露店広場、ワシは二人と買い物に来ていた。
「先ずはクロードの剣を買わないとねっ!」
先日の戦いでクロードの剣はへし折られ、今は丸腰状態だ。
鞘には無惨に折れた剣の鍔だけが入っている。RU486
「いえ、ボクはいいですよ……」
「そういうわけにもいかないだろう。とはいえ金に余裕があるわけでもない。ワシが後で適当な安物を買っておく」
「ひどっ!」
クロードには悪いが今は最優先に買う物がある。
「それより二人とも、鎧騎士のカードを探してきて貰えるか?十万ルピ前後で出来るだけ安い物をだ」
「十万?二枚も!?私たち三十万ルピしかもってないんじゃないの?いきなりそんな高い物を?」
「どうせ必須だからな。まずは高くても汎用出来る装備を整える」
カードというのは魔物が落とすレアアイテムで最も希少価値が高い物。
装備にエンチャントする事で、様々な効果を得る事が出来るのである。
鎧騎士のカードは、装備した鎧(服)で受けた、あらゆるダメージを二割カットするというもので、鎧にエンチャントするカードでは最も汎用性が高い。
鎧騎士のいる狩場は、高レベルの冒険者たちから人気があり、相当数狩られているので、そこまで値段が張らないのがまたいい。
「三枚買うと生活費が無くなるので、買うのは二枚だ。ミリィとクロードの鎧にエンチャントする」
「ゼフはどうするのよ?」
「クロードは前衛だから必須だし、ミリィはまだまだ動きが甘い。しかしワシ程になれば、致命的なダメージを受ける様な立ち回りはしないからな」
「しょっちゅうケガしてるクセに……」
「……うるさい、致命傷は受けていないだろう」
そもそもワシはセイフトプロテクションが使えるし、二人ほど問題ではない。
クロードが空気を読んだのか、話を変える。
「そうだ!ミリィさん、そのカードどちらが安く買えるか勝負しませんか?負けた方が何か一ついう事を聞くという事で」
「よーし、その勝負乗った!」
ワシにケンカ売った時もだが、クロードは勝負事が好きだな。
二人とも元気よく露店広場に消えて行った。
ワシはクロードの武器を見繕う事にする。
おっ、ショートソード五千ルピ。
安いな。
しばらくクロードにはこれで我慢してもらうか。
結局、鎧騎士のカードは十万ルピで一枚、九万八千ルピで一枚を手に入れる事が出来た。
結果はクロードの勝利。
ミリィは運がなかったと悔しがっていたが、クロードが実はカードを値切っていたことを知り、完敗を認めてたのであった。
クロード、頼もしい奴よ。
宿に帰り、ミリィのミニドレスと、クロードのプレートにカードエンチャントを施す。
装備にカードが吸い込まれ、ダメージ二割カットが付与される。
「いいんですか?こんな使い古しで。もっといい防具につけた方が良かったのでは?」
「いい防具はカードの何倍も高い。先ずは何でもいいから鎧騎士カードのエンチャントされた防具だ」
中古品が露店に出回っていればなお良しだが、誰が着たかもわからん装備など、女である二人は着たくもないだろう。
ワシの分はそのうち、よい中古品を見つけて乗り換えるつもりだ。
「そうだクロード、このあと少し付き合って貰えるか?試したい事があるんだ」
「それは構いませんけど?」
「私も行くっ!」
「ミリィはワシの部屋の荷物を片付けろ。めちゃくちゃに散らかしおって……いらない荷物も捨てるなりなんなりしておけよ」
「ええ~」
「文句を言うなら自分の部屋に荷物を置け」
ぶーたれながらワシの部屋を片付け始めるミリィを置いて、街の外へ移動する。
クロードが手伝おうとしていたが、甘やかしてはいかん。
自分の事は自分で出来るようにならないとな。
――――町の外。
「クロードのスクリーンポイントについて幾つか聞きたい事がある。教えて貰ってもいいか?」
「構いませんよ」
以前ケインの使用した魔導を無効化する魔導、スクリーンポイント。
これが使えるならかなり狩場の幅が広がる。
「スクリーンポイントは以前話した通り、魔導を無効化する魔導です。とはいえコンディションや個人によって効果の程はかなり上下するようで、兄のスクリーンポイントは、魔導に対しほぼ無敵に近い効果を持ちますが、ボクのでは半分も軽減出来ません」
「ちょっと使ってみて貰えるか?」
「いいですよ」
そう言ってクロードは目を閉じ、念じる。
集中すると、クロードの身体を何か薄い膜の様なものが覆っているのがわかる。
クロードの身体に触ると、ワシの纏う魔力が一瞬にして削り取られた。
魔力を遮断するというより、魔力を喰らう類の魔導なわけだ。
クロードにスカウトスコープを念じる。
クロード=レオンハルト
魔力値――
確かにケインのものよりは、かなり弱い様だ。中絶薬
ケインにはスカウトスコープの効果そのものが発動しなかったからな。
「魔導を撃って見てもいいか?」
