認めるジーンの力は本物だ。
ジーンはエンジュに向かって特別力を誇示している訳ではない。ただ普通に立って見ているだけだ。
それなのに、尋常でない力を感じるのだ。
ジーンから感じ取るそのあまりの力に硬直してしまい返事も返せずにいると、柔らかな声が耳に届いた。
 「久しぶりね、エンジュ。ここでエンジュと逢えるとは思わなかったけど、元気そうで良かったわ。エンジュもこれからはここで暮らすの?」
 「……あ、フェリシアさん……」
エンジュの硬直を解いてくれたのは、何とも暢気な口調のフェリシアからの問いだった。
 「はい、フェリシア。彼には、ガイアの城で暮らして仕事をして頂きます。……フェリシアは、エンジュをご存知なのですか?」
フェリシアの問いに答えたのはエンジュではなく、柔らかく微笑んでいるラヴィニアだった。ジーンとフェリシアに席を勧めて座らせてから、自分も腰掛ける。
その後にエンジュは腰掛けたのだが、まさかこの場で会うことになるとは思わなかった二人の存在に嫌な予感がしてならず、背筋が微かに震えた。
ラヴィニア一人を相手にしているだけでも、相当の緊張を感じていたと言うのに、それより上の人間プラス、エンジュにとっては何を言い始めるか分からないフェリシア。
エンジュに言わせれば、世間知らずのお嬢さんでしかないフェリシアは、世間を知らないが故に、エンジュを驚かせ冷静さを失わせるような事を言いそうで、ある意味ジーンやラヴィニアよりも不安を掻き立てる怖い存在だった。
こんな場で、もし平静を装えず自分を見失うような事になれば、一瞬で己の命は消える。
 自分に会えて嬉しいのか、にこにこと楽しそうに笑ってこちらを見ているフェリシアには悪いが、早くこの場の会話が終わることを、エンジュは切実に祈った。男宝
しかし、エンジュがいくらこの部屋を出て行きたいと思った所で、雇い主であるラヴィニアに下がって良いと言われない限り、どうしようもない。
そしてそのラヴィニアは、ジーンとフェリシアの来訪を優先してエンジュを下がらせる事はしなかった。
エンジュを室内に留めたまま、ジーンとフェリシアの話し相手も務める様子に、心中で重い溜め息を吐いた。
エンジュの視線の先では、何故かラヴィニアが平然と二人掛けの広い位置に一人で腰掛け、上座に着いている。
だが、それに関してジーンが何かを言うわけでも、不快を示すような事も何もなかった。
 本来なら、この場で最も身分の高いジーンが、一人で広い位置に掛ける物なのだ。
だが、その本人はフェリシアの傍が良いのか、フェリシアの隣で穏やかに笑いながら、ラヴィニアを上座に座らせていた。
そうした雰囲気から判断するに、ジーンとラヴィニアはとても気安そうだ。冷えた主従関係ではない。
 仲が良い分結束は固い。
 己の計画の為には、いがみ合ってくれている方が都合が良いのだが、と思わずにはいられなかった。
エンジュは、入り口の扉に背を向けた位置にある、一人掛けのソファに腰を下ろしていた。
 「はい。レギアで知り合いました。そこで、私の良く分からなかった事を、色々と教えてくれたのです。お陰でとても助かりました」
 笑顔でエンジュとの関わりを問われるままラヴィニアに答えるフェリシアの隣から、ジーンがエンジュに目を向けた。
 「あぁ……そう言えば、私がフェリシアを地上に見に降りた時、隣に居たな。その紅い瞳が印象的で、思い出せた」
 「ジーンも印象的だと思う? 真っ赤な宝玉みたいでしょう! ……私、レギアに着いてから、誰も話し相手が居なくて寂しかったの。その時にエンジュが話し掛けてくれて、なんて綺麗な瞳をした人なんだろうって思ったの。……態度はちょっと生意気でびっくりしたけど、色々詳しくて本当に助かったの」
 「……確かに綺麗な瞳だな。加工して、装飾品としても良さそうだな」
 楽しそうにエンジュの瞳を褒め称えたフェリシアに、ジーンがピクリと軽く片眉を撥ね上げ、薄い唇に意地の悪い笑みを浮かべてこちらを見つめた。
 「っ!!!」
その笑みに、ぞっとして背筋が震える。
やはり、予想通りフェリシアはエンジュを窮地に追い込む、いらない事を言う存在だ。
 他の男を少し褒めるだけでも気に食わないくらい、ジーンはフェリシアに執着しているのだ。
エンジュが特別に働きかけて、フェリシアを誘惑したわけでもないのに、睨まれたくはない。
フェリシアは何の含みも無く純粋にエンジュを褒めてくれているのだろうが、エンジュはありがたいと思うよりも、黙っていて欲しいとしか思えなかった。
 「何、おかしな事を言ってるの。人間の瞳を加工してどうするの? それに、もしそんな事をするなら、ジーンの瞳にして。自分の傍にずっと飾って置いておけるなら、ジーンの瞳の方が良いわ」
この場で唯一、ジーンの言葉を冗談だと思っている人間が、くすくすと笑いながらとんでもない事を言った。
アルピニスの統主に向かって、冗談でも当人の前で 『その瞳を装飾品にしろ』 などと言える人間が存在するとは、夢にも思わなかった。
 世間知らずにも程があるだろう、とエンジュは心の内で絶叫した。
しかし、そのとんでもない言葉に、言われたアルピニスの統主がそれまでの不機嫌が嘘のように、蕩けそうな極上の笑みを浮かべるとは思いも寄らず、度肝を抜かれた。
 「ふふ……私の瞳の方が良いのか? 彼のよりも」
 「ええ。ジーンの瞳の方が良いわ。一番好きよ」
こくりと頷いたフェリシアに、機嫌良くジーンがその目蓋の上にキスをする。
 妙に甘ったるい光景を作り出している二人の姿にエンジュが固まっていると、こほんとラヴィニアがわざとらしい咳払いをした。三体牛鞭

2013年10月28日星期一

英 雄

ユリウスがフローラの囚われた檻に杖を投げ付けたのを見て、ジルベールはぎょっとした。
 外部から触れられれば爆発すると言ったのユリウスだ。それが、なんという真似をするのだと思いつつも、爆風の吹き荒れる中ジルベールは玉座へと跳んだ。OB蛋白の繊型曲痩 Ⅲ
ユリウスは、フローラを自分以上に深く愛しているのだ。
その気持ちに嘘があるとは思えない。傷一つ付けないといった言葉を今は信じるべきだと己に言い聞かせ、ジルベールは爆発に気を取られているラジールに斬りかかった。
ラジールはジルベールの攻撃をかわそうとしたが、ジルベールはそれよりも早く動く事が出来た。しかも、ユリウスに譲られた剣は、これまで誰が斬りかかろうとまったく傷を負わせる事の出来なかったラジールの身を簡単に斬り伏せた。
その直後。
ラジールを倒せた事に快哉をあげる間もなく、怒りと憎悪を滾らせた魔女王に力をぶつけられた。強大な力をジルベールに防ぐ術はなく、これで自分は死ぬと本気で思った。
だが、魔女王の事はきっとユリウスが倒してくれるだろう。
フローラの事も守ってくれている筈だ。
 驚くほど強大な魔力を有する魔術師だった親友に後を託したその時、ふわりと全身をあたたかく柔らかな膜のようなものが包む込んだ。
 魔女王の攻撃は、ジルベールに一切触れる事は無かった。
 魔女王の攻撃を弾き、ジルベールを守ってくれたのはユリウスではなく、人間にはありえない漆黒の翼を持つフローラだった。
そして、魔女王はユリウスの力の前に成す術無く、消された。
だが、それを喜ぶよりも、ジルベールは信じ難い現実に、身を震わせるばかりだった。
 「フローラ様が……魔族だなんて……」
 魔女王もラジールも消滅し、この宮殿に仕える大勢の魔獣や魔兵士。そして、魔術師もすべてユリウスとジルベールによって倒されている今、玉座の間に駆け込んで来る者は居なかった。
しんと静まり返った場に、ジルベールの掠れた声だけが響く。
フローラに庇われたままの姿勢で、立つ事を忘れて見上げるばかりのジルベールに、フローラがユリウスの腕の中から困ったように微笑んだ。
 「驚かせてごめんなさい、ジルベール。私は、人間の王女で居る事よりも、魔界でユリウスの傍に居たいの。だから、魔族になる道を選んだの……」
 「そんな……あなたは国中の人間に愛されている王女なんですよ! それが、魔族になるだなんて……」
 何と言う選択をしたのだ。
 酷い事実を信じたくない気持ちを露わに、ジルベールは大きく首を横に振って叫んだ。
そんなジルベールに、フローラは静かな口調ではっきりと言った。
 「国中の人間の愛よりも、私はユリウス一人の愛が欲しいの」
 「ですが、フローラ様。ヨーゼフ陛下には貴女様しか世継ぎがいらっしゃらないのですよ! その貴女様が国を去れば、王家に波が立ちます。国民に不安を抱かせてもよろしいのですか!」
 「……それは……」
 堪らず非難の滲む叫びを上げてしまったジルベールに、フローラは言い淀んで俯いた。
それを見て、ジルベールはフローラの肩を抱いているユリウスを睨みつけて叫んだ。
 「お、お前がフローラ様を誑かしたのかっ! 魔族にするなど、よくもそんな真似を…っ! あ、……魔術師長……フローラ様の幼馴染みの陛下の遠縁のご子息……なんて居ない……ユリウスなど俺は知らない。俺にもそんな幼馴染みなど居ない……記憶がおかしい……」
 頭の中で記憶がすり替わっていく。ジルベールは、奇妙な状態に目を見張って呆然とした。
 「さすがだな。精神力が強いだけはある。フローラの姿を見て驚いて、術の効き目が弱まったようだ……」V26 即効ダイエット
ユリウスの感心したような声が聞こえる。
ジルベールは、作られた偽りの記憶を己の頭の中から追い払うように頭を振り、剣を構えて立ち上がった。
 「お前、何を言ってフローラ様を魔族にしたんだ! 我が国の大事な王女に人間である事を捨てさせるなど非道な真似を!」
 激昂するジルベールに、ユリウスは平然と言った。
 「ルーダー王国の侵略からフォルビナを守る事と引き換えにだ。私は、きちんと約束を守った。フォルビナ王国の誰も傷付いていないだろう? ルーダー王国は、諸悪の根源の魔女王とラジールが居なくなった今、これまでのような侵略戦争は出来ない。フォルビナ王国は完全に安全だ。契約は為された。フローラは我が世界に連れて行く」
 殺気を込めて睨むジルベールに、ユリウスは穏やかとも言える口調で語り、笑みすら浮かべていた。
ジルベールにフローラを奪い返す事が出来ないと確信している、その余裕の態度が癇に障る。
 「この卑怯者がっ! フローラ様の国を思う心に浸け込んだのか。最低だな!」
 「何とでも言うが良いさ。さっき言っただろう。私は誰よりもフローラを愛している。この想いは譲れない。手に入れる為なら何でもするし、何と言われようと構わない」
 「きさま、殺してやるっ!」
 「やめて、ジルベール!」
 叫んだと同時にユリウスに飛び掛っていたジルベールをフローラが止める。そうしてユリウスを背に庇い、間に割って入った。
 「ユリウスに剣を向けないで! ユリウスは重要な事をあなたに言ってないわ!」
 「重要な事?」
 動きを止めたジルベールにフローラが頷き、必死の目をして言い募った。
 「私には嫌だと言う権利もあったの。ユリウスは私に何も強要していないの。魔族になるのは嫌だと言っても、ユリウスはフォルビナ王国を守ってくれると言ってくれたのよ。それでも私を愛して見守ってくれると……」
 「…………」
それなら魔族になる道など選ばずとも、と言い掛けたジルベールに、フローラは苦笑した。
 「でも、そうしてユリウスの思いに甘えれば、私の寿命なんてユリウスにとっては一瞬の間でしかないのよ。私はそれが嫌だったの。ユリウスの傍には私が永遠に居るのでないと我慢出来ないと思ったの。それには、ユリウスと同じ存在になるしかなかった。だから、これは私が望んだ事なの。ユリウスはそれを叶えてくれただけよ。何も悪い事なんてしてないの!」
 「ですが……」
 全身から搾り出すようにして叫んだフローラの思いを聞いても、それでも愛しい王女が魔族になってこの国を去るなど、そう簡単には納得出来る事ではない。
でも、ここで自分が反対していても、良い結果など何も得られないようにも思う。ジルベールは、どうすれば最良の結果が得られるのか分からず、立ち尽くして眉を寄せた。
 「一人しか居ない王女が国を捨てる。してはならない事だとどんなに言い聞かせても、私はユリウスを諦められなかった。悪いのは、自分の事しか考えられない私よ。ユリウスではないわ」
フローラはジルベールより目を逸らし、ユリウスに添った。その背を優しく撫でるユリウスの目は、ジルベールが書物や伝聞で知る凶悪な魔族の者とはとても思えなかった。
 魔女王やラジールと同じ、人間に擬態している魔族。
そうであると知っても、同じとはどうしても思えない。福潤宝
 植えつけられた偽りの記憶がそう思わせるのだろうかとも思うが、ユリウスが居てくれたからこうして魔女王もラジールも倒す事が出来たという事実に間違いはない。
もし、ユリウスが魔界から来てくれなければ、フォルビナ王国は滅ぼされ、フローラは魔女王に嬲り殺しにされていたのだ。
そう考えると、ユリウスが魔族だからと恨みに思うのもどうかと思う。それどころか、大きな恩を感じた。
 「……そう言えば、フローラ様とユリウスは結婚するのでしたね」
 「え?」
 呟くように口にした言葉に、フローラが顔を上げてこちらを見た。
 「背中の翼は消す事も出来るようですし……他にご容姿に変わったところは見受けられませんから……このまま変わらずフォルビナにいらっしゃれば良いではありませんか。考えてみれば、ユリウスはいつもごろごろするばかりで、魔族らしく振る舞って特別害になるような事はありませんでしたし……今回の事で、ユリウスは国の英雄です。誰もお二人の結婚を反対などしないと思いますし。俺、これでも口の固い男ですから、誰にもこの事を話したりなどしません。ユリウスにも態度を変えたりなどしませんから、フォルビナで幸せになってください。魔界になど行かないでください!」
それが良いと思いながら願いを伝えた。
 「ジル……」
 口元に手を当て、今にも泣きそうな顔をでこちらを見るフローラに、ジルベールはにっこりと笑った。
 「それなら、何の問題も無いでしょう?」
そうだ。そうだ。
 魔族だという事に、自分が変に拘らなければ良いのだ。
それで、王女を国から失わずに済むならそれが一番だ。
 明るく笑ったジルベールに、ユリウスが真率な目をして首を振った。
 「すまないが、それは出来ない。私達の今の身は、揃って長く人間界で暮らせるものではないのだ」
 「なんだと?」
 妙案と思うそれを撥ね退けられ、ジルベールは眉を顰めてユリウスを見た。
 「我が魔界は天界の者と、人間界には過剰な干渉をしないと決めている。それを守らぬ者は、魔女王のように掟破りとして処分される。……もし、フローラが私を呼んでいなくとも、あと一年も経たぬうちに天界か魔界、どちらかより処刑者が送られていたことだろう」
 「一年も後では……我がフォルビナは滅びていた……」
そんな処刑者では意味が無い。
 「だろうな。だが、天界や魔界の動きとはそんなものなのだ。……私が、大した力を持たない下級の魔で、何もせずにフローラの側に居るのであれば、お前の言う通りフローラを魔界に連れて行く必要はないし、天界も魔界も動かないだろう。だが、私一人ではなく上級魔族として覚醒したフローラまでもがずっとここに留まれば、必ず天界王家の者が出てくる……要らぬ諍いとなる」
 「天界王家……というのは、天界の支配者のことか?」
 「そうだ。我が魔界王家の対となる物だ。……大きな力は、何もせずただ人間界に居るだけでも、過剰な干渉を行なうと判断されるのだ」
 「魔界王家……」
そう言えば、ユリウスはさっきもそんな事を言っていた。
そして、魔女王が……と、その言葉を思い出したジルベールは愕然としてユリウスを見た。
 「お前を、魔界王の後継者だと……」
 成程。それほどの者が人間界に居れば、天界としては居るだけでも気になってしまうのだろう。
 自分の知るユリウスはとてもそんな大物とは思えないのだが、とんでもない者がフォルビナを救ってくれたのだという事は理解できた。
 呆然としてユリウスを見つめるしか出来ないジルベールに、ユリウスの方は少し意地悪く微笑んだ。
 「お前の意に副うてやれれば良いのだろうが、それは出来ぬ。だから、私はお前が何を言おうとも、もうフローラを人間世界には返さない。人間が嫌う、恐怖の対象。魔族らしく決着をつける」
ユリウスの右掌に紫色に輝く光の玉が出現する。VIVID XXL
 何をするつもりだとジルベールが叫んだ時には、その光の玉は四方へと飛び散っていた。
 「ユリウス! フローラ様……っ!!!!!」
 飛び散った光の一つを視界いっぱいに受けたジルベールは、その場に昏倒した。


