魔物大陸に出発、クリスは町の空き家を借りてそこで休んでいてもらおうかと思ったが、『寝てるだけだから大丈夫です』と押し切られた。
確かに寝ているだけだが、移動に伴う揺れや気圧変化で疲労するかもしれない。
しかし本人がオレ達と一緒に居たいと言うので、一緒に魔物大陸へ行くことに。田七人参
今回、スノーはその場に残ってギギさんに銃器の扱い方を指導してもらうことになった。
初めは一緒に行きたがったが、オレの目的を聞くと一瞬で了解してくれた。
ギギさんも最初はオレの協力申し出を渋ったが、『エル先生から依頼だから』と告げ、何とか作戦に同意してもらった。
今回、魔物大陸に行くのはオレ、クリス、リース、ココノ、シア、メイヤの6人だ。
新型飛行船ノアで一路、魔物大陸へ。
魔物大陸へ着くとすぐM998A1ハンヴィー(擬き)乗って目的のモノを探し出し、ゲット。
すぐに野外で、メイヤと一緒に『出張! 魔物大陸で武器製造バンザイ!』を開催。
完成した秘密武器を手に、急いでスノー達が待つ妖人大陸へと戻った。
スノー達と合流すると、今回の奥の手である武器の使用方法を説明。実際にサンプルを使用してもらいギギさんが扱いやすいように微調整をする。
こうしてなんとか魔術師S級、タイガ・フウー、獣王武神じゅうおうぶしんを倒す準備が整った。
準備が整った午後、いつものように新型飛行船ノアが停めてある草原へと移動する。
草原には、ギギさんといつもの動きやすい革鎧を身に纏ったタイガが対峙する。
ギギさんは戦闘用コンバットショットガン、SAIGA12Kを手にし、予備弾倉、近接用ナイフ、他装備を身に付けていた。
間に立つ旦那様が、いつものように試合の条件を2人に告げる。
「殺害はなし。武器・防具・魔術道具などの使用は許可。気を失うか、相手に負けを認めさせた方が勝者。また、これ以上試合続行は不可能と我輩が判断したら止めに入る。以上だ、双方問題はないか?」
頷くのを確認した後、旦那様が2人に離れるよう合図する。
ギギさんとタイガは、約10m離れたところで向き合う。
皆が見守る中、旦那様は高々と手を挙げる。
――出来る限りのことはした。
後は『策』が上手く行くか、運を天に任せるだけだ。
「では……試合、始め!」
「おおおぉおぉッ!」
手が振り下ろされたと同時に、ギギさんが動く。
SAIGA12Kの銃口をタイガへ向け、円を描くように動きながら引鉄トリガーを絞る。
銃口から非致死性装弾の一粒弾である木製プラグ弾が発射されるが、タイガは未だに肉体強化術で身体を補助せず、体を少し動かすだけで回避してみせる。
非致死性装弾とはいえ、木製プラグ弾を軽く回避するとは……どんだけ動体視力がいいんだよ。
「ッ!?」
しかし流石に次弾の9粒弾(木製)は、涼しい顔では回避できなかったらしい。
鋭い視線を向けた後、拡散する9粒の木製弾を足に魔力を集めて高速で動き回避する。タイガは最初こそ焦ったような表情を浮かべたが、すぐに涼しい顔に戻る。
「くッ!」
ギギさんが歯噛みしながら後方へ。
タイガから距離を取りながら弾倉を交換しようとする。
しかし彼もその隙を逃さず、疾風のごとくギギさんへと接近。
だが、その瞬間――
「な!?」
タイガが驚愕する。
ギギさんが後退を止めて、弾倉交換途中のSAIGA12Kを投げつけてきたからだ。
タイガとしてはそのSAIGA12Kこそ、今回の勝負の切り札だと思っていたのだろう。予備弾倉だって山ほど所持していた。なのに、それをあっさり手放してきたのだから驚くのも無理はない。
ギギさんはその隙を逃さず、流れるように手にした特殊音響閃光弾スタングレネードをタイガの目の前に投げる。
タイガは肉体強化術を使用せずとも、弾丸を見切るほど動体視力に優れている。
だが――175デシベルの大音量と240万カンデラの閃光を目の前で浴びたら、タイガのように五感が常人以上に優れた者には堪らないだろう。
目を灼かれ、聴覚を狂わされている間にギギさんが気絶させる――という作戦だった。
強烈な閃光。威哥十鞭王
室内なら窓ガラスすら割る音の衝撃がタイガを襲う。
