大切な関係を自分の手で壊してしまった。
『運命って言葉があるだろ。俺と彼女はある運命で結ばれていたんだよ』
初めは私にはチャンスすらなかったのに。印度神油
『私はキョウが好き。好きだから……夏姫お姉ちゃんだからって譲りたくないの。ずるいよ、キョウ。何で……』
苦労してようやく手に入れた私の幸せ。
『愛してるよ。春雛の事を、本当に大事にしたいって思うくらいに、愛してるんだ』
人はどうして人を好きになるのだろう。
好きなんて思わなければ、こんな苦しむ事もなかったのに。
『……俺の恋人になって欲しい。支えるんじゃなくて、俺の隣を一緒に歩いて欲しいんだ。春雛……キミの未来を俺に託して欲しい』
小さなことで楽しくて、私達は幸せを感じていた。
『……私、キョウの恋人でいいのかな。どうすればキョウは笑ってくれる?』
『俺は今の選択を後悔なんてしてないから……そういう事は言わないでくれ』
あの出来事から私達の関係が変わった気がする。
すれ違い始めた私とキョウの心。
キョウはいつまで経っても、麗奈さんのことを忘れられずにいた。
悲しくなるくらいに心に残り続けているのが分かった。
そして、麗奈さんも彼に兄として甘えるのもやめていない。
中途半端な関係に戸惑わされて、私の中にある嫉妬心に火がついた。
『これからがあるなんて勝手に思わないでよ。そんな謝罪ひとつで許せる問題じゃないでしょ……そう、キョウはいつもそうやってきたものね』
口から出てしまったのはキョウを否定する言葉。
これまで耐えて、溜め込んできた不満が爆発してしまう。
『だったら、本人を前にして言ってよ。愛してるのは私だって、恋人にはなれないって。勘違いさせて、困らせないでくれって。……言えないよね、貴方は優しい妹思いのお兄ちゃんだもの。せっかく仲直りできたのに傷つけたくないでしょ?』
私がキョウを否定するなんて思ってもみなかった。
だけど、その時の私はそんな事しか言えなかった。
麗奈さんじゃなくて、私だけを見ていて欲しかったのに。
そんな事を今さら言ってもどうにもならない事は分かっていた。
だから、我慢して私は最後までいい恋人でいたかった。
『ごめんなさい、キョウ。私が貴方に麗奈さんを忘れさせてあげられなかったから。……過去に思うくらいに私を愛してくれるようになっていればこんなことにはならなかったのに……。ホント、嫌な女でしょ、私って……』
思い返せば、この瞬間から私は変わってしまったのかもしれない。
「そんなことない。春雛は俺にとって大事な女の子だから」
私の心にチクリと突き刺さる彼の綺麗事。
言葉で綺麗事を並べて納得としている彼がとても惨めに見えた。
『……大事にしてくれないくせに都合のいい事ばかり言わないでよ』
私……諦めたくないよ。
諦めたくない、それが私の心からの本音。
どうしても諦められない、諦められるはずがない。
ここまで自分の人生の支えであったはずのキョウを自ら捨て去るのは嫌だった。
『ダメなの。私がもうダメなの。キョウの事、好きなのに……信じられない。怖い、怖いよ、キョウ。私、また貴方を傷つけてしまう。自分だけを見てくれないから嫉妬して……このままじゃ、私は貴方を壊してしまう』
けれど、私は彼を許してあげる事ができない。
彼は私だけを大切にしてくれない。
そんなの嫌、絶対に嫌だから……。
私、無茶な我が侭言ってるの?
恋人として自分だけを愛して欲しいって思っちゃいけないの?
『何もかも、壊したくなる……。キョウは弱いから、このまま壊してしまいたくなるの。そうすれば、キョウは私の傍にいてくれる。そう思ってる私がいる、愛してくれてる気持ちに応えられないもう一人の私。衝動を抑えても、抑えきれない』
キョウの精神がガラスのように脆く弱いのを私は知っている。強力催眠謎幻水
本気で人の心壊してしまうのはいくらでも方法があるし、簡単だった。
彼を壊してしまおう、彼が私だけしか見えないように。
『……だから、終わりにした方がいいと思う。私は今のままじゃ、キョウと付き合えない。付き合っても、傷つけるだけだもの。私のことを嫌いになってほしくないから……』
歪んだ私の心の叫びを自らの意思で抑え込んだ。
ダメ、キョウを壊してどうするつもりなの?