ジルベールは英雄になった。
ルーダー王国の宮殿が突如崩壊した異変に、いまだに魔女王に抵抗していた数カ国の騎士団が、首府に乗り込み宮殿に突撃した。
そこに、倒れ伏しながらも魔女王とラジールの首を落としていると分かるジルベールを見つけ、皆が歓声を上げたのは言うまでもない事だった。
 魔女王はユリウスが塵にしたのだが、人間達に分かりやすく勝利を実感させる為に、これもジルベールが倒したように見せる術を施し、ユリウスはフローラを伴ってその場から消えていた。
 騎士団の人間たちは、意識の無いジルベールを丁重にフォルビナ王国へと運んだ。そして、事の次第をヨーゼフ国王に報告し、大陸を救った英雄として称えた。
 何故、遠く離れたフォルビナ王国の地で暮らすジルベールが、一人でルーダー王国の中枢へ乗り込めたかに関しては、誰にも分からない事だった。
しかし、魔女王モルダーナとその息子ラジールは確かに討ち取られ、多くの、王城を守る魔兵や魔獣、魔術師も倒されている。
とても、一人の人間の成し遂げた事とは思えない行いだったが、これで平和が訪れるのなら、それらの不思議には目を瞑る。というのがすべての人間の思いだった。
この時には、フォルビナ王国にフローラという王女が居た事も、その幼馴染みが王国の王宮魔術師長をしていたという事も、皆の記憶から綺麗に消えていた。
フォルビナ王国国王、ヨーゼフ・アイエバーグには後継者となる子供がおらず、この事により、名門貴族で騎士でもある英雄ジルベールは、何の反発を受ける事無く、それどころか国中から望まれてフォルビナ王国の次期国王と定められた。
その決定に慌てたのは、当の本人のジルベールだった。
 「な、何故に、俺が王になるのだ?」
 激しく動揺して騒ぎ立てたが、皆はそれは当然のことだとジルベールに言うばかりで、ジルベールが逃げ腰になる方がおかしいと言った。
 目覚めたジルベールは、自分がどうやってルーダー王国を訪れたのかを覚えていなかった。
ただ、ラジールを斬り伏せた事だけは覚えていて、皆はそれで充分だとジルベールを讃えた。
ジルベールとしても、皆に大陸を平和に導いた英雄だと言われ、喜びの笑顔が見られるのは嬉しい事だった。
しかし、その褒美が王位とは過分である。
ジルベールは何度も辞退した。
だが、何度言っても誰もその言葉に耳を傾けてくれる者は無かった。結局ジルベールは、数年の後には周囲に押し切られ、フォルビナ王国国王として即位していた。
 腰に、いつ手に入れたのかまったく分からない、どんな物でも斬り伏せられる手入れいらずの漆黒の長剣を帯びて。


「でも、本当に……正当な王位継承者が誰かいたと思うのだが……」
 即位後も、首を傾げてジルベールがそう言ってしまう度に、皆がそれは誰ですかと面白そうに笑う。
それにジルベールは、はっきりとした答えを返せず、いつも困った笑みを浮かべることしか出来なかった。
ジルベールは、心に誰かの影を追いながらも、前国王同様内政に尽くした。
 侵略者の居なくなったフォルビナに善王として立ち、いつも民の笑顔の絶えない穏やかで豊かな国としたのだった。挺三天

2013年10月25日星期五

馬の耳に念仏

陽介の友人は、以前から非常に女にモテた。
  小学校は別だったから、陽介と拓海とは中学校の時からの付き合いだ。一年生で同じクラスになってなんとなく仲良くなり、その後はクラスは別だったのだけれど何だかんだでつるんでいたし、それから何の因果か現在の高校まで一緒になってしまったから、その付き合いの長さはもう四年にもなるわけだ。紅蜘蛛(媚薬催情粉)
  腐れ縁、てやつかなあ、と陽介は思う。
  思えば、拓海と一緒にいて、いい思いをしたことなど、全くと言っていいくらいない。理由として、拓海という男は、性格は悪くないのだが、なにしろ人目を惹く容姿をしているということが挙げられる。美形とかイケメンとかいうのともちょっと違うような気もするのだけれど、可愛くて、目立って、憎めない顔立ち、とでもいうのか。その上に本人の言動も軽くて明るくて愛想もいいので、いつだって女子の目はそちらへと向き、自然、隣にいる陽介は引き立て役にしかならなくなるからだ。
  拓海君にラブレター渡して、とか、バレンタインのチョコを渡して、とか、告白したいからちょっとあの場所まで上手く連れてきて、なんてことを頼まれるのは日常茶飯事だったし、顔の大きさとか目や口の形とか、どうでもいいことをこっそり比較されていたのも知っている。こんなに女の子が群がるのだから一人くらいは陽介の方に廻ってきたって良さそうなものだと思ったのも一度や二度じゃないが、当然ながらそんなことはただの一回もなかった。
  結局、中学三年間で陽介が学んだことといえば、モテる男の友人なんてものは持つべきじゃない、という人生の真理だったのに、どういうわけか高校まで同じところになるとは思ってもいなかった。これを腐れ縁と言わずして何と言おう。
  しかもおまけに、現在の自分は、
 「どう思うー? 陽介。ちょっとキョーカちゃんて俺に冷たくねえ? 俺がこんなにも熱烈に愛してるのにさあ~」
  なんて、自分の部屋に我がもの顔で寝そべっている友人の愚痴を、延々と聞き続けなければいけない羽目になっているし。
  神様、俺は何か天罰を受けるようなことをしたのでしょうか。

           ***

  そもそもなんで陽介が、拓海と同じ高校に入るなんて思ってもいなかったかというと、こう言ってはなんだが、二人の間に歴然とした学力の差があったからだ。
  すぐ隣にいる友人が始終女の子にきゃあきゃあ騒がれていることに対して、ヤケクソのような気分もあったのか、所詮顔のさほど良くない男は別方面で頑張るしかないということを悟ったのか、陽介は中学時代、かなり勉強に力を入れていた。
  その甲斐あって、この地域では相当に名の通った進学校に合格し、喜んだのも束の間、その学校に、成績はずっと下のほうにいた筈の拓海も合格したと知った時には、本気で人生に絶望しそうになったものである。
  拓海がその学校を選んだ理由というのが、「ずっと好きだったひとがこの学校にいるから」 なんてことだったのだから、尚更だ。
  当時、その言葉を聞いて、陽介は心底仰天した。
 「え、だって、お前、中学の時、何人かの女の子と付き合ってたじゃん」
 「うん、そうだね」
  と言ってのけた拓海は、まったく悪びれもしていなかった。
 「けどさ、告白された時や、付き合ってって言われた時、ちゃんと、『俺、好きなひとがいるんだけど』 って言ったんだぜ。それでもいい、ってみんな言うからさあ」紅蜘蛛 II(水剤+粉剤)
 「………………」
  それはきっと、「付き合ってしまえばこっちのもの」 理論が働いたのだろう、と経験のない陽介でも推測できた。この場合、もちろん悪いのは気の毒な彼女達の方ではなく、絶対にこの友人の方である。
 「大体、ずっと好きだったって、いつからだよ? 俺、そんな話、全然知らないぞ」
 「あー、言ってなかったからね。キョーカちゃんのことは、俺、幼稚園の頃から好きだったんだけど」
 「…………はい?」
  陽介は耳を疑ったが、拓海のほうはすっかり遠い目をして過去に思いを馳せている。
 「健気だろ? でもさ、キョーカちゃんて、どう考えても俺のこと、ただの幼馴染か弟くらいにしか見てくれてなくてさ」
 「……普通、そうだよな」
  幼稚園の頃から、近所に住む幼馴染を女として見ていたこの男の方が、どちらかというと異常だ。
 「だから俺、思ったわけ。キョーカちゃんに俺を男として意識させるには、しばらく距離を置くしかないって。それで、小学校の高学年あたりから徐々に離れてさあ、高校になったら俺も同じところ行って、それから告白しようと思ってたのに、キョーカちゃんて頭いいからすげえレベルの高いところ入っちゃって。俺あんまり成績いい方じゃないから、苦労したんだぜ。勉強の得意な子にいろいろ教えてもらったりして」
 「………………」
  しみじみとして拓海は言うが、その 「勉強の得意な子」 というのが、当時付き合っていた女の子のことだと知っている陽介は、絶句してしまう。
  好きな人がいてもいいから、と拓海よりもよっぽど健気なことを言われて付き合っている女の子に、好きな女のいる高校に入るための勉強を教えてもらう。なんというか、かなりの線で最低だと思うのだが、本人にはまったく罪の意識がないらしいのが怖い。
 「こうしてる間にもキョーカちゃんを別の男に掻っ攫われたらどうしようかって、ホント、気が気じゃなかった。中学の時は一応裏で牽制も出来たけど、キョーカちゃんが高校に入っちゃうと、あんまし目が届かないじゃん? この一年は焦って頭がおかしくなりそうだった」
  ふう、と哀愁を込めた溜め息をついているこの友人を即刻蹴り倒してやりたいという衝動を、陽介はなんとか必死で押しとどめる。
 「……けど、お前はその間も、他の女の子と付き合ってたんだろ」
 「そうだね」
 「その女の子達と、やることもやってるよな」
 「でも、俺ちゃんと、『好きなひとがいるよ』 って事前に言っ」
 「──この、サイテー男があっっ!!」
  そこで怒鳴りつけるだけにしておいた自分は偉い、と、陽介は今でも本気で思っている。

           ***

  「鏡花さん」 というのが、幼稚園の頃からの拓海の想い人で、今では一応 「彼女」 でもあることは、陽介ももう知っている。
  彼女を拓海と同じように、キョーカさん、などと呼ぼうものなら、拓海に殴られるのも経験済みだ。鏡花さんもキョーカさんも耳で聞いたら同じじゃねえかと陽介は思うのだが、拓海はそれを敏感に聞き分けて、紅蜘蛛赤くも催情粉
 「キョーカちゃんをキョーカちゃんて呼ぶのは俺だけの特権なの」
  と、非常に狭量なことを真顔でのたまう。しょうがないから 「鏡花さん」 と呼ぶように心掛けているのだが、それも何度も連呼すると、「馴れ馴れしい」 と不機嫌になる。なんなんだお前はと言いたくなる。
  その鏡花さんは、陽介が見たところ、ちょっとした変わり者だ。可愛いというよりは美人系なのだが、いついかなる時も、ほとんど表情が変わらない。笑っているところも、見たことがない。おっとり、というよりは、淡々としていて、優等生タイプなのかと思えば、ちょっとぼんやりもしている。一言で言うと、何を考えているのかよく判らない。
  拓海の前では可愛らしく笑ったり照れたりすんのかな、と思っていたのだが、「いや、キョーカちゃんはあれが日常だけど」 とあっさりした返事が返ってきて驚いた。そういう女性のどこがいいのかと訊ねると、そこがいいんじゃんと力説された。ますます訳が判らない。
  ともかく猛勉強の結果、晴れて同じ高校に合格した拓海は、入学式が終わるやいなや、その足で鏡花さんの家へと押しかけ、「お願いだから俺と付き合ってください」 と土下座して頼み込んだらしい。鏡花さんは無表情で戸惑ったあと (と、拓海は言ったのだが、陽介にはそれがどういう状況なのか今もって理解不能である)、「いいよ」 と一言答えたのだそうだ。
 「──そもそもがそんな馴れ初めなんだから、鏡花さんが多少お前に冷たくたって、それはしょうがないと思うがな」
  いい加減目の前で続く愚痴にうんざりして、冷淡に突き放したら、酒を呑んでいるわけでもないのに、拓海は絡むような目を向けてきた。ここは陽介の部屋で、今はゆったりと寛ぐべき時間である筈なのだが、どうして自分は今こんなことになっているのかと、天を呪わずにいられない。
 「なんでさ。だって、いいよって言ったってことは、キョーカちゃんも俺のことが好きだってことじゃん。だったらもっといちゃいちゃしたっていいと思わないか」
 「俺からすると、鏡花さんはお前の際限のない甘えによく耐えてくれていると思う」
  この友人がどんなに野放図にベタベタしても、我が儘放題のことを言っても、鏡花さんはそんなに嬉しそうにもしない代わり、怒りもしない。表情がいつも同じなので、判りにくいのだが。
 「大体、あれだ、鏡花さんは実は、お前が思っているほど、お前のことを好きじゃないんじゃないか?」
  ずばりと言ってやると、拓海は酷く傷ついた顔をした。こちらはこちらで、感情や表情の変化が、手に取るように判りやすい。
 「……そんなことない。と、思う」
 「思うに、土下座して頼んだのがお前ではなく別の男であったとしても、鏡花さんはいいよと答えた可能性が高い」
 「ひど! ひどいよ、陽介! 俺、そのことだけは考えないようにしてたのに!」
  泣きそうになって、拓海は床に自分の顔を押し付けた。胸がせいせいする。
 「どーしよ、俺以外にそんなことする奴がいたら。そんで情にほだされたキョーカちゃんが、ついうっかり頷いたりなんてしちゃったら」
 「自分が、『情にほだされて』、『ついうっかり』 頷かれちゃったことを認めるのか」
 「そんなことになったら、俺、その男を殺しちゃうよ、きっと」
 「…………。鏡花さんは?」
 「キョーカちゃんが死んだら俺も死ぬ」
 「………………」
  ぽりぽりと頭を掻いてから、陽介は 「あのさあ」 と言葉を出した。本来、自分はそういう下世話なことにまで干渉しない主義ではあるが、どうしても好奇心が押さえられなくなってしまったのだ。
 「……お前と鏡花さんて、どこまで進んでんの?」
  陽介の問いに、拓海がきょとんとした顔を上げて見返してくる。腹立たしいが、やっぱり女の子達が騒ぐだけあって、男の自分から見ても、こいつは全体的にバランスの取れた、可愛らしい顔立ちをしていると認めないわけにいかない。紅蜘蛛
 「キスは、何回かしたけど」
  恥ずかしがりもせず拓海は答えたが、その返答に陽介は驚いて目を見開いた。
 「え、なんか、思ったより進んでないんだ」
  二人が付き合いだしてから、そんなに時間が経っているわけでもないのだが、拓海は中学時代に色々な女の子とそこそこの経験をこなしている筈だし、拓海自身の性格から言っても、そういった行為に進むのにほとんど躊躇はないだろうと思っていたのだけれど。
 「えー、だってさあ」
  今更になって、拓海は少し照れるような素振りをした。どうも、この男は一般人とは少々照れのポイントがズレているようである。
 「俺、自分で言うのもなんだけど、キョーカちゃんのこと、好きすぎて」
  他の女の子とアレコレやっていたくせにか、と突っ込みたいのを陽介は堪える。
 「あんまりがっついて迫って、キョーカちゃんがびっくりしたら可哀想だし」
  あの鏡花さんがびっくりするところって、あんまり想像出来ねえんだけどなあ。
 「弾みで 『いや』 とか言われたりしたら、そのあとしばらく絶対に立ち直れないに決まってるし。もうホント、やりたいのは山々なんだけど」
  下品な上に、ミもフタもないだろう、その言い方は。
 「キョーカちゃんの喘ぎ声でも聞いたら、俺それだけでイッちゃうかもしんないし」
 「十六年間彼女のいなかった俺の前で、生々しいこと言うんじゃねえ!」
  我慢できなくなって大声を張り上げてしまうが、拓海はちっとも意に介していないようだった。
 「それに」
  と、打って変わって沈んだ表情になり、溜め息をつく。
 「それに、雪菜が何かっていうと邪魔してきて、実行に移すタイミングが全然掴めない、って理由もある」
 「雪菜?」
  聞き返して、陽介はそれが誰だか思い当たった。確か鏡花さんの中学二年になる妹で、拓海の愚痴の中にもよく登場する人物である。顔は見たことないのだが、拓海が 「キョーカちゃんほどじゃないけど、まあ、可愛い」 と渋々認めるくらいなのだから、かなり容姿は上の部類に属するのだろう。
  あんまり言いたくはなかったが、ふと思いついたので、陽介は小さくはない可能性を提示してみた。
 「その妹って、もしかしてお前に気があるんじゃねえ? それでヤキモチ妬いて、二人の邪魔するのかもよ」
  美人姉妹の、姉と付き合い、妹に想われる。なんて男の夢とロマンの詰まった理想だろうと思うのだが、拓海は 「あ、それは絶対にない」 と、あっさりきっぱり否定した。
 「だって、雪菜に、キョーカちゃんと付き合うこと知らせた時、ものすげえ眼で睨まれて、『死ねばいいのに……』 って呟かれたもん。本気で殺意が篭もってて、俺しばらく夜に一人歩きするのはやめようって決意したくらいだもん」
 「………………」
  それ以上何かを言う気力も失せて、陽介は口を噤んだ。
  気力が失せるというか、正直に言って、追及するのがちょっと怖くなってきた、ということもある。
  ……なんか、さあ。
  なんか、どっか、変じゃね?
  幼稚園の頃から粘り強いストーカーみたいに一人の女に執着し続ける、可愛い顔した男とか。
  姉の彼氏を闇討ちしかねないような、度の過ぎたシスコンの妹とか。
  今まで鏡花さんて、ちょっとした変わり者みたいに思ってたけど、もしかすると本当は、この中で唯一常識人なのって、彼女なんじゃないか……?
 「あー、でも、高校を卒業するまでには、キョーカちゃんと深い仲になりたいよなあ~」
  言っていることは健全な高校生男子っぽいのだけれど、内情を知ってしまうと、どうにもそうは思えない拓海の言葉を聞いて、陽介は無理矢理結論付けることにした。
  こいつはアホだ。
  そうだ、それ以上考えないようにしよう。勃動力三體牛鞭
  だらだらと部屋の床に寝転がって悶々とする友人の姿を見やり、陽介はそっと心の中で鏡花さんに同情した。

2013年10月22日星期二

ごめんなさい

撫子が俺と口をきいてくれなくなって5日が過ぎていた。
 
彼女を本気で怒らせたのはいつ以来のことだったか。
 
過去に記憶がないくらい、撫子は本気モードらしい。D10 媚薬 催情剤
 
こっちは勉強にも身が入らず、動揺しまくっている。
 
すべては数ヶ月前の出来事が原因だ。
 
淡雪さんとの偽装恋人を続けて俺の気持ちに変化が起きていた。
 
まるで本当に付き合ってるような感覚。
 
恋に浮かれるような、そんな不思議な気持ちを抱いていた。
 
それは高校1年の冬休み、最後の日。
 
偽装恋人を終わらせる、最後の日でもあった。
 
「……猛クンには感謝してるわ。おかげで、ストーカーも撃退できたし。意外とこう言う関係も楽しめたもの。私には充実した数ヶ月だった」
 
「こちらこそ。でも……終わらせるのは少しさびしい気もするな。あのさ、淡雪さん。そっちがよければだけど――」
 
この関係を本物にして、付き合わないか?
 
