レベル130のBOSSモンスターを、レベル150の男が「素手で」、しかも「一撃で」粉砕する。当たり所の問題や、クリティカルヒット、カウンターなどでは、最早説明不可能な現象が起きてしまったのだ。簡約痩身
これは、レベル250の彼なら造作も無いことだ。しかし、この国において揉め事や面倒事を避けるため、【ジャミング】というステータス表記を偽るスキルで「自分はレベル150である」と周囲の人間を騙している。
【ジャミング】を見破るには、かなり高位の解析系スキルやアイテム、同レベル以上の人間が使う【スキャン】を使うしかない。そのような理由があり、この国の人間が自分のレベルを見破れる訳がない。彼は、そう高をくくっていた。
だが、その彼自身が、150というレベルへの疑いの目を向けさせるきっかけを作ってしまったのだ。それを証明するかのように、疑わしげな目をした王立学園1・Sの学生たちが客席から降り、ぞろぞろと歩み寄ってくる。
(あぁ、もう駄目だ)
がくりと膝を突く貴大。彼の脳裏には、「高レベルであることを理由に、お偉いさん方にこき使われる自分」のイメージが鮮明に浮かんでくる。かつての知り合いが、まさにそのような扱いを受けていたのだ。それを自分も、と思うと、面倒くさがりな彼の震えは止まらなくなる。
そのようなネガティブなイメージを考えている内に、お偉いさんのご子息たちはすぐ傍にまで近づいてきていた。おそらく、彼らが口を開いた瞬間から、容赦のない問い詰めが始まるのだろう。「使える者」には敏感な者たちだ。逃げようにも逃げられないに違いない。
(終わりだ……)
遂には両手まで地に着かせ、ぐったりと頭を項垂れさせる。それを待ってましたと言わんばかりに、学生の代表たるフランソワから声がかかった。
淡い乳白色の光に薄らと包まれる貴大。回復魔法である【ヒール】のエフェクト光だ。
己の予期せぬ事態に、頭も体も固まってしまう貴大。そんな彼へと、フランソワ以外の学生からも【ヒール】がかかり始める。
初めに脱落したアベル以外の二十九人分の【ヒール】が唱和して、学園迷宮中層部BOSSの間であるサーカスリングに響き渡る。貴大の体を包み込むエフェクト光もそれに伴い光度を増し、最早彼の輪郭すら見えなくなる。そして、癒しの輝きの中、ゆっくりと貴大は立ち上がった。
(え? ……え? 何で【ヒール】???)
何とはなしに立っては見たものの、疑問の解消には何の役にも立たない。それどころか、【ヒール】の白光は彼の視界を埋め尽くし、混乱を助長させる。結局、答えの出ぬままにエフェクト光は薄れていった。そこに投げかけられる学生たちの言葉。
「よかった! 先生、持ち直しましたか!」
「まったく、肝を冷やしましたよ」
「先生、まだ痛むところはございませんか?」
痛むところと言われても、困ってしまう。負けたふりをするために「スマイル・ピエロ」の大技を受けてはみたものの、攻撃力より俊敏性を重視する魔物、しかも100はレベルが劣る者の攻撃を受けたところで、ダメージなどあるわけがない。そんな自分に、なぜ彼らは【ヒール】をかけたのか。一つも理解ができないままに、疑問は積み重なっていく。
「先生、危ないところでしたわね?」
「あ、ああ、うん……」
フランソワの言葉に、反射のように返事を返す。そのぼんやりとした様子に、彼女は目をひそめた。
「まだ意識が朦朧としておりますか……無理もありません。あのように頭をしたたかにぶつけられ、その後に「捨て身技」を使われたとあっては、当然の結果でしょう」
「そうか……はい?」
「捨て身技」? 予想だにしなかった単語に、思わず聞き返してしまう貴大。それを受けて、気の毒そうな顔をして返答するフランソワ。
「意識の混濁が起きておりますのね? やはり、「捨て身技」の代償の大きさは、噂通りといったところですか」
「「捨て身技」……」
その言葉自体には聞き覚えがあった。【自爆】や、【ノーガード・タックル】など、HPや自身の命と引き換えに、多大な効力を発揮するスキルの総称だ。それが何故ここで出てくるのか。貴大はしばらく理由を考えた。
そして、あることを思いつく。
(もしかして、こいつら、俺が一撃でBOSSを倒せたのを、「捨て身技」のおかげと思っているのか?)
