2014年9月12日星期五

それぞれの場所で

「アルトリアさん、どこ行った?」

 俺は、ギルドから飛び出したアルトリアさんを追うべく、俺も外に出たが、もうすでにアルトリアさんの姿はなかった。

「……人が多すぎて近くにいても分からねぇかもな……」SEX DROPS

 この王都テルベールは、人が驚くほど多い。だから、一度はぐれると、なかなか会えないのだ。

「そうだ! 『索敵』のスキルがあるじゃねぇか」

 俺の習得しているスキルの中にある『索敵』は、半径500メートル以内にいる生物を察知できる効果がある。
 そうと分かれば、早速使ってみるに限るだろう。
 俺は、すぐに『索敵』のスキルを発動させた。
 そして――――項垂れた。
 俺……何で気づかなかったんだろう。
 索敵のスキルは、確かに生物の存在を察知することができる。
 でも……。

「個人の特定なんてできねぇよ、バカ……!」

 俺が索敵スキルを発動させた結果、俺の半径500メートル以内の全生物に反応してしまい、あまりの多さに眩暈が起こった。

「これじゃあ、どこに行ったのか分からねぇぞ」

 まあ、人に訊けば分かるだろう。
 黒龍神の過去を見て思ったんだ。……コミュニケーション、大事だね!
 俺は、近くを通りかかった女性に話しかけた。

「すみません! 少しよろしいですか? 人を捜してて……」
「ええ、別にいいわよ。……って、あら? 誠一さんじゃない」
「え? ……あ、アドリアーナさん!?」

 何という偶然だろう。俺が話しかけた相手は、なんと狼を犬と称して飼っている、伯爵夫人のアドリアーナさんだった。世間って狭いね。

「どうしたの? 人を捜してるって……」
「ええっと……アルトリアさんを捜してるんですけど……見てないですか?」
「え? アルトリアちゃん? うーん……見てないわ」
「そうですか……」
「ごめんなさいね? 力になれなくて……」
「あ、いいえ! えっと……ありがとうございました」
「どういたしまして」

 アドリアーナさんに礼を言い、別れようとしたときだった。
 アドリアーナさんは、ふと思い出した様子を見せ、俺に言う。

「あ、そうそう。誠一さん」
「はい?」
「アルトリアちゃんの体質……知ってるかしら?」
「ええ、まあ……」
「なら、一つお願いしていいかしら?」
「え?」

 突然のお願いという言葉に、俺が間抜けな声を出すと、アドリアーナさんはほほ笑んで言う。

「アルトリアちゃんと、これからも仲良くしてあげてくれないかしら? アルトリアちゃん、ああ見えて凄く繊細で、優しい子なのよ」
「それはもう……凄く分かります」
「だから、少しでいいの。アルトリアちゃんに、寄り添ってあげてほしいのよ」
「寄り添う?」

 アドリアーナさんの言葉の意味が分からず、首を傾げる。
 すると、アドリアーナさんはクスリと上品に笑い、続けた。

「分からないなら、それでもいいわ。ただ、今誠一さんがアルトリアちゃんを捜しているように、少しでいいからアルトリアちゃんを気にかけてほしいのよ」
「……よく分からないですけど、アルトリアさんは、俺にとっても大切な人です。だから……」

 俺がそこまで言うと、アドリアーナさんは笑みを深めて、俺の続きを遮った。

「なら、大丈夫ね。さ、アルトリアちゃんを捜してあげてね? 王子さま♪」
「王子さまって……」

 思わずアドリアーナさんの言葉に苦笑いしてしまった。
 そしてすぐ、アドリアーナさんと別れ、再びアルトリアさんを捜し始める。

「もう一度、誰かに訊こうか……」

 そう思い始めた時だった。
 俺は、今の状況にとても都合のいいアイテムを持ってたことを思いだした。

「あるじゃねぇか……『指針石』!」

 アイテムボックスから取り出したのは、銀色の指針石。
 黒龍神の迷宮では、あまりにも入り組んだ場所なうえに閉鎖的空間だったため、活躍はあまりしなかった。……まあ、その遮っていた壁をぶっ壊して突き進んだのは俺なんですけど!
 だが、今は外である。
 方向さえ分かれば、屋根の上でも辿って行けるのだ!
 指針石を浮かべ、アルトリアさんのいる方角を調べる。
 すると、すぐに指針石は一つの方向に向いて、進み始めた。