俺は勢いで彼女にそう言おうとした。
 
けれども、その言葉を言う途中で彼女は俺の唇に人差し指を触れさせた。
 
「ごめんなさい。気持ちは嬉しいけど、それ以上は言わないで」
 
「……」
 
「楽しかったわ。でも、これは恋人ごっこのお遊びだから終わりがくる……私は誰とも付き合わないし、付き合えない」
 
寂しそうな横顔を見せながら彼女は言った。
 
「キミを須藤家の運命に巻き込ませるつもりはないの」
 
「……須藤家」
 
「えぇ。家に縛られてると思うでしょうけど、あの家は特殊すぎるから」
 
代々、女尊男卑のひどい風習が残りづける旧家。
 
実際は彼女の話で聞いている以上なのかもしれない。
 
「恋人がいたら、こんな風に付き合うんだって体験できてよかった。デートしたりとか、すごく楽しかったし。ホント、最後の方はストーカーなんて忘れてしまうくらいにこの関係を楽しめてたわ。私はそれに驚いている」
 
「俺も楽しかったよ」
 
偽物の恋人関係が本物になってしまえばいいと思うくらいに。
 
彼女は俺を抱きしめながら、最後に言ったんだ。
 
「ありがとう、大和猛クン。これからも私の頼れる友人でいてください」
 
お礼を言って笑う彼女。福源春
 
偽装恋人の終わり。
 
『ごめんなさい』も『ありがとう』も言われて辛いと思ったのは人生で初めてだった。
 
それから、しばらくは交際が終わった事をアピールする事もあり、互いに少しだけ距離を置いたりして、この春からまた友人としての付き合いを始めた。
 
ほんの少し心が痛む思い出を胸にしまいこみながら。
 

 
明日からはテスト本番。
 
俺は料理を作ってくれた姉さんと華恋が帰るのを玄関まで見送っていた。
 
「猛。撫子と喧嘩してるの?」
 
「えっと、喧嘩って言うほどのモノじゃないけど」
 
「お兄ちゃんなんだから、しっかりしなさい。どうせ、貴方の些細な態度とか言葉が原因なんだから」
 
姉さんにはお見通しらしい。
 
苦笑い気味に彼女は言うのだ。
 
「……人を好きになる気持ちは止められない。愛をつき通すのも、ひとつの道だと思う」
 
「兄妹で愛を貫き通しちゃダメでしょう」
 
「本気で好きなら、撫子みたいに世界を敵に回す覚悟を持ちなさい。中途半端な気持ちじゃダメ。私はどんな事があっても撫子と猛の味方でいるつもりよ」
 
俺達の関係を反対どころか撫子を応援までしている。
 
母さんが聞いたら、卒倒するぜ。
 
「……マジで応援されるのも、どうかと思うんですが」
 
「あの子の落ち込みようを見たら、ついね。可愛い妹が今にも泣きそうな顔をしてる。それが1日や2日じゃなくて、5日目突入したら可哀想だと同情したくもなる」
 
「お兄ちゃん。けんかはダメだよ?お姉ちゃんとなかなおりしてね」
 
華恋にまでそう言われてしまう。
 
確かにここ最近の撫子の落ち込みようはひどいものだ。
 
あの件が尾を引いてるんだろうけども、俺から何か言うのも変だし。
 
「とにかく、今の状況を何とかしてあげて」
 
明日はテストだし、俺も話をしてみようか。
 
二人と別れたあと、俺は撫子の部屋を訪れることにした。
 
「撫子、俺だけども。少しだけ話をしないか?」
 
ノックをするも、返事はなし。
 
いないのかと思いながらも俺は扉を開けてみる。
 
「撫子、入るよ……いるじゃないか」
 
明かりもつけずに薄暗い部屋の片隅、ベッドに座るような格好で撫子はいた。
 
顔色も良くないし、明らかにこちらを見た瞬間に不満げな顔を見せる。
 
「……お兄様の顔を今は見たくありません」
 
拗ねてそっぽを向く彼女。
 
俺は電気をつけながら彼女に対して頭を下げる。花痴
 
「ごめんな。俺が悪かった」
 
「ホントです。嘘つき、嘘つき……」
 
拗ねてる彼女は俺に対して、軽く背中を叩いてくる。
 
「でも、お兄様に浮気されても嫌いにはなれません」
 
「……浮気はしてないけどな」
 
「同じようなものです。私以外の女性を好きになるなんて……。今はどうなんですか?今も彼女が好きですか?だとしたら、私は恐ろしいですが、あの人を倒すために言葉にできない非道な真似をする覚悟を持ちます」
 
「持たなくていいからっ!?」
 
今も好きと問われて俺は答えを返す。
 
「ああいう事はあったけどさ。今は……恋愛感情じゃない、と思う」
 
「では、須藤先輩が嫌いですか?」
 
「嫌いじゃないよ、好きだよ。あっ、違う、違う。だから、これは友情の好きであって、恋愛の好きではなくて……」
 
「男らしくありませんよ。お兄様。猛と言う名前のごとく、猛々しく男らしい所を見せてください。お兄様、言い訳ばかりしていては情けないです」
 
睨みつける妹に押されているダメな兄である。
 
この対応を間違えると本当に撫子は淡雪さんを攻撃するかもしれない。
 
今まで犠牲になった女の子達の事を思いだすと、それだけは避けたい。
 
「今の気持ちを聞かせてください。私と須藤淡雪さん。恋人にどちらかを選ぶとしたら、どちらを選びますか?」
 
究極の選択肢、来た。
 
真面目な顔をする彼女に俺は悩みながら、
 
「恋人、とかまだ分からないけども、傍にいたいのは……撫子だよ」
 
「え?ほ、ホントですか?私、先輩に勝ってます?」
 
「……淡雪さんは良い子だし、俺も好きになりかけてたけども。どちらかを選ぶのなら撫子の魅力も俺はずっと傍にいるから知ってる。これからも俺の傍にいて欲しい」
 
「お兄様~っ!大好きです、愛していますっ」
 
いきなり撫子が俺に抱きついてくる。
 
「今すぐキスしてください」
 
「なぜに!?」
 
「愛を確認するためです。お兄様の想い、この私の胸に伝わりました」
 
唇を尖らせて俺に迫る妹。
 
俺は必死にそこは抵抗しながら、
 
「お、落ち着いてくれ」
 
「嫌ですよ。私の想い、今日こそ受け取ってください。ちゅー」
 
迫りくる妹の淡く濡れた唇。
 
抵抗むなしく、そのまま強引に唇を奪われてしまった。
 
「ちゅっ……んぅっ……」
 
兄妹で重なり合う唇と唇。
 
唇を離して、彼女は恍惚とした表情を浮かべて見せる。勃動力三体牛鞭
 
「お兄様とキスするのは久しぶりです。昔はよく一方的にお兄様にされていましたが」
 
「うぎゃー」
 
「ふふっ。あの頃はお兄様に唇だけでなく心も奪われてました」
 
俺は必死に過去の俺を消したくなって悶絶する。
 
「最近はお兄様からキスを求めてくれる事がなくなってさびしい限りです」
 
「……過去の俺と今の俺はきっと別人なんだっ」
 
「たまには、お兄様から求めてくれてもいいんですよ。キスはいつでも歓迎です。これも聞きたかったことですが、須藤先輩とはキスをしたんですか?」
 
「唇同士はありません。ストーカーを撃退する時に頬にはしたけど、それ以来は何もしてない。これは本当だ、信じてくれ」
 
キスなんて誰でもするものじゃない。
 
なぜ妹の唇を奪ったのかは中学の頃の俺に聞きたいけどな。
 
「いいでしょう。今回の件、許してあげます。真の愛とは相手を許すことです」
 
「ほっ……」
 
「ですが、これが本当に最後ですよ?お兄様が次に私を裏切るような事があれば、世間言う所のヤンデレ属性の私は何をしてしまうのか分かりません。ふふふっ」
 
「え?妹はヤンデレ系だったのか。せめて、クーデレ系でいて欲しかった」
 
妹の口から語られるまさかの属性に俺はドン引きだった。
 
「……お兄様は私の愛をなめすぎです。私の愛をもっとその身体で感じてください」
 
ピタッと俺にくっついて離れようとしない。
 
元気になってくれたのはいいんだけども。
 
「明日からテストなんだから頑張らないといけないぞ。早く寝なさい」
 
「テストも頑張りますけど、お兄様との愛を確かめ合う方が私には優先です。今夜は寝かせませんよ?」
 
現実逃避ぎみに俺はそう呟いたが、妹はその夜遅くまで俺を解放してはくれなかった。蒼蝿水

2013年10月19日星期六

巫女舞

最近、唯羽の様子がおかしい。
 
どうにも俺と顔を合わすと照れたように逃げてしまうのだ。
 
ここ数日の記憶が抜け落ちている俺が何かしましたか?
 
そんなわけで、朝に祝詞を覚える鍛錬も自習オンリーなわけだ。
 
課題は山ほどあるので、自分一人でも困ることはないんだけどさ。簡約痩身美体カプセル
 
そんな朝の日課を終えた俺は朝食後に和歌と話をする。
 
「和歌。今日も巫女舞の練習か?」
 
「はい。元雪様は今日の予定はありますか?」
 
「いや、特にはないな。そうだ、和歌。どうせなら巫女舞の練習を見ても良いか?」
 
前から見たいと思っていたのだ。
 
和歌はこの椎名神社の巫女さんだ。
 
それなのに、夏休みに入っても、巫女らしい所をみていない。
 
「いいですよ。でも、元雪様に見られるのは恥ずかしくもあります」
 
「巫女舞って言うのに興味がある。どこで練習しているんだ?」
 
「神社の裏に巫女舞を踊る場所があるんです。普段はそちらで練習をしていますよ」
 
俺達はそちらへと移動する事にする。
 
途中で何人か顔見知りの巫女さん達とすれ違い、挨拶をする。
 
本殿の裏には何やら舞台のような場所があった。
 
「ここで巫女舞を踊るのか」
 
「そうです。巫女舞もいくつかあるんですが、今、練習をしているのは秋の神事のための巫女舞です。元雪様はこちらに座って見ていてくださいね」
 
「あぁ、俺の事は気にしないでいいから練習をしてくれ」
 
巫女服に着替えた和歌がひとり、舞台の上に立つ。
 
扇のようなものを持ちながら、ゆっくりと雅楽に合わせて舞を始める。
 
俺は巫女舞を踊る和歌に魅入られていた。
 
決して、派手でもなく、激しい動作があるわけでもない。
 
だが、華麗な舞には魅入ってしまう迫力がある。
 
ひらひらと扇を振り回しながら、ゆっくりと舞を踊る巫女。
 
神様のための舞。
 
神聖な雰囲気の中、頑張って舞の練習をする和歌を見続ける。
 
「あの舞は見た目以上に大変そうだな」
 
彼女は真剣な様子でひとり舞の練習に励む。
 
「神社の巫女。大変なんだな。これも椎名神社のためなのか」
 
和歌は俺の婚約者であり、俺も将来はこの神社を継ぐつもりだ。
 
大好きな和歌の夢、椎名神社を守るという夢を俺が叶えてやりたい。
 
その一念から始まった俺と和歌の関係。
 
影綱と紫姫、前世からの繋がりを考えても、俺達は出会う運命にあった。
 
「……巫女舞、か」
 
薄っすらとしか残っていない10年前の記憶。levitra
 
だけど、和歌が巫女舞の練習を頑張っていた姿は覚えている。
 
「お母さんが巫女で、いつも練習してるって言っていたっけ」
 
あの頃とは違い、成長した彼女の舞は綺麗で見る者を惹きつける。
 
それにしても、大した集中力だな。
 
かれこれ1時間以上経っているのに、動きが乱れることはない。
 
祝詞や神事もそうだが、神職には集中力が必要不可欠だ。
 
「……俺、大丈夫だろうか。もっと頑張らないといけないな」
 
和歌の夢の足を引っ張る真似をしないようにしなくては。
 
俺はそう考えながら、和歌の巫女舞を眺め続けていた。
 
 
 
練習が終わり、和歌が舞台から降りてくる。
 
顔には少し疲れが見えている。
 
あれだけ集中していれば当然だろう。
 
「お待たせしました、元雪様」
 
「今日の練習は終わりか?」
 
「そうですね。今日はこれくらいで終了です」
 
「よく頑張っていたよ。大変なんだな」
 
俺の隣に座る和歌。
 
赤と白が目にも鮮やかな巫女服がよく似合っている。
 
「巫女舞は大変ですけども、私も巫女としての責務があります。それに、巫女舞は好きですよ。だから、頑張れるんです」
 
「……応援してるよ、和歌」
 
「ありがとうございます。元雪様」
 
微笑みを浮かべる彼女。
 
夏とはいえ、今日は涼しい風も雲もあるので過ごしやすい。
 
流れていく雲を眺めながら、和歌は俺に言う。
 
「……元雪様とこんな風に落ち着いた時間を過ごすのは久しぶりですね」
 
「そうだな。最近はいろいろと慌ただしかったからな」
 
夏休みに入ってからは和歌の家でお世話になって、2人っきりの時間が増えたかと思いきや、うまくはいかないものだ。
 
椿との遭遇、夏祭りの準備、その他もろもろ。
 
やることも多いので、それほど多くの時間は取れていない。西班牙蒼蝿水
 
「そういえば、あれから紫姫の夢は見なくなったのか?」
 
「はい。まったく、というわけでもありませんけど。それでも、以前ほどには見ません。お姉様も言ってましたが、紫姫様は影綱様に会いたかっただけだったんでしょうね。今の私はそんな風に感じています」
 
「それならいいんだ」
 
和歌が悩み苦しむ事がないのなら、問題はない。
 
「元雪様は影綱様の記憶を思い出したりしないんですか?」
 
「うーん。何となく、変な感じになることはあるけどな。俺の場合は特に前世については、これと言って影綱のことは影響を受けていない。ただ、10年前の火災の記憶は今でも夢にみるけどね」
 
その事も未だに何も分からずじまいだ。
 
人は忘れた記憶を思い出すのは時間がかかる。
 
これも仕方ない事なんだろうが、はがゆさもある。
 
「10年前……そういえば、お姉様も今みたいになったのは10年前でしたよ」
 
「そうなのか?」
 
「はい。それ以前のお姉様はとても明るい方でした。けれども、ある日を境に、まるで感情がなくなったかのようになってしまって……私も子供ながらに変わった事を覚えています。大人しい性格の人じゃなかったんですよ」
 
和歌の話では、何かがきっかけで唯羽は笑う事もほとんどなくなってしまったそうだ。
 
俺の過去と唯羽が笑顔を見せなくなった時期と重なる。
 
この問題、もしや、俺だけの問題ではないのではないか?
 