よくよく考えてみれば、「高レベルに任せた通常攻撃です」という理由よりは、「大きな代償と引き換えに発動できる強力なスキルです」といった理由の方が、まだ現実的だ。貴大は、そう考え至って初めて、自身のレベルの高さの希少性を思い出した。
(「スマイル・ピエロ」を通常攻撃で倒せるのは、カンストか、それに近いレベルの奴ぐらいなもんだけど……いないもんな、そんな強え奴)V26Ⅳ美白美肌速効
王立騎士団の団長クラスで200に届くか届かないかというこの国のレベル水準では、130とはいえBOSSモンスターを素手による通常攻撃だけで倒せる者など居はしない。それに、強力なスキルを保有する大国であるがゆえに、通常攻撃などナンセンスだという意識は未だ根深いものがある。
そのような環境で育った学生たちは、「一撃でBOSSを倒したのなら、何らかのスキル、それも「捨て身技」のように強力なものを用いたに違いない」と考えるのが当然であり、決して、「高レベルのステータスによるものだ」とは考えない。
先ほどの【ヒール】の大合唱が何よりの証拠だ。脱力感で両手両足をついた貴大を、彼らはピエロの攻撃に、「捨て身技」を用いたことによるダメージが重なったものだと誤解したのだ。貴大がBOSSすら素手で砕くレベルであると考えたのなら、そのようなことはしないはずだ。
そう結論を出した貴大へと、フランソワが優しく声をかける。
「先生。なぜわざわざ「捨て身技」を使ってまでBOSSを倒したのか、私には分かっていましてよ」
「え?」
疑問を解消したところへ、新たに発生する謎。そもそも、「捨て身技」など使っていない貴大には、フランソワの言わんとしていることなど分かるはずもない。
そんな彼を置き去りにして、彼女は未だ客席で呆然としている王子に向けて鋭い言葉を放った。
「フォルカ様! フォルカ様は、先生がなぜ自分を傷つけてまであのような大技を放ったのか、お分かりですか!?」
それに反応し、ようやく我に返るフォルカ。学生たちに囲まれる貴大をちらりと見たかと思うと、顔をしかめ、嫌味を交えて言葉を返した。
「ふん! そこまでしなければBOSSを倒せないからだろう? 非力と言わざるを得ないね。そうでなければ、ただの目立ちたがりだ」
自分のことは棚に上げ、憎々しげに吐き捨てる。フランソワは、そんな王子をキッと睨みつけたかと思うと、激しい感情が籠った声で言い放った。
「違います! 先生は、私たちに武器に頼らぬ「人としての強さ」を、身を持って教えてくれたのです! 王子もご存じの通り、あのように強力なスキルは、過酷な修練でしか身につけることはできません。そして、鍛え上げられたその技は、王子の神剣の一撃を越えました。わかりますか? 人の身でもこれだけのことができるのだと、示してくれたのです!」
「ぐうっ……!」
神剣の一撃を越えた。確かに、強大極まりない力を持つ神剣でも、「スマイル・ピエロ」を倒すのには数度の斬撃が必要だった。そのことを指摘され、言葉に詰まるフォルカ。
「王子は、神剣に頼り過ぎたのです。ろくに修行もせず、人に見せびらかすように剣を振るってはレベルを上げ、それを「鍛錬」と言い切る日々……覚えたスキルの数も、妹姫様にとうに追い越されたと聞きます」
「君! 無礼だぞ! 黙りたまえ!!」
ここへ至り、王族への礼の無さを指摘するフォルカ。しかし、フランソワは止まらない。
「いいえ、黙りません。私は、先生の挺身に、自分が如何に間違っていたかを気づかされたのです。いつかは王子も、王族としての使命と責任に目覚めてくれると思っていましたが、今日の先生への態度で確信しました。誰も注意する者がいなければ、貴方は駄目になってしまうということを。なので、私はあえて貴方に苦言を呈します。どうか、王道へと立ち戻ってくださるようにと」
そして、真っ直ぐにフォルカの目を見つめるフランソワ。その射貫くような視線を振り払うかのように、王子は激昂して立ちあがる。
「黙れ! 黙れ黙れ!! 僕は神剣に選ばれた人間だぞ!? 凡人のような努力など必要ないんだ!!」
「神剣に選ばれたとはいえ、王子自身は神ではありません。鍛えなければ強くはならぬ脆弱な人の身なのです」
