2012年11月11日星期日

澪と料理と勇者と

「ええっと、厚みのある海草と干して堅くなった魚……でしたね」
港町の市場を似つかわしくない女性が歩く。
通りの左右に展開される賑やかな品々、そして品数に負けぬ程に店主たちの呼び込みも声高に行われている。御秀堂養顔痩身カプセル第3代
露店が展開されていない場所が道だとばかりに迷路のような不規則な格子状の通路が構成されていた。
道行く者も上半身裸であったり薄いシャツ一枚を着ている程度の筋骨隆々の男たちが多い。
明らかに見慣れぬ、黒に近い程に濃い藍色の服に身を包んだ彼女は明らかに浮いた雰囲気を放っていた。
着物と言う、恐らくはこの港町の誰も見た事の無い服装。
そして肩に届くかどうかで綺麗に切りそろえられた艶やかな黒髪。切れ長の黒い瞳と鮮やかな紅の唇、異彩を放つその美貌は誰の目にも明らかだった。
服装と容姿、二つの意味で通り過ぎる人を次々に振り向かせ二度見させているのは、クズノハ商会が誇る最強の双璧が一、澪である。
代表である真は現在学園都市にて店舗の開店準備に追われ、何かと最近行動を共にしていた巴は真から申し付けられた所用で遠出している為、彼女は今一人だった。
だが、彼女とて暇なのではない。
真から言われた港町の開拓をする為に、ツィーゲから一路北へ進み、海に面したこの町に辿り着いていた。
さほどに大きな町ではない。ツィーゲと比べればその規模は明らかに小さい。
かの辺境都市には黄金街道と呼ばれる陸路の物流が確保されている事が、この町の発展に多少歯止めをかけていることは否めない。
ヒューマンの足で歩いて数日という微妙な距離も理由に挙げられるだろう。
いずれにせよ、ある程度立地には恵まれたこの港町コランは世界の果ての特需に直結する事が出来ず、本来なら最大級の商船を受け入れるだけの潜在能力を秘めながら未だその規模に達していない、残念な町だった。
それでも流石に海産物についてはツィーゲと比べるべくも無く、澪が初めて見る食材も多く市場に展開されている。
だが、どうやらお目当ての物、それに近しい物は見つからなかったようで澪は足を止めて嘆息する。
「コンブもカツオブシも、ソレらしい物はありませんわねえ」
澪の探し物は真の世界ではごく有り触れた食材だった。
ただ、これは真に頼まれたものではない。
真と別れてからも澪は食を楽しんでおり、ツィーゲで名のある食堂や酒場などは大抵彼女の手がついている。真も彼女に付き合って食べ歩いたり、薦められた料理を頂いたりしてきたが、広いとは言え店の数には限りがある。まだ数軒は主に紹介出来ていない店はあるがすぐに底をつく事は想像に難くない。真と美味しいものが好きな澪としては悩む事になる。
そんな折だった。
巴が何気なく口にしたのだ。
「それなら澪が若の好まれる料理を作れば良いではないか」
と。
澪にとってはまさしく天啓のような一言だった。
自分で、料理を、作る。
出された料理をただ食べるだけだった彼女はその言葉の衝撃に身をよろめかせた。そして天才を見るような目で巴をまじまじと見つめた。
その通りである。
自分が作れば、自分が理想とする味付けが出来る。真が望んだ味の料理だって出せるではないか、と。
手始めにこれまで食してきた料理を再現してみようと取り掛かった彼女だが愕然とすることになる。
料理の手順がまったくといって良い程にわからないのだ。
切って焼く、煮る、炒める、揚げる程度は想像できるがその先がいけない。
亜空にも料理が出来る者はいて、彼女は主にオークに教えを乞い料理スキルを向上させていった。
それでもツィーゲで食べた料理の技には届かず、澪は冒険者ギルドに貼り出される依頼を受ける回数を減らして、食べ歩いた食堂と酒場を再訪して料理人に頭を下げた。
何度か挑戦しては失敗し、基本的な部分から料理に手をつけ始めた澪は、未だ自分が再現出来ていない料理を作る彼らに少々の敬意を抱いていた。だからこそ、そのレシピや技術を教わろうとする澪からすれば頭を下げるのは当然の事だったが、一方でそうされた料理人や店長たちは堪らない。
最早ツィーゲの冒険者やその関係者で知らぬ者はいない存在になっていた澪から料理を教えて欲しいといきなり頭を下げられたのだから。
