「……そうだった。グリトニアじゃあ皇帝とは会わなかったけど、リミアは王様とも既に会ってたし……十分考えられたよな」
与えられた客室に戻ると、思わずため息と反省が漏れた。
頭が錘おもりを乗せたように重い。RU486
長時間勉強して、ふと集中力が途切れた時みたいな感覚。
リミア王との謁見に、(多分有力な)貴族達との話し合い。
この国に来る段階で貴族との話し合いとかは、まあ覚悟してた。
でもグリトニアの時は皇女と勇者までしか会ってなかったから、ここでも王様には何となく会わないだろうと思ってたんだよな。
ロッツガルドで助けられたことへの礼を、という流れで謁見から始まるとは。
個人的にはいきなり取り乱してぶっ倒れた巫女さんのお見舞いに行きたい所だったけど、そちらは丁重に辞退されてしまった。
気になってはいるけど、澪とライムに出来るだけ様子を掴んでもらうように頼んで任せるしかなかった。
魔王に会った時の経験がある程度役に立って乗り切れたけど、後の貴族との話も人数が思ったより多くて非常に疲れた。
ヨシュア王子とそれなりの話をして、あとは響先輩と色々あるかな程度に考えていた身としては予想外もいいところだ。
それにホープレイズ家。
当主は王都で僕を待っていると言ってたけど、実際会うと何か嫌な感じだった。
あたりは穏やかだし他の貴族の意見をある程度まとめて伝えてくれたり、表面上は協力的な雰囲気だったんだけど……。
時折まとわりつくような嫌な目を向けてきた。
と感じた。
気のせいとも思えないし、似たような目は彼と近い位置の貴族からも結構向けられた。
彼ら同士が互いに牽制しているような場面も何箇所かあったし、リミアの貴族は噂通り政争に熱心なのかもしれない。
とりあえず今日の話題には、クズノハ商会の出店に関するようなものは一つも出なかった。
この国の商人ギルドと貴族の間で何らかの話が既に出ている可能性は十分ある、とはライムの助言だけど僕にもそれが当たりのように思えた。
「お疲れ様でした、若様」
「お疲れ様です、旦那」
澪とライムは二人とも部屋にいて僕を出迎えてくれた。
「ただいまー……先輩はいなかったけど王様以下貴族の皆さんとの話は凄く疲れたよ」
「若様がご心配されていた巫女ですが、過労で幻覚を見たのだろうとのことでしたわ」
「ええ、今は別状もなく穏やかに眠っておりやした」
「幻覚見るほど疲れてるんだ、あんな小さな娘が……先輩も心配してるだろうな」
リミア王国勇者パーティって凄い出世街道な気がするけど、激務なのか。
先輩は魔族との戦いで前線にも立っているようだから、当然なんだろうか。
ここじゃ子供も当たり前に働いてるし。
「それから、使いの者が来ましてヨシュア王子が若様をお待ちです。急ぎはしないので支度が整い次第廊下にいる者に声を掛けて欲しいとのことでした」
「……なあ、澪」
「なんですか?」
「巫女さんさ、澪と僕を見てぶっ倒れた気がするんだけど。お前、何かしてないよな?」
「“なにも”しておりませんわ。大体、待っていた大勢の中であの娘だけが、あのような事になったのですよ? いくら私でも、わざわざ小さな女の子を的に術を使ったりしません」
「……だよねえ。ごめん」
「謝られる事はありませんわ。……第一」
「ん?」
「私も若様もライムも何もしていないのですから、原因は向こうにあるのかもしれません。もしあの少女の方が私達に何かをしようとしてああなったのだとしたら、それは少女であれ自業自得というものでしょう。いずれにせよ、若様がお心を乱されることではありません」
澪は穏やかに笑っている。
僕や巴といると結構感情的に振舞う彼女にしては珍しい。
凄く余裕があって、なんというか落ち着いている。
この旅だとライムに頼る事になるかと思ってたけど、澪が頼れる人に見えてきた。
アルケーも色々成長著しいけど、澪もそうなんだろうか。
