「やられたな。」
苦々しげにハルツが言った。
昨夜、ゼスト達が張った野営地は、きれいに撤収されており、跡形もなくなってしまっている。
ハルツとは対照的に、アズの表情は銀杯亭で顔合わせをした時のように、ほとんど表情らしいものを浮かべてはおらず、表面上は酷く冷静だ。SEX DROPS
蓮弥は、と言えば、なんだかなーと言う微妙な表情で、左頬の辺りをぽりぽりと人差し指でかいている。
その頬は、殴られたのか張られたのかは判別できなかったが、赤くなっている。
何があったのかをハルツは非常に気になっていたのだが、少し離れた所に蓮弥のパーティメンバーであるシオンが、真っ赤な顔をして身体を縮こませながら正座しているのを見て、なんとなく尋ねてはいけないことなのだろうと察した。
あの猛烈な睡魔になんとか抵抗した後。
蓮弥は必死になってシオンとローナを起こしにかかったのだが、かけられた魔術のせいなのか、それとも二人とも寝起きが悪いのか、もがいたりゆすったりする程度では全く目を覚ます気配がなかった。
最終手段として蓮弥が取った手段は、シオンが抱きついている側の手をわきわきと動かして、シオンの身体をくすぐると言うか、まさぐることだった。
場所的に、ちょうど胸の辺りに手があったような気がしている蓮弥だったが、実際どこを揉んだのかは、怖くてシオンに聞けずにいる。
とにかくなんだか柔らかい感触を揉むことしばし。
その不穏な感触に、ぐずりながらシオンが半分寝ぼけたままで覚醒し、頭を起こして状況を確認。
自分の体勢と、どうやら身体をまさぐられていたらしいことに気がつくと、意識がはっきりするにつれて顔色が赤く染まり始めた。
その拳が握り締められた時に、蓮弥が思ったのは、俺は悪くないと言う事だった。
悪くないはずなのだが、状況的に一発殴られるくらいは甘んじて受ける必要があるだろうことも理解していた。
歯か骨が折れなきゃいいなぁと思いつつ、振りかぶられた拳を見ていた蓮弥は、その拳が振り下ろされる瞬間、ぐいっとローナが抱きついている側に引っ張られて、次いで頬に軽い衝撃を感じ、ローナに抱きつかれたままごろごろとテントの端まで転がる羽目になったのだ。
打撃とは衝撃の方向に身体を逃がすことで、ダメージのかなりの割合を逃がすことが出来る。
引っ張られたのは、シオンの攻撃に気がついたローナが間一髪の所で蓮弥が受けるダメージを少なくする為にやってくれたらしい。
そこまで意識があったのなら、シオンを止めてくれればよかったのにと思わないでもなかったが、まともに攻撃を受けずに済んだだけ、感謝しなくてはならない。
むしろ、抱きついたまま転がったおかげで、あっちこっちにむにゅむにゅと色んな物が当る感触があったので、後で心の底からお礼を言おうと思う蓮弥だった。
それはともかくとして。
やっとの思いで寝袋から這い出して、身支度を整えてからテントの外に出てみれば他のパーティも魔術の攻撃を受けたらしく、地面に大の字になって眠っている人やら、テントにもたれかかって大いびきをかいている人やら、まだ眠気が残るのか、頭を振りつつテントから出てくる人が見える中、ゼスト達のテントだけがきれいに消え去っていたのである。
「抜け駆け?」
「おそらく、な」
蓮弥が短く問えは、ハルツも短く答えた。
「年の若いダンジョンは階層も浅く、広さもそれほどでもない。出現する魔物の強さも弱いのが普通だ。それでも念を入れて複数のパーティで攻略するのが一般的なのだが……」
「自分らだけでイケると思ったと言うことか」
「たぶんな。用意されている宝物も大した事はないだろうから、ここの目当てはダンジョンコアだけになる。守護者も弱いだろうから、早い者勝ちだと思って他のパーティの足止めをしたのだと思う」
「ふーん」
蓮弥の気のない返事に、おやっと言う顔になるハルツ。
先を越されていると言うのに、蓮弥の顔には焦るような様子も見えない。
気になったハルツは尋ねてみることにした。蒼蝿水
「余裕だな。ダンジョンコアは大きさにもよるが、こんな若いダンジョンのでも金貨数十枚くらいの価値はあるはずだ。惜しいとは思わないのかな?」