「なるほど……この方向にいるんだな」

 指針石をアイテムボックスに仕舞いながら、その方角を眺める。

「……あれ? この方向って……」

 そんなことを思いながらも、早速アルトリアさんに追いつくべく、指針石の示した方角へと走り始めた。



「やっぱり……」

 指針石を辿り、着いた場所は見覚えがあった。

「ここ……俺が最初の依頼を受けた場所じゃないか」

 そう、俺のたどり着いた場所は、ギルドの試験で、最初に受けた依頼……『廃墟の解体』で行った場所だった。
 スキルを使わずに俺が感じられる中で、周囲に人の気配はない。
 ただ、俺が何も考えずに壊した、廃墟の瓦礫があるだけだった。

「……」

 俺は、無言で索敵のスキルを発動させた。
 すると、周囲に人がいないだけあり、すぐにアルトリアさんの反応が見つかる。
 その場所まで、俺は何の躊躇いもなく歩いて行った。蒼蝿水
 そして――――見つけた。

「アルトリアさん」
「……」

 アルトリアさんは、瓦礫の陰に隠れて、膝を抱えて座っていた。
 俺が声をかけると、肩をピクリと動かしたが、無言のままである。
 そんなアルトリアさんの近くに、俺も腰を下ろした。
 アルトリアさんは、俺に背を向けているため、表情が分からない。
 無言の時間がしばらくの間流れる。
 無言の時間が続くが、俺からは何も言わない。
 なんて言葉をかければいいのか分からないのもある。……だって、いきなり飛び出した理由が分からないからな。
 でもそれ以上に、今はアルトリアさんから切り出してくれるのを俺は待ちたかった。
 そんな俺の思いが通じたのか、アルトリアさんは小さな声だったが、口を開いた。

「なあ……誠一」
「……何ですか?」
「オレは……本当に要らない人間じゃ……ないのか?」
「……はい」
「オレみたいなヤツ……いても迷惑なだけだろ?」
「そんなことありません。絶対に」
「……本当に、嫌じゃないのか……?」
「……はい。みんな、アルトリアさんが大好きですよ。サリアも、ガッスルも、エリスさんも……全員、アナタが大切なんですよ。俺だって、アルトリアさんが大好きです」

 アルトリアさんの静かな問いかけに、俺は全部真剣に答えた。
 どれも嘘なんかじゃない。俺の本心である。
 アルトリアさんは、決して要らない人間なんかじゃないんだ。
 大好きって伝えるのはメチャクチャ恥ずかしい。でも、本心なんだから仕方がない。
 だって、口にしなきゃ伝わらないもんな。
 俺の言葉を聞いて、アルトリアさんは俯き、肩を震わせた。

「そう……か」
「……」
「……オレが、周りのみんなを大切に思うように……オレも……皆にとって、大切な存在だったんだな……」
「……」
「……うぅ……グッ……」

 アルトリアさんは、抱えていた膝に顔をうずめ、声を必死に押し殺しながら泣き始めた。
 こんな時、俺は一体どうすればいいんだ?
 賢治や翔太なら、こういった場面にも慣れてるんだろうけど、生憎俺は地球では非モテ街道を爆走していたんだ。女性を慰める術なんて知らない。
 ただ、目の前で泣いているアルトリアさんに、俺はどうすることもできないのか?
 力を手に入れても、心を救うことはできない。
 俺は純粋な武力とは違う、他の大切なモノに対する無力さを思い知らされた。
 そんなとき、ふとアルトリアさんを捜していたときのアドリアーナさんの言葉が頭に浮かんだ。

