2014年7月20日星期日

隔離空間

そう言ってぽんぽんと膝の埃を払う青年にスカウトスコープを念じる。
 見ると彼の魔力値が三分の一も減っていないのを確認した。
 恐らく今の攻撃を耐えながら、大男に攻撃を加えて倒してしまったのだろう。
 大男は倒れて目を回しているようだ。隔離空間でのダメージは、慣れねば精神に堪えるからな。男宝

「それでは次の方、いらっしゃいませんかー?」

 戦闘の直後だというのに、平然とした顔で呼び込みを再開する青年。
 それなりの精神ダメージを受けているはずなのだが、瞑想によって既に回復を始めている。

「ねっ! 私やってきていいかなっ?」
「金の無駄だ。瞬殺されるぞ」
「え~っそんなことないもん!」

 ぶーたれるミリィの頭を撫でると、不満げだった顔が少し和らぐ。

「……ゼフはやらないの?」
「いくらワシでも五天魔には勝てぬよ」
「あの人に勝てるのは前提なんだ……」

 あははと呆れ笑いをするミリィと駄弁りながら、青年が挑戦者をのしていくのを眺めていた。
 青年は最初の戦闘以降も、殆ど攻撃を食らうことなく挑戦者をいなしていく。
 魔導師同士の戦いは殆ど一瞬でケリが付くのでサイクルも早く、あっという間に挑戦者10人を倒してしまった。
 青年は時折、弱い相手の時はアシスタントの少女と交代し、休憩を挟んでいた。
 少女の方は青年に比べると大した事はないが、それでもミリィと同程度の強さはあるか。

 この二人の他にも何組かの補佐官たちが分かれて挑戦者と戦っているが、揃いも揃って皆、イケメン揃いである。
 いい趣味しているな、イエラの奴。
 どんどんギャラリーも増えていき、ワシらも前に行かねば戦いが見えぬようになっていた。
 ミリィも今日は飽きることもなく見入っているようだ。

 時間はあっという間に過ぎていき、正午に近づくにつれ挑戦する者もあらわれなくなってきた。
 その間、何人か出た合格者たちは、補佐官からプレートを受けとり、塔の内部へと足を踏み入れていく。
 これからこのメンバーでトーナメントを行い、優勝した者が号奪戦を行うのだ。
 そして勝ち残った者が、夜に五天魔と戦うというハードスケジュール。
 号奪戦自体、元々過去の五天魔の誰かがノリで始めたもので、その結果こんな適当なスケジュールのイベントになってしまったのだ。
 現在は高い参加費とチケット代金で参加者を絞って管理しているが、あと十年もすればある程度余裕のあるスケジュールになり、もっといい環境で行われるはずである。

 それはそうと終わりの時間が近づいてきたのか、補佐官たちが時間を気にし始めた。
 ワシの肩にもたれかかって戦いを見ていたミリィも、それに気づいたようである。

「もう終わりかなぁ」
「いや、まだだ」

 セルベリエがまだ来ていない。
 おそらく補佐官たちが疲弊する時間ギリギリ、そこを狙って楽に勝つつもりなのだろう。
 だが、未だセルベリエの姿はない。

(セルベリエ、そろそろヤバいぞ……)

 念話を送るが返答はなし、この場にいないのだろうか? いやそんなはずは……。

「ゼフ、何いらいらしてるの?」三體牛鞭
「……なんでもない」
「いひゃひゃ……! な、なにふんのよぉ~っ」

 事情を知らないミリィの頬を引っ張りつつ、セルベリエが来るのを待つ。
 不意に、どよどよと観衆がざわめいた。
 ここからではよく見えないが、人だかりの中を進むその歩き方は、恐らくセルベリエのものだ。
 人だかりの中からその人物が姿をあらわした瞬間、観客のどよめきが更に大きくなる。

「な、何アレ?」
「……さぁ」

 あらわれたのは紛れもなくセルベリエ……だがその様相は黒いマントを羽織り、昨日の祭りの屋台で売っていた、狐のお面を被っている。
 わけがわからない……いや、魔導師協会に追われているから顔を隠しているのだろうか。
 少し戸惑う青年の前に行き、金を渡すセルベリエ。

「セリエ=アインズだ。号奪戦に挑戦したい」
「は、はぁ……」

 名前も偽名である。
 それはいいが、もし号奪戦に勝ったらずっと仮面に偽名で過ごすつもりなのだろうか……。
 しかし青年はふざけた外見のセルベリエの実力に気付いたようで、すぐにその目は警戒の色を強めていく。
 金を受けとった青年は金をアシスタントの少女に放ると、セルベリエと二人、隔離空間へと足を進めた。

「……しっかり見ておけよ、ミリィ」
「う、うんっ」

 真剣な顔になるミリィの頭をぐりぐりと撫でながら、試合に集中させる。
 隔離空間に入る前、セルベリエはワシに気づいたのかこちらに視線を送ってきた。

「…………」
「それではよろしくお願いします」

 二人が隔離空間に入り、青年が無言のセルベリエが向けて頭を下げたその瞬間、――――セルベリエのマントの中から黒い光線が発射され、青年の身体を撃ち抜いた。
 そしてどさりと倒れる青年。