リミアではそれほど難しい話や決断を求められる事はないと思うけど、いざとなったら二人頼れる人がいるのは嬉しい。
「あの子が、何かを、かあ。巫女さんだし特殊な霊感でもあるの、ライム?」
「それなりに……その、人の本質を見たりするのに長けているとは思いやす」
「本質……またなんか神秘的な。視線からも魔力体を見ている感じでもなかったし、人には見えないものが見えるってやつか」中絶薬
「……へい」
「後でお見舞いに行った時にでも聞いてみるか。王子様を待たせても悪いから、すぐ出るよ。あ、別に留守番してなくてもいいからね。夕方までに戻ってくれれば――」
「それでしたら若様。私は響に会って来ますわ。巫女の見舞いについて詳しく話をして参ります」
「澪一人で?」
先輩と澪。
いくら城の中とはいえ、若干不安はある。
「ではライムも連れて行きます。ローレルでは響らと一緒だった期間もあるようですから。よろしいですか? 外出をしてよいかまではまだ確認していませんし、出来れば許可を取ってからの方が角も立ちませんから今は城内での用事を優先する方が無難ですし」
「……うん、お願い」
何だろう、凄く頼れる。
澪が進化した?
前触れとかなかったぞ。
確かに外出していいかの許可はまだ取ってない。
まずいな。
この二人なら城の人に気付かれずに動き回るなんて余裕だから大丈夫かと思ってた。
順番的には先に外出許可もらっとくんだったな。
抜けてた。
「行ってらっしゃいませ」
「あ、行ってきます」
一抹の不安が頭に残っていたものの、僕はヨシュア王子の所へ行くために部屋を出て、外で番兵よろしく立っていた人にその旨を伝えた。
「さ、それじゃあ響に会いにいきましょうか、ライム」
「姐さん」
「……なにかしら?」
「チヤに、何をしました? あいつに何を見せました?」
思い切って口を開いたライムに、澪は穏やかな笑みの中でうっすらと目を細めた。
「なにもしていないわ。なにもね」
「巴の姐さんに巫女の目の事は報告しやした。旦那はご存知じゃないようでしたが、姐さんはご存知ですよね?」
「ええ」
「ええ、って……っ! まさか、わざと?」
「若様はあまり腹芸が得意な方ではありませんしね。それに……そもそも私の正体が知れた所であちらの若様への理解が深まるだけのこと。何の問題もないのですよ」
「しょ、正体……っすか。まさか、巴の姐さんみたいに上位竜なんて言う訳じゃ……」
ライムの顔を冷たい汗が次々に流れていく。
あまり気持ちのいい汗ではない。
ルトに絡んで直属の上司である巴の正体を明かされた時ですら、気絶しなかった自分を彼は褒めた位だ。
無理もないことだった。
「ふふふ……違いますけれど。似たようなものですわ。あと、あの娘に何が見えたのかはこれから響に聞けばいいことです。私も何を見たのか知りませんしね」
「旦那は、一体何者っすか、ホント……」
ライムは、チヤがライドウと澪に何を見たのか、気になりだしていた。
あの娘の抽象的な言葉で、どのように表現されるのだろう、と。
「あのお方は陽だまりの猫ですよ。悪意も敵意もなく、手前勝手な都合で無理に触れたり起こしたりしないのなら、ですけれどね」
「チヤの反応は愛くるしい猫を見たソレじゃなかったっすけどね、確実に」
「なら愚かな思惑があったのでしょう。あぁ、どんな能力か知りませんけど、全てのヒューマンにあの能力があれば便利ですのに」
穏やかさは消えうせ、凄みを感じさせる笑みで話す澪。
「じゃ、じゃあ俺が響に連絡をつけます」
「不要です。位置はわかりますね?」
「え……はい。響の情報はこいつに入れてあるので把握できやす」
言って腰に差した刀を示すライム。
ライムが真から巴を通じて与えられた刀は彼専用にカスタマイズされていて幾つかの能力がある。
調べもせず響のいる場所がわかるのも、その一つだ。