『アルトリアちゃんに、寄り添ってあげてほしいのよ』

 ……寄り添う?
 寄り添うって……どうやって? 物理的に? それとも心に?
 ……物理的にはおかしいだろ。
 だとすれば、心に寄り添うって……。
 どんどん混乱していくなか、俺はサリアがアルトリアさんにしてあげていたことを不意に思いだした。

『アルトリアさん! ぎゅーっ!』
「――――」

 サリアの行動を思い出した瞬間、俺はすでに体が動いていた。
 まるで、サリアに促されたかのように……。

「え……?」

 俺は、アルトリアさんを後ろから抱きしめていた。
 サリアがアルトリアさんを抱きしめたとき、純粋にアルトリアさんの心の不安を見抜いたサリアの洞察力に感嘆していたけど、そうじゃないんだ。
 アルトリアさんは、不安から解放されて嬉しいと同時に戸惑っているのだろう。
 今まで災厄の種でしかなかった自分を、みんな好きだというんだ。逆に、これからみんなとどう接すればいいのか……そんな不安が今は渦巻いていると思う。
 今さらだけど、子供が不安になったとき、どれだけ親という心の拠り所が大事なのか分かった気がする。
 親は、子供が不安に思っていても、優しくそれを包み込めるだけの力があるんだ。
 そして、サリアは孤児院のときもそうだが、天然で母性があるらしい。
 あのアルトリアさんをサリアが抱きしめた時、サリアは不安な気持ちを見抜いただけじゃなく、安心できるように包み込んでたんだな……。
 だけど今、そのサリアはいない。
 アルトリアさんの拠り所になれる人間は――――俺しかいないんだ。
 全然頼りない心の拠り所だけど、少しでいい。アルトリアさんに寄り添えれば……。

「大丈夫ですよ。不安に思うなら、俺がアルトリアさんのそばにいます。いつまでも、アナタが安心できるまで」
「なっ!? あ……あぅ……うぅ……」

 …………。
 ……あれ?
 少しでもアルトリアさんの不安が解消されればいいと思って、サリアのマネして抱きしめてみたんだけど……。
 ……なんかいつの間にか泣き止んでるようだし、顔は見えないけど、綺麗な銀髪から覗く耳が、目に見えて真っ赤になっている。
 ……いや、よくよく考えれば、俺……メチャクチャ大胆なことしてね?
 俺の頭がそう理解した瞬間、俺は顔が熱くなるのを感じた。ああ……今、俺の顔絶対に真っ赤だよ……!
 いや、落ち着け! いくらなんでも不謹慎だぞ! アルトリアさんの心が少しでも安らげばと思ってやってるんだ!
 ああ、でも……アルトリアさん、いい匂いだな。
 ……じゃねぇよ!? 何で俺が安らいじゃってんの!?
 あ、ちょっと待て! 俺、臭くないよね!? 大丈夫だよね!?
 称号の『臭い奏者』で一応完全カットはしてるんだけど……。あ、俺の方が不安になってきた。誰か俺を優しく抱きしめてっ!
 なんとも締まりのない俺だが、俺に後ろから抱きしめられた状態のアルトリアさんが、俺の腕を軽く叩いた。