どちらが頼み事をしているのかわからない程に恐々として竦み上がった料理人たちはほぼ即答で澪の願いを聞き届けた。ただし、他店との競争や秘伝の関係で、教えられない部分もあると冷や汗を隠せない表情で澪に懇願した上で。勿論、澪はその言葉に頷く。そして私的にしか料理はしないし、商売の邪魔になるような事は考えていないと話し、秘伝の味や技法までは教えてくれなくて良いと続けた。
そうして、澪は寝る間を惜しんでそれぞれの料理人の厨房を訪れ、仕込みや仕入れにも、彼らの時間に合わせて同行もした。一ヶ月もすると、澪は完全な再現とまではいかないまでもツィーゲで振舞われている料理の基本的な骨子を理解して真似ることが出来るようになっていた。
小手先の技やソースなどの細かな部分は未だ本職には及ばないとは言っても、目を見張る上達速度だった。御秀堂養顔痩身カプセル第2代
余談だが、冒険者には冷たく接する事も少なくない澪が、教えを受けている料理人には当たり前の様に敬語で接していた為、食堂や酒場、またそれらを内包する宿における冒険者の振る舞いが大人しくなったりもした。
そして今。港町に到着した澪の目的はずばり和食の再現だった。
主人たる真の世界の食べ物。学園に向かう前に真が異なる世界から来た事を説明され、澪はあの記憶の中にある風景や食べ物に出会う可能性が激減したことを悲しんだ。ちなみに真の出自については特に感想も抱かなかった。識などは大いに興奮して騒いでは巴の鉄槌を受けたりしていたが、正直澪にとっては真がどの国で生まれていようと、いやどの世界から来ていようと関係なかった。ただ唯一の主人でありかけがえの無い存在、故にその過去に何があろうと彼女には意味が無い。そんな詰まらない事よりも真が普段食べていた和食の方が大切だった。
和食はツィーゲの食べ物とは根本的に雰囲気が異なる。肉類よりも魚介類を多く使う印象があり、それらが集まる港町は手がかりになる筈だったのだが。
「参りましたね、そもそも乾物の類が少ない。未だ記憶に見た和食は、目玉焼きしか再現出来ていません。巴さんに協力してもらって料理法などを調べてもらってはいますけど、どうやら昆布と鰹節なるものは必須な様子。米やら味噌は巴さんが再現に努めていますからお任せしておくとして、私は材料を調達して色々料理方法を検討したいのに……」
いずれ亜空で真に和食を振舞おうと決心している澪は港町コランに相当な期待をしていた。
しかし現状、色々料理してみたい材料は見つかるものの、肝心の乾物が絶対的に少ない。この町ではそういった加工をしていないのか不安になる程だった。
「乾物? 干物かい? うーん、この辺りじゃあ干してまで魚を食おうって所は無いし遠くまで持っていくなら大抵は相手さんが氷漬けにして運ぶ用意をしてくるし……」
「ここは鮮度が何より重要だからねえ。わざわざ干して加工するってのは、そりゃまあそれぞれの家で一夜干しくらいならしているかもしれないけれど……」
「少ないけど、土産物の店や問屋の方に顔出してみれば少しはあるかもしれないっすよ」
尋ねまわっても得られる回答は頼りないものばかり。それでも魚の乾物については情報も少しはあった。問題は昆布の方だ。特徴を話してみても皆聞いた事が無いという顔をし、澪を落胆させた。
市場を一回りした澪は浜辺に出てみることにした。
魚を干す場所は砂浜だと教えられた為、実際に従事している人から追加の情報を得られないかと藁にすがる思いだった。
「あれか、何だか独特な匂いがしますね。生臭いというか……市で感じた臭みとはまた違う匂い。ふう、浜辺にはそれこそ海草なんて幾らでも流れ着いているというのに。どうして見つからないのかしら」
作業を遠目に見ながらも、そこには魚しか無いことに軽く絶望する澪。ちらと見た浜辺の一角には黒い塊があり、打ち上げられた海草だとわかった。
小石を敷き詰めた場所や木を組んで日光が当たりやすく工夫された台の上に魚が置かれていた。小さい物は原型のまま、それ以外は開かれた状態で干されている。
