2014年1月13日星期一

ライムとモンド

(はい、無事一通り見回りを終わりました。まだどこかに隠れている個体が存在するかもしれませんが、主だった施設の状況は商人ギルドの方が調査を引き継いで下さるそうです。主あるじライドウはこの後も活動を継続出来るのですが、そちらから新たな指示はございますか?)CROWN 3000
 (し、少々お待ち下さい……。お待たせ致しました。では引き続き北西区画に向かい討伐と、念話障害の原因も調査を開始して下さい。日が落ちた頃に一度こちらに帰投し状況と調査の報告をするように、との事です)
 (確かに申し伝えます。それでは)
 (はい、定時の報告は距離が開く事が予想されますので不要です。ご健闘を)
  念話が終わる。
  僕が話す訳にもいかないから識にお願いして状況を報告、次の行動について指示をもらう事にした。
  内容は僕もばっちり傍受しているから識から説明をしてもらうまでもなく流れはわかった。
 「次は北西か。まっすぐ西に移動するだけ、あるのは収入や身分の低い住民の住宅街にこの街には少ない職人の仕事場だったよね」
 「はい。どうやら、学園の施設や、富裕層の集まっている場所は自力で解放したいとでも思っているのでしょう。少しでも上流階級の者たちの支持を得たいのでしょうな。現状では学園長の失脚はまず確実。あの焦り様では、学園長の椅子を狙おうとしている連中より先に若様を取り込むだけで良い事にすら思い至っていないのかと。数値だけを見て作ったであろう秘蔵の部隊があっさりと半壊している事にかなり動揺しております。お得意と思われる派閥争いすら並行出来ないのですから、底も知れますな」
 「僕らにはあまり大きな働きをさせたくない、か」
 「恐らく、北西を終わらせたら次はパープルコートとの共同作戦などやらされるのではないかと」
 「僕らだって臨時ながら学園の講師なんだから、我が物顔で使えばいいのに。たまにクズノハ商会の名前は出すけど、学園を悪く言ったりする気は無いんだから。実際、変異の原因特定なんかは学園長の手柄になるよね、このままいけば」
 「ええ、我々が特定した事にしてしまうと不都合が大きいですので。己の力で打開出来るならともかく、明らかに間違ったやり方ですな。ただ一言、来賓なり適当な影響力のある人物のいる前で自分の力になってくれと、若様に要請して見せるだけで良いと言うのに。巴殿から聞きましたが、怒鳴られたそうで」
  識と二人、学園長からの指示に苦笑い。
  商会の名を折々に出してはいるけど、行く先々ではちゃんと学園の講師だと最初に言っているし、学園長の指示で来たとも言っているんだ。
  僕らが動いた所で学園の名が落ちる事は無いと思う。
  だってクズノハ商会に好印象を持ってもらいたいだけで、その副産物で他のどこに良い評判がついても文句を言う気は無い。
  出来るだけ、大きな商会が目立つような事にはならないようにしたい位だ。
  学園が存在感をある程度示す事は、僕らも納得している事なんだ。
 「若。カギと思われる装飾品の回収、終わりましたぞ」
 「巴、ご苦労様。そっちは特に問題無かった?」
 「……ええ、何も。息を吹き返すかもしれぬ諸々の商会が余計な動きをしないように少々動きましたが、万事良い方に処理できております」
 「少々?」
 「商人ギルドの代表、ザラとかいう者に食料と水、それに毛布をくれてやりました。これで施しをしてやれ、と」
