2014年10月7日星期二

認識の違い

コルベラからイルフェナに帰還後――

「さあ、話してもらおうか」
「……」

 食堂にて再び説明会となっていたり。尋問では無いぞ、念の為。RU486
 説明と言っても報告は既にしてあるので、今回は例の癇癪玉モドキの解説。あれはある意味、使えるもんな。
 でもね、クラウス。この体勢はどうかと思うんだ。

 現在、私は椅子に座ったクラウスの膝の上……ではなく。


 椅子に座ったクラウスの足の間にちょこんと座って、背後から体全体を使って拘束されとります。
 顎が頭の上に乗ってるのは気の所為か。


 一見御嬢様方が羨ましがる体勢だが、現実を知れば呆れるだけだろう。
 現にアルは苦笑し、騎士sは可哀相なものを見る目で私を見ている。でも、助けない。
 ……捕獲? 捕獲だよね、これって。

「あの、クラウスさん……この状態は一体……?」
「俺達が理解できるまで放さん」

 またしても個人的な理由か!
 何その『教えてくれるまで放さない!』的な子供じみた言い分は!
 呆れて背後を振り返ろうとし、無理だと気付いて足元に視線を落とす。
 ふ……微妙に足がつかない私に対しクラウスは余裕なんだな。身長差はそのまま足の長さかよ、間違いなく全体の比率は違うだろ!?
 人種的なものだと思いつつも、この敗北感。私の心に虚しい風が吹く。

「諦めてさっさと話した方がいいですよ。我々としても興味がありますし」
「報告書に書いたとおりなんだけど?」
「ですが、文章だけではいまいち理解できないのですよ。あの程度の魔石に利用価値があると思っていなかったものですから」
「加えて言うなら何故あそこまで魔力を引き出せるのかという事だな」

 アル、クラウス共に気になるらしい。
 ……。
 ああ……この世界の魔法って『術者、もしくは元になる魔石の何割の魔力を使う』っていう状態だから、クズ魔石だと魔力が殆ど無い状態で発動しないのか。
 これは術式そのものに制限があるので、私と同じことをするなら術式を新たに組み直すしかないだろう。

 ただし、それは非常に危険。制御を外すってことだから。

 クラウス達ならできない事はないだろうけど、危険性を話して諦めてもらった方がいいだろう。それに癇癪玉モドキも私とは別の方法じゃないと無理だ、多分。

「どうして差が出るのか理由は判るけど、改善することはお勧めしない。つーか、やるな」
「何故だ?」

 『できるけどやめとけ』と言った私にクラウスは怪訝そうな、どこか不満げな声になる。多分、表情も同じような状態だろうと推測。だが、理由を聞く程度には信頼してくれているらしい。
 これが普通の魔術師だったら技術の独占云々と言い出しかねん。

「この世界の魔術との違いに詠唱や術式による威力の制御があるって言ったよね? 私は制御無しだからクズ魔石だろうと100%の魔力を引き出せる。だけど、この世界の術式に当て嵌めると制限された状態だから……」
「……! 術式そのものを制御無しの状態にしなければ同じ結果は出せないということか」
「そういうこと。それに制御を外してもクズ魔石の魔力を100%使えるようになるだけだから威力はそれなり。術によっては発動しないよ。だから止めときなさい」
「……。理由によるな、それは」

 黒騎士達も不満そうだ。まあ、君達なら『不可能』っていうわけじゃないだろうし納得はしないだろう。他の魔法にも応用できる事を指して言っているのだから。
 実際、それが大問題なのだが。

「それ開発した後はどうするのよ? クズ魔石専用ってわけにはいかないでしょ? 普通に使っても威力は段違いになる上、術者も危険が伴う。しかも……」
「しかも?」
「それが流出した場合は低い魔力でもかなりの殺傷能力を持つ術者が溢れるでしょうね。治癒魔法が使える程度の魔力しかない人が暗殺組織の捨て駒として使われるかもしれない」