「ふん、つまらないね。この程度の策なら、何度もやられてきた。もちろんすでに対処方法も確立済みさ」
タイガは目を閉じ、耳をぱたりと倒し音をシャットアウト。
なのに位置を移動し、殴り、昏倒させようとしていたギギさんの居場所を正確に把握し接近する。
ギギさんは焦った様子で、咄嗟にナイフを取り出し突き出すが、タイガはあっさりと手首を掴んで止めてみせた。
未だに目を閉じ、耳を塞いだ状態でだ。
「遅すぎて欠伸がでちゃうよ」
「そ、そんな馬鹿な!? どうして俺の攻撃を止めることができたんだ!」
「簡単さ。さっきみたいに僕の感覚が鋭いことを逆手にとって、強烈な音や光で混乱させようとしてきた奴等が何人もいた。だから、目と耳がなくても空気の動きを肌で感じて、相手の居場所や攻撃を察知し、戦えるように訓練したのさ」
事実、タイガは目と耳を閉じた状態でギギさんの位置を正確に把握、攻撃を止めてみせた。どうやら本当に空気の動きを察して、戦えるらしい。
おいおい、全くどこの達人だよ。
そしてこの瞬間、当然ではあるがタイガがギギさんの体に触れている。
『10秒間の封印テンカウント・シール』が発動。
10秒間、ギギさんの魔力が封じられる。
これにタイガは目と耳を閉じたままで勝ち誇ったように、
「今回も僕の勝ち――」
「いいや、今回は俺の勝ちだ。それとやはり戦闘中は目を開けておいたほうがいいぞ」
ギギさんがタイガの台詞に被せるように、勝利宣言をする。
タイガが反論するより速く、ギギさんは息を止めナイフのスイッチを入れた。
「ぐがががががぁあッ!!!???」
タイガはギギさんの手を離すと顔を押さえて、悶絶する。
まるで鶏の首を絞めたような苦しみようだ。
「り、リュート君! あれ止めて治療しなくて大丈夫なんですか!? タイガ君、凄く痛そうですけど!」
痛みに悶絶していると勘違いしたエル先生が慌てた様子で話かけてくる。
オレは落ち着くようにジェスチャーし、彼女を安心させる。
「大丈夫です、タイガに怪我はありませんから」
「で、でもあんなに苦しそうにしてるわよ」
「そりゃ苦しいでしょう。なんてったって鼻に直接、風船蛙バルーン・フロックの濃縮悪臭を吹き付けられたんですから。特に彼のような嗅覚が優れた獣人種族には」
流石に距離があるためオレ達まで匂いは届かない。
唯一、例外はスノーだ。
彼女は鼻を押さえて非常に渋い顔をしている。
今回、対獣王武神じゅうおうぶしん用に開発した武器は――非致死性兵器の1つである『SKUNK』という名前の兵器を応用させてもらった。
――では『SKUNK』とはいったいどういう非致死性兵器なのか?
『SKUNK』は、イスラエル国防軍が開発した非致死性兵器で、ある意味で最も酷い兵器である。
とても臭い匂いの液体を霧状にしてまく悪臭兵器だ。
その臭いは強い腐敗臭や下水の臭いだと言われている。
もし衣服についた場合、最高で5年間臭いが付いて取れないらしい。
毒性は無く材料も天然成分を使っているとか。
オレ達はまず魔物大陸へ行き、ハンヴィーで移動。
風船蛙バルーン・フロックを捕獲し、悪臭の液を手に入れる。
その液をさらに濃縮し、昔作った『wasp knife』――『スズメバチナイフ』に入れておいたのだ。
『wasp knife』は文字通りスズメバチの一刺しのように、ナイフの柄の部分に仕込んである高圧ガスがスイッチを押すことで刃の部分から一気に噴射される。これにより刺した臓器や対象物は、そのまま木っ端微塵に粉砕されてしまうという恐ろしいナイフだ。
今回は炭酸ガスの代わりに、濃縮風船蛙バルーン・フロック液を入れておいた。
スイッチを入れると、濃縮風船蛙バルーン・フロック液が霧状に吹き出る。老虎油
移動中の船内で作ろうと思ったが、匂いが漏れて酷いことになる可能性があったため、野外で製作することになった。
匂いが漏れて寝ているクリスが酷い目にあったら嫌だからだ。
感覚が常人より鋭いタイガは、もちろん嗅覚も当然他者より優れている。
そんな彼の鼻へ濃縮風船蛙バルーン・フロック液を吹きかけたらどうなるか?