 「それが何かの牽制になるのか? というか、その食料って亜空から?」
 「どこぞの商会の名が出るよりは、商人ギルドの名前で施しをされた方が面倒が少ないですからな。彼らにも有益な事ですし、ウチの商会の名も少しは出す様に代表には“お願い”をしました。食料も水も毛布も、全てこの数日で少々離れた街で適当に買い集めた物です。余っているとは言え、亜空の食料をくれてやる事もありませんからな。果物に限り、少しだけ混ぜておきました。ウチからも出している事をこれ以上なく証明してくれる品物として」
 「買い物までさせちゃったのか、ごめん」数字減肥
 「なに、散らばっていた森鬼を働かせただけの事です。今回、下手に特定の商会に売名行為をされては困りますからな。儂らがほどほどかつ商会としては一番に目立つ為には」
 「後でかかったお金教えてね。でも、あの代表が良くそんな条件をのんだね」
 「詮索しない、ある商会の名を出す。それだけの事でタダで大量の食料と水、不足していた寝具を賄えるのですからな。商人でなくともどう動くかは明白です。ギルドの代表などとは言え、あの者も一人のヒューマンである事には違いないのですから」
  ふふ、と巴は得意げに笑みを作った。
  そんなに簡単な事だろうか。
  ザラ代表は一つ提案する度に、その代わりにと条件をつけられそうな印象だった。
  いくら弱っていても、いやレンブラントさんも間に入ってくれたのか。
  だとすれば、昔馴染みの言葉も受けて巴の条件を受け入れてくれたのかもしれない、とは思えるな。
 「……若。それほどに難しい事はありませんでしたぞ」
 「……お前、エスパーか」
 「表情が色々と言葉を吐いておりましたよ。ふふ、奴の後ろには今保護しなくてはいけない者がいて、彼らには十分な食料も無く、この事態はいつまで続くかも明確にわからない。今好転した状況さえ、儂らが手を引くと言ったらどうなるのか、念話を使えない状況では判断も出来ない。さあそこで、目の前には飢えつつある人に振舞える沢山の食料、着の身着のままの住民に渡してあげる事が出来る毛布。渡すも渡さないもこちらの胸三寸とくれば、“交渉”など容易いものです」
 「そっか。そんなものなのか。って、待て。お前目の前に食料って、ザラ代表の前で転移をやってみせたのか!?」
  まずいだろう、それは。
  だって使える制限がどうとか、負担がどうとかって色々言ってたのに、それは……。
 「元々あ奴には儂らが転移による仕入れを行っている事を話したのでしょう?」
 「だけど、色々設定を作る前の話だぞ!?」
 「問題ありません。何故なら、あの物資はクズノハ商会に要請して商人ギルドから施すもの。儂らは頼み込まれて仕方なく住民の為に協力しただけなのですからなあ。どこぞから転移を使用した責任がどうのと喚かれても、商人ギルドが引き受けてくれましょう。奴の目の前に淡々と食料を積んでいったのはリザードマン達でしてな。少なくともまだミスティオリザードがいると知られてしまいましたが、代表殿は儂のお願いを快く聞いてくれました。所詮は口約束ですが、後で奴に首を横に振るなど……もし出来るなら大した胆力かと」
 「で、でもだな」
  そんな無茶をして大丈夫かと不安が無くならない。
 「それにですな、若。秘密などと言うモノは、抱える者が隠そうとするから実に大変な事になるのです」
 「あ、ああ?」
  秘密を持った人がそれを隠すのは当たり前だろう?