 『技術の流出』という点が物凄く拙いのだ。その方法を考え出すのは天才にしかできなくとも、術式として生み出されれば誰でも使えるようになってしまう。
 その結果、これまで大した価値を認められなかった術者が『威力のある兵器』として使われる可能性も出てくるだろう。勿論、その危険性は伏せたまま。
 何より術者本人が思い上がった挙句に事故を起こしかねない。
 製作者ならば危険性を理解し自制するだろうが、その苦労も危険性も理解しない術者が玩具を与えられた子供のごとく『自身の強さ』と勘違いしたらどうなるか。

「技術が残る、もしくは流出することを考えるなら『開発しない』ってのが最良だよ。そういう危険性を理解しない奴が手にした時は最悪の事態が起こるだろうから」中絶薬
「……」

 不満げな様子を察してクラウスの腕をぽすぽすと叩く。抱き込む力が強くなったって事は、内心葛藤しているらしい。
 ……頼むからそれ以上力を込めるな。抱き込むならぬいぐるみにしなさい、ぬいぐるみなら力を込めても変形するだけで済む。多少の視界の暴力は許そうじゃないか。

「諦めなさいって。自分が死んだ後は責任が持てないでしょうが。魔術を殺戮兵器みたいにしたいなら別だけど」
「わかった、やめておこう。使い捨てという発想は面白かったんだが」
「映像流したりするだけならクズ魔石を使い捨てにできるってのは良かったんだけどね、制御の解除が魔法全般に活かされる可能性があるなら諦める方が確実だわ」

 クラウスだけでなく黒騎士達も頷き同意する。
 ……職人どもはブレないね、相変らず。
 魔術に対する冒涜に繋がるなら、あっさり諦める姿勢は流石だ。大変良いお返事です。
 ここで止めないとコピーガードを外す事に熱意を燃やす人々の如く、制限の解除が目標にされ達成されてしまうだろう。それは止めねばならない。

「では、『同じ物は作り出せない』とは? 確かにあれは少々特殊なように思えますが」
「ああ、癇癪玉のこと?」
「ええ。魔法のように見えても魔術結界では防げないのでしょう?」

 アルが軽く首を傾げるようにして不思議そうに口にする。どうやら一度見せた時の事を思い出しているらしい。
 詳しく言うなら、あれは魔法と物理両方ということになる。
 小さな爆発を起こすのは魔法だけど、爆発そのものは物理なので少量の小麦粉に引火して一瞬炎が見えるという状態なのだから。
 あれを一つの事として考えるなら小さな爆発系の魔法を使ったように見えるのだろう。

「私が魔力を『何かを成す為の力』と認識していることは知っているよね? それに加えて元の世界の知識があることが前提」
「元の世界の知識……ですか」

 この世界の魔術は認識した対象にのみ影響するのだ、魔力で作られた炎が普通の炎の様に引火するか怪しい。炎系の魔術が周囲に影響を与えないのだから別物と考えた方がいいだろう。
 そもそも私が炎系統を極力使わないのは周囲に飛び火する危険性が高いから。その危険性が無いこの世界の魔法だと対象である魔石が破裂して終わりな気がする。

 そう告げるとアルだけじゃなく黒騎士達も難しい顔になった。そもそも常識が違うのだから『理科の実験でやる程度の爆発を起こして小麦粉に引火させてるだけです』と言ったところで理解できまい。
 逆にグレンならばこれで大体は理解できるだろう。『授業でやる、安全な範囲での小さな爆発』と言えば『確かに学校でそんな授業もあったな』程度の反応は返ってくる。
 ちなみに爆発だろうとこれが安全だと言えるのは、私の持つイメージが『理科の実験』という範囲に留まっているからだ。明確にイメージできるのがその程度ということもあるけれど。
 これが事故レベルの爆発をイメージしてしまうと使う魔力も威力も桁違い。一歩間違えば術者さえ危険というシロモノに発展するのだ、癇癪玉程度に留めておいた方がいいだろう。

「爆発そのものが魔法じゃなくて『爆発を起こす事に魔力を使ってる』ってこと。だから威力は無いし音が鳴る程度だけど、混ぜておいた小麦粉に引火して一瞬炎が見える」
「それが一つの魔法の様に見えるから、対象は物理だと思わないのか」
「そういうこと。魔石自体は破裂するから破片が危ないといえば危ないけど……目さえ庇えばダメージ無いね」