「もう……大丈夫だからよ」
「え? あ、ハイ!」

 あまりの恥ずかしさに勢いよく離れる。
 するとアルトリアさんは、顔を真っ赤にして、モジモジし始めた。

「そ、その……なんだ。えっと……恥ずかしかったけどよ……」
「……」

 俺も恥ずかしかったです! ……と叫びたかった。でも自重。

「だ、抱きしめてくれて……ありがとう……な……」
「……」

 頬を赤く染め、恥ずかしそうに上目づかいでアルトリアさんはそう言った。
 ……サリアで多少なりとも美少女耐性はついていたと思うんだ。
 でも……ダメだった。破壊力がヤベェ。全然耐性ついてないじゃねぇか。
 結果として俺は、アルトリアさんの仕草に、惚けるしかなかった。
 また、何とも言えない微妙な空気が、俺とアルトリアさんの間を流れる。
 ……それよりも、アルトリアさんが今まで避け続けてきた人間と向き合うキッカケができてよかったと思う。
 それでも、アルトリアさんの抱えている呪いは解けていない。勃動力三体牛鞭
 アルトリアさんの知り合いも、呪いを解く方法を探しているらしいが……。
 しかし……運のステータスがマイナス200万か……。改めて考えると、凄まじい数値だよな。
 あのアルトリアさんの≪災厄を背負う者≫の呪いがある限り、アルトリアさんは一生辛い思いをしないといけないんだろう。
 なんとかできないのか? 何か、今の俺にできることが……。
 ……チクショウ。まったく見当もつかねぇ……。
 アルトリアさんの運の数値が、マイナスじゃなかったらいいのに……。
 …………。
 ……マイナスじゃ……なかったら……?

「!?」

 俺は閃いた。
 この、アルトリアさんの呪いを解く方法を……!

「アルトリアさん! 手! 手をだしてください!」
「はあ?」
「お願いします!」

 俺がそう頼むと、アルトリアさんは訝しげな表情を浮かべながらも、左手を差し出した。
 俺はすぐにアイテムボックスからある装備品を取り出す。

「お、おい。一体何のつもりだ?」

 アルトリアさんが戸惑いの声をあげる。
 だが、今の俺にはそんな声がまったく耳に入ってこなかった。
 そして、俺が取り出した装備品は――――宝箱からドロップした、『不幸の指輪』だった。
 取り出した不幸の指輪を、アルトリアさんの指に嵌めようとして気づく。
 ……どの指に嵌めればいいんだ?
 そういえば、この不幸の指輪……自動で装備者に合わせて大きさを変えてくれるといった説明がなかったな……。
 もしかしたら、アルトリアさんのどの指にもピッタリ嵌る場所がないかもしれない。
 ……ええい! アルトリアさんの運が俺の運を打ち消してる今、残りのマイナス分はこの指輪に打ち消してもらうぞ!
 というわけで、ほとんど運任せで俺は、アルトリアさんの指を一つ一つ確認していった。

「せ、誠一?」

 ふと視線を上げれば、顔を真っ赤にして、目を潤ませているアルトリアさんの姿が!
 ……このままでは、あまりの可愛さに見惚れてしまいそうなので、意識を再びアルトリアさんの左手に移した。

「えっと……」
「……親指……ダメか。人差し指は……ダメだな。なら中指……クッ!」

 残るは薬指と小指か……。
 小指は、アルトリアさんの指でも明らかにぶかぶかすぎる。
 なら、薬指しかねぇな。
 そう結論付けた俺は、そのままアルトリアさんの薬指に指輪を嵌め込んだ。

「なあッ!?」

 おお! ピッタリ!
 運よくアルトリアさんの指にピッタリ嵌り、思わずフードの下で笑顔になったときだった。
 突然、アルトリアさんの指に嵌めた不幸の指輪が、神々しい輝きを放ち始めた!

「な、何だ!?」
「っ!」

 驚く俺と、呆然とするアルトリアさん。
 不幸の指輪は、俺の目の前で輝き始めたにもかかわらず、目にダメージはなく、むしろ俺とアルトリアさんを包み込むような、柔らかな光を発していた。
 やがて柔らかな光が収まると、アルトリアさんの指に嵌めた不幸の指輪は、紫色の小さな光を仄かに放ち続けていた。
 見た目は小さな光が灯っていること以外変わりない。
 だが、なんとなく俺には、目の前の指輪が同じものに見えなかった。
 思わず、鑑定のスキルを発動させる。