俺と唯羽、10年前にふたりの過去が絡んでいるのだとしたら……。
 
「元雪様、難しい顔をしてますけど気になる事でも?」
 
「いや、何でもない。和歌の前で悩むのもアレだな。せっかく、和歌と過ごしてるのにもったいない」
 
ふと、俺は以前から夢だった膝枕ってやつを試してみたくなった。
 
「和歌。お願いがあるんだけどいいかな?」
 
恋人らしく、たまにはのんびりと過ごしたいからな。
 
「元雪様。これでいいですか?」
 
俺の頼みに和歌は断ることもせずに受け入れてくる。procomil spray
 
神社の建物に腰掛けながら、彼女の柔らかい太ももの感触を味わう。
 
「良い感じだ。実はこれ、俺の夢だったりする。恋人ができたらぜひやってもらいたくてさ」
 
「ふふっ。何だかすごく恋人らしい行為ですね」
 
「いいよ。このまま眠りそうになる」
 
「寝てもいいですよ?こうしていると元雪様の温もりを感じます」
 
柔らかな表情を浮かべて和歌は俺の頭を撫でる。
 
「大好きですよ、元雪様」
 
穏やかな日常、夏の思い出がひとつ増えた――。
 
 
 
その夜、唯羽が俺の部屋を訪れていた。
 
最近は妙に避けられていたのだが何かしらの覚悟を持った表情に俺は真面目な話をしにきたのだと悟った。
 
「柊元雪に話しておきたい事がある」
 
「それは最近、俺を避けてるのと同じ理由か?」
 
「さ、避けてるのは……違うが。それよりも大事なことだ。お前には話しておいた方がいい」
 
真剣な面持ちの唯羽は俺にある名前を告げた。
 
「話と言うのは……椿のことだ」
 
「椿か。あの不思議な子だろ。あの子は一体、何者なんだ?」
 
まるでこの世界の人間ではないような不思議な感じ。
 
あの少女とは2度しか会っていないが、妙な因縁があるような気がする。
 
「お前も薄々気づいているだろうが、椿は人間ではない」
 
「……ゆ、幽霊っすか?」
 
「いや、似て非なる者。現実には存在しない、だが、目には見える不思議な者。彼女は人の魂そのものと言っても良い」
 
「いわゆる、生き霊ってやつか?」
 
「それに極めて近い存在だな」
 
椿という少女の正体とは一体なんだ?
 
そして、ついに明かされるその正体――。
 
「――椿は……もうひとりの“私”でもあるんだ」
 
唯羽がポツリと呟いた一言に俺は愕然とする。
 
彼女が何を言ってるのか、理解もできずに。
 
椿が唯羽自身だって?
 
それは、どういうことなんだ――?WENICKMANペニス増大

2013年10月16日星期三

幸せの足音

私の出産予定日は9月なのですが、双子を出産する場合は大体ひと月ほど早くなるそうです。
お腹のキャパシティを超えると私にも危険が及ぶからと先生が教えてくださいました。
 次の検診で出産日を決めましょうとおっしゃってくれたので天使さん達の産まれる日がそろそろ決まります。Xing霸 性霸2000
 「もうすぐ会えますね」
 大きくなったお腹を撫でながら話かけるのが楽しい今日この頃です。
 腰が痛いし、内臓も圧迫されて苦しいし、動くのも億劫ですが、少しでも運動をしておかないと体力が持たないと言われたので無理をしない程度に家事をしています。
 「よいしょっ」
 妊娠前の何倍も時間をかけて洗濯を干し終えます。
 空いた洗濯かごをベランダの入り口に移動させるのも一苦労です。
ベランダからリビングへ戻ろうとするとローテーブルの上に置いてある携帯が鳴り響きました。
 斎月さんからの定期便です。
 出社してから二時間置きに電話がかかってくるのです。
かかってこない場合は私からメールをするのが妊娠をしてからの約束事になりました。
 一度何かの用事で斎月さんが私に電話をしてきたのですが、電話に出ない私を心配して斎月さんが会社からすっ飛んで帰ってきたことがありました。
 約束を破ったのですっごい怒られたのですが、あのときはちょっとコンビニに行ってたんです。
すぐ戻るからいいかと思って携帯を持って出なかった私も悪いんですけど。
だってアイス食べたかったんですよ。
 無性に食べたくなるときってありますよね。
 斎月さんが慌てて帰宅したら、のんきにアイスを食べている私の姿があったわけです。
そのあとはもちろんいつもの説教コースです。
 妊婦なので正座は免れました。
 危うく外出禁止令が出るところで大変だったんです。
コンビニにも行けないとか暴れるところでした。
 先生からは適度な運動は必要!と斎月さんに釘を刺してもらったので、近くのコンビニやショッピングモールに行くぐらいは許してくれました。
 電車に乗るような遠出は先生にも禁止され少しびっくりです。
やっぱり双子の出産って先生も慎重になるんですね。
あのころはつわりも結構酷かったですし、そのつわりのせいで外出もできませんでした。
 外を普通に歩いているだけで吐きそうになるなんて初めての体験でしたよ。
 風に乗って脂っこい臭いが漂ってくるだけで吐きそうになるんですよ!?
もうあれは恐怖です。
 「はいはい。今出ますよー」
マタニティライフが始まってから独り言がやけに多くなりました。
お腹の天使さん達に話しかけているんですけどね。
 最初は恥ずかしかったことも今では平気です。
 「はい。お待たせ、しました」
ソファに座るだけで一苦労です。
 座るだけなのに息が切れてしまいます。
 軽く息を弾ませると斎月さんが電話の向こうで心配そうな雰囲気を漂わせているのがわかります。
お腹を撫でながら斎月さんと電話です。
 『大丈夫ですか?洗濯は無事終わりましたか?』
 「はい。終わりました。今ちょうどソファに座ったところです」
 『そうですか。具合はいかがです?』
 「特に変わりもなく」
 『無理は禁物です。また連絡しますね』
 「はい」
 電話を切ろうとすると斎月さんが電話の向こうであっ、と小さく叫びました。
 慌てて携帯を耳にするとくすくす笑う声が聞こえてきます。
 「ど、どうしました?」
 『柚葉』
 「はい?」
 『愛してます。それではまたあとで』
それだけのために呼び止めましたか。
 私の顔は真っ赤です。
きっと電話の向こうの斎月さんは満面の笑みに違いないです。
 他の人に見られてたらどうするんでしょうね。
 恥ずかしいです!
 「恥ずかしいパパさんですね」
 携帯をローテーブルの上に置くとソファの肘置きにクッションを重ねて横になります。
 起きていると足腰が痛くて仕方ありません。
お腹も苦しいので横になっているのが楽ちんです。WENICKMANペニス増大
 足のむくみも酷くて足の下にもクッションを置きます。
 妊婦って本当に大変ですね。
トイレも近くなって、トイレに立つのも一苦労です。
この苦しみも痛みも天使さん達が産まれてくるための準備だと思えば気分も楽になります。
 「ご機嫌はいかがですか?」
お腹に手をあててご機嫌を伺ってみます。
ぽこぽこと蹴ってくるお腹に顔をしかめますが、返事をしてくれているのかと思うと嬉しくなります。
 「いっ、たっ!もう少しっ、優しく、蹴って、くださいっ、ね」
 痛むお腹を撫でると遠慮がちにぽこぽこと蹴ってきました。
 深呼吸をして痛みをやり過ごします。
ああ。本当に元気な天使さん達です。
 「はぁ」
 一息つくとクッションに凭れて天井を見上げます。
 目を閉じてお腹を撫でていると気持ちよくなってうとうとししてしまいました。
ぽこぽこと手のひらに当たる感触に笑みが零れます。
 産まれてくる天使さん達はどちらに似ているでしょうね。
できれば、斎月さんに似ていてほしいものです。


 「おかえりなさいませ」
ぱたぱたと走ってお出迎えをすると大抵斎月さんにしっぶい顔をされます。
このぐらいの距離はどうってことないと思うんですけど。
 心配しすぎですよ。ほんと。
 私が妊娠をしてから斎月さんの帰宅がほぼ七時ぐらいになりました。
あと、劇的に出張の回数が減りました。
 海外出張はなしです。
どうやらお義父様が代理をしてくださっているようで篠宮のお家に足を向けて寝ることができませんね。
これもひとえにお義父様や黒川さんのおかげです。
たまに黒川さんにお会いするとよれよれになっているので犠牲になっているとしか思えません。
 黒川さんにも足を向けてもう寝れません。
 会食や重要な会議があるときは仕方ありませんが、それでも九時すぎには帰宅してくれるのでとてもありがたかったです。
 不安定になることもなく穏やかなマタニティライフを送ることができています。
 斎月さんが出張の間は観月くんがお泊りをしてくれたのでとっても助かりました。
 意外にお料理が上手なんですね。
いいお婿さんになれますよ!
 斎月さんが早く帰宅してくれたのは私をお風呂に入れることと一緒に食事をとることが理由でした。
 妊娠が発覚した翌日に一人で入浴したのですが、入浴中に気持ちが悪くなって危うく転倒しそうになりました。
それからは怖くて一人で入っていません。
 必ず斎月さんに一緒に入ってもらうことにしています。
 一人でお風呂に入るのを禁止してもらってよかったと思います。
つわりを甘く見てました。
 一緒に入っていても何度か気分が悪くなって脱水症状を起こしそうになりましたし、ふらふらして足元が覚束なかったし、一人だったらと思うとぞっとします。
 本当によくできた旦那様です。
 感謝してもしきれません。
 斎月さんがいないときは体をタオルで拭くだけにしていました。
だって観月くんにお願いするわけにもいけませんしね。
 以前は一人で夕食を摂っていることが多かったのですが、今は斎月さんと一緒に夕食を摂っています。
 話すことも必然的に多くなるので、楽しいことが多くて嬉しかったです。
 今日も七時過ぎに帰宅して一緒に夕食を作って食べました。
 相変わらずつわりのトラウマがあって味の濃いものが食べられません。
 本当にあれは辛かったです。
 食べることの恐怖より吐くことの恐怖が大きくて、出産したら元に戻ってくれることを祈ります。
カレーとシチューが食べたいです。
 食後のアイスもやめられず少し体重増になってしまいました。
 先生におやつを少し減らすようにと言われたのですが無理です!
ストレスが溜まって逆に太ります!
 回数と量を減らしておやつを楽しんでいます。
 一番ダメージが大きかったのは紅茶を飲むことを禁止されたことです。
カフェインが多いからダメと言われて絶望しました!
 大好きな紅茶が飲めなくなって落ち込んでいたら、斎月さんがノンカフェインの紅茶を買ってきてくれました。
 嬉しくて斎月さんに飛びついたら、飛びついたことに怒られるとか理不尽です!
 本当に嬉しかったんですよ!
やっぱり紅茶は私の元気の源です。
 幸せです。
 紅茶のことを考えながら夕食後のマタニティ体操をしていると斎月さんがキッチンから顔を覗かせました。procomil spray
 「柚葉。紅茶のアフォガード食べますか?」
 夕食後にマタニティ体操をするのが日課になっている私です。
 少しでも運動です!
 結構間抜けな姿なんですけどね。
ちょこちょこ動いている姿が熊みたいでリビングの窓に映る自分の姿を見て笑ってしまいます。
マタニティ体操を真面目にやると結構しんどいですよ!
 恐るべしマタニティ体操!
せっかくカロリーを消費してもここで食べると意味ないですよね。
 「食べたいんですけど。今日の分は食べて終わりました。太りすぎだからダメって言われましたよ?」
 「少しぐらいならいいでしょう?」
にっこり笑う斎月さんの顔を見ていたら大丈夫な気がしてしまうんですよね。
 「じゃぁ、少しだけ」
 誘惑に負けてしまって、しゅんとしてリビングの床の上をころころと転がります。
 首にタオルをかけてえっちらおっちらと床の上で体操をしている姿はメタボのおじさまのようです。
その姿で斎月さんを見上げるといっつも笑われるんですよね。
 手に顔を埋めて俯いていますが、肩が震えていますよ!
 酷いですっ!
 「す、すみません。あんまりにも柚葉の姿が可愛くて」
くすくすと笑っています。
むーっとすると斎月さんが私に手を伸ばしてきます。
なんだか腹が立つのでぱしっと手を払うのですが、負けずに伸びてきます。
 「斎月さんなんて嫌いですっ」
 寝転がったまま、ぷいっと顔を逸らせると笑みを浮かべたまま斎月さんが私に迫ってきます。
え、ちょっと?!斎月さん!
 慌てて腕を伸ばすと腕を掴まれて床に縫いつけられてしまいます。
 「わわわっ」
 焦ってじたばたしてみますが無理です。
お腹が邪魔で動きにくいです!
 「柚葉は嘘つきですね」
 斎月さんが上から覗きこんで、にこりと笑います。
 目が笑ってません。
 怒ってるんですか。
 嫌いって言ったことを。
 斎月さんの目に捕らわれ逸らすことができません。
とっさに目をぎゅっと閉じると斎月さんに唇を舐められてしまいました。
びっくりして目を開けると、したり顔で笑っています。
 悔しくて口をぱくぱくさせていると開いた口に舌が差し込まれて絡め取られてしまいました。
 「んっんーーーー!!!」
 目を見開くと斎月さんの甘く欲情に濡れた目と合い心臓が跳ねました。
 「んっんっふぅん」
 何度も角度を変えて唇を貪られ息があがります。
 安定期に入れば、シてもいいとは言われたんですけど、双子出産のリスクを考えるとオススメしないと言われました。
もう随分と斎月さんに抱いてもらっていません。
 少しだけと肌を舐められることはありますけど最後まではシてません。
 私もそれどころじゃありませんしね。
お腹の天使さん達と生活するので精一杯です。
それは斎月さんもわかってくれているので協力してもらっています。
でもたまにどうしても我慢できなくなるらしいですよ。
 今みたいに。
 「ふぁ」
ちゅっと音を立てて唇が離れていくのをぼんやりと見つめます。
 斎月さんを見上げると困ったような顔をして私を見下ろしました。
 「そんな顔をされたら我慢できなくなりますよ。柚葉」
 「え?」
 「抱きたくなります」
ぼん!と音が出そうなくらい顔が赤くなって顔を背けます。
 本音を言えば抱いてほしいんですけど、ね。
 体を重ね合わせることほど安心できるものはありません。
もじもじすると斎月さんに抱き起こされて抱き締められました。
 優しい香りに包まれて、斎月さんの腕に手をかけて見上げます。
 「天使さん達が産まれてきたら、また抱いてくださいますか?」
ぎゅっと袖を掴むと斎月の腕に力が入ります。
 「もちろんですよ」
さも当然と言うように答える斎月さんがおかしくて笑ってしまいました。
 唇を差し出してキスをせがむと、ちゅっちゅと唇を啄ばまれました。
 「早く柚葉を私に返してくださいね」
お腹を撫でながら斎月さんが独占欲丸出しな発言をしました。
するとお腹をぽこぽこと蹴られて痛みで呻いてしまいました。
 「うっ。いったぁ」
 「!」
 斎月さんが慌ててお腹を撫でてくれます。西班牙蒼蝿水
 斎月さんの発言にどうやら天使さん達が怒ったみたいです。
 「ダメって言ってますよ。いたたた」
 「大丈夫ですか?」
 「最近本当に激しくて」
 私が言っている間にもぽこぽこと蹴られて顔をしかめました。
 斎月さんが真面目な顔をしてお腹に顔をあてて天使さん達に言い聞かせます。
あ。
そこで喋るのやめてください。
くすぐったいんです!
 「ダメですよ。柚葉は私のものです。あなた達にはあげません」
 「何を言ってるんですか。斎月さん」
 呆れてものも言えないとはこのことです。
まだ産まれてもない天使さん達に嫉妬するとか笑ってしまいます。
くすくす笑うとお腹に顔をあてている斎月さんの頭を撫でました。
 斎月さんの髪みたいにさらさらの髪の天使さん達だと嬉しいです。
 触り心地いいですからね。
 「さっきはごめんなさい。嫌いじゃないですよ。大好きです」
 「いいえ、私も笑ってしまってすみません。でも可愛らしい柚葉のせいですよ」
 「もうっ!斎月さんのいるときにはもうしません!」
 「そんなこと言わないでください。ね?」
ぽかぽかと斎月さんの頭を叩いても堪えないのはわかっていますけどね。
 頬を膨らませるとつんと指先で突かれました。
 「美味しいアフォガード作ってあげますから、許してください」
 斎月さんの作ってくれるデザートは美味しいですからね。
 自然と顔に笑みが浮かびます。
 「はい」
 斎月さんが笑う私を抱き締めてくれます。
 妊娠してから抱き締められるのがもっと好きになりました。
 落ち着くし気持ちがいいです。
 「斎月さん」
 「なんでしょう?」
 「お風呂から上がったら食べたいです」
 「わかりました。では、お風呂に入りましょうか」
 「よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げると、重くなった私を斎月さんが抱っこしてくれます。
 一苦労だと思うんですけどね。
なんせ一人プラス天使さん達の体重ですし。
お姫様抱っこをしてちゃんとバスルームまで運んでくれる斎月さんはすごいです。
よっこらせという言葉が少々おっさんくさいですけどね。