 尤もこれは私がそうイメージして魔石に組み込んでいるからなのだが。
 詳しい知識がある人が作れば違った結果が出るのかもしれない。本格的に威力のあるものだって作り出せるだろう。
 ただし、魔力の使い方を私と同じようにした場合に限り。知識があっても器具など無いのだ、魔力で代用できなければ作れまい。
 全ては中途半端というか、いい加減な知識と魔法の認識の産物なのだ。殺傷能力を期待したものじゃなく隙を作る程度だしね、これ。

「……と言う事は俺達では使えないのか」

 残念そうに言うクラウスに私は首を傾げる。

「私が作った物を発動させる事なら出来るんじゃないの? 魔血石とまでいかなくても、血をほんの少し混ぜておいて自分の支配下に置くってことできない? 確かそんな方法なかったっけ?」
「……! そうか、それならば可能だな!」
「そこまでする価値があるかは別として」

 何度も言うが威力は殆ど無い。音と炎で一瞬相手を怯ませるだけだ。
 どう考えてもクラウス達が発動できるようにする事の方が技術が上。

「いや、単に使ってみたいだけだ。一瞬怯ませるというのも利用価値がありそうだがな」
「ああ……そういうこと」

 目を輝かせて喜ぶ黒騎士達を私を含む数名は何ともいえない表情で見つめた。騎士sに至っては『魔術において国でトップクラス』という幻想が崩れ落ちたのか、頭を抱えている。
 まあ、『魔術師として国に貢献する』という姿勢ではなく『単なる個人的な趣味』だと見せ付けられれば当然かもしれない。『騎士として魔法の詳細を聞いていたんじゃなかったんですか!?』と。威哥王三鞭粒
 残念ながら職人どもは非常に自分に素直だ、悪戯程度の効果しかなくとも彼等にとっては『異世界人開発』というだけで宝石よりも価値がある。

『異世界の魔法に触れてみたい! 自分で試してみたい!』

 騎士sよ、奴等の頭の中は現在こんな感じだ。報告役としてアルが混ざってる時点で気付け。クラウスに任せると個人的な方向に行くから居ると思うぞ、絶対。
 そもそも報告なのに魔王様居ないじゃん! 黒騎士相手に説明って絶対に御仕置きの一環だ。


 それに、ここまで真面目に話しておいて何ですが。


 興味の無い人にとっては威力・使い道共に大変微妙な扱いの癇癪玉。不意をつかなくても勝てるなら必要無かったりする。私は武器が扱えないので作っただけ。
 ぶっちゃけそこまで価値は無いのだ。重要なのは使い道であってその仕組みではないのだから。
 仕組みを話す過程で制限の解除という危険性に触れたが、本当ならそこまで話す必要など無い。クラウス達が相手だから話の流れ的にそうなっただけで横道発言です。
 彼等の目的は最初から『自分達も作ってみたい!』という一択。割とどうでもいい物にここまで盛り上がれる天才ってのも残念な光景ですな。

 ……ところで。
 私を抱きこんだまま話すならば解放してくれんかね、クラウスさんや。 
 生温い目ではしゃぐ黒騎士達を眺めていた私の頭に何か硬いものが触れて膝に落ちた。……イヤリング? いや、イヤーカフかな? かなりシンプルなものだが、私じゃないってことはクラウスだろう。

 魔術一筋の職人が御洒落? 髪で隠してたら意味無くね?

「クラウス、落ちたよ」
「ああ、すまないな」

 声をかければ私の手にあるイヤリング? を当然の様に受け取る。
 髪に隠れて見えなかっただけで普段から着けているのだろう。慣れた手つきで着け直している。

 合わん。著しく日頃のイメージに合わん。
 魔術一筋に突っ走る男が装飾品を身に着けるだと!?

 魔術関連ならばともかく、職人が御洒落。気でも違ったか。
 そんな私にアルは苦笑しつつクラウスに声をかける。

「クラウス、ミヅキが奇特なものを見る目で見ているので説明してあげてください」
「あ……? ああ、そうか。お前は殆ど身に付けていなかったな」
「は? え、何か意味があるの?」

 首を傾げると何故か騎士sまでもが私に怪訝そうな視線を向けた。
 一体何さー? 何かおかしな事でも言った?