澪に響のいる場所を説明するライム。
彼女は今、チヤの看病中のようだった。威哥王三鞭粒
「これは好都合。では、飛びます。行きますよ」
「いきなりっすか!? 一応、念話でも飛ばしておいた方が」
「あら。以前鍛えてやって武器もくれてやって、更にはそれを直してやった挙句手柄まで幾つも譲っている相手に、遠慮などいりませんわ」
「……そりゃ、そうかもしれないっすけど」
澪が列挙したのは全て事実。
改めて並べると結構な事をしてやっているんだな、とライムは感じた。
「響にはこの滞在の間に若様を勉強してもらわなければいけません。強制的に、ね」
「旦那を、勉強」
何となく不吉なものを言葉から感じるライム。
彼の勘が危険を告げていた。
「そうね、まずはソレを届けに行くのに同行させようかしら」
澪はちらりと部屋の隅に転がる布袋を見る。
「……詳しくは聞いてないっすけど確か、竜の卵、なんすよね?」
「ええ。瀑布のリュカだそうです」
「はぁ。ばくふのりゅかっすか……」
確実に意味が分かっていないライム。
「たかだか竜殺しにやられる程度の平和ボケした竜ですが、精々役に立ってもらいましょう」
「……ばくふ、瀑布? リュカ? 竜殺し? は? はあああ!?」
「ふぅん、ここですか。巫女が寝ている部屋は」
ようやく澪の言葉が飲み込めたライムが声を大に色々な感情を吐き出している最中。
澪はあっさり転移した。
医務室ではない。
そこは個人の部屋だった。
掃除は行き届いているがあまり使い込まれた雰囲気のない部屋だった。
そこかしこに宗教的な道具があり神職にある者の部屋だと推測できる。
「誰!?」
「私です、響。謁見の席にも同席しなかったようですね、若様が心配していましたよ、色々と」
「澪、さん。それにライムも。招待はしていませんし、ノックもありませんでしたけど、これは?」
「しばらく、って程の間も開いちゃいねえが。ま、ほどほどに元気そうで安心したぜ響。急にきちまって悪いな」
「悪いなって、ライム貴方ねえ……」
「どれだけ貴女に貸しがあると思っているんですか。この程度咎めず流しなさいな」
「ふぅ……それを言われると、弱いですね」
巫女の部屋には勇者響がいた。
天幕つきの豪華なベッドに横になっているのは巫女チヤ。
大きなベッドに小さな盛り上がりだけがあった。
「巫女は、まだ目覚めていないようですね。彼女についても若様は心配しておられました。後ほど是非お見舞いがしたいとの事でしたので時間を作ってくださるかしら」
「深澄君が……。でも、それは」
「ご自分が何かしたのではないかと、それはお辛そうでした。何かしたのは、そちらですのにねえ」
「っ。そうですか、ライムから聞いたんですね」
響からの視線をまっすぐに受け止めるライム。
言わない、秘密にする、と約束していない以上責められる筋合いはないし、関係を考えれば大分貸しのある相手だ。
恥ずべき事はないと堂々とした態度だった。
「仕事なんでな」
「そうね。それを責められはしないわね」
「ええ、大体響は私たちが対策してくると思っていたのではなくて?」
「……はい。チヤちゃんの目は知られているから、あまり期待はしていないながらのお願い事でした」
響の目に僅かな後悔が浮かぶ。
「さて何を見たのかしらねぇ、この娘は。聞けるのが楽しみ」
「対策は、しなかったんですか」
「見られて困るものなどありませんもの。無料で占いをしてもらえる位にしか思ってませんでしたわ」
さらりと言ってのける澪。三鞭粒
「豪気ですね、相変わらず。もっと慎重に振舞うかと、読んでいたのは事実です」
「ふふふふ、響は面白いことを言いますわね。あら――」
響の表情が少しだけ曇っているのを見て、澪は不思議そうな顔をしてみせる。
「貴女は若様と私たちの事をもっと知りたかったのでしょう? ならもっと嬉しそうになさいな、巫女のおかげで一つ貴重な情報が手に入ったじゃないですか」