お風呂上がりのまったりタイムが終わるとベッドに押し込まれます。
アフォガードがすっごく美味しかったです。
ご馳走様でした。
 妊娠をしてからというもの私は本当によく眠っています。
 昼夜問わず、気づいたら寝ていることが多々あります。
ベッドでしばらく話をしていると私はあっという間に寝てしまいますので私が寝てしまうと斎月さんはお仕事を始めます。
 残業を会社でしない代わりに自宅の書斎でお仕事をしています。
 一時間置きに私が起きてないか確認しに来てくれるあたりマメな人です。
 今日はまだ眠くないのでクッションに凭れて斎月さんに寄り添っています。
 斎月さんはずーっとお腹を撫でたまま。
 「私の会話にはあまり答えてくれませんね」
そうなんです。
 斎月さんがお腹の天使さん達に話かけてもあんまり反応がないんですよね。
ぽこぽこと動きはするんですけど、会話が成り立っているようには思えません。
 不思議なものです。
 「パパさんとも仲良くしてあげてくださいね」
 私が話しかけるとすぐにぽこぽこと返事が返ってきます。
 斎月さんが残念そうな顔をしてお腹を撫でました。
 「柚葉の言うことはちゃんと聞くのに」
 「それはそうですよ。私と一緒にいる時間が長いんですから」
 「ああ。また返事をしていますね」
ぽこぽこと返事してくれる天使さん達が可愛くて仕方ありません。
 顔を綻ばせてお腹を見ると愛おしくなります。西班牙蒼蝿水口服液+遅延増大
でもなんだか寂しくなりますね。
もう少ししたら私の中から天使さん達がいなくなってしまいます。
 「どうしました?」
しゅんとした私を見て斎月さんが顔を覗き込んできました。
 頭をふるふると振ると斎月さんにぎゅっと抱きつきます。
 「大事に大事に育てた天使さん達が私の中から飛び立つのが少し悲しいです」
 斎月さんが苦笑して私の頭の撫でました。
 妊娠してからずーっと私の中にいたんです。
 誰よりも一番近くにいた天使さん達。
 辛いときも苦しいときも楽しいときも嬉しいときも一緒だった天使さん達。
ぽたりと涙が零れて斎月さんを困らせてしまいました。
 大きな手が私の頬に伝う涙を拭ってくれます。
 「ずーっとずーっと一緒だったんです」
 「そうですね」
 「行かないでくださいっ」
 「柚葉」
 斎月さんが困ったように私を呼びます。
ごめんなさい。
やっぱり寂しいです。
 久々の号泣でわんわんと泣く私の背を優しく撫でてくれます。
 「この子達が戸惑ってしまいますよ」
 「うっえっぅぅ」
 「顔を見たくありませんか?声が聞きたくありませんか?」
 「み、たい、ですっ、き、きたい、ですっ」
 「きっとこの子達も私達に会いたいって思っていますよ」
 「は、いっ」
 「マタニティブルーですかね?」
 「かも、しれま、せんっ」
 出産前は不安定になるって先生が言っていましたしそれかもしれません。
 私の中から飛び立ってもいなくなるわけじゃないですし。
ずっと天使さん達のそばにいますからね。
だからちゃんと会いに来てくださいね。
ママは頑張りますよ!
 「会いに来てくれるのを待っていましょうね」
 「は、い」
ぎゅっと斎月さんに抱き締められて目を閉じます。
 暖かい腕に守られてほっとします。
この腕が私と天使さん達を守ってくれるのです。
 斎月さんが優しく髪を梳いてくれて気持ちがいいです。
 「柚葉」
ゆるゆると顔をあげると斎月さんが優しい目で私を見ています。
お腹を撫でながら耳元に唇を寄せて囁いてきます。
 「もう名前は考えてあるんです」
 「え!」
びっくりして私は斎月さんの顔をまじまじと見てしまいました。
 「な、なんていう名前ですか!?」
 斎月さんの肩に手を乗せて身を乗り出します。
だって今の今までそんな話してませんでしたよ!?
いつの間に決めたんです?
 確かに名前は斎月さんに決めてくださいとお願いしましたけど。
そんな私を見て斎月さんが楽しそうに笑っています。
あ。
ずるいです!
 斎月さんだけ天使さん達の名前知ってるなんて!
 「教えてください!」
 「はい」
 斎月さんが私の耳元でこっそり名前を紡ぎました。
 「!」
 「いい名前でしょう?」
にっこり笑って斎月さんが私の頬にキスをしました。
 私も斎月さんの紡いだ天使さん達の名前を呟きます。
 「素敵な名前ですね」
 「気に入ってくれるといいんですが」
 私は斎月さんの手を取って二人でお腹に手をあてます。
 「天使さん達の名前は―」
ぽこぽこと返事をしてくる天使さん達の気配は嬉しそうに感じました。
 手に伝わってくる振動が喜びに溢れているような気がします。
 斎月さんと顔を見合わせて笑いました。
 「気に入ってくれたみたい、ですね」
 「そうですね」
 「パパさんからの初めてのプレゼントです」
 斎月さんが嬉しそうな顔をして私を抱き締めてきます。
 私は少し寂しいですが、私が独占すると嫉妬する人達がいて大変なんです。
そして私を独占すると斎月さんが嫉妬してこれまた大変なのです。
だから、少しだけ遅く、少しだけ早く、斎月さんと私に会いに来てくださいね。
 待っています。簡約痩身美体カプセル

2013年10月15日星期二

ウェルの決意

先程から何回目の溜め息だろうか。そんな数えたらキリがないほどの溜め息を吐いているのは、ウェル・キンブルである。彼は練兵場という兵たちが日々訓練をしている場所の休憩室の椅子に腰かけて項垂うなだれていた。簡約痩身

 「なあおい、ウェルどうしたんだと思う?」

  そんな彼の様子が気になり、青山大志は仲間である鈴宮千佳、皆本朱里、赤森しのぶに問いかける。しかし三人も首を傾けるだけだ。

 「何だかここ最近元気が無いよなぁ」
 「いつからだっけ?」

  千佳が尋ねる。それに答えたのはしのぶだ。

 「ウェルっちがギルドに行ってくるって言って出かけよった時やな」
 「確か頼りになる人物がおられて、是非その方の助力を仰ぎたいと仰ったのでしたね」

  朱里が追加する。

 「そんで、帰って来たらアレ……だもんなぁ」
 「どうしたんだろうね?」

  千佳も額の汗を拭きながら疑問を浮かべる。彼らは今まで兵たちを一緒に訓練をしていたのだ。特に千佳は百人抜きとか言いながらハッスルしていたので、かいている汗は相当なものだ。

 「どうする? 声かける?」
 「う~ん、でもかけにくいんだよなぁ」

  どんよりと空気が淀んでいるかのような雰囲気がとても話しかけにくいのだ。

  そんなふうに見守っていると、そこに桃色のドレス姿をした少女が姿を現した。その少女は【王都・ヴィクトリアス】の国王の長女であり名をリリス・ヴァン・ストラウス・アルクレイアムという。

  彼女は四人に笑顔で近づいてくる。

 「お疲れ様です勇者様がた!」
 「リリス様も公務の手伝い大変そうじゃないですか」

  大志のその言葉に少しムッとするリリス。

 「え、あの、どうされたんですか?」
 「どうしてそんな畏まったお話し方なんですか大志様!」
 「そ、それはだって……」

  周囲をキョロキョロ見回しながら焦っている。

 「この前約束したではないですか! 私のことはリリスとお呼びになって下さいと。それにそのお話し方も止めて下さいと。大志様も分かったと仰いました!」V26Ⅳ美白美肌速効

  頬を膨らませて詰め寄ってくる。

 「わ、分かった! 分かったから近いってリリス!」
 「あ、す、すみません!」

  リリスは思った以上に取り乱していた様子で、つい大志との距離感を把握できていず、近過ぎていたことに顔を赤く染めてすぐに距離を取る。

 「い、いや、別にいいんだけどさ。はは」

  大志も照れたように頭を掻いていると

「痛ぇっ!」

  急に足を物凄く重い衝撃が襲った。

 「おい千佳何するんだよ!」

  そう、千佳が足を踏んづけていたのだ。

 「べっつにぃ、ただオモテになるなぁって思ってね、ふん!」
 「だから痛いって!」

  またも踏まれる。トホホと大志は涙を流し、それを介抱するリリスと朱里。しのぶはその光景を見て楽しそうに笑っている。

 「アハハ! やっぱ大志っちと千佳っちの絡みはオモロイなぁ~」
 「何がよまったく! 大志のバカ、デレデレしてみっともない!」
 「おんやぁ、それはヤキモチちゃうのん?」
 「ばっ! ち、違うわよバカ!」

  千佳の反応だけで見る者全てが理解できると思うが、大志だけは分かっていない。

 「うふふのふ~、鈍感男に惚れたら辛いわなぁ~」

  ニヤニヤしながらしのぶは千佳をからかう。

 「も、もう知らないわよ! アタシ向こうで訓練してくるから!」

  そう言ってその場から離れて行った。しのぶはそんな彼女の後姿を見てまたも笑う。

 「ホンマかわええな千佳っちは。スレンダーやし、人当たりもええし、幸せもんやなぁ~大志っちは」
 「な、何がだよ? 今俺物凄く痛くて幸せ感じてないんだけど?」

  Mじゃないしと言うと、しのぶは大きく溜め息を吐く。

 「あ~あ、そんなんやったら姫様も千佳っちも大変やなぁ~」

  同情するわと笑う。

 「ところで皆さま、集まって何をお話しされていたのですか?」

  リリスが聞いてきたので、先程話していた内容を聞かせる。

 「まあ、何かあったのでしょうか?」
 「それが分からないんだよなぁ。聞こうにも話しかけ辛いし……」
 「しゃ~ないな、ほならウチが聞いてきてあげよか」男根増長素
 「しのぶが?」
 「うん、こん中やったら、ウチが適任やろ?」
 「ん~どういう基準か分からないけど、本当に大丈夫か?」
 「まかせや~」

  そう言うと、休憩室へと向かって行った。



  ウェルはこの前、ギルドへ赴き、そのギルドマスターであるジュドム・ランカースに言われたことを考えていた。

 (『魔族イビラ』の王が代わり、その王が何度も和睦の交渉をしているのにも関わらず国王は無視している……か)

  それにこうも言われた。娘を犠牲にする前に、勇者という他人を呼ぶ前に、するべきことがあっただろうと。

  そして自分はまだまだ未熟であると、そうも言われた。

 (何故国王は和睦を……いや、その理由は分かっている。また以前みたいに裏切りの可能性が高かったからだ)

  実際に以前和睦の親書が送られ、それに応じて会談に赴いた際に、『魔族イビラ』の裏切りで、多くの『人間族ヒュマス』が犠牲になった。だからこそ同じ手に何度もかかるものかと国王は突っぱねているのだろうと思った。

 (しかし……)

  それでも対話をするべきだ。そうジュドムは言った。

 (それに勇者様がたは、本当に信頼に足る人物なのか……)

  ジュドムは異世界からの住人など、自分たちの切なる思いを受け止められるわけがないと思っている。今はまだいい。持ち前の身体能力や魔法で、障害も難なく乗り越えられる。

  だがいつか、確実に本当の意味で選択を迫られる場面がやってくる。それは命の危険があった場合や、自分の力ではどうしようもないと思われるほどの絶望を感じた時、それでも勇者は、勇者でいてくれるのか。

  命を投げ打ってまで、他の世界のために戦ってくれるのか。そんな高尚な人物が本当にいるのか。ジュドムに言われて頭が真っ白になった。

  何故真っ白になったか、それは正論だからだ。一理あるどころの話ではない。彼らは口々にゲームみたい、ゲームなら、ゲームではなど、その言葉を話す時、何故か覚悟の重みが軽く感じるのだ。男宝

 (それは彼らがまだ若く、戦いに慣れていないからと思っていた……しかし)

  もしそれが勘違いなら? 彼らの言うゲームとやらが、その勘違いを助長させているとしたら? ゲームとやらが、覚悟を薄めているとしたら?
  これほど危険なことは無い。そう感じてしまったのだ。

 (本当の危険が迫ってきた時、彼らは戦ってくれるのだろうか……)

  ハッキリ言って、まだ個人では自分の方が強い。しかし、四人で向かってこられたら、自分など瞬殺されるほどの実力はついてきている。大いなる戦力だ。だがしかし、上には上がいる。

  『魔族イビラ』には、そんなことをいとも容易くやってのける者が大勢いる。

 (もし……もしだ、彼らのうちの誰かが殺されたとしたら……彼らは……)

  それでも戦えるのだろうかと答えの出ない疑問が次々と溢れてくる。ジュドムは言った。勇者に対してやるべきことは、無傷で元の世界へと送り返すことだと。

 (私はどうしたら……)

  目を強く閉じ自問していた時、誰かが傍にやって来る気配を感じた。

 「どしたんやウェルっち?」 
 「……シノブ様?」

  そこには赤森しのぶがいた。

 「最近元気あらへんけど、どないしたん? みんな心配してんで?」
 「……すみません」
 「え? あ、いやいや別に謝ってもろたかてしょうがないんやけどな」

  しのぶは隣に腰かけ、再度聞く。

 「んで? どないしたん?」
 「はぁ、それは……」

  言えるわけが無い。あなた方を疑ってますなど。だが聞きたい。命を懸けられますかと。

 (だがもし、その事実を彼らに与えて、死を強く認識させたとして、彼らが国から去ったらどうする……? せっかくここまでの成長を見守ってきたのに……)