「装飾品という扱いだが魔血石だぞ、これは」
「は? 魔道具なの?」
「それもあるが、魔術師は自分の魔力を底上げする意味でも身に付けるのが普通だ」

 クラウスは着けたばかりの装飾品を外して私に見せる。……ああ、確かに目立たない部分に赤い石が付いているね。装飾があるから普通の宝石っぽく見えるけど。
 つまり補助電池のような役割ということか。結界などを長時間維持する時には便利そう。
 尤も魔道具も有りと言っているから、攻撃魔法を仕込んだものもあるのだろう。自分で作ったなら制御もできるだろうし。

「基本的に魔術師は接近戦には向かん。お前が例外なんだ」
「ミヅキ、魔術師は武器を扱いながら詠唱でもしない限り接近戦は厳しいぞ? 敵だって詠唱中断を狙ってくるからな」
「そうそう、前衛と組むとか遠距離な。お前みたいに詠唱無しとか複数行使は普通無理だから」三鞭粒

 クラウスに続き騎士sが説明する。『基本的に』ってことは、それが可能な黒騎士が特殊ということか。
 聞かれるまで黙っていたのは知らない方が良いという判断かね? 私が迂闊に『黒騎士って接近戦も可能な魔術師だよね』と言いかねないし。
 勿論ある程度は知られているだろうが、具体的にどういった闘い方をするかまでは知られていないだろう。

「貴女を信頼していないわけではないのですが、黒騎士達の立場を考えるとわざわざ教える事はできないのですよ」

 すみません、と謝るアルに首を振ることで「気にするな」と伝える。
 確かに『一般的な認識』として魔術師は接近戦が出来ないというならば、これは黒騎士達の強みになるだろう。話だけ聞くと万能型だ。
 下手に私に話すと話の流れでどういったものを身に着けているか全部知られるから、話さないのも仕方が無い。
 ……敵対者がそれを知っていた場合、私が情報を洩らしたと疑われるものね。疑いを持たせない意味でも正しい判断だろう。

「……ん? どしたの、騎士s」

 いきなり黙って顔色を悪くする二人に問い掛けると、何故かクラウスを気にしつつ口を開く。

「いや、ちょっと思い出したことがあってな」
「ああ、先日の……お前がコルベラに行っている間にキヴェラとの交渉が行なわれただろ?」
「うん、知ってる」

 イルフェナの圧勝だったと聞いている。でなければ、あそこまで領地を削れまい。

「その時にさ、当たり前なんだけどキヴェラも護衛とか連れて来てたんだよ。多分、交渉に武力行使もちらつかせたとは思うけど」
「ええ、確かにそういった方も居たみたいですね。逆に返り討ちにあったようですが」

 アベルの言葉にアルが笑いを耐えながら付け足す。まあ、交渉の仕方としては予想された展開なのだろう。『武力行使されたくなかったら、お手柔らかに御願いね』ってことか。
 普通の小国なら国力の低下や被害を避ける為にある程度は妥協する。魔導師とやり合ったとはいえ、キヴェラはほぼ無傷なのだから。今後の事を考えても強気な交渉はしないだろう。

 だが、ここはイルフェナだった。

 実力者という名の変人の産地だった。

 ついでに言うならキヴェラに対して『戦? ウェルカムだ!』という方向だ。

 最初から殺る気満々な方向なんである。過去の御礼をきっちり返す意味でも泣き寝入りという選択肢は存在しない。
 なお、私が居ても居なくてもこの選択に変わりは無いと思われる。参加の意思は問われるだろうが、決して魔導師に頼る事が前提ではないのだ。
 だって、魔王様達はコルベラの事が無くても必要なら一戦交える気だったしね。私の悪戯に喜んだという王も似たような考えなのだと思う。

「馬鹿か、あの国。交渉に来て怒らせてどうする」
「そうは言っても、これまで随分と強気で来ましたからね。キヴェラとしても無茶な要求をされれば必死に足掻くのは当然だと思いますよ」

 つまり『最初から無茶な要求をした』ってことですか。まあ、最初からブロンデル公爵とシャル姉様が来たらしいから温い方向には行かなかっただろうが。天天素

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