大好きな相手を苦しめたくない、それが私の思いだったはずなのに。
『……嫌だよ、春雛。俺達はそれで終わっちゃいけない。……こんなことで終わるような関係じゃないだろ。別れるなんて言わないでくれよ』
……ああ、どうして貴方は最後までそんな言葉を私に言うの?
あまりにもそれは自分勝手すぎるじゃない。
私を不安にさせて、こんなにも辛い気持ちにさせているくせに。
『キョウ……やめて、今、そんなことを言ったら……』
先に心が壊れそうになったのは私の方だった。
気がつけば心の中で叫ぶ嫌な自分が私を支配していた。
彼にだけは見せたくなかった、嫌な私。
『まともに人を愛せないくせに……何を言ってるの?信じてくれと言って、貴方は皆を傷つけてきた。イライラするくらいに、貴方は綺麗事を信じてる。自分勝手に他人を傷つけ、平然と生きてる……今さら誰が貴方を本気で信じられると思うの?』
全ての終わり、これが最後。
抑え込んでいた気持ちを吐き出すように強く攻撃的な言葉が出てしまった。
……終わった、終わっちゃったよ。
辛くて、悲しくて、自分にふがいなくて、キョウを愛してあげられなくて。
私は泣いた。
彼との別れが私に大きな心の傷をつけた。
彼が私の傍にいないというだけで、自分の中で喪失感は消えずにいた。
一緒にいたい。
例え、それがホントにただの幼馴染だったとしても、私はそれでも構わない。
いつしかそんな事を思うまでになっていた。
だけど、心の中の自分はもう1つの願望も抱いていた。
キョウと再び、一緒に肩を並べて歩きたい。
そういう願望を抱く自分はすごく汚い存在に思えた。
でも……ホントに私だけが悪いの?
もとはと言えば麗奈さんに対して節度ある行動をとらなかったキョウが悪い。
この別れだって、先にしかけたのは彼だと思えば、そんな気持ちはすぐに消えた。
どんどんと膨らんでいくその願望は、気がつけばキョウへの憎しみへと変わっていく。
恋人として私に接しておきながら、私を大切にしてくれなかったんだから。
少しずつ身体を浸食していく負の感情。
そんな事をしてもしょうがない。
以前の私ならそう感じていたかもしれない。
……だが、今の私にはそんな言葉は通じない。
もう私には失う物なんてないから。
私は部屋で破壊衝動にかられて暴れた、お姉ちゃん達の制止も聞かずに。
「ふふっ、キョウのバカ、バカ、バカ……」
私はキョウと名付けていたぬいぐるみを刃物で傷つけていく。
穴だらけで破れていく“ぬいぐるみ”みたいにキョウも壊してしまえればいいのに。
「……壊して“ぬいぐるみ”みたいに、私の傍に置いておくのもいいかもね」
自嘲の笑みを浮かべた黒い感情に支配された私の頬を伝わるのは涙だった。
なぜか、冷たい雫が溢れて零れ落ち、ぬいぐるみに染みていた。VIVID
ボロボロになったぬいぐるみを抱きながら、
「キョウ、私は貴方を愛してる。貴方は私を愛しているの?」
もう分からない、私の気持ちも、貴方の気持ちも……分からない。
その日、気分転換にと私は冬芽お姉ちゃんと共に遊びに出かけていた。
繁華街で遊んでいても気乗りできない。
今の私のテンションではどうにも遊ぶという気持ちにはなれない。
そんな私に冬芽お姉ちゃんは言葉をかけてくる。
「ねぇ、雛ちゃんは恭平君の事が嫌いなの?」
「……そういうわけじゃない」
「そう。でも、雛ちゃんは彼に裏切られたんでしょう。ひどいね、恭平君は男として最低、最悪。そんなひどい男の子なら別れてよかったんじゃない」
冬芽お姉ちゃんの言い方に私は思わずムッとして、
「そんな事言わないで!ひどくない、キョウはそんなひどい人間じゃないの。……あっ」
叫んでみて、気づかされた。
……私、何でキョウの事を悪く言われて苛立ったんだろう。