「レベルのことを言っているのか? 先ほど、僕はレベル125となった! この調子ならば、君を越えることすら容易いのだぞ、僕は! とやかく言われる理由はないよ!」
「いいえ、レベルの話ではありません。先ほども申し上げた、「人としての強さ」です。それは、いつまでも武器に頼っているだけでは身につけることはできないものです」
「この僕が、神剣が無ければ何もできないとでも言いたいのか!?」
「はい、今のままではそうです」
怒涛の勢いでニ人の言葉の応酬は続けられ、今、ようやく静寂が訪れた。
フランソワの断言へと、顔を真っ赤にして何かを言い返そうとするフォルカ。だが、うまく言葉にできないのか、口を開いては閉じ、ぶるぶると体を震わせるが、結局は何も言いださない。
やがて、しばしの逡巡が続いたかと思うと、こう言い残してBOSSの間を去っていった。
「ふん! 大公爵家の一人娘だからと思いあがっているようだが、覚えていたまえ! いつかはその増長を後悔する日がくるということを!!」
「ふう……行ってしまいましたか。これが王子の更生への良いきっかけになるといいのですが……」
ため息を一つ吐き、そう一人ごちるフランソワ。すると、1・Sの学生が、わっとその周囲へと駆け寄った。男根増長素
「フランソワ様! 私、胸がすっとしました!」
「あれこそ、我らが言いたかったことです!」
「王子の慢心ぶりには、誰もが危惧を抱いていました。フランソワ様の叱責は、それを正すものとなりますわ」
口々に彼女を褒め称える学生たち。しかし、当の本人は、ゆっくりと首を振った。
「皆さん、そう言ってくださるのは嬉しいのですが、これも先生の行動があってのこと。あの「捨て身技」によるBOSSモンスターの一撃での撃破が無ければ、説得力はなかったでしょう」
その言葉に、一斉に貴大へと振り返る学生たち。
「おお、確かに!」
「先生とフランソワ様の力、ですわね」
放置されたような気分になっていた貴大は、ビクッと震えながらも、「いや、そんなことはないよ」と謙遜してみせる。
それを、ジパング人特有の癖が出ましたね、とからかう学生たち。その様子から、「本当に、俺のレベルに疑問を持ってる奴はいないみたいだな」と、ほっとして談笑に応じる貴大。
「しかし、フランソワ様もおっちょこちょいですのね? ここは安全が保障された迷宮だというのに、慌てて先生に【ヒール】をかけるんですもの」
「まぁ! みなさんも、血相を変えて【ヒール】をかけていたではないですか」
「それを言われると恥ずかしいな」
「確かに」
そんな温かな時間がしばらく続いたところで、ふと、誰かが呟いた。
「しかし、あれほどの威力のスキルならば、ユニークモンスター討伐でも活躍できますわね?」
(やべえ! そう来たか!!)
どうやら、高レベルだからと便利に使われる未来は回避できたようだが、今度は「BOSSすら一撃で倒すスキルの持ち主」としてこき使われる将来のビジョンが浮かび上がってきた。不吉な未来への拒否反応から、必死になって嘘を並べ立てる貴大。
「あのな? あれな? 負担が大き過ぎて、一ヶ月に一度しか使えないの。しかも、人型の魔物にしか使えないの。使えないスキルだよね~?」
懸命に、「あのスキルは使えないものだよ、だから俺も、そんなに便利な奴じゃないよ」とアピールを重ねていく。それが功を成したのか、次々と頷いていく学生たち。
「大声を上げるのは条件ではないのですか? ほら、何やら叫ばれていましたが……」
「ああ、それも発動条件の一つだネ!」
「なるほど……自分はてっきり、大ダメージを受けた直後にしか使えないものかと思っていました」
「うん! そんな条件もあるよ!! いや~、本当に使いどころが難しいスキルだわ!」
学生の疑問の声に過敏に反応し、実在しないスキルの設定を重ねていく。これだけ難しい条件なら、「さあ使え」と言われることもないだろう。そう安心したところでフランソワの言葉だ。
「そのような難しいスキルを成功させた先生の力量には、目を見張るものがありますわ。これぞまさしく、「人としての強さ」ですわね、うふふ」
(やめてぇぇぇぇぇ~~~!!)
