2014年1月24日星期五

カミュの決意

現況を見て信じられないといった様子で目一杯に目を見開き固まっている立会人であるジンウ。そのジンウに向けて日色が言葉を放つ。


  肩を竦めながら今度はカミュの方へ足を動かしていく。歩いている最中に一分が経過し砂針が元に戻る。針に支えられるように立ち尽くしていたカミュは、そのまま膝を折る。Motivator


  カミュは顔を上げて日色と目を合わせる。変わらずの無表情だが、どことなく目の奥が潤んでいるように見える。やはり負けたことが悔しいのかもしれない。

 「悔しいか?」
 「……悔しい」
 「まあ、オレは強いからな」
 「俺も……強い」
 「でもオレには負けたな」
 「まだ……本気じゃない」
 「それでもだ。結果的に負けたのはお前だ」
 「…………」

  日色は歩いてくる時に拾った双刀をカミュの足元に投げる。

 「お前は言ったよな。一族を守るって」
 「……うん」
 「それはもちろんお前を慕ってる子供らも入ってるんだろ?」
 「当然」
 「だがこのままじゃ、近いうちアイツらは死ぬな」
 「そ、そんなことない! 俺が守る!」
 「オレに負けてるのにか?」
 「だって……それは……だって……」

  日色の言葉に上手く反論できずに顔を俯かせる。

 「守ってないんだよ」
 「……え?」
 「守る守るとほざいても、結局は皆を危険に晒してるだけだ」
 「……ならどうすれば……いい」
 「甘えるな、自分で考えろ」
 「…………」

  悲しそうな表情を浮かべる彼を見て、どこかいたたまれない気持ちが湧きあがり、思わず頭をかきながら口を開く。

 「オレなら……立ちはだかる問題は全て薙ぎ倒す」
 「薙ぎ……倒す? すべて?」

  キョトンとした表情で日色を見つめる。

 「ああ、全てだ。オレは欲張りなんでな。欲しいものは手に入れるし、自分のものは誰にも渡さん。だから誰にも奪わせない。本当の意味で、全部守る」

  日色とカミュは目を合わせ、しばらく沈黙が続いた後、カミュの目に先程と違い、力強い光りが放たれた。SPANISCHE FLIEGE

 「…………名前、聞いていい?」
 「…………ヒイロだ。ヒイロ・オカムラ」
 「ヒイロ……ヒイロ……ヒイロだね。うん……覚えた」

  何度も頷いて純粋そうな瞳で見つめてくる。

 「俺……カミュ」
 「知ってる。だがお前は二刀流だ」
 「む……カミュって呼んでよ」
 「断る。呼んでほしかったら認めさせてみろ」
 「認め……?」

  その時、二人の元に子供たちやジンウが走りながらやって来た。

 「カミュカミュ~!」
 「だいじょうぶ~!」
 「こら~! こんどはおれがあいてだぁ!」

  子供たちはカミュを庇うように、日色の目前に立ちはだかって怒りを露わにしている。

 「長、無事ですか?」
 「うん。お前たちも……止めて」

  カミュは子供たちを窘たしなめる。

 「え、でもでも!」
 「そうだよ、カミュカミュをいじめたんだよ!」
 「ううん。いいんだよ……ヒイロは……客人」

  カミュの言葉を聞いて子供たちはキョトンとなる。

 「ん~そうなの?」
 「カミュカミュがそういうんなら……」
 「そ、そうだよなぁ……」

  渋々納得したようだが、子供の一人が日色を睨みつけて言う。

 「い、いいか! カミュカミュがいうからいいけど、ちょ~しにのんなよ!」
 「黙れガキ」

  キッと睨みつけると、ビクッとした子供たちは「ひぃ!」と怯えながらカミュの背中に隠れる。

 「どうやら決着が着いたようじゃのう」

  そう言いながら今度はシヴァンと、リリィンたちもやって来た。SPANISCHE FLIEGE D9

 「しかし、さすがは《赤バラ》に見初みそめられた若者じゃな。まさかカミュが負けようとは思わなんだ」
 「ふん、だから言っただろ、面白いものが見れるとな」
 「ほっほっほ、のようじゃな」

  シヴァンは日色の方に顔を向ける。

 「それにしてもじゃ、初めて会った時から妙な感じを受けておったが、何者なんじゃお主は?」
 「答える義務が無いな」
 「俺も……聞きたい」

  何やら目を子供のようにキラキラさせたカミュがいつの間にか隣に立っていたので、つい唖然としてしまった。

 「ヒイロのこと……教えて?」
 「……断る。それもオレを認めさせたら考えてやる」

  残念そうに眉をしかめるが、大きくコクッと頷くと

「ん……いつか聞くから」

  ヨシッといった感じで何か決意したようだが、日色はそれを見て呆れたように溜め息を吐く。するとリリィンがスッと近づいて耳打ちするような声で言ってきた。

 「やはり貴様は興味深い」
 「……知らんな」

  今回、自分でもよく分からない感じでムキになって戦ってしまったが、そのせいでリリィンに魔法を何度も見せることになってしまった。恐らく彼女のことだから、日色の《文字魔法ワード・マジック》の特性を把握したかもしれない。

 (まあ、他言するような奴でもないし、上から目線は苛立つが放置しておくか)

  そう決めると、皆でオアシスに帰ることにした。SPANISCHE FLIEGE D6



 「ヒ、ヒヒヒヒイロ様ぁ! ご無事で良かったですぅ!」
 「ノフォフォフォフォ! さすがはヒイロ様! わたくしは信じておりました! ノフォフォフォフォ!」

  うるさいなと思いつつ、隣で騒ぐシャモエとシウバを見つめる。オアシスに帰って、湖のほとりで体を休んでいるのだが、先程の戦いについて二人が口喧しい感想を述べてくる。

 「シャモエは……シャモエは……ヒイロ様が飛んでしまわれた時、もう心臓が止まりそうでした!」
 「ノフォフォフォフォ! わたくしもつい呼吸の仕方を忘れた時がございました!」
 「そのまま死ねば良かったのにな」
 「手厳しい! これは手厳しいお言葉でございますねお嬢様! ノフォフォフォフォ!」

  本当にうるさいなと思い頭を抱える。これからこの三人と旅をし続けるのは、かなり胃に悪いと思って嘆息する。

 「ヒイロ……ちょっと話……いい?」

  カミュが一人で日色に近づいてきた。

 「何だ?」
 「俺……決めた」
 「……何をだ?」
 「俺も……守る」
 「何を?」
 「全部。俺も……欲張り」

  彼の言葉を聞いて思わず頬が緩む。

 「その話、他の奴には?」
 「じっちゃんにはした。じっちゃんは……俺が思うまま……突き進めって」
 「そうか」

  カミュの顔を見つめる。歳の上では明らかにカミュの方が上なのだが、どう見てもカミュの方が幼く見える。こんな少年が一族を束ねる長だとは誰も思わないだろう。

  だが現実には、一族の命運を握っているのはこのカミュなのである。そのカミュがある決意をした。そしてその決意をさせた原因は自分だと日色もまた理解している。SPANISCHE FLIEGE D5

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