「……そうだよね。恭平君はそんなに悪い男の子じゃないの、私も知ってるし」
「……」
私は何も言えなくなって黙り込んだ。
キョウの気持ちが見えないのは私が悪いんだ。
全部、キョウが悪いわけじゃない。
「彼と別れたのはやり過ぎだったんじゃないの?恋人同士なら喧嘩することもよくあることでしょう。それを乗り越えるべきだったんだって私は思う」
「キョウは私の事なんて見てくれないもの。いつだって麗奈さんのことばかりを気にしている。いつだって……そうなんだから」
彼が妹の話をするときは楽しそうに話すから私はいつも嫉妬していた。
彼女の代わりでもいいと思って付き合い始めて、その嫉妬に苦しんできた。
私の矛盾が彼との関係を壊そうとしていたんだ。
「それでも、雛ちゃんは恭平君が好き。仲直りしてみたらどう?」
「仲直り?できるわけがないじゃない、私はキョウに嫌われたから。彼は私をもう恋愛対象に見てくれない。私は終わっちゃったんだ……」
「何もしていないのにそう決め付けるのは早くない?やってダメならしょうがないけれど、やる前から諦めるっていうことはその程度の気持ちだったって事じゃないの」
冬芽お姉ちゃんの言葉が痛い。
私は怖いんだ、もう1度彼を傷つけてしまうんじゃないかって。
「……諦めたくはないけど、怖いよ。これ以上、嫌われたくないの」
身動きでない私の心、終わりへの恐怖が私を縛り付けている。
「どんなに怖くても怖れないで。前に進むってそういう事なの」
優しく冬芽お姉ちゃんに抱きしめられる。
分からないよ、お姉ちゃん……私には何もできないの。
気分が沈んだまま帰宅した私は部屋と入り驚かされた。蔵八宝
暴れて荒れていたはずの部屋がすっかりと整理されて綺麗になっている。
「どういうこと?」
私が疑問に思いながらベッドに座る。
あれだけ散らかしたのに、誰が掃除してくれたんだろう。
もしかして、夏姫お姉ちゃんがしてくれたのかな?
「えっ……写真?」
私が怒りに任せて放り投げた写真たてに入っている写真が変わっていた。
前は子供の頃の写真とか飾っていたのに、今は私とキョウが写ってるのに変わってる。
私はそれを見てハッとさせられた。
すぐに夏姫お姉ちゃんの部屋へと向かう。
「お姉ちゃんが私の部屋を掃除したの?」
私の問いに彼女は軽く笑いながら、
「違うわよ。掃除したのは……恭平さん。今日、来てくれたの。それで、あの部屋を見て掃除がしたいって……」
「ウソ……キョウが来たの?どうして?」
「さぁ?私もそこまでは聞いてないけど。会いたかったから来たんじゃない?ふたりは“恋人”なんだし、当然のことだと思うけど」
夏姫お姉ちゃんの言葉、そうか、お姉ちゃんには詳しく話していないから別れた事を知らないんだ。
「恋人なんだから、喧嘩しても別にいいと思うけど大切にしたい人がいるなら、もっと春雛も相手の事を思ってあげなさい。はい、これ。直しておいたから」
私に手渡されたのはボロボロになっていたはずのペンギンのぬいぐるみだ。
私がキョウって名前をつけていたお気に入りのやつ。
「直してくれたんだ」
「大事にしてたんでしょ。物ならこうして直せるけれど、人間の関係とかって1度壊すと中々直らないから。……わかるよね、春雛なら」
「うん……」
キョウに無性に会いたくなってきた。
私の気持ち、少しだけ見えてきた気がする。
「あ、そうだ。恭平さんから伝言があったの」
「伝言?」
「そう。明日、駅前に昼の1時に待ち合わせたいって。デートの約束かな?」
「……デート」
キョウは私を許してくれたの、それとも……?
私は期待と不安に包まれながらその言葉を受け入れていた。新一粒神
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