「これまでチヤちゃんは色んな人を見ましたけど、あそこまで取り乱した事はありませんでした。貴重な情報かもしれませんが、私の見込みが甘かった所為で辛い思いをさせた。嬉しそうにはできません」
「随分と器用な立ち回りをするようになったと思っていましたけど、相変わらず仲間に甘いですわね。温いこと」
「こればかりは、ギリギリまで捨てちゃいけないモノだって思ってます。でも澪さん。温いと言いますけど、深澄君も澪さん達には大分甘いように見えましたよ?」
捨てられない、とは言わなかったが澪の言葉に反論し、真の話を持ち出す響。
確かに真も彼女と同等か、それ以上に身内に甘い。
温いというなら、彼もそうだろうと考える響は正しい。
「立場というものが違います。身の丈に合う行為なら温いとは言いません。若様のは余裕ある施し、貴女のは無駄な背伸び」
「そこまで言いますか。根拠をお聞きしても?」
「それは、貴女自身で知りなさい」
「……え?」
「私もライムも邪魔をしません。丁度若様はリミアの何とかいう湖のある一帯に行きたがっていました。少し頼まれごとの用事があるとかで。折角ですから響が案内してくれません? そうね、若様と貴女は“同胞”なのだから二人きりで行きなさいな」
「っ!?」
「姐さん?」
「ライムは黙っていなさい。どうですか、響? 私としては貴女が一人で若様を案内してくれるというなら、これまでの貸しは全部無しで良いと思っているのですけれど?」
「……彼の行きたい場所にもよりますけど。私の方は時間を作れます。元々深澄君とは一度ゆっくり話す必要があると思っていましたから」
響の肯定的な言葉にライムが眉をひそめる。
(なのにいきなり話をする場を設けなかったのは……貴族との話し合いを前に置いて情報収集と印象操作をする為、か。貴族の何人かは響から何かを頼まれていた可能性が高いし、居心地の良くない話し合いの後で響と旦那が会えば、旦那は響との席で……。看病は偶然とはいえ俺達へのいい口実にもなったって訳だ。澪の姐さん、響は温くありませんぜ。ギリギリまで捨てちゃいけないもの、はギリギリなら捨てるもの、でもあるかもしれねえんすから。姐さんが旦那と響を二人にするってなら……一応状況の把握だけしておくべきか。巴の姐さんも気にしてたしな)
「ここまでお膳立てしてあげるのですから。若様が行きたい場所に行けるよう響が何とかなさい。若様がどこに行こうとされようと、勇者である貴女が同行するなら周囲を認めさせるなど容易いでしょう?」
「彼はリミア王国が招待した客人ではありますが、一介の商人でしかありません。立ち入り出来ない場所もありますから……」
「……響。若様はそちらの王と王子を助けた礼にここに呼ばれているのですよ? 建前など、本当は私はどうでもいいのです。ここまで整えてあげた上で何か条件を出すつもりなら――」
「響。悪い条件じゃねえだろ? 旦那はあんたに迷惑をかけるような方じゃねえし、知り合いならお前もそりゃわかってるんじゃねえのか?」
ライムが口を挟む。
澪がその後言うであろう言葉が何となく予想できてしまったからだった。
その言葉はいくらなんでも不用意に口にしてはいけないと彼は若干焦りを覚えながら冷静に対応した。
「……わかりました。今日は流石に無理ですから、明日か明後日か。深澄君の都合に合わせて、私が彼を案内します。良いんですね、私と深澄君だけで」
澪に確認、というか念押しをする響。
響の印象だと澪は真と他の女性が接近することを嫌っていた。
その割に、今澪は響にむしろ二人きりになる状況を提案している。
その裏にある何かを疑わない方がおかしい。天天素
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