  どうしてもマイナスな事ばかり思いつき聞くことができない。

 「もしかしてさ、ウェルっちが悩んでんのは、ウチらに関することちゃう?」

  その言葉にピクリと肩を動かし反応する。しのぶはその反応を鋭く感知していた。

 「あ~やっぱか~。何なんそれ? ウチら何かしてしもうたん?」

  別にしのぶが特別鋭いわけではない。ただウェルを見ていると、何となく四人を避けている感じがしていただけだ。こちらを見る目にも、どことなく申し訳なさが宿っていた。

 「……言えません」
 「…………そっかぁ。ほなら別にええんとちゃう?」
 「……はい?」

  しのぶの言葉に眉を寄せる。

 「別に今すぐ答え出す問題なんか分からへんけど、時間はまだあるんやろ?」
 「そ、それは……」
 「それとも今すぐやなければ、世界が滅びるとかそんなんなん?」

  しのぶはほんの少しだけ表情を強張こわばらせる。三体牛鞭

2013年10月11日星期五

堕ちた名声

あれから一週間の時が流れた。
  俺は未だに城の近隣を拠点に活動している。
 「おい、盾のあんちゃん」
 「ああ!?」
  城を飛び出し、インナー姿という半裸姿で町を歩いていると武器屋の親父に呼び止められた。
  ちょうど武器屋の前を歩いていたというのも理由だが、何のようだと言うのだ。levitra
 「聞いたぜ、仲間を強姦しようとしたんだってな、一発殴らせろ」
  俺の話など最初から聞くつもりの無いのか親父が怒りを露にして握り拳を作っている。
 「てめえもか!」
  どいつもコイツも俺の話を聞くつもりがありやしねえ。
  そりゃあ、俺はこの国、この世界からしたら異世界人で常識には疎いのかもしれないが、間違っても嫌がる女を犯すような真似は絶対にしない。
  あー……なんだ。武器屋の親父があのクソ女の顔に見えてきた。
  今なら殴り殺せそうだ。
  俺も強く拳を握って睨みつける。
 「う……お前……」
 「なんだよ。殴るんじゃなかったのか?」
  親父は握り拳を緩めて警戒を解く。
 「い、いや。やめておこう」
 「そうか、命拾いしたな」
  今ならどんなに攻撃力が低くても満足するまで人を殴れる自信がある。
  しかし、無意味に殴るのもなんだと自分を言い聞かせ、これからの活動のために金稼ぎに行こうとする。
  バルーンでも殴れば少しは気が晴れるだろう。
 「ちょっと待ちな!」
 「なんだよ!?」
  城門を抜けて草原に行こうとする俺に武器屋の親父がまた呼び止める。
  振り返ると小さな袋を投げ渡される。
 「そんなカッコじゃ舐められるぜ。せめてもの餞別だ」
  袋の中を確認すると少し煤けたマントと麻で作られた安物の服が入っている。
 「……ちなみに幾らだ?」
 「銅貨5枚って所だな。在庫処分品だ」
 「……分かった。後で返しに来る」
  下着で動き回るものさすがにどうかと思っていた所だ。一応、商売として受け取ろうじゃないか。
 「ちゃんと帰って来いよ。俺は金だけは信じているんでな」
 「あーはいはい」
  俺はマントを羽織ながら、服を着て、草原へ出るのだった。
  それから俺は草原を拠点にバルーン系を討伐していった。
 「オラオラオラオラオラオラオラ!」
  一匹、五分掛かるが幾ら噛み付かれてもダメージを受けないので困る事態は無い。
  憂さ晴らしに一日中戦って、ある程度のバルーン風船を手に入れた。
  レベルアップ!
  Lv2になりました。
  オレンジスモールシールド、イエロースモールシールドの条件が解放されます!
  そして、念には念をで色々と仕込みや下調べを日中に行う。
  夕方頃になり、俺は空腹を覚えた。
  渋々、城下町に戻り、魔物の素材を買い取る商人の店に顔を出した。
  小太りの商人が俺の顔を見るなりへらへらと笑っていやがる。
  ……思いっきり足元を見るつもりだな。
  見るだけで分かる。
  先客が居て、色々な素材を売っていく。
  その中に俺が売ろうと思っているバルーン風船があった。
 「そうですねぇ……こちらの品は2個で銅貨1枚でどうでしょう」
  バルーン風船を指差して買い取り額を査定している。
  2個で銅貨1枚か……。
 「頼む」
 「ありがとうございました」
  客が去り、次は俺の番になった。
 「おう。魔物の素材を持ってきたんだが買い取ってくれ」
 「ようこそいらっしゃいました」Motivator
  語尾にヘヘヘと笑っているのが聞こえないとでも思ったのか。
 「そうですねぇ。バルーン風船ですねぇ。10個で銅貨1枚ではどうでしょうか?」
  5分の1! どれだけ足元を見やがる。
 「さっきの奴には2個で銅貨1枚って言ってなかったか?」
 「そうでしたかね? 記憶にありませんが?」
  何分、うちも商売でしてねぇ……等と言い訳を続けている。
 「ふーん。じゃあさ」
  商人の胸倉を掴み、引き寄せる。
 「ぐ、な、何を――」
 「コイツも買い取ってくれよ。生きが良いからさ」
  ガブ!
  俺はマントの下に隠れて噛み付いているオレンジバルーンを引き剥がして商人の鼻先に食いつかせる。
 「ギャアアアアアアアアアアアアア!」
  転げまわる商人の顔に引っ付いているバルーンを引き剥がしてやり、商人を足蹴にする。
 「このままお前を草原まで引きずって、買い取って貰おうか?」
  マントの下に隠していた5匹のバルーンを見せ付ける。
  そう、幾ら噛み付かれても痛くも痒くも無いなら、引き剥がして誰かに引っ付けることが出来るのではないかと閃いたのだ。
  我ながら名案であり、こうして交渉の役に立っている。
  如何せん。攻撃力が無いので、脅しが出来ないしな。
  コイツも理解するだろう。俺がそれを実行した時、自分が骨すら残らずバルーンの餌食になる未来を。
 「高額で買えとは言わんよ。でも相場で買取してもらわないと話しにならないからさ」
 「こんな事をして国が――」
 「底値更新するような値で冒険者に吹っかけた商人の末路はどうなんだ?」
  そう、この手の商人は信用が第一、俺を相手ではなく、普通の冒険者相手にこんな真似をしたら殴られかねない。
  しかもだ。客が来なくなるオプション付きだ。
 「ぐ……」
  睨み殺さんとばかりに恨みがましい目を向けていた商人だったが、諦めたのか力を抜く。
 「……分かりました」
 「ああ、下手に吹っかけたりせず、俺のお得意様になってくれるのなら相場より少しなら差し引いても良い」
 「正直な所だと断りたい所ですが、買取品と金に罪はありません。良いでしょう」
  諦めの悪い人物だと理解したのか、買取商は俺のバルーンを相場よりちょっとだけ少なめで買い取ってくれた。
 「ああ、俺の噂を広めておけよ。ふざけたことを抜かす商人にはバルーンの刑だ」
 「はいはい。まったく、とんだ客だよコンチクショウ!」SPANISCHE FLIEGE
  こうして今日の稼ぎを手に入れた俺はその足で武器屋の親父に服とマントの代金を払い。飯屋で晩飯にありついた。
  ただ、何故かまったく味がしない。最初はふざけているのかと思ったが俺の味覚がどうかしているようだ。
  宿? 金が無いから草原で野宿だよ! バルーンに噛み付かれていたって痛くも無いから問題ない。
  次の日の朝、目が覚めると鳥葬みたいにバルーンに食いつかれていたけど、ストレス発散に殴り割りをしてやった。
  朝から小銭ゲットだぜ!
  それからは死に物狂いで戦わずとも金の稼ぎ方を覚えた。
  まず、バルーンの戦利品以外にも売れる品を見つける。
  それは草原に群生している薬草である。
  薬屋の卸問屋から売っている薬草を見て覚え、買取をしている店を見つける。
  後は草原で似た草を摘んでいると、盾が反応した。徐に採取した薬草を盾に吸わせる。
  リーフシールドの条件が解放されました。
  そういえばウェポンブックを見ていなかったな。
  俺はウェポンブックを広げて点灯している盾を確認する。
  スモールシールド
 能力解放! 防御力3上昇しました!
  オレンジスモールシールド
 能力未解放……装備ボーナス、防御力2
  イエロースモールシールド
 能力未解放……装備ボーナス、防御力2
  リーフシールド
 能力未解放……装備ボーナス、採取技能1
  ヘルプで再確認する。
 『武器の変化と能力解放』
  武器の変化とは今、装備している伝説武器を別の形状へ変える事を指します。
  変え方は武器に手をかざし、心の中で変えたい武器名を思えば変化させることが出来ます。
  能力解放とはその武器を使用し、一定の熟練を摘む事によって所持者に永続的な技能を授ける事です。
 『装備ボーナス』
  装備ボーナスとはその武器に変化している間に使うことの出来る付与能力です。
  例えばエアストバッシュが装備ボーナスに付与されている武器を装備している間はエアストバッシュを使用する事が出来ます。
  攻撃3と付いている武器の場合は装備している武器に3の追加付与が付いている物です。
  なるほど、つまり能力解放を行うことによって別の装備にしても付与された能力を所持者が使えるようになるという事か。
  熟練度はおそらく、長い時間、変化させていたり、敵と戦っていると貯まる値だろうな。
  何処までもゲームっぽい世界だ。
  ウンザリした思いをしつつ、リーフシールドの装備ボーナスに興味を引かれる。
  採取技能1
  おそらく、薬草を採取した時に何かしらのボーナスが掛かる技能だろう。
  今、俺は金が無い。
  ともすればやることは一つ、どれだけ品質が良くて労力の低い物を手に入れるかに掛かっている。
  俺は迷わずリーフシールドに変化させた。
  シュン……という風を切るような音を立てて、俺の盾は植物で作られた緑色の草の盾に変わる。
  ……防御力の低下は無い。元々スモールシールド自体が弱すぎたのだ。
  さて、目の前に群生している薬草を摘んでみるか。
  プチ。
  良い音がして簡単に摘み取れる。
  ぱぁ……
 何か本当に淡く薬草が光ったように見せた。
  採取技能1
  アエロー 品質 普通→良質 傷薬の材料になる薬草
  アイコンが出て変化したのを伝えてくれる。
  へー……簡単な説明も見えるのか、思いのほか便利だな。
  その後は半ば作業のように草原を徘徊し袋に薬草を入れるだけでその日は終わった。
  ちなみに採取をしていた影響なのか、それとも変化させて時間が経過したからかリーフシールドの能力解放は直ぐに終わった。SPANISCHE FLIEGE D9
  ついでに他の色スモールシールドシリーズもその日の内に解放済みとなる。
  そして俺は城下町に戻り、袋を片手に薬の買取をしてもらう。
 「ほう……中々の品ですな。これを何処で?」
 「城を出た草原だよ。知らないのか」
 「ふむ……あそこでこれほどの品があるとは……もう少し質が悪いと思っていましたが……」
  等と雑談をしながら買取をしてもらう。この日の収入は銀貨1枚と銅貨50枚だった。
  今までの収入としてはかなり多い。むしろ記録更新だ。
  ちなみに酒場で飯を食っていると仲間にして欲しいと声をかけてくる奴がチラホラと出てくる。
  どいつもガラの悪そうな顔の奴ばかりでウンザリした。
  ……あの日から何を食べても味がしない。
  酒場で注文した飯を頬張りながら何度目かの味覚の欠落を自覚する。
 「盾の勇者様ー仲間にしてくださいよー」
  上から目線で偉そうに話しかけてくる。
  正直、相手にするのもわずらわしいのだけど、目つきが、あのクソ女と同じなので腹が立ってきた。
 「じゃあ先に契約内容の確認だ」
 「はぁい」
  イラ!!
  落ち着け、ここで引き下がると何処までも着いて来るぞこの手の連中は。
 「まず雇用形態は完全出来高制、意味は分かるな」
 「わかりませーん」
  殴り殺したくなるなコイツ!
 「冒険で得た収入の中でお前等に分配する方式だ。例えば銀貨100枚の収入があった場合、俺が大本を取るので最低4割頂く、後はお前等の活躍によって分配するんだ。お前だけなら俺とお前で分ける。お前が見ているだけとかならやらない。俺の裁量で渡す金額が変わる」
 「なんだよソレ、あんたが全部独り占めも出来るって話じゃねえか!」
 「ちゃんと活躍すれば分けるぞ? 活躍出来たらな」
 「じゃあその話で良いや、装備買って行こうぜ」
 「……自腹で買え、俺はお前に装備を買ってまで育てる義理は無い」
 「チッ!」
  大方、俺が装備品を買ってやって、無意味に後ろに着いてこようとしていたのだろう。
  挙句の果てにどこかで逃亡して装備代を掠める。
  汚いやり方だ。あのクソ女と同類だな。
 「じゃあ良いよ。金寄越せ」
 「あ、こんな所にバルーンが!」
  ガブウ!
 「いでー! いでーよ!」
  酒場にバルーンが紛れ込んだと騒ぎになったけど俺の知ったことではない。騒いでいる馬鹿に噛み付くバルーンをサッと引き剥がし、食事代を置いて店を去った。
  まったく、この世界にはまともな奴は居ないのか。
  どいつもコイツも人を食い物にすることしか考えてない。
  とにかく、そんな毎日で少しずつ金を貯め、気が付いた頃2週間目に突入した。SPANISCHE FLIEGE D6

2013年10月9日星期三

決別

ボスっぽい大物の所に戻ってみると志願兵と村人達が気絶した勇者達を守っていた。
  余計な事を……。
  さて、お楽しみの波の素材を盾に吸わせる作業なのだが、今回はゴブリンアサルトシャドウとリザードマンシャドウは名前通り影なので素材が吸えなかった。いや、厳密には影の塊みたいな奴を吸って見たのだけど一つしかないと言うかそんな感じだ。簡約痩身
  シャドウシールド
 能力未解放……装備ボーナス、闇耐性(小)
  他の奴等は全部ステータスアップ系の装備ボーナスしかないので省略する。
  残ったのは他の勇者たちが倒したと思わしき大きな幽霊のような魚。
 「あーん」
 「食うな」
  フィーロが掴んで頭から食べようとしたので命令した。
  今回この鳥が暴走したのは何が原因かわかっているのか。
  どう見てもこいつが不用意に腐竜の核を食ったのが原因だろ。
 「えー……」
  すごく渋々手放して受け取ろうとした所、俺の手をすり抜けて地面に落ちたときは驚いた。
 「お前、どうやって持ったんだ?」
 「手にね、風の魔法を纏って持ってたの」
 「……はぁ」
  素手では触ることさえ出来ないへんな魚だ。
  他の勇者たちを志願兵が搬送している最中に尋ねてみた所、やはり専用の武器が必要らしい。
  誰か持っている奴は居ないかと聞いたら一人だけ安物の属性の入った武器を所持していたので貸して貰い、捌く。
  フィーロの話を参考に、魔力付与の要領で手に魔力を宿らせて持つ。
  お頭の部分を吸ってみた。
  ソウルイーターシールド
 能力未解放……装備ボーナス、スキル「セカンドシールド」 魂耐性(中)精神攻撃耐性(中)SPアップ
 専用効果 ソウルイート SP回復(微弱)
  頭だけで魔物名しか入っていないという事はこれは解体しても意味が殆ど無い事を表している。別の部位を吸ってみるが変化が無い。
  しかし、スキルのセカンドシールドとは何だ? 魂耐性は……この系統の攻撃の耐性だろう。
  専用効果のソウルイートが若干気になるな。俺が魂を食えるとかだったら嫌だな。
  徐に盾の形状を変えてみる。この魔物、ソウルイーターの頭をそのまま盾にしたみたいな意匠が施されている。
  ……防御力がキメラヴァイパーの方が上だ。
  ソウルイートという専用効果が魂を食べる事が出来るのならこのソウルイーターを俺は持つことができる筈だ。
  だから手を伸ばしてみる。
  するとソウルイーターの肉に触れることが出来なかった。
  どうやら違うようだ。
  良かった。
  さすがに魂を食うとかそんな趣味は無い。V26Ⅳ美白美肌速効
  大方、カウンター系の効果だろう。相手の魂に喰らいついてSPを奪い取るとかその辺り。
  さて、スキル、セカンドシールドは何だろう?
  試しに使ってみる。
 「セカンドシールド」
  エアストシールド→セカンドシールド
 と、視界にアイコンが浮かんだ。
 「エアストシールド!」
  そしてエアストシールドが出現したのを確認してもう一度叫ぶ。
 「セカンドシールド!」
  ……もう一枚盾が出現した。
  あれだ。一枚しか出せなかったエアストシールドの効果時間内にもう一枚出すことができるようになったようだ。
  使い道は多そうだが、良いのか悪いのか微妙な性能だ。
  そして残りのソウルイーターに目を向ける。
 「全部吸ってあいつ等を困らせたいが……」
  それをするとうるさそうだからな。
  何より他の勇者が弱くて困るのは、何もこの世界の連中だけじゃない。
  俺だけ強くなってもあの三人が弱いと楽ができない。
  はぁ……一応残しておくか。
 「ごしゅじんさまー、残ってるならフィーロにちょうだい!」
  涎を垂らしながら鳥が騒いでいる。
 「しょうがねえなぁ……」
  背骨から尻尾の辺りまでを捌いてフィーロに投げる。
  するとパクッと食った。
 「骨なのにスライムみたいな食感ー」
 「待て鳥。いつ俺達がスライムに会った」
 「あのねー」
  ここから先はどうでも良いので省略する。
  結果は俺が怒ったという事にしておこう。
  盾に吸わせられなかったという意味で。