 「むしろ、相手に隠させる方がずっと楽なのですよ」
 「??」
  意味がわからないんだけど。
 「ルトも恐らくは似たような真似を外交ごっこでやるのかもしれませんが。肝要なのは知らない事にしなければならない、と相手に思わせる事です」美諾荷葉纖姿
 「? ええっと?」
 「極端に言えば、誰にも知られていない事と、ある立場以上の者だけは知っていて、しかし誰もが知らない様に振舞わねばならない事は同義なのです」
  知っている事と知らない事が一緒と言われても、今ひとつピンとこない。
 「僕らが隠すより、公然の秘密みたいにした方が良いって事?」
 「少し違いますが、大枠ではそういう事です。ルトが儂らの転移を上手い所に落とし込んだ辺りでまた続きを」
  正解、じゃないのか。
  続きを聞く時には頑張って何割かは理解しよう。
 「……わかったよ。なら今は討伐の続きをやろうか。確か向こうにはライムとモンドがいるんだよな」
 「はい。儂の分は残っていないかもしれませぬ。久々に刀を抜きたくもあったのですが、それは次の機会を待つ方が良さそうですなあ。澪と識が羨ましい……ん、何やら澪が妙に浮かれている気がするのですが、何かありましたか?」
  巴が刀を抜けない事を残念がる。
  眺めた先にいた澪は浮かれ気分だった事に気付いて、巴がはて、と疑問を口にした。
 「ああ、あれ。澪と識でちょっと競争をさせたんだ。変異体をどっちが多く片付けられるかって」
 「ほぅ。あの様子だと澪の勝ちですか」
 「うん。四対二で澪の勝ち。一応接敵からは邪魔しちゃいけない事にしたんだけど、結構良い勝負だったよ」
 「なるほど……しかし、それにしても飛び跳ねそうな喜び方。解せませんな」
 「んー、多分勝った方のお願いを僕が聞くってご褒美を用意したからじゃないかな?」
 「――ッ!?」
  瞬時に巴が鬼気迫る顔になった。
  あ、なんかスルーした方が良い予感がきた。
 「ど、どうした巴?」
 「若、なんですかその豪華賞品は!! 儂、聞いてませんぞ!?」
 「いやお前にはギルドの方を任せたから、なあ。さてと」
  仕事仕事。
  そろそろ出発しなきゃ。
 「ちょ、若! まだ話は終わってません! いや、むしろ始めたばかり! どちらへ!?」
 「北西区画だよ。その話は、移動中に聞くから。あんま大声出さない!」
 「納得の行く説明をお願いしますぞ。納得できても納得しないかもしれませんが! つまりは儂のお願いもですな!? 若!?」
  なんだかな。
  ガチガチに緊張するよりは、まあ良いのか。
  ライムとモンドなら北西区画はそれほど酷くもないだろう。
  日が落ちる位に学園に戻るペースで動けばいいな。


「おら、いったぜモンド」
 「了解だ!」
  石畳が無く、むき出しの土が顔をのぞかせている通りの両側。
  細身の男が掛け声と一緒に吹っ飛ばした灰色の化け物が、その先にいる浅黒い肌の男の所に接近する。
  大きなボール状の体に巨大な一つ目を備えた化け物は男たちのどちらよりも大きかったのだが、モンドと呼ばれたその男は片手でそれを掴み、勢いをも殺してみせた。
  一瞬静止した変異体は直後にはモンドの手によって土の地面に叩きつけられ、淡い光と共に一瞬でその姿を変えた。強効痩
  一本の樹木に。
  モンドは森鬼と呼ばれるエルフの祖の一つ。
  その奥義である樹刑の発動だった。
  対象を樹木に変える一撃必殺の荒業。
  かつては亜空の主、真すら恐怖させた恐るべきスキルだ。
  青々とした木と化した変異体は一切の抵抗も出来ない、一瞬の決着だった。
 「緑化作業は順調に進行中、ってなもんだ」
 「これで八体か。まだそれなりにいるな、中々ペースが上がらん」
 「出来るだけ人目につかずにやってるからしゃあねえよ。さっき巴姐さんから連絡があったぜ、旦那ともどもこっちに向かってらっしゃるそうだ」
 「そうか……。不肖の弟子がご心労をおかけしているようだから、お会いするのが心苦しくはあるが……」