悶絶すること必至だ。
まるで花粉症の人に、杉花粉を顔に吹き付けるような鬼畜の所業である。
ギギさんには特殊音響閃光弾スタングレネードで倒せなかった場合、これを使うようにと言っておいた。
説明を聞いたギギさんが、眉間に皺を寄せ『えげつないな……』と素で呟くほどだ。
過去、風船蛙バルーン・フロックの臭いが染みついたオレ達をギギさんが出迎えてくれた。しかし、その臭さにクリスを猫可愛がる彼でさえ、逃げ出したほどの臭さである。
その濃縮版を同じように嗅覚が鋭いタイガへ使用するよう告げたのだから、『えげつない』と感想が漏れるのは当然ともいえる。
10秒経過し、ギギさんが魔力を使えるようになる。
肉体強化術で身体を補助。
未だ臭さに悶えるタイガを気絶させるため、腹部を狙い殴りかかる。
「フンッ!」
だが、タイガは臭さに悶え、目も開けられないというのにギギさんの拳を回避。
彼の体に抱きつき、攻撃を封じ込めようとする。
ボクシングでいうクリンチだ。
時間を稼いで臭さから回復しようとしているらしい。
ギギさんも千載一遇のチャンスをものにしようと必死に足掻く。
恐らくここで決めなければ、今後同じ手は二度と使えないため勝利するのは格段に難しくなるだろう。
「この!」
「くうぅ! 離すものか! エルお姉ちゃんとの結婚なんて絶対許さない!」
『10秒間の封印テンカウント・シール』を発動する余裕もないほど互いに鎬を削る。
しかし、均衡は長くは続かない。
未だ悪臭ダメージで魔力の流れも悪いタイガは、体格差もありギギさんに突き飛ばされる。
ギリギリ相手の左腕を掴んでいるが、拳を振るう空間が出来上がってしまう。
タイガは咄嗟に片腕で喉をガード。
腹に魔力を集中、恐らく腹筋にも力を入れているためギギさんが全力で殴りつけても気絶まではいかないだろう。
咄嗟にギギさんはそう判断したのか、今度は自ら相手との距離を縮める。
ようやく悪臭ダメージは薄れてきたのか、タイガも落ち着き始めている。
恐らくこれが最後の攻撃になるだろう。
ギギさんはタイガとの距離を縮め、掴まれた左腕で相手の肩を掴む。
さらに空いた右腕でベルトを掴みタイガを持ち上げようとした。
前世、柔道でいうところの肩車を仕掛けようとしている。
これならギギさんの体ごと、タイガに叩き付けることができる。互いの体重と肉体強化術で加速した速度と共に地面へと叩き付けられれば、いくらタイガといえど無事ではすまない。
旦那様がレフェリーストップで止めに入る確率も高いだろう。
視力が回復を始め、うっすらとタイガは目を開く。
相手の意図を悟り、足でベルトを掴まれないように阻もうとする。
ギギさんの右手は足に弾かれベルトを掴み損ね――意図せずタイガの股間を鷲掴みにしてしまった。
贅沢を言っている場合ではない。
このまま投げて、地面に叩き付けなければ千載一遇のチャンスを不意にすることになる。
ギギさんは迷わず力を込めて持ち上げようとした――のだが、突然、驚愕の表情で動きが止まる。
一方、タイガにも異変が生じた。
「きゃぁぁ!?」
タイガの口から痴漢にあった女性の悲鳴が響く。
「す、すすすまない! 決してわざとではないんだ!」
ギギさんは慌ててタイガから、離れると珍しくおたおたとキョドリ弁明を始める。
タイガもギギさんに掴まれた股間を押さえて、その場にぺたりと座り込んでしまう。
『?』
意味深な態度を取り始めた2人以外は、状況が分からず互いに顔を合わせて首を捻るしかなかった。麻黄
そこに『ヴァンパイヤ風邪』を引いていたクリスが、姿を現す。
「クリス!? もう寝てなくていいのか!」
『はい! お陰様で先程起きたら熱も下がり、体のだるさも嘘みたいになくなりました』
彼女はミニ黒板を向け、笑顔で答える。