 「よし、次は村の復興の手伝いをするぞ」
  やることを終えた俺達は志願兵と一緒に魔物の死骸の処理と被害の復興の手伝いを始めた。
  さすがに全てを賄うことはできない。だからあくまで、炊き出しや怪我人の治療を最優先にする。
 「はい!」
  志願兵の奴等、別に大した裏も無く、俺の言う事に素直に従っていた。
  だから怪しむ必要はもう無いだろう。
  長い戦いから一夜明け、やっと騎士団が到着した。
  騎士団の団長の奴、俺が志願兵を召喚したのを物凄く怒っている。
 「貴様! 勝手に我が騎士団の兵をもって行きおって!」
 「勇者様の所為ではありません! 僕達が勇者様の力になりたいと進言し、勇者様のお力を借りただけです」男根増長素
 「なに? それでも貴様等は栄誉あるメルロマルクの兵士か! 盾なんぞに惑わされおって!」
 「お前さー……この惨状を見て、問題行動だって、部下を処分するわけ?」
  志願兵は俺を庇って素直に自分達の意見を述べた。
  聞いた話に寄ると、騎士団の上層部と勇者は打ち合わせをしていたと言うので、一部の選ばれた者が転送され、後で追いつく形で城から出発するのだろうと志願兵も思っていたらしい。
 「こいつらが居なかったら被害はもっと出ていたと思うぞ?」
  俺の返答に応じるように出迎えた村人も頷く。
 「あと、お前達が頼りにしてる勇者達とその仲間達は全員、波で現れた強敵にやられてそこの建物に収容されているぞ」
  頼んでもいないのに村人が家に運んで、勇者とその仲間達は治療中だ。軽く薬を処方されたらしいが、完治には数日掛かるだろう。回復は早そうだから今日には意識を戻すとは思うけどな。
 「急いで勇者様とその仲間を運び出せ! 早急に治療院へ送るのだ!」
 「おい……アイツ等は比較的軽症だぞ。他の重症を負ってる村人も居るんだからそっちを優先して……」
 「勇者とその一行を最優先するのは、我が国、そして世界の為だ!」
  何とも傲慢な返答な事で……。
  まあ、そうなるだろうからと、治療の優先順位は村人の方に重きを置いて居たから問題は無いけど。
 「はいはい。サッサと連れてけ、俺は忙しいんだ」
 「待て、盾」
  追い散らそうと手を振ると騎士団長の奴、志願兵から事情を聞いて俺を呼び止める。
 「今度は何だよ……」
 「城へ報告に付いてきて貰おう」
 「やだよ面倒くさい」
 「良いから来るんだ!」
  やってられるか。優先すべき事があるのに、どうして無意味な事をしなくてはならない。
  俺は無視して踵を返そうとすると志願兵達が懇願する目で頭を下げる。
 「お願いします盾の勇者様、どうかご同行を……」
  ……まあ、コイツ等は俺の指示にちゃんと従って行動していたからなぁ。
  無下にする訳にもいかないし、どうせ武器屋の親父に発注している金属製の馬車を受け取りに行かねばならない。
 「はぁ……」
  ボリボリと頭を掻きながら振り返る。
 「分かったよ。行けば良いんだろ、行けば。コイツ等の善意に一度だけ応えてやる」
 「ありがとうございます!」
  感謝を言葉と姿で表した志願兵に渋々頷いてやった。
  こうして俺達は一路城へと向うのだった。

  翌日。
  城下町に到着し、城へと入る。男宝
 「盾の仲間は別の部屋で待っていてもらおう」
 「ここまで来て俺だけかよ!」
  なんでコイツ等こんなに偉そうなんだ?
 「なあ、もう帰って良いか?」
  どうせ碌な事言わないだろうし、時間の無駄だろう。
 「そうはいかん。貴様には色々と聞かねばならないことが山ほどあるんだ」
 「ここに来るまでに話しておいただろうが」
  他の勇者がやられて、その敵を俺達が倒した経緯は既に説明してある。志願兵も遠くからその様子を確認していたので裏は取れているので嘘とは思われない。
  クズ王の場合、捏造するかも知れないが、その場合早々と逃げ出せば良い。
  今の俺なら可能だし、ラフタリアとフィーロが居れば簡単には捕まらない。
 「静かに! 王の御前である!」
  ギィイイっと玉座の間に案内され、クズ王が険しい顔で俺を出迎えた。
  既に話は行っているのだろう。苦虫を噛み潰したような苛立ちを持っているのが伝わってくる。
 「非常に遺憾だが、よくぞ波を鎮めてくれた、盾。ワシは信じておらんが」
 「それが人に礼を言う態度か」
 「無礼な! ……まあ、良いだろう。そこで一つ尋ねたいことがある。虚言だと思っておるが」
 「……なんだよ」
  一々語尾に信じていないとか、虚言だとかうざいな。
 「盾、お前はどのように他の勇者を出し抜き、強さを手に入れた? 信じてはおらんが、それを話す義務が貴様にはある。さあ、話せ。嘘だと思うがな」
  ……これはアレだよな。他の勇者が俺より弱い事をクズ王は懸念して直接問い詰めているという事か。
  はぁ。呆れて物も言えない程のクズッぷりだ。
  正直、なんで他の勇者を倒したグラスに俺達は普通に戦えたのかは分からない。
  むしろ多勢に無勢で挑んだ勇者達が勝てるはずなのにだ。
  単純に俺と相性が良かったのか、相手が消耗していたのか、それとも情報通の勇者が弱かったのか、憶測は尽きない。
  その辺りはいずれ、確かめなくてはいけない、けれど俺も暇ではない。
  だが、ここはアレだよな。
  うん。
  俺はクズに晴れやかな笑みで、親指を下に向ける。
 「知りたければ土下座しろ」
 「は?」
  クズ王の奴、呆気に取られた表情で固まる。
  なんとも面白い顔だ。写真とかに残しておきたい。
 「聞こえなかったのか? 耳が遠いようだなクズ。知りたかったら地面に頭を擦りつけて懇願しろと言っているんだ!」
 「き、き、き」
 「どうした? 猿の様な奇声を上げて。あーなるほど、この国の王は猿以下のクズだもんなー? ワシはクズ猿を信じておらんが」
  語尾にマネをしながらバカにするとクズ王の奴、見る見る顔を真っ赤に染めて親の仇みたいな目で俺を睨みつける。
  あ、かなり気分が良いな。これ。
 「貴様ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
  クズ王の叫びは城中に響き渡る程だった。
  敵は前方に厄災の波、後方にはクズ。三体牛鞭
  だが、俺はどちらにも負けるつもりはない。
  こうして俺は、真なる意味でクズ王と決別した。

2013年10月7日星期一

探索

「気をつけろよ」
 「はい」
  ラフタリアが魔法で光の玉を作り出して洞窟内を照らす。
  俺が先頭を歩き、ラフタリア、フィーロ、リーシアと続き、連合軍が付いて来る。
  洞窟内の壁から設置型の目玉の使い魔や芋虫のような使い魔が現れるが戦えない事は無かった。D9 催情剤
  問題はこの洞窟……どうも迷路みたいに複雑な構造をしているみたいなんだよな……。
  壁は生き物ではなく石や土壁だ。
 「道はわかるか?」
 「一応、過去に洞窟を調査した時の物の控えを仰せつかっております」
 「それは助かる」
  一からマッピングしていたら時間が掛かりすぎるからな。
  地図を広げて確認する。
  やはり洞窟内は迷路のように複雑な構造をしているようだ。
  後、皮肉な事に入り口はもう一つ、町の方にもあるっぽい。
  くそ……。
  まあ、知らなかったんだからしょうがない。そもそも俺とフィーロだけで行ってどうするんだ。
  心臓を封印する為の護衛なんだから合流しなきゃ意味がない。
  問題は……心臓のある場所までの道が描かれていない所か。
  途中までというか、霊亀が蘇らないと進めなくなっているとかそういうものだったんだろうな。
  あんまり頼りには出来ないか……。
 「お?」
  地図を確認していると若干広い場所を発見。ここに待機してもらって探索班を出すのが良さそうだ。
  正直、人数が多過ぎて逆に身動きが取りづらい。
  これがラフタリアやフィーロと同じ位実力がある奴等なら問題無いんだが、二人と同じレベルを求めるのは酷だろう。
  ともあれ、休憩と称して連合軍を待機させるのは良い手だ。これで行こう。
  俺はそう決めると洞窟内の広い場所を目標に定めて連合軍を進ませる。
  やがて見えてきたのは地図通り、開けた広場。
  元は何に使っていたのか皆目見当も付かないが地図は信用できると見て良いだろう。
  しかし、目的の場所に到着したのは良いんだが……。
 「なんかデカイ魔物がいるな」
  広い所にはそれ相応の霊亀の使い魔が幅を利かせている。
  無駄にいる使い魔と比べて全長が大きい。挺三天
  広場で侵入者を排除する為だけに配置された様な陣取り方だ。
  RPGなんかでいう所の中ボスって感じだな。
  霊亀がアレだからな。雑魚よりも強いと相場が決まっている。
  問題は数か。
  一匹位なら俺達だけでも余裕だろうが、あの数だと連合軍がやばそうだ。
 「そうですね。どうしましょう?」
  倒しても次々と出現したら困るのだが……やってみるしかないか。
 「よし、幸いそこまで数は居ないから、俺達が仕留めて様子を見よう。連合軍の奴等は待機、後方に注意しろ」
 「了解!」
 「はーい」
 「ふぇ……頑張ります」
 「はぁ……」
  相変わらず、注意した言葉をリーシアは言いそうになった。
  まあ、途中でやめたからここで注意はしないでおこう。
  今リーシアに必要なのは経験と自信だ。
  女王の所に置いていっても良かったが、強くなるにはLvだけでなく実戦経験も積ませておきたい。
  その上で霊亀は絶好の相手と言える。
  ……少々荒療治な気もするが。
 「よし、突撃!」
  俺達は広場を占拠している使い魔たちに向って突撃した。
  外に居るゴリラや雪男とは異なる……亀男タイプ? 全長4メートルの化け物だ。
 「でりゃあああ!」
  フィーロが使い魔の甲羅を思いっきり蹴り飛ばす。
  バキッと音がして甲羅が陥没し、壁にぶつかって動かなくなる。
 「やあああああああ!」
  ラフタリアは使い魔の首を一閃して跳ね飛ばす。
  頼りになるな。
  リーシアは、弱い攻撃魔法で注意を引いてラフタリア達の援護をしている。
  自らがターゲットになった場合は俺の流星盾の範囲入って身を守る。
  一応連携は理解しているな。及第点だ。
  というか、連携自体は問題無い。後は実力が身に付けば伸びていくはずだ。
  問題はその実力であるステータスの方なんだがな。
  ……今は前に集中するか。
 「呆気ないものですね」
  剣に付いた血を薙ぎ払って飛ばしたラフタリアが使い魔の殲滅を確認した。
  確かに予想より遥かに弱かった。
  霊亀がアレだったからな。警戒し過ぎたか?
  いや、連合軍を後ろに連れているんだ。警戒し過ぎる位が丁度良い。
 「うん。ちょっと硬いけど」
 「フィーロはあえて硬いところを蹴っているではないですか」
 「だって、他が柔らかいだもん」
 「無駄な動作ですよ」
  二人は他愛無い会話をしている。
  天才と秀才って感じの会話だな。
 「お二人はとても強いですね」
 「リーシア」
 「ふぇ――目標にします!」
  むう……言わないように努力しているのだけは評価するしかないか。
  完全に癖だな。コレは。VIVID XXL
 「増援は……今のところ無いか」
 「ですね」
  倒したその場から無限に沸いてくるとか可能性としてはあったが、どうやらそういうトラップでは無い様だ。
 「すごい……」
  連合軍の連中が俺たちにポツリと漏らす。
  俺から言わせて貰えばお前等が弱いと思うのだが……。
  平均Lvはどれくらいなんだ?
  これで60Lvとかだったら泣けるぞ。
 「盾の勇者殿」
  影が現れた。というか居たのか。
  手に持っている短刀は使い魔の返り血が付いている所を見るに戦ってはいたみたいだな。
 「どうした?」
 「作戦通りここを拠点に調査をするでごじゃるな」
 「ああ……というか付いてきていたのか」
 「今回の作戦では連合軍の護衛を仰せつかったでごじゃる。他、盾の勇者殿の指示を仰ぐようにと女王からの命令を受けているでごじゃるよ」
 「そうだな」
  影に連合軍の護衛って……コイツ等も一応戦う為の部隊のはずなんだがな。
  霊亀の使い魔はそこまで強い魔物だったか?
  まあ……連合軍は霊亀を封印する為の特殊部隊の様な物と考えれば良いんだろう。
  戦闘能力よりもそちらに能力を割り振ったと計算しておこう。
 「よし! 連合軍の諸君、ここを拠点に霊亀の心臓を捜そうと思う。諸君はここを守る事を重視してくれ。俺達は探索を始める」
 「りょ、了解!」
  連合軍は緊張を解いて、洞窟内の広場で各々警戒しつつ休む。
  極度の緊張と連戦で大分疲労していた様で、疲労困憊って感じだ。
  そんなに疲れる程戦ったつもりは無いんだが……。
  盾の影響なのか?
  それともラフタリアやフィーロがおかしいのか。
  どちらにしても霊亀を再封印したら色々と考えないとダメそうだな。
 「影……ついでに知っているなら、連合軍の平均Lvはどれくらいだ?」
 「霊亀の心臓封印の部隊の平均は65でごじゃる」
  ……予想より悪いじゃねえか。
  何? 成長補正ってこんなにも差が開くのか!?
  リーシアのステータスが低いんじゃなくて、補正が無いとこの程度とか?
  イヤイヤ、さすがにそれは無いだろう。
  樹はリーシアが弱いから理由を作って解雇した訳だし。
  ……そのリーシアもフィーロきぐるみのお陰で多少は戦力になっているんだからなぁ。
  親父に頼んでフィーロきぐるみを増産させるか? 材料が後2着しかないけど。
  量産型フィーロきぐるみか……。福潤宝
  フィーロの毛をむしったら出来るかな。
 「!?」
  フィーロが羽毛を波のように逆立たせてキョロキョロとする。
 「どうしたんですか?」
 「なんか変な気がしたの!」
  口に出してもいないのに気付かれた。
  ……勘が良い奴だ。むしるのは無理そうだな。
 「影はアイツ等よりは強いよな」
  カルミラ島で少しだけ一緒に戦ったから分かる。
  あのレベルの影が一部隊もいれば便利に使えるはず。
 「一応、暗殺や戦闘も視野に入れた専門部隊でごじゃるから、Lvと武術の心得はあるでごじゃる」
 「じゃあ影部隊の半分を護衛、残り半分を探索に回してくれ」
 「分かったでごじゃる。とは言っても、今回の件で影もかなり損耗しているでごじゃるから、そこまで期待しないでほしいでごじゃる」
 「わかっている」
  勇者に付けた影が消息不明……おそらくは動けない状況にいるか、最悪死んでいる。
  その分を含めても連合軍よりは頼りに出来る。
  ともあれ、作戦は決まったな。
  まだまだ先は長い。心臓部は俺達が見つけ、それまで連合軍を休憩させる。
 「リーシア、お前は連合軍と一緒にここで待機、魔物が出てきたら戦え」
 「わ、わかりました!」
 「ラフタリアとフィーロは俺と一緒に探索だ。フィーロ、鼻を使え。頼りにしているぞ」
 「はーい! がんばるー!」
 「了解です」
  リーシアに後を任せ、俺達は複数に分岐した洞窟内の先を進むのだった。OB蛋白の繊型曲痩 Ⅲ