 「アクエリアスコンビか。や、コンビっつうと責任が折半みてえだからアクアが割に合わねえか。なに、口じゃあ何かと仰っているが、それほど気にしちゃいねえよ、旦那は。その証拠に、森鬼は皆亜空に移住したじゃねえか。あんま気に病むこたねえさ。あれで楽しんでらっしゃる」
 「お前にそう言ってもらえると気が楽になる、ライム。せめて期待に応えるだけの成果をお見せしたい、もう少し付き合ってくれ」
 「勿論だ。お前さんとは丁度良い勝負が出来る。亜空ランキングを駆け上がる絶好の好敵手ライバルだからな。何でも協力させてもらうさ」
 「ああ、一時は上位陣も視野にあったが、ゴルゴンと翼人の参加で一気に転落してしまった。また、鍛え直しだ」
 「石化と飛行には制限がいるよなあ、ありゃ反則に近い。お前さんの樹刑みたいに使用禁止とまではいかなくてもそれなりにはルールがいるぜ。ルールが変われば多分前に近い位置になるとは、見込んでるんだが……」
 「まったくだ」
  ライムとモンドは近隣住民の避難をとうの昔に終え、職人達の誘導も終えている。
  二日目も避難所からの変異体発生は一体に抑え、首飾り他の回収も迅速に終了していた。
  久々にこちらに出てきたモンドのやる気、そしてライムの手際の良さが上手く噛み合っていた。
  そして三日目。
  攻めに出る通達を受けて、彼らも派手には動かないまでも避難所の安定と変異体の駆除に動き出している。
  この区画に他に戦力は無い。
  三つある避難所を、ライムの人脈とモンドの必殺の樹刑を駆使して見事に守りきっていた。
  連絡は密に行い、物資は転移を使用して調達していたものの、彼らは良くやっていると言える。
  設けた三つの避難所の位置はある程度近い距離で集めていて少人数で守るのに都合が良い。
  更に他区画の避難所に比べて広く住民の密度も低い。
  迅速に守りやすい避難所を選定し、確保した二人の好手だ。
  救われた人、逃げ延びた人からすれば北西区画の避難所は居心地もよく、彼らのストレスは比較的だが低い。
  反対に北東区画などは商人ギルドに避難民が集中しているおかげで密度が高く、ストレスも相当なものだ。ギルド代表のザラを追い詰めている一因にもなっている。
  それも助けてか、職人や低中所得層の住民から二人は相当頼られている。
  人によっては依存していると言っても過言ではない。
  クズノハ商会の名は真が思っているよりもずっと彼らの心に浸透していた。
 「だが、こいつらを放った奴の目的はなんなんだ? 若様がこの街にいる事を知っていてこんな真似をしても精々騒ぎにしかなるまい。念話の妨害や段階的な変異の発生、こんな事を考える事が出来る奴ならその程度の事はわかりそうなものだがな」
 「さてな。魔族の考えまではわからんよ。ま、俺らは旦那達の手足になって動けばいいのさ。必要な事なら教えてくださる。そして、あの方々が亜空や俺達を危うくするなんて事は、絶対に無いんだからな。むしろ、俺ら・・がお力になろうと危ない事をしようとするのさえ止めようとなさる位だ。今回呼ばれたリザードの追加メンバーなんぞ通知を受けた瞬間から奮い立ってやがった」
 「……ああ、わかるとも。俺もミスティオリザードの彼らと同じ気分だったからな。ライム、前に聞いたお前の願いも近く若様にお伝え出来ると良いな」
 「それは巴姐さん次第だ。そういう、約束だからな。なに、気長に待つさ。少なくともその時間は、もう頂いたんだ。焦らねえ」
  ライムがふと遠い目であらぬ方向を見つめる。
 「なら、もう一つ二つは片付けておこうか、相棒。亜空で待つ同胞達を羨ましがらせてやろう」
 「おう!」OB蛋白痩身素(3代)
  二人は互いに感知の円範囲を広げながら変異体を探り、避難所からの距離を考えて安全に狩れる相手を選定する。
  そして真たちが到着するまでに、彼らは更に何体かの変異体を樹木に変え、彼らの到着を迎えたのだった。

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