 うわ、汚いな。不意打ちかよ。
 しかもあれはブラックゼロ、油断したあの青年も悪いが、ほとんど無詠唱でこんな大魔導が飛んでくるとは夢にも思わなかったのだろう。
 隔離空間の中ゆえ肉体ダメージはないが、魔力値はマイナスになっている。戦闘不能だ。

 セルベリエはすたすたと隔離空間から出て、アシスタントの少女からプレートを受けとり、塔の中へ足を向けるのであった。
 まさに狐に化かされたように、観客はしきりにどよめいている。

「今の見えたか? ミリィ」
「う、う~ん……ブラックゼロ? でもその割に詠唱していなかったような……」
「あぁそうだ。詠唱短縮系の装備で固めているのだろうな」
「へぇ~そんなのアリなんだ……」

 しきりに感心しているミリィ。
 敢えて説明は省いたが、セルベリエのマントの下にはちらりと黒い蛇の尾が見えた。
 セルベリエの固有魔導、エンチャントスペル、クイックであろう。
 詠唱時間を短縮させるあの魔導と、カードを組み合わせることで詠唱の長いブラックゼロをほぼ無詠唱で発動させたのだ。狼1号
 とはいえ詠唱短縮系のカードは威力を犠牲にしてしまうものが多い。
 不意打ちとはいえあの青年を一撃で倒すのは、余程の魔力量がないと出来ない事だろう。

 結局合格者は8人で、この後合格した者同士でトーナメントが行われ、勝ち残った者が五天魔と戦う資格を得る。
 まぁセルベリエなら大丈夫であろう。
 合格者同士の試合の方はチケットを買えなかったから見ることは出来ないし、夜まで暇だししばらく街を歩くか。

「ねっゼフ、私と勝負してみようよ!」

 と思ったらミリィがワシの腕を掴み、隔離空間を指さした。
 魔導師の戦いを見て、気持ちが昂ぶっているのだろう。
 いつになく目を輝かせている。

 しかしふむ、隔離空間は一般人でも金を払えば使用することは出来る。
 結構高いが、まぁミリィを鍛える為と思えば悪くはないか。
 それに魔導師の戦いを見て、気持ちが昂ぶっているのはワシも同じ。

「……いいだろう。やってみるか、ミリィ」
「うんっ!」

 選別が終わり、開放された隔離空間の横に立つ男に金を渡し、中に入る。
 ワシらが入ったのを見たからか、他の観客も互いに誘い合い、列をなして隔離空間へと押しかけているようだ。

 中に入りミリィと向かい合うと、自信満々の表情とその身体に、魔力が満ちているのがわかる。
 ――――ミリィも結構成長をしたな。
 隣で見ているのと向かい合って見るのとでは、結構感覚が違うものだ。
 びりびりと、強力な魔力の波動がこちらに吹き付けてくるようである。
 まぁもちろん負けてやるつもりはないが。

「いくよっ♪」
「来い」

 ミリィが掛け声と共に腕に魔力を集中させていく。
 この感じ、何度も何度も見たブルーゲイルだ。
 大魔導は念唱時間が長く、狙いも荒くなる。
 お見通しとばかりに地を蹴り、レッドクラッシュの射程にまで走り、片手を突き出すと共に魔導を――――。

 不意に感じる嫌な予感。ミリィと目を合わせると、ミリィは白い歯を見せ、にやりと笑う。
 その直後、視界が青く染まり前後がわからなくなる程の衝撃がワシを襲った。
 ブルーゲイル、それを自分中心に発動させたのだ。巨根

 大魔導、それもミリィの使い込んだブルーゲイルに反応して相殺するのはワシでも無理である。
 先刻の大男が使った自爆戦法である。確かにあぁいう戦法もあるとは言ったがマジでやるか普通。
 ブルーゲイルによる精神ダメージがワシの身体を刻んでいく。
 精神を削られるような感覚、襲い来る強烈な虚脱感に倒れそうになるのを何とか堪える。
 うむ、凄まじい威力だ。
 徐々に収まっていく嵐の中を、ワシは何とか倒れずに踏ん張った。

 ――――が、ミリィは目を回してしまったのかフラフラと足をよろめかせている。
 精神ダメージを喰らい慣れていないミリィには、無茶苦茶効いているようだ。
 自爆覚悟の相討ちは魔導によっては意外と有効ではあるが、大魔導でやるようなアホはミリィが初めてである。

 ミリィがぶんぶんと頭を振り、ワシの方を向こうとしたところで、ミリィの額を指でつんと押す。
 動けば撃つぞ、という意思表示。
 ミリィが一瞬反撃を試みようとするも、ワシの方が早いと気づいたのか、すぐにその手を降ろした。

「ワシの勝ち、だ」
「な、何で……?」

 不思議がるミリィの額をちょんと小突き、尻餅をついたミリィにニヤリと笑う。

「鍛え方が違うのだよ」
「うぅ……なんかズルい……」

 仮にもワシも元五天魔。半端な使い手の自爆攻撃など、通用するハズがないのである。勃動力三體牛鞭

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