「そういえば……魚は獣に比べて臭みが強い。獣骨を長く煮込むような出汁の取り方にも適さないものが多いような気がする。巴さんは、そこで昆布と鰹節なんじゃ、とか言っていたから特殊な方法がある? 私は単純に獣骨が魚の骨、香草や野菜の類が海草に置き換わって基本的な調理は一緒だと考えていたけど違うのかも……」
結局、作業者からも真新しい情報は得られず、しかし自分の考えに疑問を抱いて浜辺にある黒い帯状の塊へと近づいていく。
作業者の一人から「それは海のゴミですよ」と声を掛けられたが澪は気にしない。
「肉厚な物も薄い物も、結構種類がある。色もよく見ると緑や青、赤なんて物もある。味は……あら。シャキシャキして美味しい。ゴミだなんて勿体無い。こちらのは……少しヌメりが気になるけど食べれる。この肉厚のは、所々に白い粉が付いてるわね。へぇ、これ旨味が強い。香りも磯の良い匂い。白い粉も毒じゃない。乾燥した部分は硬くなるけど旨味は強くなっている。……十分食材じゃないですか。まったく、見る目が無いこと」
巴にも検証してもらおうと状態の良い物を吟味していく澪。魚を干していた者たちは澪の奇行を遠巻きに気持ち悪そうに見ていた。だがその内の一人が急に澪の方を向いて両手を上げて何かを叫び始めた。
だが、海草選びに集中していた澪はそれに気づかない。
何人もがその原因を見て澪に口々に注意する。中々の騒音になってようやく、澪はその様子に気がついた。しかし時既に遅し。
「あれは……一体何だと言うの? ああ、海草を食べてみた私が不思議なのかしらね。……えっ!?」
突然の背後からの衝撃。
常人がそこにいたなら致命傷は間違いない強力な攻撃が澪に加えられた。
しゃがみこんだ状態から片手に収穫を手にして立ち上がった澪は完全に油断していた。元々、”網”を張って感知域を広げた状態ならともかく、澪は周囲を感知する能力は高くない。何の対処も無く攻撃を受けて吹っ飛んだ。
浜辺の、波打ち際から少し離れた場所に打ち上げられた海草の吟味をしていた所へ背後からの衝撃。
派手な水音が波の音に紛れて上がる。
そう、澪は思いっきり海水の中に飛び込んだ形になった。
手にしていた彼女が厳選した食材たちを不意の攻撃で離してしまい、それらは波に運ばれて沖へと消えていく。
「……」
澪は無言で立ち上がった。
その肩口に獰猛な表情を隠そうともしない銀色の獣が強く噛み付いたままぶら下がっている。後ろ脚で澪の体を何度も蹴りつけていて、下顎にも何度も力が加わっている様子からその獣の攻撃が継続している事がわかる。だと言うのに、澪に反応は無い。
砂浜を澪の方に走ってくる影が一つ、彼女の視界に映る。
「……濡れてしまいました」
底冷えのする声がした。
蹴りを入れるのを止め足を伸ばせば地に脚が付きそうな大きな狼、それが澪を襲った獣の正体だった。韓国痩身一号
けれど、その大きな躯を持つ獣が澪の一言に怯えたように瞳に弱気を浮かべた。
喉からの唸り声もどこか頼りなく響く。
「……」
左の肩口に牙を立てる銀狼の首を右手で無造作に掴む澪。
女の膂力とは思えぬ所業だが彼女はそのまま片手で狼を己の肩口から引き剥がし、海へと叩きつけた。
澪の肩は傷一つ無い。着ていた着物に少々の跡が残った程度。明らかにただの獣ではない狼の一撃をものともしない布。ただの着物で無い事はようと知れる。
一方の狼は、ただ一撃地へと叩きつけられただけでまともに立ち上がる事も出来ない位に弱っていた。前足で体を起こしながらも、後ろ脚がついてこない。澪を弱々しく唸りながら見つめることしか出来ない。
「死になさい、畜生」
澪は懐から出した扇子を閉じたまま振り上げる。
容赦の一切が伺えない冷たい目で狼を見据え、一気に振り下ろす。
正に紙一重だった。
黒い影が攻撃と狼の間へと立ち入り、狼を抱いて駆け抜けた。
余程の全力疾走だったのか、澪から然程の距離も開かない場所で影は体勢を崩す。
「……」
澪は依然目に危険な冷気を纏わせたまま、動きを停めて膝立ちになっていた乱入者を見る。
ずず、と。
何かその場に聞き慣れない音が一つ。乱入者は何事かと音のする方に注意を向ける。
澪が扇子を振り下ろした先の海。
騒ぎにも変じる事無く波を運んでいた海が、突然に割れた。
澪から十数メートルばかりの範囲で海が裂けて海底が露呈する。