「別に」
蓮弥の返事は非常にあっさりとしたものだった。
その淡白さが、蓮弥が本当にそう思っていることの証明になる。
「奴らだけでダンジョンを攻略してくれるなら、こっちとしては助かる話だ。確かにコアの売却額は惜しいが、何もしなくても依頼の報酬は手に入るわけだしな」
「同感だ」
蓮弥の言葉に賛同の意を示したのはアズであった。
驚いた顔でそちらを見るハルツに、何を驚いているのだろうと不思議そうな顔でアズはその顔を見返す。
「働かずに金がもらえるのだ。あの茶髪に感謝状を一筆したためてもいいくらいだ」
「いい考えだな。奴らが出てくるまでに書いておこうかな」
「お前ら……」
暢気に会話する蓮弥とアズの様子に、呆れるハルツ。
いくら若いとは言っても、ダンジョンを一つ攻略したとなれば、そのパーティには箔がつくだろうし、ダンジョンコア一つで依頼料の何倍もの報酬になる。
それらを目の前で掠め取られたと言うのに、全く気にしていない二人に、ハルツは自分の考え方が古いんだろうかと、半ば本気で悩んだ。
だが、悩んでいても仕方がない上に答えも出そうになかったので、気分を切り替えてハルツは言う。
「奴らが失敗したらどうするんだ?」
「「攻略しなおせばいいだろう?」」
返答はハモって返ってきた。
そうなるか、と思ったハルツだが、続く蓮弥の言葉には驚かされた。
「失敗しても、ザコ辺りの露払いは済んでるだろうから、奴らが失敗する原因となった奴だけに気をつければいいってことだな」
「なるほど、とても効率的な意見だ。レンヤと言ったか、合理的な考え方は賛同するし素晴らしいと思う」
「いやいやお前ら、助けようとかしないのか?」
おかしな部分で意気投合しかけているアズと蓮弥に、ハルツが慌てて口を挟むが、二人同時に何を言ってるんだこいつは、と言う顔をされて口を閉ざす。
自分は何か間違ったことを口走っているのだろうかと考えるハルツに、呆れ返った口調で蓮弥が言う。
「勝手に先走って、勝手に失敗した奴の尻拭いなんてごめんだぞ?」
嫌そうに言う蓮弥に、アズが然り然りと頷いている。
「全くだ。勝手に先走ったのだから、せめて逃げ帰るような真似などせずに、潔く全滅するべきだろうな」
「力尽きる前に、一太刀でも入れてればベストだな」
「そうだな、それくらいしていれば、墓前に花の一つも手向けてやってもいい」
「墓前って……遺体を持ち帰るのか? 俺は嫌だぞ、そんな面倒」
「それもそうだな……ダンジョン消滅時に、一緒に消えてくれれば面倒もないか」
「お前らなぁ……」
あまりと言えばあまりな言い草に、呆れを通り越して嘆息しか出てこないハルツ。
それに取り合う気もないアズと蓮弥はそれぞれのパーティに、急ぐことはないので朝食の用意をするように指示を出し始めていた。勃動力三体牛鞭
「いいんですか?」
シオンがまだ、赤面で正座中なので、ローナが蓮弥に囁く。
それに鷹揚に頷く蓮弥。
「そんなに広いダンジョンじゃないと言うなら、お昼過ぎ辺りまで待っていれば、成功にせよ失敗にせよ、なんとなく結果が分かるんじゃないかな?」
そんなことより朝ご飯だよ、と手際よく薪を細かく割り、蓮弥は火をつけてから、イベントリから取り出した、フライパンに似た調理器具を火にかける。
わずかに油をひき、やや厚手に切ったベーコンを二枚敷く。
それが焼けていい匂いを発するのを待ってから、何から生まれたのかは分からなかったが間違いなく卵であるとわかるものを割って中身をフライパンもどきの上へ流す。
ベーコンはやはりカリカリになるまで焼いた方が美味しいと信じる蓮弥は、ベーコンにも卵にもしっかりを火を通してからそれを皿の上へと移動させる。
目玉焼きにはソース派の蓮弥であったが、この世界においてはいまだ、元の世界のそれに該当するものは、発見できずにいる。
代わりに、醤油ではなかったが、塩漬けにした魚から作られる魚醤は見つけたのでそれをさっとかけてやれば出来上がりだ。
これにサラダとパンをつけてやれば、朝食としては十分だろうと思うのだが、残念なことに、この世界で一般的に流通しているパンは、固すぎて単体では食べにくい。