『幸福の指輪』……夢幻級装備品。想いあう二人に祝福を――――By宝箱。装備者の呪いを打消し、装備者の運の数値を2倍にする。

 宝箱おおおおおおおお!
 お前ってヤツは……! どこまで俺を助けてくれるんだ!
 想いあう二人に、ってところの意味はよく分からないが、とにかくお前のおかげでアルトリアさんが救えたんだ!
 俺は、アルトリアさんに呪いが解けたことを言う。

「アルトリアさん! アナタの呪いは解けたんです!」
「……は?」
「ああもう! 細かい説明は後! とりあえず今は、ステータスを確認してみてください!」

 興奮気味にそう伝えると、アルトリアさんは少し気圧されながらもステータスを確認した。

「――――」

 アルトリアさんは、自分のステータスを前に、目を見開いた。

「う、ウソ……だろ?」
「本当です」
「う、ウソだ。こ、こんなに嬉しいことが続くもんか。みんながオレを受け入れてくれたのも……全部、夢なんだ……!」

 アルトリアさんは、突然の事態に混乱して取り乱した。
 そんなアルトリアさんに、しっかり言い聞かせるため、俺はアルトリアさんの手を取り、しっかりと告げた。

「ウソでも夢でもありません! アナタは、≪災厄≫なんかじゃなくなったんだ!」
「……」
「この指輪を見てください! これが、アナタの呪いを解いたんですよ!」

 俺は、アルトリアさんの指に嵌めた不幸の指輪――――否、幸福の指輪を見せつけた。
 それでもなお、呆然とするアルトリアさんに俺は言う。

「だから……もう不安に思う必要なんてないんです。今まで不幸だった分、これから幸せになりましょう。俺が――――全力で支えますから」

 そこまで言い切ると、アルトリアさんは何度も俺の顔と指輪を見ては徐々に顔を赤くしていき――――。

「~~~~ッ!」

 ――――走り去っていった。
 …………。
 …………え?

「ちょおっ!? また!?」

 俺は再び逃げたアルトリアさんに驚くと同時に首を捻る。

「何で!? 俺の何がイケなかったの!?」

 状況を整理しよう。
 まず、アルトリアさんを慰めた。
 宝箱から手に入れた指輪の存在を思い出し、左手の薬指にはめた。
 呪いが解け、取り乱すアルトリアさんに、これから俺が全力で支えると伝えた。
 …………。

「プロポーズじゃねぇか!?」

 おいコラ俺何してくれちゃってんの!? とんでもねぇ過ちだよ!?
 つか、左手の薬指って……結婚指輪を嵌める場所じゃねぇか! 何で気づかなかった!
 ……あれ? でも……結婚指輪を左手に嵌めるのは地球での話であって、この世界では違うんじゃね?福源春
 そう考えると、そもそもプロポーズをするにしても、指輪が結婚の証じゃないのかも……。

「でもそれじゃあ、あのアルトリアさんの反応は……だああああああっ! わけ分からん!」

 どこか無意味な現実逃避をしている気がしながらも、アルトリアさんを追いかける。
 チクショウッ! アルトリアさんの騒動が終わったら、勇者の情報を集めつつ、異世界のこと徹底的に調べてやる!
 ……まあでも……。

「アルトリアさんが元気になったのなら……今はそれで十分か」

 そう呟き、俺はアルトリアさんに追いつくべく、瓦礫の山を後にする。
 澄み渡る青空には、宝箱がサムズアップしている姿が浮かんでいる気がした。



「1……2……3……あ、なんか人助けしてお金がもらえるみたいです」
「はあ? いくらだ?」
「1万G」
「高くね!?」
「次、俺ですね……あ。俺も3でした」
「んじゃ、コマ動かせ」
「はい。えっと……あ、次のサイコロを振る人から、出産祝いで5万Gもらえるそうです」
「だから高くね!? って次の人って俺じゃねぇか!」

 俺――――ベル・ジゼルは、デブのテリー・ヘムトと、ガリのボスコ・ダンの三人で、とある遊びをしていた。

「いやぁ、それにしても……人間はずいぶんと面白いものを考えますよね」
「だよなぁ。これ、なんて名前の遊びだっけ?」
「確か……『人生ゲ○ム』って名前だったと思いますよ」