「ちょ、やめてくださいよ!痛いものは痛いんですからね!」
「冗談だ」
本当ですかぁ?という顔をしている。
やはり、ある程度しか無効化できない、という事で間違いないらしい。
クロードがスクリーンポイントを解除すると、少し疲れた様な表情を見せる。
気のせいか、クロードの纏う魔力がかなり減っている様な……。
もしかして、と思いスカウトスコープを念じる。
ケインの魔力値は39だった。
つまりスクリーンポイントはその程度の魔力で使える魔導なはず。
にもかかわらずクロードの魔力は300も減っている。
「クロードはボールを使っていたよな」
「はい」
「ちょっとそこの岩に5発程撃ってみて貰えるか?」
「いいですよ」
そう言うと岩に向かい、レッドボールを5回発動させる。
岩が少し焦げ、ヒビも入っているがそれだけだ。
クロードは魔導レベルも低いしこんなものだろう。
スカウトスコープで見るとクロードの魔力値は50になっていた。
「もう一度スクリーンポイントを使って貰えるか?」
「えぇ~もう疲れたんですけど……」
そういいつつもスクリーンポイントを念じるクロード。
こいつ、人の頼みは断れないタイプだな。
そんな事を考えながら、クロードにスカウトスコープを念じる。
やはりそういう事か。
スクリーンポイントは魔力が少なければ少ないほど強くなる魔導なのだろう。
所謂“魔導師殺し”というやつは、その名の通り「魔導を殺す魔導」である。
その効果は、行使する魔導師にも適応され、自分の使う魔導にまで悪影響が出る恐れがあるのだ。
故に魔導師はこれら“魔導師殺し”を用いる事はほとんどなく、基本的には魔導を使わない職業が持つものである。
「クロード、ちょっと魔導を一発、撃って見てもいいか?」
「ダメって言ってるじゃないですかっ!」
「大丈夫、全然痛くないハズだ。騙されたと思って、な?」
「ええ~?ダ、ダメですよぅ~」
「心配するな、一番弱い奴で行くから」
と言い、心配を取り除こうとイケメンスマイルでクロードに向かってブルーボールを念じる。
右手に待機させている魔力球を、めちゃくちゃ不安そうな顔でこちらを見るクロード。
何故だ。
ブルーボールを発動させ、青い魔導弾が直撃するが、クロードは当然ノーダメージ。
どうだ?というワシをクロードは信じられない、といった顔で見ている。
心配いらんと言ったのに……。
「おそらくスクリーンポイントは発動時、魔力が少ないほど効果を発揮する魔導だ。ケインは生まれ持った魔力が少なく、スクリーンポイント使用時ほぼゼロになる。それで魔導に対してほぼ無敵になるのであろう」
「ヘぇ~どうしてそんなことがわかったんです?」
「う……」
……しまったな、スカウトスコープの事は秘密にしたかったが。
まぁいいか、クロードはもう仲間だ。
スクリーンポイントの事も答えて貰ったし、どうせ隠し通す事は出来ない。
クロードにスカウトスコープの事を説明すると、驚いた顔を見せる。
「スカウトスコープ……ですか。恐ろしい魔導ですね……」
「内密にな」
「わかっていますよ。固有魔導は普通、仲間にも簡単に教えるものではありませんからね」
まぁ会ってすぐのワシに、自慢げに話してきたバカ娘もいるからな。威哥王三鞭粒
念のためだ。
「確かに魔導が不得意な人ほどスクリーンポイントが強力だったと、父から聞かされた事があります」
レオンハルト家は騎士の家系だし、魔導の実験など大してしてこなかったのだろう。
「あと一つ実験だ。これを着てみて貰えるか?」
そういって、家から持って来たワシの着古しの服を渡す。
顔に疑問符を浮かべながら、それを受け取るクロード。
「ケインとの戦いで、クリムゾンブレイドは衣服のみを切り裂いていたが、ワシのレッドクラッシュは衣服に傷一つ、つけられなかった。細かい効果がどうなっているのかが知りたい」
ちなみに同じ防御魔導であるセイフトプロテクションは、身につけた装備にも九割カットが適用される。
「……つまりスクリーンポイントを使って、ボクの服が破れるかどうかが見たい……と?」
「そうだ」
クロードの顔がみるみる赤くなり、上ずった声で叫ぶ。
「な……何考えてるんですかっ!ゼフ君の変態!」
「いや、だからワシの着古しの服を着てやってくれと言っているだろう?」
「より変態っぽいですよっ!」
結局クロードの大反対に遭い、この実験は取りやめとなったのであった。
必要な実験なのに……。
湖畔。
先日のスクリーンポイントの実験の続きということで、以前ミリィの見つけた湖畔に来ていた。
ここには湖水が魔力を以て形を成した魔物、アクアエレメンタルが出没する。
今日はちゃんとミリィも連れてきていた。
「ミリィ、アクアエレメンタルのように水から生まれた魔物には、蒼系統の魔導は効かないぞ」