仕方がないので、この世界では少々高級品であったが、ミルクに塩と宿からもらってきたスープを少々混ぜて熱し、そこへ小さく砕いたパンと見た目、トウモロコシに見えた野菜の粒をほぐしたものをぱらぱらと入れた。
コーンスープもどきにクルトンを入れる感覚で作ってみたのだが、味見をしてみればまぁまぁ食べられる代物に出来上がった。
これを皿に盛って、野菜サラダを加えて朝食の出来上がりである。
サラダには塩と胡椒と酢で作った簡単なドレッシングをかけてある。
「朝食も豪勢だな」
ようやく現実に復帰したらしいシオンが、食卓の上を眺めて感想をもらす。
豪勢と言われる程のものでもないんだけどなぁと言うのが蓮弥の感想だ。
宿で仕込んできたものが上手に出来上がれば、もっと格好のいい食事になるんだがなぁと思うのだが、こればかりは時間しか解決してくれない問題だった。
「食事が美味いことはいいことだろう? さ、冷めないうちに……」
食べようかと言いかけて、蓮弥はすぐ隣で、これもまた昨夜と変わり映えのしない干し肉とパンの食事を手にしたまま、なんだかこちらをガン見しているアズのパーティに気がついた。
昨日の夕食に続く今朝の朝食が羨ましいと見えて、手にした食事を摂るのを忘れて蓮弥達の食卓を見ている。福源春
「お隣に、サービスしてもいいかね?」
「蓮弥が良いなら、良いんじゃないかな?」
「そうですねぇ、反対はしません」
二人の了承を得てから、蓮弥はアズに声を掛けた。
「そんなもの欲しそうな目でこっちを見るな。欲しいなら分けてやるがどうする?」
「ん……、そうか? 良い匂いがするし、美味そうだったので、分けてもらえるなら嬉しいが、こちらの全員にもらえるのか? 」
「仲間外れはせんよ。外された奴が可哀想だろ。あの、おっさんのパーティにも……っておっさんのパーティはどこ行った?」
見回した周囲にハルツのパーティの姿がなかった。
「ハルツ達なら、ゼストを追いかけると言ってダンジョンに入って行ったよ」
面倒見がいいのか、金に汚いのか。
判断に迷う話ではあったが、どちらにせよハルツ達はゼストのパーティの同行を傍観すると言う選択肢を取れなかったようだ。
「それはまた勤勉な。あ、食器は貸すが返せよ? あとスープは分けるがパンはその手にしてるやつを食ってくれ。おかわりは無いのでそのつもりで」
「スープが飲めるだけでも感謝する」
おかわりがあるかもと思って、スープは多目に作っていたのだが、とても大人5人に分けるには足りる量ではなかったので、材料を注ぎ足して増量する。
宿からもらったスープが尽きてしまったので、やや乳臭くなってしまった感じは否めなかったが、自分達で砕いたパンとちぎった干し肉を入れたアズのパーティメンバーから、蓮弥のスープは概ね好評をもって迎えられた。
やはり多少質素でも、美味しくて暖かい料理は何を差し置いたとしても優先されて然るべきだなと、蓮弥は改めて確認した。
「昼はパスタでも茹でるか。野菜に肉に胡椒にチーズもあるし、トマトっぽい野菜も仕入れてあるから、完璧だな」
もちろん、用意した食材は全て味見済みであった。
銀杯亭での顔合わせが、思ったよりずっと早くケリがついたので、出来た時間を市場回りに費やした成果、とも言える。
普通に四日分のパンと干し肉を調達してきたローナからは、物凄い勢いで恨み言を言われたと言うオチもついてきたのだが。
「そんな水をどこから持ってくると言うのだ?」
半端な量の水では、パスタを茹でることなど出来はしない。
そして普通の冒険者はそんな量の水を、わざわざ料理をするために仕事中に持ち歩いたりすることは絶対にない。
「俺、虚空庫持ち。水なら樽に入れてどっさりと」
ついでにパスタを茹でるために底の深い鍋も、きちんと購入して持参している蓮弥である。
「……取引がしたい。話に乗って欲しい」
割と真剣に、かなり切実な表情でアズが切り出すと、蓮弥はにっこりと笑った。花痴
「いいだろ。俺は取引なんかには割と良心的な男なんだ。さて、何が出せるかね?」
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