 そう、俺たちの前には、たくさんの細かいマスに指示が書かれている道が描かれているボードと、そのボードの上で動かすコマ。そして、何マス進むか決めるサイコロとやらが転がっていた。

「でもこれ、人間は人間でも、異世界の勇者が持ち込んだ遊びらしいですよ?」
「ほぉ。異世界かぁ……どんなとこなんだろうか」

 ボスコの言った異世界という言葉に、俺は興味があった。
 俺たちは人間と戦っているが、俺は戦争が好きじゃない。
 そもそも、魔族の連中は、自分の身を守るために戦っているに過ぎないのだ。

「戦争がない世界だといいよな」

 思わずそう口にする。
 どこかしんみりとした雰囲気になってしまうと、テリーがわざとらしく話題を変える。

「あ、今度は『トランプ』ってやつで遊びませんか?」
「トランプ? 何だ、それ」
「えっと……ハート、ダイヤ、スペード、クローバーの4種類のカードがあって、一種類ごとに1から13までの数字が書かれたカードがあるんです」
「ほお。それで、どんなゲームができるんだ?」

 俺はふと興味を惹かれ、そう訊いてみると、今度はボスコが俺の問いに答えた。

「俺が友だちから聞いた話では……『ポーカー』とか『ババ抜き』とか……あ、後『ダウト』とか。とにかく、このトランプでたくさんの遊びができるらしいですよ」
「ぽーかー? つか、ババ抜きって……婆さんはしちゃいけないってことか? そりゃあんまりだろ」
「あ、別に実際にお婆さんがしちゃいけないわけじゃないんですけど……」
「なんかよく分からねぇな。んで? 何するんだ?」

 意味不明な単語が多く飛び出したが、とにかく遊んでみないことには楽しさが分からない。
 しっかし……人間も凄いよな。一つのものでたくさん遊べる方法を思いついちまうんだから。

「そうですね……俺がルールを覚えてるのは、『ダウト』くらいですし……」
「んじゃ、それでいいや。やろうぜ」

 簡単なルールの説明をテリーにしてもらう。
 ようするに、配られたカードを相手に見えないように持って、数字の1から順にカードを伏せて場に出していく遊びだということが分かった。
 まあ、自分の番になれば、出さなくちゃいけないカードが手持ちになくても相手にバレないように出さないといけないらしい。
 もし、相手がウソのカードを出してると思ったら、『ダウト』って声を出して、本当にウソならウソのカードを出した本人が場のカードをすべて引き取り、逆に本当なら、ダウトと言った本人がカードをすべて引き取る……。
 なんつー、エグイ遊びを思いつくんだ、人間……!
 これじゃあ怖くて『ダウト』って言えないだろ!? リスクがデカすぎる! ……ハッ!? そういう遊びなのか!? そのスリルを楽しむのか!? ……レイヤ様が好きそうだな。
 まあとにかく、実際にやってみようということで、俺たちはダウトを始めた。
 フッ……要するに、ウソさえ吐かなければいいわけだ。こんな遊び、余裕だぜ!

「7です」
「8ですね」
「んじゃ、9――――」
「「ダウト」」
「ノオオオオオオオオオン!?」

 結果――――惨敗した。
 後から知ったことだが、この遊びはどうやら、最低でも4人でするらしい。……チクショウめ!
 こんな感じで、俺たち三人はのほほんと日常を満喫していると、突然部屋の扉が強く開けられた。

「……」
「れ、レイヤ様?」

 部屋に入ってきたレイヤ様の表情は、俺たちが驚くほど真剣だった。
 そんな俺たちの呼びかけに応じず、レイヤ様はまっすぐ俺たちの方向に歩いてきた。
 座ったままトランプで遊んでいたときの体勢のまま、俺たちの前で立ち止まったレイヤ様を見上げる。
 すると、レイヤ様は今まで閉じていた口をゆっくりと開いた。花痴

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