貴大が意図せざる方向へ持っていくのがよほど好きなようだ。そんなフランソワを見つめ、心の中で悲鳴を上げる貴大。
「いや、あれはたまたまだよ、たまたま……」
と、誤魔化しにもならないような言葉を投げてはみるものの、学生たちの尊敬の眼差しは輝きを増すばかりだ。男宝
(ははは……もうどうにでもな~れ☆)
自棄になって、群がる学生たちに、「いいか、あれは【神速極壊拳】と言ってな……厳しい修行の末に身につけられる奥義なのだ……ジパング人しか使えないけどね!?」と今考えついた適当なスキル名を教えて更に騙しにかかる貴大。
その後、スキルの強そうな響きに興奮した学生たちが、自分たちも先生のように強くなるぞと迷宮攻略に励むのを、腐臭放つ魚のような、死んだ目で見守っていたとか……。
(おのれ、おのれぇ~……!)
僕の胸の内を占めるのは、「武器に頼り切るな」というフランソワの言葉……そして、「スマイル・ピエロ」を、たった一撃で粉微塵にしたサヤマの立ち姿だ。
(何故だ!? やっていることは同じだ! 僕もレベル130ものBOSSモンスターを単独で倒した! なぜアイツだけ賛美される!!?)
アイツの周りに集まって、アイツを見つめる学生たち……その顔は、僕を褒め称える時のような決まり切った笑顔ではなく、驚きと尊敬に染まりきっていた。なぜ、その顔を僕に向けない!?
称賛されるべきは僕だ! 僕は王族だぞ! しかも、神に選ばれし勇者だ! 「神剣ウェルゼス」を唯一扱えるのが、何よりの証拠じゃないか! 汚らしく汗水垂らして身につけたというスキルとは違う。本物の神の力を、僕は授かったんだ! あんなスキルは紛い物だ! 詐欺師のイカサマだ!
あの詐欺師に、みんながみんな、騙される。
フランソワも、学園の生徒も、父上も、兄上も……みんな、アイツが「有用だ」と褒め称える。誰もが、アイツがもったいぶって教えるスキルが必要だという。何が【スキャン】だ! 何が【サーチ】だ!! そんなもの、僕の神剣を前にして何の役に立つ!?
後でじいやに聞いたが、自慢の捨て身技とやらも、一月に一度しか使えないそうじゃないか。それでは、まるで役に立たないではないか!! 僕の神剣はいつでも、何度でも使えるんだぞ!! それなのに……!!
許されない! 許されないぞ! 小細工を呈して強者として振る舞うサヤマは、「強き者は偉大である」というこの国の根幹に流れる理念を辱める存在だ! 王族として……その中でも、最も強大な「力」を持つ身として、アイツは許しがたい!
それなのに、フランソワ……一の家臣であるはずの大公爵家の令嬢は、アイツを見本として「人としての強さ」を学べという。「人としての強さ」? 神剣の担い手として選ばれしこの僕が、人として優れていないわけがないだろう!
そのことを証明すべく、夜も更けた頃、僕は再び学園迷宮中層部BOSSの間に立っていた。
フランソワも意固地なところがある。実際に、僕があの男と同じことができるということを見せなければ、納得はしないだろう。これはそのための予行練習だ。レベル130のBOSSモンスターを倒したことにより、僕のレベルは一足跳びに125へと成長を遂げた。その力に慣れておくという意味もある。
「おほっ、おほほほほほ……♪」
「ふん、現れたか」
不快なにやけ顔のピエロが、癇に障る笑い声と共に姿を見せる。中層部のBOSS、「スマイル・ピエロ」だ。
先ほど対峙した時は奇妙な動きに少々手こずったが、結局のところ、こいつは僕に負けたのだ。動きを捉えてしまえば、どうということも無い脆弱な魔物だった。あの戦いで、この魔物の全てを熟知した僕には、この道化師が次に何をするのか手に取るように分かる。三体牛鞭
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