たった数秒の現象だったが、乱入者は息を呑んでその様子を凝視していた。
「飼い主? なら一緒に逝ってやりなさい」
先の現象に言葉を失っている乱入者に答えを聞くこともなく、再び澪は扇子を振り上げる。
「ごめんなさい!!」
振り下ろされようとした腕がピクリと動いて、止まる。立ち上がったかと思ったら全力で頭を下げられたからだ。
「……」
興味を惹かれたのか澪の手は止まり、乱入者の次の言葉を待つ。
「砂浜を見に来たら、急にこの子が貴女に襲いかかってしまって……。私の責任です。お怒りなのはわかります、でもお願いします。許してください。お怪我の治療も、その着物の修繕も必ず私たちがしますから!」
澪は扇子をゆっくりと降ろし、そして懐へとしまう。許した、と言うよりは目の前の存在に興味が湧いたからだった。
この辺りで初見でそうと名前を言った者などいない着物を、当たり前の様に知っているこの黒髪の娘に。当の娘は下ろされる扇子を凝視し、脱力している様子だったが。
「……怪我はしていないから治療は結構よ。それに着物の修繕? これは残念だけど貴女に直せる物では無いわね」
着物に牙の跡がわずかに押し込んだ風に残っているだけで破れてもいない。実際、被害らしい被害は選別した海草が流れてしまった事と濡れた事位だった。
「す、すみませんでした」
「そうねえ、私の手伝いと夕食をご馳走してくれるなら無かった事にしてあげてもいいけれど?」
「私に出来る事なら! 食事は勿論ご馳走させて下さい! ありがとうございます! ええっと?」
「澪、よ。貴女は?」
「響(ひびき)です。澪さん、本当にすみませんでした。この子も反省していますので……」
示す先の狼は尻尾を丸めているが未だ敵意ある視線を澪へと送っている。あまり反省している様子ではない。
「反省?」
「ごめんなさい! ホルン! 戻ってなさい!」
銀狼の姿が光に包まれて響の帯へと消えていく。澪はその様子に少しだけ目を細めた。
「あの狼、道具に住まう精霊の類だったの」
「詳しくは私も知らないんですけど、守護獣のような存在、らしいです」
「……そう。じゃあ響、この海草から状態の良い物を選り分けるのを手伝ってくださる?」
「海草、ですか? あの、ワカメとか昆布とか? 澪さん料理人なんですか?」
何気ない響の一言に澪は目を見開く。当の響からすると本命は料理人かと問うた後半部分で、澪が何者かを尋ねる質問に続ける心算だった。勿論、海を平然と割った澪を料理人だとは思っていない。
「!? その! 昆布、この中にあります!?」
「えっ!? あ、その、多分そこの大きな……」
「これ!? それともこれ!?」
先ほどまでの迫力はどこへ行ったのか、両手にそれらしい海草を鷲掴みにして違う迫力を瞳に宿して響へと詰め寄る澪。
「い、今澪さんが右手に持っている方が多分、昆布なんじゃないかと……」
「まさか売っているどころか落ちているなんて……!」
左手に持っていた方を放り投げて右手の昆布(らしい海草)を両手で掴んでまじまじ見つめる澪。
(ええ? 本当に料理人か何かなの? ツィーゲって街から先に広がっている荒野は色々と常識が通じない場所だって聞いて覚悟して来たけど……もうこの辺りから常識が通じないのかしら? ホルンに襲われても無傷で、扇子で平然と海を割れる人が料理人やってるなんて)
そんな澪をまじまじ見つめる響。
「あの、澪さん。捨てられた方も多分ワカメって言って味噌し、じゃなかった。スープの具材何かに合うと思います」
見た目だけで確証こそは無かったが響は捨てられて無残に浜にぶつけられたもう一方の海草をフォローする。すると再び澪はワカメを掴むと海水で洗って手に取る。
「ワカメ! そう、これがワカメだったの! ああ、響さん! この出会いを若様に感謝します!」
「うわっ! 澪さん、若様って一体? って言うかすみません、痛いです、磯臭いです。離してーーー!!」韓国痩身1号 
左手にワカメ、右手に昆布を手にした澪は遠慮無く結構な勢いと強さで響に抱きついた。
澪は全く気がついていないがリミアの勇者、音無響と彼女はこうして出会った。

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