2013年10月4日星期五

仮面の男

「と言う訳で、Lv上げもしたし、盗賊狩りをしようと思う。宝を奪った後はLv上げを再開すればいい」
 「ちょっと待て! 盗品をどうするつもりだ!?」蟻力神
  翌朝。
  キャンピングプラントで休んだ俺達は盗賊が住み着く街道近くの山で準備を整えていた。
  ちなみに突っ込みを入れてきた女騎士は無視した。
  盗賊の宝は俺の物だ。
 「精々40が限界だろうからな、盗賊は」
  クラスアップは信用が無いと出来ない。だから盗賊のLvはそこまで高くない。
  もちろん、ゼルトブルとかでクラスアップをした流れ者とかが居るかもしれないけど、今まで遭遇した試しはない。
  コロシアムで実績が必要なんだろうな。
  しかしコロシアムで稼げる奴が盗賊になるかと言われると微妙だ。
  まあ知った事ではないけど。
 「とりあえず、二人一組でアジトを探してくれ。ボスに関しては、まだ情報が足りない」
  また聞きだし、盗賊は脅しで情報を聞かねば話にならない。
  手始めに数名捕えないとな。
 「えっと、リーシアとアトラ、女騎士と谷子で探してくれ」
 「理由は?」
 「特にない。イヤなら好きに別れてくれ」
 「なんでガエリオンはアンタとなのよ」
 「ボスは一人の奴を狙うらしいから、ガエリオンを偵察に出して、防御力の高い俺は囮だ」
 「ああ、そう言う事か」
 「そっちでも見つけたら魔法なり、照明を撃ちあげろ。ガエリオンに乗った俺が急いで追いつく」
 「ガエリオンに危険な事をさせないで」
 「空を飛ばすにきまってるだろ、メンバーの回収がガエリオンの目的だ」
 「キュア!」
 「なるほど、わかった。では行こう」
  女騎士が納得して谷子の背に手を当てて歩かせる。
 「アトラ、お前は察知能力が高いから頼りにしているぞ」
 「お任せください」
 「では、行ってきます」
  リーシアも落ち着いているのか、アトラと一緒に探し始めた。
 「さて……」
  ガエリオンと俺も、盗賊のアジト探しを始める。
 「ふむ……人の手が入った山だな」
 「街道が近いからな、どこにあるか特定できるか?」
 「多少は……だな、自然に出来た洞窟なのか、それとも砦でも作っているのか?」
 「盗賊によりけりだな。今回の連中は洞窟だと思うぞ」
 「なら難しい。この辺りは洞窟が非常に多い」
 「そうか」
  なんだかんだでガエリオンと話をする機会が増えている。
  普通に話が通じるし、情けないドラゴンだけど頼りにしているのかもしれない。
  というか、フォウルを除けば希少な男だからな。芳香劑
  正直、話していて楽なんだよ。
 「では我も上空から人影を探すとしよう」
 「任せたぞ」
 「ああ」
  バサァっとガエリオンは高らかに羽ばたいて飛んで行った。
  ま、俺が盗賊の不意打ちで傷を負う事はないはずだから、この依頼も余裕だな。
  なんて散歩気分で一人、山道を歩いていた。
  そこに突然――
「アサッシングソード!」
 「グハッ!」
  いきなりの声と共に後ろからグサっと刺されて痛みが走った。
  まあ、すっげー痛いで済む程度の攻撃だった訳だけどさー……。
  血は出たな。鎧はなんか壊れたような音が聞こえた。
  俺の防御を突破するって、なんだよ!
  他の奴等だったら死んでいるんじゃないか?
 「いってえな! いきなり何すんだ!」
  ブンッと盾を振り回して俺を後ろから突き刺した馬鹿を凪ぐ。
  バッと俺を突きさした奴の姿を確認する。
 「正々堂々勝負だ……!」
 「な――」
  俺は自分でも信じられない者を見たと自覚し、絶句してしまった。
  怪しい骸骨を模した仮面を付けて顔を隠しているが、体型、声、武器の構えから、仮面の人物の素顔が浮かんだ。
  天木錬、剣の勇者が真っ黒な禍々しい剣を握りしめて構えていたのだ。
 「チッ!」
  気のせいか前見た時より装備が凄く貧相になっていて、仮面の隙間から見える目付きもやさぐれているのかおかしい。
  いや、俺が言うのもなんだけど、そんな次元じゃない。
  精神的に擦り切れているのか、瞳孔が開いているように見える。
 「れ、錬!?」
 「……ハイド……ソード」
  ゆらぁと錬は陽炎のように姿を消した。
  なんだ? 何か幻覚の魔法でも掛けられて変な幻でも見てしまったのか?
  とりあえず、ハイドなんてスキルを使っている所であやしさ抜群。
  だから俺も交戦状態に入る。
  そもそも正々堂々勝負とかほざいておきながら、背後から突然切り掛かったり、姿を消すスキルを使うとか、どういう神経をしているんだ?
  ゲームシステム上正々堂々とでも言うつもりか?
  それにしても、妙に覇気の無い声だったな。
  まあいい、今は敵に集中しよう。情愛芳香劑
 「ヘイトリアクション!」
  魔物を引きつけるこのスキル。実はもう一つ隠し効果があるのがカルミラ島で判明している。
  それは軽度の潜伏魔法やスキルで隠れている相手を引き摺りだして正体を判明させる事が出来る。
  ラフタリアが幻影剣を放つ時に、俺がヘイトリアクションを使った時だった。
  ラフタリアの潜伏状態が解除されてしまったのだ。
  だから隠れている場合は発見できる。
  また俺の背後に回り込もうをしていたのか、錬が俺の左後方に移動している最中だった。
  ちょっと間抜けな光景だが、逆にイラっとくる。
  その手のスキルを使うなら一度離脱しろよ。
 「く……」
 「お前……錬だろ」
 「…………」
  これが幻覚だったら良かったんだがなー……まさかこんな所に潜んでいるとは。
  もしかしてヴィッチが盗賊の親玉でもやっているのか?
  ……すげぇ似合う。
  アイツは王女の器じゃない。
  どちらかと言えば海賊とか盗賊がお似合いだ。
 「羅刹・流星剣!」
  流星剣のモーションで錬が俺に剣を振るう。
  すると流星剣で飛び散る隕石のような剣の残滓が黒く俺に向かって飛んできた。
 「チェーンバイント! チェーンニードル!」
  ぐ……盾で構えたが、鈍い痛みが走る。
  その隙に、錬が連続でスキルを放つ。
 『その愚かなる罪人への我が決めたる罰の名は処刑による斬首也。叫ぶ暇すら無く、自らの首と胴体の分離に絶望するが良い!』
 「ギロチン!」
  いきなり地面から現れた鎖に体を縛られ、しかも鎖がとげのついた物に代わって俺の肌に突き刺さる。そして俺の頭上に巨大な刃の付いた処刑具が出現した。
  この攻撃……雰囲気から憤怒の盾にあるアイアンメイデンと同系統の攻撃だと思う。
  く……受けてたまる物か。
 「ふざけんなぁああああああ!」
  鎖を引きちぎって、降り注ぐ刃を手で抑える。
  いってぇな。血が出たじゃないか。
  だけど耐えられない攻撃では無かったようだ。
  ぐ……だけどSPがごっそり削られてる。
 「錬……いい加減にしろよ!」
  俺もラースシールドに変えるか? 簡易的にメニューを開き、精錬画面を呼び出す。
  実戦範囲は+4とレアリティR程度で十分だろう。
  プルートオプファーを使うまでもない、アイアンメイデンで仕留めてくれる。
  ボキンボキンと精錬失敗が連続する。三體牛鞭
  ふざけんな!
 「ギャオオオオオオオオオオ!」
  ガエリオンが異常事態を察知して降ってくる。
  よし、そのまま錬を押さえつけろ!
 「転送剣!」
 「あ、てめぇ!」
  俺が掴むよりも早く錬は転送スキルで跳躍して消える。
  な、なんだったんだ?
  錬のフリをしていた魔物か人か?
  いや、俺の防御を突破出来るって相当の化け物のはず。
  もしくはババアみたいな防御無視や防御力比例攻撃でも使わないとダメだろ。
  真後ろからアサッシングソードというスキルを放ってきた。
  スキルや名前から察するに隠蔽状態、ステルス、ハイディングからの必殺攻撃と見て良い。
  しかも……なんかカースシリーズ臭い、禍々しい剣持ち。
  突然、背後からの襲撃って……アイツはネットゲームに出没するPKかなにかか。
  錬だと判明し、盗賊のボスがこの世界の住人では無いとわかった今、完全にやっている事がPK……プレイヤーキラーだ。
  まあVRMMOとか言う怪しいゲーム出身だからな、アイツは。
  そもそも、あれだけ酷い目にあって、未だにゲーム気分なのか。
  俺じゃなかったら即死を通り越して、真っ二つになっているんじゃないか?
  本当、反吐が出るな。
 「大丈夫か?」
 「ああ……だけど」
 「そうだな、我も見ていたぞ」
  ガエリオンが殺気を放つ。
  谷子との生活、そして自分の命と妻を奪った宿敵だからな。
 「なんなんだ、この山は」
  とりあえず、受けた傷の回復をするために、俺は回復魔法を唱える。
  ああ、ちなみにプルートオプファーの呪いの所為で、あのギロチンってスキルの攻撃は凄く痛かった。
  しかも回復が遅い……。
  谷子と合流して、サディナから教わったという聖水の能力向上魔法で辛うじて完治させるに至った。
  盗賊探しをして僅か三十分。俺は今回の任務の先行きが非常に不安になるのだった中華牛鞭

2013年10月2日星期三

ラフのラフ種

 夜、温泉で治療をし、火照ったままポータルで帰還した俺は呪いの所為で作業が出来ず、且つ訓練をする程でもない程度に暇なのでラトの新築した研究所に顔を出した。
 「ラフー」
 「タリー」
 「リーアー」
  ……おかしくなった俺に改造された魔物共が出迎えてくれる。SPANISCHE FLIEGE D6
  一応ラフ種の亜種扱いで、肌触りは悪くない。むしろ良い。
  元キャタピランドの魔物は、ラフ種に改造された事を大層喜び、Lv上げの戦闘組で頑張っている。
  見た目は大型ラフ種で、尻尾が僅かに名残がある程度だ。
  どう名残があるかと言うと、尻尾に芋虫の足があって常時地面にぺたりと付けている。
  尻尾と言うか……昆虫の腹みたいな感じの、あれだ。
  カチカチと石板で何かをうちこんでいるラトに挨拶をする。
  ん? サディナも居る。
 「調子はどうだ?」
 「ラフー」
 「ナオフミちゃん。今日は良い夜ね。お姉さんと飲み比べしない?」
 「しない」
  補佐するようにミー君だったかが俺を出迎えるが、俺は無視した。
  先入観なんだろうが、コイツはなんか気に食わないんだよな。
 「ああ、侯爵……よく平然と私の所へ来れるわねー……その根性は侯爵らしいけど」
  ラトが嫌味を言っている。
  まあ気持ちはわかるが、いつまでも罪悪感に浸ってなどいられない。
  鳳凰との戦いが目の前まで迫っているんだ。
  やるべき事は一つ一つやっておかないといけない。
  それに……メルロマルクとは直接的な関係こそ無いが、城下町が少しピリピリしていたしな。
  波でもそうだが、やはりこの時期は慎重になってしまう。
 「こいつ等を改造したのは俺じゃない。俺を乗っ取った何かだ」
 「わかってるわよ」
 「サディナの治療中だったのか?」
 「ううん。そっちは既にやってるとこ、と言うかミー君を相手に呑み比べしないで」
 「ラフー」
 「あはは、だってこの子お酒強いからお姉さん楽しいんだもん」
  ……よく見たらミー君って奴の造詣が滅茶苦茶だ。
  ラフ種っぽいけど何か違うようだ。
 「ミー君。そろそろ寝なさい」
 「らふー」
  なんかイントネーションもおかしい……って溶けた!?
  ドロドロと形を崩し、這うようにミー君はズルズルと気色悪い音を立てて、部屋から出ていった。
  トラウマになりそうだ。
 「で? 侯爵は何の用?」
 「ああ、調子はどうかと思ってな」
  前々から心配はしていた。
 「そうね……正直な所、おかしくなった侯爵の研究は、悔しいけど称賛に値するものね」
 「……」
 「気にしてるのはわかっているし、認めたくないけど、なんて言うか……これだけの事が出来る天才なんてまずいないわ」SPANISCHE FLIEGE D5
 「どう天才なんだ?」
 「まずは副作用とかそう言うのが殆ど無いの。それでありながら確実な成果が目に見えて存在する。治療中だった子然り、魔物達然り」
 「副作用ねー……」
 「治療前の……ここで治療中だった子達いるでしょ? ああいう、犠牲者が確実に出る類の物ばかりなのよ」
 「そう言う連中無しで作り上げたと」
 「ええ」
  俺もあいつ等、治療を受けて俺を神と呼ぶ連中は見ている。
  それだけで良かったとは思うけど、その先の改造は余計だと思う。
  一応は本人達が望んだらしいが、超えちゃ行けない一線は超えるなよと。
 「自分にもしもの事があったらってミー君の中に情報を詰めた魔石を埋め込んでいたみたいでね。私のやりたかった事の設計図もかなり入っていたわ」
  と、ラトが石板を操作して画面を映し出した訳だけど……正直、内容は全然理解できない。
  それほど、高位な物だ。
  俺がやったと言われても、信じられない。
 「これをなぞれば私のやりたかった事の大半が叶うけど……って粗を探していたって訳」
 「で? 結果は?」
 「完敗よ。悔しくて涙が出るわね」
 「じゃあ成長する武器とかも作りだせるのか?」
 「そこは手を入れてなかったわ。どちらかと言うと新種の創造に力を入れていたみたいだから」
 「ラフ種か」
 「ええ、仮名だけどね。正式名称はどうする?」
  既にラフ種でイメージが固定されているんだが。
  何か付けるとしても、元がラフタリアだからな。
  そもそもラフタリアが元だからといって、ラフだのタリだのリーアだの、安直過ぎるよな。
  まあ、今更考えるのも面倒か。
 「そのままラフ種で良いだろ?」
 「タリ種、リーア種とか色々とあるのよ。それを纏めてラフ種ね。わかったわ。フィロリアルのアリア種みたいな感じで、ラフのラフ種と」
  う……なんか呼び名を考えよう。
  ラフタリアのラフ種とか決めたら怒られそうだ。
  さすがにそんな名前にはしないが。
 「俺としては第七世代ラフ種と第一世代ラフ種の違いがわからないんだが」
  撫でても感触は同じだし、違いがよくわからない。
  出来る技能に違いがあるっぽいけど。
 「デフォルメしたラフタリアみたいな奴は数が少ないが、アレはなんなんだ?」
 「アレは第七……侯爵にわかりやすく言うと七日目に作られたラフの一匹と言うべきかしら?」
  日数か。
  じゃあタヌキとアライグマ、レッサーパンダの混合魔物はラフ種の基礎で、デフォルメラフタリアはその亜種と見て良いのだろう。
 「ミー君だったか。アレはラフ種の第何世代なんだ?」K-Y
 「一応はあの体は八日目に作った物なのかしら? よくわからないけど、日によって違うし、換装も出来るわ。構造は大きく違うようよ」
 「換装って……まるでロボットだな」
 「ロボット?」
 「この世界で言うゴーレムの事、というのが一番近いか」
 「へぇ……」
 「で、どう違うんだ?」
 「まず、あの体はスライムの概念を取りこんである。肉塊と呼べる要素があるわ」
  肉塊……。
  ちょっと引くぞ。その表現。
 「衝撃も斬撃にも魔法にも強靭な防御力を持っている」
 「隙がないな……」
  俺の勘が告げている。
  あいつの弱点は、おそらく――。
 「ただ、弱点と呼べる要素として、水を被った状態で伝導率の高い魔法を受ける、動きが止まってしまうのと内部のコアにダメージが入るわ」
 「他に大きな衝撃で肉塊を弾けばコアが露出するとかだろ?」
 「正解、さすがは侯爵ね。問題は相当強い力で露出させないといけないけど。それを受けたら終わりね」
 「アイツは裏切り癖があるんじゃないか?」
 「あー……ミー君? どちらかと言うと強さに貪欲なのよ。弱い所為で奪われ続けちゃって……でも私は信じてくれているわ」
 「はいはい。そう思っているのはお前だけなんじゃないか?」
  我が子はかわいいって奴だな。
  ラトは魔物に対して親みたいなポジションだし。
 「違うわよ。おかしくなった侯爵の塔の半分は、あの子が暴走した振りで破壊したんだから」
 「そうなのか!?」
 「そうよ。塔の重要拠点の守りから外されたら、穴を開けて近道を作ったり、防御装置を破壊したり、塔を守ろうとした子の邪魔をしたりと、下手をすれば廃棄されるような事をしてたわ」
 「よく、捨てられなかったな」
 「そこは……勇者相手に善戦したりと活躍もしてたから……かしらね」
  役には立つが暴走が……って奴?
  性能を考えれば制御できれば優秀だから残したって事か。
 「侯爵も暴走に関して相当、手を焼いていたみたいよ。何重にもセキュリティを掛けようとしていたみたいだし。まあ、ミー君はその辺りのログを弄ってたみたいだけどね」
  と、ラトは石板の画面を移す。
 「ミー君。どうやらこの錬金装置を手に取るように操れる様に技能を詰め込まれたみたいなの」
  う……途端に難しい事を。
  えっと、俺の常識で簡単に言うと、インターネットの世界に物理的に入る事が出来るような物で、ログと言うノートに書かれた記述を消しゴムで簡単に消して書きなおせるような……感じ?
  俺がパソコンを動かし、やっとの事ネット内の的に当てる事が出来るのに、あっちは目の前の目標を指一つで壊せるとか……それに近いかも。曲美
  まあ、ファンタジーの世界でパソコンが一台あっても出来る事なんてタカが知れているけどさ。インターネットで世界中につながっている訳じゃないし。
  つまり、ログを見て暴走を直そうとしていたけど、本人が暴れて邪魔してただけな訳ね。
  最終的に改造を終えた後、ラトの方について、おかしくなった俺を裏切ったと。
  やっている事は一応、サディナとおんなじか。
 「一応、私が作ったラフ種のホムンクルスボディに換装する予定」
 「なんでだ?」
 「まだ未完成だったみたいなのよ。だから問題を抱えているみたい。とはいえ、殆ど完成って所だけど」
 「そうか」
 「話終わったかしらー?」
 「まあな。ところで、そっちはどうなんだ?」
  俺はサディナの体に関して尋ねる。
 「ああ、まあ……大分良くなってきているわよ。明日には毛は無くなるかしらね」
  ボロボロと見ればサディナの毛が少しずつ落ちて黒と白のあの色合いが見えている。
  トドっぽい牙も既に無い。
  何でも折ったその場で生えてくるとか楽しげに言ってたけど。
 「ただ……」
 「ただ?」
 「……なんでもないわー」
 「そうか?」
  気にしたら負けだな。
  軽いのがコイツの強みだし。
 「ナオフミちゃんはどんなお姉さんが好み? やっぱモフモフしている方が良いのかしら? ラフ種ちゃんみたいに」
 「いやー……」
  お前の茶色は目と心に痛い。
 「サディナは自然体の方が良いな。その流線型はそれはそれで味がある気がするし」
 「あらー……褒められちゃった。恥ずかしいわお姉さん」
 「はいはい」
  とまあ、村でも年齢の高い女二人と話をしてから、俺は家に帰るのだった。sex drops 小情人