顔色はよく嘘を言っている様子はない。
『ところでギギさんの件はどうなったのですか?』
「それが突然、2人があんな風に動かなくなってさ」
指さした先でタイガは座り込んだまま、涙目でギギさんを睨み付けていた。
ギギさんは冷や汗を掻き、蛇に睨まれたカエルのように動かなくなっている。
クリスはそんな2人を見て、首を傾げた。
『あの座っている人が、獣王武神じゅうおうぶしんさんですか?』
「そうだけど?」
オレの答えにクリスは意味が分からないと言いたげに、さらに首を傾げる。
そしてクリスはミニ黒板に爆弾発言を書き込んだ。
『だってあの座っている人、女の子ですよ?』
クリスの予想外の指摘に、その場に居た全員(クリス、ギギさん、タイガを除く)が驚きの声音をあげた。
「つまり、タイガ君は本当は『タイガちゃん』だったのですか?」
「……はい、そうです。嘘を付いててごめんなさい」
エル先生の問いに、タイガは地面に正座して尻尾と耳をタレながら謝罪を口にする。
勝負は一時中止し、タイガがなぜ『男装をしていたのか』などの詰問会を開くことに。
彼――ではなく彼女はエル先生に問われ、性別を誤魔化していた理由を滔々と語り出す。
当時、幼かったタイガは『女の子同士では結婚できない』と成長する途中で気が付いた。
しかし、エル先生に感じた憧れや孤独から救ってくれた恩を感じる気持ちは本物だった。
故にいつか彼女の『剣や楯になれればいい』『自身の力が役に立てればいい』と思い投げ出さず努力を続けた。
だが、エル先生が人種族男性と駆け落ち。
落ち込みはしたが、彼女の幸せを願っていたらしい。
それでも努力は続けて気が付けば、魔術師S級と呼ばれるまでになった。
結果、言い寄る男性貴族や『嫁になれ』という挑戦者が増えたらしい。
それが煩わしく男装を始めた。
いつしかいいよる男性貴族を拒絶、『嫁になれ』と迫ってくる挑戦者をぼこぼこにしていくうちに『背丈は3mある益荒男云々』という噂が流れ出す。
どうやらタイガに倒された挑戦者や無理に婚姻を迫った男性貴族達が、見栄を張って話を誇張したらしい。
彼女としても変な気を持った男性が言い寄ってこなくなったため、進んで噂話を否定することはなかった。
それから10数年――エル先生がアルトリウスに攫われ、無理矢理結婚させられると偶然耳にする。
情報を集めるとエル先生は、駆け落ちした人種族男性と死別。
妖人大陸で孤児院を営み、今回運悪く軍団レギオン同士の抗争に巻き込まれ、人質にされた。
そしてエル先生に惚れたアルトリウスが、強引に結婚を迫っていると聞いたのだ。
エル先生に恩を感じていたタイガは激怒。
自身の命と引き替えにしても、アルトリウスを殺害し、エル先生を解放させようとした。
しかし、獣人大陸から出た時すでに事件は解決していた。超強黒倍王
引き返すのも癪なのでそのままエル先生に会いに行く。
タイガは10数年以上ぶりにエル先生に出会う。
彼女もタイガのことを覚えていたが、男装をしていたため性別を間違われる。
初めてエル先生と出会った時も髪は短く、子供でズボン姿だったため勘違いをしたままだったのだ。
恩人の間違いを否定するのも躊躇っていると、今度はギギさんの件について話を聞いた。
いくら旦那様に恩を返すためとはいえ、エル先生を捨てるなど――タイガは今度はアルトリウスではなく、ギギさんに激怒する。
そこにちょうどオレ達が、ギギさんを連れて登場。
タイガはギギさんを目の前にして激怒し、『僕は貴方を絶対に認めない!』云々と言ってしまう。
ギギさんも対抗して、『タイガを倒して認めてもらう』宣言をしたため後に引けなくなったらしい。
……つまり、最初からクリスが『ヴァンパイヤ風邪』を引かずにその場にいたら、ここまでややこしいことにならなかったわけだ。