「属性レベル2ってやつでしょ?」
「弱点属性と属性耐性があるタイプの魔物でしたっけ」
アクアエレメンタルのような元素(魔導の核ともいうべき、根源たるイメージ、これを元素と呼ぶ)から生まれた魔物は、属性レベル2と呼ばれ、それと同じ属性系統の魔導を完全に無効化してしまう。
ただしこれらの魔物は、この特性で有利になるわけではなく、我々魔導師にとっては逆にカモとなる場合も多い。一つの属性に対しては強くはなるが、逆に他の属性に対しては極端に弱くなってしまうのだ。
「そうだ。弱点属性は、緋>翠>空>蒼>緋、となっていて、蒼属性の魔物であるアクアエレメンタルには、空系統の魔導が弱点となる」
「わかってるわかってる!」
まぁ初歩の初歩だからな。
とはいえ相手はミリィ、念のためだ。
見た目が全てというワケではないが、属性レベル2の魔物は「いかにも」な風体をしているし。
話しながら歩いていると、湖面からぶくぶくと泡が立ち始め、ざばぁ、とアクアエレメンタルが姿をあらわれた。
髪の長い、裸の女性を模した姿は、人間の油断を誘っているのだろうか。
悪いがワシの目には動く的にしか映らない。
「ブラックスフィア!」
アクアエレメンタルの頭上に空気の刃が集まり、その頭部をズタズタに切り刻んでいく。
(――浅いか)
スフィア系の魔導は、威力と射程に優れるが発動までが遅かったり、コントロールが困難だったりと、当てにくいものが多い。
しかし後々の事を考えると、これからはスフィア系の魔導を中心に鍛えていった方がいいだろう。
現状、ある程度強い敵相手にはパイロクラッシュを使用しているが、これは射程が短く素早い魔物には当てにくいので、使い勝手が良いとは言えない。三鞭粒
それにワシは緋系統の魔導は才能値が低いので、最終的には緋はあまり使わなくなるかもしれないからな。
パイロクラッシュの代用としては、ブラックスフィアとグリーンスフィア、この組み合わせを検討中である。
まだ慣れていないので使用には耐えないが。
思考の最中、アクアエレメンタルの刻まれた頭部は、直ぐに元に戻ってゆく。
やはりコントロールが難しい。
属性レベル2の魔物は不定形のものが多く、完全に潰さなければすぐに再生してしまう。
ダメージ自体はあるので、攻撃を続ければ倒す事ば出来るが、少々非効率的だな。
「ゼフったらへったくそ~♪私がお手本見せたげよっか?」
……屈辱極まる。
そこまで言うなら見せてもらおうではないか。
「ブラックぅ~バレットっ!」
ミリィが右手を突き出すと、その手に魔力が集まっていく。
魔力により集められた空気の弾丸が無数に放たれ、アクアエレメンタルをすり潰していった。
ブラックバレットはブラックボールの連打版で、中等魔導の割に威力は高い……が無駄も多い為、消費魔力も中等魔導とは思えない程に多い。
あいかわらず雑な戦い方だ……が、案外こういった「雑」な戦い方は、今のミリィには合っているのかもしれない。
ミリィに魔導を教えたのはその父親だろうが、子どもであるミリィに細かい使い分けなど、出来ようはずもない。
であれば、威力重視で鍛える魔導は厳選し、それを場面に応じて使い分けるのも悪くない戦法ではある。
しかし、このゴリ押しとも言えるやり方は、才能値の高いミリィならばこそで、貧弱一般魔導師がこんなことをやればすぐにガス欠になってしまうのがオチだし、応用の効かない魔導師になってしまう。
この辺りはワシが上手く仕込んでやらなければならないな……
霧散したアクアエレメンタルを尻目に勝ち誇るミリィ。
ドヤ顔でVサインを向けてくる。
う……うざい……
「ところでゼフ君、今日は何かやる事があると言ってませんでした?」
「そういえばそうだったな。クロード、昨日のように魔力を減らしてからスクリーンポイントを使ってもらえるか?」
得意げなミリィを放置して話を進めると、寂しかったのかダッシュでワシらの間に回り込んで来て、ワシらの顔色を伺ってきた。
相手して欲しいなら最初からやらなければいいのに。
魔導を何度か使い、はぁはぁと息を切らせるクロードに、オッケーを出す。
スクリーンポイントの消費魔力は約50。
昨日クロードの反対を押し切り(ワシの服は着れないとのことで、カードを刺しているプレートを外して)実験した結果、50前後の魔力でスクリーンポイントを発動すれば、ワシの中等魔導までは服まで含めてノーダメージであった。
一度、隙をついてクロードに大魔導を撃って見たが、それでも服が少し破れる程度だった。
その直後、クロードの鋭い平手打ちを貰ってしまったわけだが……
高価なカードを刺した装備品が、壊れる事を考えれば当然の実験だと思う。
ワシは悪くない。天天素
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