ちなみにギギさんは、タイガを投げる際に右手で股間を掴んだ。
その時、男性についている物がないのに気付き、彼女の性別に気付いたらしい。
だから、突然離れて謝りだしたのか。
一通り話を聞いてエル先生が納得する。
「ごめんなさい。私がタイガちゃんの性別を勘違いしなければこんな大事にならずにすんだのに。本当にごめんなさい!」
「エルお姉ちゃん、あやまらないでください! すぐに否定せず、ギギさんに喧嘩を売った僕が一番悪いんだから!」
エル先生に謝られて、タイガはあわあわと慌て出す。
そんな2人にギギさんが割って入った。
「いや、一番の原因は自分がエルさんに対して中途半端な態度をとったからだ。最初からしっかりと態度を示していればこんな大事にはならなかった。……すまなかった」
「…………」
タイガは謝るギギさんを真剣な表情で見詰める。
エル先生に改めて向き直り問う。
「……男の人は勝手だ。自分の都合しか考えないで、女性を扱う。エルお姉ちゃんにはもっと相応しい人がいるんじゃないの? もしそんな人が現れる可能性が少しでもあるなら、僕はその日まで全力でお姉ちゃんを守るよ。たとえ自分の命が尽きたって構わない」
その瞳はどこまでも真剣だが、敗北を確信した色を浮かべていた。
エル先生は微苦笑して、タイガの問いに首を振る。
「確かに可能性としてはそんな人がいつかくるかもしれないわ。でも、その人を私が好きになることはないわ。……むしろ、もうあの人以外、誰かを想うことなんて無いと思ってた。でも、ギギさんと出会って、話をして、ほんの短い間だだけど一緒に過ごせて幸せを感じたの。ギギさんの不器用さや真面目さ、自分のことを後回しにして他者を助けようとする心を知って……この人と一緒にいたい、ほんの少しでもいいからこの人を支えたい、と思ったの。たぶんこんな風に想う人はたとえ何年、何十年、何百年経ってもあらわれない。……それだけは断言できるわ」
エル先生はタイガの思いに真っ直ぐ自身の気持ちを告げる。
それだけ彼女が自分の思いを真剣に語ったからだ。
タイガは座り込んだまま力なく、項垂れ、小さく呟くことしかできなかった。
「……ギギさん、僕の完敗です」
ギギさんとの勝負も、エル先生の気持ちという面でもタイガは敗北を喫した。まさに彼女の言葉通り、『完敗』である。
そんなタイガの前に、ギギさんが片膝を突き視線の高さを合わせる。
「獣王武神じゅうおうぶしん殿、今後は君に変わってエル先生を守ることを誓おう。もしこの誓いが破られたと感じたら、またいつでもエルさんを奪いに来るといい」
彼の言葉に涙を浮かべていたタイガが顔を上げる。
そして、瞳に再び意志の光を宿し、断言した。
「……その時は必ず奪いに来ます。絶対に」
ギギさんはタイガを慰めると、立ち上がりエル先生と改めて向き直る。
彼は結婚腕輪を取り出し、告白をした。
「……エルさん、自分と結婚してください」
ギギさんはドラマや映画のような長台詞は吐かず、ストレートに用件だけを伝える。
『ロマンチックではない』という人もいるかも知れないが、オレとしては『ギギさんらしい』と思ってしまった。
エル先生も同様だったらしく、笑顔を浮かべて返事をした。
「はい、喜んで!」
エル先生が結婚腕輪を受け取る。
純粋な幸福の笑顔から真珠のような涙がこぼれ落ちる。
それは喜びの涙と呼ばれる奇跡の光だった。
こうして獣王武神じゅうおうぶしん問題は解決し、エル先生とギギさんは晴れて結婚をした。
――一方、オレこと――リュート・ガンスミスは現実を目の前にして血涙&吐血した。ペニス増大耐久カプセル
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